Interlude

  ―――― リーゼアリア迎撃数時間前 ――――

 

 

 

「つまり………私という闇の書の一部を介して闇の書に接続(アクセス)したいということか?」

「その解釈で間違いない」

「………………………………………今更お前が闇の書の主に取って代わろうとしているなどとは思わぬが………理由は何だ?

  いや、確認したいコトが在るというのは既に聞いているが、………その確認したいコトとは何だ?

  ああ、先に言って置くが、〔万全を期す為〕、とか、その様な抽象的な言い方でなく、明確にどのような理由なのかを言ってくれ」

「問いに問いで返すが、構わないか?」

「構わん。言ってくれ」

 

  シグナムの言葉に速人は軽く目で了承の意を返し、それからシグナムに問いかけた。

 

「言わねば協力は得られないか?」

 

  その言葉を聞いたシグナムは少しの間逡巡し、それから問いに答えた。

 

「………その通りだ。

  コトが私個人で済めば二つ返事で了承しても良いが、……コトは私個人だけでなく家族や騎士としての関係も含んでいるのだ。

 

  …………正直、個人や家族としてならば即了承しても構わない。

  だが、…………騎士としては主の為に万難は排さねばならない。

  況してや私は将でも在るのだ。

  裏を取れる時間があるならば、信じるというだけで行動を決めたり出来る立場ではない」

 

  立場上疑わねばならぬことを告げ、頭こそ下げていないものの、言外に謝罪を籠めた発言をするシグナム。

  だが速人は全く気にしていないのかいつも通り淡淡と言葉を返しだした。

 

「シグナムが自己の内で判断を下す際、多数決でなく全会一致で決するとしても気にはしない」

「………そういってもらえると気が楽になるな」

 

  速人の言葉に頬を緩めて言葉を返すシグナム。

 

  そして少少場が和んだが、まるでそれを払拭するように速人は淡淡とした声で話を再開しだした。

 

「話を戻し、確認したいコトについてだが、…基点となる確認事項は一つのみだ。

  【蒐集完全終了後について】、だ」

「…………………どういう意味だ?」

 

  今更過ぎるコトを問われ、シグナムは眉を顰めて速人に問い返す。

 

「言葉通りの意味だ。

  666頁を蒐集により全て満たした際、その後起こりうるだろう事柄の確認を取りたい」

「………ふうぅぅ、……何を今更…………。

  蒐集が終わればどうなるかなど最初に説明しただろう。

  [頁を埋めぬ為に侵食されるならば、頁を全て満たせば侵食は止まる]、と。

  まあ、他にも絶大な御力を手に入れられるなどといったことも在るが、……主はやての不興を買う以外のマイナス面は無いぞ?」

 

  そう速人に答えながらもシグナムは、自分の前提が覆されそうな厭な確信めいた予感を抱かずにはいられなかった。

  が、速人はそんなシグナムの内心を知ってか知らずか、いつも通り淡淡と言葉を返す。

 

「いや、根本的に前提が不確かである以上、その結論は早計過ぎる。

 

  そも、先代までの主が蒐集を完了させた際、その後どの様な事が起きたか記憶しているのか?」

「ふううぅ………そんなコトは言うまでもないだろうに。

  …………蒐集により666頁全て復元し、主として真に覚醒されれば古と現代の数多の魔法を我が物とされるのだ。

  そして強大な存在と成られた歴代の主に私達は仕……え………て…………………」

 

  話している最中、急にシグナムは今まで蒐集を完了させた主に仕えていたことが不思議と思い返せないことに気が付き、愕然とした表情で記憶を掘り起こし始めた。

 

「まて………………遥か昔の主のことならまだしも、何故先代の主の最後すら思い出せない?いや、そもそも私達は蒐集を終えた主に仕えたことはあったのか?仮に何らかの組織に討たれたとしても歴代の主全員が蒐集完了直後に討たれるのはまずありえない。ならば私の記憶が改竄されるなり欠損しているなりしているということだが記憶改竄の魔法の存在など私は知らぬならば書を介して私の構造に干渉するしかないがその場合は主を巻き込み転生するので不可能であり私も含めて守護騎士がが主以外に書との仲立ちをして干渉することを認める存在など天神が初めてであるからこれは純粋に私の記憶が欠損しているかそれとも最初から私はそのコトを記憶できていないだけなのか?…………」

 

  愕然と呆然の中間の表情でシグナムは周りが見えなくなる程深く考え込み始める。

 

 

 

 

 

  そして、それから数分経過し、シグナムの表情から呆然とした感が抜け落ちて愕然とした表情になった時、思考に区切りが付いたと判断した速人はシグナムに話しかける。

 

「前提が不確かだと言った理由について…納得したか?」

「………………」

「シグナム」

「………………………」

シグナム

「………………………………」

「…」

 

  反応が無いシグナムを見、速人はシグナムの傍に寄り、シグナムの左手を自分の右手で軽く二度叩いた。

 

  そして次の瞬間―――

 

「!!?」

 

―――シグナムとしては突如自身の懐に進入した者に手を叩かれたように感じて驚き、相手が誰かを認識する前に右膝で速人(自分の左手を触った者)を蹴り飛ばした。

  しかし咄嗟のことの為シグナムの膝蹴りは普段なら防御した腕を折る程の威力は込められておらず、また速度も遥かに遅く、両掌で押さえ込むように防御しながら速人は衝撃を逃がす跳躍(浮身)を行った。

 

  が、シグナムは瞬時に間合い詰めて速人の胸元を左手で押し、流れるような動作でそのまま速人を組み敷いた。

 

  そして、左手で速人の重心を押さえつけて満足な反撃が行えぬようにしつつ、シグナムが右の拳で速人の喉に振り下ろされる。

  が、それより速く速人は右腕を喉に巻きつけて防御しつつ、左手でデザートイーグルを抜き、シグナムの耳の傍で天井目掛けて発砲した。

 

「つぁっっっっ!?!?!?」

 

  突如耳の傍で発砲音を聞かされたシグナムは一瞬前後不覚に陥った。尚、弾丸は幾度か兆弾して停止し、壁面には薄い摩擦跡以外の損傷は残っていなかった。

  そしてシグナムの拳打から喉を守った速人はその隙に―――

 

「シグナム」

 

―――と、シグナムの瞳を見つめながらいつも通りの淡淡とした声をかけた。

 

  そして―――

 

「っっっぅぅぅ………………な…何だ?天神………」

 

―――と、一瞬前後不覚になる強い刺激を受けた為か、それとも速人の呼びかけの為か、兎に角シグナムは我を取り戻した。

 

「…胸骨が軋んでいるので解放してくれ」

「ああああっ!?す、すまない!」

 

  速人からそう言われ、シグナムは慌てて速人から飛び退いた。

 

  シグナムから解放された速人は直ぐにデザートイーグルの弾倉を最大数装填されている物と交換し、それから装備や身体に異常が在るかを確認しだした。

  そしてそれを黙って見ながらシグナムは内心―――

 

(あ……危なかった。

  ……もし先の光景をシャマルに見られていたならば、…………美少年好きとか美少年食いとか事実無根の渾名を付けられるところだった…………)

 

―――と、襲ったことに対する罪悪感とは無縁のことを考えていた。

  だがそんな迷走気味な思考も、速人が装備や身体の確認を終えて改めてシグナムを見れば直ぐに落ち着き、凛とした表情と佇まいでシグナムは速人に謝罪する。

 

「済まない。

  気が付けば何時の間にかお前に襲い掛かって組み敷いていた。

  ………本当に済まなかった」

「間合いを侵した者を迎撃するのは当然のことだ。

  気に病む必要は無い」

「……………ツッコミを入れたいところだが……それは又の機会にする。

 

  で、……………話を戻すが、……………たしかに私は蒐集完了後どうなるか知らない。………いや、覚えていないと言った方が正しいのかもしれない。

  そして…………それは他の者達も同じだろう。

 

  …………もし覚えているならば、蒐集を始める際に難色を示していたヴィータに過去の事例を提示していた筈だからな」

 

  そう話したシグナムに、速人は相槌代わりに目で先を促した。

 

「正直……今までの行動が当然若しくは良かれと思いつつも、知らずに破滅に疾走していた気がしてならん。

 

  このまま蒐集を完全に終えても主はやてに深刻な害が及ばないとは……………認めたくないが………………………………………断言出来ん」

 

  拳が震える程握りこみながら心底口惜しげな表情でそう言葉にし、そのままさらに話すシグナム。

 

「…………蒐集完了後の記憶が無く、さらにそれを指摘されるまで気付かず且つ疑問に思っていないなど、都合の悪い事故記憶できないよう私の存在が定められているか、若しくは改変されているかのどちらかだろう。

 

  そして、そのどちらであろうと、………良くて主はやての御心に深く癒えぬ傷を負わせ、最悪主はやてを絶望に浸らせながら緩慢に死に向かわせてしまう可能性すら在るだろう」

 

  今までの自分達の行為が無駄どころか、誓いを破る不忠を働き且つ寂しい思いをさせ、止めとばかりに心に深い傷を与えた挙句死なせてしまう可能性すら在ると思い、シグナムの目に涙が滲み出し、そしてそれを速人に見せたくないシグナムは俯きながらさらに話し続ける。

 

「正直天神が何故この事に気付いたかなどどうでもいい。

  ……………今何よりも知りたいコトは、蒐集を終えた後どのような事態が起き、それが不都合ならばどうすればそれを回避若しくは解決できるか?だ。

  そして…………それを知る為の手段は本当に書へとアクセスして構造を解析して対策を練るしかないのかということだ。

 

  ………確認するが、………天神、お前はこれが最善………いや、妥当だと思って提案したのか?」

「その通りだ」

 

  他に面倒だが安全な案は無いのかという一縷の望みを託してシグナムは尋ねたが、それに速人はいつも通り淡淡と、冷淡にさえ聞こえる答えを返した。

 

「ふぅぅぅ……………そうか。

  ………ならば提案通り、書にアクセスして構造を解析して今後の予測と対策を講じるしかないか。

 

  だが………管理局ですらロストロギアと指定する闇の書の構造を本当に解析できるのか?

  ………言って置くが、やらねば出来ぬ等という台詞を聞きたいのではないぞ?

  お前が蒐集完了後に起こると予測している危険な事態を回避する為に見合うだけの成果と成功率が在るのかと訊いているのだ」

「その点に関しては一定の算段は立っている。

 

  シグナムとザフィーラとシャマルが度度述べていた、【あの子】や【あれ】という存在だが、推測になるが全ての機能若しくは蒐集した知識を制御する管制存在だろう。

 

  尚その様な推測にいたって理由だが、

一つ、シグナム達と同時期に顕現していないならば別の目的が在ると推測される。

二つ、仮にシグナム達と同時期に顕現する筈が不具合により顕現不可能―――」

「―――いや、理由は述べずとも構わない」

 

  急に速人の言葉をシグナムは遮り、そして愕然とした表情で独白しだす。

 

「そうだ………何故あれの存在を失念していたのだ。

  たしかに以前何度か意識して口の端に上らせていたにも拘らず、だ。

 

  そうだ………あれは真に覚醒した主にその身を解け合わせることで我等以上にお守りし補佐する存在だそして天神の言う通り力を制御する管制人格であり我等以上に事情に精通しているはずだいやしかし顕現は蒐集が完全終了後だった筈だならば話し合う事は現状不可能いやいや顕現が不可能なだけで意識自体は覚醒している―――」

「―――シグナム―――」

「―――可能性が……っとっ…………何だ?」

「あまり沈思されて又襲撃を受けるのは回避したいので話しかけた」

「あ、ああ。済まんな。

  また深く考え込み始めてしまっていた」

 

  又深く考え込みすぎてうっかり速人を攻撃する事態になっては堪らないので、シグナムは素直に意識を呼び戻してくれたことに陳謝した。

 

「で、話を戻すが、たしかに私達があれと呼ぶ存在ならば私達の疑問に答えられるだろう。

  ……が、どの様にして接触(コンタクト)を図るのだ?

 

  たしかに蒐集完了間際の現在ならばあれは起きているだろう。

  だが、私はあれに呼びかける術など知らぬし、またあれがこちらに呼びかけていない以上、あれからの呼びかけも期待できん。

 

  それを踏まえた上で訊くが、…………どのような算段でコンタクトを図るつもりなのだ?」

「特別なことなどする気は無い。

  シグナムの魔力で認証問題を回避し、その後はシグナムがあれと呼ぶ存在と意思疎通を図るか、若しくは構造を解析する」

 

  暗に自身の演算処理が全てだと言っている速人。

  そしてそれを理解したシグナムは、少しの間目を閉じて熟考し、それから返事をする。

 

「……………………いいだろう。

  どのみちこのまま何の対策もせずに蒐集を終えた方が危険と判断したのだから、たとえそれが根拠をあまり示せぬ方法であろうと文句は無い。

 

  故に、お前に主はやてと私達の命運を一時預けよう。

  ……………………頼んだぞ、天神」

 

  そう言った直後、シグナムは広げた書に右手を置いて魔力を纏わせ、いつでも速人が特殊接触感応を行えるようにした。

 

  そしてそれを確認した速人は、直ぐに装備していたスローイングナイフで筋肉や腱を傷つけぬよう右掌を切り裂き、血を流す掌をゆっくりと広げられた頁に近づけていった。

 

 

 

  ―――― リーゼアリア迎撃数時間前 ――――

  Interlude out

 

 

 

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

第二十話:各の思い

 

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  ――― Side  天神 速人 ―――

 

 

  速人が煙幕を掃う為に外套を左腕で翻して右腕だけで銃を構えているのを、空中で体勢を立て直した直後のフェイトは、速人がプラズマスマッシャーを凌いだ事への考察も忘れ、まるで自分がクレー射撃の的になったようだと思っていた。

  しかもこのまま後一秒もすれば間違い無く弾丸が命中し、空中にバルディッシュの破片か自分の血か、若しくは両方がまるで花が咲いた様に散ると、明確にその光景がフェイトの脳裏を過ぎっていた。

 

  だがいくら不吉な未来を幻視しようと、抵抗すれば十分に覆せると思えるだけの気概が未だフェイトには存在しており、大人しく撃墜される気の無いフェイトは急いでブリッツアクションを発動させ、速人が銃を持っていない左腕の付近目掛けて移動した。

  その移動の最中バルディッシュは移動方向が最悪であると気付き、それと同時にフェイトがそれを最善と判断して危険を認識せずに選択したことにも気付いた。

 

 

 

―――

 

  本来銃器を持った者に対する近接戦での死角の取り方の基本は【銃器を持った腕の外側に移動する】である。

  しかしフェイトの行動は、【銃器を持っていない腕の外側に移動する】であり、その行動は迎撃する方としては手首を傷めはするが適当な目測の下の適当な射撃姿勢でも容易に命中させられ、耐弾や防弾の機能や能力が無い状態でのその行為は最悪手とも言える行動だった。

 

―――

 

 

 

  対して速人はバルディッシュの宝石部分を破壊するだけならば既に発砲してそれを成せていたが、現在位置でそれを行えば射線上にあるフェイトの体幹を破壊して高確率でショック死させてしまう為その場での発砲を放棄した。

  代わりに速人はフェイトに関する手持ちの情報から回避及び襲撃行動をブリッツアクション等の加速系魔法で選択すると予測し、フェイトの視線と体幹の向きから移動先を予測し、更にフェイトの性格や人格や戦闘技術から移動先の偽装行動という可能性が1%にも満たないと判断し、即座に左後方、つまりフェイトを正面に見る位置に跳躍することにした。

  無論、先程のプラズマスマッシャーからバルディッシュが独断で魔法の行使及び制御を行えば出力は激減すると判断し、バルディッシュが移動先を急遽変更しても撥ね飛ばされたり対処不能になる可能性は低いと判断した上でである。

 

  そして速人はフェイトがブリッツアクションを発動させる一瞬前に跳躍し、対してフェイトは0.1秒にも満たない程の時間差で早く跳躍した速人を認識して移動を中止させる事は出来ず、結果当初の予定通りの位置にブリッツアクションで移動した。

 

  ブリッツアクションの効果が切れ、高速移動前の視界が高速で移動先の光景に替わり、フェイトは急激に視界が変化した為一瞬だが視界内の情報整理に時間を費やすことになる。

  尤も、視界が急激に替わるのは予め分かっていた事であり、故にフェイトは目的地の周囲の状況と到着した時の体勢を基に行動を予め決めており、その為視界内の情報を認識する前に事前に決めていた通り至近距離でバインドをブリッツアクションを発動させる直前まで速人が居た場所に向かって使用した。

 

  だが、速人はフェイトの認識が追いつくギリギリの瞬間に跳躍していたので既にその場には居らず、フェイトがその事を認識出来たのはバインドを発動させている最中であった。

  そしてフェイトは直ぐに一歩離れた場所に速人が立っていることに気付き、その時漸くブリッツアクション等の高速移動魔法に自身の認識力が完全には追いついていない事に気付き、このような対処法があると初めて知った。

 

  そしてフェイトが胸中で自身の未熟さを痛感している最中、速人は自身から見て右を向いているフェイトを視界正面に納めており、更にはフェイトが突き出す様にバルディッシュを持っている為宝石部分に発砲しようとフェイトには弾丸の影響が直接及ばない射撃位置であり、速人は発砲条件は揃ったとばかりにバルディッシュの機能中枢と思しき宝石部分に照準を合わせ、可能な限り反動に因る被害を押さえ込む為両手持ちで発砲しようとした。

  だが―――

 

Thunder Rage!

 

―――又もやバルディッシュが自己判断で行動を起こした。

  フェイトの魔力を勝手に使用している為又もや出力が大幅に減少し、更に出力が本来の1%以下まで低下するのを承知でバルディッシュは発動の速さを最優先して魔法を発動させた。

 

  そして発動の速さのみを優先したサンダーレイジは、速人がバルディッシュを補足する前に速人が銃把を握っている腕のみをバインドで拘束することに成功した。

  尤も、展開されたバインドは1kg以上の負荷で壊れる程度の耐久性しかなかったので、その効果は速人がバルディッシュを補足する時間を1秒にも満たない間遅らせただけだった。

  だがバルディッシュとしては攻撃が発動するまでの一瞬さえ足止め出来れば十分であり、後0.3秒もしない内に雷撃が速人目掛けて一斉に放たれるからである。

  無論威力は激減しているが、露出した肌に雷撃を受けても全く効果が無いと断言出来る程まで低い威力ではないので、バルディッシュは速人が先程プラズマスマッシャーを防ぐ際に使用した恐らく不導体処理が成されているであろう外套で全身を包んで防御する為射撃を中断すると踏んでいた。

 

  しかし速人はバルディッシュの予想を外れ、急ぎ後方に跳躍しながら―――

 

    !」

 

―――と、人の耳では先ず聞き取れない声を発し、そして雷撃が放たれる前にバルディッシュを補足した。

 

  速人に補足されたと理解したバルディッシュは一瞬相打ち狙いに切り替えられたと判断したが、まだ速人が有利であるにも拘らず態態相打ち狙いをする理由がバルディッシュは思い当たらず、故に何らかの方法で此方の攻撃を防ぎながら攻撃を行うと瞬時に推測した。

  しかし推測は出来ても発砲されるまであと0.2秒も残っておらず、防御系の魔法を展開しても既に間に合わないのは明白であり、そもそも防御系の魔法を使用するならばフェイトと協力して全力で多重展開でもしない限りは速人の銃撃は防げないので、バルディッシュに残された選択は阻止か相殺か回避の三択であった。

  尤も阻止するにしてもサンダーレイジに関してはほぼ失敗すると予測され且つ今から攻撃魔法を新たに発動しても発砲されるまでには間に合わないのでこの選択肢は消え、相殺に関しても着弾までに発動が間に合わず且つそもそも物理設定でない以上物理攻撃を相殺する事は困難であるのでこの選択肢は消え(デバイスが独断で物理設定を以って人を対称に攻撃できぬよう安全装置が存在する為)、残された選択肢は回避のみであった。

  だが回避する為に発動させる魔法ならば発砲される前に発動は可能なのだが、射線から外れる事ができるのはブリッツアクションで移動中の一瞬のみで、その後は先程の焼き直しなるのはほぼ確実であり、どの選択肢を採ろうと結果が大同小異であるのは明白と判断したバルディッシュは止むを得ず苦渋の決断を即座に下した。

 

Photon Lancer!

 

  限界まで発動と弾速の速さを優先させる為にスフィアを生成せず、ランサーを一つだけ直接生成するバルディッシュ。

  だがサンダーレイジ以上にあらゆる意味で速さを優先させた為、既に威力は幼児の骨に罅も入らない程度まで激減していた。

  しかしバルディッシュはソレを速人目掛けてではなく、物理設定にして自身に向けて撃ち放った。(人にではないので安全装置は働かない)

 

  そして速人が発砲する0.1秒未満前にバルディッシュと接触せんばかりの近さで生成され即座に放たれた一発のフォトンランサーは、物理設定の為バルディッシュを弾いて速人が放つ弾丸軌道から機能中枢部分を辛うじて外した。

  尤も、バルディッシュは完全には弾丸の軌道から外れる事は出来ず、又もや宝石部分の周囲を抉り散らされ、恐らくザンバーフォームへの変化が不可能な程破壊されていた。

 

  対して速人は自身に迫り来る雷撃を全て誘電路に逸らして全くの無傷であった。

 

 

 

―――

 

  先程速人は人の耳ではまず聞き取れない音域の声で遠隔操作を行っており、その操作内容の概略は自身の周囲に放電機構を使用する際の安全措置の一つの誘電路を、まるで自身を覆う様に作成するというモノだった。

 

  無論それを行うには使用する誘電路作成の砲門選択や照射座標、更には照射時間や出力等様様な設定を行わなければならなかった。

  だが、本来音声で態態其れ等を行うよりも事前にリモコンに発信機を組み込み、予め一連のプログラムを組み込んでボタン一つで迎撃及び防御行動を行えるようにしていた方が遥かに容易に事を成せるのは明白であった。

  しかも悠長に使用する砲門や目標の座標や照射する角度や時間や出力を言っている時間は戦闘中にはまず存在せず、更には相手に筒抜けになって容易く対処されるという、どうしようもない欠点が存在するのだった。

  だが、其れ等は速人の常識外の情報処理能力が全て解決していた。

 

  常識外の情報処理能力で以って1万語前後を全て機械言語に変換した上でたった1語に圧縮して発声する技能と、圧縮して発声された機械言語を瞬時に解凍して指令として遂行させられるプログラムを作成したのである。

  要するに速人は僅か1語発するだけで、殆ど自身の思う通りにこの第二実験場内の機能を即座に操れるということであった。

  しかも人の可聴帯域外とされる声を発するので、普通の者は声を発していることさえ気付けないので、言語解析をされる事は可能性として非常に低かった。

  更に解析されて利用されない為に暗証コードを圧縮言語で使用する機能によって変化させたり、事前に定められた通り1回毎に変更したり、前回の圧縮言語に次の暗証コードを指定していたりと、恐らく速人以外では誰も使えない程の厳重な安全処置が成されていた。

 

―――

 

 

 

  速人は今眼前で在らぬ方に電撃が逸れた事と先程のプラズマスマッシャーの事を鑑み、やはり魔法であろうと物理干渉が可能である以上物理法則に影響を受けると結論付け、ならば電撃を得手とするフェイトは最も対処が容易であると認識した。

  そしてバルディッシュに対しては、フェイトが戦闘に対する判断能力がゼロに近いのでその能力の殆どを振るえないので少なくとも攻撃面では然して脅威ではなく、防御面でも時間稼ぎが限界であると判断していた。

  更に態態バルディッシュが魔法の名を発することでフェイトとの連携を図ろうとしているのに、それが微塵も達せられないことから現状でフェイトとバルディッシュの連携はまずありえないと判断していた。

  尤も、攻撃の手を緩めてフェイトとバルディッシュに意思疎通の時間を許せば連携される可能性は在るだろうが、それでもフェイトを落ち着ける為に最低でも15秒以上は必要と速人は見ており、しかも落ち着いて緊張の糸が切れれば破壊された右足首の痛みでまともに戦えなくなると判断しており、速人は冷静にフェイトとバルディッシュは詰み半歩手前の状態だと認識していた。

 

  対してバルディッシュは速人の推測通り既に殆ど積んでいてまず覆せないと判断しており、最早自身がどう足掻こうと相打ちが限界であり、自身が速人に破壊される事はほぼ確定だと受け入れていた。

 

 

 

―――

 

  速人の推測通りバルディッシュが自己判断で魔法を発動させても本来の出力には及ばず、又仮にフェイトと完全に連携が可能に成ってもクロノに浴びせられた電撃を戦闘不能化しない程度に防ぐ防御魔法は展開不可能であり、バルディッシュはそれを十分理解していた。

  又、フェイトの魔力変換資質の相性が質量兵器とはこれ以上無い程最悪であった。

 

  目標が不導体処理を施された装備をしているので、肌が露出した箇所に魔法を命中させねば装備表面を電撃が這うだけであり、しかも装備表面を這った電撃が露出した肌に向かう前に装備目掛けて赤外線を照射して誘導路を作成されれば電撃の効果はほぼゼロになってしまうのであった。

 

  この命中前に逸らされるのと防御後逸らされる二段構えをバルディッシュとフェイトではまず突破出来ず、唯一可能性が在る選択肢としては【不導体処理を施された装備品を、物理設定にした電撃の電熱に因り焼却する】であった。

  が、どの程度の電熱で焼却可能なのかも分からず、更にはそれほどの高出力の魔法を放つ時間を確保するのは不可能に近い困難さの為、電気を帯びるフェイトの魔法では事実上打倒不可能なのであった。

 

―――

 

 

 

  だが、だからと言って潔く往生する気が無いバルディッシュは、破損しすぎた為カートリッジを使用すると反動に耐え切れず崩壊する危険を十分承知の上で、連携がとれず低下した出力分をカートリッジで補って何とか相打とうと決意した。

 

Ser………Good bye.>(サー……お元気で)

 

  別れを念和で告げもせずに終らせるバルディッシュ。

  そして自爆覚悟でカートリッジを使って自身にブリッツアクションをかけ、自身を実弾代わりにして速人に攻撃しようとしていた。仮に自身が破壊されようが破片が少なからずダメージを与えられると思って。

 

  だが、バルディッシュがその案を実行する為に魔法を発動させかけた時―――

 

 

―――バルディッシュの考えなど予測済みと言わんばかりの眼をした速人が本人以外がまず理解出来ない言葉を紡いだ。

 

  その直後―――

 

「…………………え?」

 

―――と、ワケが分からないといった感じのフェイトの呟きが、床にバルディッシュが散らばり落ちる音共に発せられた。

 

 

 

――― Side  天神 速人 ―――

 

 

 

 

 

 

  ――― Side 八神家 ―――

 

 

 

「…………………で、どうするの?」

 

  呼吸がし難いほど重い雰囲気の中、交渉が終了してフェイトが駆け出したのを区切りと見たアリサは勝手に近くのリモコンを使ってモニター(テレビ)の電源を落とし、何でもないような感じではやて達に声をかける。

  しかしそんな気軽に話すアリサが気に障ったのかヴィータが凄い勢いで食って掛かりだす。

 

「って、何気楽そうに話してんだよ!

  つか何勝手に消してんだよ!っとと付けろよっ!ぶっ飛ばすぞっ!!」

 

  そう言いながら本当にアリサをぶっ飛ばしてリモコンを奪い取ろうとするヴィータ。

  だがそれを横合いからシグナムが腕を伸ばして止めに入った。

 

「落ち着けっ。

  後先を―――」

「うるせえっ!これが落ち着いてられっかよ!?

  ハヤトが死ぬかもしれねえんだぞ!?っつか死ぬと分かっててあそこに残ったんだぞ!?

  しかも死ななくてももう戻ってこないつもりなんだぞ!??

  ………落ち着けるわけがねえだろっっ!!」

「―――考え………………」

 

  落ち着かせようとしたシグナムだったが、肩が震える程拳を握りながら俯いて叫ぶヴィータを見て押し黙った。

  そしてシグナム以外もここで問答したりしている時間など少しも無いとは分かっていても、俯いて髪で隠れたヴィータの目元から零れた雫が床を濡らしているのを見、何も言えずに黙りこんでいた。

 

「はやてにっ!…………………はやてが生きててほしいから………もっと笑っててほしいから………終わったとき怒らせて悲しませて泣かしちまうって分かってても………………いつものようにはやての傍にハヤトが居るなら………いつかまたはやてが笑ってくれるって思ったから………………もし無事に終ったらはやてとハヤトとまた一緒に暮らせるって思ったから!…………………今まで苦しくても悲しくても寂しくても痛くても頑張ってこれたのに…………っっぅ!!

  ………………それなのに……………………終ってもハヤトは居なくて………はやては笑ってくれなくなって………良くても管理局から逃げ回るか好い様に使われるだけの毎日しかないなんて………………………あんまりじゃねえかよぉぉ………」

 

  歯を食いしばって胸から競り上がってくる嗚咽を懸命に噛み殺すヴィータ。

  そしてそんなヴィータの独白を聞いたシグナム達はもヴィータと同じように俯き、そして拳を握り締めて歯を食いしばって震えており、残りの面面も拳を握ったり歯を食いしばったりはしていないが深く俯いていた。

 

「………それに……………アタシ……ハヤトのこと分かってやるって言ったのに………全然分かってやれてなかった…………なにに悩んでのかも……なにを目指してんのかも…………なにをしようとしてんのかも………………全然分かってやれてなかった!

  ……………………もうどうしていいか分かんねえよ。…………蒐集しなけりゃはやては死んじまうし………蒐集しても暴走してはやてが死んじまうし………そうさせねえために何かしたらハヤトが死ぬかどっか行っちまうし………………なにか他にいいてがないか考えようにも時間も無えし………。

  それに……………もしハヤトに会っても……………なんにも分かってやれてなかったのに…………………なに言っていいか………どんな顔して会えばいいか………それすら分かんねえよ…………」

 

  何時の間にかヴィータが握り締めていた拳は力無く半開きになり、独白が終わった後は先程の様に歯を食いしばりもせずに嗚咽に近い息を半開きの唇から漏らすだけだった。

 

  そしてヴィータの独白が終わり、凄まじく重苦しい雰囲気が暫く満ちていたが、突如アリサは吸う息と吐く息が聞こえる程大きな深呼吸をし、それからヴィータにではなくはやてに向かって話しかけた。

 

「……で、はやて…………どうするの?

  分かってるんでしょうけど…………この場で何もせずに鬱になってたら……状況が加速度的に悪化して後戻りも進むことも出来ない状態になると思うわよ?

 

  あ、それと速人がさっきなんか色色言ってたこと気にして落ち込んでるんでしょうけど、あんまり気にしないほうがいいわよ。

  所詮人間の私達が超人の思考なんて分かるわけ無いんだから」

 

  まるで先程のヴィータの独白の雰囲気を払拭するような軽い感じで話すアリサ。

  が、先の雰囲気を払拭しきれず、アリサははやてとすずかからは戸惑いの視線を投げかけられ、シグナム達からは常人ならば腰を抜かしかねない敵意が混じった批判の視線を浴びせられた。

  しかしそんな視線を自信が遣りたい事を強く認識することで耐えつつ、アリサは返事のないはやてに更に話しかける。

 

「どんな選択をしても後で死んでしまいたくなる程後悔する結果になるでしょうけど、今ココで選択すらせずに状況に流されたら………………多分後で精神崩壊するわよ?

 

  ………だいたいね、色んなこと一度に知ってショック受けてるのは分かるけど、なんで後悔なんてしてるのよ?

  そもそも後悔ってのは読んでの字の如く後で悔いるってことなのよ。

  ようするに全部終ってからするってこと。

  だから後悔するなら全部終ってからにしなさいよ。

  だってまだ終ってないじゃない?」

 

  驚いた顔で自分を見るはやてやシグナム達の視線を受けたアリサは―――

 

(恥〜〜〜ず〜〜〜か〜〜〜しぃぃぃぃぃぃぃっっっ!

  なに10才そこらの平平凡凡にしか生きてない小娘が得意気に人生語ってんのよっっっ!?

  お願いだから驚きながらも希望を湛えた尊敬混じりの眼で見ないでツッコミの一つでも入れてちょうだいよ!?

  正直悶死しそうなのよ!

 

  …………っていうかすずか!驚きながらも微笑みつつニヤケた顔をするんじゃないわよ!

  あと小声で速人に染められたとか言うな!しっかり聞こえてるわよ!?

  って言うかアンタがツッコンでどうすんのよ!?ここははやて達のツッコミ待ちでしょうが!?

  あんたのツッコミがスカッたら、あたしも巻き込まれてただのイタイ人になっちゃうでしょが!?)

 

―――という事を考えていた。

  正直アリサとしては射殺さんばかりの視線で見られるよりも、ただの小娘程度の自分が得意気に人を諭しているという事実が余程堪えており、恥ずかしすぎて頭を抱えて転げ回りたい衝動を堪えるのにかなりの精神力を割いていた。

  そして更に自分が悶絶すると分かっていながらも、アリサは更に話す。

 

「………そもそも、

【手詰まりならば悪足掻き。分からなければ勘頼み。倫理(モラル)も法も丸めてポイ。

  それができたら、後は都合の悪い事は考えない。思考は常に取らぬ狸の皮算用(HAPPY END)!】

……が、こんな時のあたしの信条だから、はやて達みたいに落ち込んで悩んだりするのがあんまり共感できなくて気の利いたこと言えないけど、…まあ……アレよ………うん、…………大切なモノやコトがどれほど大切か自覚しろ、ってことよ……うん」

 

  とりあえず自分が掛けられるだけの発破をはやてに掛け、後はもう自分が羞恥心に耐えられなくなって悶絶しながら転げ回るのが先か、若しくははやてがどう行動するかを決めるのが先か、というあまり笑えない覚悟をしながらアリサはそれ以上話しかけずに黙って待つことにした。

 

 

 

  そしてはやて達が落ち着くには短く、況してや考えを纏めるには更に短い時間だったが、自身にとって何よりも優先すべきモノ(若しくはコト)を自覚若しくは再認識するだけの時間には事足りたようだった。

 

  自分の裡で何をするかという答えを出したシグナム達は、黙って自分達の主にして家族の長にして核とも呼べるはやてを仰ぐ様に見つめた。

  そしてその視線を一身に受けたはやては一度力強く拳を握りながら眉間に皺が出来る程強く目を瞑り、それから数秒後急に目を見開いて宣言する様にアリサに話しかけた。

 

「うん…………アリサちゃんの言う通り泣いたり鬱になったり文句言ったりするんは後にするわ……」

「……なら後はシグナムさん達とさっさと腹を割って話をつけることね」

「…………うん……そやね……」

 

  そう言ってはやては直ぐ様シグナム達と話し合おうとする。

  が、はやてはそれを一時中断してアリサへと振り向き、数秒程黙った後アリサに話しかけた。

 

「…………ありがとな、アリサちゃん。

  ………多分アリサちゃんが居らんかったらウジウジ悩んだり落ちこんだ挙句時間切れになっとったわ………」

「礼をいいからとっとと話をしなさいよ。

  落ち着いたのは良い事だけど、1秒のんびりして間に合わなかったら悔やみきれないわよ」

「あ、う…うん。

  それじゃお礼は後でな」

 

  そう言ってシグナム達の前に移動して話しこむはやて。

 

 

 

  そしてそんなはやて達を見ているアリサにすずかが声をかけた。

 

「アリサちゃん、激励お疲れ様」

「………ふん、べつに励ましたつもりは無いわよ。

  あたしは単に答えを出す時間を短縮させただけよ。

 

  ………あたしだけじゃ今速人が居る所に行けないから、何としてでもシグナムさん達に連れて行ってもらわないといけないし………」

「ふふっ…………見事なツンデレだね」

「うっさいわね。

  せめて照れ隠しと言いなさいよ」

「あれ?素直じゃないのは自覚してるんだね」

 

  そのすずかの言葉にアリサは反論しようとしたが、負け惜しみのようになると思い、苦い顔でその言葉を聞き流すことにした。

  そして文句の代わりに先程から気になっていた事をアリサはすずかに尋ねた。

 

「ところで……さっきから気になってたんだけど……………すずかもあたし達と一緒に速人の居る所に着いてくつもりなのよね?」

「う〜ん………私としてはなのはちゃんやフェイトちゃん達が戦う場所に行くって認識だけどね」

「まあその認識でもべつに構わないけど…………科学と魔法のガチバトルに首突っ込むにしては………なんだかえらくのほほんとしてるような感じがするんだけど?」

 

  先程なのはの携帯電話に伝言を告げた時の雰囲気は何所に行ったのか、既にすずかはいつものような穏やかな雰囲気を纏っていた。

  そしてアリサはその事にこれから行く場所の危険性が分かっていないわけではないのに何故そんなに気楽なのか?と視線ですずかに尋ねた。

 

「う〜〜ん…………危険だとは思うけどイヤな感じがしないから……かな?」

「………それって敵意とか害意が無いって事?」

「うん、そうそう、それそれ。

  速人さんは殺すつもりは無いみたいだし、なのはちゃんもフェイトちゃんも当然そんなつもりは無いみたいだから、そこまで緊張しなくてもいいかな〜、って思ってるんだよ」

「意外とお気楽思考よね。

  ………死にはしないでしょうけど……どっちかが……若しくは両方大怪我はするかもしれないって分かってんでしょ?

  なのに何でそう気楽に構えられんのよ?」

「う〜〜〜ん…………私としてはこれから友達と話し合いに行くのに緊張する方が分からないんだけど?

 

  それに…………もしなのはちゃんやフェイトちゃんが、何が何でもはやてちゃんを捕まえる為に邪魔な速人さんを倒したり、はやてちゃんをみんなと引き離して監禁する、……って言うんだったら…………私に出来ることなんてないんだろうけど………はやてちゃんとそれを助けるアリサちゃんの力になるって決めてるから………今更緊張することなんて無いからだと思うな」

 

  少しの間だけ真剣な表情と雰囲気でそうアリサに話すすずか。

  そして話し終わった後すずかは先程の様な気楽な表情と雰囲気に戻り、先程の話と表情や雰囲気を見聞きしたアリサは呆れと嘆息混じりの声をすずかにかけた。

 

「ふうぅっ………意外に肝が据わってるのね………」

「そりゃアリサちゃんの友達だもん。

  アリサちゃんと同じぐらい凄くなくちゃ釣り合い取れないでしょ?」

「………ふん」

「あ?もしかしてアリサちゃん照れてる?」

「うっさいわね、呆れてるだけだってば」

「……ふふっ、そういう事にしておいてあげるよ」

 

  そう言って微笑んだすずかだったが、少しした後表情に少し真剣みを混ぜてアリサに問いかけた。

 

「でも…………アリサちゃんが速人さんの所に行くって……少し以外だな……」

「うん?どういう意味よ?」

「……だって速人さんがしようとしてることって………アリサちゃんには直接関係ないことだよね?

 

  はやてちゃんの家族じゃなくなってもアリサちゃんとの関係は変わらないと思うし、なのはちゃんやフェイトちゃんと戦うにしてもアリサちゃんが理由ってわけじゃないでしょ?

  それになのはちゃんやフェイトちゃんが黙ってた事には怒ってても、二人の考え方に関しては怒ってないみたいだから、二人と話す為に速人さんの所に行くって理由にもあまり思えないし…………、他にも速人さんにはやてちゃんの傍に居るよう頼まれたからって理由だけじゃアリサちゃんは速人さんの所に行かないと思ったから……」

 

  その言葉を聞いてアリサは心底呆れたとばかりに―――

 

「はああぁぁぁーー」

 

―――と、口をかなり横開きにしながら溜息を吐いた。

  そして何を今更と言わんばかりの口調でアリサはすずかに話し始めた。

 

「………全く………小難しく考えすぎよ。

 

  そりゃたしかに速人は[他に何か考えてたのか?]って聞きたくなるくらい深く考え抜いて出した結論でしょうし、なのはとフェイトも深くは考えてないでしょうけど一応自分で考えて出した結論でしょうし、それに関しちゃ考え直せだのあーだこーだ言う気はたしかに少しも無いわよ。…………訂正。なのはとフェイトにはもっと考えろと言いたいわね。

 

  ……ま、だけどそれとはべつにね、あたしは自分の友達が友達を殺しかねないのを黙って見てたりする気なんて少しも無いわよ」

 

  そう言って肩を竦めた後真剣な表情になってすずかにというよりは自身に言い聞かせるように話し出すアリサ。

 

「そう…………あたしが行くのはあたしの友達があたしの友達を殺そうとしてるから止めに行くだけ。

 

  ………フェイトが我を忘れて普通の人なら大怪我するかもしれない速度で体当たり気味に武器を振り被ったのを見て思ったわ。

  ああ、結局魔法も銃器みたいに使う人の良心に任せるしかないんだ、……って。

  そしてなのはとフェイトは、殺すつもりは無くても殺す一撃を無自覚に速人に振るうんだ、って。

 

  多分フェイトもなのはも正しい者が絶対勝って正しくない者が絶対負けると思ってるし、正しい行いをしている自分達が人を殺すなんていう悪の行為をするわけが無いと信じきっている。

  ………だけどさっきフェイトが速人に体当たりした時のように、殺す気が無くても殺してしまう可能性が在る攻撃を二人は平気でするはずよ。

  なにしろ自分達が人を殺すことなんて無いと根拠も無く思ってるんだから」

 

  アリサの話を聞いていたすずかは曖昧な相槌ではなく明確な同意を籠めて頷き、更に話しの先を促した。

 

「…………今からあたしが速人のところに行くのは、なのはやフェイトに話をしてもらう為でも、況してや速人に考え直してもらう為でもなくて、自分の力がどれだけ危険で自分が何してるかも碌に自覚して無いなのはとフェイトにそれを自覚させる為………」

 

  それを聞いてすずかは納得しかけたが、それだとフェイトが体当たりする前にアリサが速人の許に行こうとしていたことに説明がつかないことに気付き、まだ話していないことが在るだろうと思い、アリサをじっと見て先を促した。

 

「後は…………あたしの趣味の問題よ。

 

  ………正直突然[魔法]だの[時空管理局]だの[ロストロギア]だの言われても全然実感なんて出来ないわよ。

  だからあたしはまず本当にシグナムさんが言ったように、自分達の理想を声高高に掲げてる奴等がコソコソと人様の世界で動き回った挙句何も知らなかったはやてを吊るし上げて正義の執行者気取りしようとしてるかどうかの確認を取る為に、速人の所に行ってその場に居る人達に直接聞いて確認しようとしたのよ。

  ………尤も、速人との会話を聞いてそれがまず間違いないと判断したけど。

 

  ……ま、速人との話を聞いて判断出来たから尋ねに行くって理由は消えたけど、あんまり時空管理局ってのがムカついたから一言言いに行くつもりよ。

  【ほっとけ!】ってね」

 

  とりあえず言う事は終ったとばかりに一息ついたアリサだったが、言うべき相手が全く違う為微塵も気分が晴れていないのは明白であり、寧ろ怒りを再認識したようで機嫌が悪化しているようにすずかは思えた。

  そしてアリサの不機嫌が伝染したのか、それとも元からそう感じていたのかは定かではないが、すずかも少少不機嫌そうにアリサの言葉に同意を返す。

 

「たしかに私もアリサちゃんと同じ気持ちだよ。

  …………自分達が正しい事をしているって言うんなら…………そしてその為に人に犠牲を強いるなら…………少なくても堂堂とはするべきだよね。

 

  なのにシグナムさんが言ってたみたいに、魔法が知られてない世界に魔法の存在を明かせないからコソコソ動き回ってるなんて…………考えるだけで気分が悪くなるよ。

  だいたいこの世界が魔法を知る機会を一方的に奪い続けるなんて、自分達を脅かす存在を出さないよう発展を邪魔してるようにしか思えないよ。

 

  …………本当に魔法が素晴らしくて、そして自分達が多くの人を幸福にしようとしているなら、今すぐ地球に魔法を広めるべきなんだよ。

  たとえ一時混乱が起きてもこのまま魔法を知らずにいれば、一時の混乱以上の人が死ぬはずなんだから。

  …………魔法が本当に素晴らしいならね」

 

  そう独白する様に話すすずかを、アリサは感嘆したような表情で見ながら話しかける。

 

「いやぁー………言うわね……すずか。

  あたし的に好感度プラス3点よ」

「……1点の基準って……どんな感じなの?」

「うん、友達が虐められてる時に怖くて逃げ出すと1点減るって感じね。

  因みに現在なのはとフェイトはマイナス2点よ」

「………それって………もう絶交状態だよね?」

「ま、点数付けてるってのは冗談だけど、………フザケタ返答したらそうなるのはマジよ。

 

  ええ、………魔法を秘密にしてたのはムカつくの一言で済ませてやってもいいけど、………あたしに内緒で速人に戦闘を吹っ掛けたりはやてを投獄しようとしたりするなんて、…………納得の行く理由が無きゃ…………骨の1本はマジで砕き折るつもりよ」

 

  暗い眼ではなく、明確な意思と知性が篭められた輝く眼でそう呟くアリサ。

  それに苦笑いしながらすずかはアリサに言う。

 

「う〜ん…………、速人さんと逢えたお蔭でアリサちゃんはすごく素敵になったと思うけど………、その代わりなのはちゃん達と不仲になっちゃった気もするな…………」

 

  自分の友達が素敵になった事はとても喜ばしいことだが、その代わりとばかりに自分の友達同士の仲が極端に悪くなってしまい、複雑な表情をするすずか。

  そしてその言葉を聞いたアリサも複雑な表情をしながら返事をする。

 

「たしかに……そうね。

  すずかの言う通り、速人が居なかったらあたし達は多分こんな剣呑な事態になんか遭わなくて、きっといつまでも仲が良かったはずよ。

  ………それが速人に会う前のあたしとなのは達の相性がよかったのか、それともなのは達をよく見ていなかっただけなのか、………そのどっちかは分からないけど」

 

  そう言って複雑な表情から自嘲しているような表情になりながらアリサは言葉を続ける。

 

「………………正直な話、速人と出逢わなければ………あたしはみんなと仲良く穏やかな時間を過ごせてたと思うし、今直ぐそういう関係や環境になってほしいとも………たしかに少なからず思ってる」

 

  そう言って一旦言葉を切り、軽く眼を瞑って今まであったことを思い返すアリサ。

 

  そして深呼吸する程度の長さの間を挟み、アリサは再び独白のように話し出す。ただし今度は誇らしさと嬉しさを混ぜた表情でだった。

 

「だけど………速人と出逢えたお蔭であたしの世界は広がったわ」

 

  輝いて見える笑顔でアリサはそう言い、その笑顔を見たすずかは、眩しすぎて見れないかのように眼を細めた。

 

  そしてすずかが眼を細めたとほぼ同じ頃にはやて達の話は終わり、それから直ぐにシグナムがアリサとすずかの方に歩いてきた。

 

 

 

――― Side 八神家 ――― 

 

 

 

 

 

 

  ――― Side  天神 速人 ―――

 

 

 

  床に散らばったバルディッシュを、フェイトは理解出来ない表情でぼんやりと見つめていた。

  散らばった残骸を呆とフェイトは見ていると、今までバルディッシュと共に過ごした短くない時間が走馬灯のように頭を駆け巡り、そして母と呼んだ者の使い魔が自分に残してくれた形見とも言うべき存在だった事を思い出した。

 

  しかしその大事な思い出が脳裏を過ぎった直後、フェイトは自身の眼下に細かくなって床に散らばってしまったのが自身の相棒だと漸く実感し、実感した直後―――

 

「う………そ…………」

 

―――と、そう呟き、その場に脱力して崩れ落ちてしまった。

 

  だが、たとえ戦意を喪失したとしても、戦う理由が未だ消えておらず且つ余力を残している状態の者を速人が見逃すはずも無く―――

 

   

 

―――又もやフェイトが聞き取れない音域の声を発し、その直後、かなり弱められた電撃がフェイトに浴びせられ、軽く痙攣しながら床に倒れ伏した後―――

 

     

 

―――と呟いて速人は機械に命令を下し、その直後、文字通り複数の光の線が全てフェイトの体を貫いた。

 

  複数の光の線は全てフェイトの重要な神経や血管を切断及び臓器を貫くといったことはなかったが、重要血管及びその周辺並びに四肢の腱や間接の殆どを貫通または抉っており、当然フェイトは床に倒れた体勢のまま起き上がる事が出来ないでいた。

 

  そして速人はその状態のフェイトを何時も通りの無感情な眼で見ながら淡淡と告げる。

 

「四肢を動かす主要な腱は焼き切った。

  更に重要血管の血管壁を一部焼き切っており、血圧の上昇や振動などで血管壁が破損して大量出血を引き起こし、それにより急激な血圧低下が起こり死亡する可能性もある。

 

  以上の事を考慮した上で答えよ。

  投降するか否か。

 

  投降するならば直ちに破損した血管壁に対して応急処置を施し、これからこの場を襲撃する高町なのはとの戦闘に巻き込まぬように配慮もしよう。

  だが、投降せぬならば高町なのは及びアースラの面面に対して人質として活用させてもらう。

  唯脅されるだけなどと思い違いせぬために述べておくが、耳の一部を抉り指の関節を砕き眼球を鑢で削る程度は手始めに行う」

 

  まるで夕食の献立を告げる様に淡淡と述べる速人。

  だが、フェイトはそれを殆ど聞き取っておらず、ただ倒れたまま首だけを動かして床に散らばったバルディッシュをぼんやりと見るだけだった。

 

  それを見た速人は、想定では錯乱気味にはなっても此方の話が通じはすると思っていたが、このままでは話が殆ど通じもしないと判断し、とりあえずフェイトに我を取り戻させられる言葉を告げた。

 

「機能中枢と思しき部品は全壊させていない。

  因って修復は可能だろう」

「!?!?」

 

  速人のその言葉にフェイトは一気に我を取り戻し、改めて床に散らばったバルディッシュを見た。

 

  床に散らばったバルディッシュはカートリッジ周辺こそ爆発を避けるために原型を残していたが、それ以外は刃の部分は散らばった体積より焼き切られる際に蒸発及び霧散した体積の方が多く、柄の部分は13の破片になるよう焼き切られており、パッと見には完全に機能停止しているとしか思えないが、確かに速人の言う通り機能中枢(コア)と呼ぶべき箇所は確かに全壊を免れていた。

  そしてこれならば記録情報を新たに作ったデバイスに移し変えて再生することや、時間は掛かるだろうが破片を回収すれば修復も可能かもしれなかった。

 

  それらの事が理解出来た瞬間、フェイトは一気に安堵の息をうつ伏せの状態で吐いた。

  そしてフェイトが我を取り戻したのを確認した瞬間、速人はフェイトに告げだす。

 

「先程は認識していないようだったのでもう一度言おう。

 

  四肢を動かす主要な腱は焼き切った。

  更に重要血管の血管壁を一部焼き切っており、血圧の上昇や振動などで血管壁が破損して大量出血を引き起こし、それにより急激な血圧低下が起こり死亡する可能性もある。

 

  以上の事を考慮した上で答えよ。

  投降するか否か。

 

  投降するならば直ちに破損した血管壁に対して応急処置を施し、これからこの場を襲撃する高町なのはとの戦闘に巻き込まぬように配慮もしよう。

  だが、投降せぬならば高町なのは及びアースラの面面に対して人質として活用させてもらう。

  唯脅されるだけなどと思い違いせぬために述べておくが、耳の一部を抉り指の関節を砕き眼球を鑢で削る程度は手始めに行う」

 

  速人のその言葉を聞き、フェイトは自分が放心しているからではなく物理的に動けないのだと漸く気付いた。

  だが、フェイトが気付いたのはそれだけではなく、緊張が解け且つ我を取り戻した為、先程までは認識していなかった痛みが自身の身を苛んでいることに気付き―――

 

「あ………あああああっっ!?!?!?

 

―――肺の空気を全て搾り出す程の絶叫を発した。

  そしてあまりの痛みの為意思とは無関係にフェイトは自分の体を掻き抱こうとした。

  だが、両手首・両肘・両肩・両髀臼・両膝・左足首と、銃弾で破壊された右足首以外の計11箇所周辺の関節と腱は全て不可視帯域のコヒーレント光で破壊され、更にフェイトに告げていないがトドメとばかりに体性運動神経を焼き切っており、フェイトの四肢は構造的に全く動けない状態であった。

  当然脳から各筋肉に指令を伝える体性運動神経が焼き切られているのでフェイトの四肢は全く動かず、その事実が激痛で錯乱状態になっている思考に追い打ちをかけ、フェイトは更に激しく錯乱してしまう。

 

「な、何で動かないのっ?!

  痛いのに!痛くて痛くて押さえたいのにっ!!

  動け動け動け動け動け!!動いて私の体っ!!!

  ああっ!ああああっっ!!あああああアアアアアアアアアッッッ?!?!?!

  痛い痛い痛いいたいいたいいたいイタイイタイイタイ!!!

  いやだ!もういやだっ!ゆるシテたすケテやメテいたイいやダオねがイなんデドウシテモウいやダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっっっ!!!

 

  フェイトは自身の現状に耐え切れず、精神の崩壊が始まる様を速人に晒していた。

  当然そんな状態のフェイトに降伏勧告を聞き入れるだけの余裕など在るはずも無く、降伏勧告を受け入れるかどうかを聞くのとフェイトの精神崩壊を防ぐ為、速人は痛みを軽減するべく―――

 

   

 

―――と呟き、可視光域外とされている光を集束させた光線でフェイトの四肢の痛覚神経を肩と髀臼で焼き切り、これによりフェイトの感じる痛みは大幅に軽減された。

  が、当然軽減されても直ぐその事に気付ける状態ではないフェイトは未だ泣き叫んでいた。

 

  そんな錯乱しながら泣き叫んでいるフェイトを速人はいつも通りの眼で見つつ、正気に戻す為には短時間といえども気絶させるのが妥当と判断し、ユーノの口に突っ込んだスローイングナイフの刃の部分を右手で持ち、右腕と腰を捻って右肩の位置を180度以上捻じり、フェイトの延髄目掛けて鉄甲作用を付加して投擲した。

 

  投擲されたスローイングナイフは日本の警察官の拳銃弾の2分程度のエネルギーしか籠められてなかったが、運動エネルギーの殆どがバリアジャケットと頚骨を貫けており、ほぼ無防備に投擲されたスローイングナイフの衝撃を延髄に受けたフェイトは即座に気絶し、当然絶叫とも悲鳴とも解釈できる声は途絶えた。

 

  フェイトが黙りこんで一秒もせずに気絶したと判断した速人は、この状況をサーチャー越しに監視しているリンディに向けて告げた。

 

「承知しているだろうが敢えて告げよう。

  既に交渉は終了しているので全面降伏以外は受け付けず、又部外者が降伏勧告を受けた者への意思伝達若しくは発言の代弁を行ったならば1名以上を処理する、と」

 

  暗にリンディ達に通信を入れればクロノ達が死ぬと言っている速人。

 

  リンディ達に告げ終わった後、速人はうつ伏せに気絶しているフェイトへと近付いていった。途中でフェイトとアルフに投擲したスローイングナイフを回収しながら。

 

  そして回収したスローイングナイフ3本を装備し直した速人は―――

 

  

 

―――と呟いた。

 

 

 

―――

 

  今の呟きは60秒以内に解除命令を出さなければ、この場の熱減体全てに最大出力の電撃と不可視帯域コヒーレント光と荷電粒子が放たれることになっており、フェイトに万が一にでも捕縛されないための備えであった。

  無論その間はこの区画へ至る全ての進入路は隔壁で閉鎖されており、隔壁の解除符号(コード)を知らぬはやてが万が一にでも半端に闇の書に覚醒して単独でこの場に現れぬ為の措置も取っていた。

  尚、障壁を一枚破壊するのにヴィータがラケーテンハンマーを使用する必要があり、破壊して進むにしても60秒で進める距離ならば速人達が居る区画が自爆しても影響が無い領域であり、更になのはがフェイトに放ったスターライトブレイカー級の攻撃が分間3発放たれても自爆の影響外までしか隔壁は破壊されず、制限時間内に力押しでこの区画に到達するのは極めて困難な構造になっていた。

 

  但し、此処の施設で立て篭もるにしろ速人の説得にしろ、どのような理由であれはやてがシャマルを同伴しているならば、シャマルは速人が居る区画までの隔壁の閉鎖を一括で解除可能であり、制限時間内に到着する事は可能ではあった。

  が、後方支援のシャマルが前線に赴こうとしているならば、ほぼ確実にそこにはシグナム達が存在しており、万が一にも自爆に巻き込まれても死亡乃至重傷に至る可能性は無いと言えた。

 

―――

 

 

 

  速人的には簡単な備えを済ませた後、速人はフェイトの近くに落ちていたバルディッシュのコアと思しき部分を恐れる事無く平然と回収し、その後壁の近くに行って操作盤を操作し、予め用意しておいた袋にバルディッシュを入れ、その後それを缶の中に入れて速乾性特殊石炭酸樹脂(ベークライト)で封印して蓋を閉め、更にそれを大型の缶に入れて又も先と同じ工程で封印した。

 

 

 

―――

 

  封印する際に使用された缶はシャマルより譲り受けたカートリッジを加工して作られた物であり、そのため魔力に対して耐性を持っているので専用の機械若しくはそれに匹敵する力量の調査(スキャン)でなければ缶のどの位置にバルディッシュが在るかは分からないようになっていた。無論超音波やX線検査等も簡単に出来ぬよう、地球の技術も使用していた。

  これに因りバルディッシュを安全に取り出すには、一旦専用機器が在る場所に送るか専用機器に匹敵する調査が可能な者を呼び寄せる必要が有り、バルディッシュがこの場で安全に封印を解かれる可能性は非常に低くなった。

 

  尚、速人は万が一自分が捕縛された際、自爆30秒前でその旨を伝える放送が流れるようにもしており、自分が死亡する可能性は1%未満と判断したので、費用対効果を考慮して自分の命を賭けたのだった。

 

―――

 

 

 

  バルディッシュを封印した後、速人はその缶を壁の収納領域に納めたりはせず、ただ缶を床に立たせて置くだけだった。

 

  そしてバルディッシュへの封印処理を終えた後速人は―――

 

   

 

―――と呟いて先の時限自爆を解除した。

  と、同時に高圧液体噴出孔よりただの水(摂氏43度)を加圧無しでフェイトに浴びせた。

  尚温水である理由は、冷水を浴びせて万が一にでも心臓麻痺で死亡されては事件終結後不利になるからであった。

 

  そして気絶しているので当然いきなり温水を浴びることになったフェイトは―――

 

「!?!?!?

  ……つぅぅぅぅぅぅぅっっっ!?!?!?!?」

 

―――熱さに耐える声ではなく、傷に沁みるのに呻く声を上げながら一気に覚醒した。

  そしてその光景を見ていた速人は、バリアジャケットについて新たに判明したことを瞬時に記憶していた。

 

 

 

―――

 

  速人は今し方、フェイトが高高摂氏43度の水を浴びせられただけで熱さに耐える声を発したのを聞き、デバイスが機能停止寸前(コアのみになるほど損壊した状態)であり且つ登録者の手元に存在せず、更に術者が気絶している場合、バリアジャケットの強度は一般的な衣服と大差無い程だと確認した。

 

 

  尚、事前にシグナム達との実験等で騎士甲冑ではあるが、単純な強度以外で事前に判明していた事は、

 

一つ、一度騎士甲冑を展開すればデバイスが封印されようとも術者の意識が健在且つ維持に宛がえる魔力が有れば、術者が騎士甲冑の消失を望まぬ限りは展開され続け且つ性能低下は起こらない。但しその場合の性能変更は、性能低下及び耐性消失の変更のみになり、性能上昇及び耐性付与を行うならば一度騎士甲冑を解除し、自身でゼロから構築する必要がある。(当然破損した箇所の修復は、一度展開を解除して再構築する必要が在る)

 

二つ、騎士甲冑を展開した状態で術者が意識を喪失した場合、デバイスと接触しているならば性能に変化は全く起こらず、デバイスが登録者より離れていた場合でも機能に不備が無いならば最低でも300メートルまでの距離ならば機能維持に問題はない。但し登録者とデバイスの間を隙間無く強力な魔力が流れていた場合や、AMF(魔力結合を拡散する力場)が発生しているならば、その出力に応じて距離は短くなる。

 

三つ、騎士甲冑は体表を覆うモノであるが、口内から直腸内に至るまでの体表は除外、若しくは効果が著しく低下する。尚、毒物並びに大気に関しては、体を包むように展開しているフィールド内に侵入した際に無毒化及び調整が始まるが、当然毒物の濃度や大気の成分割合で処理時間が変化するので万能ではない。

 

の、三つであった。

 

  そしてこの事を速人は承知しているからこそ、レイジングハートに登録されていたバリアジャケットの構築式が騎士甲冑とほぼ同様であったことから、仕様に関してもほぼ同様であると判断し、先程フェイトが気絶し且つ手元にバルディッシュが存在しない状態の時にも平然と発砲を行ったりしていたのだった。

  但し、デバイスを持たずに魔法を行使するユーノのバリアジャケットの仕様に関してはかなり不明な点が多かったが、速人は[術者の意識が途切れた場合は、安全措置として時限展開維持式に自動で切り替わる]と当たりを付けており、実際そうであったらしく、放電によって死ぬ事は無かった。(仮にユーノが死んとしても、見た目は以前と変化無くバリアジャケットが展開されており、防御力は健在だと思ったと突っぱねる算段だった)

 

―――

 

 

 

  新たに判明したバリアジャケットの仕様を確りと記憶しつつ、速人は突如浴びせられた温水に対して呻く以外に出来ない事に気付いて混乱状態になりかけたフェイトに淡淡と告げた。

 

「四肢の腱及び運動神経並びに痛覚神経は一部を除き焼き切ってある。

  人体の構造的に動かせはしない。

  更にデバイスのコアと思しき部分は封印したので、デバイスを経由した魔法発現に因る身体操作も不可能だろう」

 

  速人のその発言を聞き、フェイトは改めて自分の体が全く動かない状態だという事を理解したが、同時に少しでも気を抜くと正気を保てなくなって泣き叫びそうな全身の痛みを自覚した。

  そしてその事を見抜いている速人は更にフェイトに告げる。

 

「三度述べるが、四肢を動かす主要な腱は焼き切った。

  更に重要血管の血管壁を一部焼き切っており、血圧の上昇や振動などで血管壁が破損して大量出血を引き起こし、それにより急激な血圧低下が起こり死亡する可能性もある。

 

  以上の事を考慮した上で答えよ。

  投降するか否か。

 

  投降するならば直ちに破損した血管壁に対して応急処置を施し、これからこの場を襲撃する高町なのはとの戦闘に巻き込まぬように配慮もしよう。

  だが、投降せぬならば高町なのは及びアースラの面面に対して人質として活用させてもらう。

  唯脅されるだけなどと思い違いせぬために述べておくが、耳の一部を抉り指の関節を砕き眼球を鑢で削る程度は手始めに行う」

「!!!?」

 

  速人のその言葉を聞いたフェイトは、ここで自分が意地を張っても寧ろマイナスにしかならないと分かったが、だからと言って自分以外にアルフ達にも重傷を負わせた速人にアッサリ降るのは抵抗があった。

  しかし降伏勧告をする際の手順を心得ている速人は、フェイトが降伏することに対して抵抗が無くなるようなことを告げだす。

 

「降伏するならば望めば鎮痛剤を投与する。

  だが降伏せぬならば先に述べた通り見せしめと即座に回復されぬ為に精神崩壊させる。

 

  糞尿を垂れ流し、口を痴呆症患者の様に開けて涎を垂らして奇声を口より紡ぐ様を高町なのはに晒し、高町なのはに悔恨を抱かせたくないならば即刻降伏を受諾するのだな。

  我を忘れて吶喊すれば1秒以内にこの場に居る者と同様になるだろう」

 

  速人は降伏勧告の基本中の基本である、[相手に降伏する事が正当であると錯覚させる]、を確りと実行した。

 

 

 

―――

 

  フェイトは仮に投降を拒否したならば、後からこの場に来たなのはが正常な判断が出来ない状態になってしまい、そうなればフェイト(自分)と同じ様に一瞬にして敗北させると言われ、自分が投降することがなのはを守ることのように錯覚し、一気に投降する方へ気持ちが傾いた。

  更に投降すれば、現在脳を締め潰される感じがする程の痛みを堪える状況から開放されると聞き、更に投降する方へと気持ちが傾いた。

  しかも断れば間違い無く自分が正気を保てなくなる程の痛みがこの身を駆け巡ると言われ、最早フェイトに是非は無かった。

 

―――

 

 

 

  だが、理性と本能で納得していても、最後の一歩を踏み出す為に切欠を必要とする者は多く、フェイトも理性と本能の両方が降伏を受け入れるべきと判断していても、降伏勧告を受け入れるという言葉が出せなかった。

 

  が、そのようなことなど降伏勧告の手順の一つに手垢が付いていると言われるほど使い古された対処法があり、速人はこれでフェイトは降伏すると判断しながら告げる。

 

「それと降伏勧告を断れば先程封印したデバイスを即座に破壊する」

「!!!???」

「降伏を受諾するならば、はい、と述べよ。そしてそれ以外の言葉を一語でも発すれば即座に降伏の意思無しと判断する。

  5……4……」

 

  止めとばかりに速人はフェイトが降伏勧告を受諾しない場合はバルディッシュを破壊すると告げた。

  更に考える時間は与えぬ為、どのような意味が在るかは一切説明していないが、突如秒読みを始めた。

 

  そしてこれだけ状況を整えられればフェイトが降伏勧告に抗う術は無く―――

 

「はい!はい!降伏します!だから壊さないでっ!!」

 

―――速人の判断通り降伏した。

 

「先に了承の言葉を発したので、後の言葉は不問としよう。

  だが、降伏勧告を受諾した以上は捕虜としての立ち居振る舞いを行うように」

 

  そう言いながら速人は壁の操作盤を操作して簡易医療具一式を取り出した。

  そしてそれを持ってフェイトの傍に移動しながら更にフェイトに告げる。

 

「捕虜としての領分を越えた行動を起した際、報復として自身ではなく自身のデバイスと使い魔が処理されると認識するように。

       

  それと仮に俺が接触した瞬間に殺害乃至気絶させようと、一定時間以内にこの区画より離脱せねば自爆に巻き込まれて死亡するので、抵抗は止めておくのだな」

 

  さり気無く会話の最中に機械言語(マシンヴォイス)を混ぜる速人。

  だが殆ど唇が動かず、更に所要時間が1秒弱なので、速人の言葉を聞いていたフェイトは会話の最中の息継ぎやただの間と解釈してしまっていた。(尤も、気付けなかったからといって今のフェイトの状況が悪化するわけではなく、精精観察眼の低さが明らかになった為速人内のフェイトの評価が更に低下する程度だが)

 

  そしてフェイトの傍に着いた速人は倒れているフェイトを仰向けにし、それから簡易医療具の詰まった箱から注射器と薬瓶(鎮痛剤)を取り出し、使用準備を済ませた後に速人はフェイトに告げる。

 

「バリアジャケットを完全に解除しろ。

  応急処置も行う」

「……………」

 

  速人の言葉にフェイトは特に返事をせずにバリアジャケットを解除した。

  だが、それは特に抵抗や反意の表れではなく、単に何かを喋ろうとすると痛みを堪えきれなくなるからであり、喋れるのなら了承の意程度は返そうと思うほどフェイトが速人に抱いている敵愾心は低くなっていた。

  そしてその事を十分承知している速人は、特に返事が無いことに対して何も言わなかった。

 

  バリアジャケットを解除したのでフェイトは私服戻ってしまい、その為傷口が服の下に隠れてしまったが、速人はメスで上下の衣服を切り裂いて剥ぎ取った。

  そして上半身は裸で下半身は下着と靴だけという格好になってしまったフェイトだったが、未だ痛みを堪える事に意識の殆どを振り分けているので自身の身がどうなっているかも碌に分かっておらず、表情は依然として痛み耐えているだけで他の要素が混じっている様には見受けられなかった。

 

  フェイトの衣服を剥ぎ取った後速人はフェイトに鎮痛剤を静脈注射し、それから焼き抉った重要血管の血管壁を人工血管壁で補強した。

  その後神経や腱の縫合は自身の意志で動かれるのを防ぐ為に行わなかったが、焼き貫いた為生じた穴には生理食塩水を基本としたゲル状の治療薬で塞ぎ、その後シールを穴の両端に張ってから包帯を巻いて患部を保護しだした。

  ただ、髀臼に包帯を巻いている最中、鎮痛剤の効果が現れ始めた為思考に余裕が出始めたフェイトは、包帯を巻く為とはいえ太腿や臀部を触られ、更には開脚までさせられた為、余裕が出た思考は全て羞恥心で塗り潰されてしまっていた(当然フェイトの羞恥心など微塵も考慮していない速人は淡淡と作業を行っていた)。

 

 

 

  包帯を全て巻き終わり、その後速人はフェイトの全身を軽く診察して生命維持に支障を来たす箇所が在るかどうかを確認し、特に見受けられないと判断したので応急処置を終え、その後薄い断熱材を敷いた上にフェイトを寝かせて毛布をかけた。

  そしてそれから直ぐに速人はブドウ糖と高カロリー蛋白を自身へと投与し、先の戦闘で消費した栄養素を補給した。

 

  自身への処置も終わり(テーピングは間接の可動を僅かに妨げるので施していない)、簡易医療具を箱に詰めて壁の収納領域に納める為に速人は歩き出した。

  そして速人が箱を壁に納めた時、羞恥心がある程度落ち着いたフェイトが速人に話しかけた。

 

「あ………あの………あり……がとう。

  …………痛くなくなって助かったよ…………」

「デバイスはこの中に封印されている」

 

  速人はフェイトが話の繋ぎとして言った礼を無視し、その後に続くデバイスの所在を床に置いていた缶を拾い上げて言葉と動作で知らせた。

 

「その缶の中に………」

「正式な呼称は知らぬが、この中にCVK792―Rを搭載していたバルディッシュのコアと判断された部分は封印されている。

  尚、封印は専用機器を用いれば3時間以内に破壊できるだろう」

 

  速人のその言葉を聞き、鎮痛剤の効果の為多少意識が不明瞭なってきていたフェイトだったが、破壊という単語が引っかかり尋ね返した。(CVK792―Rというカートリッジの部品名を知っていた事は、今更ということで聞き流していた)

 

「あの……取り出し方は―――」

「缶の内部はデバイスを封入した缶が存在する。

  そしてその両内部に速乾性特殊石炭酸樹脂(ベークライト)が詰まっている。

  破壊する以外の取り出し方は、デバイスの座標を正確に補足した後に召還に近い転移を行う以外は無いだろう」

「―――破壊…………」

 

  フェイトの話を最後まで聞く気が無い、若しくは最後まで発言させる気が無いという速人の判断の表れなのか、フェイトは言いたい事を悉く途中で遮られる。

  そしてその事に、散歩の最中に行きたい場所に向かう事を飼い主に止められた犬の様な不満顔をしたフェイトが更に言葉を発す。

 

「あ―――」

「投降した者の戦闘能力の解体、若しくは封印処置は基本中の基本だ。

 

  本来破壊するはずのデバイスを封印処置で済ませたのはアリサの発言を考慮した結果だ。

  だが、それだけで満足出来ずにデバイスを自身の手元に渡す事を求めるならば、自身の立場というものをデバイスの破壊で以って知らしめよう」

「―――の……………っっ!!!?」

 

  その発言を聞いたフェイトは、自分を丁寧に治療してくれた速人が実は善い人なのではないかという思いが瞬時に崩壊し、直ぐに先程までの冷淡苛酷残忍非情という認識に修正し直した。

  そして鎮痛剤の効果で少少朦朧としだした意識を不満などで一時的に正常な状態まで覚醒させつつ、フェイトは速人に文句を言おうとした。

  だが―――

 

「一つ訊ねるが、何故道具にそれ程までに固執する?

 

  道具とは目的を達成する為の手段の一つであり目的そのモノではない。

  にも拘らず、戦闘が主目的の道具を回収する為に危険を冒す。

  俺にはその行動に至る思考が理解不能だ。

 

  この問いに答えきったのならば報酬としてデバイスを渡すが、答えるか否か述べよ」

 

―――フェイトの神経を逆撫でる疑問と、フェイトにとって予想外且つ魅力的な申し出を受け、フェイトは文句を言うべきか申し出を受けると言うべきか少しの間逡巡した。

  だが、結局文句を言って機嫌を損ねて申し出を取り消されたら台無しなので、渋渋文句を引っ込めて申し出を受けることにした。

 

「……………わかったよ。

  ………速人の疑問に答える」

 

  バルディッシュを渡された直後に再度奪われる可能性を微塵も考慮せず、あっさり速人の申し出を受けるフェイト。

  当然速人は態態その事を指摘しなかった。だがフェイトに指摘されたならば、フェイト以外がバルディッシュに干渉するまで奪わぬよう速人は契約するつもりだった。

 

  そしてそんな思惑など微塵も表情にも会話の間にも挟まず、速人はいつも通り淡淡とフェイトに告げる。

 

「契約は成った。

  違約した場合、フェイト・テスタロッサからはどのような処遇も甘んじて受ける。

 

  そして早速本題に入るが、何故道具に固執する?」

 

  報酬や契約という言葉に、フェイトは速人が微塵も自分に借りを作りたくないのだと理解し、改めてアリサと速人の関係の凄さを実感した。

  そしてもう速人と友人関係になるのは不可能だろうと思いつつ、フェイトは速人の問いに答える

 

「…………バルディッシュは道具なんかじゃない。

  …………バルディッシュは今はもういない大切な使い魔()に貰った形見で、私の大事な相棒。

  ……相棒を大事にするのは普通のことだよ」

「片方が一方的に利用するだけの存在を相棒と呼ぶのか?」

「っぅ!……バ…バルディッシュは自分の意思で私の力になってくれてるんだから一方的なんかじゃないよ!」

「そうで在れと作られ、更には調整まで受けているにも拘らず意思と呼ぶのか?

  そうだとするならば、フェイト・テスタロッサにとっての意思とは随分と易いモノなのだな」

「う………うるさいっ!

  だ…だいたいそれだったらあのシグナムって騎士のデバイスとかもそうじゃないですか!!」

「その話の逸らし方は唐突で理由が薄いな。

  他者のデバイスとの関係がどうであれ、俺が問題にしているのはフェイト・テスタロッサとそのデバイスについての関係だ。

 

  それと言い逃れ出来ぬよう述べておくが、今し方指摘した者とデバイスとの関係だが、主はデバイスの補佐を受けるに足る存在であり続けんとし、デバイスは主が自らの力の補佐を受けるに足りなければ補佐を行わないという関係であり、同等や平等ではないが対等な関係と言えるだろう。

  だがフェイト・テスタロッサのデバイスのように、主がどれほど変容しようとも補佐し続けんとし、そして主自身もその隷属し続けることに疑問を挟まぬ関係は同等でも平等でも対等でもなく、正しく道具とその使い手という関係だろう。

  尤も、フェイト・テスタロッサは道具を使役できるだけの能力がないので、道具に使われているため関係は半ば逆転しているが」

 

 

 

―――

 

  速人にとってこの遣り取りは人間の思考や心理というモノを理解するという意味合いが殆どであり、他の意味合いは殆ど含まれていなかった。

 

  無論完全に今回の戦闘に無関係ということはなく、一応フェイトに精神的外傷を負わせ、仮にフェイトが戦線復帰した際、デバイスの補佐を受ける事を拒否させるという目的も在るには在ったが、速人としては主目的に付随している目的であり、そもフェイトが現状で戦線復帰する確率はほぼゼロなので、然してその目的達成を重視していなかった。

 

―――

 

 

 

  速人はフェイトから情報を引き出すことに重きを置いているので精神を痛めつけるような攻撃的な言葉を述べたつもりはなかったが、速人の言葉は普段フェイトが日日を謳歌する為に曖昧なままにして心の奥に沈めていたコトを明確な形にしてフェイトにハッキリと認識させた。

  そして速人の判断よりも遥かに精神的に脆弱なフェイトは、自身が向き合いたくないコトを突き付けられ、徐徐に精神が軋み始めた。

 

「ち……違うっ!

  ……わた………私とバルディッシュは相棒で…………」

「どう解釈しようが相棒とは判断しかねるな。

  そも、同じ比喩表現を用いてフェイト・テスタロッサにとってのデバイスがどの様な存在であるかを表すならば、揺り篭、これに尽きるだろう」

「………揺り……篭?」

「俺なりに戦闘用途の道具に本来不必要な擬似的な人格を搭載することへの仮説の一つであり、その仮説の呼称だ」

 

  精神的に疲弊してしまっているため、精神が無防備な状態で速人と会話を続けるフェイト。

  対して速人は自白剤を投与したかの様な状態のフェイトを見、後少少精神的に疲弊させてから情報を引き出そうと判断した(その際精神崩壊を引き起こしたとしても、洗脳解体の要領で自分か管理局が精神を再構築すれば事は済むと判断していた)。

 

「望む言葉を紡ぎ、災禍より守護し、精神と肉体に安寧を齎す。

  しかもそれは全ての者の為ではなく、選ばれた一名だけのためにだ。

  そしてそれによって選ばれた者は甘やかされ続け、精神的な成熟など望むべくもない。

 

  故に揺り篭と呼称した」

「………………………」

 

  考えたこともなかった考えを聞かされ、フェイトは呆然としていた。が、速人はそれを気に留めず話し続ける。

 

「これまで得た情報と先程の戦闘で得た情報から推測するが、多くの人間、少なくともフェイト・テスタロッサは、自身の全てを理解し、あらゆる命に従い、そして対等と()()()存在、つまり相棒(揺り篭)と呼ぶべき都合の良いモノを欲していると判断した。

 

  自身の認識を訊き出した方が情報の精度が高い場合が多いが、現状でそれを行えば時間が掛かるので確認に切り替える。

  で、確認をするが、今述べた認識で相違ないか?」

 

  フェイトにとって心の奥底に封じて目を背け続けていたいことを、宛ら哲学者か心理学者の様に的確に解析して突き付ける速人。

  だがフェイトは―――

 

「………………違う……違う………バルディッシュは………違う………相棒で………違う…………」

 

―――と、既に精神崩壊の兆しが見え始めている状態で、まともな返事はなかった。

  そしてその反応で答えとして十分だった速人としてはそれ以上特に質問はしなかった。

  ただ、最後にフェイトの返答がまず無いのを承知で、まるで独り言の様に速人は告げた。

 

「…やはり精神を置き去りに進化(発達)する人間(文明)の行き着く先は自滅か」

 

  そう呟いた直後、速人は人間の可聴音域外の周波で、光波・電磁波・超音波・熱・振動等の観測機に因り、上空から熱源無しにも拘らず自由落下ではない移動速度で此方に向かってくる物体有りとの警報を受けた。

 

 

 

―――

 

  現在速人が施設のスピーカーから受けている警報は、常人に聞こえない音域というだけでなく、速人がこの施設の機械に命令を下すマシンヴォイスと同じであり、一語に一万語以上の情報が圧縮されたモノであった。

 

  そしてその膨大な情報を短時間で受け且つ瞬間的に理解している速人は、此方に接近している物体がなのはであると判断した(映像の情報も音声化されて受け取っているので、脳内で映像に再構築している)。

 

―――

 

 

 

  とりあえず速人は接近してくるのが魔導師な為、不意を突かれたなどという認識にさせぬよう、迎撃対象から外すよう―――

 

   

 

―――と呟いて指示を出し、この区画までは妨害を受けずに来ることができるようにした(速人が殺すつもりならばなのはは≒100%と表記される確率で死亡していた)。

 

  そしてなのはがこの区画に到着するまで200秒を切り、残時間で速人は迎撃の為の用意をするのだった。

 

 

 

――― Side  天神 速人 ――― 

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― ?????? ――――

 

 

 

  死ぬ気は無いだろうが、死ぬだろう行為に及ぶのが痛い程理解出来ていた。

 

  大方、[非魔導師の自分が、管理局がその行動の責任を預かる者に殺害乃至重傷を負わせられたのならば其れは管理局の失態となり、如いては主が法廷に立たれた時に確実にプラスと成る]、などと考えていると…………本当に………痛い程解った。

 

  そして………おそらくワザと傷付いたことが知られたとしても、質量兵器を用いて相手を半殺しにした事に対して正当防衛との言い分を確立させる為と言い張り、決して真意を悟らせないだろう事も分かった

  と言うよりも……………万が一相手に悟られるような戦闘を行ってしまったなら、即刻死人に口無しとばかりに自滅し、自身に尋ねられることを防ぐことが容易に予測できた。

 

 

  正直………自身の命を何かを成す為の一つの道具と捕らえ、………命を使い潰す過程の苦しみを取るに足りないと思っているその在り方があまりに異質すぎて、……………善悪正邪の判断ができなかった。

  だが、恐らく誰の為でもなく、況してや自身の為などでもなく、…………ただ自身で決めたコトを成し遂げるだけという在り方なのだとしても、…………その意志が自分の意思に因るものだということが…………私には叫びだしたいほど貴く、そして泣き出したい程嬉しく感じられた。

 

 

 

  ―――― ?????? ――――

  Interlude out

 

 

 

 

 

 

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  第二十話:各の思い――――了


【後書】

 

 

  え〜、今回も色色な作者の事情でなのは戦は見送られました。

  もしも楽しみされていた方が居られたなら、もう頭下げるしか詫び方が御座いません。

  本当にすみませんでしたっ。

 

  それと今回はかなりごちゃごちゃしており、もう次の話への繋ぎとしての話なのが丸分かりの出来になっていますが、自分ではこれが限界っぽいです。

  はっきり言っておまけの方が完成度高いと思っています。

  あと、題名ですが、各各でなく各であってます(どっちも読みは同じです)。誤字じゃありませんよ?

 

 

  掲示板でなのはの空気読まなさ加減(特にIF)についての指摘がありましたが、本編のなのははまだ子供で経験が浅いので仕方ありませんけど、IF編に関してはなのはが物凄まじく速人が嫌いで(自覚すれば殺意へと早変わりするくらい)、速人が絡むと無闇矢鱈に突っかかるのであのようになっているだけです。

  尚、IF編でなのはが速人に対して異常な対抗意識を燃やしている一つの原因は、はやてがなのはが居る教導隊に訪問している際、階級が下にも拘らず対等に話しかけてるのを速人が諌め、その後イロイロ言われて怒ったなのはがバリアジャケットを展開しかけた瞬間に速人が気絶させたのが一つの原因です(要するに恥を掻かされたという逆怨みです)。

  因みにその際は速人の話術もあり、呆気無く正当防衛ということになり、なのはは正当防衛で返り討ちにあったと、知る人は知るレッテルが存在していたりします。(なのはがバリアジャケットを纏った()()ならば、速人はなのはと1兆回戦っても負けません)

  あと、なのはが速人を嫌っている理由に、決め台詞の[言葉にしてくれなきゃ伝わらない]に対して「積算が出来ぬ者に態態指導してまで話す様な真似をする気は無い」、と返したのも原因の一つです。(……なのは全否定ですね)

 

 

  それと本編とは関係ありませんが、おまけでリインフォースと速人を書くのが楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しすぎます。(尚、自分はPSPはやっておりませんので、リインフォースの喋り方が食い違う可能性は大ですので、違ってたらどんどんツッコンで下さい。お願いします)

  後、おまけを作成していてふと「サブキャラ、しかも本来は死別してるんなら、オリジナルキャラとくっつけても問題ないんじゃないだろうか?」、と、本気で考えたりしました。

  尤も、自分はくっつけるのが目的というより、その過程や後のはやて達との遣り取りが目的なんで、ラブラブにはまずならないでしょうが(特に速人とリインフォースでは)。

 

  しかし………なんだかはやてと速人は絶対結ばれない気がしてきました。

  そもそもはやての速人に対する感情は、父に対するような憧憬と、兄や弟に対するような親愛と、家族を失うことへの強迫観念、という三つが交じり合ったモノで、恋愛の情ではないでしょうし(多分ヴィータも同じでしょう)。

  因みに自分的に速人が恋するなり愛するなりの場合の予測は、

【想いは胸に秘めて一人身が3・リインフォースと番になるが3(告白された場合とした場合が半半)・恋愛感情を自覚した瞬間に自身か相手の殺害が2・???が2】、

と、考えています。

  …………何気に物騒な可能性が混じってるのが速人らしいです。

 

 

  後次回予告の様なものですが、漸く速人のターンが終りそうです。

  ですので、次回からが自分的には面白くなるんじゃないかな〜、と思っています。

  特に次回は、今回特にこれといった見所が無かったことや、漸くA‘S編の真ヒロイン(寧ろ神ヒロイン)が降臨するので、もう気合入りまくりです。

 

 

 

  毎回誤字修正版も多数投稿して御手を煩わせた上感想を頂ける管理人様と御読み下さった方に沢山の感謝を申し上げます。

  特に前回の投稿に際しては誤字修正したファイルを17も投稿してしまい、管理人様には本当に頭を下げるしかありません。大変すみませんでした。

 

 

 

                                     

 

 

 

【作中補足】

 

 

 

                                     

 

 

【速人の身体能力や其の他】

 

  速人の身体能力は外観通り平均的な12歳(数え年)の子供で、筋異常でもないので正真正銘普通の子供の身体能力です。

 

  ですが速人は自身の身体が理論上実行可能なことをほぼ100%実行可能ですので、身体能力自体は普通ですが操作法に差が在るので、実際に出来ることにはかなり開きがあります。

  但し現在は身体が未成熟な子供且つ薬物や怪我や睡眠不足等が原因で、単純な肉体的強度はアリサにも劣っています。

  あと、脳内の人間として欠けているモノの領域を使用しているので潜在能力等を普通に行使可能なのですが、欠けているモノの中には恐怖を感じた際の脳内アドレナリンの分泌といった反射と言うか生理と呼べるモノも多く含まれています。

 

  それと速人のスキルを型月風に表記するなら、

特殊思考(マニア受け):A】【人心掌握術:A】【軍略:A+++】【高速思考:A++++】【黄金率:A(EX)】【自制:EX】【正論(屁理屈)展開(アンチなのは):EX】、

って感じでしょうかね(ネタですけど)。

 

  因みにアリサと結婚して企業運営でもし始めれば5年で地球の経済を牛耳れますし、カリムと結婚して聖王教会の運営に口出しし始めれば3年でベルカ自治領を無血でミッドチルダ全域に広げられ、はやてと結婚すれば…………特に劇的な変化はありません。

 

 

                                     

 

 

 

【作中補足終了】

 

 

 

                                     

 

 

 

【おまけ・壱】(ある日のアリサ宅(正史ではなくIFに成る可能性有り))

 

 

                                     

 

 

 

ようこそ(よくもノコノコ面出しやがったな)君が速人君だね(お前が娘を誑かした野郎だな)?」

「……………」(←アリサ)

「……旦那様、本音と建前が逆になっております……」

「おっとっ、失礼。

  ………ゴホン、では改めて………よくぞ娘を誑かしていながらこの家の敷居を跨げたな、その勇気に免じて時世の句を詠ませる情けはかけてやろう」

「…………………………」(←アリサ)

「…………旦那様、一度落ち着いて下さい」

「何を言う鮫島。

  私はこれ以上無い程落ち着いている。

 

  そう……今の私の心は月に刀を翳して殺意を研ぐ侍の如く、落ち着きと決意で満ち満ちている」

 

  そう言いながら腰にさしていたフェンシング用のサーベル(刃引き無し)を抜剣するアリサの父(デビット)

  そしてサーベルを構えながらデビットはアリサに微笑みながら話しかける。

 

「さあアリサ、お前をそんな冷たい眼でしか見ていない奴の傍からは今すぐ離れるんだ。

  私はこれからこの不届き者に父の愛にかけて断末魔の声を詫びに変えさせねばならないのだから」

「………………………………パパ………ちょっと落ち着いて話を聞いてくれる?」

「ああアリサがそう望むならいくらでも話を聞こう。

  だが!アリサに話かけられた幸福で舞い上がっている心を落ち着けるのは、如何にアリサの頼みといえど容易ではない!いや寧ろ自制不可能と言えるだろう!

  因って残念だがアリサの話を落ち着いて聞くなど私には出来ない!」

「…………」

 

  父の(醜態)に痛む頭を押さえつつ、アリサは静かにデビットの傍に近寄っていく。

 

「おお!アリサ!漸くあんな男の傍から離れてくれたね!

 

  そうとも!アリサに―――」

「おやすみなさい」

「―――相ぅVAAAAっっっっ!?!?!?!?!?

 

  両腕を広げて胸に飛び込んで来てくれと言わんばかりのデビットの近くまで寄ったアリサは、デビットに抱きすくめられる前に、速人に貰った異常すぎる程高性能なスタンガンを、[深刻な後遺症が残り難い]と表記されている出力目盛りに合わせてから押し付けた。

  結果、冬眠直前の皮下脂肪の厚い熊すら一撃で倒せる電圧と電流をその身に受けたデビットは、当然瞬間的に気絶してしまった。

  そしてそのままアリサを押し潰す様にうつ伏せに倒れるかと思われたのだが、父の愛という執念なのか、それとも単に背広の背中の部分に仕込んでいた金属製の道具が原因で重心が後ろに傾いたのかは不明だが、とにかくアリサには一切負担をかける事無くデビットは倒れ伏した。

 

  倒れ伏したデビットを見てアリサは深い溜息を吐いたが、下手したら直ぐにデビットが回復する可能性が在ったので、急いで鮫島に用意させていた頑丈なワイヤーでデビットを縄抜け出来ないよう本縛りでアリサは拘束した(本縛りは速人に教えてもらった)。

  そしてデビットを拘束し終えた後、アリサは疲れた表情をしながら鮫島に告げる。

 

「鮫島、パパを台車に乗せて運んできてちょうだい。

  その方が後であたし達が動かしやすいから。

 

  あ、当然拘束は解かないでね。

  って言うか、簡単に解けないように結んだから、解くより切断する方が早いわよ。

  それと解放するなら特殊ワイヤーカッターを持ってるママの所に届けた方がいいわよ」

「了解致しました。

 

  しかし御嬢様………本当に御立派に成られましたなぁ。

  …………この鮫島、日毎眼に見える成長を遂げていく御嬢様の傍に控える事が出来、光栄の至りで御座います」

「まだまだよ。

  あたしはヒトの限界を更新し続ける速人と違って、人間っていう種全体の限界を押し上げる程の存在になるって決めたんだから。

  ………まだまだあたしはスタート地点にすら立ってないわ。

  だからその褒め言葉はあたしが偉業を成し遂げた時の為に取って置いてちょうだい」

「おお………それまではこの鮫島、何としても御嬢様に現役として仕え続けましょうぞ」

「ええ、頼りにしてるわ」

「有り難き御言葉。

 

  ……では私はこれより旦那様を運搬する為の台車を調達してまいります」

 

  そう言って鮫島はデビットを抱えて台車が在る場所へと立ち去っていった。(抱きかかえて行った理由は、仮に意識が戻った際に何処かに移動される事を防ぐ為等である)

 

  そして鮫島が去った為場にはアリサと速人だけになり(遠くにはメイドが控えているが)、アリサは速人に振り返りながら言う。

 

「それじゃあママに紹介するから着いてきて」

「解った」

 

  それだけ言ってアリサは以前から両親に紹介してほしいと言われていた速人を紹介する為、何一つ気負う事無くリビングルームに向かって歩き出し、速人は黙ってアリサの後ろを歩き出した。

 

  そしてその光景を遠くから眺めていたメイド達は、アリサが異性を一人だけ連れて来て親に紹介するという言葉を聞き、アリサ×速人か、速人×アリサかを談義しだした。

 

 

 

  その後紆余曲折を経たが、アリサの両親は速人の非常識さを十二分に理解した。

  その後両親から[アリサとよくしてくれ]と言われ、速人が「言われたからと行動する気は無いが、結果としてはそうなるだろう」と答え、アリサも含めて両親はその言葉に満足気に頷いた。

 

  ただ、アリサの両親はアリサの伴侶としての意味を込めていたが、速人とアリサは友人としてと解釈しており、この擦れ違いに気付くのに数年を要することになるのだった。

 

  尚、その日からデビットはいつか速人がアリサを娶る時、「アリサを娶るならば私を超えてみろ!!!」、と言うのに備え、日日殺人術を磨き続けるのだった。

  速人の事を能力的にもアリサとの仲を認めたとしても、父としてはどうしても譲れない一線が在るらしく、日日培われていく殺人術は軍隊格闘術の専門家をも驚かせる領域の凄まじいモノだった。

 

 

 

【終る】

 

 

 

                                     

 

 

 

【おまけ・弐】(ある日の速人とリインフォース(正史ではなくIFに成る可能性有り))

 

 

 

                                     

 

 

 

「「「「「……………………………………………………は?」」」」」

 

  自分の眼に映る光景が理解しきれず、眼を点にしながら気の抜けた声を発するはやて達。

  そしてそれぞれの呟きは小さかったが、五名同時に呟くとそれなりに部屋に響き、それにより―――

 

「……うっ………んっ………」

 

―――と、同性であっても見惚れる容姿のリインフォースが若干艶の混じった呻きを漏らしながら眼を覚ました。

 

  そして目覚めて直ぐにはやて達が扉の前で固まっているのを認知し、何故そんなところで固まっているかは分からなかったが、取り敢えずリインフォースは朝の挨拶をすることにし、はやての前ということもあったため、横着せずにベッドから起き出て挨拶をしようとした。

 

  だが、掛け布団を退けて両足をベッドの外に出そうとした時、そこで初めて自分が裸だという事に気付き、ザフィーラの視線よりも主の前で裸体を晒したまま挨拶を行うことへの羞恥が湧き上がり、慌てて両足を掛け布団に引っ込めつつ胸元を急いで掛け布団で隠しつつ、少し上ずった声で挨拶をした。

 

「お、お早う御座います、主。

  裸体ですので座りながらの挨拶となりますが、御容赦して下さい」

 

  そう言って額が膝の上の掛け布団に着く程頭を下げるリインフォース。

  それによって背の高いザフィーラからはリインフォースの背中が丸見えになり、我を取り戻したザフィーラは黙ってリインフォースが見えない位置へと移動した。

 

  そしてザフィーラが移動する足音で我を取り戻したはやて達は、震える指でリインフォースを指し示しながら言葉を発する。

 

「「「「リ………リイン、…………そ…………その格好……は?………」」」」

 

  驚愕の表情で自分を指差すはやて達に、みっともないところを見られたとばかりに少し頬を染めながらリインフォースが答えを返す。

 

「昨日…………というより本日の祝賀会の折、洋酒で寝衣と下着を濡らされてしまい、丁度代えの寝衣も下着も無く、止むを得ず裸で寝ていたわけです」

 

  そうリインフォースが述べ終わった直後、突如隣にいた者がいつも通りの淡淡とした声でリインフォースに続いた。

 

「同じく、だ」

 

  そう言いながら速人も上半身だけ身を起した。

  その後直ぐに隣に居たリインフォースと速人は眼が合い、頷きすらせずに視線のみで挨拶を交し合った。

  尚、挨拶を交した直後、速人に変化は無かったがリインフォースは僅かに微笑んだ。

 

  そしてそれを見たはやて達はとうとう色色と限界突破したらしく―――

 

「二人してナニしとったん!?!?!?」

「なんでハヤトとリインが裸で一緒に寝てんだよぉっっ!!!???」

「その肩の真新しい引っ掻き傷は何ですかっっっ?!?!?!」

「何故気付いても離れない???!!!」

 

―――と、凄まじい肺活量と発声量による大声とそれに負けない剣幕で速人とリインフォースに詰め寄った。

 

 

 

  その後、何とか両名の口から詳細を聞き出し、取りあえず渋渋不承不承ながらも一応納得したはやて達は、直ぐに速人とリインフォースに清く正しく美しい距離感を教え込み始めた。

  だが、教え始めて直ぐに速人とリインフォースは、互いに関しては常軌を逸した隙だらけの様を平気で晒すということが判明した。

  更に双方少なからず自覚はあるようだが、双方ともその思考を改める必要性をまるで理解出来ていないことにはやて達は頭を悩ませるのだった。

 

  そして、扉の前から離れていたザフィーラは、先程見たリインフォースの裸体が思考から離れず、何とかその光景を思考より追い出す為に悪戦苦闘してしまった為入る機を逃してしまい、止むを得ずリビングで狼形態になって思考を落ち着けながら待っていた。

  だが、何故かリインフォースの裸体だけでなく速人の寝顔まで強く記憶に残ってしまい、ザフィーラはこの頃から自分の潜在思考を疑うようになり始めたのだった。

 

 

 

  尚、結局この様な事態はこれ以降にも少なくとも年に6回、多ければ年に20回以上発生し、後に生まれたツヴァイに多大な影響を齎した。

 

 

 

【終る】

 

 

 

                                     



フェイトを完全に押さえ込んだな。
美姫 「なのは戦では人質として使えるけれど、実際の所はどうするかしらね」
必要なら迷わずに使うだろうけれど、果たして必要とするかどうかだな。
美姫 「時間的な事を考えれば、無駄に時間を使うのも勿体無いからね」
だとすると、使うか。うーん、次回が気になるな〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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