この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはASの二次創作です。

  自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

 

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  速人はアリサの携帯に電話をかけた。

  直ぐに眼下の携帯が着信音で着信を知らせ、暫くした後に留守番電話サービスセンターに繋がる。

  眼下の携帯は留守番電話に切り替わった瞬間、着信音が消えたのを確認し速人はこれがアリサの携帯だった事を確認した。

  速人は背後に遠ざけていたはやての所に戻り、現状を伝えた。

「調べた結果あの携帯はアリサから伝えられた番号の携帯で、登録者名はアリサ・バニングスで登録住所も伝えられた住所と一致し、まずアリサの携帯と判断して間違いない」

  それをはやて・すずか・なのは・フェイトは黙って聞き、続きを促した。

「携帯の移動記録を見る限り1時間以上前からこの場に放置されており、現場にこれだけの物を散乱させ、また携帯を放棄してまでの要件というのは考え難い。

  客観的に見てアリサは拉致されたと判断するのが妥当だ」

  解りきっていたが、その結論を提示され息を呑むはやて達。

  そんな中速人は一人何時もと変わらずこれからする事を考え、そして実行に移すべくはやてに話しかけた。

「はやて、今すぐ八神家に戻るぞ」

  メールで八神家に待機しているシャマルに現在の状況を伝え、速人ははやてに告げた。

「な、なんでや!?もう少し周りを探したりしてアリサちゃんの手掛かりを見つけな――――」

「空が黄昏色に染まりだし視界が狭まりだし危険になってきた。この様な事が起ったなら外泊は中止だ。安全確保の為に急ぎ八神家に戻るぞ。無駄な事をしている暇は無い」

  それを聞きなのはが烈火の如く怒りながら速人に食って掛かってきた。

「無駄って何ですか!!今は小さな事でも情報集めてアリサちゃんを助けなきゃいけないのに!!!」

  敵意剥き出しで速人を睨みながら怒鳴るなのはを速人は一瞥もせず、タクシー会社にGPS機能で正確な位置を伝えてメールで即座に来るように依頼し、路面に残ったタイヤのブロックパターンからどの様な車種だったかを特定しながら速人は平淡な声でなのはに返事を返した。

「ならばまず警察にでも連絡するのだな。俺は俺で勝手に調べて行動を起こすので、其方がここで何を調査しようと俺は意見するつもりは無い」

  言いながら車種を特定し、海鳴市の街頭監視カメラ等の記録からそれらと思しき物を探すが市外に出た記録は無いようで、車を乗り換えるか車ごと輸送か転送されていない限り市内に存在する事になり、これ以上の調査は八神家か速人の家のパソコンを使い衛星からの監視記録を使用するしかなくなり、八神家の速人のパソコンにここ一時間の海鳴市全域の衛星からの監視記録をダウンロードするようにしながらはやてに話しかけた

「はやて、アリサはそこのタイヤパターンの車に乗っていると仮定し、乗り換えるか車ごと輸送等されていない限り、未だ海鳴市内にいると判断される。

  居場所を絞り込み装備を整える為にも一度八神家に戻るのが最適だ。タクシーが来たので急ぎ八神家に戻るぞ」

  速人の言葉を聞きはやては直ぐに納得して頷いた。

「あたしは速人はんと一緒にアリサちゃんを探すから、すずかちゃん達は警察に説明お願いや!」

「念の為に言っておくがはやては居場所が絞り込めても留守番になるぞ。危険だからな」

  はやてを片手で抱き上げ、片手で車椅子をタクシーに押し込み乗り込む速人とはやて。

「すずかちゃん達、警察への説明は任せたで」

  扉が閉まりすずか達の意見を一切聞かずに速人達はタクシーで八神家に帰っていった。

  それを暫く呆然と見送った後、すずかは直ぐに気を取り直し、アリサが攫われた恐怖に震えながらも急いで警察に事情を説明しだした。

  フェイトは直ぐにユーノの探知魔法やリンディにアースラで調べてもらおうとなのはに言い、急ぎフェイトとなのははすずかを月村鄭まで送り届け、その後直ぐにフェイトの自宅に移動し始めた。

  フェイト宅に付く間なのはは、速人がなのはのアリサを思っての怒声をどうでもいいように応対していたの思い出し腹立っていた。

  一方フェイトはなのはへの言い方は辛辣だったが、素早く的確な行動を起こしていた速人を評価していた。

 

                                     

 

  タクシーが八神家に付くなり、携帯で出迎えるように伝えていたのでシャマルと一人蒐集に出ていたヴィータが急ぎ帰還して玄関前に居り、はやてをシャマルに渡して車椅子の回収をヴィータに頼みながら速人ははやてを待たずにリビングのパソコンに向かった。

  リビングには遠距離からはやてを護衛していたシグナムとザフィーラが一足早く居た。

  速人は遠隔操作で監視衛星(速人の所有物で管理は闇企業任せ)からアリサが拉致されたと思われる五分前から現在までの情報をダウンロードさせており、急ぎそれを再生して確認した。

  大まかな場所を光学映像で絞り込んだ後、熱感知でその場所から動いていないのを確認し、5分以内にオフロードバイクを配送させるようにした。アリサがいるとされる場所は市街地外れの廃棄されたビル。

  携帯端末に目的地の熱感知情報を送信し続けるように設定し、机の下のトランクケースから幾つか必要な装備を取り出し乱雑に袋に詰め込み、肩の所に深い切れ込みの入ったロングコートはその場で羽織った。

  玄関先ではやてがシャマルに少しだけ説明をし、車椅子に乗って戻ってくる30秒にも満たない間にこれだけの作業を終え、常備している使い捨てカイロを袋より取り出し手首や二の腕の内側に縛り付けて指先が悴むことを防ぎながらリビングに入ってきたはやてに話しかけた。

「アリサが居ると思しき場所を特定し、これより確保に向かう。

  アリサ確保に成功後、死亡及び意識不明の重態時以外は詳しい容態は告げない。理由はシャマルが理解しているはずなのでシャマルに聞いてくれ。

  明日09:00までには帰宅予定だ。

  何か質問は有るか?」

  若干早口で喋られた言葉を何とかはやては理解し、疑問点を詰問するはやて。

「一人で行くつもりなんか!?何でシグナム達と一緒に行かへんの!?」

「シグナム達はアリサと友人関係という訳ではなく頼むのは筋違いだ。

  更に可能性は低いがアリサ誘拐が囮で、俺と何名かがアリサ確保でこの家を離れ、手薄になった時にはやてを人質に取られる可能性が有る以上、はやての護衛を手薄には出来ない。

  アリサと友人及びその関係を構築しようとしている者と警察を合わせた中で、俺が動くのが適任と思ったので動くだけだ。

  理解していると思うが俺は家族の安全を最優先し、それに抵触しない限りは友人関係構築中のアリサを優先すると事前に言っている。ここでそれを反故にするつもりは無く水掛け論になるのは明白で、時間経過と共にアリサの身が危険に晒されるぞ」

  たしかに速人は事前に家族を優先しその次に友人関係を構築しているアリサを優先すると告げていた。

  はやてはここで議論をしても水掛け論になる事も、そしてなにより話している時間の分だけアリサが危険に晒され続けると理解し、速人一人に全てを押し付ける事に納得はしていないが選択の余地は無いと断腸の思いで認めた。

「………………分かった……………。だけど絶対…………絶対に死なんといてや!?」

  はやての必死の想いを何時もの無表情で受け、淡々と返す速人。

「俺を抜かす家族の過半数を超える意見か、家族二名以上が天秤に乗らない限りは他者の為に致死性の高い事をするつもりは無い」

  根拠の無い返事をする事無く、単純に致死性の高い事はしないとだけ告げる。

  速人が根拠の無い事は言わないと知っているので、これ以上の言葉をはやては諦めた。

「…………分かった。兎に角生きて戻ってきてや?うちからはそれだけや」

「了承した。

  携帯端末に目的地の熱感知情報を転送し続けているので、パソコンは起動させたままにしていてくれ」

  そろそろバイクが来る頃なので玄関に向かう速人。

  はやて達もその後に続き、ヴィータが声をかけてくる。

「なんだかよく解んねえけど、その誘拐した奴に目で物見せてやれ!」

「言い間違いと思うので『目に物見せる』と解釈する。

  二度目が起きると面倒なので、ヴィータの言う通りにするつもりだ」

「うっ!!」

  言い間違いと判断している為に馬鹿にはしていないというのは解ったが、それ以外の面々は失笑している。

≪たしかに耳や口で物は見えんので、目で物を見させなければならないな≫

「耳や口で物を見ようとする戯けなら、苦労も危険も無いだろうな」

「うっせえぞ!ザフィーラ!シグナム!ハヤトも言ってるけどただの言い間違いだ!」

  顔を真っ赤にしながらヴィータが怒鳴ったおかげで、暗い雰囲気がある程度払拭されてはやても笑顔になり、ヴィータもザフィーラとシグナムがその為に自分をからかったと解っている為あまり本気では怒っていなかった。

「それでは外まで見送りに行くと目立って御近所に何事かと思われてしまいますし、何より何がおこるか分かりません、ここで速人さんを見送りますね」

  速人は左靴の靴紐を確り締めながら返事を返した。

「そうしてくれ。アリサを拉致したと思われる者達について解るまでは屋外に出る事を控えてくれ。

  それと昨日言ったが、家族と認めたのなら敬称は止めてくれ」

「うっ………………そんな事を言われても今までの癖は急には取れません………………。

  それに敬称ならはやてちゃんだって言っていると思いますけど?」

「ふっふ〜ん。甘いでシャマル。あたしは速人【はん】って言うてるんや。【はん】なんて敬称は無いから速人はんは文句言わんという訳や」

  左靴の靴紐を確り結び終え、右靴の靴紐を確り結びながら速人は言った。

「たしかにその通りだが、可能ならば名のみで呼ぶように言っていたが?」

「うっ…………いやこれがもううちの中じゃもう速人はん速人はんって感じになってもうて、今更ヴィータの様に呼び捨てには出来んよ〜」

「………家族の調和を壊す気は無いので無理強いはしない。だが可能な限りはやてとシャマルも敬称無しで呼んでくれ。こちらが敬称無しでそちらが敬称有りというのは不合理だ」

  右の靴紐も確りと結び終え、靴紐が解けないように粘着性の布テープを靴紐のサイズに切っている速人へはやてとシャマルは返事を返した。

「どうしても速人はんが嫌なら変えるけど、そうでなかったらこのままのつもりや」

「私も速人さんがどうしても嫌と仰るなら変えますけど、そうでなければ今更変えようとは思いません」

「先程も言ったが無理強いする気は無いので可能ならば変えてくれとだけ返事をしておく。

  それでは行ってくる」

  テープを張り終え立ち上がり、扉を開け玄関を出て行く速人。

  その背にそれぞれの言葉がかけられた。

「速人はん、気いつけてな?」

「ハヤト、そいつら叩きのめしてやれ!」

「酷い怪我を負ったなら急ぎ連絡してくださいね」

≪主を悲しませる結果にだけはするなよ≫

「………主はやての事は任せろ………」

  それぞれの声に速人は普段通りに返した。

「理解した。そして善処する」

  そう述べ扉を閉め、玄関前に用意されている真っ黒な電動オフロードバイクに跨り、スターライトスコープ機能付フルフェイスヘルメット(スターライトスコープは取り外し可能)を装着し、目的地付近まではスターライトスコープを起動させずにしながらバイクを走らせる速人。

  暗くなった道を電動の為不気味な程静かに目的地へと高速で移動していった。

 

 

 

  Interlude

  ――――アリサ・バニングス――――

 

 

 

  目が覚めた時はお約束の様に暗い廃墟と思われる所だった。

  ふと手を見ると腕時計で気絶してから約1時間半経っているのと、速人が言っていた縄抜け出来無い結び方をされているのが解った。

  他は特に縛られてなくてただ椅子に座らされているだけで、目の前には黒尽くめの男1人と全身から下衆な要素を垂れ流しているのが丸判りの男が4人居た。

  何かの薬品で気絶させられてこんな所に連れ込まれ、目の前にどう見ても良識や倫理観を持ち合わせて無いくせに自分が危険になったらそれにすがる類の奴がいるのを考えると、自分が誘拐されたと認めざるをえなかった。

  そして誘拐された者の末路……………特にこんな下衆としか言い表せない奴らに誘拐された女性の末路がどんなモノかあたしは知っているので恐怖で身を竦んだ。

  それを見てそれぞれ適当に耳障りな会話をしていた奴等は私が起きたのに気付き話しかけてきた。

「おや、お目覚めですかお嬢さん」

  エリートヤクザといった感じのサングラスを掛けた黒尽くめの男があたしに話しかけてきた。

「ええ、下衆な男の雰囲気が充満しているせいで目が覚めたわ」

  怖いけど誘拐なんてする下衆な奴に媚び諂うマネは………………これからどんなメに遭うとしても、自分の品性を捨てるなんて気は微塵も無かった。

  そして案の定チンピラ4人……………いや、4つが不快な音を口から垂れ流し始める。

「んぅだとぉ!このクソガキがァッ!」

「あんま舐めたことヌカしてっとブッ殺すぞっ!!」

「おい小娘、生意気な事言うとお嫁にいけない身体にしてやろか?あぁ?」

「それともヤクでも決めてラリってパァ〜になるか?あぁ?涎垂らして裸で外出歩くようにしてやろうか?あぁんっ!!?」

  怖くて怖くて蹲りたいけど絶対にこんな奴等相手に卑屈になんてならないと、拳を握り締めもせずに意思の力だけで恐怖を捻じ伏せて、脱出の糸口や救出の時間稼ぎの為に話が目の前の4つのチンピラより通じそうな黒尽くめに話しかける。

「と、そこのチンピラ4つは喚いているけど、あたしって殺されるのかしら?」

「なに、君の両親が素直に君の為にお金を出してくれるなら殺しはしないよ」

  無感情にモノを言っているつもりだろうけど、無抵抗の奴を弄ぶ嗜虐性が滲み出しているのが解り、容易に次の言葉が予測できた。

「君を殺せば私達もただでは済まないからね。だから君には生きていて貰わなきゃ困るんだよ」

  ニコニコと笑って優しげに言っているつもりなんだろうけど、今すぐ目と耳を洗いたくなる程見聞きするに耐えない顔と声だった。

  先は簡単に予想が付くが可能な限り情報を引き出し、時間を稼ぐ為に相手に喋らせる。

「ただ、君を無事に返しても私達は無事には済まないんだよ」

「私達って、この廃ビルにいるあんたとそこの4つの事?」

「いやいや、この廃ビルにいる私達5人の事じゃ無いよ。私達は所謂ヤクザという奴でね、上の方にまで警察に介入させるわけにはいかないんだよ」

「何処の組織も下っ端や中間管理のヤツは大変ねー」

  目の前の奴が本当の事を言っている確信は無いけど、この場所以外に仲間は居ないみたいだ。

  何とかそこの扉から隙を突いて逃げ切るか、若しくは隠れて時間を稼ぐか……………………駄目ね。こう暗くて手も使えないんじゃ直ぐにこけて捕まってしまう。

「まぁこれに成功すれば少しはその苦労からは開放されて楽が出来るんだよ。

  と、いう訳で君の両親が警察に通報しない為にも、まあ君から頼み込む様にしてもらおうという訳だよ」

「脳に蛆でも飼ってんの?何であたしがごみを5つも弁護しなきゃならないのよ?」

  これからどんな目に遭うと解っているけど、わざと惚けて少しでも時間を稼ぐ。

  逃げるにしても室内の薄明かりから外の枝葉を見る限りここは多分3階以上で、私じゃ飛び降りたら骨折するか痛めるかして直ぐ捕まる。

  逃げる事も隠れる事も出来ず、このまま陵辱でもされてその写真でも撮られると思うと恐怖で身体が………………全身の細胞全てが縮む感じがするし、悲鳴を上げて泣きながら許しを請いたい…………………。

「バーカか?これから裸にひん剥かれて、マワされるからに決まってっだろ?」

「おいおい、いきなり服は剥ぐなよ?最初は着たままが基本だろーが?」

「けっ!ロリコンは黙ってろっ!俺はそのクソガキをそこらの適当な棒で串刺しにでもして、ヒィヒィ泣かすって決めてんだよ!」

「おいおい、こういう事は合意が一番だぞ?ヤク打ってラリらせて乗り気にさせようぜ?それに後で正気に戻った時自分の痴態見てどういう反応するか楽しみだしよ〜」

  解っちゃいたけどここまで不快な音を発するとは思わなかった。

  なんで目の前のコレらはこうも嬉々として人の尊厳をここまで踏み躙れるんだろうか………………。だけどふと速人も恐らく多かれ少なかれ人の尊厳を踏み躙って来たんだろうと思った。

  一度決めた事は自他を省みずに実行に移し、善悪に興味も関心も無く、優先事項の為に他がどうなろうと一切厭わないというのは付き合いが短いけどそれくらいは十分知っている。どう考えても社会的に悪だけどあたしの自慢の――――

「うん?先程の威勢は消えてしまったようだけど、怖くて怯えてしまったのかな?大丈夫だよ私達は君の両親が出す物を出してくれるなら、君を殺す気は一切無いよ」

「ま、金出し渋ったり警察にチクッたりしたらここで死んでもらうけどな。ひゃはははは」

「若しくは金持ちの好事家にでもイ〜イ値で売られてペットになるとか」

「それか俺達にマワされ続けるか、だ」

「おいおい、その場合俺はそこのクソガキを麻酔無しで臓器抜き取って叫び死ぬ様見てえんだよ。好事家に売ったりマワしたりすんなよ?」

「………と、まぁ君の両親が出し渋ったり助けを寄越そうとしたらこうなってもらうから、助けは期待しないで従順にしていたほうがいいよ?

  従順にしていればもしもの時は娼館や好事家に売り飛ばされるだけで済むからね」

  ―――――……………自慢の速人に無様は晒せない。

  何時になるかは判らないけど絶対に速人はこの場に現われる。それだけの智恵も力も実行力もある。たしかにあたしははやてと違って家族じゃないけど、………………それでもあたしは速人を友達だと思っているし、速人はそう思っていないかもしれないし、友情じゃなくて友達なら助けに行くのが当たり前という一般論を指針にしてるだろうけど、兎に角必ずここに来る。

  その時悲惨な目に遭っていても無様で惨めな姿を晒すわけにはいかない。せめて助けるに値するあたしで在り続けなきゃ……………。

  それにここであたしが陵辱されるのを嫌って自殺でもしたらすずか達は誘拐されるのを気付かなかった自分達を激しく責める。だから自殺もしない。

  チンピラ4つがあたしに向かって来ている……………。

  自殺はしない。媚び諂う真似もしない。……………絶対に生きて戻る。その為になら媚び諂う以外の……………無駄にしか終わらないだろう案も含めて打てる手は全て打つ!

  想いと考えが纏まっても恐怖は消えなかった。……………………依然と蹲って泣いて縋り付きたい気持ちで一杯だけど……………それをしてしまうと今まで大事にしていたモノを全部自分で壊してしまう……………。すずか・なのは・はやて・フェイトと二度と楽しく過ごせない気がする。それに助けに来た速人にそんな無様を晒せば二度と顔向け出来ない…………。

  最後まで何が有ろうとあたしにできる事を全て実行し、やる事が尽きても決して媚び諂ったりしないと決心し、チンピラの手があたしに触れる瞬間素早く椅子から離れてその手を回避し、入口に向かって椅子を蹴り飛ばした。

  が、そこにいた黒尽くめとチンピラは慌ててそれを避ける。蹴り飛ばされた椅子は命中する事無く扉の無い入口を転がって外に出る。

  チンピラが何か喚いているが全て無視して入口目指して駆け出す。

  飛び退いた為相手があたしを捕まえるより早く入口から廊下に飛び出せた。

  右と左のどちら側に階段が在るかは判らなかったけど、迷う事無く突き当たりの壁が近い方に駆け出す。

  足元に砂利が有って明りも無いせいで何度もバランスを崩しながらも階段を目指す。

  その時後ろから発砲音がしてあたしの背中とどちらかの足に命中した。

  倒れるよりも早くあたしの意識は刈り取られていった。

  ……………………起きた時多分陵辱されて汚されていると思うと、両親とすずか達が悲しませてしまい、…………………なによりこれからあたしを助けに来る速人に無駄足踏ませてしまうかなと思い、無性に申し訳無くて悲しかった。その思いも意識と共に刈り取られてしまった。

 

 

 

  ――――アリサ・バニングス――――

  Interlude out

 

 

 

  目的地の廃ビルへと続く未整備の道に迫った頃、速人はスターライトスコープを起動させ未整備の道を楽々とバイクで疾走していた。

  電動なので僅かなモーターとタイヤの回転音だけなので、整備されている所ならば殆ど無音で走れるが、流石に砂利道になると砂利を巻き返す音が響きだす。

  しかし速人が廃ビル近くの未整備の所を走る際は予め対策として近くの道路で暴走族を扮した者達が大量に爆音を上げながら疾走しており、速人のバイクが砂利を巻き返す音はその音に混じってまず聞き分けられなくなっていた。

  スターライトスコープのおかげで明りを点けずに黒色の車体と黒のコートを着込んだ速人は夜闇に紛れ、他のバイクの爆音のおかげで砂利の巻き返し音もそれに紛れ、難なく廃ビル近くに到着した。

  バイクから降りて袋に入れていた物を装備し、携帯端末で中の状況を確認したが、依然変化が無かった。

(周囲に感知器の類を設置されていないのは衛星からの情報で確認しており、現在位置は対象の風下なので体臭等で存在が発覚する事も無く、この量の壁の向こうの存在を熱感知やX線等で感知するのはほぼ不可能。またこの風の中で対象からの距離を考え集音装置で行動を感知される可能性も低い。衛星からの監視は日本を監視している衛星は俺が使用している物以外全てクラッキングで9日05:00までは廃ビル内の情報とアリサを拉致したと思われる者が廃墟ビルに侵入した時の情報以外は前日の情報と入れ替えるようになっており、衛星からの監視の可能性も低い)

  廃ビルのアリサ達が居ると思われる反対側の部分に進みながら速人はさらに思考した。

(突入時に隙ができるが屋上から外壁を伝い室内に侵入し制圧する案を採用。予測される隙は特殊閃光弾で補足する)

  方針を決定しながら屋上にワイヤーフックを引っ掛けて壁面を登りながら更に思考する速人。

  と、その時僅かだが発砲音を2発速人は聞いた。

(サイレンサーを装備しての発砲と推測。そして発砲音が2発という事を考慮し示威行為の可能性は低いと判断。恐らくアリサが逃走行為にでた為発砲したのだろう)

  壁面を登っているので携帯端末を確認出来ず、屋上に到達するまで思考を続ける速人。

(アリサが逃走を図ろうとしていたと仮定するならば、そのときの熱感知情報を確認すればアリサの熱感知を絞り込める。ただしアリサでは無い可能性も在る為当初の案も同時進行が無難と判断。

  現在に至るまでアリサの悲鳴が聞こえない事から使用された銃弾はスタン弾の可能性が高く、現在アリサは気絶している可能性も有りと判断)

  屋上に到達して直ぐに携帯端末を操作して発砲音が聞こえた頃に画像を戻し、アリサと思しき光点の目星を付ける速人。

  アリサが居るだろうと思われる部屋の屋上位置に移動したら僅かに声が聞こえてきた。しかし速人は特に動じずワイヤーフックを引っ掛けていたが、更に布を引き裂く音と噛み殺したようなアリサの声が聞こえてきた。

  これからアリサの身が陵辱されることは容易に想像が付き、普通ならば少なからず焦燥しそうな場面だが、やはり特に動じず壁面を降りて行く速人。

  アリサが居ると思われる部屋の窓枠の真上に到着し、鏡を使い部屋の内部を覗き見る速人。

  そこには両手を縛られて衣服と下着を破り剥がされたアリサが男に群がられていた。

  それを確認した瞬間特殊閃光弾を投げ込む時間を惜しみ、特殊閃光弾を作動させながら部屋に踊り込む速人。

  突如の闖入者に驚く5名。

  速人は即座に一番離れた場所に居る統率者と思しき黒尽くめに特殊閃光弾を投げつける。直後に発する閃光は目を瞑り、轟く轟音は今までの戦闘訓練で意識を手放さなかったのを頼りに耐え抜くという対策を立てた。

  遅延時間が3秒の為アリサに群がるチンピラに目を瞑ったまま疾走した直後に特殊閃光弾が炸裂した。

  轟音で意識が少々前後不覚になったが、それでも最後に視界に収めた情報を基にアリサを確保する為に一番邪魔なチンピラの足元が在ると思しき場所を鉄板が仕込まれた靴で蹴り払う。

  チンピラが倒れる前に速人は瞳を開け、アリサの体勢を確認し、丁度倒れこんだチンピラの足を鉄板仕込みの靴で踏み砕いてアリサを引き摺り寄せ窓際に離れる。

  未だ速人以外視覚も聴覚も回復していないらしく、速人はもう一度倒れているチンピラの最初踏んだのとは別の脚を踏み砕き、近くの1名の脊髄をナイフの柄で手加減無しで殴りつけて脊髄を破壊して無力化し、さらにその最も近くに居たチンピラの首に即効性の筋弛緩薬と睡眠薬の詰まったガンタイプの注射器を押し当て注射する。

  視覚と聴覚が回復する可能性が出てきたので速人は急ぎアリサの元に戻り、自分の背中に隠しながら無事な黒尽くめとチンピラ一人、そして両足を破壊されたチンピラと対峙した。残りは脊髄を破壊され気絶し、注射された者は3秒ほどで脱力して倒れながら気絶していた。

(服装から推測する限り統率者と思しき者以外NRSナイフ型消音拳銃やデリンジャーの様な小型銃器以外は所持していないと判断。

  現在俺は防弾服を装備しておらず耐弾繊維の衣服のみなので大口径弾の直撃を食らえば衝撃で骨折及び内臓破損の可能性が高い。銃器を保持していると判断される統率者は即座に排除の必要性が有りと判断される。だが殺害せずに発砲させず無力する必要があり、二秒以上アリサの傍を離れれば人質にされる可能性が高い。対象を無力化する際はアリサが捕捉および捕獲されない状況で行う必要がある)

  アリサを黒尽くめの男が発砲した際に速人が射軸に盾として存在するような位置に速人は僅かに移動した。

「クッ!!何者だっ!………………って、ガキッ!?」

「ツゥゥゥゥゥッッッ!テメエェッ!ぶっ殺してやるからそこ動くんじゃねえぞっ!!」

  無事な二人は驚愕と怒声の声を発したが、もう一人気絶していないと思われた両足を踏み砕かれたチンピラは痛みで気絶していた。

  アリサは穏やかながら疲れた眼をしながら速人を見ていたが、速人はそれを確認せずに急ぎ思考する

(現在位置から統率者と思しき者の無力化案はワイヤー針タイプスタンガンに因る無力化。却下。絶縁体の服及び絶縁物質が服内部に存在する可能性が有る為、剥き出しの場所を狙う必要があるが、露出箇所は首から上で命中時脳内神経が焼き切れショック死する可能性が高い。

  統率者と思しき者の両腕を銃弾で破損しての無力化。………保留。弾丸はレンジャーSXT弾のため、四肢に命中しても死亡危険は少なく、神経を破壊し容易に無力化可能だが、ザフィーラが言うにははやてには精神衛生上悪影響が強いらしくアリサも同様だと仮定するならば、他に妥当案件が無い場合に実行に移す。

  統率者と思しき者の打倒を一時保留し、もう片方の者を接近させそちらから無力化する。…………承認。詳細思案、……………対象を挑発行為で統率者の射軸上に障害物となるように誘導し迎撃。注意事項、…………統率者が大口径弾を以って障害物ごと俺を狙撃した場合、肌が露出した箇所に着――)

  1秒未満の間にそこまで考えた速人だったが、腕の時計にこの廃ビルに自分以外の者が接近した際に発光するようにしていた警告灯が僅かに発光した。

(―――注意事項確認中止。作戦変更、即座にこの場のアリサ以外の対峙者を無力化する)

  決断と同時に黒尽くめに向かい突進しつつ、チンピラにワイヤー針タイプスタンガンの電極を発射する。12月だというのにTシャツにジャンパーを羽織っただけで前を開いていた為、電極は容易く心臓近くに刺さって電流が流れ、チンピラは一瞬痙攣して気絶する。

  通常スタンガンで気絶する事はまず無いので、ショックで心臓が停止している可能性も十分あったが、スタンガンの威力を弱めて電気ショックを行えば5分以内なら十分蘇生できると速人は判断したため迷わず実行した。

  そして速人がチンピラを一人無力化した時、黒尽くめは速人に漠然と照準を定めてトカレフTT―30を連続発砲した。

  回避すれば後ろのアリサが被弾する為、照準を付けられた瞬間少しでも早く被弾に備える為に重りになるスタンガンを手放し、心臓と首を左肘と左握り拳を盾にし、脳は右腕を額に巻き付けるように盾にしてその場に踏み止まる。

  貫通力の高い弾丸は衝撃吸収能力の無い薄手の耐弾繊維を纏っている速人の身体に次々と着弾して幾つかの骨に亀裂を生じさせる。

  6発発砲して血を流さない事に気付き発砲を中断した黒尽くめだったが、速人が懐に手を入れる行為を見せると焦って残弾を全て発砲する。

  その際一発が懐に手を入れるために左手を下げたので、コートの肩の切れ目が露わになった左肩を貫通した。貫通した弾はアリサの顔の近くを通過し背後の壁に着弾してコンクリートの破片をアリサに叩きつけるが、怯えもせずに真剣な眼で速人を見ていた。

(目標の発砲した銃は残段数ゼロと推定。右胸に通常規格の銃器は存在せず、左胸は予備の拳銃があると推測されるため急ぎ迎撃の必要有りと判断。

  損害確認。左肩小破。左腕総合能力値約82%まで低下。他損害軽微の為損害及び注意事項確認は無視。随時その場で対処・判断する)

  速人は懐からスローイングナイフを取り出し、持ち手の方を黒尽くめの首に狙いを定めて投擲した。

  投擲されたナイフは狙い違わず黒尽くめの首に一瞬めり込んで床に落ちていき、黒尽くめは一瞬バランスを崩す。

(捕捉されれば身体能力的に危険と判断。上半身よりも下半身に接触して無力化を行う)

  黒尽くめがバランスを崩している間に思考し、スライディングで足払いをして黒尽くめを転倒させる。

  黒尽くめが転倒しきる前にズボンの裾を捲り上げ脹脛にガンタイプの注射器で注射し、速人は急ぎ黒尽くめから距離を取るため跳ね起きながら離脱しようとしたがコートの一部を掴まれてしまい、転倒している黒尽くめに引き寄せられる。

  予備のトカレフで速人の頭を大雑把に狙って黒尽くめが発砲しようとしているのを速人は認識し、急いで首を反らして黒尽くめから見て少しでも的が小さくなるようにした。

  発砲された弾丸は速人の左額と左側頭の境目を皮と骨を削りながら天井に着弾し、二発目は耐弾繊維の指貫の手袋を嵌めた左掌で受けながらトカレフを握りこんで銃口を速人から外し、倒れこんでいる勢いそのままに右掌を黒尽くめの首へと叩き込んだ。

  気絶はしていないが悶絶している黒尽くめからトカレフを奪いながら周囲を一瞬確認しながら離脱し、異常が無い事を確認して近くのパイプ椅子を右手で掴み上げて黒尽くめの右肩へと叩き付ける。

  トカレフを乱雑にポケットに収めながら両手で大金槌を扱う様にパイプ椅子を振りかぶって振り下ろして右肩を破壊し、盾に使えるようにアリサの近くに投げ捨てながら、急ぎ黒尽くめからアリサの方に移動しつつ手放したワイヤー針タイプスタンガンを回収し、カートリッジを交換して使用準備を終えると同時にアリサの傍に戻る速人。

  顔と肩から失血死する程ではないが、かなりの出血をしている速人を見てもアリサは悲鳴も上げずに真剣な眼差しで事の成り行きを見ていた。

(怪我の心配も、恐怖に震える事も、感謝の言葉も、悲しむ事も、そういうのは全部全て終わってから。

  あたしの生兵法なんか戦力にならないどころか却って足を引っ張る。だから今あたしが出来る事は慌てず騒がず速人の邪魔をしないことだけ。力になろうなんて考えは却って迷惑になる)

  心配も恐怖も感謝も悲嘆も全て抑え込みながら、【速人の邪魔にならない】という事だけに全てを注ぎながら冷静を保っているアリサ。

  速人は未だ後ろを振り返らず黒尽くめの男が意識を手放したと思われる状態になったら周囲に注意を払いつつ携帯端末を確認した。

  すると光点が二つ接近しているのを確認し、軽業師の様に外壁を伝って来たとしても約30秒は到着まで時間があると判断し、急ぎ無力化した者の両肩の関節を踏み砕き、その際両足を踏み砕いた痛みで気絶していたチンピラは覚醒したが筋弛緩剤と睡眠薬を注射され直ぐにまた気絶し、心臓付近に電流を流された者はワイヤー針タイプスタンガンを接触使用モードに切替て弱電流で即座に蘇生させて同じく注射する。

  頭から流れる血はギリギリで眼に入っていなかったので速人は血止めをせずに携帯端末を急ぎ確認しようとしたが、既に何者かの靴音が二名分聞こえてきており、部屋に突入されるまで5秒有るか無いかという程であり、室外で迎撃し不利ならば窓の外のワイヤーでアリサに逃げるように指示するのが最善と速人は判断し、速人は部屋の入口目掛けて疾走する。

  その最中にスタンガンを接触使用モードにしたまま最大電圧の600万Vまで引き上げる。

(残電量から2回放電後は次回20WS前後しか放電できない。これで無力化不能ならば発砲してでも無力化して室内への侵入を阻止する必要が有りと判断)

  そう思考しながら、部屋の出入り口を転倒しかねない程の前傾姿勢で駆け出て、顔も上げずに視界に子供と思しき足を捉え、視線を僅かに上げながら何かを握っている子供と思しき剥き出しの手を視界に収めた瞬間にスタンガンを押し付けて電流を流す速人。

  声も出せず崩れ落ちていく子供を無視して射出使用モードに切り替えつつ背後の者に狙いを定めて放とうとしたが、その者……………子供と眼が合って動きを互いに止める速人達。

  崩れ落ちる少女はスタンガンを持ったままの右腕で支え、左手で杖を掴む速人。

  そして後ろにいた子供は驚きの声を上げた。

「は、速人!?」

  驚きの声の主はフェイトだった。

  そして今速人が左腕で支えているのはなのはだった。

「どうしてなのはに攻撃を……………ってその傷は!?」

  いきなりなのはに攻撃を仕掛けたことを糾弾しようとしたが、速人の左頬と左肩が真っ赤に染まっているのを確認してフェイトは驚きの声を上げる。

「この傷は先程アリサを拉致した者達との戦闘に因るもので、アリサを拉致した者達は現在無力化している。

  高町なのは攻撃の理由だが、この携帯端末で接近者の存在を察知し危険と判断したので即座に排除するべく行動に移った為だ。だがこれはただの光点でしか示されず、高町なのはの顔を視認したのはフェイト・テスタロッサの顔を視認した後だった。

  碌な対策も無しに何を思ってそんな不可思議な格好をして乗り込んだかは与り知らないが、そちらにも不用意にこの場に乗り込もうとした責があるため謝罪する気は無い。高町なのはは現在高圧電流……………600万Vを流され行動不能になっているだけだ。視診した限りは特に異常は無いので休息させれば回復するだろう」

  スラスラとフェイトの問に答える速人。

  反論しようとしているフェイトを無視して更に話す速人。

「碌に力も無いのに態々正義感を振りかざして現われたのか?両者とも正常な思考状態ではないようだな。邪魔だから即座に去れ」

  フェイト達は自分の行動を完膚なきまでに否定され、なのはは反論しようとしたが満足に呼吸する事も儘ならず声を発せなかった。

  しかし自由に話せるフェイトは自分達を無力と言われ、その行動も無価値とされたのが琴線に触れたらしくなのはに変わって反論した。

「私達は無力じゃありません!魔法を使う力が有るんです!アリサを助けられる力が有るんです!だから私もなのはもここに来たんです!!」

「一般常識に照らし合わせて何を言っているか理解しているか?拘束されて保護者に迎えに来てもらいたくなければ自分の足で即座に去れ」

「ッッ!本当です!私達は本当に魔法が使えるんです!!」

「仮に魔法を使えるとしても戦闘に利用出来ないようならばこの場で価値は無い。故に即座に去れ。

  俺はアリサ生存の報告をはやてにし、他にもやる事が有るので話はここまでだ」

  なのはをフェイトに渡そうとした時にフェイトは弾かれる様にアリサの事を思い出し、アリサの無事を確認しに部屋に入ろうとしたがそれを阻害する速人。

「今アリサに近づこうとするならば排除する」

  何時もの平淡な声と虚ろな眼で速人は述べた。

  しかし頭と肩から血を流しているので常時以上に他者を圧迫する感があった。

「何でですか!?理由が判りません!!」

「理由ははやてに連絡して訪ねてみるといいだろう。なおはやても俺からアリサの生死以外の報告は受けないようになっている」

「ッッ!納得いきません!!!私だってアリサの友達です。アリサがどうなっているか――――」

  激昂するフェイトの言葉を聞きながら速人はなのはを横たえ、なのはが左手に持っている杖の石突の部分で左手を押さえつけながら、普段と変わらない声でなのはの口にスタンガンを捻じ込みながらフェイトに話しかける速人。

「去れ。それとも口内に高電圧と大電流を流されればどうなるか知りたいか?

  湿潤状態での生物の電気抵抗は約10%まで低下し、口内で先程と同じ電圧と電流が流れれば肉を焼き、骨を砕き、顔は原型が留まっていない状態になるだろうが見てみるか?」

  実行するとは一言も言っていないが、しないとも言い切れない雰囲気をフェイトは感じ取り、息を呑んで押し黙る。

(今私達がアリサに会おうとすれば、速人は間違い無く私達を邪魔者として排除しにかかるはず………。

  なのはははやてとアリサの友達だって速人は知っているから多分殺すような事はしない。…………だけど殺さないような攻撃なら多分する)

  フェイトの思考通り速人は現在なのはもフェイトも殺す気は無かった。しかし殺さないだけで無力する事に躊躇いは一切無かった。

「逡巡しているようだが、高圧電流を流された者は頭痛・眩暈・吐気を伴い呼吸困難に陥る。高確率で死にはしないだろうが苦痛はあるだろう。

  高町なのはの身を案じるならば即座にどこかで安静にさせるべきだろう」

「……………………分かりました……………………。だけど後で絶対説明をしてもらいます」

「俺は説明する気は無いので、知りたい事が有るのならばはやての迷惑にならない範囲ではやてに尋ねるといい。

  それとこれを貸すので有効活用するといい。この廃墟ビル周辺の存在を光点で示すので安全確認はし易いだろう。ただしこの範囲から出たら1分以内にこれを捨て30メートル以上離れろ。そうしなければ死傷する可能性がある」

  言いながら携帯端末をなのはと一緒にフェイトに渡す速人。

  それをなのはを抱えながら受け取るフェイト。

  速人はそれを確認したらアリサが居る室内に戻っていった。

(色々不満もあるけど兎に角一度戻ろう……………………。

  思わず魔法使いだってのを喋っちゃったけど、速人は全然信じて無さそうだからよかった………………のかな?私達が変な人に思われたままなのは問題な気がするけど、今はここから離れよう)

  フェイトはなのはを抱え、速人が見ていないのを確認すると窓からゆっくりと飛んでいった。

  そして速人の言う通り画面外に出たら携帯端末を放り捨てた。

  別に爆発も何もしなかったが態々拾う気にもフェイトはならず、そのまま飛び去っていった。

 

 

 

  そしてフェイトが自分のマンションに着いた時に、今までなのはのデバイスのレイジングハートが全く喋っていないのを不思議に思い、フェイトは話しかけてみたが全く応答しなかった。

  レイジングハートは速人が接触した瞬間からなのはをフェイトに引き渡すまでの間、延々と特殊接触感応(エクストラ・サイコメトリ)で徹底的にプログラムを乱され完全に沈黙していた。

  最早意思疎通どころかデバイスとしての全機能が沈黙しており、ただの杖と化していた。

  ある程度回復したなのはが必死に何度もレイジングハートに呼びかけるが、依然としてレイジングハートは沈黙したままだった。

  何があったかを聞いたクロノとリンディ達と原因を考えたが、速人の電流攻撃以外に原因は考えられなかった。

  しかしそれでもここまで沈黙するのは考えられず、速人自身を疑おうにも速人の魔導師資質は精々Fランクに届くか届かない程度というのはなのはが断言しており、魔法を使っていない事はフェイトが断言しており、速人が魔導師で何らかの魔法攻撃をした線は即座に除外された。

  速人のレアスキルは未だ確認されていないモノだったのでフェイト達には原因がサッパリ解らず、後日なのはに使ったスタンガンを借りて調査するという事で話は纏まった。

 

  なのは達は、速人がなのはかフェイトのデバイスを沈黙させる目的でアリサの確保に乗り出したとは露程も想像していなかった。

  速人はアリサが誘拐されたと判断し時から、なのはとフェイトの性格を考慮した結果アリサの前に現われると予測し、不慮の事故を装いどちらかに電流を流し、その隙にデバイスを無力化する算段を立てていた。

  自分の能力は魔法では無いので気づかれないとシグナム達に確認を取っており、そしてシグナム達が知らなかった程のレアスキル故に、魔導師ランクが最低ランク以下の自分はなのはやフェイトに追求どころか疑われることすら無いと計算しての行動だった。

  シグナム達にもアリサが攫われた時にメールで説明されており、蒐集する頁も残り少なく、速人が原因と発覚する可能性も少なく、また解った頃はもう蒐集が終わる頃と判断した為、シグナム達は速人が廃ビルに移動している最中に了承を示すメールを送った。

  そして速人は見事にそれをやり遂げた。

  レイジングハートはこれから2週間以上沈黙したままになった。

 

 

 

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  第十二話:沈黙する不屈の心(レイジング・ハート)――――了

 

 


【後書】

 

  前回の後半から、大分前から創り上げている最終戦に無理して繋げなくても構わないや〜、と開き直って好き勝手書いているので今回は暴走気味です。

  そして前回初めてInterludeを用い、味を占めて今回は一人称にしましたが難しいと痛感しました。スレイヤ●ズとかよく十何巻も一人称で勧められたとなぁ〜と敬服しました。

 

  今回のアリサ誘拐時の描写は「お前は目の前で児童性的虐待されていても無視する気か!?」と、余裕で全年齢向けの範囲だと思っていたのを否定されたので急遽かなりソフトにしました。その為アリサは半壊れ状態にならずに済んでいます。

  本当は半壊れ状態のアリサを目の前になのはが救えなかったことを痛烈に後悔する微ダーク展開の予定でしたが渋々取り止めになりましたが、なのはが戦線離脱するという最重要事項は完遂できたので良しとしました。

 

  毎回掲載して下さる管理人様に感謝を申し上げます。感想は本当に楽しみです。

  そしてこのSSを御読み下さっている方、オリジナル色が強い拙い文を御読み下さり感謝します。




アリサの救出劇。
美姫 「しかし、それさえも計算してなのはを戦線離脱させるなんてね」
いや、本当に凄いな。
これで、なのはも暫くは前線に出れなくなるし。
美姫 「でも、レイジングハートが起動したらレアスキルはばれちゃうのかしら」
どうなんだろう。本人というか、本杖は何かされたと認識しているのだろうか。
美姫 「その辺りもちょっと気になるわね」
だな。今回はアリサがどんな目に遭うかちょっとハラハラドキドキしたけれど、ぎりぎり間に合ったのかな。
美姫 「撃たれちゃってるけれどね」
確かにな。さて、これからどうなるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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