はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第11章 「誕生日会」


 

 

 

 

 

4月21日(金) 風芽丘学園 3年G組 PM12:11

今日も今日とて授業中に居眠りするは、普段は鋭いくせに女の子の好意には世界有数の鈍さを誇る高町恭也。

新学期が始まってから・・・というか桜花が来てから、何度となく様々な方法で授業中に起こされているのだが、改善される気配はない。

そしてその後ろの席では、恭也が眠っていることを確認すると、嬉々として起こすための準備をする神影さん家のトラブルメーカーこと神影桜花。

桜花としても、このささやか?な楽しみがなくなるのはあまり嬉しくない。

もし恭也のこれが治ったとしても、桜花は何らかの方法で恭也を眠らせてから起こす、という行動に出ないとも言い切れない。

(楽しそう・・・・・・)

いつもは大抵寝ているのだが、珍しく起きて授業を受けている月村忍は、コントを見るような視線に幾分か羨望を込めて二人の様子を見ていた。

忍自身は特殊な家系の生まれであり、人並みに学生生活を送るということが難しかった。

この風芽丘最後の一年も恭也と話すきっかけになった『転落事故』がなかったら、今までとたいして変わらなかっただろう。

(・・・その点だけは『あいつら』に感謝してもいいのかも・・・・・・)

とは思ったものの、正直微妙である。

『あの件』がなければ、親しくなれなかったのかもしれないけど、狙われているのも確かなのだ。

恭也はボディガードを申し出てくれたが、忍はあまり当てにはしていない。

まあ、恭也たちと親しくなってまだ一月と経っていないし、桜花がこの段階でそういう事情は漏らさないようにしているからなのだが。

 

閑話休題

 

恭也と桜花の『授業中の戦争』の回数はもう二桁に突入しており、この教室ではもはや日常である。

とはいっても、授業中に加えて、恭也の近くで気付かれないようにやらなければならないので、大掛かりなことができるわけでもないが・・・・・・

ただ、派手になるときもあれば、限りなくシンプルで地味になるときもある。

要は桜花の気分次第である。

「針治療♪」

「っ!?」

ガタッ

先に準備と書いたが、今日のはただ単に桜花が飛針で恭也の背中のツボをついただけだった。

プスッという擬音がぴったりにその行為に、恭也は仰け反って立ち上がる。

悪戯が絡んだときの桜花のスペックは並外れており、恭也の第六感に察知されることなくそんなことができていた。

「・・・高町、神影、またお前たちか・・・・・・」

心底疲れたように、4時間目の数学担当の小林教諭は、額を押さえながらため息を吐いた。

「せんせ〜、ため息吐くと幸せ逃げますよ〜?」

「誰のせいだ!!」

 

 

 

「そういえば、明日でしたね・・・あの二人の誕生日」

昼休みになり、ごく自然に恭也と忍に弁当+割り箸を渡して、恭也と忍の席を自分の席に合体させた桜花は、頭にできたたんこぶを押さえながらそう呟いた。

小林教諭の説教を受けたあと、恭也から色々な思いを込められた拳骨を貰った結果、たんこぶができたのだ。

いきなり弁当を渡された二人は暫く呆然としていたが、「瑛が二人の分も作った」と桜花に言われて、その好意に甘えることにした。

そのすぐ後に、これまたごく自然に飲み物を二人に渡した桜花を「いったいどこから?」というニュアンスを込めた視線で見ていた二人だが、桜花は笑顔でその視線を受け流しているし、考えても分からないので詮索を取りやめて瑛作の弁当に箸をつける。

「ああ、晶とレンか・・・」

「え?あの二人って誕生日が一緒なの?」

卵焼きを食べていた忍は、相性が抜群な二人を思い浮かべて、驚くのではなく感心していた。

あの二人なら別に不思議じゃないかな〜というのは、二人を知るもの全ての見解である。

二人が聞いたら声を揃えて否定するだろう。

・・・声が揃っている時点で否定しても意味を成さないが。

「恭也さん、プレゼント、用意しました?」

「・・・・・・いや、用意してなかった」

軽く桜花から目を逸らしながら恭也は答える。

プレゼントを用意する以前に、明日が二人の誕生日だったことが頭の中から抜けていたらしい。

「では、放課後にデパートでプレゼント選びです。はい、決定♪」

「・・・だが、今は・・・・・・」

チラッと忍のほうを見る恭也。

そう、今現在、恭也は忍の護衛として放課後のほとんどを一緒に過ごしている。

今日、買い物で忍から離れて、彼女に何かあったら恭也は一生悔やみ続けるだろう。

だが、桜花とて『御神の剣士』であり、そういうことは重々承知である。

恭也の力を知らない忍が「自分のことなら大丈夫」という前に、

「忍さん、明日、お暇ですか?」

「え・・・特に用事はないけど・・・・・・」

「じゃあ忍さんも誕生会に参加しませんか?騒ぐときの人数は多いほうがいいですし」

「え・・・・・・でも・・・」

「遠慮なんかしないでいいですよ。普通に友人の誕生日を祝うだけなんですから」

「!?」

桜花のその言葉に忍は僅かに反応する。

(・・・やっぱり、ですか)

そして『御神の剣士』である桜花がそれを見逃すはずがない。

客観的に見て、普段から忍の風芽丘の生徒たちへの接し方は、どこか一歩引いているような感じを受ける。

例外としては恭也の関係者とそれなりに親交があるらしいクラスメートの佐伯沙恵嬢くらいだ。

そんな忍を見て桜花は、そういう『普通』に憧れているのではないかと推測した。

そして僅かに反応した忍を見て、桜花は自分の推測が正しかったことを確信する。

「それに、忍さん参加してくれれば、あの二人も喜びます」

「・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、お邪魔しようかな」

「はい♪それじゃ、今日の放課後は暇ですか?」

「・・・・・・大丈夫」

桜花が聞きたい事を理解した忍は、視線と言葉でそれに答える。

「恭也さん、これで問題ないでしょう?」

肯定の返事を感じ取った桜花は、恭也に話を戻す。

「・・・・・・・・・時間はどうしますか?」

「アリサたちにも行くかどうか聞かないといけないので、まずはメールを送りましょう」

 

「というわけで、那美さんも参加してください」

美由希を探して食堂にきた桜花は、美由希と一緒に食事を取っていた那美に開口一番そう言った。

恭也は瑛のほうへ向かっているので一緒には来ていない。

なんか探す相手が逆のような気がするが、桜花の「それじゃ面白くないじゃないですか〜」の一言でこうなってしまったので、恭也は疲れたようにため息を吐いたとか。

忍は弁当のお礼を言うため、恭也に同行している。

「・・・あの、なにが「というわけで」なんですか?」

「・・・・・・桜花さん、それじゃ分からないよ」

困惑した表情を浮かべる那美に、呆れたように苦笑する美由希。

確かに、いきなり「というわけで」と言われて事情を理解しろ、というほうが無理である。

「実は・・・・・・」

桜花の説明に那美は、はぁ、と曖昧な返事をし、美由希は「そういえばまだ買ってなかった」とその抜けっぷりを披露した。

「人数は多いほうが楽しいし、晶とレンも那美さんとは仲が良いし」

「・・・・・・・・・そうですね、ではお言葉に甘えて」

今日は用事がありますから、プレゼントは用意できないかもしれませんが、と付け足す那美に対して桜花は、「催促したの参加だけですから、気にしないでください」と即答した。

まあ、当たり前である。

その後、美由希に待ち合わせ時間を伝えて、桜花は購買で特製青汁を買い、

「たまには・・・・・・これもいいですね」

美味しそうに飲みながら、教室へと歩いていった。

それを見た生徒たちは「す、すげぇ」とか「ここの青汁は一味違うのに・・・」などと呟いていて、

「・・・ふふふ、やるね」

購買のおばちゃんは、自分の自信作を美味しそうに飲む桜花を見て満足そうな顔をしていた。

これ以降、某鉄人メニューをパワーアップさせ、某赤い本に挑戦を続ける続ける料理人みたいに、購買のおばちゃんの挑戦が始まったとか・・・

 

 

 

海鳴市デパート内 ショッピングモール PM4:12

放課後、高町兄妹+アリサと神影姉妹に忍は、待ち合わせをして、明日行われる晶とレンの誕生会で、二人に渡すプレゼントを買いにデパートに来ていた。

忍は今日誘ったので買ってないのは当然といえるが、高町兄妹+アリサと神影姉妹がプレゼントを買ってないのには問題があるような気がしないでもない。

恭也たちと違って勇吾は、すでに用意してあるのでここにはいない(そもそも部活があるのでこの時間には来れない)。

女性が圧倒的に多いこの集団は、まず洋服売り場に向かう。

紳士服、婦人服を問わず、ありとあらゆる種類の服がフロアを埋め尽くしている。

別に全員で行動しようというわけではないので、買うものが決まっているメンバーは帰りの集合時間にさえ間に合えば、離れても問題ない。

といっても今のところ、離れているメンバーはいないが。

「じゃ、とりあえずいろいろ見て回りましょうか」

今回、プレゼントする相手は二人とも女の子なので、婦人服売り場から回ることになった。

「あ、これ可愛い〜」

「あ、ほんとだ・・・ってちょっと、なのは。目的がずれてるわよ」

小学生が着るサイズの服が置いてある場所では、なのはの頭の中からプレゼント選びが抜けているのに同意しそうになったアリサがツッコミを入れたり、

「・・・・・・これなんか、晶に似合いそうですよね、ええ(にやり)」

別の場所では、桜花が無茶苦茶楽しそうな顔で一人納得して、とある服をレジに持っていこうとしていた。

「あ・・・そうだ♪」

その途中で何かを思いついたのか、桜花は服の置いてあった場所に引き返し、同じデザインの色違いの服を手に取った。

「これでオッケー♪」

どうやら、桜花が晶とレンに贈るプレゼントは、お揃いの服らしい。

しかも、誕生会でその服を晶とレンに着させることは、桜花の頭の中でほぼ確定している。

「ふ、ふふふふふ・・・・・・」

それによって起こる騒動の場景を思い浮かべて、桜花は楽しそうに笑っていた。

ちなみに去年、海鳴にいなかった桜花が送ったプレゼントは、宅急便で送られてきたビックリ箱だったりする。

晶用、レン用と、ちゃんと区別してあり(箱に書いてあった)、二人ともしっかりと引っかかっていた。

でも、それらはただのビックリ箱ではなく、中にちゃんとプレゼント(晶はスニーカー、レンはヌンチャク)が入っていたが。

「なのは―!こっちのはどう?」

「あ!それにしようよ―!」

少し脇道にそれていたものの、本来の目的のプレゼント選びに入ったなのはとアリサは、自分たちの小遣いで買えそうで且つ、晶とレンに似合いそうなものを探す。

同じデザインで色違いのエプロンを取っているところを見ると、晶たちへのプレゼントはお揃いのエプロンらしい。

値段も高いわけではないので、小学生の懐にもそんなに厳しくない。

これでオッケーとなのはとアリサは、エプロンを二着レジに持っていく。

「・・・・・・どうするかな」

一方、なのはたちから少し離れた場所で、女性へ渡すプレゼントの種類に疎い恭也は、困ったような顔で周りを見渡していた。

「・・・・・・・・・お困りですか?」

「恭ちゃん、こういうの苦手だからね」

そんな恭也に声をかけたのは、渦中に飛び込んでいない瑛と、服をプレゼントにしようとしてない美由希だった。

「・・・2人はもう買ったのか?」

「はい」

「私は、まだ。でも買うものは決めてるから、あとはそこへ行くだけだよ」

「む・・・・・・」

「・・・・・・どうしても決まらないというのなら」

スッと瑛は懐から一枚の紙を取り出す。

「・・・それは?」

「二人の趣味嗜好を簡単に書いたものです。これを参考に探してみてください」

「・・・すまない」

「いえ・・・・・・行きましょう、美由希さん」

「うん・・・じゃ、恭ちゃん」

恭也に紙を渡すと、美由希と瑛は、目的のものがあるフロアに向かっていった。

「さて・・・・・・」

「・・・私も見ていい?」

先刻から恭也の近くで、なのはたちの様子を楽しそうに見ていた忍は、そのメモを覗き込む。

「へぇ〜・・・詳しく書いてあるね」

その紙には体重とスリーサイズこそ書いてなかったが、それ以外の、趣味は何かだのこのメーカーの製品がお気に入りだの事細かに書いてあった。

はっきり言ってそれだけでもプライバシーの侵害になるような気がするのは気のせいだろうか?

二人を見送った後、恭也は瑛に貰った紙を見て悩んだ結果、レンには亀のぬいぐるみ、晶には新しいサッカーウェアをプレゼントすることにした。

恭也は忍と一緒に、サッカーウェア等が置いてあるコーナーに足を運ぶ。

いろいろな種類がある中で、「このメーカーがお勧め!」と紙に書いてあるメーカーのサッカーウェアを探す。

「・・・これか・・・・・・さて、色は」

一つずつ色を見ながら、晶に似合いそうな色を探す。

(・・・・・・やはり、青か?)

紙に書いてあるサイズの青いサッカーウェアを取って少し考えた後、恭也はそれをレジに持っていった。

 

早々と贈るプレゼントを買った桜花となのはとアリサは、三人で行き先も告げずにふらりといなくなった。

それに気付いた恭也だが、最後に見たときは桜花が一緒だったので、そこまでの心配はないだろうと、ぬいぐるみを買いにファンシーショップに来ていた。

そして来た瞬間、恭也は後悔した。

(こ・・・この空間に入らなければならないのか・・・・・・)

引き攣った恭也の顔を見た忍は、笑いを堪えるのに必死だった。

なのはやアリサならともかく、恭也にファンシーショップは破滅的に合わない。

後日、恭也は「時間的にはそんなではなかったが・・・ある意味、桜花さんの『遊び』に匹敵する苦痛だった」とアリサに語っていた。

「くっ・・・・・・早く選んで、ここから離れなければ」

チクチクと視線が自分に向いているのを感じた恭也は忍を伴って、そそくさと店に入りぬいぐるみが置いてある棚を探す。

そこに辿り着くと『神速』を発動、増大した知覚力で商品を見定める。

(・・・・・・亀のぬいぐるみは・・・これだけか)

少々値が張るものの、『亀の親子セット』と書かれたぬいぐるみを発見・・・というか他になかったので、それを購入することに決めた恭也は、『神速』の世界から抜け出す。

「・・・・・・高町くん、決ま――ってもう選んだの!?」

笑うのを我慢していた忍が恭也のほうを見ると、『亀の親子セット』を手にレジへ直行しようとしている恭也だった。

慌てて追いかける忍を尻目に、会計を済ませた恭也はファンシーショップを後にした。

恭也が店に入ってから約46秒・・・店員さんもビックリの早さであった。

 

 

 

4月22日(土) 海鳴市藤見町 高町家 PM5:25

そして迎えた誕生会当日。

晶とレンは午前中・お昼・午後にそれぞれの友人と過ごし、夕方からは高町家での誕生会に参加する、ということになっている。

いつも料理を担当している二人が主賓なので恭也と桜花、瑛がキッチンで料理を作っている。

特に恭也と瑛には、桜花の創作料理を防ぐという役割があるため、一秒も桜花の挙動から目を離していない。

流石に桜花でも、『御神の剣士』二人―――しかも一人はほぼ互角の実力者で、一人は自分より劣るが自分を知り尽くしている妹―――を出し抜くのは難しい。

なので桜花は、普通に料理を作らざるを得なく、表には出さなかったものの悔しがっていた。

「あ、おね―ちゃんはさわっちゃだめだよ」

「美由希姉さんは飾り付けをお願い」

「うぅ・・・・・・妹達が苛める・・・」

ダイニングでは、仕事でまだ帰ってきてない桃子とフィアッセを除く高町家のメンバー(つまり、なのはとアリサに美由希)が、カラオケの準備や飾り付けをしている。

アリサが機械音痴の美由希に釘を刺すあたり、美由希の機械に対する実績がわかる。

簡単な操作は一応できるのだが、ふとした弾みでリモコンやら携帯やらを故障させてしまうことがある。

ある意味、すごい才能を持ったといえる・・・・・・・・・かもしれない。

「お邪魔しま―す」

「こんにちわ―」

「くーん」

そんな中、途中で会ったらしい勇吾と那美+久遠が一緒に高町家に到着する。

「あ、那美さんに勇吾さん・・・」

準備中のメンバーの中で一番仕事が少ない(やらせてもらえない、とも言う)美由希が二人を出迎える。

「やっ、美由希ちゃん」

「今日はお招きありがとうございます」

「く〜ん」

「いえいえ・・・・・・あ」

談笑をしながら美由希が二人を伴って家に入ろうとすると、一台の見覚えのある車が高町家の前に停まる。

「・・・じゃ、帰りにまた呼ぶから」

「かしこまりました」

降りてきたのはノエルに送ってもらってきた忍だった。

ノエルは車の中から美由希たちに軽くお辞儀をすると、そのまま車を走らせていった。

「あ、月村先輩」

「やっ・・・・・・お招きありがとね、美由希ちゃん」

「いえ、誘ったのは桜花さんですから・・・」

「よっ、月村」

「赤星くんも・・・って当たり前か」

疑問に思って口に出した忍だったが、考えてみれば自分より勇吾のほうが高町家の住人との付き合いは長い。

今日、ここにいることになんら違和感はない。

「あら?忍ちゃん・・・?」

「あ、いらっしゃ―い、忍♪」

四人が簡単な挨拶を済ませて高町家に入ろうとしたとき、桃子とフィアッセが帰ってきた。

「勇吾に那美・・・久遠も、いらっしゃい♪」

「ども」

「お邪魔してます」

「くぅん」

「こんなとこで立ち話もなんだし、家に入ろうか」

桃子の一言を皮切りに、六人は高町家へと入っていった。

 

「ただいま―」

「ただいま――すっ」

準備も全て終わり、主賓を待つだけとなっていた高町家に、相変わらず息が合っているのか合ってないのか、ほぼ同時に二人は帰ってきた。

晶は庭から、レンは玄関から・・・それぞれ二人ずつ、友人を連れてきた。

「あ、レンちゃん、晶ちゃん、こっち、こっち―」

「「は――いっ」」

「「「「お邪魔します」」」」

なのはに呼ばれて、二人は連れてきた友人たちと共に会場であるダイニングへ足を運ぶ。

と、

「せ―の・・・」

「「「「「「「「「「「お誕生日、おめでとう!!」」」」」」」」」」」

「く―ん」

パン!パン!パン!

晶とレンがダイニングに入ってきた瞬間、クラッカーが鳴り、中の紙吹雪が二人にかかる。

「はぁぁ・・・・・・」

「・・・・・・やや、どどど、どもです、どもです・・・」

一斉にかけられたお祝いの言葉に照れる二人の姿は、なのはがセットしたビデオカメラにきっちりと収められた。

「あ、お友達のみなさんは、どうぞこちらに」

「あ・・・ありがとう」

アリサが固まっている二人の友人たちを会場に入るように促す。

招かれた総勢四名の招待客は、おっかなびっくり少々ぎこちないながらも空いてる場所に座る。

そして、司会を務めているらしいなのはが主賓の傍に近づいて、

「はい、では、主賓のおふたりに・・・誕生日のコメントを、お願いします」

マイクを差し出す。

ただ、本物のマイクではなく、雰囲気を出すために持っているだけなので、その役割は果たさないが・・・

「・・・えへへ・・・あ、ありがとうございます。嬉しいです」

それを受け取った晶は、頬を赤くしながら会場にいる参加者を見渡して、それだけ言うとレンにマイクを渡す。

「てへへ・・・お―きにです。ほんま、嬉しいです」

マイクを受け取ったレンも晶と同じような反応をしながら、そうコメントする。

こういうときの二人は、年相応の普通の少女であり、可愛らしくなる。

いつもこうだといいのに、と思ったのは恭也だけの秘密である。

「さ―、ま、席に着いて・・・」

「主賓席ね」

美由希とフィアッセに呼ばれて主賓用に装飾された場所に歩いていく二人。

「・・・く―ん♪」

「きゃ―――!!」

「きつね!!かわいい!!!」

一方、久遠に気付いた晶たちの友人たち(女子)は、黄色い悲鳴を上げながら撫でようと、久遠に近づく。

「きゅううん・・・」

それを察知した久遠は、なのはに背中に隠れ、尻尾を振りつつ、ちらちらと少女たちの様子を窺う。

「ああ、久遠、おびえない、おびえない。大丈夫だから・・・ね?」

「ああ、かよっち・・・この子、ちょう、内気な子やから・・・そ―っと、そ―っとな」

「みずのも落ち着けって」

「・・・く―ちゃん、ほら」

「きゅ―ん」

晶とレンが友人たちを宥めて、那美となのはが久遠を安心させようとする。

その甲斐あってか、久遠はびくびくしながらも少女たちのほうへ歩いていく。

「・・・・・・・・・・・」

少々緊張した面持ちで、歩いてくる久遠を見つめる晶たちの友人―――かよっちとみずの。

そして、そ―っと手を伸ばし、

なでなで

「はぁああ・・・ふさふさ―――」

「ふわふわ――・・・・・・」

その感触に感動した二人は、久遠を撫で回したり、抱き上げたりする。

「くぅぅぅん」

あまり知らない人間にそういうことをされるのが嫌なのか、困ったように鳴く久遠。

「・・・久遠、我慢」

そんな久遠の様子を察した那美は、堪えろ!といわんばかりに真剣な目で応援する。

だが、久遠にしてみれば応援などどうでもよく、「早くなんとかしろ!」といったところであろう。

「あ、これ、プレゼントね。こんなので、よかったかな?」

「あ、ありがとうございます―!」

「桃子さんからも、はい・・・」

「あ―・・・お―きに――」

主賓席では既にプレゼント渡しが始まっているらしく、忍と桃子が晶とレンにプレゼントを渡している。

二つとも装飾された箱に入っていて、中身を察することはできない。

「プレゼント・・・宅配便でも、届いているよ」

美由希が今日届いた荷物を持ってくる。

今年は桜花がここにいるため、この中にビックリ箱が入っている可能性は低い。

ただ、桜花がプレゼントを箱に詰めて渡してきたのなら話は別だが・・・

どちらにせよ、一度使っている方法なので、二人は警戒するだろうし、特に桜花が望むような反応は見せないだろう。

届いた三つの荷物にはそれぞれ、

城島吉弘、城島美奈子

「あ、と―さんと、か―さんからだ」

鳳俊瑛、小梅

鳳龍道

「うは、じ―さまからも届いてる―」

と書かれていた。

「ど―せまた、ウケ狙いのろくでもないもん・・・・・・」

中身の類がある程度予測できるのか、レンは呆れながら、ばり、と包みを開く。

「気が合いそうですね、そのおじいさん」

絶対に会わせるわけにはいかない、とフィアッセを除く高町家のメンバー+瑛は目だけで意思相通を果たす。

フィアッセは「どうせママと組むとき以上のものにはならないよ」と少々諦観しているので、その意思疎通に理解はしたが、参加はしなかった。

「・・・・・・それ・・・なに?」

レンが開けた箱を覗いた美由希は、思わずそう言ってしまった。

中から出てきたのは・・・・・・

「・・・・・・・・・鎖鎌・・・・・・やね」

手持ちの鎌に鎖、分銅の付いたそれは世間一般で鎖鎌と呼ばれる武器であった。

中には他に手紙も入っていた。

「・・・なになに・・・『ワシはいま、コレが面白いので特訓中なのじゃ。レンも、次にこっちに来るときまでに、これを覚えておくように』・・・・・・じ―ちゃん」

最後まで読んでから、身内の恥をさらしたような気分を感じて、レンはちょっと後悔した。

「おまえんちの、じ―ちゃんって・・・・・・」

「・・・うう、聞くな。こ―ゆ―じ―さまなんや――・・・・・・」

「てゆ―か、おめでと―の一言もないんか!誕生日、関係ないやん!!」

思わず関西弁風味で突っ込みを入れる晶。

これはないんじゃないか、とも思ったそうだ。

だが、瑛がある結論に達していた。

「・・・・・・ひょっとして、それは誕生日プレゼントではないのかもしれませんね・・・」

「え・・・?」

「誕生日のことをすっかり忘れていた、ただのプレゼントが誕生日プレゼントと間違われただけ、とか」

シーン、とレンの周囲だけ静まり返る。

やがてレンの顔が段々青くなっていく。

「・・・・・・あ、ありえる・・・じ―さまなら、それは否定できへん・・・」

ズーンと暗い空気を背負って、レンが両手両膝を床について項垂れる。

ごく自然に誕生日プレゼントと認識していたため、多少の嬉しさもあっただろうに・・・

言うならば、自分の力で必死に山道を登って頂上に着いたのに、友人は疲れることもなくロープウェイで頂上に着いて、さらに笑顔で自分を出迎えたときのやるせなさというか、そんなものを感じたレンだった。

「・・・さて、フィアッセさん?」

「・・・?どうしたの、桜花」

ごにょごにょとフィアッセに耳打ちする桜花。

それを何気無しに見ていた晶たちだが、フィアッセの表情がティオレのそれに酷似してきたため、反射的に身構える。

「へ―・・・いいね、それ♪」

「ですよね〜♪」

無茶苦茶楽しそうに笑い合いながら、フィアッセと桜花は晶とレンを見る。

自分たちがターゲット!?と本能的に認識した二人は、顔を引き攣らせる。

逆に恭也、美由希、アリサ、なのは、瑛は自分たちが対象から外れたことに心の中で安堵の息を吐く。

「さて・・・晶とレンはちょ〜っと来てもらえるかな?」

「大丈夫、大したことじゃないから♪」

にこにこと満面の笑顔で二人に近づく桜花とフィアッセ。

そんな楽しそうな笑顔で言われても説得力は皆無だ。

しかもお願いしているような言葉だが、強制的に連れて行く気満々だ。

「・・・で、できれば、遠慮したいかな〜、なんて・・・・・・」

「・・・あ、あはは・・・・・・右に同じく」

「今日の主賓は二人なんだから遠慮する必要はないよ〜♪」

「そうそう、せっかくの誕生日プレゼントなんですから♪」

顔を引き攣らせたまま断ろうとする晶とレンだが、どう返答しようが連れて行く気だった桜花とフィアッセにはそんなことは関係なく、二人を連れ出していった。

 

「さあ、これを着てもらいましょう♪」

「ええっ!?桜花さん・・・マジで着ないと駄目ですか?」

「さ、レンも早く着ましょうね♪」

「・・・・・・これ着なあかんのですか?」

「「勿論♪」」

 

「ささ、皆さん、ご覧あれ〜♪」

数分後、桜花とフィアッセが二人を連れて戻ってきた。

桜花は自分の体で隠していた晶を皆の前に引っ張り出す。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・え?」

「・・・あ」

「晶ちゃん・・・可愛い♪」

「ふ〜ん・・・それを見ると晶も女の子だって実感できるわね」

桜花に引っ張り出された晶が着ていた服は、俗にいうゴシックロリータと呼ばれる類のもので、普段の晶なら絶対に着ない種類の服だった。

普段女の子の服を着ないだけに、この服を着て顔を赤く染める晶は、どっからどう見ても女の子であった。

そんな姿を見て、誕生会に集まったメンバーはニコニコ笑っている桃子を除いて、呆気にとられたような表情をする。

「・・・うう、桜花さ〜ん(涙)」

予想通りといえば予想通りの反応をする面々に晶は、助けを求めるように桜花のほうへ顔を向ける。

その訴えをあっさりと無視した桜花は後ろにいるフィアッセに眼で合図をする。

「YES♪」

「わわっ・・・」

桜花の意図を理解したフィアッセは、後ろにレンを晶の隣に押し出す。

レンも晶と全く同じデザインのゴスロリ系の服を着ている。

両者の服はただ色が違うだけだ。

ちなみに晶は青、レンは緑である。

「・・・・・・・・・似たもの同士なだけに違和感がありませんね」

「「なっ!?・・・そんなわけないじゃないですか!瑛さん!!」」

「説得力が欠片もないわよ、二人とも」

アリサの指摘はもっともだった。

「その服は最低限、この誕生会が終わるまでは着替えさせませんから♪」

「「そ、そんな〜(涙)」」

「そんなに喜んでくれると、プレゼントしたかいがありますね」

「「喜んでません!なんでこのカメ(おさる)と同じ服を・・・・・・」」

暖簾に腕押し、二人の文句を欠片も受け付けずに満足そうな顔をしている桜花だった。

「じゃ、次は私かな」

そのやりとりを笑顔で見守っていたフィアッセが、タイミングを見計らって二人に近づく。

「日本では、どうかわからないけど・・・わたしの故郷では、子供の誕生日は、子供の元気な成長を祝うのと・・・親や、まわりの大人が『生まれてくれて、ありがとう』って、感謝の心を伝える日なの」

「「・・・・・・・・・」」

「いろいろあった・・・これからもいろいろある、人生だけど・・・・・・でも、二人とも、この世に生まれてきてくれて、今日まで元気に生きてくれて・・・ありがとう、ね」

きゅ、と二人を抱きしめるフィアッセ。

「・・・・・・あ、あの・・・ありがとう、ございます」

「・・・はわ―・・・・・・あう、あう―・・・」

抱きしめられた二人は、顔を真っ赤にして照れている。

「わたしたちも、昔・・・あれ、言ってもらったね」

「・・・・・・・・・ああ」

恭也と美由希が懐かしそうに見ている先では、フィアッセが包装紙に包まれた箱を二人に渡していた。

「・・・・・・さ―て!お祝い事といえば、歌がないと始まりません!」

「なのは、ミュ―ジック」

フィアッセがマイクを持つと、アリサが即座になのはへ指示を出す。

「はいっ!」

「いえ―い!!」

 

 

 

「・・・・・・なんか、嬉しかったな」

「お―、うちらは、幸せもんやな―」

盛り上がった誕生会も終わり、ようやく着替えることを許された二人は、普段着に着替えると縁側に座って煎餅を食べていた。

流石にこういう日まで喧嘩をしようとは思わなかったらしく(実はなのはが釘を刺した?)、二人は言い争うでもなく静かに空を眺めていた。

「・・・・・・父さんと母さんに、電話・・・しとかないとな」

「・・・うちも・・・・・・それにじ―さまには、ちょっと文句を言わんと」

そう言いながら二人は煎餅の入った木皿に手を伸ばす。

「あ・・・」

「お・・・」

二人の手が同時に煎餅を掴む。

どうやら最後の一枚らしい。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

きん

「えっ!?」

「うわ!?」

奪い合いが始まる前に何かの攻撃によって煎餅が綺麗に二等分される。

「あ・・・お、お師匠」

「あ、あはは・・・」

「・・・・・・今日くらいは、仲良く」

「・・・恭ちゃん、ちょっと危ないよ」

二人の背後にはいつの間にか恭也と美由希が立っていた。

両者とも完全武装で、鍛錬に行く準備は万端のようだ。

「なのちゃんに言いつけちゃうよ?」

「・・・・・・・・・進歩のない」

そしてさっきまで誰もいなかった庭には、桜花と瑛が姿を現し、完全武装で佇んでいた。

「・・・・・・まあ、今日は楽しかったし」

「・・・とりあえず、生きてるし」

「今日のところはカンベンしといてやるか」

「どあほ―、それはこっちの台詞や」

憎まれ口を叩きながら、二人は二等分された煎餅に噛み付いた。

そんな二人を苦笑しながら見た四人は、いつもの場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 


あとがき

七彩です。

だいぶ間が空いてしまいました(汗)

まあ、言い訳は多々ありますが、ここでは省略ということで・・・・・・

忘れられていそうですが、読んでくれたら幸いです。

・・・・・・というか、ここを読んでる時点で既に見てもらったんですよね、ありがとうございます。

今度はこんなに間が空かないように、ちゃんと書きたいと思います。

ええ、八割方完成させておきながら放置、なんてことはないようにしますので、次回も見てくれると嬉しいです。

では次回で




今回は晶とレンの誕生日〜。
美姫 「とりあえず、桜花の料理への悪戯は回避できたわね」
でも、晶とレンへのプレゼントは流石に回避は無理だったがな。
美姫 「プレゼントなんだから、それは仕方ないわよ♪」
かな。
美姫 「さて、次回はどうなるのかしらね」
うんうん、次回も楽しみに待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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