はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第4章 「夜のお姫様」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月9日(日)海鳴市藤見町 高町家 AM9:23

この日、高町家に悪魔が降臨した。

 

「ふふふ、今日こそ名誉挽回するよ!」

 

キッチンでやけに張り切っているのは、海鳴市でも有数の『必殺』料理人、高町美由希。

対抗できるのは、某女子寮のオーナーのみともっぱらの噂である。

空は雲一つない良い天気なのにも関わらず、高町家のみは上空に黒い雲、家は禍々しいオーラで覆われていた。

野良猫は怯えて半径一キロ以内には近寄らないし、比較的高町家に近い神影家でも、その異変は感じ取ることが出来た。

なにせ桜花と瑛、神影家へ遊びに来ていたアリサも、それを感じ取った瞬間に、商店街の翠屋めがけて全速力で走っていったくらいだから、危機レベルは非常に高い。

たまたま、というか他の面子は既に高町家にはおらず、いるのは恭也と美由希のみである。

無論、その危機に恭也が気付かぬ筈はない。

美由希がキッチンに入る少し前、散歩にでも出ようとした恭也が、テーブルの上にあるレンのメモを見て商店街へ向かおうとしたとき、美由希とすれ違った。

昨日の桜花のマッサージで疲れがほとんど取れている美由希は、なにやらぶつぶつ、と独り言を呟きながらキッチンに入っていったため、恭也とすれ違ったことに気付いていなかった。

ゾクッ

そのことを咎めようとした恭也だが、その美由希の姿に、これ以上ないくらいの嫌な予感を覚えて、メモを持つと『神速』支配の領域に入って、高町家を離脱した。

しかし、脱出してもあまり安全とは言い切れない。

美由希は恭也に「美味い」と言わせるために頑張っているのだから、必然的に恭也は『それ』を食べなければならない―――いや、食べさせられるのだ。

哀れ、恭也。

天然女殺しはこういった災害を無意識に呼んでしまう、ある意味不幸の具現かもしれない。

 

 

 

 

 

この後に待っている運命など露知らず、恭也は商店街の『ドラッグストアふじた』に辿り着く。

 

「あ、いらっしゃいませ―・・・」

 

店の中に入った恭也に『ドラッグストアふじた』の娘さんの藤田望が応対する。

 

「ええと、特売品、っていうのは・・・・・・」

「あ、それでしたら、こちらになります―」

 

望に案内された恭也は特売品の値段に目を向ける。

『消毒液298円、包帯10m・98円、化膿止め・鎮痛系傷薬582円・・・・・・』

特売品というだけあってかなり安い。

恭也は必要個数を買うと店を出た。

 

(さて、どうする? 今、家に戻るのは非常に危険だ)

 

高町家のほうを見ながら恭也はこれからの行動を考える。

恐らく外で食事を取ったほうが安全且つ確実に生還できるだろう―――お昼は。

どちらにせよ昼に取らなくても、恭也が家に帰れば、確実に一口は食べさせられるだろう。

不幸にもそこに考えが行き当たらない恭也は、臨海公園でお昼にしようと足を向けた。

 

 

 

 

 

「な、なんや・・・・・・これ」

「一見いつものように見えるけど・・・・・・」

「「人外魔境だ!」」

 

お昼近くになり、高町家へ戻ってきた晶とレン。

生き物の気配が欠片もない近所に不審を抱いていたのだが、高町家に近づくと疑問は氷解した。

既にあの禍々しいオーラを消えていて、上空に黒い雲もなく、高町家はいつも通りに見える。

少なくとも外観が変化したとか、そういう変化はない。

だがしかし、なんなのだろうか?

一歩、高町家へ踏み出すだけで増すこの――――――危機感と絶望感は。

晶とレンも武術をやっているので、こういう勘も磨かれている。

その勘がこう告げるのだ―――逃げろ、ここにいてはいけない、と

これが近所に生き物の気配がない原因だと推測できる。

 

「・・・まさか、泥棒かなんかが入ったのかな」

「それはありえへん。 よりにもよってうちに入る奴はおらんて。 それに今日はお師匠と美由希ちゃんがおるはずやから」

 

その美由希が問題なのである。

二人に忍び寄る魔の手はすぐそこまで来ていた。

 

「・・・・・・あれ、晶にレン・・・お帰り〜♪ 恭ちゃん、知らない?」

 

そして地獄の使者は上機嫌で現れた。

 

「師匠? さあ、見てないけど」

「うちにおらへんの?」

「うん・・・・・・少し前まではいたはずなのに」

 

それは危機を感じて逃げたからいないのだ。

もっとも、それは問題を先送りにしただけであって、回避したわけではないのだが・・・・・・

 

「あ、ちょうど良かった♪ 二人とも、お昼ご飯できてるよ」

「「う゛ぇ!?」」

 

そして晶とレンは蟻地獄、ならぬ美由希に捕まった。

 

「そそそそそれって・・・・・・もしかして」

「美由希ちゃんが作った・・・・・・・・・なんてことはないよね?」

 

一縷の望みを賭けて美由希に問う二人―――が

 

「え? 私が作ったよ」

 

―――現実は果てしなく辛辣だった。

そしてこの瞬間、二人に死刑判決が下された。

ちなみに罪状があるわけではない。

強いて言うなら、直感でやばいと感じたときに逃げていれば―――あるいは何とかなったのかもしれない。

 

「・・・・・・じーざす・・・・・・・・・」

「・・・・・・かみは・・・しにたもうた・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

晶とレンが絶望を味わっているとき、恭也は臨海公園にいた。

何を食べようか、と考えながら公園内の長い階段を下りて行く。

 

(後ろに人の気配が二人・・・? 一般人だな)

 

鍛錬のおかげ?というのか、ごく自然に後ろに現れた気配に反応する恭也。

少なくとも戦闘者の気配ではないので、別に害はないと意識をお昼御飯に向けた次の瞬間、

 

「あ・・・・・・・・・っっ」

 

その気配の持ち主は、さらに後ろにいた気配の持ち主に突き飛ばされた。

 

「っ!?」

 

振り返る間もなく、恭也は背中に衝撃を感じて、その場に踏みとどまる。

が、持ちこたえられず、

 

「・・・・・・うわ!」

「きゃ・・・・・・!」

 

空中で何とか振り向いた恭也は、背中から地面に落ちる。

 

「・・・・・ご、ごめんなさい・・・」

 

恭也が落ちてきた人物を確認する前に、その人物が声をかけてくる。

声からして女性のようだ。

仰向けに倒れた恭也が顔を起こして見たものは、自身の上に乗っている美少女だった。

 

「・・・すみません・・・・・・あの・・・大丈夫・・・ですか?」

「ああ、いや・・・平気」

 

恭也は素早く体の機能をチェックする。

幸い、体の各部に支障はない。

 

「・・・・・・あ」

 

何かに気付いたように声を上げる女性。

 

「・・・・・・あ?」

 

目の前の女性に見覚えがあった恭也も、同じような声を上げる。

 

「・・・・・・・・・同じクラス、だよね」

「・・・・・確か去年も」

「・・・実は、一昨年もなんだけど」

「そうなのか?」

一昨年は留年して二度目の一年生をやって、家でどたばたした印象が強く残っているので、恭也はクラスメートの顔は勇吾と藤代くらいしか覚えていない。

 

「・・・・・・うん、多分。 えーと・・・たかまち、くん」

「・・・そう。 ・・・・・・月村さん」

「・・・うん・・・・・・月村忍」

 

恭也が名前を覚えていたのが嬉しかったのか、少し微笑んでこくりと頷いた。

 

「・・・高町恭也、です」

「・・・・・・よろしく」

「ああ、こちらこそ」

 

三年間同じクラスで、いまさら自己紹介するのも変な感じはするが、相手は『高町恭也』なので、気にするだけ時間の無駄である。

 

「起きられるか?」

 

いつまでもこの体勢では苦しいため(主に理性が)、忍を促す恭也。

なにせ忍の胸が恭也に押し付けられているようなものだからだ。

 

「うん・・・・・・あ、いたっ」

 

恭也の上からどいて、忍は立ち上がろうとするが、膝を押さえてしゃがみこむ。

抑えた膝からは一筋、赤い血が流れている。

 

「・・・大丈夫か?」

「・・・・・・うん・・・まあ」

 

歯切れが悪いところを見ると、大丈夫ではないようだ。

 

「・・・・・とりあえず、ベンチまで歩けるか?」

「・・・うん」

 

恭也は忍に軽く肩を貸すようにして、ベンチに座らせた。

 

「・・・・・・運良く、というかなんと言うか・・・ちょうど、薬局に寄った帰りだから」

 

さっき買ったガーゼを水で濡らして血を拭い、消毒液を吹き付ける。

 

「・・・・・・つ・・・」

「・・・ちょっと、我慢して」

 

止血を確認し、傷薬を塗りこんで、新しいガーゼで押さえてから、少し強めに包帯を巻く。

 

「・・・手早いね」

「まあ・・・よく、怪我とかするから」

「・・・・・・そうなんだ」

 

話しているうちに包帯を巻き終えて、きゅ、と包帯を結ぶ。

 

「・・・これでよし。 夜になったら、包帯を変えて・・・でも、あんまり痛むようなら病院に行ったほうがいい」

「ありがと」

「・・・・・・どうせ特売品だし、よかったら使ってくれ」

 

そう言いながら恭也は傷薬と包帯を、忍に渡す。

 

「いいの?」

「ああ」

 

残りの特売品の入った袋を持って、恭也は忍の足元から立ち上がる。

 

「・・・どこかへ行く途中だったのか?」

「ちょっと買い物に・・・・・・でも、今日は無理かも。 それに靴が・・・」

 

恭也の視線が下りて足元で止まる。

 

「・・・・・・ああ」

 

忍の靴の片方は、ヒールの部分がぽっきりと折れていた。

これで歩くのは危ないだろう。

 

「・・・今日はおとなしく、タクシーで帰る・・・・・・とりあえず・・・・・・・・・ありがと」

 

現在地からタクシー乗り場までおよそ300m。

 

「・・・・・・あい、た・・・」

 

痛みを堪えながらタクシー乗り場を目指して歩く忍。

フェミニスト気味な恭也(例外もいる)にここで忍を放って帰るなんて選択肢は浮かばなかった。

 

「・・・・・・よかったら。 つかまって歩くほうが大分楽だと思う」

「・・・・・・・・・ごめん」

 

ひょこ、とん、ひょこ、とん・・・・・・と奇妙なケンケンの要領で、恭也と忍は、タクシー乗り場目指して歩く。

タクシーに乗るときも恭也が少し手を貸して、忍は安全にタクシーに乗れた。

 

「・・・・・・ありがと。 助かった」

 

お礼の言葉と共に、にこ、と忍は小さく、少し優しく微笑んだ。

 

(彼女は・・・・・・何かトラブルに巻き込まれているのか?)

 

忍の乗ったタクシーが去った後、恭也はある一点を睨みつけた。

そこには黒服を着た、如何にも「何かやってます」的な感じの男がおり、恭也に睨まれると慌ててその場から去っていった。

 

「・・・・・・・・・・・・今はまだ、関わるわけにはいかない・・・か」

 

 

 

「高町君・・・・・・か」

 

タクシーに乗った忍は、恭也の姿が見えなくなるまでリアーガラスを眺めていた。

固いけど温かい手に、華奢な見た目に表れないがっちりとした身体。

不器用だけど、優しい微笑み。

ただの偶然で触れ合ったそれは、忍の心に小さな、されど確かな熱を残していった。

覚えのない感覚に戸惑いながらも、悪くないと頬が緩んでいく。

恭也が見えなくなると、身体の位置を戻して目を瞑る。

何故かさっきまで感じ取れていた『同族』の気配が消えている。

 

「なんなんだろ・・・・・・」

 

先刻までの高揚は消し飛び、苛立たしげに、忍はシートに身をうずめた。

 

 

 

 

 

忍に渡した分の傷薬等を補給して、恭也は高町家に帰ってきた。

なぜ自分が、『神速』を用いてまで高町家を脱出したのかを忘れて・・・

禍々しいオーラが消えていたのと、忍の件で考え事をしていたので、それが頭の中から抜けていたのだ。

しかしそれも、すぐに思い出すことになる。

 

「・・・うっ!?」

 

玄関に入ると異界の臭いが漂ってくる。

恭也の本能が訴える、これはこの世のものではない、ここにいるな、と危機を呼びかけてくる。

 

(まさかあの馬鹿! 料理を作ったのか!?)

 

それでようやく件のことを思い出し、状況を理解した恭也は、すぐさま反転しようとするが

 

「あ、恭ちゃん! どこ行ってたの?」

 

その声を聞いた瞬間、警報は消え、恭也は絶望感で一杯になった。

 

(・・・・・・と―さん・・・今日、そっちに逝くかも)

 

 

 

「・・・で、これは何だ?」

 

ほぼ強制的に食卓につかされた恭也は、目の前に出された謎の物体を指差して美由希に問うた。

 

「? 何言ってるの、恭ちゃん。 炒飯だよ」

(お前が何言ってる!!)

 

思わず心の中で突っ込みを入れてしまう恭也。

というか、これを見て炒飯といえる人間は『必殺』料理人の美由希くらいだろう。

まず、米が発見できない。

米の形をした物体すら無いのはいったいどういうことなのだろうか?

次に、というかもはや何が入っているかなんて分かったものではない。

強いて言うなら―――『ヘドロ』?

食べたら最後、三途の川を平気で飛び越えるどころか、一気に輪廻転生しかねない威力があるように見える。

 

「さ、食べてね、恭ちゃん。 恭ちゃんのために一生懸命作ったんだよ」

 

これが・・・恭也のために・・・・・・?・・・!! 殺すためか!?

 

(・・・・・・二人とも、すまない)

 

傍で泡を吹いて倒れている最初の犠牲者―――晶とレンに心の中で心から謝罪する。

ちなみに二人がこの『ヘドロ』を食べた後の美由希の言葉は

 

「・・・・・・どうしたんだろう、晶とレン。 何か悪いものでも食べたのかな・・・」

 

それはこれを食べたからだ!と意識があったなら、二人ともそう叫んでいたかもしれない。

 

閑話休題

 

ともかく、あのとき逃げるのではなく止めていれば、この惨劇は起きなかっただろう。

恭也は人生でかなり上位に入るくらいの後悔をした。

それより、今は目の前の問題だ。

このままではこの『ヘドロ』によって晶たちの二の舞だ。

下手をするとさらに被害が増えるかもしれない。

どうする? どうすればいい!?

最善を考える恭也は、必死に打開策をめぐらし、あることに気付く。

今回は目の前にいる美由希に拘束されていないのだ。

いつもなら恭也が逃げようとするため、問答無用で拘束して、美由希が食べさせるため、自分のペースで食べられずに逃げることも出来ない。

たまにどっか抜けている美由希が、今日この時にその特性を発揮したのか!?

それとも絶対恭也なら食べてくれると信じているのか?

どちらにしろ、恭也にとっては千載一遇のチャンスである。

 

「ふっ!」

 

一気に『神速』支配の領域に入り、スプーンを『ヘドロ』に突き刺した恭也は、そのまま美由希の口に放り込んだ。

 

「!*@☆?|¥%$#@」

 

解読不能な奇声を出して、美由希はその場に崩れ落ちた。

 

「・・・・・・・・・・・・とりあえず、人に食べさせる前に自分で味見しろ―――いや、キッチンに入るな」

 

美由希には聞こえていないだろうが、そう言わずにはいられなかった恭也だった。

こうして恭也は辛くも、『ヘドロ』を回避することに成功した。

 

 

 

あのあと、恭也は桜花を呼んで『ヘドロ』の処理と犠牲者の気つけを依頼した。

桜花は「しっかりして!すぐに解毒するから!!」と言いながら晶たちの介抱をして、「混沌!?」と言いながら『ヘドロ』の処理をした。

それはもう欠片も残さずに。

桜花の処理のおかげで高町家は、近所に有害物質を撒かずに済んだのである。

美由希の目が覚めると、すぐに桜花が身柄を拘束して高町家緊急裁判を開いた。

裁判長:恭也、被告人:美由希、検察:桜花、被害者:晶、レン。

弁護人はいるわけが無い。

罪状は手作り料理で二名の犠牲者を出したことである。

情状酌量の余地なぞ挟まずに、即行で恭也は有罪判決を言い渡した。

これに反論するものなどいるはずもなく・・・・・・刑が執行された。

 

「ひっ・・・・・・い、いたい! いたたたた・・・・・・ああぁあごめぇぇぇんなさぁぁぁぁい」

 

刑の内容は桜花による地獄のマッサージフルコースである(痛みを伴うツボを中心に)。

これはフィアッセたちが戻ってくるまで続けられた。

ついでに暫くの間―――というか無期限に、美由希のキッチンへの立ち入りが禁止されたことは言うまでもない。

 

 

 

「・・・・・・次こそは」

「もう作るな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

七彩です。

ちょっとギャグ風味で作ってみました。

っていうか、美由希のほうがインパクト強すぎて、忍のほうが薄いような気がする・・・・・・

味音痴でもないのに作る料理は全て『必殺』料理・・・・・・これはもう、一種の災害ですね。

とりあえず、ここを読んでいるということは、最後まで読んでくださったということで、ありがとうございます。

では・・・・・・




美由希の料理の犠牲者は、晶とレンだった……。
美姫 「恐るべし。殺人料理人」
と、とりあえず、今回は忍との顔見せも何とか済んだみたいだし。
美姫 「そ、そうよね。さて、次回はどんなお話かな〜」
次回も楽しみに待ってますね。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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