Interlude

  ―――― 高町 なのは ――――

 

 

 

  あたしが小さいころ、お父さんが怪我をした。

  治療費が必要だからお母さんだけじゃなくて、お兄ちゃんにお姉ちゃんもお店で働いた。

  だけど、お父さんは病院で、お母さんはお店で、お兄ちゃんとお姉ちゃんは学校と剣の運動とお店の手伝いだから、あたしはいつも一人だった。

 

  朝ごはんはみんな出て行ってるから一人で食べて、幼稚園へは玄関の鍵を閉めて一人でバスに乗り込んで、幼稚園から誰も居ない家に帰ってきて、夕ごはんはお母さん達と食べるけど、終わればお母さんはお店に戻って、お兄ちゃんとお姉ちゃんは剣の運動に直ぐ出かけるから、寝るまではあたし一人だった。

  一人は寂しいから一緒に居てほしかったけど、[良い子で待っててね]、ってみんなが言うから、わがままを言わないでいた(良い子のまますごした)

 

 

  小学生になって少したった時、意地悪をしてる子を見かけたから、良い子でいるために意地悪をやめさせた。

  叩いたけれど、泣いてる子の心はもっと痛いはずだから、それを気づかせるために叩いたから私は全然良い子で、良い子だったからその後でその子達と友達になれた。

 

 

  三年生になって少したった時、あたしは魔法と出会った。

 

  魔法の才能があったあたしは、今までとおり良い子でいるためにユーノ君の手伝いをして、一人ぼっちだったフェイトちゃんと友達になってあげたり、フェイトちゃんを虐めてた人を倒すのに協力した。

  そして良いことをしたからフェイトちゃんだけじゃなくて、ユーノ君以外にアースラの人たちとも仲良くなった。

 

  だからあたしがしたことは全然間違ってなくて、あたしは良い子だって自信がついた。

 

 

  魔法と出会って半年ぐらいたった時、すずかちゃんの紹介ではやてちゃんとあの人と会った。

 

  はやてちゃんは足が動かなくてかわいそうな子だったけど、それ以外は全然普通のやさしい女の子だったから、すぐに友達になってあげれた。

  だけど、あの人とは友達にならなかった。

 

  魔法を知らないから仕方ないといっても、質量兵器(危ない物)を考えて売ってるだけじゃなくて、それを悪いとも考えていない悪い人だったから、それを何とかしてからじゃないと友達になってあげるのはだめだと思った。

  だけど、そう思ったその日にそんなのんびりしたことは言えないと思い知った。

 

  いくら相手がナイフを持ってたからって、刺し返したりするのはやりすぎだと思ったから、刺し返すくらいなら逃げ続けるか人を呼べばいいと言ったけれど、その人じゃなくてアリサちゃんがあたしの言うことを否定した。

  しかもはっきりとは口にしてないけど、すずかちゃんとはやてちゃんもそんな感じで、あたしの友達をいつのまにか悪い子にするあの人は悪い人なんかじゃなくて、すごく悪い人なんだって分かった。

 

  はやてちゃんは一緒に住んでるから仕方ないけど、会ったばかりのアリサちゃんとすずかちゃんがあんなすごく悪い人の考えに染まっているのを知った時、少しでも速くあの人をみんなから遠ざけなきゃあたしも悪い子になっちゃうから、みんなを良い子に戻してあげられないと思った。

  だけど思ってすぐのころは人を刺したから警察に捕まるから安心してたけど、人を刺したのに正当防衛とかいうよく分からない理由で捕まらなかった。

  だからあたしはあの人をどうにかすることが出来るまで、アリサちゃんたちがあの人と会わないようにしようとした。

  なのに、いつの間にかアリサちゃん達はあの人の悪いところを好きになってて、あの人と会うのを止められなかった。

 

  アリサちゃんがさらわれた時に無駄だって言ったあと、嫌がるはやてちゃんと無理やり家に帰っちゃうような薄情な人で、しかもアリサちゃんが居る場所を知ってたのにあたしたちに隠したり、失敗したらアリサちゃんが危ないってのに魔法が使えない(何も力が無い)のに一人で解決しようとするほど勝手な考え無しだったり、相手が誰かも分かっていないならお話せずに攻撃するようなとんでもない人だったりするって教えてあげたのに、アリサちゃんはそれでもあの人のことをすごく気に入っていた。

  アリサちゃんが助かった後に全部そのことを教えてあげたらアリサちゃんが良い子に戻ると信じて、あたしが一生懸命あの人がすごく悪い人だって教えてあげたっていうのに、アリサちゃんは最初は笑って聞いてるだけで、最後は何でかあの人じゃなくてあたしに怒りだした。

 

 

  アリサちゃんがさらわれた後からはやてちゃんがどこかの病院に行った。

  そしてちょうどあの人もはやてちゃんについて行っていなくなったとき、はやてちゃんが病院にいる間がチャンスだと思って、何回もあの人がすごく悪い人だってアリサちゃんとすずかちゃんに教えてあげたり、世の中には鉄砲とか以外に魔法(素敵な力)があるはずなんだから、あの人のやってることは間違いだって何回も教えてあげた。

  なのに、[銃に取って代わるような何かは銃より危険に決まってるでしょうが]、なんて、魔法のことを知らないから仕方ないけれど、アリサちゃんだけでなくてすずかちゃんもすごく良くない考えをしちゃうようになってた。

 

 

  結局アリサちゃんたちを良い子に戻すことができないままクリスマスイヴになった。

  本当ならはやてちゃんの家でクリスマスパーティーをする筈だったけど、急にリンディさんに呼ばれたから、あの人がいるところにあたしがいなかったらみんなますます悪い子になっちゃうって心配だったけど、今の事件を解決するほうが大事だからアースラに行った。

 

  アースラに行ったら闇の書が実は夜天の書って名前で、しかも今のままなら蒐集が終わったら主を乗っ取って死ぬまで暴走する危険な物だって分かった。

  だけど蒐集が終わる前にお話して管理局に来てもらえば直せるかもしれないから、これで事件が終わると思った。

 

  だけど、夕方から夜になってすぐのころ、地球で結界の反応があったって報告があった。

  そしてすぐに結界が壊れたらしくて、すぐに結界の中の人たちが映ったとき、あたしはびっくりするよりもすごく頭にきた。

 

  魔法を知らないから質量兵器を作ってたと思ったのに、魔法を知ってるのに質量兵器を作ってたんだと分かったとき、あの人はクロノ君が前に少しだけ話してた反管理局のテロの人で、あたしたちにバレたときに人質として使う為にはやてちゃんだけでなくてアリサちゃんやすずかちゃんに近づいたと分かって、すごく頭にきた。

  だからすぐに出ようとしたけど、局員じゃないあたしがいきなり出向くと面倒になるからって言われて、代わりにクロノ君が出ることになった。

 

  魔法が使えるクロノ君が魔法が使えない上に逃げ場の無いあの人の前に立ったとき、誰もが降参するか捕まえられるかのどっちかだと思った。

  だけどあの人はクロノ君が話している最中に卑怯な不意打ちをして、あっという間にクロノ君を倒してしまった。

  しかもその後レイジングハートがまだ直ってないからとあたしを置いて行ったフェイトちゃんたちも、クロノ君を人質にとられてフェイトちゃんがやられて、その次はフェイトちゃんを人質に取られたアルフさんがやられて、最後にやられたみんなを護ろうとしていたユーノ君がやられてしまった。

 

  そしてレイジングハートが治るまでの間、あの人はとんでもなく悪いことをやっていたのを平気な顔で言った。

  全部は分からなかったけど、あの人がみんなを…………はやてちゃんを騙してて、蒐集してるのを気づかせなかったり、シグナムさんたちを騙して蒐集させたり、アリサちゃんとすずかちゃんを騙してあたしの敵になるようにしたりしたのだけは分かった。

 

 

  レイジングハートが直ってすぐにあの人がいる所に急いで行った。

 

  本当は戦いたくなんて無かった。

  フェイトちゃん達に酷い事をしたのは許せないけど、それでもはやてちゃんのためにやっているんなら、きちんとお話すれば分かってくれると思った。

  だから動きを止めようとしたけど、あたしが撃った魔法のほとんどが見えない攻撃で直ぐに相殺された。

  バインドも何度か成功したのに、成功した瞬間直ぐに壊された。

 

  魔導師じゃないのに戦って、しかも危ない質量兵器を使ってあたしに攻撃してきた。

  でも、何度も危ない質量兵器を使ってきても、あたしは一生懸命にお話しようとした。

  なのに、全然お話してくれなかった。

 

 

  そして漸く追い詰めたと思ったら、あたしを無視してレイジングハートとだけお話を始めた。

  一生懸命お話しようとしたあたしを無視してレイジングハートとだけ話していたのも許せなかったのに、どっちも魔法じゃない質量兵器のほうがあたしより強いって言い出した。

 

  さっきまであれだけあたしが押してたのに、どっちもそんなこと忘れて、あたしを除け者にして好き勝手お話ししてたから、少し二人の目を覚まさせようとしたら、何か凄い攻撃があたしに直撃した。

 

 

  一回直撃しただけでこんなにボロボロになるんだから、普通の人ならとっくに死んでると思った。

  そしてあたしの防御力が高いから直撃しても死ななかったけど、普通の人なら絶対死んでる攻撃をあたしにしたんだから、あたしを殺すつもりだと分かった。

 

  だけど…………あたしを殺すつもりで撃った攻撃でも少し怪我する程度で済んだってのに、それでも質量平気が強いような事を言い続けていたから、どっちの目も覚まさせるため、あたしの魔法であたしと質量兵器の差を思い知らせてやろうって思った。

  あたしが死ねばフェイトちゃん達も危険な眼にあうから、これ以上お話しする暇も無いから丁度いいとも思った。

 

 

  そしてあたしの用意した罠に簡単にはまって、あたしの全力全開の一撃を受ける直前、いきなり壁を下ろしたりした。

 

  降参のつもりかもしれなかったけど、あたしが上だって思い知らせるためにも、それに止めた後反撃を受けるかもしれなかったから、止める気なんて微塵も無かった。

 

 

  そしてあたしの攻撃があたっても、うずくまって気絶するくらいで済んでるのを見て、これでようやくお話できると思ってあやまってもらおうとしたら急に攻撃を受けた。

 

  何とか攻撃を撃ち落したけれど、他の相手に閉じ込められてしまった。

  だけど少しレイジングハートに無理してもらって、直ぐ無事に変わったバインドを壊せたあたしは、誰も傷付かないで済むかもしれない方法を話すためにお話しようした。

  なのになんでかお話してくれるどころかあたしに攻撃してきて、あたしは攻撃を受けて怪我して倒れた。

 

  そして痛くて痛くて苦しんでる時、すずかちゃんがあの人たちの傍で、助けにも来ないで話しかけてきた。

 

 

  なんで助けてくれないのか訊きたかったけれど、まずは自分達が騙されてその人たちの傍にいるんだって分かってもらうため、訊かれたとおりにあたしが今何をしようとしているかを答えた。

  なのにすぐさまアリサちゃんがなんでか怒ったような声であたしにあの人がどうなってるのかを訊いてきたから、〔あの人はあたしが倒して動かないから安心していいよ?〕、ってつもりであたしが倒したと言った。

 

  だけどその瞬間アリサちゃんはあの人が怪我してるって言い出した。

  あたしの心配もしないであの人だけ心配して、しかもあたしが悪いみたいに言い出した。

 

  あの人が死ぬかもしれないってことであたしの心配をしないで怒ってたみたいだけど、謝った後にアースラに運べば直ぐに治るって言ったら、魔法の凄さに驚いたのか喋らなくなった。

 

  そしてようやくあたしを心配する言葉が聞けると思ったのに、何でかアリサちゃんはあたしが誰かを不幸にしてるのに気付いているかって訊いてきた。

  しかもまるであたしが誰かを不幸にしてるみたいな言い振りで。

 

 

  流石に怒ったあたしは怒鳴って否定した。

  良いことだけしようとしてるあたしは、誰かを不幸になんてしないって。

 

  だけどあたしがそう言ったのに、〔勘違いしてごめんね〕、の言葉も言わずにアリサちゃんはなんでかあの人の傍に向かった。

 

  そしてアリサちゃんが騙されているから目を覚ましてやろうと声をかけようとしたら、今度はすずかちゃんが話しかけてきた。

  今のはやてちゃんを見て、あたしが不幸にしてないか、って。

 

  それを聞いた時、どうしてあの人がみんなを騙して手不幸にしてるのをあたしのせいにするのかが分からず、すずかちゃんに怒りながらそう答えた。

 

  そしたらあたしが怒っていたからなのか、すずかちゃんもアリサちゃんと同じように怪我したあたしを放ってあの人の傍に向かった。

 

 

  友達だと思ってた二人があの人に騙されてるからといっても、簡単にあたしを見捨てたことにショックを受けてたら、フェイトちゃんが前に言ってたシグナムってプログラムの騎士が、あたしに黙るよう脅迫してきた。

 

  だけどお話すれば分かり合えると思ってお話しようとしたら、頭に凄い衝撃を受けた。

 

  誰も傷付かずに幸せになれるように…………良い子でいようと一生懸命がんばったのに、どうして誰も分かってくれないんだろうと思いながら、あたしの目の前は真っ暗になった

 

 

 

―――― 高町 なのは ――――

Interlude out 

 

 

 

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

第二十二話仮:離別と絶縁

 

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――― Side ??????? ―――

 

 

 

  地下施設の室内にも拘らず、宛ら星空を見上げるかの如くに天井を仰ぎ見ていた存在は、流れる涙を拭いもせずに独白を始めた。

 

「全てが終わってしまった…………………。

 

  繰り返される惨事を幾度も見続け、悲しむことにすら疲れてしまう程繰り返し、その果てに漸く得難き主と現状を打破出来る可能性を秘めた者に巡り逢えたというのに…………………全てが終わってしまった」

 

  目を閉じ、暫し沈黙した後、再び怨嗟とも言える独白を銀髪赫眼の存在は再開した。

 

「初めから闇を抱えて潔く滅ぶ事を選んでいれば…………………。

  今更希望に魅せられて幸福を求めなければ…………。

  何より…自分が化け物だと分際を弁えていれば!!!

 

  その言葉と同時に独白を続けていた存在は見えない星空を仰ぎ見るかの如き行為を止め、小さくなった上に奇妙な体勢で壁に寄りかかっている速人の死体を見、目を閉じて暫し俯いた後、懺悔する様に呟いた

 

「……………斯うはならなかった」

 

  その言葉と同時に、周囲は僅かな空調の音が痛い程響き渡る静寂に満ちた。

 

 

  そして、独白した存在の足元に、十に届く程涙が流れ落ちた頃、静かにその存在は速人だった死体へと歩みを進めながら、懺悔としか思えない言葉を紡ぎだした。

 

「ああ、…………完全に私や主達の為だけでなく、自身の目的の為に行動していたことは察していた。

  だから…………それを言い訳に高い確率で死傷すると解っていたにも拘らず………………その果てに辿り着ける幸福に魅せられ………………主を悲しませると知りつつも………騎士の誇りを失うと知りつつも………外道に身を堕とすと知りつつも………その策に懸けてしまった。

  …………………自分の命ではなく、賭けを持ちかけた本人の命を……」

 

  歯や唇を噛み締めたり体が震えたりもしていなかったが、発せられる言葉は聞くだけで涙を流してしまいそうな悲憤が籠もっており、誰もがその言葉に呑まれたかのように身動き所か言葉一つ発さず黙って聞いていた。

 

「…………自分の目的の為に行動しているとしても、私や主達を慮らなければ……此処まで不利な状況下で挑むこともしなかっただろうに、…………私は欲に目が眩み、私が何よりも望んだモノを危険に曝し、……………自身の望みを自身でどうしようもなく汚してしまった………」

 

  静かに、そして緩慢に歩きながら言葉は紡がれ、やがて死体の傍に辿り着き、両膝を懺悔するように着きつつ、しかし両腕は放心した様に力無く肩から垂らした儘更に言葉を紡ぎ続けた。

 

「…………謝りたい。

  穢れ無く純粋で強靭な無二の意志を見縊った事を。

 

  …………許しを請いたい。

  想い半ばで散ったにも拘らず、何一つその想いを汲まない私を。

 

  …………何より……………………唯……傍に在ってほしい。

  ヒトの範疇から外れようと、私の傍に在ってほしい」

 

  静かに速人だった死体を腕に納めつつ、終末の只中で神に救いを求めるかの如き声を紡いだ。

 

「何時まで繰り返されるか知れぬ旅路に付き合ってほしい。

  絶望する事すら疲れ果ててしまった私を魅せ続けてほしい。

 

  私の罪が傍に在れば…………………………私は折れることも磨り減ることもなく足掻き続けられるのだから」

 

  そして、言葉が終わると同時に、宛ら抱き込むように死体を抱えて魔法を発動させようとしていた存在は―――

 

「っ?」

 

―――突如シグナムに斬りかかられ、発動予定の魔法をシールドに切り替えた。

 

  防がれた事を悔しく思いながらもシグナムは表情にそれを出さず、怒りを押し殺した声で詰問した。

 

「我等の為に命散らした者を…………………どうするつもりだ?」

 

  返答次第では許さないと言わんばかりの怒気を籠めてシグナムは問うが、返された言葉は―――

 

「その全てを取り込み、共に歩んでもらう」

 

―――凛とした、だが、泣きだしてしまいそうな悲しみに満ちていた。

 

  そして、その悲しみの理由を僅かとはいえシグナムは察していたが、強い口調で自身の想いを口にした。

 

「死者を侮辱することは許さん。

  況してや我等の為に死したとなれば尚更だ。

 

  第一…………私はまだ諦めてはいない」

 

  そこまで言ったと同時にシグナムは斬りかかり、抱き抱えられた速人の亡骸を奪い返そうとする。

  だが先程と同じくシールドに阻まれ、腕を斬り落とすどころか傷一つ付けられずに終わった。

 

  そしてシグナムの断撃を防ぎきった存在は、何処か速人を思わせるような淡淡とした声音で問い掛ける。

 

「私の邪魔をするだけでなく、主の願いを邪魔し、更には傷付けるつもりか?」

「それが私だけでなく主の幸福に繋がると信じている以上、謀反すら辞す気は無い!」

 

  話しながらも怒涛の連激を繰り出すシグナムだったが、抱き抱えられた速人を奪う所か相手のシールドを貫く事すら出来ず、苛立ちを募らせながらも叫ぶ。

 

「何を呆けている!

 

  四肢を失い、胴を半ば失い、大量の血を失い、それでも尚意識を保っていたのだろう!?

  常識ならば死んでいたにも拘らずだ!!

 

  ならば常識で無理だと決め付けず、その体が朽ちる時まで諦めるな!!!」

 

  叫びながら先程以上の怒涛の連激をシグナムは繰り出すが、やはり防御を貫く事は叶わなかった。

  対してシグナムの連撃を防ぎきっている存在は、囁く様にヴィータ達に告げた。

 

「私が記憶を肉体ごと分解吸収すれば、喩え肉体を失おうと永らえ続けられるだろう。

 

  ………普通の者ならばそれは叶わぬが、二度も繋がれば此方から繋がり、脳に納められている全ての情報を書に移し変えられる。

  そしてその暁には喩え今代の主が滅ぼうと、我等と共に在り続ける事が出来る

 

  …………お前達ははそれを阻むのか?」

 

「「「「「……………………………」」」」」

 

  ヴィータ達とアリサとすずかはその言葉に押し黙り、場に沈黙が満ちかけたが、それを吹き散らすようにシグナムが叫ぶ。

 

「ふざけるなっ!!

 

  本人の了承も無しに、人外にして蘇生させるだと!???

  恥も誇りも無いのかぁっ!!!???

「私達は既にそのようなモノなど無いと知っているだろう?

 

  主の為に………いや、【主を幸福にしたい】、という想いを免罪符に主を裏切った。

  何より………主が誰よりも想われていた者を、私達の欲望を満たす為の生贄にしたのだ。

 

  ならば、何を今更誇り、そして恥じれと言うのだ?

  私達に残されているのは、最早各が夢想する結末に疾走するのみだ」

 

  シグナムの言葉に言葉を返しつつ、何時の間にか虚空に浮かんでいる魔導書が触れもせずに勝手に捲れて最後の頁が開かれた。

 

  速人のリンカーコアを吸収して埋まった頁を指先で撫でつつ、呆然として事態についていけないヴィータ達に問いかけた。

 

「さぁ、選ぶがいい。

  別のモノに変生させてでも復活を試みる、成功率の高い私への助力か?

  ヒトの儘の蘇生を試みる、成功率がほぼゼロの烈火の将への助力か?

  それとも其れ等以外か?

 

  ………考える時が長引く程に蘇生確率は低下し、更に主が助かる見込みも低下する。故、疾く答えを示せ」

 

  理由は然して分からないが、考える時間が長引く程にこのまま何も成せずに終わる確率が上昇すると知り、ヴィータ達は自分の最も深い部分に在る価値観や求めるモノに従い、其其シグナムか速人だった死体を抱える者へと疾走した。

 

  ヴィータはシグナムへ、シャマルは速人だった死体を抱き抱える者へ。

  そしてザフィーラは一瞬シグナムの方を見遣ったが、直ぐにシャマルを追った。

 

 

 

――― Side out:??????? ―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― 八神 はやて ―――― 

 

 

 

  気付けば朝で、お母さんに起こされた。

 

  何だか酷く厭な夢を見とったようで、なんでか胸が締め潰されるような…………体から生気みたいなモンがごっそり抜け落ちたような……………何より……悲しいことすら分からなくなるほど悲しいことがあったような気がして…………、訳も分からんまま、自分の身体を自分で抱きしめた。

 

  そしてそれを見たお母さんが具合悪いなら学校休むか遅れて行くよう言ってきたから、よう分からん夢の事を払拭するように、慌てて元気さをアピールした。

  折角友達が出来て学校が楽しくなり始めたんに、夢見が悪かったような気がするっちゅう程度で休むなんてもったいないし。

 

 

 

 

 

  顔を洗うために洗面所に行く途中にリビングを見たら、昨日言った通り、今日は昼過ぎからの会議に出ればいいだけだって言っとったお父さんが待っとった。

 

  顔を洗ってテーブルに着いたんやけど、急にお父さんがあたしの顔を見詰めだして、気分が悪いんじゃないかって、心配そうに大丈夫か訊いて来た。

 

  生まれた頃からかなーり体が弱いあたしをお父さんもお母さんもとても心配しとるんやけど、あたし的にはそこまで心配されると逆に迷惑かけとるような気がするから止めてほしいって言うたことがあったんやけど、迷惑だったらとっくの昔に施設に放り込んでるって言った後、自分達は我が子の世話をして一緒に過ごせる事が何よりも嬉しいんだと、涙を湛えながらあたしに話し、だから自分達の愛情を遠慮せずに受け取ってほしいって、真剣な表情で言ってくれる両親やから、お父さんがあんまり顔色の良うないあたしを心配するんは、自惚れやのうて当然やと思った。

 

  ただ…………本当に夢見が悪かっただけっぽいから、そこまで心配されるのは本当に申し訳無いゆうか…………、少し眠気もある身体に二度寝をすすめる悪魔の囁きに聞こえるゆうか……………、とにかく、素直に受け取りにくいのと駄目人間になるのを回避するため、心を鬼にしてスッパリ心配を断って、ご飯を食べて学校に向かった。

 

 

 

 

 

  学校に向かう途中、夢見が悪いだけやなくてホントに具合が悪かったようで、途中ですわりこんで休んでまった。

  そやけど、合流地点からかなり遠かったんに、すずかちゃんとアリサちゃんがあたしを見つけて助けてくれた。

 

  アリサちゃんが直ぐに呼んだ鮫島さんが乗ってきた車でしばらく休んだら大分良うなったから、遅刻しそうやったからそのまま学校に送ってもらった。

  ………付き添ってくれたすずかちゃんとアリサちゃんにお礼をを言うたら、いつも通りすずかちゃんはにこにこ笑って、そしてアリサちゃんは少し顔を紅くしながら当然のことだと言うてくれた。

 

  あんまりお礼を言うと二人とも気分悪くするやろからしつこくお礼を言わんかったけど、本当は泣いてお礼を言いたいくらいに嬉しかった。

  しょっちゅう体が悪ぅなるあたしみたいの、普通ならいじめられるか面倒くさがられて無視されるかのどっちかやって分かっとるから、はじまりは同情やお節介やろけど、今はあたしがあたしやから仲良くしてくれる二人が、あたしは大好きや。

  …………相変わらず背中で語る鮫島さんもカッコ良くて好きやけど。

 

 

 

 

 

  授業はいつも通り普通の授業やった。

  いつも通り自習するのと大して変わらん授業をする先生やったけど、最近よくある学級崩壊とは無縁の授業なんは素直に良かったと思う。

  ただ、アリサちゃんは勉強じゃなくて授業がおもしろくないって言うけど、あたし的には先生に当てられた時にビクビクせんでいいなら、おもしろくなくても構わんて思うんやけどな。

 

  …一応テストじゃ最低95点で頭良い方なんやろけど、同じく最低95点のすずかちゃんと、いつも100点のアリサちゃんに勉強を教えてもらっとる身としては、マルをもらうまでは安心できんて………。

  ……やっぱ教えてもらうんやなくて、自力で分かる二人は普通なあたしとは違うと思うた。

  …………車で送り迎えされるのを気にせん段階で、人の上に立つんは二人のような人なんやろな〜、とか思うた。

  それと、二人に言わせればあたしは人の上に立つよりも人を纏めるのに向いてるらしいんやけど、………それって中間管理職やん………。

  ………将来胃に孔が開きそうな役職に適正があるって………。

 

 

 

 

 

  待ちに待ったお昼ご飯の時間。

  今日は給食の日で、しかもカレーや。

 

  お金持ちの子供がたくさんいる学校だけあって、カレーが好きな子があんまり居らんようやけど、根っからの小市民のあたしは大好物や。

  あとアリサちゃんは、シェフがカレーを料理と認めてないから家では食べれないらしく、給食のカレーをあたしと一緒に楽しみにしとる一人や。

  逆にすずかちゃんはお姉さんの忍さんが研究室にこもっとる時、しょっちゅうインスタントのカレーを温めずにルーだけ食べるとかいう勇者の真似をしてるのに付き合わされた経験から、カレーは嫌いやないけど苦手らしく、美味しくてもあまり食べたがらんのやけどな。

 

 

  昼休み、食べた後に動き回るのは流石に元気なアリサちゃんも好きやないらしく、いつも通りお喋りをした。

 

  特に盛り上がったのは忍さんが婚約したことで、物静かで優しいんやけど、研究中に部屋から出たくないからいう理由で部屋に尿瓶を置こうとしたり、それを家中の人たちに大反対されて渋渋トイレを備え付けるほど出会いとは無縁の人やっただけに、あたしとアリサちゃんは驚いた。

  なにしろすずかちゃんですらスパナとかドライバーとかと結婚するんじゃないだろうかて本気で心配するほど、忍さんは研究好きというより半分中毒気味な上、研究中は思考が暴走して女として色々と失くしちゃいかんようなモノを丸ごと失くすような人で、出会いや色恋沙汰とは無縁と本気で思ってたんやから。

  …………ぶっちゃけ、小学3年生に結婚の心配される大学生はイロイロ終わっとる気がするけど、人の顔を覚えるよりスパナの型を覚える方が得意な段階で実際終わっとる気がするけどな。

 

  それとすずかちゃん的には婚約者は格好好いし誠実そうで、文句無く婚約を祝福したそうやけど、ブラックコーヒーをがぶ飲みしたくなるほど甘い空間を作り上げるのは勘弁してほしいらしく、二人の仲が落ち着くまでは出来る限り外で時間を潰したいらしく、しばらくはあたしかアリサちゃんの家にお邪魔させてもらうって言うた。

  あたしもアリサちゃんも全然構わんし、どっちの両親も友達を誘ったら凄く喜ぶし、そのまま本気で養子にしそうなほどすずかちゃんを好きやから、しばらくはすずかちゃんが家に泊まるかもしれんと思って気分が良かった。

  それに、誘えばアリサちゃんも一緒に泊まりそうやから、しばらく楽しくなりそうやと思った。

  …………家の周りで待機しとる護衛の人達は勘弁願いたいけどな。

 

 

 

 

 

  帰り、今日は習い事が二人とも無いらしく、昼に話しとった通りアリサちゃんの家にお邪魔した。

  アリサちゃん曰く使用人や護衛の人はかなり少ないらしいけど、小市民代表のあたしとしてはエントランスホールで落ち着いて談笑は無理や。

  そやからいつも通りアリサちゃんの部屋でお喋りしてるんやけど、相変わらず高価な家具があるのにあんまり女の子らしくない部屋やと思った。

  ………思っただけのつもりやったけど、しっかり口に出とったらようで、お嬢様が使うとは思えんパイプ枕を投げ付けられた。

  ………地味に痛かったけど、なんか良い匂いがするのが女として悔しかった。

 

  ……………見た目綺麗、中身は可愛い、匂いは良い、頭も良い、しかもお嬢様。…………あたしが男やったら惚れとるな………。

  からかい混じりに本音を言うたらすずかちゃんが乗って、一緒に百合に走ろうて話になった。

  ………普段強気のアリサちゃんをすずかちゃんと一緒に愛情込めて意地悪するのも楽しそうやから話が盛り上がったんやけど、アリサちゃんが真っ赤な顔で地団駄踏みながら枕で乱打してきた。

  スカート捲れて下着が見えてるて言うたら、もっと真っ赤になってベッドにもぐりこんでもうて、すずかちゃんと二人で和みつつ萌えを堪能した。

 

 

 

 

 

  楽しい時間は速く過ぎるように感じるらしく、そろそろ帰らんと家に着いた頃には真っ暗になりそうやったからアリサちゃんの家をお邪魔した。

  アリサちゃんや鮫島さんが送るて言うてくれたけど、自分の足で歩くのは好きやからって理由で断った。

  ………なんかありえんことを自分で言うた気がしたけど、考えを振り切るように歩き続けた。

 

  薄暗い空から静かに雪が降る中、何とはなしに見やった公園が………、なぜか…………、ひどく……………不安をかきたてた。

 

  ………どうしようもなく胸が苦しくなって、…………なにか怖いことが起こりそうな気がして、………………わけも分からず走って逃げ出した。

  ……………………走ってる自分が変だという思いすら置き去りにするように、全力で。

 

 

 

 

 

  無我夢中に玄関を開けて家に転がり込んだ。

  荒い息を吐きながら玄関でへばってると慌ててお父さんとお母さんが賭け付けて、すごく心配してる顔でどうしたかを訊いてきた。

 

  だけど………、自分でもよく分からんことを説明なんて出来んし、無理に分かろうとせん方が良いって、大して当てにならん直感がやかましいくらいにわめき立てる感じがしたから、自分でもよく分からんまま全力疾走したって嘘をつかずに…………、だけど全部は話さんように説明した。

 

  その後で遠慮して隠し事してないかと心配と哀しさが混じった顔でかなり訊かれたけど、本当に遠慮してないって全力でアピールして、あたしのおなかが鳴るくらいの時間まで続いた。

 

  そして流石に話し込みすぎたと思った二人と一緒にリビングに戻った。

 

 

 

 

 

  リビングから見た外は少し積もった雪のおかげで真っ暗じゃなかったけど、時間的には既に真っ暗な時間帯で、お腹も空いてたから急いでご飯を作ろうとして、まだ、あたしには、早い、て、言われた。

  …………なぜか、長年の生活を否定された気がしたけど、深くは、考えんで、素直に、リビングで、待つことに、した。

 

 

 

 

 

  気がついたらベッドで横になっとった。

  いつの間に食べてお風呂に入ったか良う覚えとらんし、お父さんとお母さんが心配してくれたと思うんやけど、何て言ってて何て返したかは全然覚えとらん。

 

  ただ…………幸せが薄っぺらで、剥がされた幸せの向こう側が怖くて………………、一人布団に包まっとった。

 

 

 

 

 

  どれだけ布団に包まってたかは分からんけど………、一人じゃ耐え切れんで………、静かに部屋を出た。

 

  リビングが真っ暗でいないのを確認した後、いつも通り扉を叩いた。

  ……………今日に限って返事が無くて………、不安に思って強めに何度も扉を叩いた。

 

  …………しばらく何度も扉を叩いたけれど返事が無いから、そっと扉を開けた。

 

  …………………扉の向こうは物置になってて…………………………………誰もいなかった。

 

 

 

 

 

  あれから他の部屋をわけも分からず泣きながら見てまわった。

  そしてどの部屋も書斎だったり空き部屋だったりで…………誰も居らんかった。

 

  残る部屋はお父さんとお母さんが寝とるこの部屋だけやけど…………、なぜか…………ほんの少しだけ…………お父さんとお母さんが…………………居らん方が良い、って……………思ってしまった。

 

  そやけど…………………開けた扉の向こうには………………………一緒に眠るお父さんとお母さんが居った。

 

  あたしが扉を開けたんで起きてしもたお父さんとお母さんが、優しい顔で一緒に眠ろうて言ってくれて………………その暖かさに惹かれる様に一歩踏み出した。

 

  けど、踏み出そうとした、足が、扉の段差に、引っかかって、転んで、しもた。

 

  あれ?なんで転んだん?こうならんために家を改造してくれたんに?え?あれ?だれが改造したん?それになんで倒れて腕だけで這いずる感覚が懐かしいんや?なんでや?どうしてや?それに冷たい床に座り込んだ状態が世界の終わりを思わせるようで………………。

 

 

 

 

 

  気がついたらお母さんとお父さんにに前と後ろから抱きしめられて寝とった。

  前後から抱きしめられる感触がすごく安心できた。

 

  そやから、背中に当たるお父さんの暖かくて大きくて少し硬い胸の感触や、顔に当たるお母さんの温かくて柔らかい胸の感触に安心しながら、わけ分からん怖いことを考えるのを止めて寝ようとした。

 

  そして目を閉じて背中と顔に当たる温かい胸の感触に安心して寝ようとした時、……………………唐突に、……………冷たくて……………………気持ちの悪い感触を思い出した。

 

 

 

  その気持ちの悪い感触を思い出した瞬間、幸せが粉々になった。

 

  そしてその破片があたしをズタズタにした後、悲しいとも分からんほどの悲しさが胸から溢れ出て、あたしの意識を呑み込んだ。

 

 

 

―――― 八神 はやて ―――― 

  Interlude out 

 

 

 

 

 

 

――― Side ??????? ―――

 

 

 

  シグナムへと疾走したヴィータは横に並ぼうとはせず、文字通りシグナムへと疾走し、シャマルの後を追ったザフィーラも、文字通りシャマルを追った。

 

  そしてこのまま両者疾走すれば1秒以内に衝突する程の間合いになった瞬間―――

 

「っらああっっ!!」

「ふっっ!」

 

―――ヴィータとザフィーラは眼前の者目掛けて攻撃を繰り出した。

  だが、シグナムは憤怒の表情でヴィータの攻撃を受け止め、シャマルは焦った表情で咄嗟に速人から渡された試作品の魔導師殺しを構えてザフィーラに回避行動を選択させる事で攻撃を凌いだ。

 

  攻撃が双方凌がれ、現状打破が困難だと気付いた瞬間、シグナムは構えたレヴァンテインを強く握りつつ叫んだ。

 

「ヴィータッ!シャマルッ!何をしてるか分かっているのかっっ!!?」

手前(てめぇ)こそ何してんのか分かってんのかよっ!?

 

  生き返らせられるってんのに邪魔するなんて何考えてんだっっ!!?

 

  シグナムの叫びに対し、シャマルはザフィーラに集中していた為受け答えが出来なかったが、実力が近くて対処法もある程度心得ており且つシャマルよりは余裕があるヴィータが大声で叫び返した。

 

  そしてヴィータとシグナムが叫んでいる最中、銀髪赫眼の者が死んだ速人を吸収する為、眼前に魔方陣を展開した。が、死者を吸収する為か、それとも完全に分解吸収する為か、若しくはその両方なのかは不明だが、本来ならば接近戦で使用可能な速度で展開可能な筈の魔法が未だ発動しておらず、それを見ているシグナムとザフィーラは何とかして止めようと目の前の相手の隙を探しつつシグナムは口を開いた。

 

「死した者を己が欲で蘇らせようとは、騎士として恥ずかしくないのかっっ!!?」

「黙れ!

  ハヤトを見捨てたお前が騎士を語るんじゃねえっ!!

「っっぅぅぅぅっっっ!!!」

「だいたいハヤトを生き返らせて誰に迷惑がかかんだよ!?

  誰かを殺して生き返らせるわけじゃねえんだぞ!!?

  いったい何がいけねえってんだぁっ!!!?」

「人間以外にしてしまうことが問題なのだっ!

 

  老いず寿命が無く、魔導書が滅びるまでは自尽すら叶わぬ存在へと変わるのだぞ!!?

  それが分かっているのか!!!?」

「それの何が(わり)ぃってんだよっ!?

  そもそもハヤトはそれが嫌だって言ったのかよっ!!?

  言ってねえだろがっっ!!!

 

  見捨てた挙句手前(てめぇ)勝手の考えで生き返らせもしねえなんて、ふざけてんじゃねえぇぇっっっ!!!

 

  その言葉に胸を抉り回される感覚に襲われたシグナムは言葉を詰まらせた。

  そしてシグナムが言葉を詰まらせた隙に、今迄考えが纏まっていなかったアリサが何とか考えを纏めて口を挟んだ。

 

(うっさ)い!喧し!!黙れ!!!

  反論できないヤツを理由(出汁)に喧嘩してんじゃないわよ!!

  今は出来るか出来ないか判んないことよりはやてのことでしょがっ!!!

  あんたら全員頭イカれてんのっっ!!??

 

  一喝した後、アリサはヴィータ達が口を開く前に銀髪赫眼の者に顔を向け、睨みつけながら問い質した。

 

「そこの涙流してるあんた!

  時間が無さそうだから結論だけ訊くから結論だけ答えなさい!

 

  はやて助けるのに速人が必要なの!?」

「…必要ではない」

「なら、速人が居た方が成功し易くなるの!?」

「…そうだ」

「ならとっとと始めさない!」

「「なっ!?」」

 

  アリサのその言葉に驚いたシグナムとザフィーラが反論しかけるが、それより速くアリサが口を開く。

 

黙ってなさいっ!!

  事があんたらだけに留まるなら倫理や矜持なんかドブにでも捨ててなさい!!

 

  一つの目的だか理想だか夢だかの為に一緒になった仲間だか同士だかは判んないけどっ、自分の倫理観優先させて棒に振ろうとするなんて最低の裏切りよ!

  そして死んだのが認められないって癇癪起こして結果的に棒に振ろうとするのも最低の裏切りよ!!

 

  半端者は黙って下衆の乱入でも防いでなさい!!!

 

  アリサは怒り以外に多大なカリスマを滲ませながら一喝する事で、十の子供でありながらもシグナム達の反論を完全に封じた。

  そしてアリサが一喝している間に千切れた速人の右腕の傍に駆け寄っていたすずかは、模型ではない、つい先程まで生きていた者から千切れ、死を否応無く連想させる腕に触れることを内心恐怖したが、握られている銃を手に取る動作に迷いは無かった。

 

  幾度もの海外旅行で電動工具の感覚で銃を少なからず扱った経験や、防犯設備等の開発に精を出す忍に付き合った経験から、見たことがない型の銃であったにも拘らず弾倉を振り出し―――

 

「大丈夫!5発残ってる!

  多分普通の弾の後に凄い弾が2発だと思う!」

 

―――確認した内容アリサに伝え、更に銃を括り付けられている腕ごとアリサの方に床を滑らせる様に放り投げた。

 

  既に血が殆ど抜けていた為、床を銃に引き摺られながら滑る腕の断面から血は然して零れずにアリサの足元近くに銃と括り付けられた腕は届けられ、直ぐにアリサは腕ごと銃を拾い上げた(すずかもアリサも金属製の帯と銃から伸びるワイヤーで雁字搦めに固定されていたので、工具を用いなければ解けないと判断したので解こうとしなかった)。

 

 

 

―――

 

  一見アリサもすずかも生身の人間から千切れた腕を平気で触っているように見受けられるが、内心は既に恐慌状態であった。

  だが、【自分にやれることをしなければ更に状況が悪化する】、という、それを上回る恐怖と焦燥がアリサとすずかの中に渦巻いており、精神の耐久度が並外れて高い両者は別の大きな恐怖と焦燥で恐慌状態に陥るのを辛うじて堪えていた(普通ならば精神が複数且つ膨大な感情に耐え切れず、既に錯乱か精神崩壊している)。

 

―――

 

 

 

  そして拳銃自体でさえ4kgとアリサが扱うには重過ぎるにも拘らず、血が抜けているとはいえ生身の腕まで括り付けられている為、アリサはあまりの重さの為に自動小銃を構えるように拳銃を構えながら声を張り上げた。

 

「速人が此の儘死んでようが今は関係ないでしょが!!

  命張って道を切り開いたのにグズグズしてて道が閉じたらどの面下げるつもりよ!!??

  戦ってる最中に誰かが死んで状況見失ったり悲劇に酔うようなヤツが騎士とか戦士とかほざくな!!!

 

  ……そこの銀髪!さっさと速人を吸収でも何でもしてはやてを助けなさい!

 

  そこの突っ立ってるあんた達も文句無いわね!!??」

 

  圧し掛かってくる恐怖と抱え込んだ困難さで、今にも(精神)が圧壊しそうにも拘らず、アリサは歯を食いしばってそれに耐えつつ声を張り上げた。

  そしてアリサが声を張り上げている最中にすずかは速人が投げ捨てていたデザートイーグルを二つとも回収し、開いていた保管庫の中から規格が合一すると思われる弾丸が籠められているだろう弾倉を装填し、余った全ての弾倉とデザートイーグルをポケットに突っ込みながらも漠然と考えを巡らしていた。

 

(安全装置も掛かってないみたいだし、銃も特に壊れてるわけじゃないみたいだから、多分普通に撃てる。

  だけど………デザートイーグルって、…………中れば大抵の防弾ガラスや盾を貫通出来て、……………簡単に人を殺せるんだよね………。

 

  …………今の私達が魔法に少なからず対抗するには絶対必要だけど、それでも多分アリサちゃんの持ってる銃じゃないとダメージなんて期待出来ないから、……………中っても死にはしないから気にせず撃てばいいんだろうけど………………やっぱり……………怖いな………。

 

  …………中っても殴ったくらいにしか効かないのは解ってるけど…………………、それでも自分が受ければ死んじゃうようなこと…………………怖くて………やりたくないな…………)

 

  すずかの服は冬用で生地が厚くて丈夫な為、重い弾倉とデザートイーグルを彼方此方のポケットへ強引に捻じ込んでも破れたりはせず、不恰好ながらも全てポケットに納め終えたすずかはデザートイーグルを両手持ちで顔の横に構えつつ、更に漠然とした考えを巡らした

 

(誰かを殺せる力を揮うのは怖いし、一回揮った怖い力に慣れるかもしれないのは…………もっと怖い。

 

  ………だけど……………………それをせずに黙ってアリサちゃんを見てるのは……………力になれるかもしれないのに力にならないのは……………………怖いというより………厭だ。

 

  たしかに……………誰かを傷付けたり私が傷付いたりするのは怖いけど、…………アリサちゃん(好きな誰か)が傷付くのは………、そんなのがどうでもよくなる程恐い。

  だけど、……………それよりも、……………………好きな誰かの力にならずに怯えているだけなのは、何よりも一番厭。

 

 

  ……………やりたいことなんか解らないし、何が正しいのかなんて判らないし、どうなるのかも分からない。

  ………今から私が採ろうとしてる選択は、怖いことと厭なことから逃げ出すだけの選択なんだろうけど…………、たとえ逃げ出してでも今此処で立ち止まるのだけはしちゃいけないと思う。

 

  だから、後で一杯泣こう。

  ………アリサちゃんと一緒に一杯泣こう。

  怖くて恐くて、悲しくて哀しくて、嫌で厭で、堪らなかったって。

  そして、………………最後に生きてて良かった、……………うまくいって良かったって、……………………一緒にはやてちゃんを囲んで大泣きしよう)

 

  僅か数秒で強引に葛藤を終わらせたすずかは、間違ってもアリサに流れ弾が当たらないよう、アリサの傍に小走りで駆け寄った。

 

  そしてアリサの横に並びつつ、未だ涙を流しながら遺体を抱いている銀髪赫眼の者を見やりつつ声を掛けた。

 

「私は貴女の事を知らないし、今は知る時間も無いです。

  だけど………貴女が確りしなきゃ、この場の誰もが望んでない結末になるのは解る。

  だから…………やるべきことを早くして下さい。

  いえ………遣り遂げて下さい。たとえ死んでしまうとしても」

 

  そう言うとすずかは視線を切り、呻き声を上げて目を覚ましかけているなのはの方を見遣った。又、アリサもすずかに倣う様に其方を見遣り、両者とも攻撃態勢に移った。

 

  その様子を見た銀髪赫眼の者は胸の裡で場を纏めてくれたことと檄を飛ばしてくれたことに感謝しつつ、シグナム達を見遣りながら告げた。

 

「全てを懸けて止めてくれ。

  ……………取り込むだけで精一杯だ」

 

  シグナム以外は言葉の意味が理解出来ずに困惑した表情だったが、説明する時間が残っていなかった為、ヴィータ達が疑問の声を返す前に銀髪赫眼の者は行動に移った。

 

  そして、抱きかかえられていた遺体が、銀髪赫眼の者に溶け込むかの如く姿が薄くなり、数秒で姿を消した。

 

 

 

――― Side out:??????? ―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― Side:? ―――― 

 

 

 

「それじゃあ………」

 

  片手でコップと言うよりはグラスに分類される程繊細且つ高価な代物を持ちつつ、はやては全員を見回してタイミングを計りつつ、片手を上げて乾杯の仕種をしながら―――

「メリー・クリスマスッ!」

 

―――乾杯の音頭を取り、そしてそれに続く様直ぐに―――

 

「「「「「メリー・クリスマスッ!」」」」」「「Merry Christmas」!」

 

―――全員から声が上がった。

 

  そして、二人だけ掛け声が浮いていたことに対し、直ぐに声が上がる。

 

「うおっ!?

  なんか二人ともやたら発音()えな?」

「うん、………なんだか二人並んで立ってる上に掛け声までおんなじ感じだと、なんだか小さい夫婦に見えるよ」

 

  悪戯っぽい笑みを浮かべながらすずかがそう言った瞬間、ヴィータが見事にすずかのネタ振りに釣られ、即座にアリサを睨みながら反論を始める。

 

「おいすずか!こんな炎上女がハヤトと夫婦なワケないだろっ!!?

 

  名前も性格もやたらと燃えてるこんな女はガソリンか火薬と結婚するのが丁度いいんだよ!」

「言うじゃないチビッタ。

 

  ならアンタはそのハンマーに似合う様に達磨落としとでも結婚してなさい。

  あ、それとも釘と釘抜きに鋸との逆ハーレムがいいかしら?」

 

  そう言って両者とも睨みあうが、両者とも軽い喧嘩の感覚で睨んでいるので周囲を然して不快にはせず、微笑ましく見られながら両者の言い争いは続いた。

 

「うっせえっ!!

 

  だいたいハヤトみたいに世界中飛び回ってて英語上手いなら兎も角、日本でずっと暮らしてるくせに妙に上手い発音してんじゃねえよ!!?

  なんだ?自慢したいのか!?」

「生憎とあたしも速人程じゃないけれど、結構な回数国外に行ったりしてるのよ!

 

  それに小さい頃はドイツに居たから、ずっと日本に居たわけじゃないのよ!」

「ふん!  ならドイツ語で言えよ!」

「ええ、言ってやろうじゃない!

  Frohe(フローエ) Weihnachten(ヴィナハテン)

 

  で、こっちの母国語で言ったやったからには、そっちも母国語で言うわよね?

  言葉の意味さえ知ってればクリスマスが無い所の言語でも問題無く言えるんだから、日本が母国でも意訳して言えるわよ?」

「あ……う………」

「ほらほらほらっ、とっとと言いなさいよ。

 

  う〜ん…………そ・れ・と・も♪  ……もしかして意味も知らずに言ってたのかしら〜?

  ならとんだ罰当たりよね〜」

「ぐっ……………くぅぅぅぅぅっっっ………」

 

  アリサに遣り込められ、両拳を握り締めて悔ししそうにアリサを睨むヴィータだったが、そろそろ見ていて可哀想になったはやては助け舟を出すことにした。

 

「まあまあ二人とも、折角みんな集まって楽しもうとしとるんやから、仲の良い喧嘩もそれくらいにしとこや?」

 

  そう仲裁に入るが―――

 

「眼と頭がイカレてんのっ!?」

「タチ(わり)ぃ勘違いはやめてくれよはやてっ!?」

 

―――即座に両者から反感を買った。

 

  そして両者は互いを指差しあいながら―――

 

「どこが仲良いのよ!?」「どこが仲良いんだよ!?」

 

―――似た様な事をほぼ同時に言った。

 

  そしてその様を見たはやてが直ぐに質問に答えた。

 

「ほら、そういうところが仲良いんよ。

 

  それにな、昔から日本には〔喧嘩するほど仲が良い〕って言葉がばあるんやで?」

「すっっっごい無責任で腹立つ言葉よね。それ。

  大方、日和見主義のボケが言い出した言葉を好意的に拡大解釈したんじゃない?

 

  喧嘩して後に引かないのは度量の問題だし、親しかろうが親しくなかろうが喧嘩するのは性格や人格に因るのが大きいし、何度喧嘩しても喧嘩が続くって事はそれだけ仲が悪いってことじゃない。

  議論と喧嘩は別物よ」

「アタシとコイツのはいがみ合いだから仲良くなんてねえよ。

 

  それに毎日喧嘩して仲良くなるんなら、政治家は全員仲良い筈じゃねえか」

 

  朗らかに答えたはやてに対し、鋭い斬り返しを即座に放つアリサとヴィータ。

 

  アッサリ一蹴されて少し涙を滲ませているはやてを無視するようにアリサとヴィータは互いを罵倒していく。

 

「だいたいこんなミニスカ穿いて下着見せまくってる頭悪いヤツと仲いいなんて心外よ心外!」

「見せてねえよ!  つうか見んなよっ!?

  だいたいはやてが似合うって言ってくれた服を馬鹿にすんな!!」

「別にその服を馬鹿にしてるんじゃなくて、服を着こなせないどころか恥じらいも無いアンタを馬鹿にしてんのよ。

 

  ほら、今もミニスカなのに地団太踏んで下着見えてるのも気にして無いんだもの」

「うっせえ!誰も変な目見ねえからいいんだよ!!」

「ふん。

  異性が居るのにそういう台詞を吐けるのってのが恥じらいが無いって言える証拠なのよ。

  まぁ………相手が幼すぎたらその限りじゃないけど、………………どう見てもアンタが幼児よね…………………ふっっ」

「うがああああああああああああああ!!!泣かすっ!!!絶っ対にぃ泣かすっっ!!!」

「平和的に終わらせたいから、玉ネギでも切って直ぐに泣いてあげるわよ?」

「あ!!!放せシィグナムゥゥゥゥ!!!

  こいつは一発アイゼンで叩き潰さなきゃ気がすまねえええええええええええ!!!」

 

  シグナムはグラーフアイゼンを振り被ったヴィータを後ろから羽交い絞めにしつつ、視線ではやてとすずかに助けを求め、その視線の意味を察した両者は直ぐに動き出した。

 

「はい、二人とも落ち着こな〜。

  仲良いか悪いかはもう言わんけど、折角のパーティーを険悪なムードにしたりする程しょうもない二人やないやろ?」

「喧嘩売ったヴィータちゃんも問題だけど、高値で買い取ったアリサちゃんも問題だから、お相子ということでお互い引き下がろうよ。ね?

 

  それに、そんな何時でも喧嘩出来る理由でパーティーを潰したりしたら、将来黒歴史として弄られ続けることになるよ?」

「「うっ………」」

 

  流石にアリサもヴィータも周りに大きな迷惑を被らせてまで争うつもりは無く、更には自分達もつまらない理由で争っているのが分かるだけに、これ以上争えば将来黒歴史を弄られ続ける羽目になると悟り、渋渋と両者は引き下がった。

 

  そして渋渋ながらも引き下がったアリサとヴィータを速人以外の全員が苦笑しながら眺め、取りあえず一息吐いた後、すずかが場の空気を一新すべく話しだした。

 

「うーーん…………、場の空気を一新する為にも、此処は何か強烈な一発芸を披露してくれませんか?」

「明らかに人選を誤っていると判断するが、反対意見が無いならば此の企画を不完全に終わらせぬ為にも要請に応えよう」

「「「「「≪…………………≫」」」」」

 

  その言葉を聞き、頼んだすずか以外の全員が場の雰囲気が自然に戻るのと、高確率で碌でも無い事態を起こして場の雰囲気を一新するのと、一体どちらがマシかを考えたが、迂闊にも反対意見を述べなかった為―――

 

「反対意見及び議論をしているとも見受けられないので実行しよう」

 

―――速人が行動に移ってしまった。

 

  慌てて待ったを掛けようとするアリサ達だったが、速人はそれよりも速く自分の眼孔の少し下に手の甲を沿え、その直ぐ後に自分の後頭部を手刀で叩いた。

 

「「「「「「≪?≫」」」」」」

 

  一瞬何をしているのか速人以外全員分からなかったが―――

 

「誤った人選を聞き、目玉が飛び出た」

 

―――全く笑えない冗談を言いながら全く笑えない事態を引き起こした。

 

「「「「「「≪!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?≫」」」」」」

 

  眼球を乗せていた手を下ろし、驚愕するアリサ達に見せ付けるように飛び出した眼球をアメリカンクラッカーの如く揺らす速人。

 

「なななななななななにやってんのよ速人!!!???」

「ととととととにかく今押し込む!!!」

「あああああヴィータちゃん触ったら駄目だよ!!!」

「そそそうですっっ!!!下手に触れば神経が千切れます!!!」

「と、取り合えずザフィーラは鏡持ってきて!!!」

≪(分りました!!!)!!!≫

「わ、私は消毒液を!!!」

 

 

 

 

 

  癇癪に近い非難を全員から浴びせられ、速人は眼球と眼孔の洗浄をした後、親指と人差指と中指の第一間接辺りに眼球を置き、それから直ぐに眼球を眼孔に押し込んだ。

  そして漸く速人以外の全員が一息吐いた時、はやては気疲れと怒りと恐怖が混じった表情で速人に告げ始めた。

 

「………速人はんは体張ったギャグは金輪際禁止や、禁止」

 

  眼孔と眼球の洗浄をした際、眼孔から溢れる若しくは眼球から滴り落ちた洗浄液を拭いている速人へはやてが若干ズレた発言をした。

  だが、それに対して即座にアリサとすずかがはやての発言にツッコミを入れだす(シグナム達は至近で速人の眼孔奥を見てしまったり、眼球が眼孔に押し込まれる際に変形しつつ且つ眼孔に残った洗浄液が飛び出してくる様を見て気分が悪くなり、四名揃って外を眺めている)。

 

「……と言うか、アレがギャグの括りに在るなら、大抵の自傷行為はギャグになるわよ?」

「だよね。

 

  親御さんが、[子供が自分で自分を傷つけるんですが、私達の愛情が足りないからなんでしょうか?]、って訊ねた時、[いやあ、ただのギャグでしょう]、っていうのが普通の世界は嫌だなあ」

「うっ……………た……たしかに………」

 

  いくら本人に目立った問題が無かろうと、流石に先程の行為をギャグの括りにするのは問題が在るとはやては思い、ならばどのように注意するべきかと考え始めた。

  だが、はやてが何かしらの案を思い付く前にアリサが速人に話しかける。

 

「速人。

  さっきのがギャグかどうかはアンタの解釈次第だから、その点にツッコミを入れるつもりはないわ。

 

  但し、少なくとも、普通なら医療機関のお世話にならなきゃいけないような自傷行為は、普通ギャグと思われないから」

「だよね。

 

  仮装大将とかでやった日には、予選の審査員は全員クビになると思うし……」

「はいすずか、最近のあんたは微妙に相槌が見当外れだから、そろそろしっかりしないと電波系になるわよ?」

「そんなことないよ。

  私は電波系じゃなくて不思議系だから。

 

  そうだよね、はやてちゃん?」

「………ごめん、すずかちゃん。

 

  ………………あたしにはその差が解らん」

 

  当てにしていた援護が不発に終ってしまい、すずかはシャマルに援護を求めようとした。が、未だ気分が悪いらしく、代わりに速人に援護を求めた。

 

「速人さんはどう思います?」

 

  然して親しくはなくとも、アリサ繋がりで以前に比べればかなり遠慮無く話題を振る様になったすずかに、速人は何時も通り淡淡とした声で自分の考えを述べだす。

 

「不思議系ではなく、不思議な存在だろう。

 

  それと、思考系統を分類するならば、厭世系統だろう」

「いや、それはモロにあんたでしょが?」

「っちゅうか、差が解らんのやけど?

 

  不思議系と不思議な存在の差って、ナニ?」

「不思議云云はともかく、厭世系だって思われてる理由が知りたいかな?」

 

  速人にしては珍しく場を掻き乱さない発言だったが、それでもツッコミ所は個個人に在ったらしく、三者三様のツッコミが速人へ向けられる。

 

「俺は徒の珍奇で凡庸な存在だ。

  不思議とは程遠い。

  何より、厭世する程興味を持った覚えはない。

 

  それと不思議系と不思議な存在の差だが、主観という前提が付くが、性格のみに納まるか納まらないかという差だ。

 

  最後に厭世だと思う根拠だが、月村すずかは人間の悪性と呼ばれる部分を嫌悪しつつも受け入れている節が見受けられる故、厭世と述べた」

「いや、あんたは珍奇で凡庸って言うより、奇天烈で規格外でしょうに」

「同感や。

 

  速人はんが凡庸やったら、世の殆どが凡庸通り越して無能になってまうやん」

「………厭世って腹黒そうだから、誰か私が厭世じゃないって否定してほしいな……」

 

 

 

 

 

「はあ〜っ…………、本当に美味しいわね……」

「口から怪光線を出せそうだよね」

「むしろバックが宇宙になりそうやな」

「……いや、ワケ分かんねえよ………」

 

  すずかとはやての台詞に半眼でヴィータがツッコミを入れ、それに内心でシグナム達も同意した

 

  だが、そんなヴィータ達を無視するようにすずかとはやては話し込み始める。

 

「ワケ分からない演出としては、最終話で鍋とかが空で光り輝くのが金字塔だと思うけど、はやてちゃんはどう思う?」

「うーん…………、パンに限定されてまうけど、タイムスリップするパンがワケ分からん金字塔やないかな?」

「タイムスリップパンは………というか、中盤辺りからの展開は全部黒歴史として黙っててやりなさいよ……」

「……………マジ分かんねえよ……」

 

  完全に置いてきぼりになってしまい、遠い者を見る様にはやて達を眺めながら呟くヴィータ。

 

 

  そして、ヴィータと同じ心境のシグナム達は、暫く会話に入り込めそうもないと思い、素直に会話が分かる者達と会話をすることにした。

 

「しかし……………これだけの量はとても食べ切れそうもないな」

「ですよね。

  どれが誰の作った何の料理だか分からないくらいですし」

 

  上機嫌にそう言うシャマルに、若干不機嫌な表情のヴィータが半眼になりながら告げ始めた。

 

「……念の為言っとくけどな。どさくさに紛れて混ぜ込んだシャマルの料理型殺人兵器は厳重に処理してあっからな」

≪………目に近づけただけで激痛が走ったぞ≫

 

  シチューや餡かけの類に偽装されていると外見での判別がし難く、已む無く匂いと臭いを嗅ぎ分けて判別していたザフィーラだったが、稀にラッカーシンナーが眼に入ったかの如き痛みが走ったのを思い出し、軽く身震いをしながら念話で話しかけた。

  だが、シャマルはそんなザフィーラの非難を物ともせずに抗議する。

 

「ひ、ひどいです!

  折角皆を驚かそうと思って用意したのに!!」

「安心しろ。

  お前の料理が混じっていたと知っただけで十分驚いた」

「っていうか、喜ばそうじゃなくて驚かそうって発想がそもそもオカシイからな?」

≪……驚くではなく戦慄させるの間違いだろうに……≫

「た、食べる前からそんな言い草ってあんまりです!

  せめて食べてから驚いてください!!」

 

  三者三様の辛辣と言うよりもぞんざいなツッコミを浴びせられたシャマルだったが、せめて食べてもらえれば評価を覆せると思い、誰かに然りげ無く食べさせようと密かに取り分けていた自分の料理をシグナム達に突き付けた。

 

「ち………ちくしょぉ。

  ………まさか事前に取り分けてたなんて………」

「しかも旅の鏡で取り寄せる念の入れようとは………」

≪何故我等を窮地に陥らせる時だけは抜け目が無いのだ……≫

 

  突き付けられた物体から鮒鮨やクサヤ等が微塵も問題に成らない、世界一臭いと言われるシュールストレミング(鰊や鰯を塩漬けして発酵させた物)の臭いが急に漂い出し、シグナム達は後退りながら慄く。

  そして当然、突如、最悪ならば気絶を通り越して咽過ぎて窒息死すると思われる臭気が漂い始めれば、熱を帯びて話し込んでいたはやてもその原因へと直ぐに思い至り、シャマルを見遣りながら叫んだ。

 

「シャアッ!マァアッッ!!ルウウウゥゥーーーッッッ!?!?!?」

「そ、そんなに慌てなくても無くなりませんよ?」

 

  鼻を押さえながら怒声を上げるはやてに、シャマルは只管自分にとって都合が良い様に解釈して言葉を返す。が、当然即座にはやてからツッコミを入れられる。

 

「いらんわ!

  それと寧ろ無くなってほしいわっ!!」

「こっ!この皮膚に張り付くような厭な感じは!!???」

「ま、前にスウェーデンの現地パーティーに出されたアレだよね?!?!?!」

 

  片手で鼻を押さえ、残りの片手で襟を摘み上げてマスクのように口元を隠し、出来るだけ異臭を吸わないようにしながら慄くアリサとすずか。

 

「げぇほっぐぇほっがっは!

  眼……眼(ひゃ)……(のほ)()………

 

  は、速人(はやひょ)はーーーーん!!!助けて(さぁすへて)ーーーー!!!」

 

  はやては臭いを感じて直ぐに鼻で呼吸せずに口で呼吸したが、臭い成分(刺激物と言うより殆ど毒)が僅かに鼻に抜け且つ肺胞に纏わり付いた為激しく咽てしまい、半ばパニックになりながらも懸命に速人に助けを求めた。

  しかし、アリサとすずかが泊まるという事で風呂場に二人用の石鹸類(洗顔料類含む)やタオル類を配置しに席を外しており、万事休すとはやてが諦めかけたその時―――

 

Biohazard schalter form auf.

  Und drunkenness beluftungs system auf.』(対生物災害機構起動。及び緊急換気状態へ移行

 

―――警報音と警告音声と共に扉や窓や換気口が即座に封鎖され、更にその直後に天井と床の半分以上が突如換気口に変わり、天井の換気口から急激に室内の空気が吸い上げられ、床の送風口からは急激に空気が流れ込んできた。

  当然下から上に空気が抜ける以上、スカートを穿いているアリサ達はスカートが一気に捲れ上がる(はやては車椅子に座っている為アリサ達程強く捲れたりはしなかったが、逆に床の送風口の上に張られている網に車輪が挟まる為、碌に身動きが出来なかった)。

 だが、30m/sの速度で床から天井へと空気が吸い上げられており、スカートや髪の毛が巻き上げられるどころか上着が脱がされそうな程の風力の為、全員服を飛ばされないことに力を注いだ(横向の風ならばはやて達子供は吹き転がされている程の風)。

 

  しかし、この期に及んで尚ヴィータ曰く料理型殺人兵器を手放さないシャマルを見たシグナム達は、瞬時に眼で会話をし、ヴィータが飛来物からはやてを守り(近いので)、ザフィーラがゴミ袋を用意し(皿を持てないので)、シグナムがシャマルの皿を奪う、という個個の役割を瞬時に決め、行動に移した。

 

  ヴィータは捲れ上がる服が視界を阻害しないように片手だけで服を押さえ付けながらはやての前に立ち、ザフィーラは机や椅子を一気に飛び越してゴミ袋を取りに向かい、シグナムは余計なことを仕出かしたシャマルを内心で罵倒しつつもシャマルが持っていた料理型有機化合物を掠め取った。

  そしてシグナムが掠め取って1秒も経たぬ内にザフィーラがゴミ袋をシグナムの皿を握っていない方の手に握らせて離れ、更にそれから3秒もせぬうちにゴミ袋に食器毎投げ入れて固く袋の口を縛って更にそれを別のゴミ袋に入れるという行為を2度繰り返した。

 

 

  緊急換気が始まって7秒も経たずに毒物をシグナム達が簡易処理し、シグナム達の胸の中に毒物を一応処理した為直ぐに換気が終わるだろうという思いが広がり、気を緩めた直後、効率良く緊急換気を行う為に封鎖されていたドアを対戦車手榴弾で削り飛ばしながら速人がリビングに飛び込んできた。

 

  

 

 

 

「まぁ速人はんは構わんよ。うん。

  ……………メッチャ乱暴やったけど助けに来てくれたわけやし、換気のことも誤作動起こすくらい凄かったし、文句は全然無いんよ。うん。

 

  ……………みんながモンローみたいになったけど、今さら疑うのもバカらしい程イヤラシイ眼で見ないのは分かりきっとるし」

「寧ろ全然気にしないであたし達の足元の食器の破片を注意しながら片付けてたのにはムカついたけどね」

「だよね。

  幼女趣味の大人もいるのに、年の近い男の人に見向きもされないのはイラッとくるよね」

「って言うか、ちょっとでもイヤラシイ眼で見たら怒るよりもパーティーでも開きてぇくらいだ」

「全く同感だ。

  ………尤も、今そのような眼で見たとしても、パーティーの場が壊滅状態故に、パーティーなど簡単には催せぬがな」

 

  そう言ってシグナムは10秒足らずで散らかったとはとても思えないリビングの有様を廊下から覗き見遣ってからシャマルに視線を向け、それに倣うように速人以外の全員がシャマルに視線を向ける。

  そして6名の無言の圧力を受けたシャマルは、半泣きになりながら弁解し始める。

 

「ま………、待って下さい。

  機械が誤作動したのは私の責任じゃないですよ?」

 

  シャマルとしては譲れない主張をした。

  だが、10〜20秒周期で全身に消臭剤を吹き付けているアリサが意見する。

 

「寧ろ正常に作動したように思いますけど?」

「それに食品であっても、発酵の度が過ぎた物は毒に近いですから、誤作動と判断して良いのかも難しいと思いますけど?」

 

  はやてとお互いに消臭剤を吹き付け合いながらすずかがアリサに追随しながら言う。

  更に、左手で自分に消臭剤を吹き付けつつ、右手でザフィーラに消臭剤を吹き付けたり鼻を花粉症用の洗浄液で洗ったりしているヴィータが、シャマルに半眼で告げ出す。

 

「と言うか、誤作動した責任と誤作動させた責任は別だろが」

「私としては誤作動云々以前に、耐性が低かったり身体が弱っていたりしたら危険と言われてる物を食べさせようとしたことが既に問題だと思うがな」

「……と、みんな言うとるけど、………反論があったら聞くだけは聞くで?

 

  ………因みにあたしは作ったり食べたりしてる現地の人には心底悪いとは思うんやけど、………日本文化で育った日本人としてはゴミを通り越して毒としか思えん。

  実際咽まくって酸欠死するかもしれんほどの呼吸困難になったからな」

 

  はやて達から容赦は在れども辛辣な言葉を浴びせられ、既に半泣きになっているシャマルだったが、毒物と食品を偏見無しで区分する速人に希望を託して質問する。

 

「は……速人さんなら私の作った物が料理だって認めてくれますよね!!?」

 

  食品添加物を含む加工食品を使ったりはしているものの、使用した材料は全て食材や食品である以上、何時も通り淡淡とした声で料理だと断言してくれる筈だという期待を全身から溢れさせているシャマルを差して気にも留めず、速人は自分の答えを淡淡と述べた。

 

「使用した材料は全て公式に食材及び食品と認められている物だが、先程の加工後の物体に関しては成分を分析しなければ断言は出来ぬが、凡そ食品衛生法的に食品と分類はされぬだろうと判断している」

「えと…………それはつまり………」

「承諾無しで公共の場への持ち込みは先進国ならばほぼ確実に器物破損や傷害若しくはその未遂に問われ、調理後の管理にも厳重な行政指導を行なわれる可能性が高い。

 

  結論だが、世界的には、〔体力に余裕が在る健常者ならば経口摂取可能だが、基本的に毒に準ずる物体〕、と判断されるだろう。

 

 

  話は変わるが、フルオロカーボンで肺洗浄を行う用意が在るので、呼吸に変調を来たし且つ肺洗浄を望む者は告げてくれ」

 

  シャマルに止めを刺しつつも、気管や気管支が少なからず炎症していると思われるはやてとアリサの健康を気遣う速人。

  対して周囲に誰も味方が居ないと知ったシャマルは崩れ落ち、座礼と土下座の中間のような体勢になった儘何かを呟き続けていた(誰も相手にしなかったが)。

 

  そして演技臭さが漂う落ち込み方をしているシャマルを一時的に無視しつつ、アリサとはやては速人に答えを返した。

 

「お願いするわ。

  ………肺の奥から匂いが漂ってきてそろそろ吐きそうだし……」

「うちもお願いするわ。

 

  ……あ、ついでに滅菌とか臭い消しとか出来ん?」

「肺洗浄の件は了解した。

 

  滅菌と消臭だが、長波放射線照射式滅菌処理室・熱水噴霧・有機物電離分解型浄化浴槽式滅菌処理室・冷水噴霧・有機物電離分解型再浄化浴槽式滅菌処理室・風圧除菌・有機物電離分解型再再浄化浴槽式滅菌処理室、という行程での滅菌消毒及び脱臭洗浄になるが、それでも構わないならば手筈を整える」

 

  宛ら呪文の如き行程を聞いたアリサとはやては少なからず理解が追いつかずに呆としていたが、直ぐに是非も無く答えを返した。

 

「肺と皮膚の毛穴にへばり付く感覚から解放されるなら寧ろ大歓迎よ」

「うちもアリサちゃんと同じく大歓迎や」

「あ、私も二人と一緒にお願いします。

  そろそろ鼻を削いだり胸に孔を開けて風通しを良くしたい衝動が強くなってきてますし………」

「「分かる分かる分かる分かる分かる」」

 

  すずかの発言通りアリサとはやても現在その感覚に襲われている為、力強く肯定した。

 

「了解した。

  浴室内を隔壁で四つに区切り、その場で3名の滅菌等の処置を行なう。

  尚、衣類は下着を含めて全てクリーニングを行なうので、終了後は各自用意されている衣類を着用してくれ。

 

  それと後一名随伴可能なので、至近に居たシグナムも同行した方が良いだろう」

「普段ならば畏友の方々と沐浴なされる際に随伴など致しませんが今回ばかりは陶盤を把持した手から腐っていく感が拭いきれぬ為御同行を切望致します」

 

 

  色色と限界ギリギリなシグナムは、切羽詰った感を滲ませながらはやて達に頼み込んだ。

  そして特に断る理由も無いのではやて達は全員一つ返事し、直ぐに全員で浴室に移動しようとしたその時―――

 

 

 

甜睡すらせぬ深玄にて御休み下さい

 

 

 

―――と突如辺りに声ではないナニかが響き渡り、突如世界は消失した。

 

 

 

―――― Side:? ―――― 

  Interlude out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― アリサ・バニングス ―――― 

 

 

 

  争いは何も生み出さない。

  争いは虚しさしか残さない。

  憎しみは目を曇らせる。

  憎しみは自身を破滅させる

 

  よく平和を望む奴が使う言葉だけれど、………………………今ならはっきりと言える。下衆、って。

 

 

  攫われた後、何処かの軍事基地で二人きりになった時、抗えない暴力の極みとも言える戦争について訊ねたら、普通じゃまず聞くことが出来ないことを速人は話してくれた。

 

  曰く、貧しくはなったが国民が一丸となって懸命に働いたらしい。

  曰く、勝敗に関わらず守るべき国や人が生き残った安堵は筆舌に尽くし難いらしい。

  曰く、憎しみではなく相手を考える余裕の無さが目を曇らせたらしい。

  曰く、余裕の無さが破滅と気付かずに歩みを進めたらしい。

 

  …………全て戦争体験者の発言らしいけれど、とても胸に響く言葉だった。

 

  そして何より胸に響いた言葉は、

 

〔戦う者は強制された者もいたらしいが、それでも国と身近な誰かの為に命を賭して戦ったらしく、それを平和の在り難さも碌に知らぬ似非人道主義者が戦場に送られた兵士達の決死の思いを無思慮に踏み躙るのは許せないらしい。

 

  数多の死者を出して国を統一し、列国に食い荒らされぬよう国を閉ざし、止む無く国を開けた時は列国に力を見せ付けて国と民を守ろうとし、力足りずに敗北して元敵国の半ば植民地と成り下がっても国と民を思って身を粉にし、形振り構わず他国の戦争を食い物にして漸く世界屈指の国に発展し、日本が統一されて400年以上の時の果てに薄氷上とはいえ平和を手に入れたらしい。

  だが、平和を目指すだけで平和を維持することを考えもしなかったツケが数十年で現れ、平和の在り難さを理解もせず、犠牲無く平和が手に入るモノだと錯覚する者が溢れ、錯覚した平和の在り方を信じた者達が平和を自ら壊しにかかるその様が、現在に胡坐をかいて過去から何も学ばず且つ未来を見据えぬ今の多くの民と国の在り方が嘆かわしくも悔しいと語っていた〕

 

という、一字一句正確に思い出せる程私に世界の広さを実感させた言葉だった。

 

  その後も色色話を聞いたけど、聞けば聞く程戦争にどれ程の願いと思いが渦巻いていたのかが、戦争を体験したことのないあたしでもほんの少しだけ分かった。

 

 

 

  家に帰った後パパに頼んで電話越しにだけど、沢山の戦争体験者と話をした。

 

  面白半分で人を弄んだことを後悔していた人が居た。

  祖国と国民を守るという国の言葉を信じて戦った人が居た。

  死にたくないから戦った人が居た。

  戦うのが嫌で逃げ出して軍法会議に掛けられた人が居た。

  ある日突然巻き込まれて奴隷とされた人が居た。

  意図的に戦争を長引かせて利益を上げた人が居た。

  人間の業に絶望した人が居た。

 

  他にも色んな人が居たけど、凄く有意義な話を沢山した。

  途中から誘ったすずかも苦笑いしつつも同じ感想を洩らした。

 

 

  そして色んな話を聞いてあたしの心に一つの目標が生まれた。

  【争いを必要としない世界にしてみせる】、と言う目標が。

 

  発展する為には絶えず争いが必要だし、それに、限られた富の取り合いが高じて戦争が起きるということも分かるけど、人間として最低限富を共有するだけの精神に誰もが至れれば、争う必要が………少なくとも戦争の無い世界が出来ると本気であたしは思ったし、今も本気でそう思っている。

 

  切欠を作ってくれた速人にこっそり電話で話した時、[心から尊敬する]、ていう一言を貰った。

  そして速人が自分の目的をあたしに話してくれて、その目的があたしの目標とあらゆる意味で真逆なのに驚いたけど、あたしも素直に尊敬した。

 

 

 

―――― アリサ・バニングス ―――― 

  Interlude out 

 

 

 

 

 

 

――― Side ??????? ―――

 

 

 

「徒、触られたくない。

  徒、侵されたくない。

 

  徒、傍に居たい

  誰にも関わりたくない

 

  誰にも捨てられたくない。

  誰にも死んでほしくない」

 

  速人を吸収した数秒後、ゆっくりと俯き、顔が良く見えない状態の儘、銀髪赫眼の者は独白とも告白とも慟哭とも言える声で言葉を発した。

  そして誰もがその言葉に対して言葉を返さない中、更に俯いた儘言葉を紡ぎ続ける。

 

「接触を忌む。交流を厭う。

  徒、独りである事を常に望む。

 

  孤独を疎む。疎隔を願う。

  徒、慶福である事を深く祈る。

 

  放擲を恐れる。欠落を拒む。

  徒、安らかな時を切に願う」

 

  ゆっくりと顔を上げ、未だに涙を流しつつ、何処を見ているのか分からない瞳のまま更に言葉を紡ぎ続ける。

 

「寄せ手を拒む。同胞(はらから)を拒む。

  我が望みとは誰も知らず 届かぬ、見果てぬ境地。

 

  片翼を欲す。(ともがら)を避ける。

  我が求めとは共に焦がされる中見る、届き得ぬ安息。

 

  眷属を欲す。知音を欲す。

  我が願いとは忌まわしき記憶()を消し去る、永久の箱庭」

 

  掌を力無く下に向けた儘、静かに右腕を肩の高さまで挙げ、アリサ達が警戒を顕わにする中、全く気にせず更に言葉を紡ぎ続ける。

 

「故、悉く殺そう。

  己が孤独で在る為。

 

  故、斉しく拒もう。

  己が裡に理想が在る為。

 

  故、総てを呑もう。

  己が心との繋がりを得る為」

 

  銀髪赫眼の者が言い終えた瞬間、アリサは以前速人が自分を攫った者を攻撃した時の映像が急に脳裏を過ぎり、兎に角全速力で左に身を投げ出す様に跳躍した。

 

  そして、アリサが左に跳躍するのとほぼ同時に、アリサへ急接近した銀髪赫眼の者が腕を振るっていた。

 

  同年代の平均運動能力より優れているというだけのアリサだったが、先読みで辛うじて回避し、更に上手く着地出来なかったが1回転した後直ぐに跳ね起きることに成功し、跳ね起きている最中に大声で告げ始めた。

 

シグナムさん達が相手して!!!

  あたしとすずかはなのはをノして管理局の奴等を抑えるから!!!

 

  真正面から直視して注意を払っていたにも拘らず、アリサにはコマ落しの様に相手の動きが認識出来なかった為、ほぼ確実に手を抜いている今の状態でも僅かに体が霞んだ程度しか動きを知覚出来ない以上、飛び道具を併用されたら一瞬で敗北すると悟り、自分とすずかはなのはを制圧して管理局の動きを封じるのが一番だと思い、アリサは大声で一方的に告げた。

 

  そしてそれはギリギリ間に合い、銀髪赫眼の者がバインドを行使しようとしながら先程以上の速度でアリサに詰め寄る寸での所でシグナムが進路上に割り込み、更にザフィーラが殴り掛かってバインドの発動を牽制した。

 

  ザフィーラが何とかバインド発動を牽制した直後、シグナム達は相手を自分達よりも完全に格上の中距離から超長距離の高速移動砲台型と見当を付け、一番近くに居るシグナムとザフィーラは即座に接近戦を挑んだ。

 

「ザフィーラは直ぐにヴィータと変わってアリサ殿達を護衛しつつ此方の牽制!

  但しカートリッジ補給の際は一時的にザフィーラと交代する!

  シャマルは管理局を牽制しつつ全体補佐!

 

  それとザフィーラ!何が在っても御二人を護り抜け!!

  今この場で立っている者が一人でも欠けたならば、主は御自身を生ある限り責め続け、最悪廃人か自害の道を歩まれてしまう!!!

 

  我等の勝利はこの場の誰もが欠けることなく事態を終息させることだ!!!

 

  シグナムが言い終わるとほぼ同時に入れ替わるタイミングを見計らっていたザフィーラとヴィータが入れ替わり、シグナムとヴィータは相手に含むモノが在るとはいえ、本末転倒する程両者とも我を忘れているわけではないので、両者とも私情を挟まず連携を行ないつつ相手を制圧しに掛かった。

 

  だが、作戦行動ならば兎も角、基本的に単独で戦う事が多い前衛担当の両者の連携精度は然して高くなく、二名で先手を取って畳み掛けているとはいえ、完全な格上相手には食い下がるのが精一杯だった。

  そしてそれを理解したヴィータが攻撃の勢いを更に加速させながらシグナムに怒鳴る。

 

「おい!非殺傷設定で気絶なんて狙ってたらアタシ等の魔力が先に尽きちまうぞ!!?」

「分かっているが迂闊に手足を切り飛ばせば吸収を諦めて殺害に移る可能性が高すぎる!!!」

おいっ!!アイツははやての体なんだろ!!?

「今は誰も死なずに終息させるのが最優先だ!!

  仮に傷を負わせてしまったならば後で同じだけ我が身を切り刻み、その後改めて切腹でもして詫びる!!!

 

  そもそも手加減されている状態を放棄するような真似は出来ん!!!」

 

  シグナムとヴィータがほぼ同時にカートリッジを一つ使用し、解放した魔力を攻撃に転化させず、反動を承知で強引に体に流し込んで強化を行い、基礎能力を一時的に上昇させ、更に攻撃を苛烈にする。

 

  そして体の至る所が強引な強化で僅かずつ痛み出しているのに内心焦りつつ、ヴィータは大声でシグナムに疑問をぶつけた。

 

「あんまり思い出せねえけどアイツってこんなに強かったのか!!??」

「私も詳しくは知らん!!

  知っているのは自力でも我等4名と同等であり、融合した主の能力で多少力量が変動する程度だ!!!」

「なら全員じゃなきゃ負けっだろうが!!!???」

 

  両者ともカートリッジを更に一つ使用し、強引な強化を更に強化して攻撃を続ける。

 

「半ば暴走している状態の主と融合した為制御と調整、更に天神を完全に取り込もうとしているのが原因で、恐らく大半の演算力を割いて極度に弱体化している筈だ!!

 

  そうでなければ既に負けている筈だ!!!」

「勝ち目()えじゃん!???

 

  圧倒的格上なのに魔力もバカ高いから、非殺傷じゃスタミナと魔力が切れて負け!!

  殺傷設定で殺害は論外で、手加減して手足を吹き飛ばしたらこっちが瞬殺される!!

  おまけに全員で掛かろうとすればすずか達が無防備になるから駄目!!

  当然撤退も出来ねえ!!

 

  一体どうすんだよ!?!?!?」

 

  ヴィータの怒鳴り声が響く中、シャマルは本来至近距離で使用する範囲空間型回復魔法(静かなる癒し)を大幅に効力が低下し且つ銀髪赫眼の者を巻き込むのを承知の上で遠隔展開し、辛うじてシグナムとヴィータの消耗速度を上回る回復効果を発現させて戦況維持を助けた。

 

  だが、此れでは時間稼ぎしか出来ないことを更に痛感したヴィータが声を張り上げた。

 

「このままじゃ勝ち目なんて少しも()えぞ!!!???」

「倒さずとも暴走を抑え込むまで持ち堪えさえすればいいのだ!!!」

「そんな都合良くいくのかよ???!!!」

「分からん!!!

  だが我等は全力を尽くす他無い!!!」

 

  そう言って攻撃を苛烈にしつつ、シグナムは更に言葉を紡ぐ。

 

「最低でも天神を吸収してから10分は時間を稼ぐ!

 

  30分経っても変化が見られなければ詰みだ!!」

「詰んだらどうすんだよ!!?」

「可能ならばアリサ殿達を地上に避難させ、この施設を自爆させて心中する!!!」

「助ける方法はないのかよ!!!???」

「少なくとも私達は知らん!!!

  それと主への引導と殉死は我等の最低限の義務であり忠義だ!!!

 

  主が命を賭してでも守りたい一線は不貞を犯して堕ちたとはいえ騎士の………家族の我等が守り貫く!!!」

 

  強引な強化が消え始めたのでシグナムは再びカートリッジを1つ使用して強引な強化を維持し、更に追加で1つカートリッジを使用して強引な強化の効果を増幅し、攻勢に転じかけていた銀髪赫眼の者を再び守勢に転じさせる。

 

  そして徐徐に相手が無茶をしている此方を平然と押し返し始めているのを感じたヴィータは大声でシグナムに訊ねる。

 

「他に案は無いのかよ!!!?」

「さっきも言ったが、少なくとも私達は知らん!!!

 

  そもそも碌に魔法を使われた事のない主の体で此れだけの魔法を行使しているのだ!

  長引けば精神の問題以前に融合解除と同時に即死するぞ!!!?」

「私達って……ハヤトも同じ意見なのか!!?」

「それと当の本人である正気の時のアレも同じ意見だ!!」

 

  黙って自分達の攻撃を捌き続けている眼前の存在に対する言い知れぬ恐怖を払拭するかの如く、ヴィータは更にカートリッジを一つ使用して強引な強化を更に強化し、此れ迄に無い苛烈さで眼前の存在を攻め立て、顔を顰めながら叫ぶ。

 

「はやてと心中すっのはアタシが死んでからにしろ!!」

「シャマル以外は構わんが―――」

「死なずに還るだけだ」

「―――先ずは私か  触れるな!!!

 

  突如今迄シールドで防ぐか避けるだけだった銀髪赫眼の者が、唐突に貫き手でグラーフアイゼンを連続で弾きながらヴィータへと肉薄しつつシグナムの言葉に割り込んだ。

  そして銀髪赫眼の者が何をしようとしているかを直感的に悟ったシグナムは大声でヴィータに注意を呼びかけた。

 

  だが、回避行動とシールドを急展開して接触を回避しようとしたヴィータだったが、時間足りなかった事と間合が近すぎた為、容易くシールドを砕かれながら距離を詰められ、放たれた貫き手が僅かにヴィータに触れた。

  そしてその瞬間―――

 

                                                     ちくしょお   

 

―――ヴィータの決意など存在しないかの如く、ヴィータとグラーフアイゼンは銀髪赫眼の者が何時の間にか手に持っていた書に存在密度を奪われ、消えた。

 

  そしてヴィータが消えるのとほぼ同時にシグナムは全速で距離を取りながらカートリッジを一つ使用し、レヴァンテインを蛇腹剣型(シュランゲンフォルム)に変形させながら大声を張り上げた。

 

ザフィーラッ!!!

 

  磔にしてでも足止めしろという意味を籠めてシグナムは名を叫び、そしてそれが伝わったのかは定かではないが、ヴィータがアッサリと薄れて消えたのを見たザフィーラは接近されるのを危険と素早く察し、シグナムが叫ぶ前から既に行動に移していた。

 

  だが―――

 

「堅甲な」

 

―――銀髪赫眼の者は鋼の軛が発動するのとほぼ同時に、然して強度が高くないと窺える球状のバリアを展開し、―――

 

「床の」

 

―――床や天井に突き刺さっていない為確りと固定されていない鋼の軛は、―――

 

「此の場で」

 

―――然して強度が高くないバリアに悉く逸らされ、―――

 

鋼の軛(其れは)は」

 

―――バリアを解除した後に素早く全ての鋼の軛を視界に捉えられる距離へと移動して揮われた腕の一振りで、―――

 

「然して」

 

―――(シールド)と言うよりは壁と呼べる規模のモノが高速で前方に打ち出され、―――

 

「使えん」

 

―――全ての鋼の軛が壁の如きシールドに弾き飛ばされ、ザフィーラ達の方に襲い掛かった。

 

 

 

―――

 

  現代科学の粋を集め、極めて高いレベルの硬度と粘度と耐摩耗性を併せ持った床を鋼の軛は貫く事が出来ず、床や壁や天井に突き刺さって固定されていない鋼の軛の目標に対する貫通力や固定力は大幅に減少してしまっていた。

  その為、然して強固ではないバリアに命中した瞬間に鋼の軛自体がズレ、強引に拡大させた脆弱なシールドを即興の術式で強引に前方に押し出されただけにも拘らず、鋼の軛は簡単に弾き飛ばされてしまった。

 

  尚、なのは相手に使用した時は半壊されたエレベーター内の床や壁や天井に突き刺さっていたので今回以上の効果は発揮していたが、それでも外側を覆っていた強固な装甲を貫くことは出来ずに鋼の軛の端が僅かに固定されていただけだったので、速度重視で発動されたとはいえ相当効果が低かった(確りと刺さっていればなのはのディバインバスターを10%〜20%は周囲に逸らし、エレベーター内という密閉空間ではなのはに逆流や反射する可能性が在った)。

 

―――

 

 

 

  弾き飛ばされた鋼の軛がザフィーラ達に向かって来る最中、ザフィーラ辛うじて自分やアリサ達が巻き込まれる寸前に鋼の軛を解除して事無きを得たが、ザフィーラ達より前に居たシグナムは面に近い制圧力と普通の弾丸(魔法の)並の速度で迫り来る鋼の軛を避けられなかった(レヴァンテインがシュランゲンフォルムに変形中の為切り払う事も出来なかった)。

 

  幸いシグナムは然してダメージを受けることはなかった。が、大きくバランスを崩してしまい、不自然な体勢且つ緊急時の防御にはシュランゲンフォルムのレヴァンテインは碌に役に立たない為、銀髪赫眼の者に大きな隙を曝すことになってしまった。

  当然その隙を逃す筈も無く、銀髪赫眼の者はシグナム目掛けて高速で接近し始めた。

 

  だが、銀髪赫眼の者が突進を始める寸での所でシグナムはレヴァンテインから未使用のカートリッジを排出させ、それをレヴァンテインの柄尻と左手で挟んで破壊した。

 

  結果、未使用の魔力はカートリッジが破壊された為周囲に爆散し、高速で接近していた銀髪赫眼の者を僅かに押し返しつつ軌道を逸らし、そしてシグナムを後ろに吹き飛ばした。

 

 

  吹き飛ばされる方向は何とか狙い通りシャマルの傍へと出来たシグナムだったが、代わりに姿勢制御を碌に行えなかった為、シグナムは受身も満足に行なえずに床と壁に叩き付けられた。

 

  そして再度大きな隙を曝すことになったシグナムだったが、シャマルがシグナム達の補給用のカートリッジを取り出したのを見た銀髪赫眼の者は接近を中断し、涙を流しつつも怪訝さと悲しみの混じった不可思議な表情で、だが何の感情も読み取れない瞳で語りだした。

 

「打倒も和睦も逃亡も事実上不可能。

  にも拘らず、何故抗う?

 

  何故消されない?

 

  何故還らない?

 

  何故受け入れない?」

 

  力無く首を傾げながら問う銀髪赫眼の者に、シグナムは使用済みのカートリッジを全て排莢し、シャマルからカートリッジを受け取りつつ答えた。

 

「今するべきことは、身魂を賭してでも主に僅かな可能性を捧げることだ。

 

  そしてその結果主の力が及ばなければ、先程述べた通り施設を自爆させて共に果てる」≪簡単に説明するが、目の前の存在は魔導書の管制でありその意思だ。

  本来は主と融合して力となる存在だが、主の暴走と覚醒を抑えている。

  そして防衛プログラムに不備が生じていて、自身以外を破壊し尽くすことで自身を護ろうとしているから、迂闊に破壊すれば何が起こるか分からん此処で暴れるわけにもいかん以上、防衛プログラムすら抑えている≫

 

  かなり速く念話もしつつ、シグナムは銀髪赫眼の者の問いに答えた。

  そしてシグナムが念話をしていることなど承知しつつも、銀髪赫眼の者は更に問いかけた。

 

「抗い、そして何を私に望む?

 

  私は総てに応えない。

 

  私は誰にも想われたくない。

 

  私は少しも拒まれたくない」

「お前に望むことなど無い。

 

  誰も失わずに事を終わらせ、再び日常へと帰りたい。

  徒それだけだ」≪不備が生じている防衛プログラムの抑制限界時間が20〜30分で、その後は主と管制人格の制御から離れ、破壊されるまで破壊を振り撒くだけの存在になる≫

 

  カートリッジを補充し終え、更に長剣型(シュベルト フォルム)に戻したレヴァンテインを構えながらシグナムが問いかけた。

 

「此方からも一つ問わせてもらうが、………………自分が何者なのかを答えられるか?」≪故、主が時間内に覚醒して管制人格の承認を受け、不完全ながらにでも管理者権限を得、防衛プログラムを切り離さなければならない≫

 

  行動の方向性はブレていないものの言動は纏まっておらず、仮に管制人格以外に速人とはやての人格が表に出てきているのならば、それを自覚させる事ではやての覚醒を促せるかと思ってシグナムは問い掛けた。

 

「知る必要など無い。

  そして私すら知る必要は無い。

  私が他者を認識出来れば自分の証明などそれで事足りる」

「ならば問うべきことは他に無い。

 

  後はお前が防衛プログラムを抑えている間に主はやてが覚醒して防衛プログラムを切り離すか、それとも取り込まれた天神が防衛プログラムを御すまで耐え忍ぶだけだ」≪シャマルは何が合っても最後まで生き延びて、最悪の時は此処を自爆させろ。

  それとアレが旅の鏡を使えるのを忘れるなよ≫

 

  その受け答えで周囲へ簡単な状況説明済ませ、シグナムはシャマルをザフィーラの後ろに行くよう眼で促し、改めて刃の無い方を銀髪赫眼の者に向けながら構えた。

 

  そして涙を流してはいるものの感情の無い瞳でシグナムを見つつ、銀髪赫眼の者は独白とも告白とも激白とも取れる言葉を紡ぎだす。

 

「私は私の成すべきことを成す。

  ………いや、在るが儘に在ろうとする。

 

  故、此処に宣言しよう。

  狂いし後も在り方を変えぬと。

 

  故、此処に宣揚しよう。

  壊れて尚足掻き続けると。

 

  故、此処に宣誓しよう。

  嘆きの中汝らを想うと」

 

  言葉が終わると同時に魔導書から殆ど魔導書と同じ大きさで、透明度が高い紫色の光が天井へと5メートル程伸び、その後突如それは折り畳まれた物が解ける様に八つに分かれ、宛ら八岐大蛇の如く蠢いた。

 

 

 

――― Side out:??????? ―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― ??????? ―――― 

 

 

 

  深い闇の中、徒只管に取り込むべき体を抱きしめながら、涙を流し続けた。

 

 

  誰にも愛されず命が宿った。

  誰にも愛されず死体より生まれた。

 

  初めから使い潰される為の命だった。

  初めから代わりなど幾らでも在った。

 

  非才を示せば贄の候補として選ばれた。

  非才を示せば更なる地獄に突き落とされた。

 

  贄に選ばれれば貴重品として扱われた。

  贄に選ばれれば名が与えられた。

 

  殺されぬ代価として死ぬ為の研究を強いられた。

  殺されぬ代価として更なる服従を強いられた

 

  成すべき事に挑む為に地獄を生み出した。

  成すべき事に挑む為に関係者を鏖殺した。

 

  足りぬモノを求めて彷徨した。

  足りぬモノを得られると思い家族となった。

 

  増えた家族に己を薄められた。

  増えた家族に道を閉ざされた。

 

  蒐集を開始する時光明を見出した。

  蒐集を開始する時離別を決断した。

 

  友から逆の道の可能性を示された。

  友から初めて打算無く認められた。

 

  計算された戦いの末に主を絶望に叩き落した。

  計算された戦いの末に死んだ。

 

 

  だが、苦難という言葉では済まされない、人が生み出す絶望の粋を経験させられていたことが悲しくて涙を流していたわけではなかった。

 

  成すべきコトは不可能と言われるモノで、徒ソノ為にのみ在る以上、生まれから死ぬ時迄何処にも救いが見えず、そして叶わぬと理解したその上で総てを省みずに挑み続ける在り方が、どうしようもなく悲しかった。

  救いを拒絶するのではなく、救いが在ると思っていない考えが、どうしようもなく哀しかった。

 

  だが、私を想って更に苦難の道を歩もうとすることが、震えを抑えきれぬ程悲しく、求めて抱きしめてしまう程哀しく、そして涙が流れる程嬉しかった。

 

 

 

  あぁ…………、もう……世界などどうでもいい。

  私の望む者達が慶福であれば………。

 

  そして、それと同じ程私の傍に在ってほしいと想った。

 

  諦観していた報い。行動しなかった罪。そして罰を望む卑しさ。

  ………その全てを常に刻み続けてほしいと思った。

 

  だが、何よりも、徒、傍に居てほしかった。

 

 

 

―――― ??????? ―――― 

  Interlude out 

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― 八神 はやて ―――― 

 

 

 

  温かかった様な、胸をかき回される様な、楽しかった様な、不思議な感覚が途切れて消えてく中、そんなことを感じれるってことは寝てたんやと思いながら、酷く眠いけど、少しだけ目を開けた。

 

 

  どこかも良う分からんトコに居たことにまず驚いた。

  しかも真っ暗なのに自分がはっきり見えるのが、寝ぼけてる頭でも不思議に思うた。

  そやけど、車椅子で寝てたのに首も腰も痛くないことに一番驚いている自分の呑気さに少し笑いが零れた。

 

  眠すぎてまぶたが震えるし、見とるもんも歪んだり震えて見えたりしたけど、気絶しそうなほど眠くてもため息が出そうになるほど綺麗な女の人があたしの前で泣きながらナニかを抱きしめているのが見えて、一気に目が覚めた。

 

 

  そやけど、あたしが声を上げるより早くに目の前の綺麗な女の人が、困っとるとも微笑んどるとも分からん顔で手を伸ばしてあたしの額に触れた。

 

  そしてその瞬間あたしの意識は途絶えた。

 

 

 

―――― 八神 はやて ―――― 

  Interlude out 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― Side ??????? ―――

 

 

 

  透明度が高く、暗い紫色に輝く八岐大蛇の様な触手が蠢くのを見、守護騎士達は恐怖に近い緊張で体を僅かに強張らせた。

 

 

 

―――

 

  蠢く八つの触手の様なモノ。それは魔導書の端末とも言える守護騎士達を強制的に魔導書に還す為のモノであった。

 

  しかも守護騎士プログラムを総括する管制が作り出した以上、それらは守護騎士達が使う全ての魔法に影響されずに素通りする可能性が高い為、魔法で直接的に防御や迎撃することが高い確率で出来ぬと予想され、そして僅かでも掠れば恐らく問答無用でヴィータの様に魔導書に還されると推測されるモノだった。

  その上、ソレ以外の魔法も十分行使可能であろうことから、波状弾幕で足止めしつつ触手の様なモノで魔導書に還すという手段も十分に可能であると推測された。

 

―――

 

 

 

  蠢く触手の様なモノの性能を看破したシグナム達は、眼前の存在の戦闘能力だけではなく、存在そのものが魔導書の端末とも言える自分達とは一線を画しており、自分達よりも完全に格上の存在であると認識し、詰んでしまったという思いが胸に広がった。

 

 

 

―――

 

  シグナム達は猶予時間限界迄にはやてが覚醒して暴走を抑える、若しくは取り込まれた速人が活動を再開して暴走を抑える迄の間、文字通り命を賭して此の場に居る者を守り抜き、事態が終息した際にはやてが気負う要因を可能な限り減らし、少しでも今迄通りの日常に戻れるように命を賭すつもりだった。

  尤も、仮に自分達が消えたとしても、はやてが主として覚醒さえすれば再び顕現出来る以上、自分達の命というか身体の精神的尊さが随分薄いと感じていたが今は敢えて気にせず、自分達と違って何かあれば取り返しが付かないアリサとすずかを守るためならば、嬲り殺されても構わないとさえ思っていた。

 

  だが、相対している眼前の者は魔導書の管制機能であり、又、魔導書の意思とも呼べる存在は、シグナム達の決意を宛ら、〔力の伴わない想いは徒の妄想だ〕、とでも言わんばかりに歯牙にもかけていなかった。

  そして、実際に戦闘力を見ても歯牙にかけられずとも致し方ない程に開きが在り、しかもそれを正しく理解した上で油断せずに歯牙にもかけていないという理想的な心構えをしていると感じ取り、シグナム達は希望が薄れて消えてゆく最中だった。

 

―――

 

 

 

  単独で守護騎士全員と比して尚格上。

  はやての身体なので殺害不可。

  死亡しない攻撃を被弾させても暴走する可能性が高い為、一定以上の攻撃も不可。

  魔力に圧倒的な開きが在るのでバインドも力技で即座に破壊される。

  仮に魔力が弱まったとしても守護騎士達が用いる術式を把握済みなので、即座にバインドを破壊される。

  相手は触れれば一撃消滅の近距離から中距離の複数同時攻撃持ち。

  肉弾戦は不得手だろうが、守護騎士全員相手に防戦ならば余裕で可能。

  恐らく遠距離から超長距離の大出力攻撃がメインだろうが、バリアを展開してそれ未満の距離で炸裂させる可能性在り。

  広域攻撃を回避及び防御する手立ては恐らく無く、迎撃及び相殺は事情以前に実力的に不可能。

  一撃消滅攻撃を警戒して間合いを取ろうにも、閉鎖空間では其れも儘成らない。

  相手は彼我の戦闘力を正しく把握した上で油断も緊張もしていないので、精神的疲労や隙も期待出来ない。

  止めに撤退不可。

  おまけに魔法の術式以前に、下位プログラムからの干渉を一方的に無効化する防御手段を有する可能性在り。

 

  不利な要素が此処まで揃っている為、シグナム達の心も流石に折れ始めた。

  だが、不意に回りに飛び散っている血痕を意識に留めたシグナムは強く唇を噛み締め、骨が軋む程強くレヴァンテインを握り締めながら叫んだ。

 

「……不利など先刻承知!

  希望が消え去って絶望で覆われようと、終りの容が目の前に現れようと、誰の誇りと誓いと命を使い潰してでも夢見た未来を掴み取ると決めたのだ!!!」

 

  シグナムの叫びに呼応するように構えられたレヴァンテインから焔が迸った。

  そして炎の向こうに泰然とも悠然とも判別が付かない様で佇む銀髪赫眼の者を、穴が空かんばかりに注視しながらシグナムは更に叫ぶ。

 

「第一!  私の叫びを聞くだけの余分が在るのだ!!

  天神の様に他者の叫びを気にも留めない戦闘に特化した存在ではないのだ!!

 

  たとえその身が絶望を振り撒く存在だろうとも、絶対そのものでない限り打開は出来るはずだ!!!」

 

  二度と戦えなくなっても構わないという想いを以って、シグナムは制御限界どころか耐久限界すら度外視した強引な魔力による強化を自らに施しつつ、シャマルとザフィーラに叫び告げる。

 

「諦めるならばアリサ殿達を連れて離脱し、不可能と判断した瞬間に主ごとこの施設を爆破しろ!

  力が在ろうと戦う気の無い者が戦場に居るのは邪魔でしかない!!!」

 

  自分の叫びをシャマルとザフィーラがどのように受け取ったかシグナムは気になったが、これ以上眼前の者は沈黙し続けてはいないだろうと判断し、答えを期待して待てばそれだけ精神的に隙が生まれてしまうと思ったシグナムは微塵も気を緩めずに眼前の存在を睨みやった。

  だが、シグナムの眼前の者はシグナムの判断通り沈黙を破りはしたが、それは行動でではなく、言動でであった。

 

「烈火の将よ、お前の心の奥底からの叫びがその程度のものだったとはな。

  ………聞く価値も無ければ語らせる為に顕現させておく価値も無かった。

  そしてそのような叫びで立ち上がる風の癒し手と蒼き狼も顕現させておく価値も無かったな」

 

  何時の間にか眼に溜められていた涙は乾いており、赫眼に見えていた眼は緋色であると見て取れ、更に失望や落胆を湛えながらシグナム達を見ていることも見て取れた。

 

  そして銀髪緋眼の者の言葉を聞いて怒りの言葉を叩き付けようとしたシグナム達だったが、それよりも早く銀髪緋眼の者は言葉を紡いだ。

 

「心の奥底からの言葉が理性的で、そして其の言葉で震えて立ち上がるならば、お前達の心に私は価値を見出せない。

 

  心からの叫びに余計なモノで体裁を整え、自他を欺くお前達を私は認めない。

  騎士の誇りや倫理観を挟まず、主と眼前で息を引き取った者を心の儘に吼え求めた紅の鉄騎の如く、徒、求めるモノを其の儘に求めればいい。

  心より求むるならば、其処に後付の倫理や規律が割り込む余地など微塵も無い。

  だが、烈火の将は犠牲にした者に報いる為などという言葉を挟み、風の癒し手と蒼き狼は其の言葉で立ち上がった。

 

  ……即ち、お前達は自身の矜持の上で物事成し遂げたいということに他ならず、主や犠牲にした者の為になどという言葉は、其れを成す為の過程や手段だという何よりの証左だ」

 

  分解吸収した速人の価値観や思考が多量に混じったのか、銀髪緋眼の者の考え方は当初よりも遥かに厳しく、そして感情が薄い物言いだった。

 

「お前達が近くに居ながら一体どれだけ苦しめていたか………いや、一体どれだけ苦しめていることに気付かずに幸せであると決め付けていたか、………お前達に知らしめねばならない。

  故、主の願いを満たす為だけでなく、私がお前達に罪を知らしめる為にも、お前達を書に還そう

 

  ……主と会う前に、自らの無知と無恥を知れ」

 

  最後の言葉を告げ終わると同時に銀髪緋眼の者は、書から生えた触手の様なモノと同じ発光体を体に纏い終え、更に頭に一対と背に二対の魔力で編まれ且つ触手の様なモノと同じ発光体を纏った翼を広げ、シグナム達を見下す為だと言わんばかりの眼差しをつつ天井近く迄浮かび上がった。

 

  図星を指された為か先程より更に格が上だと感じてしまった為か押し黙るシグナム達に、銀髪緋眼の者は無知な咎人を処刑する死神を思わせる様相で悠然と浮遊しつつ冷厳に告げる。

 

「お前達の未来に希望が在ることを願ってはいる。が、お前達には最早何一つ期待していない」

 

  何時の間にか銀髪緋眼の者が持つ書からは、触手の様なモノが半透明の紫色から大気よりも高い透明度の薄藤色へと変化し、魔力光が変化している事を窺わせた。

 

「…………………………奇跡に挑んだ対価を知る為、此処で終われ」

 

  そして、反論出来ずに押し黙っていると知れるシグナム達を、銀髪緋眼の者は腹立たしく思いつつも触手の様なモノを一斉に繰り、シグナム達へと襲い掛からせた。

 

 

 

――― Side out:??????? ―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ――――Side:アリサ・バニングス ―――― 

 

 

 

  アリサとすずかは後ろ髪を凄まじく引かれる思いを振り切り、シグナム達から離れた位置で倒れ伏しているなのはへと疾走した。

  だが、早くも身体能力の差から、すずかがアリサに可也先んじ始めた。が、途中ですずかはなのはからレイジングハートへと方向転換した

 

  特に示し合わせたわけではなかったが、アリサは即座にすずかがレイジングハートをなのはから見えない位置へ遠ざける為に方向転換したと判断し、速度を落とすことなくなのはへと向かいつつ急いで思考を巡らせた。

 

(なのはが使ってた鈍器(メイス)はすずかが見えない位置にやるから大丈夫。

  ていうか、なのはの性格的に、攻撃以外は攻撃を補助する単純な防御や補助系以外は習得してない筈だから、銃口をなのはに向けてれば多分問題無し。

  だから先ず優先することは、此処を覗いてる連中共に、あたし達が捕虜の有効活用方法を知ってて実践出来てるって印象付けること!!!)

 

 

 

―――

 

  捕虜、若しくは人質を効果的に活用する為には、

1.相手に対して効果的な者を選ぶ。

2.失っても此方が構わない者を選ぶ。

3.殺害しても構わない状況にする。

という前提が在るが、幸いどれもアリサはクリアしていた。

 

  そして、シグナム達は殺害する気は無いようだが、アリサとしては地球侵略者(インベーダー)とその仲間であり、何よりも業腹級の余計な御世話を理由に速人(友人)に舐めまくり過ぎた真似をしたと認識しているなのは達に情けを掛ける気は無く、必要と判断すれば迷いを一瞬で振り切って鏖殺するつもりであり、そして自分にそれが出来るとアリサは確信を持って判断していた。

 

―――

 

 

 

  思考を纏め、アリサは同年代の平均と比して速い速度でなのはへと走って向かった。

  だが、五輪の選手並みに速いすずかに比べればアリサは余りに遅く、レイジングハートの近くに落ちていた空の弾倉をレイジングハートへと蹴ってレイジングハートを動かしたすずかと殆ど同じ時に倒れ伏すなのはの前に到着した。

 

  アリサもすずかも時間的猶予や心象的に呼び掛けて起こしたいとは思っていなかったが、少なからず自分達から話し合おうとする以上はいきなり攻撃するのは礼に反すると思ったのか、それとも何かしらの人情が在ったのかは不明だが、アリサとすずかはいきなり攻撃せずに呼び掛けることにした。

 

起きなさい。って言うか起きろ

なのはちゃん、起きて

 

  普段より声音と声量を上げて呼び掛けたが、なのはが起きる気配は全く無かった。

 

「「……………」」

 

  数秒待ってみても全く変化が無かったので、アリサは直ぐに―――

 

「起きないならとりあえず何かぶつけるわよ。

  9……8……7……」

 

  魔法を余り知らぬアリサとすずかとしては、接触発動型の魔法を警戒してなのはに直接触れることを敬遠したので、其其ポケットの中を弄り、アリサは携帯音楽機の電池の予備(単三電池×4)をビニールから破って取り出し、すずかは手頃な物が無かった為デザートイーグルを取り出した。

 

「6……5……4……」

 

  流石に気絶している状態での防御力が判らない以上、いきなり発砲するのも不味いと判断したらしく、アリサとすずかは眼でそのことを告げ合い、すずかはなのはを牽制する為にデザートイーグルを構えるだけにした。

 

「3……2……1……」

 

  アリサは左腕で速人の腕付き銃を抱えつつ、単三電池一本を握り込んだ右腕を大きく振り被り、―――

 

(食らえ)っっっ!!!」

 

―――なのはの後頭部に叩き付けた。

 

「っっっっっっったぁぁぁぁっっっ!?!?!?」

 

  なのはの後頭部に叩き付けられた単三電池は然してバウンドせず(跳ね返らず)、そして術者が気絶し且つデバイスが破損した状態で術者の手を離れていた為か、バリアジャケットの強度は然して高くなかったらしく、衝撃が阻害されずになのはへと徹った為、なのはは突如頭を襲う痛みで覚醒した。

 

「目ぇ覚めた?

  大丈夫じゃないなら邪魔だから意識を引き取っててもらうけど?」

「だ……大丈…夫……だよ。

  だ…から………早…く……レイ…ジング……ハート…を……取って………きて」

 

  なのはが混乱しているのか都合良く状況を解釈しているのか、若しくはそれ以外なのかアリサには分からなかったが、少なくとも今し方なのはが発した言を叶えるつもりは毛頭無く、そして改めてそのことを言うつもりも無いので、アリサはなのはに合わせず喋り始めた。

 

「何するつもりか聞く気は無いけど、邪魔だし不快だから隅で黙って大人しくしててくれない?

  尤も、魔法なんていう便利な殺人ツールを使わせない為にも、あそこで砕けてるのを渡す気は微塵も無いから」

 

 

 

―――

 

  当然アリサは此の様な言い方をすればなのはが激昂するのは十分承知していた。

  しかし、それでもアリサは最後の確認として、なのはの意識が地球と時空管理局のどちら側に在るのかを知って置きたく、敢えて挑発的に尋ねた。

  そしてこれからのなのはの返答にも態と神経を逆撫でる様に返し続けてなのはの意識の在り所を見抜き、偶偶意見が食い違って敵対しているのか、それとも根本から立場が相容れない存在なのかを見極め、その上でなのはへの対処を決定するつもりだった。

 

―――

 

 

 

  友人としてではなく一個人としてなのを見極める為に放たれたアリサの言葉は辛辣だった。

  そしてその様な言葉を受けたなのはは、思考の方向性は兎も角、市相応生時経を逆撫でる様に返し続けてなのはの意識の在り所を暴き思慮の度合いは年相応か若干低い為、自らを否定する類の言葉を受けた際に込められた意図を察するということが出来ず、徒単に自分の意見が聞き届けられず且つ魔法を殺人ツールと言われたことに腹を立て、うつ伏せの状態で顔だけ上げながら怒鳴りだす。

 

「なっ!?何でっ!!??

  みんなを助けるには魔法が必要なのにっ!?!?!?」

「何処の誰が魔法使い(あんた)達に助けなんて求めたのよ?

  他所様の事情に親切の押し売りなんてしてんじゃないわよ」

 

  なのはの疑問や主張を鰾膠無く切り捨てるアリサ。

  そしてなのはが異論を怒鳴りだす前に、アリサは更に言葉を被せる。

 

「第一、年齢通り中身が子供のあんたに助けてもらわなくても、地球にはあの本を消し飛ばせるだけの備えが在るんだから、コソコソと場を引っ掻き回すだけのあんた達はお呼びじゃないのよ」

「駄目だよ!質量兵器は使っちゃいけない物なんだよ!?」

「それなら質量ゼロの光学兵器でも使って切り刻めば文句無いでしょ?」

「だから駄目だよ!!魔法以外の兵器は危ないんだよ!!??」

「兵器が危ないのは当然でしょが。

  拳銃然り。ミサイル然り。あんたの魔法………いえ、あんた然り」

「っっっ!?!?!?

  あたしは兵器じゃないし危なくなんかもない!!!

  危ないのは質量兵器だってどうして分からないの!!!?

  フェイトちゃん達がみんなひどいことになったんだよ!!!???」

 

  顔で周囲に倒れているフェイト達を示すなのは。

  だが、アリサは馬鹿にしたり呆れたりするでもなく、なのはに何と無く速人を連想させる表情と声で以って淡淡と答えを返す。

 

「領土侵犯に機密区画への無断侵入。稚拙な恫喝に正当性の無い破壊及び傷害行為。しかも国家の最高責任者に対して殺害を前提にした傷害。

 

  主権侵害をしたにしては安すぎる代償でしょ?

  普通なら裁判に掛けられるかも怪しい狼藉よ?」。

地球(ここ)は管理外世界だからあたし達が堂々と協力できないんだからしょうがないよ!!!」

「………………」

 

 

 

―――

 

  アリサはなのはの今し方の発言を聞き、既になのはの意識は地球ではなく時空管理局に属していて、【元地球人というだけの時空管理局員】、になっていると確り判断した。

  直後、なのはが地球を自分や時空管理局の都合で好き勝手されて当然の立場と認識しているとも判断し、アリサはなのはの意識や意識の在り所について自分なりの結論を下し、なのはを地球と地球に住まう者達と相容れない者と明確に認識した。

  同時に、アリサは目の前のなのはが、自分の夢や人生、更には自分の世界(自身の周囲全て)の敵でしかない存在と確信を持った。

 

  そして、なのはに対しての認識を明確にしたアリサは、はやてに依っているからと雖も、地球で平和に暮らそうと思っているシグナム達とは大なり小なり相容れることが出来、更に此の儘敵対せずに協力を続ければなのはを無力化したり地球外に追い出すことも十分可能に成ると判断し、しかも自分の世界の被害を最低限に留める事にも繋がるという判断要素も加わった為、アリサはどんなに迷おうとも見失わない結論を得るに至り、少なからず成り行きで協力していた今迄と違い、明確に協力することを決めたのだった。

 

 

 

―――

 

 

 

  冷静というよりも冷徹になのはへの認識と対処を決めたアリサは、自身の限界迄なのはを、【自分の敵であり、状況を動かす駒】、と意識を切替た。

  そしてその直後にアリサは、―――

 

(目的はあたしの世界を欠けさせないこと(速人を死なせない)。それと(なのは)を地球から追放するか無害化すること。

  障害はなのは達時空管理局の面面。場合に因ればあそこで泣いてる奴。

  対処は……脅迫と警告。

  概要は……………此の場に干渉すればシグナムさん達じゃなくてあたしがなのは達を殺すかもしれないと思わせる。

  詳細は………………………時空管理局の言い分じゃなくて地球の日本に住むあたしたちの言い分でなのはを叩きのめして鎮圧する。

  問題は加減が分からないとか時空管理局に効果が有るか分からないとか状況が悪化するかもしれないとか山程。

 

  ………実行!)

 

―――と、一秒も掛けずに考えを纏めた。

  そして考えを纏めたアリサはすずかに、[暫く任せて]、と眼で告げ、直後内心でアリサは、―――

 

(あたしはまだまだ未熟だけど、これだけお膳立てされてもなのはや緑髪達(こんな雑魚達)相手に遅れを取ってたら速人に合わす顔が無い!)

 

―――と、自分に発破を掛けつつ口を開いた。

 

「だから、何時何処で誰があんたらに助けを求めたのよ?

  聞いた限りじゃ此の件で地球で被害に遭った人間ははやてと速人の二人だけ。

  そしてどちらもあんたらに助けなんて微塵も頼んでない。

  寧ろはやてにとっちゃあんたは文字通り、家族の一人をぐちゃぐちゃにした張本人。

 

  ……よくもまぁ協力とか助けるとか言えたわよね」

「あの人は質量兵器を使ってた悪い人なんだよ!!??なのにどうしてあたしが悪いみたいに言うの!!!??

  それに魔法を知らないんだから助けてなんて言われるはずないよ!!!」

「分かってるじゃない。

  ……そう、魔法を知らないなら魔法関係の危機なんて分からないでしょうし、それで助けを求めることも無い。

  つまり、誰もあんたや時空管理局を必要としていないってことよ。

  だって、危険も知らなければあんたらの存在も知らないんだから。

 

  要するに、邪魔以前に要らない存在なのよ。

  だからとっとと自分達の世界に帰ってくれない?」

 

  アリサは靴の裏にこびりついたガムを見るような眼でなのは見つつ、吐き捨てる様に言い放った。

  当然その様に言われたなのは更に激昂して怒鳴り始める。

 

魔法が使えるあたし達ならひどいことになる前に何とかできるんだから、邪魔でもなきゃいらなくもないよ!!!

  何で誰かを助けようとしてるのに分かってくれないの!!!???

「危険に晒されていることすら分かってない者達に危険の原因すら隠した儘危険を消してたら、一体何時危険を理解して備えや対処が出来るようになるっていうのよ?

  あんた達は目の前の危険と一緒に成長する機会も消して問題の先送りをしてるだけで、誰も助けようとすらしてないわよ」

あたしははやてちゃんだけじゃなくて守護騎士の人達も助けようとしてるのに、どうしてそんなこと言うの!!!???」

「………シグナムさん達ははやてが笑っているのが幸せで、はやては十分過ぎる程幸せだったらしいわよ。

 

  速人と出逢って、不器用ながらに二人で一緒に暮らして、シグナムさん達と不思議な出逢いをして、家族が増えて、友達が出来て、本当に幸せだって。

  死ぬのは怖くて寂しくて泣く程嫌だけど、身体が不自由で長生き出来ない代わりにみんあに逢えたんだから、自分はスッゴク幸せだって。

  そして今が壊れるのが一番嫌だって」

だからあたし達がはやてちゃんを助けようとしてるんだよ!!!

  病気が治れば死なないし、ずっとシグナムさん達と一緒に居られるんだよ!!!?

  速人がはやての家族ではないも同然のなのはの発言だったが、流石に何度も聞いたアリサは憤り以外に呆れが混じった眼と貌と口調で返す。

 

「はやてが家族の速人をプレスだかミンチだかにされて幸せになれると思ってんの?」

あの人がいなくなればはやてちゃんは騙されてたって気付くから問題無いよ!!!

「生憎とはやてはあんた達に洗脳される程頭緩くないわよ。

  だって速人との今迄は嘘じゃないし、速人自身嘘は言ってない。

  だけどあんた達は推測と虚偽が混じった、あんた達の都合でしか速人を語らない。

  だからあんた達の思惑にはやては乗らない」

だからあの人は悪いことしてたんだよ!!!?

  質量兵器を使ったりフェイトちゃん達を傷つけたり管理局を無視したり、いっぱいいっぱいいけないことや悪いことをした犯罪者なんだよ!!!??

「いけないこととか悪いこととか犯罪とか(うっさ)いのよ。

  大体ね、はやてが速人を否定するとしたら、【速人の考えをはやてが受け入れられない時】だけよ。

  どれだけ速人の行いが悪かろうと、速人は家族としてはやて達の力になろうとしてやってたんだから、そんなことくらいではやてが速人を否定するわけないじゃない。

 

  それに、世界を平定したとか恥ずかしげも無く吹聴してから140年程経ってるらしいってのに、未だに自分達の管轄を管理しきれないなんて、二次大戦後にある程度平和になった地球未満の劣悪組織の言い分聞く程はやてもお人好しじゃないわよ。

  少なくても地球では世界の統括機関とも言える国連に表立って戦争吹っかけた国なんて、この半世紀と少しの間に一度もありはしないのに、あんた達の組織は相当攻撃吹っかけられたそうじゃない?」

管理局は地球以外にもたくさんの世界をまとめてるんだから、一緒になんかできないよ!!!

「苛立つから寝言は墓下まで抱えていって、涅槃で喋ってくれない?

 

  そもそも規模や範囲はあんまり関係無いのよ。

  自治権を主張する多数の組織を纏める上位期間とも呼べるものに所属してるってのに、所属してる組織内からその上位機関にテロを行うとか、その機関がよっぽど舐められてるか、よっぽど無能か、よっぽど害悪かのどれかよ。

  ……あたし的には無能で害悪で舐められてるとしか思えないけどね。

 

  何度も反乱が起きてるのに強権も執行してないなんて、どんだけ楽天的な夢想家共が巣食ってる組織なのかしらね」

 

  吐き捨てるというよりも呆れ果てた感が強い口調で喋るアリサ。

 

  そして相手にするのも疲れるといった感じを全身から漂わせつつ、アリサは更に告げた。

 

「〔自分の頭の上の蝿を追え〕、っていう、古来より日本に伝わる言葉を送るから、後で脳にでもレーザーで物理的に焼き刻んどときなさい。

 

  あ、後、〔勘違いした小さな親切、徒の国家反逆罪〕、って言葉も送ってあげるから、指でも切り落としてから流れ出るる血で文字を書き綴って覚えるといいわよ」

 

  そう言ってアリサはすずかに無言で片手を差し出した。

  そしてそれに寂しさが混じる苦笑を浮かべつつ、すずかはデザートイーグルを一丁アリサに手渡した。

 

「それじゃあもう顔見たくないから」

 

  そう言うとアリサはなのはの髪を掴んで持ち上げ、銃口ではなく銃身をなのはの側頭部に押し付け、何かを言おうと口を開きかけたなのはを無視してデザートイーグルの引き金を引き絞った。

 

  発射された弾丸は床に当たって明後日の方に兆弾したのでなのはに命中はしなかったが、激発時の衝撃が銃身からなのはの側頭部に伝播した為、なのはの頭蓋骨に亀裂が生じた上、脳幹迄激しく揺さぶられた為に一瞬にして前後不覚状態に陥った(デバイス無しで展開している為、強度が大幅に低下している)。

 

  そしてアリサはデザートイーグルを激発した後、生理的に受け付けない街頭ポスターを見るような目をしながら掴んでいたなのはの髪を離した。

  当然なのはの頭部が床に叩き付けられた。が、一瞬遅れてなのはの頭部が僅かに跳ねた瞬間にアリサはなのはの頭部を容赦無く踏み付け、足でなのはの頭を固定しながら頭頂部と側頭部の中間に銃身を押し当て、兆弾が自分やすずかに当たらない様に銃口の角度に気を付けつつ、連続で引き金を引き絞った。

 

  結果、激発時の衝撃が碌に軽減されない儘に衝撃が連続してなのはの頭部を駆け抜けた為、なのはの頭頂部付近の頭蓋骨は砕け割れ、更には凄まじい衝撃が脳内の血液を通り貫けた為、血液内に溶けていた酸素等が一部気泡化して一時的に脳の血流を妨げた(液体に一定以上の圧力や衝撃が加わると、溶けていた気体が気化してしまう)。

  しかも、アリサの持つデザートイーグルの残弾が0になる前に、既になのはは脳震盪で気絶していた。

 

  だが、今度はすずかが気絶したなのはの手首にもう一つのデザートイーグルで照準を合わせつつ―――

 

「あのね、なのはちゃん。

  私、自分の一番大切なモノが信念とか大切な誰かとか自分とかじゃなくて、常識とか倫理とか組織の都合とかって言う人達は………………大っっ嫌いなんだ」

 

―――そう告げた後に引き金を引き絞った。

 

「!?!?!?

                                                        !?!?!?!?!?!?

 

  一部の脳内血管が気泡で未だ血流が滞っているので脳が十全に機能していなかったが、あまりの衝撃になのはは脳に一時的に障害を負った儘覚醒させられた。

  だが、覚醒した直後に再び凄まじい痛みを感じてしまった為、一瞬で意識が落ちていった。が、脳が一時的に機能不全に陥っているので、精神や自我を護る為に気絶するという機能が上手く働かない為、なのはは自身の許容量を超えた痛覚が意識を占め続け、なのはは全身を弛緩させながら吐息と喘ぎが混じった音と声の中間の様なモノを喉から発すことが精一杯の状態になっていた。

 

「だけどね………、知ってる?」

 

  反対側の手首にも発砲した後、〔万が一手首が千切れ飛んでも止血すれば死にはしないし、千切れ飛ばなくても骨は砕けるだろうから、どちらに転んでも構わない〕、と思いつつも、すずかは密かに自分は速人が負った傷を僅かでもなのはに味わってほしいと思っていたのだと、繋がっているなのはの手を見た瞬間に感じた落胆で気付いた。

 

  そして、アリサに弾倉と薬室内に装填する分の弾丸を渡しつつすずかは喋る。

 

「〔士 死して屍拾う者無し 徒土に還りて国を肥やし 以って報国と成さん〕。

 

  ………本当にそれだけの意思が在る人達なら、大っっ嫌いだけど…………………尊敬は出来るんだよ。

  だけど……………なのはちゃんはそうじゃないでしょ?」

 

  なのはは被弾箇所を押さえようとしたが、未だ機能障害から回復していない脳では満足な思考が出来ず、結果、手を床に叩き付けるという奇行に走って手首を痛めつけるだけに終わってしまった。

 

  そして、更なる痛みが脳内を駆け巡ろうとも叫ぶどころか気絶することすら出来ないなのはは、手を床に叩きつけながら防御体勢に移行するかの様に身体を丸め始めた。

  だが、すずかは足でヴィータの一撃を受けて脱臼しているなのはの右足を強引に伸ばして照準を右膝に合わせつつ、更にすずかは告げた。

 

「やりたい事が他に無くて、自分が人より力を持ってたから、自分の力だけでも必要としてくれる人が居たから、深く考えない儘に力を揮って誰かの大切な人を奪って、誰かの想いを踏み躙っただけだよね?」

 

  手首に比べて膝は頑丈なのだが、現在なのはのバリアジャケットは破れ難いだけの布と言える程度の強度の為、手首と同じく一撃で砕けてしまった。

  そして奇妙な形に曲がったなのはの右膝を見たすずかはなのはの神経が断裂したと判断し、今度は左の足を伸ばして左膝に狙いを定めながら告げる。

 

「所詮本気じゃないから誰がどうなったってどうでもいい。

  どうでもいいことだから、それで怒る私達を理解出来ない。

  だから私達が裏切ったとか思ってるでしょ?」

 

  のた打ち回りもしないので、すずかは簡単になのはの左膝も破壊出来た。

  そして色色と垂れ流して痙攣しているなのはの鎖骨と脛骨に念の為に1発ずつ弾丸を放ち、空になった弾倉を落としながらすずかは告げる。

 

「最後に私の持論を教えてあげるね。

  …………裏切ったっていうのは、信じきれなかったか理解してなかった者が言う言葉だと思うんだ」

 

  屈み込んだすずかはなのはをうつ伏せにして延髄にに銃口を押し付け、温度の無い眼をしながら告げる。

 

「私はなのはちゃんを信じきれないし、理解出来ない。

  そして信じたくないし、理解はしても共感はしたくない。

  だから……」

 

  一瞬だけすずかの眼に寂しさの様なモノが過ぎった瞬間―――

 

「バイバイ」

 

―――その言葉と共に薬室内に残っていた弾丸が激発され、なのはの首から下を不随にし、完全に気絶させた。

 

  感慨にも浸らず、すずかは弾倉を取替え、薬室内にも1発装填させた為1発減った弾倉に一発追加しながらアリサに話しかける。

 

「多分そろそろミドリ虫の様な髪の色の人が話しかけてくる筈だから―――」

「―――適当に遇って時間を稼ぐから、すずかはあっちをお願い」

 

  速人の腕が付いている魔導師殺しをすずかに渡しながらアリサは告げた。

 

  そしてアリサから魔導師殺し(速人の腕付き)を受け取ったすずかは、8本の触手の様なモノを携える銀髪緋眼の者と相対しているシグナム達の前に駆け出した。

  駆け出して行く最中、すずかから―――

 

「カッコ好いよ。アリサちゃん」

 

―――と言われ、アリサは自分が自覚しない程甘い為にすずかになのはへ止めを刺させるという役を負わせてしまった事への自責の念が沸いたが、それらを胸の奥へ押し込めつつ、アリサはすずかに見えないのを承知で不敵な笑顔で返事をした。

 

 

  そして、アリサはすずかを見送って3秒も経たずに呆れや侮蔑や嘲笑や億劫さで満ち満ちた貌へと変化させ、更に声にも其れ等を目一杯込めて告げた。

 

「で、どうせ、〔あの子が死んだからこれでもう気にせず通信できるわね〜w♪。もし生き返っても死人との契約は無効と言えばいいし〜(失笑)〕、とか思ってる典型的な厚化粧の性格ブスに言っとくけど、どのような理由が在ろうとも契約を反故にするか無効にしたら、相手が律儀に契約内容を守り続ける義務も無くなるわよ?」

 

  すずかから渡されたデザートイーグルの予備弾倉をポケットに捻じ込み、デザートイーグルを左脇に挟んで痛んだ手首を摩りつつ、アリサは更に告げる。

 

「あたしが尋ねたから返事しただけって言われるのは癪だから先に言っとくけど、返事は必要としてないから。行動で示せばいいから。

  で、用件だけ言うわよ。

  邪魔したらナニカが汚い花火みたいに弾けると思うことね。

 

  あ、なのは(ソレ)を黙らせてる時に割り込まなかったのはナイスな判断と言っとくわ。

  割り込まれたら苛立ちで手元が狂って凄い顔になってたはずだから」

 

  摩った感触から骨が外れたりしているわけではないと判断したアリサは、再びデザートイーグルを両手で保持し、右肩に乗せるように構えた。

 

  そしてアリサが右肩に銃を乗せる様に構えた約半秒後、前触れ無く空間モニターが展開され、苦虫を噛み潰した顔を浮薄な笑顔で覆おうと努めているリンディが映し出された。

 

『あなたはなのはさんのお友達じゃないの?』

 

  前置き無くリンディはアリサに語りかけたが、リンディの言葉を聞いたアリサは呆れよりも侮蔑が籠もっていることが直ぐに分かる程の眼と声で独り言を始めた。

 

「速人の体が半分消し飛んでも今の今迄黙ってたのに、将来の有望株と思ってる奴の身が危なくなれば前言を撤回する、か。

 

  ………子供だからと差別せずに駒としか見ない曲に、今さっきなのはを滅多撃ちしてる時は呆気にとられて干渉し忘れてただけとか…………、所詮は派閥争いで上に昇ったゴマ摺り年増提督ってトコか……。

  …………チョロイ相手ね」

 

  侮るというよりは地を這う虫を嘲笑う感じの表情で紡がれたアリサの言葉は、リンディのプライドを酷く逆撫でた。

  そして貼り付けた浮薄な笑顔が剥がれるのを止められぬ儘、リンディはアリサに話しかけた。

 

『子供の我が侭はこれまでです。

  好き勝手行動した報いとして、直ちにその場の全員を止める協力をしてもらいます』

「テラワロス。

  リアルで電波系なんて始めてみたわ。

  後、必死に厚化粧で年誤魔化してるのが超ウケる」

 

  内心、[速人なら難しい言い回しで徹底的に虚仮にすることが出来るのに……]、と思いながらも、アリサは何とかリンディを怒らせ、後程役に立つ言質を取ろうと画策していた。

 

 

 

―――

 

  感情ではアリサとしてもすずかと一緒に銀髪朱眼の者と相対したかったが、同年齢に比べて少少優秀な部類の身体能力しか持ち合わせていない自分では、武装し且つシグナム達の援護を受けても足手纏いにしかならないと理解していた。

  だが、どういうわけかオリンピック候補選手級以上の身体能力を誇るすずかならば、シグナム達の援護が在れば強制的に書に還すだろう攻撃に割り込んで盾にはなれると判断し、死地とも言える場所に送り出した。

  そしてアリサは自分だけ半ば戦線離脱し、状況終了後有利に運べる言質をリンディから取り、更に可能ならばリンディの意識を全て自分に向けることで僅かでもリンディ達からの介入を軽減する役目を選んだ。

 

  無論会話だけでなく実力行使も辞さないという考えを知らしめて牽制する為、アリサは碌に抵抗出来ないなのはに追撃ちを掛け、更に必要とあらば友すら死地とも呼べる場所に苦悩せずに送り込めると印象付ける為に歯噛みすらせずに送り出し、その上守護騎士達だけでなく銀髪朱眼の者をも一喝して指示通りに動かして見せることで自分がトップと印象付けたりと、アリサは自分に思い付く限りの手を銀髪朱眼の者が現れた時から採り続けていた。

 

―――

 

 

 

  完全に相手を馬鹿にした口調で喋る余裕顔のアリサに対し、リンディは立場上此れ程明らさまに不真面目で無思慮で神経を逆撫でる相手と相対したことは無い為、目元以外に笑みが微塵も残っていない容貌だった。

 

『………目上の者に対する礼儀どころか事の重大さを知らない子供は黙って大人に従っていなさい。

  子供の遊びじゃないのよ、これは』

「はあぁ〜〜〜ん?

  なんで職業意識の低い犯罪組織(マフィア)みたいなとこの奴に一市民が礼儀払わなきゃいけないんですかぁ〜?

  一体何処の何様のつもりですかぁ?

 

  激しく気分悪いんで、丸坊主になってから額に二つ斑点足した顔を晒して愉快な気分にさせて下さーい♪」

 

  邪魔な子供を私怨混じりに言い包めようとしたリンディだったが、それに対してアリサは自分よりもモノを知らない存在を完全に上から目線で馬鹿にした態度で返した。

 

『…………私達時空管理局はマフィアではなく次元世界の平和を守る正義の組織の徒で、最低限の敬意は払われるべき存在よ』

「うっわぁ〜〜。マジ?マジですか?

  国の責任者とかに圧力かけるんじゃなくて、子供相手に見得を切るなんて恥っずかし〜〜〜ぃ。

 

  ……それ、何て言う正義の味方ゴッコですか?」

 

  馬鹿にしている発言なのは間違いないが、アリサの言う透り、国の責任者に話を通さずに現場の者相手に凄む正義を謡う存在など、普通は一笑されるのが当然であり、その考えに思い至ったリンディは更に顔を歪め、最早貼り付けた浮薄な笑みが無くなった容貌で告げる。

 

『生憎とあなた達の居る其処は管理外世界と言って、魔法が使えないから管理局は国交を築いていないの。

  だからこうして直接現場の者に話しかけているわけよ』

「はぁ?国交無いのに人や物を送り込んでんの?なのに正義の徒とか言っちゃってるの?

  …うげっ!?主権侵害を犯罪と認識してない、典型的な狂信者集団じゃないっ。

 

  た〜す〜け〜て〜。異端審問という名の陵辱と人体実験をされた挙句、一族郎党皆殺しの上に財産も没収されるぅ〜〜〜〜」

 

  正しく語るに落ちた状態のリンディは、アリサの対応と自分の話術に関する力量の低さに苛立ちを募らせつつも、我を見失わずに話を続けた。

 

『不法侵入なのは認めますが、放置しておけばこの世界が滅びるのを防ごうとしている以上、誰にも迷惑はかけていない筈だけど?』

「もしも〜し。脳が狂牛病罹ったみたいにスポンジ状になってるんですか〜?

  一体何処の何方様が助けて下さいって言ったんですか〜?

  〔思い上がり〕、とか、〔余計なお世話〕、って言葉知ってますか〜ぁ?」

『人間は死が間近に迫れば助けを求めるのは当然のことよ。

  そして今や闇の書は死を振り撒き始めているわ。

  だから今私たちがしていることは、余計なお世話じゃなくて救済ってことになるわ』

「うわぁーWOW。聞き苦しい三段論法ね。

  正気を疑うと言うより、歩んできた生き様を疑うレベルの発言よね。

 

  だいたい主権侵害って、他所の組織にも被害を齎さない限り禁止じゃないんですか〜ぁ?」

『そうです。事はこの世界だけの問題じゃありません。

  この世界が滅びれば、次は私達が管理する世界が危険に晒されてしまう可能性が在る以上、なんとしてでも地球の科学などでは及びも付かない魔法の産物、闇の書をこの場で私達が破壊しなくてはならないのです』

 

  リンディのその言葉を聞いた瞬間、アリサは、[食い付いたっ!]、と内心で歓声を上げたが、一切表情には出さず、相変わらずの馬鹿にした余裕顔で言葉を返す。

 

「どれだけ哂いを誘う思考回路してるんですか〜?

  地球に魔法と分類される存在が居る以上、何で国交を開こうとすらしなかったんですか〜〜。

 

  偶然でも魔法関係の存在が地球に在る以上、地球は魔法を得ている筈ですYO?」

『闇の書は地球に現れる遥か以前から管理世界に存在した以上、闇の書の所有権は地球ではなく管理局に在り、地球の一般に魔法が広まっていない現状では、地球は魔法を知らない存在です』

 

  アリサは内心、[釣れたーーーっっっ!!!]、と大歓声を上げ、馬鹿にした不敵な笑みを強烈に濃くしながら言葉を返す。

 

「ぷっっ。

  自分達が管理してるとか言ってるモノを地球に出現させただけじゃなくて、それまで魔法とかとは無関係に過ごしてた少女が知らぬ間に主になるのを阻止も出来ない。

  その上、派遣した人材は魔法が使えない子供一人に手加減された状態でも一人を除いて全員ノされてるってのに、未だに偉そうな管理者面って…………、哂ってしまうというより、哂い過ぎて性格変わりそ。

 

  後…………、ノされなかった一人は……………安全とか非殺傷とか謡われてる魔法を、魔法が使えないのに手加減してた子供に自分を人質に取るだけじゃ飽き足らず、体半分消し飛ばした挙句に残った骨を砕きまくった上に臓器を破壊しまくる超危険人物。

  …………送り込んだ事に関する言い訳を聞きたいわね」

 

  痛い所を突かれてリンディは数秒唇を噛み締めたが、直ぐに苦苦しい表情の儘言葉を返す。

 

『………たしかに、……それらに関しては全面的に管理局の落ち度ね。

  特に速人君がなのはさんに殺されたことに対しては言い訳も出来ないわ。

 

  ……だけど、事態をどうにかする為にもあなたの協力が要るのよ』

「ぅわぁ………。

  魔法が使えるから子供を戦場に送る免罪符にしてるってのに、魔法とかいうトンでも技能が使えない一般の子供に協力要請して戦場に送り出そうとするなんて、………………キてるの?」

『勘違いしないでくれるかしら?

  私はあなただけじゃなくてあなた達の今後を考えて提案しているのよ?

 

  あなたが協力すればあなただけじゃなくて他の人の罪も軽減されるかもしれないという親切心で言ってるのに、そう取られるのは心外だわ』

 

  アリサとしては大声を上げて笑い者にしたくなる程墓穴を掘り続けるリンディを、懸命に不敵な笑みに嘲笑を混ぜるだけに留めつつ言葉を続ける。

 

「ふん。

  所有権を主張し且つ管理してると主張する対象を自身達の管轄外への転移を許し、転移後無作為に選ばれた者が知らぬ内に主と認証されて命を削られ続け、それを知ったロストロギアと呼ばれた者達が治療を目的に行動を起こした。

  しかも負傷者は管理外世界の野生生物、又は此の星に国籍を置く者に限定されている。

  尤も、戦闘を仕掛けてきた者はその限りじゃないみたいだけれど。

 

  ……そっちの管轄で生まれたわけでもなく、そっちの管轄に籍を置かずに此の星の国家に籍を置いていて、そっちの管轄区では行動を行なってなくて、そっちが管理外とかホザいている区域でだけで行動を起こしてて、そっちの組織員と戦闘したのは吹っ掛けられた際に行った防衛戦だけ。

  しかもあんた達はシグナムさん達は生命体扱いじゃなくて器物扱いしてたから、そもそも罪を問えない。

  ……………一体あたし達の何処にあんた達に罰せられる要素が在るのかしら?

 

  それとソコで倒れてるのは、証拠を見せれば間違い無く外患誘致って罪状が付くから、この程度痛めつけてもこの国……日本じゃ間違い無く罪に問われないわよ。

  寧ろもっと痛めつけるなり殺すなりしてでも確実に死体を確保しろと言われるでしょうね。

  ……どう考えても日本だけじゃなくて地球中の国家全てを、国家滅亡を通り越して国民鏖殺クラスの危機に晒そうとしてるんだもの」

 

  漸く取りたかった言質を全て取れたので、アリサは不真面目な口調から何時も通りの口調に一転し、先程よりも更に嘲笑を深くして告げた。

 

  そしてアリサの告げた内容を聞いたリンディは数秒呆然とした後、歯を食い縛った怒りの形相でアリサを睨んだ。

 

 

 

―――

 

  アリサが最もリンディから引き出したかった言葉は、時空管理局に非が在ることを認めさせる言葉だった。

  しかもリンディが時空管理局に非が在るとハッキリ認めた事柄は、

1.自分達が所有権と管理権を持っているロストロギアを管理外世界への転移を許した。

2.魔法とは無関係に過ごしていた管理外世界の少女がロストロギアの主になることを阻止出来なかった。

3.魔法が使えぬ上に手加減していた子供一人に、一名以外全員倒されるという、危険に対処する力不足。

4.魔法が使えぬ上に手加減していた子供相手に自らを人質にした挙句半身を消し飛ばし、更に残った半身の大半を圧壊させた者を指揮下に置いていた。

の、4点であった。

  そして仮にリンディの発言を個人的な発言と時空管理局が言おうものなら、事態が逼迫している最中に現場の最高責任者が個人として行動していたという大失態を認めることになり、事前にリンディを免職していたことにすれば、民間人に戦艦を奪われた挙句に船員は誰一人気付きもしなかった若しくは全員その一味と解釈されてしまう上、大規模な魔導兵器(アルカンシェル)搭載艦の掌握に不備があったことを晒してしまい、更にリンディの発言を無視及び無効とすれば、アルカンシェル搭載の戦艦で行動しし且つ執務管やAAAランクの魔導師を派遣した現場最高責任者の提督の言葉すら不都合が生じれば反故にされるという認識を周囲に抱かせてしまい、結果的に時空管理局及び所属する者の信頼の失墜に繋がるので、リンディの発言は取り消すことなどほぼ不可能な類の言葉だった。

 

  尤も、アリサも誘導尋問に近いことを行ってはいたという批判点が少なからず在るが、飽く迄誘導尋問に近いだけであり、そも客観的には尋問ではなくアリサが言いたい事を言っている最中勝手にリンディが自爆しただけであり、最初から馬鹿にしていたアリサの態度については、〔真面目に相手するのも馬鹿らしい相手だったからアノ態度だった〕、等の発言をすれば民間人のアリサに対しては礼節に関する注意を超える干渉は行えないので、全く問題は無かった。

  更に、最後辺りの真面目な態度は、〔速人がボロボロになったのを思い出して怒ってたから〕、等の発言をすれば問題無い為、アリサの態度を口実にリンディの発言の有用性を否定するのは極めて困難であった(リンディが速人と通信していた辺りから痛恨の失言や対応を連発しているので、それらを見聞きしていたアリサが真面目に相手をするのも馬鹿らしいと思うのも極普通の事と判断されてしまい、その上アリサが子供故に感情の制御が苦手という一般的見解も加わる為)。

 

  しかもリンディは前途の4点以外にも管理局の落ち度と断言はしていないものの、

1.不法侵入を認めた。

2.司法権限を持たぬにも拘らず、独自に有罪と判断した管理外世界現地の子供を減刑の為と嘯き、魔法が使えぬ現地の子供へ現場で危険行為を行うように命じていた。

という失言を吐いていた。

 

  つまりリンディは自身達が不法侵入を犯した犯罪者であることを認めており(不法入国も含んでいると思われる)、自分達の法が及ばない区域と認めたのと同義であり、更に管理局にとって事件の参考人であろう者を独自の判断で保護を行わずに戦力としての利用を試みており、しかもそれは魔法が使えぬ非魔導師である為、力が在るから利用したという言い訳が全く成り立たず、質量兵器を持っていた事を理由に挙げたならば、言外に管理局は質量兵器を利用しなければ事件を解決出来ないと公言しているのと同義である為、どう足掻こうと非難を浴びることは避けられなかった。

  仮にリンディの独断と管理局が言い張ろうと、現場でそのような事例が存在したと知られること事態が問題であり、管理局の理念と信用が著しく傷付くのは明白だった。

 

  尚、此れ等の事を証拠が無いと全面的に否定したとしても、なのは達のデバイスが周囲の状況を記録しており、それ以外にもアリサ達が居る場所は多数のカメラとマイクで映像と音声を多角的に記録しており、更に魔導書やアースラも記録している為、全ての証拠を隠滅したりするのは困難を極め、更に白を切ろうとすれば強烈に印象が悪くなるだけであった。

 

―――

 

 

 

  魔法が使えない平凡な子供と侮っていたリンディだったが、まんまと踊らされて失脚級の失態を晒してしまった事を理解した為、睨み殺さんばかりにアリサを睨みやっていたが、アリサは正真正銘全く堪えておらず、嘲笑を更に深くした上に侮蔑をも混ぜた笑みで告げる。

 

「汚点を消す為にアルカンシェルとかを此処に撃ち込めば此処に居るそっちの関係者は全滅。

  しかも地表で炸裂すれば微生物以下以外滅亡クラスの気候変動はほぼ確定。

 

  転移で回収しようにも、速人がはやて達を巻き込まないよう、そいつらが其の辺のコンピュータからはやて達の位置を掴んで転移しないようにする為&はやて達が転移して参戦しないようする為、転移で進入及び離脱する者を無差別で殺害する設定をしているらしいから、転移での回収もほぼ無理。

  その上そっちの関係者を無視して地表にアルカンシェルとかを撃っても、後で調査された時に失態とその隠蔽の為の工作と判断されるから、艦橋の面面はほぼ確実に汚点を吹聴されない様に刑務所行き。

  しかも魔導書がそこらのデバイスの記録を読み込んで証拠を増やし、何時の日か一連の事件を白日の下に晒す可能性が残るというおまけ付き。

  第一、宇宙からの攻撃に対して迎撃能力を持ってないとはとても思えないから、ほぼ確実に迎撃されるでしょうね。

 

  あ、地上から制圧しようにも速人との約束を破って通信した以上、ほぼ確実に殺害前提で迎撃されるでしょうね。

  しかもそうなるようにしたのは、約束を破られた上にあんた達が見るも無残な状態にした速人だから、文句は全く言えないわね」

 

  アリサの言葉を聞いたアースラの艦橋の面面達は既に詰んでいると理解してしまい、大まかな筋書きを用意した速人と、それを恐らく即興にも拘らず最上の容に仕上げたアリサの二人に完敗したことを悟った。

 

  空間モニターに映る面面の表情からアリサは向こうの面面の心が折れたと判断し、止めを告げる。

 

「此の期に及んで殺されないとか思って其処のソレをあたし達に嗾けたら、…………………肉を抉って骨を砕いて耳を毟って眼を削って鼻を刮いで肺を潰して(わた)を刻んで血を搾って心を壊して……………………………殺す

 

  憤怒や侮蔑や憎悪とは無関係に、〔必要ならば見せしめに殺す〕、という意思を示し、其れを感じ取ったアースラの艦橋に居る面面は、法でも倫理でも情でもアリサは止められず、力尽くで止めようにもアリサ達の居る施設が生きている現状では分が悪過ぎる為(仮にアルカンシェルが迎撃されれば魔導書に対してアースラは有効な手を打てなくなる為)、最早黙って状況の推移を見守るしかないとアースラの艦橋の面面は改めて思い知った。

 

「精精祈ることね。

  ………世界の管理者を気取る自分達が成し得なかったことを、野蛮と決め付けた世界の、魔法が使えない一人の子供が描いた筋書き通り、見事成し遂げられる瞬間をね」

 

  言い終えると同時にアリサはなのはの髪を掴んで引き摺りながらシグナム達の方に歩き出す。

 

  そして空間モニターに背を向けて数歩歩いた時アリサは立ち止まり、最後にどうしても言いたかったことを告げる。

 

「地球に住む人の総意なんてあたしは知らないけど…………、少なくてもあたしは…………生き残るのも滅びるのもあたし達の意思と力の結果だと思ってる。

  第一、あたし達人間は精神的に一段階成長………若しくは進化しないと、遠くない時期に自滅するって分かってるんだから、あそこで泣いているのが本格的に暴れだしたら億単位で人が死ぬかもしれないとしても、人類が脅威を前に一つに纏まった上に新しい力を手に入れられる可能性が在る以上、少なくてもあたしはあんたらの理想の捌け口にされるなんて真っ平よ。

 

  ……………速人も言ったけど、あたし達は生かされているんじゃない、生きているのよ!

  家畜のように食べられる為に飼われるなら未だしも、あんたらの自尊心を満たす為の慰み物に成り下がるなら、自分達の力で挑んで足掻いて滅ぶ方が遥かにマシよ!!

 ……… 地球に生きる者達(あたし達)を舐めるんじゃないわよ!!!

 

  その叫びと共にポケットから空の弾倉を振り向き様に空間モニターへ投げ付け、空間モニターが消えたかどうかも見届けずにアリサは改めてシグナム達の下へと歩き出した。

 

  人質ではなく純粋に盾として使えるなのはを引き摺って。

 

 

 

――― Side:アリサ・バニングス ―――

  Interlude out 

 


 

  第二十二話(仮 ver .2):離別と絶縁―――了

 


【後書】

 

 

 

  一応誤字修正版だけを送らないようにするという謎ルールを自分に課しているのと、誤字がシリアス全開な所だった為、誤字を修正して投稿する為に急いである程度書き足しました。

 

  これで残すは、今回???????の問いかけの最中なのは達の生殺与奪を握った状態で管理局相手に舌戦を繰り広げていたアリサとすずかの描写と、色色と混ざり合って暴走気味な???????との戦いと、防衛プログラムの問題の三つです。

  後、感想を頂いた全ての方が望まれていらっしゃられなかったので、可能な限り欝な雰囲気にはならないように注意しています(展開事態は鬱かもしれませんが)。

 

  因みに設定に追加された陽電子砲の項目に陽電子砲が何故第二実験場に配備されていないのかが書かれていますので、御暇な方はどうぞ(闇の諸事件で使用される可能性はは現在無いので、読まれずとも全く問題在りません)。

 

 

  それと没エンディングに、速人がヒトの儘蘇生するものの、言語中枢が一部損傷した為運動性失語症(他者の言葉や文字を読むことは可能だが、自分の思考を言語化することが不可能な状態(当然筆談も不可能))になり、はやて達の前から姿を消す若しくは特殊接触感知で深深度での意思疎通が可能な???????以外とは碌に接触しない引き篭もりエンドを考えていましたが、試し読みさせていた知人から、[メッチャ鬱になるし、なのはの対応がムカつき過ぎるから止めろ]、と言われ、[取りあえず勢いで書いたけど、ここまで不評なら止めた方が良いかな〜?]、と思い、没にしました。

 

  因みに知人が一番ムカついたと言ったなのはの台詞は、

「最初から誰かとお話しする気も無いし、それにどうせ自分勝手なことばかり言うんだから、今の喋れない方がずっとずっと良いことだよ」

という台詞です。……………速人が外道ならば、この場合のなのははただの下衆ですね。

  ………意図してなのはを貶めようとしているわけではないのですが、恐ろしいことに作者の中ではなのはが上記の台詞を吐くことに一切違和感が無く、限界まで善意的表現をしても、〔会話や文字書きを強いて回復させようとする〕、という、医者に叩き出された挙句裁判沙汰になっても不思議でない展開になり、作者のなのは像が相当歪んでいることが明らかになるばかりです。………アレルギー食物のような忌避感は在りますけど、苦手な食べ物みたいな嫌悪感は無い筈なのですけどね。

  尚、なのちゃんならば矢鱈と付き纏いますが、懸命に速人の想っている事を感じ取って代弁しようと速人を全力で観察すると思っています。………当然ですが、スピンオフ作品なだけに、容姿と名前以外は完全に別人ですね。

 

 

  作中補足という程ではありませんが、知人にツッコミを入れられたので何故速人が短期間でほぼ後ろ盾無しで某ネルフ級の建造物と某アーカム級の企業を得られたかについてですが、

 

〔国連加盟国の大半にクラッキングを行う〕→〔非公開ながらも立国を認めさせる報酬としてクラッキングの対処を行なう(自作自演)〕→〔金に物を言わせて創った有限会社を独立国化〕→〔裏取引で得た犯罪者及び国家にとって都合の悪い者等を短期間で兵士化(脱落者50%以上)〕→〔示威行為として紛争地域に兵士を派遣する〕→〔自滅覚悟の特攻を行なえば米国の中枢機能を破壊可能と認識させる〕→〔利用価値が高いアメリカに多大な援助を行ない、更に多数の国連加盟国へ新技術や新理論を極秘に譲渡〕→〔各国の思惑が絡み合って睨み合い状態へ移行〕→〔現在に至る〕

 

という感じです(超大雑把ですが)。

  因みに速人を所有していた企業が潰れる前(血縁者全滅前)から速人は動いていますが、それでも2〜3年以内の出来事です。

  ………………正直、これ以上リリカル世界と縁の無い設定を入れるのもどうかと思っていたのですが、疑問に思われている方が居られるかもしれないと思い、作中補足ではなく裏設定として後書きで書くことにしました。

 

  余談ですが、速人が対魔導師用に使用しなかった携行型兵器は相当数在り、最悪ショック死するレベルで発光する閃光手榴弾や、水中でも燃焼し続ける程消火困難な焼夷手榴弾や、弾芯にポロニウムを混ぜ込んだ多弾殻弾や(掠って血液に混入したポロニウムが脳に至れば即死)、某天上天下でもあった摂氏数千度を超えるガスブレード、等等etc………、軽く20種類以上は在ります。

  個人的には外で戦闘をしつつ、某フルメタでも使用されたクラスター爆弾でなのは勢の相手をしたかったのですが、諸般の事情により没になりました。

  …………後、防御魔法は魔法を防御することに専心しているとDVDブックレットにあったらしいですが、それなら防御魔法の物理耐性って低いのでしょうかね?  少なくともバリアジャケットは不自然な程魔法よりも物理耐性に優れていると思うのですが……(ヴィータにビルへと叩き付けられて殆どノーダメージならば、ヴィータの攻撃はギガントフォルム以外では殆どダメージを負わせられないと思います)。

 

 

 

  今回は珍しくおまけが在りませんので、この辺りで失礼致します(同時投稿のIF3にはIFのおまけが大量に在りますが……)。

  それでは毎回掲載し且つ感想を下さる管理人様と、御読み下さった方に心より感謝を申し上げます。




アリサ、かっこいい。男前だな。
美姫 「確かにね。シグナムたちを一括した上に諭すというか、既に命令」
まあ、一秒を争う状況だしな。そんな状況でありながら、必要最低限の会話で成すべき事を判断する。
いや、本当に大したものだな。
美姫 「後書で述べられたエンドもちょっと気にはなるけれど、この続きがどうなるのか本当に楽しみです」
次回が待ち遠しいな。
美姫 「そうよね。次回も楽しみに待っていますね」
待ってます。



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