「へー、フィオナも私達と同じ第四陸士訓練校生だったんだ!」

ミッドチルダ臨海第8空港臨海付近に設立された時空管理局の施設の中。

広い広間が展開されている空間に魔導師試験を受けたスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、フィオナ・T・ハラオウン、ユウヤ・キノシタの姿があった。

4人とも制服を着用し、同じソファーに座って会話が弾んでいた。

「……はい」

「懐かしいね、ティア。
あれから、二年も経ったなんて思えないね」

「そうね。
そう考えるとあんたとの腐れ縁も三年も経ったということね。ぞっとするわ」

「あ、ひどい!」

「けど、いいじゃないか、仲がいいというのは」

「ユウヤの言うとおりだよ、ティア!
私達、最初は凸凹コンビだったけど、今じゃ最高の仲良しコンビじゃない!」

「誰のせいで凸凹コンビだったと思っているの!」

「あ、い、痛い! 私のせいです!」

「あはは」

「…………」

和やかな時間。四人は集まったのは先ほど行われた魔導師試験の結果発表を聞きに出向いたのだった。そして今、試験の合否の審議中であり、四人はこの広間で待機しているよう、指示されたのだった。

待機中は自然と合否の事で頭がいっぱいになる。

そう思ったスバルは少しでも不安を解消するためにユウヤとフィオナに話しかけ、場を盛り上げていた。

皆も思っていることは同じみたいで軽い自己紹介から始め、自分達の所属している部隊の話へとさかのぼっていた。

だが、しかし楽しい会話の中でも内心では合格しているのかどうかの不安は四人ともつきまとっていたのだった。

「しかし、びっくりしたよね。
フェイト執務官があんなに怒っている顔を。噂では優しくて大人の女性!って聞いていたんだけど」

スバルは先ほどの話をする。その話を聞くと三人とも何ともいえない表情を見せた。

あれからなのはとはやてはフェイトを止めるのに必死で四人に撤退の指示をした。

怒りの形相を浮かべていたフェイトに四人、特にユウヤは恐怖を覚え、試験で疲れていたが殺されるかもしれない状況に素早く判断し、速やかに撤退を開始したのだった。

「……うぅ、僕はもう会いたくないな。
絶対、隙あらば物陰に追い込まれて何かやられそうだよ」

ユウヤの発言にスバルとティアは心から同情する。あんな鬼の形相で睨まれた人物とはまた会いたくないだろう。

スバルはともかくティアは絶対に会いたくないと心の中で強く思った。

「大丈夫、その時は私がお母さんに言うから」

「やめときなさい!
それは火に油を投下しているのと同じよ」

「大丈夫だよ。
また、なのはさん達が助けてくれるって!」

「かなぁ」

「……そんなにお母さんは怒りっぽくないよ」

「きっとフェイト執務官はフィオナのことがかわいいんだね!
だから、あんなに怒ったんだよね」

スバルの台詞にフィオナは頬を染める。その姿を見たティアは少し表情が暗くなったがそれを紛らわすためか、話を変える。

「……しかし、貴方達はすごいわね。
特例魔導師試験なんてよほど戦闘面で優秀な人じゃなきゃ、受けることすらできない難易度が高い試験でしょ?」

「うーん、こっちはただ必死にやってきただけだから何とも言えないけど」

「私も」

「けど、あれは推薦状も必要で審査もあるんだからそれなりの成績を収めていたんじゃないの?」

「まあ、そうなんだけど。個人ならそこそこいっていると思うんだけどコンビの成績はそんなに良くなかったんだよね」

「私は逆。コンビの成績は良かったけど個人は……」

「何か、凸凹だね、私達みたいに!」

「すーばーる!」

「うひゃ、ごめんなさい!」

学習していないのか、スバルはティアに頬を引っ張られた。

「それで、ユウヤ達はどうなの? 受かりそう?」

「最初はやばかったけど……」

「……最後は良かったと思う」

「そう、それはよかったね!」

「スバルさんの方は?」

「スバルでいいよ。
どうだろうね、ティア?」

「一応、ぎりぎりで時間以内にはクリアしたけど、最後のアレがどう響いてくるかにかかっているわね」

「あー、あれか」

「……うーん」

フィオナとユウヤは二人のラストスパートを思い返す。あきらかに安全を確かめていない走行。リンフォースも激怒しながら減点と言っていた。二人が終盤までどう評価されているか分からないが順調に行っていたのであれば五分五分であろう。

「やっぱり二人からも見てやばかったってわけね」

「ティア……」

落ち込んでいるティアを一緒に受けたはずのスバルが心配そうに見る。

「いや、大丈夫ですよ!
ねえ、フィオナ!」

「う、うん……」

「けど……」

「まだ、落ち込むのは早いよ」

声のした方を見る。そこには先ほどとは打って変わって笑顔のフェイトと疲れた様子のはやての姿があった。

四人とも立ち上がり、敬礼をする。ユウヤだけは恐怖が顔からにじみ出ていた。
かくいう、フェイトもさっきの出来事が消化し切れておらず、ユウヤにだけ威圧的な上目遣いをプレゼントする。

「こら、フェイトちゃん。やめい」

はやてがフェイトの肩に手を置き、なだめる。それと同時にはやては四人に座るよう言い、四人の向かい側にあるソファーに座る。

「さて、試験結果はまだ審議中や。
みんな気になってはいるけど、堪忍な」

『はい!』

「それで、試験結果が出るまでに四人に話しておかなきゃいけないことがあるの」

四人の脳内に疑問が浮かぶ。

試験結果以外に話しておかなきゃいけないことはなんだろうか。

フィオナ以外、まったく接点というものがなかった三人。

フェイトやはやては三人の中では有名人で管理局のトップエース。

そんな二人から話があるとはまったくもって思いつかなかったユウヤ、スバル、ティアであった。

「まあ、簡単な話、お誘いのお話や」

「お誘いでありますか?」

ティアが口を開く。

「そうや。
今度設立される時空管理局本局古代遺失物管理部、通称“機動六課”」

「機動……」

「……六課」

ユウヤとフィオナが呟く。

「登録は陸士部隊。
フォワード陣は陸戦魔導師が主体で特定遺失物の捜査と保守、管理が主な任務や」

「遺失物……ロストロギアですね」

「でも、広域捜査は一課から五課が担当するからうちは対策専門」

「そうですか」

「で、六課の話は一旦、ここで置いておいて……スバル・ナカジマ二等陸士、ティアナ・ランスター二等陸士、フィオナ・T・ハラオウン三等陸士、ユウヤ・キノシタ三等空士。
私は試験の様子を見て、四人を機動六課のフォワードとして迎えたいと考えている」

「自分もでありますか?
自分は空士でありますが」

矛盾を感じたユウヤが言う。陸を舞台にした部隊と空士のユウヤではフィールドが違うと感じたからだ。

「陸戦魔導師が主体なだけや。
別に空戦魔導師がいらないわけじゃあらへんよ。それに、登録上は陸士部隊やけど、絶対に空の仕事も出てくるはずやから、必要なんよ」

「……そうですか」

「それで、厳しい仕事にはなるだろうけど、濃い経験は積めるだろうし、昇進機会も多くなる。急で悪いけど、どないやろ?」

『えーと』

いきなりの申し出にスバルとティアは戸惑う。まさかこんなお誘いが来るとは予想していなかった。それはユウヤも同じである。

「お母さんの部隊に入れるの?」

フィオナが最初に口を開く。フィオナは内心で治まらない興奮を感じていた。
確認を得て、確信を持つためにフェイトに聞く。フェイトはフィオナに笑顔を向ける。

「そうだよ、フィオナと一緒にお仕事ができるね」

「わぁ。私、入る!……いえ、入りたいです!」

一目散にフィオナは六課入りを承諾した。

フィオナは嬉しさが顔いっぱいに溢れる。お母さんと一緒の仕事ができる。

頭の中はそれだけでいっぱいに広がり、意識が飛んた。

他のメンバーはフィオナとは対称的にどうしたものかと悩んでいる。

それを事前に予想していたフェイトはあらかじめ用意していた更なるメリットを提示する。

「六課に入ったらスバルと……ユウヤは高町教導官に魔法戦を直接教われるし」

「え!」

「な、なのはさんに!」

なのはというキーワードにスバルとユウヤの表情が明るくなる。

「執務官志望のティアナには私でよければアドバイスとかもできるかと思うんだ」

「あ、いえ。とんでもない……と言いますか恐縮です!」

ティアも執務官というキーワードに反応した。

効果は絶大だったようで先ほど、自分はやっていけるか不安で押しつぶされそうになった三人が六課に入った時の事を想像した。仕事は今まで以上に厳しいだろうがそれを乗り越えた時の自分の将来像。

スバルは憧れのなのはに直接指導をしてもらえる。

ユウヤも今より高度な戦術、技術を学ぶ事ができる。

ティアは自分の夢を短い距離で駆け上がることが出来る。

三人共、考えただけで無限に広がっていく事を感じていた。

「お話の途中かな?」

透き通った声が聞こえてきた。

皆、そこを見ると士官制服を着た高町なのはが立っていた。手元には資料を持っている。その傍らにはリンフォースUもいた。

「ええよ。試験結果やね」

試験結果という言葉に少し浮ついていた気持ちが四人を引き戻す。緊張感が自然と沸き起こる。はやてが座っている方に向かって行くなのは。

その動き一つ一つが四人ともゆっくりに見えた。

まるで、死刑宣告を待っているような囚人のような感覚だ。

なのはは空けてくれた場所に座り、手元の資料を前へ取り出した。

「とりあえず、試験の結果ね」

『はい!』

覚悟を決めたのか元気よく反応する四人。

「まず、スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士の結果だけど……二人共、技術はほとんど問題なし」

「わあ……」

「…………」

「でも、危険行為や報告不良は見過ごせるレベルを超えています。自分やパートナーの安全だとか、試験のルールも守れない魔導師が人を守るなんて、できないよね?」

「…………」

「……はい」

「だから、残念ながら二人共不合格……」

不合格。

二人の脳裏にその文字が刻まれた。さすがのスバルも無念を隠し切れないでいた。

「なんだけど」

『えっ』

「二人の魔力値や能力を考えると次の試験まで半年間、Cランク扱いにしておくのは返って危ないかも、というのが私と試験官共通見解」

「ですぅ」

近くに座っていたリンフォースがそう答える。

「はい、これ」

なのはが二人分の封筒と紙を差し出した。

「特別講習に参加するための申請用紙に推薦状ね。これを持って本局武装隊で三日間の特別講習を受ければ四日目に、再試験を受けられるから。来週から本局の厳しい先輩にしっかりもまれて安全とルールをよく学んでこよ。そうしたらBランクなんてきっと楽勝だよ、ね?」

『あ、ありがとうございます!』

スバルとティアに笑顔が戻り、お礼の言葉を言った。

「よかったね、二人とも」

「……よかった」

「うん!」

「よかったぁ、次は絶対に合格よ、スバル」

「うん、ティア!」

新たな決意で二人はやる気が戻る。その様子をなのはは微笑を浮かべ、身体をユウヤ達に向ける。

「それで、フィオナ・T・ハラオウン三等陸士、ユウヤ・キノシタ三等空士」

『はい!』

「二人共、難しい試験の中、よく頑張りました。技術面もそうだけど、二人のコンビネーション、戦略どれも標準以上のレベルでした。前半は色々と減点することが多かったけど、後半は逆に点数を上げたくなるほどの動きを見せ、見事任務を果たしましたので、合格です。よく頑張ったね……」

合格という言葉を聞いて、二人は歓喜に満ち溢れた。スバル達も純粋に二人を祝う。
実質上、四人とも合格であることにフェイトとはやても笑顔を浮かべた。

だが、なのはだけは笑顔を向けない。

さっき変わらず真剣な表情のままだ。

資料をめくり、なのははこれから言う事が和やかな雰囲気を壊してしまうと知っておきながら口を開いた。

「……それで、嬉しい所、水を差すようで悪いんだけどユウヤ三等空士に一つだけ聞きたいことがあるの」

なのはの真剣な顔を見て皆の表情が固まる。声からして少し怒っているようであった。

「……何でしょうか?」

「ユウヤ三等空士、あなたは試験場までの飛行許可を取っていましたか?」

ユウヤの顔が笑顔から絶望へと変わった。顔を下に向ける。

「……いえ、取っていません」

「……理由を教えてもらえないかな?
試験の数日前には試験の通知書が届いているはずだよね」

特例魔導師試験は内容が全て秘匿になっており、試験日の通知も数日前に紙で送られてくるだけなのである。

「……信じてはもらえないかと思うのですが」

重苦しい雰囲気になってしまった中、ユウヤが口を開いた。

「うん」

「自分が試験日を知ったのは当日なんです」

ありえないことをユウヤが呟いた。

「どういうことかな?」

「紙で通知が来るとは知っていましたが、一向にその通知が来なく試験当日、問い合わせたところ今日行われるとのことを知ったのです。
それで、急いで向かおうと思ったのですが、交通では間に合わなく、自分で空を飛んでいくしかなかったんです」

「……何で、ユウヤだけ届かなかったんだろ?
フィオナはちゃんと届いたのに」

「…………」

またユウヤが黙り込んだ。雰囲気が重苦しくなる。

ユウヤとなのはの間に生じた雰囲気に皆が飲み込まれていった。

「言いたくないんなら私が言っちゃうけど、通知書が届いていなかったのはありえないの。ちゃんと受け取ったという証拠もある。ということは、ユウヤが本当に受け取っていないという言葉を信じるなら、考えられるのはあなたとコンビを組んでいる人が意図的に知らせなかったしかありえない」

「……そんな!」

「ひどい」

「……ユウヤ?」

「…………」

「どうなのかな、ユウヤ。
もし、今のが違うというのなら今回の試験、あなただけ考えないといけない」

不合格。

皆の脳裏にその言葉が浮かぶ。はやてとフェイトは大人だった。

表情に曇りを見せず、淡々としていた。

リンフォースを含めたフォワード候補達はおろおろしながらユウヤの言葉を待つ。
いや、一人だけそうではなかった。

「ユウヤ」

それはフィオナだった。皆が今度はフィオナの方に注目する。

フィオナはそんなことをお構いなく、ユウヤだけを見つめる。ユウヤは絶望感に浸った顔を上げ、フィオナの方を見た。

「もしかして、コンビとの人とうまくいってないの?」

「……な、何で?」

「だって、コンビの成績はそんなに良くないってさっき言っていたから……」

フィオナの台詞にスバルとティアはさっきの会話を思い出した。

確かに、ユウヤはそう言っていた。

スバルとティアがユウヤを見る。核心を突かれ、今度は苦い顔へと変化した。

「…………」

「なのはさん」

「……うん?」

「ユウヤは本当に試験のこと知らなかったと思います」

「どうしてそう思うのかな」

「だって、後半でのユウヤは私とのコンビネーションを楽しそうだったから……」

「……そう」

フィオナの説明不足な言葉になのはは納得したように頷いた。ユウヤは一旦講義しようとしたが何も言えず、顔を再度下に向けた。

「ま、まあ、そこの所は後で高町教導官とユウヤで話し合ってくれるか?」

「うん」

「……はい」

「それで、ユウヤ三等空士……どうやろ、試験抜きでもうちは機動六課に入ってほしいと考えとる」

「……すいません。今、お返事はできません」

ユウヤは立ち上がり、お辞儀をした。

「そか。ええよ、じっくり考えてくれれば」

「はい……すいません」

ユウヤは座る。その様子を心配そうにフィオナは見ていた。

はやてはユウヤの件をなのはに任せる事にし、今度はスバルとティアの方へ向く。

「さて、スバル達は合格するまで試験に集中したいやろ。私への返事は試験が済んでからってことにしとこか」

『す、すいません!恐れ入ります!』

ユウヤのことで我を忘れていた二人は慌て、敬礼をする。

「うん、じゃ今日はこのへんにしよか」

はやてはそう言い立ち上がった。こうして、はやてが一番問題となっていたフォワードの人材を確保するという所は順調よく終わらなかった。


「フィオナは確認できたし、あの二人は多分、入隊確定かな」

フォワード候補の四人を見送った後、フィオナを見送りにいったフェイトちゃんを待つべく、うちとなのはちゃんは待っていた。

すると、窓からスバルとティアナの姿を発見し、少し悪いと思ったけど盗み聞きさせてもらった。本当はあの場で返事を聞きたかったけど、どうやら二人共、入る気があるようだから問題ないやろ。

「だね」

なのはちゃんは少し元気がなさそうな声を出した。

「……なのはちゃん、元気ないね」

「うん」

「やっぱ、ユウヤ三等空士のことか?」

「うん……航空武装隊の中では足の引っ張り合いが起きているって聞いた事があるけど、ユウヤがその被害を受けているなんてね」

なのはちゃんから航空武装隊は少数の精鋭で構築されており、危険度が高い部署でもあると聞いている。その代わり、結果さえ残せれば昇進機会が多い。そのせいで中には自分のことしか考えていない人達も毎年存在しているらしい。自分の昇進欲しさに相手を蹴落とそうとする人達が。

「なら、何でさっき告白せえへんかったんやろ?」

そんな人をわざわざ庇う事するのか……理解ができなかった。

「……それは、ユウヤが優しすぎるからだと思う。
ここで告白すれば確実にその人は空士をやっていけなくなるからね」

「そやけど、その優しさは……」

「うん、だからこれから二人でゆっくり話してみるよ」

「……そか。よろしくね、なのはちゃん」

「うん、任せて。
多分、ユウヤも入隊を希望していると思うからそう考えておいて」

「了解や」

ユウヤの件に話がつき、なのはちゃんは一息つき、笑顔を向ける。

「さて、これから楽しくなりそうだよ。スバルとティアナは育てがいがありそうだし、ユウヤやフィオナは別の隊長に教えてもらうようになっているけど、私が指導することもあるだろうから、楽しみだね。時間かけてじっくり教えてあげられるしね」

「うん、それは確実や」

「新規のフォワード候補は後、二人だっけ……そっちは?」

「二人共、別世界。今、シグナムが迎えに行っとるよ。
フェイトちゃんから聞いた話だと、フィオナも後で合流するみたいやし」

「あ、少しの間だけ一緒に住んでいたんだっけ?」

「そうみたいや。フィオナが陸士訓練校に入るまでのわずかな期間だったみたいやけど……フェイトちゃんが物凄く喜んでいたのを覚えてる」

毎日、暇があればメールか電話で教えてくれるから大体の状況を知っている。

そして、フィオナが訓練校に入るために時間を作って勉強を教えていたのも。最初はフィオナのお母さんになると言った時はやっていけるかどうか心配やったけど、今ではしっかりとしたお母さんをやっているから今から思うといい思い出話や。

できれば、溺愛度をもう少し下げてくれたらええんやけど。

「久しぶりの再会か……シグナムさん、孤立しなければいいけど」

「あはは、それはありえそうや。フィオナもエリオとキャロにメロメロやからね。
絶対、後で聞かな」

「なのは、はやて! お待たせ」

「お待たせですぅ」

いいタイミングでフェイトちゃんがやって来た。

一緒についていったリインもこっちに飛んできて、うちの肩に乗る。

「じゃ、次に会うのは六課の隊舎やね」

「お二人の部屋しっかりと作ってありますよ!」

「うん」

「楽しみにしてる」

「はやてちゃんはこれからどうするの?」

「うちはこれから本局に行って色々と資料を作ったり、さっきの試験の報告をせなあかん。
その後は、六課の隊舎に行って一緒に働くロングアーチや事務系の人達の確認や機材などがちゃんと届いているかのチェックやね」

「私達も手伝おうか?」

「いや、大丈夫や。
後、もう少しで終わるさかい、二人は自分の仕事に集中したって」

「うん、分かった」

「了解……後、はやて」

「ん、何?」

「事務系の人で……あの人はどうなった?」

フェイトちゃんが遠慮がちに聞いてきた。なのはちゃんもそれに反応を示す。

あの人。

ずっと気がかりで、つい先日発見したと連絡をもらった時、会いたかったけどうちは六課設立で身動きが取れない状態だった。だから、その人に任せっきりやったけど、未だにどうなったかの連絡は来ていない。

「うーん、何とかして会って話してみるとは言っとったけど、それから何も連絡が来ないんよ」

「……そう、私が行ければよかったんだけど」

「私も」

「大丈夫や。
それに、もしかするとあっちはあんな小さな約束、忘れてるかもしれへんし」

「そんな、はやてちゃん!」

私の否定的な言葉になのはちゃんは哀れみの目を向けた。

「そうだよ、はやて。
まだ、結果が出てないんだから、そういう風に考えたらダメだよ。それに彼はそんな人じゃない」

「……けど、考えてみいよ。なのはちゃん、フェイトちゃん。
その後にあのレリック事件が起きたんや……そして、未だに彼はそれに縛られているかもしれへん。そやったら、うちとの約束なんて塵も当然や」

「そんなことないよ、絶対に覚えているよ」

「そやったら、嬉しいんやけど……まあ、今は返事を待つしかない。
自分がしなきゃいけないことをしよか」

「うん」

「……そうだね」

「じゃ、二人共またな!」

「です!」

「うん」

「信じてね、はやて」

「分かっとるよ、フェイトちゃん」

こうして、親友二人と別れた。私とリインは一緒に仕事場に向かい、業務を全うした。

本局での仕事も一区切りし、リインは別の仕事があっため、途中で別れた。

うちだけで六課の隊舎に向かった時には日も暮れていた。

部隊長であるうち専用の部屋に入り、資料を読む。

機材は全て搬送されており、何も欠けていないことを確認した。

次に隊員達のプロフィールと顔写真をディスプレイに表示させ、一人ずつチェックをする。

最初にフォワードから映し、情報を更新する。

「フィオナは承諾っと……」

スバルとティア、ユウヤは保留と情報に付け加えた。次にロングアーチを表示させる。

ほとんどが新人達で占めている部隊なので、皆緊張した面持ちで幼い顔をしている。

自分達にもこういう時期があったと思いながらカーソルを下に落としていく。

様々な部署の隊員達を確認し、最後は事務員の人達のページを開く。

同じくカーソルを下に落としていったが、途中でその手が止める。

そこには顔写真はなく、プロフィールには非常勤局員で推薦中と書かれていた。

「……やっぱ、覚えてへんのかな」

確かに、あの時は叶えられるかどうか分からなかった夢でしかなかった。

けど、今はちゃう。

あの事件はうちにも一つの転機だった事件。

叶えられるかどうかではなく叶えなくてはならない夢へと変えていった。

せやから、四年間頑張ってきて実現した。

積極的にレリックを追えるよう環境を作った。

夢を叶えるのと約束を守るために。

それだけやない……また、彼に会うため、そして会いたがっているあの子のためにも頑張ってきたんや。上からどんな中傷でも受けてきた。

けど、うちは推薦し続けた。普通の採用ではいいようにやられて消されてしまう可能性があったから。何とか助けもあって何とか推薦状を発行することができた。彼と会う以外、全てを果たしてきたと思う。

後は待つしかない。

けど

「今日までがタイムリミットや」

只今、午後十一時半。

後、三十分で非常勤局員の応募が締め切りとなる。未だに連絡はなし。

連絡があれば延期の要請ができるのやけど、それすらもない。

信じたいけど、ここまで来るともうあかんかな。

全てのディスプレイを閉じ、椅子に体重を倒し、眼を閉じる。

全て満足とはいかなかったやけど、贅沢は言えへんな。

その代わりに、考えておらんかったもう一組の分隊ができた。

色々と問題は生じたけど、それだけもよしとせな、バチが当たるやね。

作業が終わったので帰ろうと思った時、扉が開いた。

「失礼致します」

そこには私服姿の男性が立っていた。

蒼い眼に、茶色の短髪。髭が伸び放題になっている顔で最初は誰だか分からなかったけど、その聞いた事がある声にうちは無意識に立ち上がっていた。

「か、カイル……?」

「ああ、久しぶり……はやて」

カイルが優しい声で答えた。

目の前に約束を交わした人物がいる。

少し痩せてように見える。せやけど、その透き通るような蒼い目はどこも変わっていなかった。

「本当に、カイルなん?」

「ああ、そうだよ……もう、忘れたのか?」

「忘れてない!……てか、今まで何をしてたん、自分は!」

突然の再会に今まで溜めていた疑問をカイルに駆け寄りながらぶつける。

身体がくっつきそうな所まで接近し、襟を掴み逃げられないようにする。

「落ち着けって」

「これが落ちついている状況じゃあらへん! あんたはいつもそうや、何でいきなりいなくなったんや!」

混乱している中、一番聞きたかったことを口に出せた。少しだけ間が空く。

少しずつ、顔を上げると真っ直ぐこっちを見ているカイルがおった。

「俺は……ある事件をずっと追いかけていた」

カイルは冷静やった。

いきなり襟を掴まれたというのにカイルは少しも動じていなかった。うちが知っているカイルとは印象が変わっていた。

「ある事件ってやっぱ……」

「レリック事件だ」

やはり。

彼もうちと同じ、あの事件を転機した身同士やった。

「じゃ、カイルはやっぱりエリのためにずっと独自に捜査してたんね」

「……ああ」

「じゃ、何でここに?」

「今、さっきサエコさんに会ったんだ。そこで、お前がどれだけ俺のためにやってきてくれたのかを教えてもらった」

「そうか……ということは、機動六課の話を聞いたんやね」

「ああ。ここに来るまでに読ませてもらったよ、機動六課。
すばらしい部隊だ。はやての理想の部隊だと思うよ」

「……約束覚えててくれたんや」

記憶が蘇る。レリック事件が起きる前、うちは知り合いであったカイルと一緒にお茶をした。その時にお互いの夢を語ったのだ。

『カイル』

『うん?』

『カイルの夢って何?』

『何だ、藪から棒に』

『いや〜、ふと聞きたいと思っただけなんよ』

『俺の夢は、そうだな、エリと結婚することだ』

『そんな、へタレを聞きたわけじゃあらへん』

ツッコミを入れるうち。カイルは反応が楽しいのか笑う。

『俺の夢は、市民を守っていくことだよ。エリみたいな大事な人を笑顔で過ごしていけるために俺達、管理局が守っていく。執務官の立場でそうやっていく……それが俺の夢』

『でかいな〜』

『別にいいだろう、でかい夢を持つ事は』

『そうやね。へタレがなかったら感動していたんやけどね』

『いいだろう、セクハラ発言が入ってなかっただけ』

『そやね』

『さて、俺は言ったから今度はそっちだ。はやての夢は何なんだ?』

『うちは……部隊を持ちたいと思っとる』

『ほぉ、はやての部隊か』

『うん、緊急時にすぐに動ける部隊を持ちたいと思っているんよ』

『おー、それはいいな。俺もかねがねそういう部隊ができないかと思っていたよ』

『じゃあ、一つお願いええ?』

『? 何?』

『もし、そういう部隊ができたら……入ってくれへんか?』

『……俺でいいのか? 俺は執務官といっても落ちこぼれだぞ?』

『それはカイルがちゃんと仕事してないからやろ』

『そんな……これでもちゃんとやってるんだよ!』

『どうだか……理由やけど、カイルやから入ってほしいんや』

『おいおい、それは遠回しな告白か?
ダメだ、ダメ。はやてのことも好きだけど俺にはエリという最愛の……』

『誰が、いつ告白しとんねん!』

『いや、今』

『どこを見たら告白の思えるんよ!』

『あはは、本当に飽きないな、はやては』

『はぁ、これじゃエリも大変やろな。こんな人の恋人だなんて』

『おいおい、それはないじゃないか。エリにはそんなにやってないよ』

『その代わり、セクハラしとるやろ』

『…………』

『何でそこで黙るん!?』

『あはは、本当に面白いな』

『……もう、知らへん!』

からかい続けられたので顔をそらす。カイルはそれでも笑っていたが、少し経つと真面目な顔に戻った。

『ふぅん、そか。そうだな、そんな部隊ができたら喜んで入らせてもらうよ――』

「覚えていたさ……だけど、俺は約束を破った男だ」

カイルが強く、言った。

昔話に行っていた意識が現実に戻る。そこには苦しそうな表情を見せているカイルがいた。

「……別に、うちは破られたと思ってへん」

「どうして」

「だって、まだ入らないとは言ってへんやん。だったら、約束は継続中や」

「だが、俺は執務官をやめた身だ。それにお前達に何も言わずに消えた」

「あー、確かにそれはあかんかったね。じゃあ……」

ペシッ

うちは軽く平手打ちをした。カイルは突然の事で目が点になる。

「はい、これで許したる」

「こんなことで?」

「こんなことでや。それと、別に執務官としてのカイルでうちは誘ったわけやない。カイル・アイマールやから誘ったんや」

「……どうして、上から圧迫されたてまで俺の事を?」

「約束を守るため」

「それだけか?」

「後は、そやね……カイルのせいで泣いている少女のためでもある。
分かるやよね?」

「…………」

「さて、カイル」

一番、聞きたい答えを聞く。

「うちは、あなたを歓迎します。うちが部隊長である限り、経歴のことであなたのことは誰にも責めさせたりはせえへん」

「……お前こそ何を言ってる」

「へ?」

「俺が部隊にいる限り誰にもはやてのことを責めさせたりさせない」

「いる限りって……じゃあ!」

「ああ、喜んで入らせてもらう。出来る限り、サポートさせてもらうよ」

聞きたかった答えが聞けた。

これで、全部がそろった。

私の理想の部隊が。嬉しさで涙が出そうや。

「ふーむ……」

感動で浸っていたうちにカイルが今とは違う顔を見せていた。そこには昔、何回も見たいやらしい顔が存在していた。

「……なんや、カイル。そのいやらしい顔は」

「いや、見ないうちにこんなに成長してるんだなって……」

そう言って腰周りにカイルの手が回った。

「ひゃう!」

「おお、いい反応」

「死ね!」

「ぐはっ!」

見事のお腹にクリーンヒットし、カイルを吹き飛ばす。殴られ、倒されたにもかかわらずカイルの顔からは苦しみはなくすけべな表情のままこっちを見ていた。

「……なんや、カイル」

「いや、胸も成長してたなって」

ま、まさかあの時に触られた!?
無意味と分かっていながら身体が反応して胸を守る。

「かーいーるー!」

「うわっ、鬼がいる。退散!」

「待ちいな、もう一発殴らせい!」

疲れた身体に鞭打ってカイルを追い掛け回した。今まで違っていたカイルが昔のカイルに戻っていた。そのせいか、すごく懐かしく思えた。



うーん、シリアスだったから分からなかったけれど、カイルってこういうキャラなのか。
美姫 「六課設立に向けて動き出したわね」
さてさて、これから先どうなっていくのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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