『HOLY CRUSADERS』
第七幕『双翼、魔絶つ刃』
シルフィは家に着くと桃子に道に迷ったことを説明し、少し遅めの昼食をとる。
夕食後、シルフィはすぐに恭也の部屋に行き、恭也を道場に連れ出した。
「どうした?」
一本やろうという雰囲気もなく、木刀すら持たずに道場に来たことを恭也は不思議に思っているようだ。
シルフィは恭也の方を向きと、今日あった事をすべて、悪魔のことを除いてだが、話した。恭也は暫く黙っていたが、
「そうか。実は、俺が家に帰るときも、月村が車にはねられかけたのを助けたんだ。一日に二度となると、偶然とは思えないな。」
と、シルフィに話した。シルフィは間違いなく誰かに狙われてるねといって、恭也に頭を下げ、
「恭也、物は頼みようなんだけど、忍ちゃんの護衛、してもらえないかな。俺が護衛につければいいんだけど、
そっちは専門じゃないんだ。忍ちゃんじゃなかったら、こんなことは頼まないと思うし、恭也以外には頼める人がいない。
忍ちゃんが親しい友達だからこそ最悪の事態だけは避けたいんだ。そのためには、恭也、君が適任だと思ってる。」
といった。恭也はシルフィにすぐに頭を上げさせて、
「もちろんだ。そういうときのために御神の剣がある。」
と、言って忍の護衛につくことを了承した。
「ありがとう。ロゼット一人じゃ心配だからね。」
シルフィはロゼットを護衛につけることを決めているようだ。恭也はすこし驚いた様子で、
「ロゼットさんを?」
とシルフィに聞いた。シルフィは頷いて、あいつも一応はプロだからと返事をした。
シルフィは改めて恭也に礼を言うと道場を後にしようとしたが、恭也に呼び止められて入り口で立ち止まった。
「シルフィ、お前は一体何者なんだ?射抜を使えたり、鬼姫竜槍術(ききりゅうそうじゅつ)、
落鳳拳術(らくほうけんじゅつ)のような現在使い手がいない流派を習得したりしている。只者ではないのはわかる。お前は一体・・・。」
シルフィは恭也のその問いに暫く黙ったままでいたが、振り向いて、
「そうだね。俺のこと、あんまり話してなかったね。でも、今はちょっと話せないんだ。
時期が来ればちゃんと話すよ。それまでは・・・。」
と返事をした。
「わかった。なら、聞きはしない。」
恭也はシルフィの抱える何らかの事情を汲んで、それ以上聞くことをやめた。シルフィはそのまま道場を後にする。
道場には恭也が一人残された。
(月村は大切な俺の友達・・・クラスメイトだ。何が相手であっても、絶対に守りきって見せる・・・。)
恭也は心にそう誓うと道場を後にした。
「なるほど。事情は大体飲み込めたわ。私も忍ちゃんの護衛につくよ。恭也君はシルフィ以上に強いかもだけど、
悪魔を相手にしたことはないだろうしね。」
ロゼットはシルフィの頼みを二の返事で了承した。
「秋姫ちゃんに俺たちがついてることはたぶん相手側はしてると思う。俺たちが、忍ちゃんの友達だって言うことも。
すなわち、相手はリスクを犯し始めたわけだ。おそらく、忍ちゃんの家にある何かと秋姫ちゃんの存在。
これがむこうの最後のカードだろうね。」
シルフィはそういって腕を組んで窓から外を見た。ロゼットはその隣に立つと、
「大丈夫。絶対に渡さないよ。あんな悲劇、二度と繰り返しちゃいけないんだ。」
と、決意を新たに、緩みかけていた気を引き締めなおした。
翌日教室で、シルフィは恭也とロゼットを忍の護衛につけたいと言うことを忍に話した。忍は最初、危険だと猛反対したが、
そこをシルフィが説得して忍はしぶしぶながら了承した。
「でも、危険なことだけはしないでね。」
忍は最後にそう一言だけ付け足した。恭也とロゼットはそれを了承し、恭也とロゼットが忍の護衛に付くことが正式に決まった。
放課後、シルフィは秋姫の席のそばに行き、秋姫とともに教室を出た。ロゼットはその一部始終をじっと見、
シルフィが教室を出ると小さなため息をついた。
「ロゼット、もしかして、ちょっとやきもち焼いてる?」
ロゼットは後ろからいきなり声をかけられ、驚いて振り返る。声の主は忍だった。とはいえ、なんと聞かれたのかさっぱりわからない。
忍はその意を汲み取ったのか、何とかしてロゼットにさっきの言葉を英訳して伝えようとする。
しかし、やきもちなんて英語、さっぱりわからない。
(えっと・・・この場合は・・・・。・・・だめだ。わかんないや。)
忍はしばらく考え込んだが、結局、英訳できなかったらしい。そのため、少し表現を変えてロゼットに英語で話しかけた。
「ロゼット、シルフィ君のこと好きなの?」
少しどころかストレートなもの聞きになっている。しかし、忍にとって、これが一番簡単な表現だったようだ。
それを聞いたロゼットは、当然のこと、瞬時に内容を理解し、顔を朱に染めた。
「あ、図星だった?」
これは日本語であるから、ロゼットには伝わらない。ロゼットは赤くなったままだ。どうやら、これ系の話題には弱いらしい。
「月村、今日はどうするんだ?まっすぐ家に帰るのか?」
席をはずしていた恭也が戻ってきて忍にそう聞く。忍は少し寄りたいところがあるからといってかばんを持ち、席を立つ。
ロゼットも、それにつられるようにかばんを持って席を立った。
「どこによるの?」
学校を出て、商店街方面に歩いていたロゼットが忍にそうたずねた。忍はこれくらいならわかるよといった表情で、
「翠屋っていう喫茶店。あそこのシュークリーム美味しーんだよ。」
ゆっくりながらそうロゼットに英語で伝える。ロゼットは、
「あれ?翠屋って、恭也君のお母さんがやってるところじゃなかったっけ?違った?」
ロゼットは普通の速度で恭也に尋ねる。しかし、恭也は聞き取ることができなかった。なにせ、普通の速度では、
簡単な英語ですら聞き取り難らいものである。しかし、恭也は話の経緯からして、おそらくこういう内容だろうと判断して、
「ああ。翠屋は俺のかーさんが経営している喫茶店だ。」
と日本語で言った。ロゼットも、ところどころの日本語が聞き取れたのか、恭也の返事にうなずく。忍は驚いてそうだったの?
と恭也に聞いている。
そんなこんなしているうちに翠屋についた一行。
「あれ?恭也、それにロゼットちゃん。どうしたの?今日は手伝いの日じゃないけど・・・。」
恭也たちに気がついた桃子がそういった。恭也は手伝いに来たわけじゃないという旨を伝えると、忍が桃子にシュークリームを注文した。
「はいはーいちょっと待っててねー。」
桃子はそういって、シュークリームを箱に詰め始めた。
「ところで、恭也。この女性(ひと)は?」
桃子は、その部のことを暗に紹介するように言われた。恭也は桃子に、クラスメートだと一言だけ伝えた。
しかし、桃子はそーゆうこと聞いてるんじゃないのと言う。
「あ、高町君のクラスメイトの月村忍です。」
と、忍が自ら自己紹介をした。桃子はなーんだ、恭也の彼女じゃないんだ。といって、心底がっかりしたような表情をした。
「かーさん。早とちりしすぎだ。」
恭也はそんな桃子にそういうとふと顔を窓の外に向けた。
(誰かに見られてるな・・・。)
どうやら、何かの視線を感じるようだ。恭也はしばらく外を眺めていたが、気配が消えると恭也は再び視線を戻す、
ちょうど忍の買い物が終わったようだ。
「どうかしたの?」
忍は恭也の少し違った雰囲気を感じ取って恭也に聞く。
「いや。なんでもない。」
恭也はそういって先に店を出る。ロゼットたちも後について翠屋を出た。
(気配は完全に消えたな・・・。しかし、月村が何者かに狙われているということはもう、間違いない。)
恭也とロゼットは忍を家まで送り届けると、夜に定時連絡を入れること、戸締りの確認をきちんとすることを伝え、帰路に着いた。
帰路、当然のこと、恭也はロゼットと二人きりである。恭也は英語がほとんどといっていいほどできない。
まあ、授業のほとんどを寝て過ごしているわけだから仕方がないが。
二人黙ったまま、歩いていたが、ロゼットが片言ながら恭也に話しかけてきた。
「恭也、くん、が、シルフィ、よ・・りも強い・・・・ですか?」
どうやら、ロゼットは「恭也君はシルフィよりも強いんですか?」と聞いているようだ。恭也はその意を汲むと、前を向いたまま、
「わからない。シルフィが強いのは確かだが、彼はまだ本気を出していないと思う。本気でやりあえば、どちらが勝ってもおかしくない。」
といった。恭也は言ってすぐに、日本語で言ってしまったと気づき、何とか英訳しようとするが、どうにも単語が出てこない。
「シルフィは、力を、だせ・・・ま、せん。but、シルフィ、今、とても、うれしい・・・み、たいです。
多分、恭也、くんが、強いから、です。」
(つ、伝わってるかな?これで・・・・。)
ロゼットは自信が持てないようだが、わかる範囲でそういった。恭也の行っていた事も、所々しか聞き取れてはいない。
「そうか。」
恭也は一言そう返した。
(本気を出せない・・・・か。もし、本気を出されれば勝てる気がしない・・・・。世界は広いな。)
恭也はそう思ってふと周りに気をやる。
(つけられている?)
そう感じたが、気のせいのようだとつぶやいて、再び前を向く。
「忍、ちゃん、狙われて・・・ます。誰・・・か、わかり、ますか?」
ロゼットの言葉に恭也はやはり日本語でかえす。
「わからない。だが、やりかたが過激であることに違いないと思う。」
ロゼットは暫く考え込んで、
「私たち、が、まもり、ます。」
と恭也に言った。恭也はもちろんだと頷いた。二人はその後いとことも発することなく、家路に着いた。
悪魔がつけているということに、気づくことなく。
恭也たちが護衛についてから早くも一週間経った。しかし、忍の前には誰も現れず、本当に狙われているのかも、
傍目には怪しく感じてくる。しかし、恭也もロゼットも警戒の手を緩めることはなかった。二人とも確信しているのだ。
相手が行動を起こしていないだけで、忍は確実に狙われていると。
しかし、護衛を始めて10日、事態は急展開を見せた。恭也とロゼットはいつものように忍を送り届けると家に帰り着いていた。
「あれ?シルフィは?」
夕食の席でロゼットはシルフィがいないことに気付き、高町家で唯一英語の話せるフィアッセにそうたずねた。
「用事があるっていって出ていったわ。でも、結構前だから、もうそろそろ帰ってくるんじゃない?」
フィアッセはそう答えて、ロゼットの前におかれたカップに紅茶を注ぐ。
「ねえ、定時連絡あった?」
ロゼットは紅茶を飲みながら、恭也にたずねる。
「いや、まだないな。もうあってもおかしくはないんだが・・・。」
恭也はそう返事をして日本茶をのむ。当然二人の会話は通訳、フィアッセを介して行われている。
「電話してみようか?」
ロゼットはそう言って電話の前にたった。時間はすでに8時30分。定時連絡は8時だから、すでに30分も連絡がなかったことになる。
ロゼットは慣れた手つきで忍の家に電話をかけた。しかし、いくらコールしても出る気配がない。
ロゼットは電話を切ると、恭也に様子がおかいしいと告げる。恭也は考えることなく、椅子を立つと、
「すまない、フィアッセ。少し月村のところに行ってくる。」
と、言い残し自室に戻ろうとする。と、そこに美由希が恭也の装備を一式手に現れた。
「様子がおかしいって言ってたから、もってきたよ。」
恭也は美由希からそれを受け取ると、礼を言って玄関を出た。
「フィアッセさん、車のキー貸してください。」
ロゼットもいつの間にか着替えて玄関にいた。
「ごめん、いま、シルフィが乗っていってるから無いのよ。」
どうやら、急ぎの足の車はシルフィが使っているらしい。しかし、
「今帰りましたー。」
ちょうど計ったかのようにシルフィが帰ってきた。
「ん?なんかあったみたいだね。はい、車のキー。」
シルフィはロゼットの服装が違うことから何かあったということを察し、車のキーを渡す。
ロゼットはそれを受け取ると、急いで車のほうに向かう。シルフィもそれについて車に向かった。
「ロゼット、トランクの中に、福音弾(ゴスペル)40発、聖火弾(セイクリッド)、2300発、
あと、ヤスミノコフ9000M、とヤスミノコフ2000Hが入ってる。使っていいよ。」
シルフィは運転席に座ったロゼットにそういった。
「はぁ!?福音弾に聖火弾!?そんなのどこから・・・・。」
ロゼットは驚いた。まさか、今になってもそんなものがあるとは思っても見なかったのだろう。
「パトリシアさんからの贈り物。さっき貰ってきたんだ。」
シルフィはそれだけ言い残すと家に入っていった。
「・・・急ぐよ!つかまって!!」
ロゼットは助手席に座っている恭也にそういうと猛スピードで忍の家に向った。
10分後、忍の家の目前で車が止まった。あまりのスピードにエンストしたようだ。
どうやら、シルフィも相当なスピードを出したのだろう。
「先に行ってて!!私もすぐ行く!!」
車が止まるやいなや、ロゼットはそう言い、ドアを開けてトランクをあける。恭也もすぐに車を降りて忍の家に走った。
ロゼットはトランクに入っていたマシンガン、ヤスミノコフ9000M、ハンドガン、ヤスミノコフ2000H、
聖火弾と福音弾の入ったマガジンをもてるだけ持って恭也の後を追う。忍の家の前にロゼットが着いたとき、
恭也は門の前に立ち尽くしていた。当然である。恭也の目先には、忍の家の前庭には溢れんばかりの悪魔がいたのだから。
「防音結界!?ちくしょう!!」
ロゼットはそう声を上げると恭也を尻目に、忍の家に向って走った。当然悪魔たちも気がつき、ロゼットを襲う。
しかし、ロゼットは臆することなく、その攻撃をかいくぐって、手に持ったヤスミノコフ9000Mで悪魔を射殺する。
「恭也君!!」
恭也はロゼットのその言葉に我に返った。
(だめだ、周りの雰囲気になまれるな!)
恭也は両手で頬をたたき、自分を一括する。そして、次の瞬間、悪魔の群れの中に飛び込んでいった。
悪魔たちは、当然恭也にも襲い掛かった。しかし、恭也は外見に怯むことなく、太い腕や悪魔の持つ大剣をかわしつつ、
確実な急所と思われる、首、頭を狙って斬撃をくりだす。それで首が飛ぶ悪魔もいる。しかし、すべてそうとは限らない。
中には刀の通らない悪魔もいる。恭也は『貫』、『徹』を連発しているが、『徹』を持ってしてもダメージがある程度だ。
しかし、そういった敵はロゼットの放つ銃弾で次々に倒れていく。
(くそっ!数が多すぎる!!)
ちょうど前庭の半分ぐらいまで進んだ二人が見たものはやはり、溢れんばかりの悪魔だった。
恭也はなれない戦いにいつもより体力の消費が激しいようだ。
「恭也君、先に忍ちゃんのところに行って!!道は私が作るから!!」
ロゼットはそういうと腰から四聖文字砲を抜き悪魔に向って撃つ。放たれた光の弾丸は爆発し、玄関までの道を作る。
恭也はその道を一気に駆け抜けて、玄関のドアを蹴破って中に入った。しかし、その先に待っていたのは、やはり悪魔の群れだった。
しかし、中には悪魔の屍体も混じっていた。誰かが闘ったようだ。しかし、恭也はそれが何かを考えることなく、悪魔の群れに飛び込む。
恭也はさっきと同じように悪魔の首と頭だけを狙う。
(くっ!!)
しかし、中にはやはり刀の通らない悪魔もいた。しかし、恭也はその悪魔に向って飛針を投げる。
と、同時に自らもその懐にもぐりこむ。そして飛針が悪魔に当たった瞬間、当然飛針ははじかれるが、当たった瞬間に、
小太刀でその厚さ数ミリもない刃で点としか言いようのない飛針の先を力一杯、全体重を乗せた斬撃でたたく。
その一撃は飛針を悪魔の頭にめりこませた。その一撃を喰らった悪魔は力なくその場に倒れこむ。
まさしく、ピン・ホール射撃といってもいいような一撃をこの極限状態で行うその恭也の戦闘能力は人知を超えるものだった。
数分後、ロビーにいた悪魔は恭也の手によって全滅されていた。恭也は休むことなく、二階の忍の部屋に駆け上がる。
果たしてそこにも悪魔がいた。しかし、その数は少ない。いや、代わりに悪魔の屍体が目立つ。
恭也は廊下を忍の部屋目指して、立ちふさがる悪魔を一刀のもとに伏しながら突き進む。
「ノエルさん!?」
忍の部屋の前にいた人物、ノエルに恭也は驚いた。その足元には悪魔の屍体が数体転がっている。
どう考えてもノエルがやったものに違いない。
「恭也様!?」
驚いたのはノエルも同じだった。まさか、恭也がここにくるとは思っても見なかったのであろう。
「ノエルさん、月村は・・・!」
恭也はノエルにそう聞いた。ノエルはこちらですといって守っていたドアを開けてその中に恭也を誘導した。
その部屋の中には忍が右腕の肘から下を切断され、ベッドに横になっていた。
「!?月村!!」
恭也はしのぶに駆け寄ろうとしたが、ノエルに腕をつかまれて阻まれた。
「落ち着いてください。」
ノエルの言葉は、しかし、恭也には届かなかった。
「早く病院に連れて行かないと!!」
恭也はそう声を上げたが、ノエルは表情を崩すことなく、
「落ち着いてください。しのぶお嬢様のかかりつけの病院は今日しまっています。他の所では治しようがありません。」
と、いった。
「そんな・・・。」
恭也は愕然とした。このままでは忍の命も危険にさらされる可能性がある。しかし、何もできないのだ。
「私は医療に少なからずの知識を持っています。私にならできるかと。
そのために、よろしければ、恭也様の血液を分けてもらえないでしょうか?」
恭也はノエルのその要求に二の返事で応じた。
月村家の前庭。ロゼットはすべての悪魔を撃ち殺し、玄関にへたり込んでいた。
(全く、何て数よ・・・。こんなのあの時以来じゃない・・・。ま、当たり前だけどね・・・。)
ロゼットは立ち上がるのも気だるそうに立ち上がった。
(まず、忍ちゃんの安否確認が休むのより先ね。まあ、恭也君が言ったから無事だとは思うけど・・・。)
ロゼットはそう思いながら忍の部屋に向って歩き始めた。
(少し・・・足りないかもしれません・・・・。)
ノエルは恭也から限界近い血液を採取したが、それでも足りないようだった。
と、ちょうどそのときロゼットが忍の部屋に入ってきた。当然、ロゼットも恭也と同じ反応を示したが、
ノエルは恭也と同じように説明し、ロゼットの血液を採取した。
「ん・・・」
恭也は忍の家のベッドの上で目を覚ました。しかし、状況の把握がうまくいかない。頭がくらくらするようだ。
(そうか・・・。血をとったんだ・・・)
ゆっくりと頭が動き出して、恭也は今までの経緯を思い出す。と、
「忍ちゃん!!」
と隣のベットでロゼットの声がした。ロゼットは飛び起きるようにベットから跳ね上がったが、
自分の思ったように体が動かなかったのか、かなり無理な姿勢でベッドから転落した。
ロゼットは痛いとも口にせず落ちたままの姿勢でじっとしていた。と、そのときドアが開いて、忍が入ってきた。
忍はベッドから転落したロゼットに驚き、急いで抱え上げ、ベッドに寝かせた。
「月村・・・・。お前、腕は・・・。」
恭也はゆっくりと起き上がって忍にそういいながら起き上がろうとしたが、腕に力が入らず、ベッドに倒れこんだ。
「高町君!血、採りすぎたんだね・・・。」
忍はそういいながら恭也に近づき、恭也を抱え起こし、首筋に顔を近づけた。
「お、おい・・・・。」
恭也はわけもわからずじっとしていた。そのとき、首に軽い痛みが走った。恭也は忍が噛み付いたと瞬時に判断したが、動こうにも、
体がいうことを利かない。と、どうしたことか、忍が口を離すと体に力が戻っていた。
「え・・・?」
さすがの恭也もさっぱりのようだ。忍はロゼットにも同じように首筋をかむ。
ロゼットも最初驚いたが、忍が口を離すと力が戻っていることに気がつき、驚いた。
「忍ちゃん、あなた、もしかして・・・・。」
ロゼットは何かに気がついたのか、そうもらした。しかし、忍は返事をする前に二人に頭を下げた。
「2人とも、今回は本当にありがとう。本当に助かったよ。」
忍はそういって、頭を上げて切断されたはずの右腕が治っていること示した。
「月村・・・おまえ・・・一体・・・。」
恭也はどう聞いていいかわからず、どもりながらそういった。忍は意を決した表情で自分の秘密を話し始めた。
「多分、見てもわかると思うけど、私は普通の人間じゃないんだ。普通なら切られた右手が治るわけないし。
私は夜の一族って言われる一族の末裔なの。私たち一族は血液を媒介に力を行使することができて、こんなふうに腕を直すこともできる。
ほかにもあるんだけど、簡単にはこういうことなの。」
恭也は最初、その言葉を信じることはできなかったが、忍の右腕はどこからどう見ても治っている。
そのことからして忍のいっていることは真実なのだろう。ロゼットはその言葉を聴いて二、三度頷いてなるほどねといった。そして、
「ということは、秘密の共有ってかたちだから、忘れるか、全てを受け入れるかの誓いたてなきゃいけないんだっけ?」
とロゼットが忍に聞く。
「うん。そうなるね。」
忍はそれに難なく答える。これも力の一端なのだろう。
「あ、私なら大丈夫だよ。そういうの免疫あるし、夜の一族でも忍ちゃんは忍ちゃんだしね。」
とロゼットはいった。
「ありがとう。ロゼット。」
忍はロゼットに頭を下げると恭也のほうを向いて、
「高町君は?いやなら忘れさせることもできるけど・・・」
と、いった。恭也は首を振ると、
「かまわないさ。月村は月村。それで十分だ。夜の一族であっても、俺の大切な友人に変わりない。」
といった。
「ありがとう・・・・ふたりとも・・・・。」
忍は目を潤ませてそういった。
一人の女性が忍の家を上空から眺めていた。その女性は自らの周りに赤い炎をともし、青龍刀のような刀を手に、
空中に浮いているのだ。
「へぇ、人間にしてはやるじゃない。鉄砲娘は前の件もあるから要注意だけど、あの剣士・・・調べる必要ありだな。
もう一人の剣士ともども、面倒なことになったねぇ。まあいいさ。いずれ両方ともあたしが殺してやるからさ。
とはいえ、それはもうちょっと先・・・。その前に、ひとつイベント起こしてあげるかね。」
その女性はそういい残すと消えるようにその場からいなくなった。
月が高いところまで上っている。
ひとつの危機は双翼と一人の修道騎士によって退けられた。
しかし、次なる、最大の危機はすぐそばに迫っていた。
あとがき
ということで、第七話で・・・・
(フィーネ)おそいっ!!!遅すぎるっ!!!
仕方ないだろが!!こっちは大学生だぞ!!レポートやら、発表用のレジュメ作りとか忙しいんだよ!!
(フィーラ)それでも遅すぎ。
仕方ないだろ。大学ですることもあるし、漫研でイラスト描かなきゃいけないし・・・。
(フィーリア)あれ?でも、お兄さんは絵、ド下手だったんじゃないの?描けても見ながらしか描けないんだっけ?
だから時間がかかるんだよ!!ひとつのイラスト見ながら書くのに10時間近くかかるんだ!!この気持ちがお前らにわかるか!!
(フィーネ)わからないわよ!!そんなのより続きを書く!!そっちのが重要!!!
――――――――――――暫く、口喧嘩が続きましたので、割愛させていただきます。―――――――――――――
(フィーネ)で、今回の議題は日本刀の切れ味について。
議題?まあいいや。切れ味か。普通の日本刀、まあ、業物って言われるのもそうだけど、いくらすごい刀でも3人ぐらいが限度らしい。
一人は斬って、一人は突く。んで最後は脳天をかち割る。ま、こんぐらいしかできないらしいな。
(フィーネ)そうなの?
ああ。大体、切れ味が良すぎるって言うのがかえってマイナスらしい。切れ味が良すぎて骨まで一太刀目で斬れちゃうから
刃こぼれしちゃうんだ。人間の骨って、思っている以上に硬いのよ。
(フィーリア)あと、血と油で切れ味が鈍るんだよね。っていうことはあんまり実践に向かない?
まあ、実践向きなのは現実的に考えるとチェインフレイルとかアックスとかウォーハンマーとかの打撃系かな。急所以外でも、
確実に骨は持砕けるし。ま、重いのが難点だがね。そうすると剣の方がいいのかな?
(フィーネ)でもさ、あれって斬るって言うよりも剣の重さと遠心力で斬るって言うよりも引きちぎるって感じじゃない?
そりゃツヴァイハンダーだよ。世に言う両手剣。日本刀でいうなら太刀だな。最大3メートルのものがあるらしい。
(フィーラ)そんなの使えるの?
事実上不可能だな。いくら10キロのダンベルをゆうゆうに持てても、10キロの刀は無理だ。ダンベルは比較的持ちやすいし。
(フィーリア)じゃあさ、理想的なのはこれかな?
ぐはうっ!!そ、それは・・・
(フィーネ)あ、それって、鎧貫(よろいどおし)じゃない?
(フィーラ)それって、44マグナムをはじく防弾チョッキも貫通するのよね。
(フィーリア)極論、接近しさえすればこれ系でつくのが一番かな。アバラの間通して心臓穿てば刃こぼれもしないし、頚椎まで通さなきゃ
刃こぼれなく首も掻っ切れるし。まあ、零距離まで接近する自信と高度な技術がないと使えない武器だけど。
た・・・たすけ・・・・血が・・・血がどくどくと・・・・
(フィーネ)じゃあ、次回は・・・・
(フィーラ)第八幕『最悪の自動人形』でおあいしましょ♪
(フィーリア)またわかりやすい題名だなぁ。ま、いっか。
(フィーネ&フィーラ&フィーリア)じゃあね〜〜〜〜〜♪♪♪
ひとまず、撃退には成功だな。
美姫 「でも、これが最後の悪魔ではない。第二、第三の…」
はいはい。
それにしても、最後のあの人物は…。
美姫 「かなり重要な人物らしいのは分かるけれどね」
さて、次回はどんな展開が待っているのか。
美姫 「今からもう楽しみ〜♪」
それでは、次回を待ってます。