あの日から一年の月日が流れた

私は今、大学の合格発表を見に行くため電車に乗っている


ガタン ゴトン

ガタン ゴトン


適度な揺れが最近あまり眠れていなかった私を夢へと誘う

眠れなかった原因は和人だ

あの後もほとんど毎日メールや電話をしていたが入試が近づくにつれて少なくなっていた

私達は互いにどこの大学を受けるかは知らない

それによって相手の進路に影響を与えることはしたくないという考えからだ

だから私は和人が地元で進学するのかこっちに来るのかも知らない

最初は必ず帰ってくると言う言葉を信じ大丈夫だったが今は不安

もしかしたら和人は帰ってこないんではないか

そんな考え寝る前に思い浮かんでしまっていたのだ


「次は佐狭見市、佐狭見市〜」


ぼお〜としていたせいか目的地までもう少しだった

私が受けた大学は高校から電車で三十分くらいと少し離れた場所にある

レベルは中の上くらいだが自由な校風などで人気は結構高い

学校の先生からは厳しいと言われたが私はどうしてもここが良かった

何故ならここは和人と一度だけ来た事があるからだ

私の姉がこの大学に行っており文化祭の時に一緒に行った

その時に和人がこんな大学に行きたいって言ってたからだ

自分でも未練がましいと思う

それでもこんなことでもやってなければ不安に押しつぶされそうだった


「佐狭見市、佐狭見市〜」


考え事をしていると時間が過ぎるのは早い

学校見学の時は凄く長く感じたのに今回は逆に短く感じた

和人の件の成果、合否にはあまり不安はない

できる限りのことはやったし落ちたとしてもそれは自分の実力不足のこと


コツ コツ コツ


周りには人が沢山いるのに自分の靴音しか聞こえない

世界が白黒に感じる

どんなものにも色は無くただそこに存在しているだけの光景

まるで自分だけが時間の流れから置いていかれたような感じ

あの時、和人に置いていかれた時も感じたけどここまで弱かったとは思っていなかった

いや……弱くなっちゃったんだね。和人と出会いぬくもりを知ってしまったから


ざわざわざわ


突如として少しだけ世界に色が戻った

また考えに更けている間に着いたらしい

春には桜が学校いっぱい咲くことから名づけたと言う私立桜花大学

チラホラと色がある場所がある

もしかしたら和人との思い出がある場所だからかもしれない

近くにあった桜の木に触ると自然に笑みが浮かんだ


「あっ、そういえば」


私は合格発表を見に行く人たちとは違う方向へと走った








「あった……」


私が向かったのは校舎の裏にある一本の桜の木だ

前に和人と一緒に見つけた木である

姉も知らなかったらしく生徒でも知っている人は少ないらしい

あの時はここでお弁当を食べた

爽やかな風が吹き、まるで学校の近くある崖みたいな場所だ

だからか私達は凄くこの場所を気にいった


「あれ? 誰かいる……」


木に近づくにつれて人がいるのがわかった

寝ているのか横になっていた

一瞬、和人かと思ったが体型が違った

痩せ型は一緒であるが背はあんなに高くなかった

私は足と止めて少し考えたが結局行くことにした


「あ、あの」


桜の下に着いてその青年の寝顔を見た

和人の顔から幼さが消えたらこんな感じなんじゃないかと思った

可愛いと言うよりはカッコいい美形だ

とりあえず気まずいので起こそうと声をかけたが反応が無い

体を揺すろうかとも思ったが何故か彼を見ると心臓がドキドキした

触っただけで壊れてしまいそうになるくらい

私はそんな自分に自己嫌悪していた

何が原因かわからないけど和人以外の男に胸をときめかしているのが嫌だった


「ねぇ」


あたふたしていると突然彼が声をかけてきた

その声はどこかで聞いたことがあるような気がした


「せっかく寝たふりしてたのに何もしないんだから」


「あ、え」


彼は上半身を起こし私に視線を向けて




「久しぶりに会えたのによ」




彼………和人はニッコリと笑った




「あ、あ、か、和人」




何で気付かなかったんだろ




彼は最初から色があったのに




胸が高まるのも当たり前




だって彼は私が世界で一番愛している人なんだもの






「和人〜!!」






和人に飛び込み抱きかかえられた




それだけで世界に色が戻ってきた




彼の温もり心臓の鼓動それらが私に安心を与えてくれる




色を取り戻した世界の中心に私はいた












再会から一ヶ月、私と和人は一緒に歩いていた




目指すは桜が満開に咲いている大学




和人に向けられる黄色い視線にイライラしながら、でもそんな気分が楽しい




和人の心にはかわらず私がいる




もちろん私の心にも和人がいる




多分これからも喧嘩したり不安になったりするだろう




でも、私と和人はずっと恋人でいるだろう




だって、私達はこれからずっと一緒なんだから







TANTALIZING 〜fin〜



ハッピーエンド。
美姫 「良かったわね」
いや、本当に良かった、良かった。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ました〜。



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