『HOLY CRUSADERS』





第一幕『始まりの鐘』







2001年8月29日アメリカ、ニューヨーク。その町の片隅にある教会にロゼットとシルフィはいた。

シルフィが目覚めてから、早一ヶ月。シルフィもロゼット同様、教会の仕事の手伝いをしていた。

もともと、あまりシスターの数は多くないため、手数、特に男手があるということは何かと便利で、

シルフィも、特段これといってやることはないため、掃除などをロゼットとともにしている。



「ふう・・・これでひと段落だな。」

 その日、シルフィは教会の中庭にいた。右手には1、5メートルほどの木の棒。持つ部分にはビニールテープが巻かれている。

「まーたやってる。それをしたって、もう使うことはないのよ。」

 教会の入り口から出てきたのはロゼットだ。ロゼットはシルフィの姿を見るとため息混じりにそういいながら、シルフィにタオルを渡す。

シルフィはそれを受け取ると顔を吹いて近くのベンチに腰を下ろす。

「まあ、使わないだろうけど。なんていうのかな?もう癖になっててさ。一日一回はしないと落ち着かないんだ。」

 シルフィはそういうとすぐに立ち上がって木の棒を持って近くの木に向かい合う。

「それに、あんまりにも長い間眠っててさ、少し、腕が鈍ってるんだ。」

 そういうと半身に構えてひざを崩して構える。その構えは日本に伝わる一撃必殺の剣術、抜刀術の構えだった。

「ちょ・・・ここじゃまずいって・・・・!」

 ロゼットがとめようとした瞬間。そう、その一瞬でシルフィが動いた。

いや、ロゼットは体の動きは見えたものの、その剣閃、その腕の動きは目に映らなかった。

その一瞬で野太刀ほどの大きさのある木の棒を振り切っていたのだ。抜刀術の真髄はその剣閃にあるが、シルフィのそれはそれを圧倒的に上回っていた。

同時に、その衝撃に耐え切れなかったのか、シルフィの手に持った木の棒がへし折れてロゼットの顔の横を飛んでいった。

「ちょっと!危ないじゃない!」

 ロゼットは顔を真っ赤にして怒ってシルフィに近づく。シルフィは振り向いて、

「ほら、昔だったら、こっちの木のほうが折れたのに、今は持ってるほうが折れちゃったし。ほんとに鈍ったなあ・・・・。」

 さもこと無げにそういった。とはいえ、シルフィの斬りかかった木には一筋の亀裂が目に見えるほどについている。

一方、シルフィはロゼットが怒っているのを見ると、すぐに平謝りで謝った。

「まったく。マイペースなのは本当に変わってないんだから。」

 ロゼットは怒りながら、半ば呆れていた。シルフィはそれを聞くと笑ってこの歳になったら性格なんて変わらないよといった。

ロゼットもそれを聞き、それもそうかと一緒に笑い始めた。

 二人はひとしきり笑うと、さっきシルフィが座ったベンチにともに腰を下ろす。

「そういえば、シルフィはやけにあっさりと現実を受け入れたね。」

しばらく黙ったまま空を見上げていた二人だが、ロゼットがふとそんなことを漏らした。

「俺がここにいる。そして、あの戦いをともに戦った仲間(ともだち)が俺の心の中にいる。何より、ロゼットがそばにいてくれる。

それだけで十分だよ。俺にとっての現実は。」

 シルフィは空を見上げたままそういった。

「本当に変わらないんだね、そういうとこも。」

 ロゼットは少し顔を赤らめてうつむきながらそういった。シルフィはロゼットの方に手を回すと、そのままロゼットを抱き寄せた。

「まあね。でも、今いったのが俺にとって一番大事なものだから。」

 シルフィはそういうと瞳を閉じた。眠ろうとしているのだろうか、それともかつての記憶を思い出しているのだろうか。

それはわからないが、ロゼットもつられるようにそのまま目を閉じた。

二人はしばらくそうしていたが、二人とも暖かい日差しの中、暖かい眠りの中に落ちていった。



「んあ・・・・・」

 ロゼットは周りがやけに寒いことに気がついて目を覚ました。

(そっか、あのまま寝ちゃったんだ。でも、何でこんなに寒いのかな?)

 そう思いながら、起きようと思ってロゼットは目を開ける。

「げ・・・・」

 ロゼットは目に映りこんできたその風景に驚いた。すでに日は落ち、街灯がつく時間になっているのだ。

「ちょっと、シルフィ、おきなよ!!」

 ロゼットはさすがにあわててシルフィを揺さぶり起こす。

シルフィは安眠妨害されたかのようになかなか起きようとしなかったが、ゆっくりとその目を開けた。

そして自分の目に入ってきた光景にロゼット同様驚いた。

「眠りすぎちゃったかな?」

 呑気にそんなことをいうシルフィにロゼットが声を上げる。

「眠りすぎちゃったじゃないわよ!もう!今何時なの!?」

 シルフィは腕時計を見て目が点になった。

「えっと・・・午前五時・・・・」

「はぁ!?ちょっとまって。それじゃあ、かれこれ12時間以上寝ちゃってたってわけ!?」

 そのロゼットの声をよそにシルフィが続ける

「8月31日の。」

 その声に今度はロゼットが固まった。12時間以上寝ていたならまだしも、24時間以上眠っていたのだ。

「は・・・・?」

 やっとの思いでロゼットが絞り出した声はすでに単語にもなっていなかった。

「俺たちが寝たのが多分、29日の昼過ぎだから・・・かれこれ40時間ちょっと寝てたってことかな・・・」

 冷静に、いや、冷静を装ってそういったシルフィにロゼットは肩を震わせて怒鳴った。

「何でもっと早く起きないのよ!40時間睡眠なんて聞いたことないわよ、私!!」

「いや、俺にそんなこと言われても・・・・」

 シルフィはロゼットの勢いに負けてあとずさる。ロゼットはそこまで言うと急に肩を落として、

「はあ、なんか、ばかばかしくなっちゃったわ。何で誰も起こしに来てくれなかったんだろ?」

 といった。おそらく、起こそうとは思ったのだろうが、ベンチで二人、寄り添って寝ているのを見て起こすような野暮なことを誰もしなかっただけだろうけれども。

「とにかく、部屋に戻ろう。風呂にも入らないと、二日は入ってない計算になるからね。」

 シルフィはそういって教会のほうにロゼットの手を引いて歩いていく。

ロゼットは最初少し引っ張られたもののすぐにその隣にたって歩き出す。

これからもずっと二人で歩いていくことを確信しているかのように。





 9月10日。ロゼットとシルフィはパトリシアの部屋にいた。先日パトリシアから呼び出しを受けて、こうしてこの部屋に来たのである。

「それで用事って何ですか?」

 ロゼットが一番最初に口を開いた。パトリシアは真剣な顔をしたまま、机の中からある一封の封筒を取り出して机の上においた。

「これは?」

 シルフィがそう聞くと、パトリシアは中を読むように言う。今までにないパトリシアの真剣な表情に、

ただ事ではないと二人は思い、ロゼットがその封筒を取って封を切って中身の手紙を読む。

「これ・・・・」

 ロゼットはその手紙を一通り読むと、シルフィにその手紙を渡した。それを受け取ったシルフィも手紙の内容を見て驚いた。

「これは事実なんですか?」

 シルフィもパトリシアに確認を取る。パトリシアは返事をする代わりに頷いて見せた。

「二人にこのことを知らせようか悩んだけど・・・。いま、アメリカ全土でどこを探しても、

悪魔との実戦経験があるのはあなたたち二人だけ。」

 パトリシアはそこまでいうと一度言葉を区切った。暫く沈黙が続いたが、再びパトリシアが言葉を紡ぎだす。

「二人にはもう、こっちの世界に来てもらうつもりはなかったけど、のっぴきならない状況まできてるの。お願い・・・・できるかしら。」

 その言葉を最後に再び沈黙が訪れる。二人は神妙な面持ちで何かを考え込んでいるようだ。

暫くして二人は互いに顔を見合わせると少し笑ってパトリシアと向き合った。

「もちろん。それを始末するのが俺たち悪魔祓い(エクソシスト)の役目ですから。」

 シルフィのその言葉にロゼットが続ける。

「それに、私たちのような悲劇を二度と繰り返さないためにも・・・・」

 そして二人は声をそろえていった。

「やります。」

 と。

「ありがとう。」

 パトリシアのそのお礼の言葉には心からの感謝の意が汲んで取れた。

そして、パトリシアは隣にあった、アタッシュケースと長い、1,5メートルほどあるほの長い袋を机の上に置いた。

「探すのに苦労したわ。なにせ、かれこれ70年も前のものですし。」

 そういってパトリシアは机の上に置いたアタッシュケースを開ける。

「これは・・・四聖文字砲(テトラグラマトン)・・・」

 ロゼットはその中身を見てそうつぶやいた。その銃はかつての戦いでロゼットが使った銃。

あの戦いの後、どこに行ったかわからなくなっていたものだった。

一方シルフィは隣においてあった袋を取るとその中から袋と同じ長さの白木でできた日本刀を取り出した。

「ヤシャ・・・。俺の刀、よく見つけられましたね。」

 シルフィはそういうと、鯉口を切り、刀を振り下ろす。

「これがあればどんな悪魔にも負ける気しませんよ。」

 シルフィはヤシャを鞘に戻すと再び、袋の中に入れた。ロゼットは四聖文字砲を手に取ると、一緒に入っていたホルスターに入れて腰にかけた。

「で?俺たちはどこに行けば?」

 シルフィはパトリシアにこれからの手はずを聞く。

「とりあえず、明日このメモにあるに行って頂戴。あとは書いてある階に行けばそこにいる人が教えてくれるはずよ。」

 そういって一枚のメモ用紙を渡した。そこにシルフィとロゼットの向うべき場所が記されていた。

ロゼットがそれを取るとポケットの中に大切にしまいこんだ。二人はそのままパトリシアの部屋を出て無言のまま廊下を歩いていった。

「どうする?」

 シルフィが唐突にロゼットに話しかけた。その一言は今の状況下、どのようにでも解釈できてしまう。

おそらく、シルフィはそのどのようにでも解釈してほしいと思っていった言葉であろう。

「そうね。銃なんか、ここの所撃ってないから、私服に着替えて射撃場に行って来る。」

 ロゼットはそういいながら自室に入ろうとしたが、ふとシルフィのほうを見る。

「シルフィはどうするの?」

「俺はいつもの場所にいくよ。少し、こいつを振っておきたい。」

 そういってシルフィは中庭に向う。二人とも、既にかつてのミリティアと呼ばれたころのそれに戻っていた。



 教会の中庭。シルフィが立つその場所には緊張の糸が張り巡らされていた。それほどまでに空気が張り詰めているのだ。

シルフィの周りにあるのは太い丸太。それが9本、取り囲むように立っている。シルフィは一呼吸入れるとヤシャを抜き放つ。

1本目。抜刀術の手本とも言うべき動きで真っ二つにする。シルフィはそのまま体をひねると、2本目に向かい合う。

すばやい動きではあるが、目に見えないというわけではない。が、一閃目以上にその剣閃は速かった。

それはすでに目には映らない速度。その後、3本目、4本目と刀を持つ手を右手左手と変えながら同じように真っ二つにしていく。

体捌きは目視できるものの、刀を持つ腕の肩から先は絶対に目視できない速度。この技こそあの戦いを生き抜いたシルフィが絶対の自信を持つ技。

「ふぅ・・・・。どうやら、鈍っていたのは武器に対する愛着だったみたいだ。」

 シルフィはそういうとヤシャを鞘に収めてその場を後にする。

シルフィのいなくなった中庭に残ったのは切り口が不気味に焦げた18本の丸太だけだった。





 ニューヨーク郊外の射撃訓練場。ロゼットの姿はそこにあった。ロゼットはそこで標的に向ってベレッタを撃っていた。

幾つもある標的の、確実に急所だけをその弾丸は打ち抜いていた。

「何でこんなのは鈍らないんだろ。」

 ロゼットはポツリともらすとベレッタを台の上におき、四聖文字砲を手にもつ。

「ここじゃ撃てないよね。」

 ロゼットはそれを構えたものの撃たないまま、下ろし、再びホルスターの中にしまった。

ロゼットはそのままその射撃場を後にすると、停めてあった車に乗る。

(クロノに・・・会えるかも知れない・・・。)

 胸の中にかつての友を思いながら、ロゼットは車を教会に走らせる。



 2001年9月11日。シルフィとロゼットの二人はパトリシアの言うとおり、指定されたビルの前に立っていた。

「でもさ、あのころのことを考えると、こんなのができたのは思いもよらないことだよね。」

 ロゼットはその前に立って、はるか屋上を見上げてそういった。

「そうだね。ここはパンデモニウムが復活したとき、津波で完全に瓦礫の山になったからね。

それから考えてみると、本当にここまで復旧したのは奇跡としか言いようがないよ。」

 シルフィはそう答えるとビルの中に入っていく。ビルのロビーは人でごった返していた。

「なんか・・・ものすごい人の量ね。」

 今まで見たこともない量の人にロゼットはその場で呆けていた。シルフィも驚いて目を点にしている。

「な、なんにせよ、とにかくメモの場所までいこう。何階?」

 シルフィとロゼットはエレベーターに乗ると指定された階のボタンをおす。

 エレベーターはスムーズに上に向っていく。そして指定された階にエレベーターが到着した。


 エレベーターのドアが開かれたそのとき。



 けたたましい爆発音がビルを駆け巡った。



 それは新たなる戦いを告げる



 あまりにも大きな



 始まりの鐘だった。








あとがき

と、言うことでHOLY CRUSADERSの第一幕をお届けします。

(フィーネ)さて、ついに始まるのね。悪魔たちとの戦いが。

そうだな。次回、いきなり戦闘に突入だ。

(フィーラ)なんか、私たちもさあ、

(フィーネ)血沸き肉踊るっていう感じね。なんか、うずうずしてきちゃう。

おいおい。物騒なこというなよ。戦うのはお前たちじゃないんだから。

(フィーラ)そうは言っても、戦いって言葉には引かれちゃうのが乙女心なのよ。

ちょっとまて!!それは乙女心じゃないだろ!!

(フィーネ)何言ってるのよ。それが乙女心なのよ?

いやだぁ!!そんな乙女心はいやだぁ!!

(フィーラ)という訳で。

というわけでじゃない!!やめろ!!そんな大斧持つんじゃない!!!

(フィーネ&フィーラ)殺っちゃえ〜♪

あぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

(フィーネ)すっきり♪という訳で、じゃあ、第二幕で会いましょう♪




あ、あはははは。(チラリ)
美姫 「何?人の顔なんか盗み見して」
いや、別に…。
美姫 「はは〜ん」
な、何だよ。(うぅー、この顔は悪戯を思い付いた時の顔だ)
美姫 「浩は、戦いって言葉に私が反応するか警戒したのよね」
(ここで選択を誤れば…。の、脳内シュミレーション、スタート!)

  1.当たり前だ。
  2.そんな事ある訳ないだろう。
1を選んだとすると……。

  美姫 「私はそんなつもりはなかったんだけれど、浩がそうまで期待するのなら、応えてあげないとね♪」
  い、いや、遠慮する。
  美姫 「と、言う訳で、飛んじゃえ〜〜♪」
  のぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

これはまず、なしだな。うん。
じゃあ、2を選ぶと…。

  美姫 「その慌て様がとても怪しんだけれど」
  アハハハ。気のせいだよ、気のせい。
  美姫 「そう?じゃあ、良いけれど。やっぱり、戦いってだけで騒ぐのは乙女心じゃないわよね」
  そうだよ。うん、うん。流石、美姫。よく分かってる。
  美姫 「やっぱり、そこには確固たる標的がないとね。そう、例えば浩みたいな……」
  えっ!?えっ!?
  美姫 「と、言う訳で…」
  な、何がそういう訳だ!や、止めろーー!!
  美姫 「クスクス。粉々になっちゃえー♪」
  い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

……………………。
って、どっちも駄目じゃん!
美姫 「きゃっ!と、突然、ビックリするじゃないの。いきなり黙り込んだと思ったら、急に叫び声なんか上げて」
お、お前という奴は、どっちにしろ俺を…、俺を……!くぅぅぅぅ〜。
美姫 「い。いきなり何、訳の分からない事を言い出すのよ」
この鬼、悪魔、人でなし。
美姫 「……何かよく分からないけれど、それは、つまり、あれって事?
     私にぶっ飛ばされたいって事ね」
うわあ〜〜、やっぱりか!
美姫 「いや、やっぱりも何も脈絡が全然分からないんだけれど」
どっちに答えても、結局結末は同じだったんだーー!
うわぁぁぁ!酷い、酷すぎる!
美姫 「……何かよく分からないけれど、うるさいから黙らせないとね。
     それじゃあ、何処かに行っちゃえーーー!」
ぬぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
美姫 「全く、何だったのかしら?私はただ、戦いって言葉に一々反応する訳がないって安心させてあげようとしただけなのに。
     まあ、良いか♪それじゃあ、また次回を待ってますね〜」



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