この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはASの二次創作です。

  自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

 

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「という訳で明日6月1日から6月4日まで出かける。帰宅は同4日05:00までに済ませる」

「まあ4月の中旬位から6月に研究の売り込みするから3〜5日家空ける言うとったもんね。構わへんよ。そん代わり事故に遭わん様にな?あと遅れんで帰ってきてや?」

「了解した」

(4日はウチの誕生日なんやけど覚えててくれてるんやろか?

  いや覚えてるのは間違いないやろけど、祝ってくれるんやろか?速人はん自分から祝い事とかまずせんからなぁ〜)

  間近に迫った誕生日に想いを馳せ一喜一憂するはやて。

「それと掃除の類等はしなくてもいい。4日に纏めて掃除をする」

「大丈夫や。一人の時でも何とかなっとたんや。少しの間ぐらいならなんとでもなる。

  それに綺麗な家にして出迎えてやらんとな」

「出迎えは不要だ。帰宅時刻3日23:00 4日05:00の間で睡眠不足になる可能性が高い。よって睡眠を取り休養しろ」

「でもおかえりぐらいは言ってやりたいし…………」

  反論するはやての声は弱く俯いている。

  速人は大抵ははやての言い分は聞くがはやての安全面と健康面に関しては当初の意見を曲げた事は無かった。しかし意見を曲げないだけで融通は利かせてくれる事はある。

  はやての反論を聞き融通を利かせる事が出来る範囲を考える速人。

「………なら帰宅後はやての部屋を訪ね帰宅の旨を伝えよう。3回3度叩いても返事が無い場合は部屋に入り起こすがそれでいいか?」

「………………それ以上は譲歩してくれへんやろからそれでいいわ」

「譲ってくれて感謝する。礼に4日の家事は全て引き受けよう」

「礼なんて気にせんでええよ。別に遊びに行くんやないし」

「なら言い方を変えよう。誕生日祝いの一環と言えば納得するか?」

  サラリと先程はやてが悩んでいた答えを言う速人。

「あ…………祝ってくれるんや……………速人はん無駄なことせん主義やから祝ってくれんかもしれんと思っとったよ…………。

  うん。………そういうことなら4日の家事は任させてもらうわ。よろしくな」

「了解した」

「ふふふふ。今から4日がメッチャ楽しみやわ〜」

「では日付変更後1時間以内に発つ。急ぎの用向きがあるなら今のうちに言うといい」

「特にあらへんな。用事があるなら電話するし。

  そやから出発まで一緒におってくれへんかな?」

「構わんがそろそろ休んだ方がいいぞ」

  そう言われはやては時間を確認する。23時前。休学中とはいえそろそろ寝たほうがいい時間帯だ。

「そやね。じゃあ歯あ磨いて寝る準備するわ。速人はんは準備して先にウチの部屋で待っとってや」

「了解した」

  そう言いはやては洗面所に歯磨きへ、速人は自身の部屋に向かい準備をしに向かった。

 

                                   

 

  大型のアタッシュケースを一つ持ち白衣を一つ纏うだけという簡単な準備を済ませ、一足先にはやての部屋で速人は待っていた。

  ここ最近子供だけで暮しており、しかもある程度金銭を持っていると知られてしまった為、防犯設備の増強箇所と緊急時における緊急避難路の確保を速人は考えつつ、以前から在る正体不明の本を手に取り、変化が無いか軽く眺めていた。

  そしてそんな時に声が響いてきた。

≪お前は≫

  速人と同じ淡々とした、だが速人と違い明確な意思が籠められていた。

≪主はやての何だ。敵か、味方か≫

  偽れば、不用意な発言は、敵対すれば、何れかでも選べば殺すと言う明確な意思を持ちその声は語りかけてきた。

  速人は直ぐに自分が今も手に持っている縛鎖の本を、睨む様な強い視線で観察した。

  この家の防犯設備は甘いが侵入者を感知する事だけは徹底していた。たとえSASやUSマリーンであろうと感知されずに進入するのは不可能と言える程のモノだ。

  速人は部屋にボイスチェンジャー型のスピーカーを置きはやてが遊んでいる可能性も考えたが即座に否定していた。頭の中で思考しているところに割り込まれたような感覚は耳から聞こえる音ではなく、幻聴かそれ以外だからだ。

  速人は安全確認の為に幾度かはやての部屋に訪れた時にはやてが何時からか本棚に在ると言っていた本が気になっていた。

  手に持ち調べた限り使用されている物質が一切不明であった。微塵も動く事無く固定された鎖だが、溶接跡は見つからず固定されているなら本に食い込んでいるはずなのだが少しも食い込んでおらずハードカバーの限度を超えていた。

  他にも不審な点が大量に出てきた為、はやてに断り借りた事があった。

  そして調べた結果、現在地球上で確認されている物質以外の物で構成されている事であった。

  正真正銘の現行人類以外…………いや、現代科学外の産物だという結論に至った。その後速人ははやてに「誰が作ったのかが分からない為、鎖の外し方と内容の確認は出来なかった」と伝えた。

  それから速人は縛鎖の本を気にかける様になっていた。

  そして遂に此方に接触を図ってきた。

  未知の者との接触に、明確な殺意に、一切恐れる事無く何時も通りの淡々とした声で速人は答えた。

「家族だ」

≪…………≫

  謎の声とも音ともつかないのは僅かに沈黙した。そして直ぐに速人に尋ね…………いや詰問する。

≪ならばお前は主はやてに害成すつもりは無いと≫

「安易に得られる言葉で納得するなら幾らでも答えよう」

≪…………そうだな、どのような言葉であろうと納得はしないだろう。

  間も無く始まりを告げるが最後の刻限までは時間が有る。

  今迄見ていたが判断は下せなかった。が、直に状況は一変する。最後の刻限の時迄にお前という存在を見定めよう。

  主の信を得るに相応しいかどうかを………≫

「俺としては不穏分子…………お前を即座に処分する気だ」

  縛鎖の本を見やり物怖じせずに言葉を吐く速人。

≪この世界の文明で私を消し去るには核兵器の直撃でもなければ無駄だな≫

「直に粒子加速器が完成する。超至近距離で核の分裂及び融合反応による爆発で消し去ってやろう」

  その言葉を聞いても謎の声とも音ともいえない…………おそらく少女と思われる意思は慌てる事無く告げる。

≪その行動力は認めるが間に合いはしないだろうな≫

「だが消去方法が解れば対応策は練れる。それとお前は何者だ?」

≪私は八神はやてを主とし仕える者≫

「そうか。ならばはやてに害成す存在でなければ特に害するつもりはない」

≪その言葉はそのまま返そう≫

「では話しは終わりだ」

≪ああ≫

  双方アッサリと話を打ち切り、速人は何事も無かったかのように縛鎖の本を本棚に然して音も立てずに納めると直ぐに静寂が戻ってきた。

  そしてそれから然して長くは無い時間の後にはやてが部屋に到着した。

「おまたせや。居間で着替えとったから遅くなってもうた」

「そうか」

「あれ?速人はんその格好で行くんか?」

「研究者としての活動なら白衣を纏えば十分だ」

「うーん、でもその格好で白衣を纏えばお医者さんやな。

  速人はん、お医者さんごっこでもする?」

「しない」

  はやてが若干胸元を開きながら言うが一蹴する速人。

「ちぇー。やっぱりウチみたいな子供じゃまだ大人の色気は出えへんし無理か〜。

  やっぱりもっと成長し胸も大きゅうならんとなー」

  胸元を直しながら溜息を付きつつそう言うはやて。

「ま、お医者さんごっこはいつかの課題として、時間来るまでマッタリと色々話そうや」

「分かった」

  そう言い時間が来るまで二人は適当に話し、日付変更後速人は白衣を纏い八神家を出た。

  玄関で一人残されたはやては久しぶりに一人の夜に怖さと寂しさを思い出した。

(そう言えば最近は不安だったら速人はんの部屋にお邪魔しとったな。

  何遍一緒に寝よう言うても起きてパソコンに向かってるか私の車椅子で枕元に寝るかのどちらかやったけどなー)

  誰もいなくなった家で一人居る事の怖さと寂しさを帰ってきてくれたら誕生日を祝ってくれるということを思い出し、気を取り直して部屋に戻り眠りについた。

  その日は朝まではやての部屋の電気は点いたままだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

  ―――6月4日00:48―――

  速人は自身が持つ携帯端末機を見やりどうするかを考えながら夜道を走っていた。

  日付変更後間も無く警報音を発した携帯端末機を急ぎ確認すると何者かが4名八神家に不法侵入していた。しかもただの不法侵入ではなく突如はやての部屋に出現した。

  熱・振動・圧力・赤外線………etc、それらの感知器に感知されずにはやての部屋に侵入を果たし、しかも家屋を破壊しているとの報告はなかった。

  たとえ送電を停止しても予備電源で5日は稼動し続ける為に自分が留守中に稼動停止になることはなく、また故障の懸念も自己点検機能からによると全機能正常と報告されている為に低かった。

(侵入者の目的は俺かはやてのどちらか。

  俺が目的の場合は研究関連の可能性が高いが、取引は纏まり終了後にこのような行動に出る利は薄く取引相手の可能性は低い。他の者の可能性も有るがそれならば取引が完了するまでに行動を起こすのでその可能性も低い。

  はやてが目的の場合は単純な金銭だろうが、金銭目的なら滞在し続ける道理も接触を図らない道理もなくその可能性も低い。

  現状の判断材料は侵入者の目的は不明だが侵入者の意図ははやてとの接触と判断。更に侵入方法が全く不明な為、何時侵入者が増えるか不明であり突入危険は極めて高い。

  結論としてはやて諸共侵入者の処理が最善。…………却下。血縁関係以外を意味する家族とは団欒・調和・扶助・理解、この四つを実行し続けるものと解釈する為、扶助の項目から外れる。よって家族・八神 はやてを最優先とし方針を再検討。

  第三者を介入させ事態の制圧。…………却下。侵入者の目的が分からぬ現状で無用な刺激は回避するべき。

  ……………現状で選択の余地は此方からの接触と相手からの接触を選ぶのみ。しかしはやてが捕縛されている場合長時間経過で衰弱する可能性が有る為に此方からの接触が妥当と判断)

  そこまで考え歩きながら呼吸を落ち着け更に考える。

(方針決定。はやての安全圏内への隔離。

  方策決定。庭の簡易核シェルターへの移送、及び薬物投与による身体能力の向上。

  対策思案…………対策不能。現状で侵入者の能力が不明な為に対策無し)

  八神家の敷地に対策無しにも拘らずアッサリ入る速人。途中で薬物を静注し使い終わった器具を庭に放棄する。

(俺のアドレナリン血中半減期は約280秒、交渉を行う場合はやてを強制移送する為に最低でも30秒は残す必要あり)

  鍵を開け普通に…………ただいまとは言わずに玄関を潜る。

  鍵はいざという時の為に閉めずにそのままにしてはやての部屋に向かう。

  出血に備え造血剤を飲みながらはやての部屋の前に立つ速人。

  いつも使っているものよりかなり大きめのアタッシュケースを置き何時も通りに3回ノックする。そしてそれに対する返事は直ぐに返ってきた。

「あ、速人はん?」

「今帰宅した。起きている様だが部屋に入ってもいいか?」

  速人は携帯端末を見扉に近づいている光点…………車椅子の音が僅かにする為はやてが扉を開けに来ていると判断していた。

(他の光点は扉から若干遠い為に直ぐに捕縛されることは無いと判断。

  はやてを確保し庭の簡易核シェルターに移送まで8〜10秒。

  車椅子で移動しているのがはやてという確証はないがこの機は逃せない)

  はやてが返事をし、扉を開ける間に行動準備に入る速人。

  白衣の懐から閃光弾を取り出し安全ピンとレバーを外し、扉が開きかけた時ドアノブにかけられた手を見てはやてと確認し瞬時に手を掴んで引きずり寄せ、閃光弾を部屋に放り込み扉を蹴り閉める。

  そして直ぐに軽い炸裂音と扉の隙間からも目を痛烈に刺戟する程の光が漏れる。

  その光を背に浴びながらはやてを乱雑に肩に引っ掛け廊下を疾走する。

  閃光弾炸裂から2秒後扉が吹き飛ばされ中から何者かが複数飛び出してくる。

  すぐさま近くの防火シャッターのスイッチを―――はやてに有事の際に備えて取り付けるよう進言し、業者に取り付けさせた―――合成樹脂の蓋ごと殴りつける。直ぐに落下するより速く防火シャッターが下り追跡者を阻む。

  速人は背後を確認せずに廊下を更に疾走し、逃走経路上全ての防火シャッターを下ろしていった。

「ちょっ!は!速人はん!!」

  はやての言葉を無視し、庭に面した窓が見えるとはやてを左腕で胸に抱きこみ、右腕を白衣から引き抜きはやてを抱えている為に固定されている左胸を軸に背中を経由させ左腕側から白衣をはやてに被せ、窓を突き破り庭に飛び出す。

  庭の隅に建てられた簡易核シェルターの入り口まであと約10メートル。既に入口は携帯端末を使い開けられている。

  入口目指して更に疾走する速人。アドレナリンを致死量寸前まで投与した結果1秒もせずに10メートルを駆け抜ける程の速度で駆け出す。

  が、入口まで後5メートル付近で窓を突き破り飛び出てきた何かが近接攻撃を仕掛けてくる。

  回避する為に更に大きく前に踏み出すが回避しきれず右首の付根から右腰にかけて深々と切り裂かれた。が、それでも切られた衝撃で速度が落ちた以外は変わらず入口に向かい疾走する。

  入口まで2メートルという所で何かを弾く音が聞こえ、次の瞬間速人の右大腿骨及び周囲の肉と血管と神経が抉られ、そして右肩甲骨から何かが肋骨を砕きながら右胸を突き破った。

  右足を破壊されながらも左足で跳躍し、入口に飛び込もうとした。が、左足を太腿から地面に串刺しにされ倒れこむ速人。

  しかし左腕ではやてを入口に投げ込もうと腕を伸ばし投げかけた。が、突如目の前に紅の髪の少女が現れ大金槌を速人の左腕に叩きこみ骨を粉砕し肉を抉る。

  そして褐色肌の男―――頭に獣の耳と思しき物と、臀部辺りから獣の尻尾と思しき物が出ている―――がはやてを速人の腕より掠め取る。

  そして倒れこんだ速人の頭は頭蓋骨を踏み砕かんばかりの力で後頭部より踏みつけられる。

  頭蓋骨の平面間接が軋みを上げて開く音と、はやての声を聞きながら速人の意識は遠のいていった。

(おそらく死ぬだろうが微塵も恐怖を感じないとは………………)

  そして思い返されるはやての言葉。

[………あんなぁーそういうんは放っておいても勝手に実感してくもんなんや。そんな淡々と命を危険に晒しても得られるモンとちゃうで]

(はやての言う通りだな。最早淡々と命を危機に晒しても得られない事は解った。はやての理論は理解できないが正しいのだろう。

  なら淡々としない為にも何かに執着するべきだな…………)

  何時も通りの淡々とした思考を最後に速人は気絶した。

 

 

 

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(何故生きている……………)

  自室のベッドの上で意識が覚醒しかけていく最中速人が最初に思った事はそんな疑問だった。

(右大腿骨欠損及び左右大体動脈欠損、左橈骨及び尺骨粉砕骨折及び周辺筋肉並びに血管を欠損、右肺一部欠損、首の右付根より腰にかけた裂傷で腎臓破損。

  一つでも致命傷になりかねない傷で生きているという事は治療を施されたと見るべきだろう)

  自分が意識を失う直前の状態を特に嫌悪する事無く思い返し自身の破損箇所を頭に思い浮かべる。

(いや、あの状況下なら輸血・止血・造血の全てを即座に行っても間に合わない程の出血量だ。現代医学では出血多量で死なねば道理が通らない。それが生存しているとなると現代医学を超える力が働いたと考えられる。

  …………現代医学を超えるかは不明だがその最有力候補ははやての部屋にあった縛鎖の本。現行人類………いや現代科学外の産物なら可能性は有る)

  思い当たる節があり更に思考を深める速人。

(そう考えると突如はやての部屋に出現したということも説明はつかないが納得は出来る。

  内部に既に存在しているならそれ以外の感知器に感知される道理は無い。縛鎖の本ははやての部屋にあり侵入者が突如現れた場所もはやての部屋。辻褄は合う。

  不確定要素が強い仮定だが、ここに接地された感知器全てに感知されず、尚且つ破壊・故障させずにはやての部屋に行く事は現代科学では理論上不可能だ)

  聊か突拍子もない事を当然と思考していく速人。

(縛鎖の本の事に気が回れば容易に辿りつける結論だったが現代常識に縛られていたようだ。

  現状に至る経緯はこれ以上思考しても無駄だな)

  速人はそう考えこれまでの思考を中断し、これより成すべき事に思考を切り替える。

(現在成すべき事は6月4日にはやての誕生日を祝い家事を行うこと。

  現在日時は不明だが体内時計の感覚によると半日も経過していないと推測。はやての誕生日を祝い家事を行う為にはこの現状を打破するしかない)

  方針を決め、次に速人は自身の身体状況を軽く身体を動かし確認する。破損した箇所、特に右脚と左腕に激痛と呼ばれる程の痛みが走るが特に気にせず最後に瞼を開け周りを見る。

  翳んでいるが正常に速人の目は周囲の光景を映す。

  速人の司会が回復する前に声が投げかけられた。

「速人はんっ!大丈夫かっ!」

  声の主は速人の枕元に車椅子に座っていたはやてだった。

「ヴァ…………グァ…………ザァ…………」

  思うように速人の喉と舌は動かず、発声がうまくいかないため何度か咳をし、改めて声を発す。

「破損箇所に痛みは有るが問題無い」

  ベッドから起き上がりながら周囲を見回す速人。

  はやての左側に紅の髪の小柄な女性、右側に薄紅髪の長身の女性―――はやてが壁の近くに居るので強引に割り込み多少窮屈そうに壁に寄りかかっている―――、はやての背後には褐色肌の男性、そして扉には金髪の女性。

  一目で詰みの状況だと認識する速人。

「あっ!まだ寝とかなあかんって!本当に死ぬところだったんよ!?」

「呼吸不全の時は座っている方が呼吸は容易だ」

  そういいながらベッドの淵に腰掛け、前屈みの体勢で顔だけははやてに向けながら速人は言葉を発す。

「お互い尋ねたい事が有るようなので俺がはやての部屋に訪れる迄の経過をそれぞれ話す事を提案するがどうだ?」

「それで構わんけど…………本当に寝とかんで平気なん?」

「寝ると肺が自重で潰れ呼吸し難い」

「…………ゴメンな…………ウチがもっとしっかりしとったら……………」

  俯き涙ぐみながら言うはやてに若干力が篭っていないが何時も通り淡々と速人の声がかかる。

「何故はやてが謝罪するに至るかの経緯が理解出来ない。よって経緯確認に移りたいが構わないか?」

「…………分かった…………たしかに何も解らず謝られても困るだけやしね…………。

  それじゃあウチから説明するけどいいか?」

  それを聞き今まで沈黙していた薄紅髪の女性が口を開いた。

「お待ち下さい、主」

「なんや?シグナム」

  薄紅髪の女性―――シグナム―――は速人を一瞬見やり改めてはやてに向き直り喋る。

「此方の経緯を話す必要はありません。向こうの経緯のみを知れば宜しいかと」

  シグナムの発言に他の者達は同意見だと頷くなり目で肯定した。

「そういうわけにはいかんて、シグナム。

  私と速人はんは家族なんやしこんな大事な事を隠すなんて出来へん」

「主がその者にどれだけ信を置いているのか私は存じませんので主の決断に口を挟むのは不敬だと重々承知しています。

  しかしその者は主を攫おうとしたのです。そしてそれは覆せない事実です。この事に対して納得のいく説明が行われない限り此方の経緯を話すことは控えるべきです。

  そして大変失礼ですが私はこの案山子や人形の様な無感情な瞳を持つ者を信ずることはできません。今後の為にこの場で―――」

「―――それ以上言うたら駄目やで、シグナム」

  俯いていた顔を上げ、シグナムを見据えはやては毅然と喋りだす。

「たしかに速人はんは無愛想で無感動で無遠慮と三拍子揃っとるし、行動はこの世界の一般常識から大きく外れてることが多くて何度も驚かされとるけど……………スッゴク優しいんや。

  それに無感情言うてるけど、速人はんは笑ったり怒ったり喜んだり悲しんだりできる様になろうとしとるんや………だから………そないな事言うのは止めてや………」

「…………主の言うとおりその者が優しく感情を手に入れようとしているとしても私はその者から事情を聞き、納得がいけば直ぐに放逐、納得がいかなければ…………仮に納得したとしても処理するべきだと判断します。

  重ね重ね失礼ですがその者は自我形成か人格形成に失敗した壊れた人間、若しくは廃人です。主の近くに存在すれば何れ害成す可能性が高い」

「っ!速人はんは―――」

  シグナムの客観的意見にはやては反論しかけたがそれに速人が割り込んできた。

「其方が経緯を述べるのが不服なら俺が先でも構わない。

  それと其方が経緯を語りたくなければ語らなくても構わない。凡その見当が付くのでこちらの確認に答えてくれさえすれば構わない」

「いや、きちんとウチが話すから速人はんは後に話してや」

「主、向こうがああ言っているのですから―――」

「お願いや……………私と速人はんの話が終るまで静かにしてや……………」

  静かに、しかし確固たる意思の篭った言葉に引き下がるシグナム。そして残りの面々も話が終るまでは静かにしていることにした。

「ではお互いの疑問点は経緯確認後という事で、とりあえずは経緯の説明からしよう」

「分かったで」

  そしてはやてと速人はお互いの経緯を話しだした。

 

                                     

 

「つまりはお互いの勘違いだったちゅうワケか」

「そのようだな」

  お互いの経緯を話し終え、二人が出した結論はそれだった。

  お互いの話の中で聞きたい事は多くあったようだが、それを堪え話し終えてみれば何て事はないただの勘違いだった。

「速人はん………ゴメンな………怪我させてもうて………」

「謝る必要は無い。その事態に思い当たる要素が在ったにも拘らず、思い至る事が出来なかった俺の浅薄さが招いた結果だ」

「そやけど………ゴメン………。  ウチがもっとしっかりみんなを止めればこんな事には………」

  頭を下げて謝るはやてに何時も通り無遠慮に発言する速人。

「先程も言ったが謝る必要は無い。そしてはやてからの謝罪は必要としていないし、はやてが謝ったところで状況は改善しない。謝るだけ時間の無駄だ。

  俺の浅薄さが招いた結果なら甘んじて受けるべきモノだ」

「浅薄て……………普通解らへんやろ?」

「思い至る要素は十分在った。しかし現代科学でありえない事を思考するという事をしなかった。これは浅薄という言葉がこの上なく当て嵌まる。

   それと自身が現状に不満を抱いているならそれは全て自身が原因によるものだと俺は思っている」

「自身が原因て…………そんな一人で何でもかんでも背負い込む必要無いんやで?」

「背負い込むのではなく、独占しているだけだ。

  それと背負い込む必要が無いと言われるべきははやてだ」

  はやてはどちらから問い質すかを考えていたが前者の方から問い質すことに決め、話しかけた。

「速人はん。背負い込むんも独占するんも変わらんで?

  ウチと速人はんは家族なんや。悲しい事やがあったら二人で解決し、嬉しい事は二人で自分の事として喜んで、楽しい事は二人でもっと楽しくして、怒っている時は何に怒っているかを理解するようにするんや」

「了承した。…………しかし先程言ったがはやてにもその言葉は一部だが当て嵌まる」

「え?ウチは速人はんと一緒に―――」

「自覚が無い様だから言うが、孤独感等を抑える傾向が有ると判断している。

  孤独感が喜怒哀楽のどの感情に分類されるかは個人により違うが、はやては哀に分類されると思う。

  が、そのことではやてが俺に相談し解決しようとした事はあまりない。精々夜俺の自室に尋ねる一時凌ぎの承諾許可以外その事に関して話を持ちかけられた記憶はない」

「…………………」

  あまりに的確に自分が自覚していないことを指摘されて押し黙るはやて。

(自分の事って案外解らんもんなんやな……………けど…………そこまで解ってくれてるなら気い遣って…………………………ってそうか、私も速人はんも一人で嫌な事背負い込むから速人はんはそれが当然や思て何もせんかったんか…………)

  若干落ち込みながらも自身の結論に至り、速人に伝えるべき言葉を考えるはやて。

(たしかに私がせんで速人はんにせろ言うんは駄目やね。不公平や。

  それに手本も無しにせろ言うてもやり方解らんやろから私がきちんと手本見せなあかん)

  自身の中で結論に至りそれをはやては速人に伝える。

「……………………………………………うん。たしかに今までそうやったね。ウチが悲しい事や苦しい事を一人抱えとって速人はんにそうするのは駄目言うんわ、たしかに駄目やわ。

  そやからこれからはガンガン速人はんに相談するわ。そやから速人はんもウチに悲しい事や苦しい事ガンガン相談してや」

「了解した。対処不能な悲しみや苦難に遭遇すれば相談しよう」

「うん。ガンガン言ってや」

  にこやかに速人に微笑みかけるはやてに横から声がかかる。

「主、お話して宜しいでしょうか?」

「うん?なんやシグナム?」

「今の会話の流れからすると主とその者はこれからも共同生活をするように聞こえたのですが………」

「?そうやけど………それがどうかしたんか?」

「やはり私は反対です。先の会話でこの者は主の苦悩を知りつつ放置していたと解釈しました。

  先程も申し上げましたが直ぐに放逐、若しくは処理すべきです」

「駄目やでシグナム。家族をそないに言っちゃあ」

「いかに主の家族といえども危険は―――」

「あ、ちゃうちゃう。私の家族って意味だけやのうて、シグナムも速人はんと家族やちゅう意味や」

「…………………………は?」

  驚きのあまり目を見開き呆気に取られるシグナム。

「ヴィータもシャマルもザフィーラも私と速人はんと家族なんやから仲良くせなあかんで?」

「っ!お待ち下さい主。何故私が………いえ私達が家族などにならねばならないのですか?」

「家族など、て…………シグナム達は私と家族になるのが嫌なんか?」

  傷ついた顔をするはやて。

  それを見てシグナムや他3名も自身の失態に気付いた。シグナムの発言時に残りの3名も大なり小なり顔を歪めていたのだ。

  そして直ぐに自分の失言と自分達の失態に気付き頭を下げ詫びるシグナム。

「主に対し礼を失した発言と表情、真に申し訳ありません。私……いえ私達は主と家族になることに戸惑いは有るものの嫌悪は微塵もありません」

  片膝を突き、頭を下げながら詫びるシグナム。

  その言葉を聞きはやては安堵した表情になりシグナムに話しかけた。

「そんな畏まって謝らんでもいいて、シグナム。顔上げて立ち上がってや」

「はっ」

  すっくと立ち上がりはやてを見るシグナム。

「嫌がられて無くて本当に良かったわ。

  じゃあこれから一緒に暮らすんは構わへんね?」

「はっ、それが主の望みならば私達に異存はありません。

  ただその者と主が暮すのは異存があります」

  はやては周囲を見回した。すると残りの3名もシグナムの意見を首肯した。

「何度も申し上げましたがその者は全く信が置けません。

  先の会話以前に主を攫った…………失礼、主を助けようとした時も主が自身の腕より離れた時、ザフィーラが言うには全く瞳は揺れなかったそうです。焦燥にも悲嘆にも憤怒にも。最後まで主を………助けようとしていたにも拘らずその様な事があるのかと半信半疑でした。

  しかし目覚めたその者の瞳を見た時に確信しました。この者は主を優先しているが全く執着していないと。必要でなくともある程度の理由さえあれば主の敵になり、そして主を不要と判断すれば即座に合理的な処置に移る。

  私はこの者の思考がまるで理解できません。そして理解できない者に信は置けません。正直目的と対処が明確に解っている分、快楽殺人者の金目当ての傭兵が遥かに信を置くに足ります」

  先程までと違い明確な理由を述べるシグナム。

  はやては他の3名を見るがシグナムと同意見の様だ。

「…………………………分かった」

  はやては少々沈黙した後ポツリと呟いた。

  その言葉を聞き安堵した表情になるシグナム達。

「主、よくぞご決断して―――」

「信じるのは後にしてとりあえず一緒に暮してみよや。

  速人はんは見た目や言動のせいで誤解されるけど、本っ当ーに優しいんや。一緒に暮せば必ず解るはずや。そやからいきなり仲良くせえとは言わへんけど、速人はんをしっかり見ててや。絶対に優しいいうんが解る筈や。

  そやからまずは一緒に暮すことから始めてくれへんか?お願いや」

  そう言い頭を下げるはやて。

「……………頭を下げる必要はありません。貴女は私達の主なのです。そして主たっての願いを無碍にはできません」

「お、おいシグナム!まさかそんな奴と一緒に住むこと了承するのか!?」

「主たっての願いを無碍に断っては騎士の名折れ。その者が如何様な者であろうと、主に害成す時は我らが御守りすればいい」

「そうじゃなくて!私に任せとけとか言うから任せてたらそいつと一緒に暮すようになっちまったじゃねえか!アタシは嫌だぜ!」

「仕方なかろう。主の意志は強く説得は不可能だ。なにより先程述べたが主たっての願いを我らの都合で無碍に断るわけにはいかん」

「うぅぅぅ〜〜〜」

「落ち着けヴィータ」

  はやての後ろに立っていた褐色肌の男が紅の髪の少女―――ヴィータ―――に話しかける。

「うっせえ!アタシは落ち着いている!」

「兎に角落ち着け。主の前で醜態を晒し続ける気か?」

「っ!誰が醜態を………………………………………………なんだよザフィーラ」

「先程シグナムが言ったが我らの都合で主たっての願いを無碍にすることは出来ん。それともお前は主たっての願いを無碍にする気か?」

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

  唸りながら自分の援護を求めて金髪の女性の方を向くヴィータ。

「私も納得していないけど流石にここまで言われて断る事は出来ないわ」

  その言葉を聞き、肩を落すヴィータ。

「分かったよ…………異論ねえよ…………」

  力なく呟くヴィータ。

「うん。みんなありがとな」

  それぞれを見て礼を述べるはやて。

  それを受けたシグナム達は不満が残るものの間違った決断ではなかったとそれぞれが思った。

「それじゃあ自己紹介からや、私は八神 はやて。実感湧かんけどこの本。闇の書の主や」

「天神 速人。特筆項目は無い」

  速人が名乗り終えてから少し沈黙が降りたが、やがてシグナムが喋り始めた。

「闇の書の主を守る守護騎士が一、剣の騎士 シグナム」

「同じく守護騎士が一、湖の騎士 シャマル」

「同じく守護騎士が一、盾の守護獣 ザフィーラ」

  それぞれ名乗りを挙げていく。が、不貞腐れて機嫌の悪いヴィータは喋ろうとしていなかった。

  しかしシグナムにシャマルにザフィーラにはやてに目で促されて無視するわけにはいかずヤケクソ気味に名乗る。

「守護騎士、鉄槌の騎士 ヴィータだ!

  出会い頭に舐めた真似してくれやがって!みてろよ!絶対に参ったって言わせてやる!!!」

「参った」

  ………………………沈黙が場に降りる。

「満足か?」

  自分を瀕死に追いやった者に対しても馬鹿にした様子も無くやはり淡々と言う速人。

「っっっっっぅぅぅぅぅ!馬鹿にしやがって!!」

  しかし当然の如く普通は馬鹿にしたとしか思われず、ヴィータも馬鹿にされたと思い激昂する。しかしそこにはやてが仲裁に入った。

「落ち着いてやヴィータ。速人はんは思った事をそのまま言うただけや。馬鹿にはしとらんて」

  はやてにフォローされとりあえずは落ちつき速人を睨み付けるヴィータ。

「………………本当に参ったって思ってんのかよ?」

「おそらく俺の右足を何かを弾き貫いたと思われるが、何で何を弾いたのかは解らないが間接的な攻撃で耐弾及び耐刃繊維の布を突破する能力、弾いた後瞬時に俺の前方まで回りこむ俊敏性、その体躯に見合わぬ武器を持ちながらも武器に振り回されぬ膂力と習熟度。

  どれを取っても見事としか言いようがない。負けを認める要素には十分すぎる」

  それを聞き毒気を抜かれたヴィータ。

「速人はんは自分から喋る時はあまり喋らんから誤解しやすいけど、質問すればきちんと答えてくれるんや。だから怒りそうな時はなんでそんな事言うのか聞いてみるといいで」

  はやてがそう言い場を収めた。

  そして直後速人はふらつきながら立ち、口を開く。

「朝食の時間が近づいてきたので用意する。準備時間が少ないので凝った物は用意できないが、要望があれば可能な限り要望に沿う物を作ろう。それぞれ要望はあるか?」

「って!速人はん何動こうとしとるん!?」

「食事を作る為だが」

「そんなことせんでいいから寝といてや。ホンマに死ぬところやったんやで?シャマルが治してくれたけど完治してないらしいんやし」

  そう言いシャマルに顔を向けるはやて。

「はい。余程瀕死の状態だったのか全快させようとしたのですが殆ど効果がありませんでした。

  どうやら急に全快するということ自体が身体に負担を掛ける程だったらしく、ランクを落してゆっくりと回復させました。神経・血管・内臓は完治しましたが、骨と筋肉はとりあえず形を整えた程度です。治療箇所の強度や筋力は乳児以下です。あとは自然治癒で完治しますが1週間程は安静にするべきですね」

「と言う訳や。大人しく寝といてや。大体食事はウチが担当やん」

「6月4日は誕生日祝いの一環で家事を全て担当すると言ったはずだが?」

「あ!」

  速人の言葉に今更ながら自分の誕生日を思い出すはやて。

  夜中の騒動と看病(といっても起きるのを待っていただけだが)と先の会話ですっかり忘れていたはやて。

「さてもう一度聞くが朝食の要望はあるか?」

「って、怪我人が何言うてるんや!?シャマル、速人はんは動けるほど回復しとるん?」

「治療箇所は一応動かせますが痛みが走ります。特に右脚と左腕は殆ど動かせないはずですし、痛みも激痛と言って差し支えない程のものでしょう。

  正直立ち上がるのを見て驚きました。普通は身を起こすだけでも痛みで悶える程の痛みなのですが」

「ってそんなに酷いのになに立ち上がってるんや。何で寝とかんの?」

「寝たまま家事をこなす技能は持ち合わせてはいないので立ち上がっただけだ」

「ってそういうんじゃなくて、自分の身体のこと解らへんのかって意味や」

「十分理解しているが」

「だったら何で寝とかんの?こんな状態でせんでもいいやんか」

  はやての問いかけが部屋に響く。ヴィータは自分がつけた傷が原因なので気まずい表情をしている。

「はやては俺に家事を任せる旨を伝え、俺はそれに了承の意を返した。責を任された以上安易にそれを放棄するべきではない。ましてや俺の身体は動き実行が可能だ。精度は通常時に比べ落ちるが、それでも平均的給仕や清掃員以上の成果を出せると判断している」

「……………また難しい言い回しやな……………まぁそれはさておき、責任を果たそうとしてくれるんは立派やと思うんやけど、べつにウチと速人はんは何か契約したんやないんやから、そこまでせんでもええよ。

  それに家族が苦しい思いをするの、ウチは見たくない」

「…………了解した」

  それを聞き安堵するはやて。しかし毎度の事ながら一般人からズレた感覚を持つ速人はズレた答えを返した。

「はやての視界内に収まらず行動するように最大限善処しよう」

「って!違うやろ!ウチが言った見たくないいうんは視界に入るないう意味やのうて、してほしくないいう意味やで。

  ああーもう、とにかく速人はんは今日一日は絶対安静や。家事もせんでいいから寝といてや。御飯もここに持ってきてみんなで食べるから食事の為に歩く必要も無いで。トイレに行く時もウチの予備の車椅子を使って動くように。何か質問は」

「家事の件については了解した。自身の健康管理の不備で迷惑を掛ける。すまない」

「迷惑なんて思っとらんよ。速人はんは怪我してるんやから当然や。

  それよりもウチはさっき苦しい事は相談する言うてたのに相談せんかった事を怒っとるんやけど………なんで相談せんかったん」

「この状態は対処不能な苦難ではないと判断した為相談しなかったのだが」

「……………今度からは対処不能やのうても苦難なら相談してや」

「了解した」

「うん」

  返事をしながらベッドに座る速人を満足げに見ながら返事を返すはやて。

  急いで朝食の準備をしようとしたはやてだったが、速人が声を掛ける。

「もう一つ質問があるがいいか?」

「うん?なんや、速人はん」

「はやての部屋の前に放置されているだろう、アタッシュケースを回収したいのだが車椅子を貸してくれるか?」

「……………速人はん…………つい今さっき苦難があったら相談して言うたんやけど?」

「たしかにそうだがあのアタッシュケースははやてでは移送は極めて困難だ。重量は20kgを超える。引き摺るにしろ抱えるにしろバランスを崩し怪我をするのは明白だ。俺以上の苦難に遭うのは目に見えている。

  故に相談は無駄だと判断し、俺一人で解決しようとしたのだが………なにか問題があったか?」

「気い使ってくれるんは嬉しいけどな、それでもやっぱり話してや。それに相談が無駄や言うたけど、無駄やないで?」

  はやてはそう言い事の成り行きを見ていた守護騎士達を見ながら速人に言う。

「ここにウチと違って元気で力持ちな家族がいるんやから頼めばいいやん」

  その言葉を聞き極僅かに顔を顰める守護騎士達。最もヴィータだけは露骨に顔を顰めていたが。

「解った。ヴィータ、頼みたいのだが構わないか?」

「げっ!なんでよりよってアタシなんだよ!?あれか?脚と腕と胸を傷付けたの根に持ってやがるのか!?」

「単に先程会話したので一番面識が深いのが理由だ」

「アレがお前の中じゃ会話になってるのかよ!?」

「そうだが」

「………お前の頭の中どうなってるんだよ………」

「結局引き受けてくれるのか?」

「……………………………………………………分かった。持ってくるから待ってろ」

  何か思うところがあるのか不承不承ながら取りに行くヴィータ。そしてそれを見て驚くシグナム達。

  そして直ぐに大型のアタッシュケース(殆ど旅行用のトランク並の大きさだが)を持って戻ってくるヴィータ。

「ほらよ。持ってきたぞ。床と布団とどっちに置くんだ?」

「布団の上に置いてくれ」

  無言で布団の上に置きはやての隣に戻るヴィータ。その背に速人が声を掛ける。

「感謝する」

「……………ふん」

  鼻を鳴らしそっぽを向くヴィータ。

  礼を述べた速人はアタッシュケースにズボンから取り出したディンプルキーを挿し込み鍵を開ける。

  そして中から既製品のデジカメとプリンターを取り出し、最後に中身が空のアルバムを取り出す。

  布団の上に小中大と特に包装されていない箱を並べ、アタッシュケースを閉め床に置く。

「はやての生誕9周年を祝っての品だ。必要なら受け取ってくれ」

「デジカメにプリンターに空のアルバム…………凄く気の利いたプレゼントや…………ありがとな速人はん。スッゴク嬉しいわ」

「そうか」

「あ、速人はん。これ今使って構わんか?」

「受け取ったならそれははやてのだ。俺に確認を取る必要は無い」

「うん。それじゃあ早速使わせてもらうわ」

  言いながらデジカメの箱を開け、同封されている電池を入れ使用可能になったのを確かめ、タイマー設定をしながら話しかける。

「よし!それじゃあアルバムの1枚目を飾る為に今から全員で写ろ」

「私達もですか?」

「当然や。記念すべき一枚目は家族集合の写真や。これは譲れへん」

  そう言いながら入口脇に詰まれたアタッシュケースの近くに行き距離を設定した後2分後に記録するよう操作し、丁度自分が構えた高さ辺りにあるアタッシュケースの上に乗せ速人のベッドに戻るはやて。

  ベッドの足の方に車椅子を止め、速人の右側に車椅子から降りて座るはやて。

「みんなも速く位置についてや」

  その言葉を聞き、はやての右隣の僅かなベッドの空領域にヴィータが座る。そしてその右隣にシグナム・シャマル・ザフィーラと並ぶ。

「って、そんな右にばっかり並んでたら写らないやん。シグナムとシャマルは速人はんの方に並んでや」

  渋々速人の方に移動するシグナムとシャマル。

  結果、シャマル・シグナム・速人・はやて・ヴィータ・ザフィーラ、と並ぶ事になった。またザフィーラはベッドの外の為立っているが、シグナムとシャマルはベッドに座れるが立ったままだった。

「みんな仏頂面じゃ駄目やって。ほらもう少し肩の力を抜いてや〜」

  そうは言うものの速人の表情は何時も通り無愛想で、守護騎士達は表情に殆ど変化が無かった。

「あ〜んもうみんな笑ってや。速人はんの無愛想は今に始まった事や無いし無理かもしれんけど、残りのみんなは笑ってや?ヴィータは笑えば可愛い笑顔やろし、シャマルはホンワカする笑顔やろし、ザフィーラはかっこいい笑顔やろし、シグナムは見惚れる程綺麗な笑顔のはずや。それに胸も大きくてカッコイイから男も女もイチコロの笑顔のはずや!」

「あ、主。あまりその様な事は大声で言わないでください。その………恥ずかしいので」

  少し狼狽し、そして羞恥で顔を若干赤くしながら言うシグナム。

「あ、笑顔には程遠いけど慌ててるシグナムはさっきよりよっぽど美人さんに見えるで?」

「な!あ、主からかわないでいただきたい。私の様な無骨な者が―――」

「たしかに慌ててたシグナムは可愛かったですね」

「な!」

  横から割り込み感想を述べるシャマル。

「たしかに、久しく見ぬ表情ではあった」

「な!」

  更にザフィーラからも感想が跳ぶ。

「けっ!そんな胸して無骨とか言ってんじゃねえよ。大体さっきから驚く度に胸揺らしやがって………アタシに喧嘩売ってるのか?」

「な!!!」

  速人を除く面々にからかいの集中砲火を浴び、益々顔を赤くするシグナム。

「う〜ん照れるシグナムはホンマ可愛いは。速人はんもそう思うやろ?それに胸も大きいから隣にシグナムが傍に居るとドキドキせん?」

「たしかに可愛い部類に入るだろう。胸の事についてだがべつにドキドキはしない。

  ただヴィータに詰め寄ろうとして場所を動いた為、このまま記録されるとシグナムの胸が俺の顔を隠して撮影されるので若干邪魔だと思うが」

  それを聞き、瞬時に胸を押さえながら元居た位置に戻るシグナム。

  そしてさして間を置かずにデジカメは記録した。

 

 

 

  その後直ぐにその画像はプリンターでプリントアウトされてアルバムの1ページ目に収められた。

  そこには顔が真っ赤に染まり胸を押さえて俯くシグナム、それを見て笑っているヴィータ、微笑ましそうにそれを見るシャマル、珍しいものを見て驚きながらも少し笑っているザフィーラ、何時も通りの無愛想な速人、そしてそれら全てより目立つはやての笑顔があった。

 

 

 

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  第三話:始まりの夜――――了

 

 


【後書】

  ようやくA‘S本編に突入です。しかも半年以上も短縮しての展開です。文章の中だるみを展開の速さで帳尻合わせるなと言うツッコミが入る構成ですみません。

  場面転換効果がイマイチ解り難く、他の作家さんを参考にしていますが、このSSを見られれば御分かりの通り全く成っておりません。正直どなたかに弟子入りしたいです。

 

  読まれている方が管理人様と掲示板に書き込まれてくれた2名様以外に居られるか分かりませんが、ヴォルケンリッターとの戦いで魔導師として覚醒し、熱いバトルを期待された方、すみません。

  というかクロノやフェイト並に強くなっても敵意剥き出しのヴォルケンリッター全員相手、さらに近距離ではアッサリ戦闘不能になる結末は変えられないです。

  この主人公が魔導師に成るにせよ、成らないにせよ戦うのはまだ先になります。

  なお作中アドレナリンを注射して身体能力を上げる場面がありますが、それだけではまず子供とはいえ抱えたまま10メートルを1秒で駆け抜けるなどまず出来ません。薬物の影響もあり脳の限定が解除されかけていたのでそういう速度がだせただけです。とらいあんぐるハート3の【神速】の中途半端な状態と解釈してくだされば正しいと思います。

 

  最後にこのSSを掲載して頂いた上、重箱の隅を突付くかの如く長所を探して感想を書いて頂いている管理人様に深く感謝致します。

  そしてこのSS、若しくは後書だけでも読まれている方、拙い文にお付き合い頂き感謝します。




いよいよA’s編に突入〜。
美姫 「シグナムたちがはやての前に、ね」
ああ。ただ、速人とシグナムたちの初顔合わせはちょっとあれだったけれどな。
美姫 「まあ、状況が状況だから速人の判断も間違っていないしね」
だな。何はともあれ、家族としてこれから何とかやっていけるかな。
美姫 「ちょっと変わった速人が居ることで、どんな変化が見られるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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