はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第12章 「それぞれの休日(午前)」


 

 

 

 

 

4月23日(日) 国守山 三合目付近 一般開放地区 AM6:20

「せいっ!」

「はあっ!」

木刀同士なので火花を散らすことはないが、恭也と桜花の木刀が激しくぶつかりあう。

桜花の左の木刀での横薙ぎを、恭也は同じく左の木刀で受け、右の刺突で反撃する。

顔を目掛けて放たれたそれを、桜花は左前方に移動しながら首を横に振ってかわす。

そのまま右の木刀で刺突を放とうとするが、そこに恭也の右足の蹴りがとんでくる。

攻撃を中断、右の木刀でそれを受けつつ、蹴りの勢いを利用して跳躍し、後方へと下がる。

しかし恭也とて黙って見逃すはずもなく、桜花が後方に跳んだせいで死ななかった勢いを利用して前傾姿勢に持っていき、右足を曲げて地面に接すると同時に桜花のほうへ飛び出す。

が、止まらないにしてもそのスピードを落とさざるを得なくなる。

空中にいた桜花だが、何もできないかと言われれば、否、である。

後方に跳んだ直後、四本の木製の飛針を取り出し、恭也が向かってくるであろう場所に投げつける。

飛針の飛んできた位置は恭也の足元に四本であり、止まっているのなら当たらない位置だ。

しかし、恭也は今、桜花目掛けて疾走している。

そのままのスピードで桜花に迫ると、四本とも確実に恭也に命中する。

故に恭也は減速覚悟でこれを迎撃するか、スピードを落として飛針をやり過ごさないといけない。

飛針の軌道からして、スピードを落とさずに迎撃することは難しいのだ。

二本は両方の膝を、残りの二本は迎撃するために振るう腕の位置だ。

しかも腕の位置に放たれた飛針は、先の二本より多少の時間差があり、位置も同時に迎撃できない微妙な場所に飛んでくるのだ。

つまり『神速』でも使わない限り、この状況ではスピードを落とさざるを得ない。

夜の鍛錬ではともかく、朝の鍛錬に『神速』はあまり使わない。

安易に頼らないため、というのが主な理由である。

勿論、『神速』に慣れるということも必要であるため、夜の鍛錬では『神速』は結構使われている。

閑話休題

飛針を全て叩き落した恭也だが、やはりスピードは落ちてしまった。

その間に桜花は、そのタイムラグを使って態勢を立て直して着地する。

そのすぐ後に間合いに入ってきて、袈裟に振るわれる恭也の攻撃を捌きつつ、胴を薙ぐ桜花。

それをしゃがんでかわした恭也は、桜花の懐に飛び込みつつ刺突を繰り出す。

桜花はその刺突を半身をずらしてかわそうとするが、かわしきれず木刀が右の脇腹を抉る。

「っ!」

しかし桜花は、少しも動きを鈍らせず、恭也の顎をめがけて蹴り上げる。

「ぐっ・・・」

咄嗟に突き出していないほうの腕で防ぐものの、体制が崩れ体が後方へ仰け反る。

そこを桜花は、左の木刀を逆手に、右の木刀は順手のまま追撃をかける。

(まずい!)

何が来るのかわかった恭也は、必死で刺突を放った腕を引き戻す。

「はあああぁぁぁ!!」

気合の声と共に右を前に左を後ろに交差させ、桜花の剣が奔る。

 

御神流 奥義之肆 『雷徹』

 

「く・・・っ!?」

 

御神流 奥義之肆 『雷徹』

 

恭也も苦しい態勢から同じ『雷徹』を放つ。

「っ!」

しかし相殺できずに木刀から恭也の腕に衝撃が伝わるが、木刀が折れることは避けられた。

基本的に力は恭也のほうが上だが、完全な態勢で放たれた桜花の『雷徹』を止めるには、体制を崩しながら放った恭也の『雷徹』では荷が重い。

そもそも、『薙旋』は恭也のほうが、『雷徹』は桜花のほうが完成度が高い。

得意技同士の『薙旋』対『雷徹』なら勝敗は微妙であっただろうが、『雷徹』対『雷徹』では桜花のほうが圧倒的に有利である。

故にこの打ち合いは桜花の勝利で終わる。

ただし、これはあくまでも『雷徹』対『雷徹』の勝負のみの話であるが。

 

閑話休題

 

間を置かずに桜花は、今度は右の木刀を逆手に、左の木刀を順手に持ち替えて、今度は左を前に右を後ろに交差させ、

 

我流 二連雷徹 『迅雷』

 

二発目の『雷徹』を放つ。

一方、恭也とて黙ってそれを受けるわけでもなく、最初の『雷徹』を防いだときに先の態勢をどうにか立て直し、

 

御神流 奥義之陸 『薙旋』

 

一撃目は『雷徹』と激突、木刀は砕かれるが、『雷徹』特有の威力は失われる。

二撃目で桜花の木刀を弾き、もう一度『雷徹』を打たれる前に、木刀が折れたため放てない三撃目の代わりに、桜花の鳩尾めがけて恭也の拳が放たれる。

しかし桜花は、その恭也の拳を受け流して木刀を手放し、逆に恭也の腕を掴んで一本背負いの要領で投げ飛ばす。

地面に叩きつける前に桜花は掴んでいた腕を離して、木刀を拾う。

そして、桜花の頭があった空間を、まだ原形をとどめている左の木刀で放った攻撃が通過する。

受身を取りつつ桜花から離れる恭也だが、桜花は追撃しようとはしなかった。

と、恭也が立ち上がると同時に

ピピピピピ

恭也のクリップ時計のアラームが鳴り、鍛錬の終了を告げた。

 

「姉上」

「ん?」

鍛錬を終えて、恭也たち四人は一般開放地区内にあるベンチに腰掛けて暫しの休憩を取っている(木刀、その他は隠して)と、瑛が唐突に口を開いて、

「病院へ行け」

自分の姉に無表情のままそう告げた。

((・・・何故に命令形?))

近くでそれを聞いていた恭也たちは、心の中で思わずそう突っ込んでしまう。

「・・・なんかあったっけ?」

対する桜花は特に気にした様子もなく、瑛に理由を訊ねる。

「山篭りから姉上は、病院に行ってません」

「あ・・・そういえばそうだったね」

恭也は既に、下手に煽ると地獄への片道切符になる整体を受けているし、美由希と瑛は一応桜花のマッサージを受けているので、すぐに行かなければならないというわけではない(どのみち近いうちに行かなければならないが)。

「担当の人が変わったって聞きましたけど、どんな人でした?」

「・・・・・・凄い人だ」

いろいろな意味で、と心の中で付け加える恭也。

桜花としても訊いてみただけであって、その答えに「そうなんですか〜」と返すだけだった。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・(ズズッ)」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・静かですね」

「・・・ああ」

朝食後、実年齢に絶対合わないほど老成した雰囲気を醸し出しながら、恭也と瑛は高町家の縁側でお茶を飲んでいた。

傍から見れば、外見だけ若い年金生活をしている老夫婦、といわれても違和感が欠片もない。

まさに理想の老後生活の一端を見たかのようである。

「それでですね、恭也さん・・・」

瑛はどこから取り出したのか、『特集!全国の盆栽たち』なる雑誌を自分と恭也との間に広げる。

「・・・む」

お茶を置いた恭也は、それを覗き込み時折「ほぉ・・・」「これはまた・・・・・・」などと感嘆の声を上げている。

ちなみに、その雑誌に紹介されている盆栽を手がけた人たちの年齢は、一番下が60歳だったりする。

そんな二人を少しはなれたところから見ている人間が四人。

「か・・・枯れてる・・・・・・枯れすぎてるよ、恭ちゃん・・・瑛さんも」

あまりにも特殊な雰囲気を醸し出している二人に、近づくどころか声をかけることもできない美由希。

「ふふふ・・・いくら否定しようが、やっぱり貴女は私の妹ですね、瑛」

桜花を知っているものなら、反論という言葉すら思い浮かばないほど説得力のある言葉を吐く桜花。

「「あ、あはは・・・・・・」」

晶とレンも二人の言葉に納得してしまい、乾いた笑いを浮かべるだけだった。

「・・・っと、そろそろ病院に行きますかね」

からかって遊べないが、見てるだけでも面白い風景に名残を惜しみながら、桜花は保険証や診察券諸々が入ったバックを背負う。

「あ、いってらっしゃい、桜花さん」

「いってきま〜す♪」

美由希たちに手を振りながら、桜花は高町家を後にした。

残った美由希たちは、これ以上ここにいるのもアレなので、顔を見合わせて頷くと自分の部屋へと戻っていく。

「・・・いえ、この松はここの枝を切るのが定石かと」

「いや、それよりも反対側のこの枝を切るほうが・・・・・・」

二人の世界に入っていた恭也たちは、美由希たちが立ち去った後も盆栽談義に花を咲かせていた。

 

桜花が出掛け、美由希たちもいなくなってから暫くして、アリサが縁側を通りかかって一言、

「・・・・・・縁側に座ってるお爺ちゃんとお婆ちゃん、ちょっといいですか?」

「「誰がお爺ちゃん(お婆ちゃん)だ(ですか)!!」」

アリサの言葉に、一瞬で現実に戻ってきた二人は、即行で否定した。

「・・・はぁ。十代後半の若者が、縁側でお茶を飲みながら盆栽談義・・・・・・外見はともかく、立派な年寄りですね」

「「ぐ・・・・・・」」

「それに、むきになるってことは、多少の自覚はあるようですね」

「「・・・・・・・・・」」

図星を指されて、押し黙る二人。

ちょっとはそういう考えがあったらしい。

「ま、そんなことはどうでもいいです。恭也兄さん、いつから始めるんですか?」

「・・・・・・?」

アリサの言葉に思い当たる節がないのか、首を傾げながら視線で問い返す。

「はぁ・・・・・・」

額に手を当てて盛大に溜め息を吐くアリサ。

呆れとやっぱり、といったものが表情に表れているので、恭也のこの反応は予想範囲内みたいだ。

「明日提出する課題があるから、手伝ってほしいって金曜日に言ってたじゃないですか」

「・・・・・・あ」

漸く思い当たった恭也を目を細めて睨むアリサは、中々迫力(威圧感云々ではなく、逆らえないと感じさせる言葉にし辛いオーラ)があって怖い。

瑛も心なしか、アリサの視界から逃れようとしている。

「・・・すまん」

「・・・・・・はぁ。貸し一つですからね」

纏っていたオーラを消して、呆れ度100%の表情で溜め息を吐くアリサ。

これは別に珍しいことではない。

たとえ早急に出さなくてはならない課題でも、恭也の中では『勉強』の優先順位は低い。

今回もアリサに手伝いを頼んでいたからこそ、お昼前に気付けたが、もし夜になっても気付けなければ桜花が夜の鍛錬の時に嬉々として恭也に死刑判決(課題の進行度を訊ねる)を言い渡すだろう。

そうなると、地雷原に足を踏み込む覚悟で、桜花に頼らざるを得なくなるのだ。

 

閑話休題

 

「・・・それで、今日はストッパーをしなくてもいいんですか?瑛さん」

「・・・・・・・・・偶には私も休みたいんですから」

ものすごく疲れた表情で本音を漏らす瑛。

自他共に認める桜花のストッパーである瑛には、それを休む時間がほとんどない。

同じ家に住んでいるし、休みの日もだいたいが一緒に行動しているからだ。

桜花に付き合うのと精神的に疲れる。

小さな悪戯から大きな悪戯まで、いつやってくるか分かったものではない。

基本的に対象は友人以上の者たちだが、稀に通りすがりの人にも絡んだりするので性質が悪い。

「・・・・・・で、どうします?恭也兄さん」

瑛がいないときにはストッパー役にもなるアリサは、その気持ちが分かるので、あえてそれ以上触れずに恭也に話を戻す。

「・・・今からやろう」

「りょ―かい」

自分の湯飲みを持つと恭也は立ち上がり、台所へ向かう。

アリサもそれを追って、縁側を後にした。

「・・・・・・(ズズッ)・・・担当になる医師は、いったいどんな人でなんしょうか」

残された瑛は、広げていた雑誌をしまい、急須から自分の湯飲みにお茶を淹れ、これからお世話になるであろう医師のことを考えて、そう呟いた。

 

「はい、次の方、どうぞ」

瑛が思い浮かべていたその人物―――フィリス・矢沢はココアを飲んで一息つくと、次の患者を呼ぶ。

「失礼しま〜す♪」

恭也と違って病院で待たされることを無駄と感じていない桜花は、テンション高めに診察室へ入る。

「・・・神影桜花さん、ですね?」

そんな桜花を笑顔で出迎えるフィリス。

「はい。・・・・・・外見は○学生ですね(ボソッ)

中にいたフィリスを見て予想していた人物像と違うことに驚きながらも、率直にそう評価し、思わず呟いてしまう桜花。

「(ヒクッ)・・・・・・・・・えっと、体の歪みの矯正、ですか」

こういうことに関しては地獄耳であるフィリスは、それ聞いて笑顔を維持しつつ一瞬だけこめかみに青筋を浮かべるが、すぐに消してカルテと桜花(正確には桜花の胸)を見比べながら、そう訊ねる。

フィリスの視線が微妙にずれていることに気付いた桜花だが、疑問に思いながら視線を落とすとそれに気付き納得する。

「・・・じゃあ、服を脱いでこちらに来てください」

「はい♪」

フィリスのコンプレックスを理解した桜花は、いいネタが見つかった、と喜びながら服を脱ぐ。

桜花が服を脱ぐと、服を着ているときよりも大きく感じられる桜花の胸が姿を見せる。

「うっ・・・・・・」

あまりの凶悪さ(フィリスにとって)にフィリスが小さく呻いたのを聞いた桜花は、ニヤリと笑い

「・・・・・・もう少し小さいほうがいいんですけどね、

と言ってのけた。

ビキッ

その言葉にフィリスの顔が強張り、眉間に血管が浮き出る。

でも、笑顔を崩さないのは流石である。

「肩も凝りますし(にやにや)」

ビキビキッ

辛うじて笑顔を維持しているフィリスだが、だんだん頬が引き攣ってきた。

「先生はいいですよね〜、大きくなくて

ブチッ

しかしこの一言で、無残にもフィリスの堤防が決壊した。

「ふ・・・ふふふふふ。さあ神影さん・・・いえ、桜花さん。横になってください(にっこり)」

果てしなく爽やかな笑顔で、フィリスは桜花を手招きする。

「(滝汗)あ、あはは・・・やだな〜せんせ、ちょっとした「なにか?」イエ、ナンデモアリマセン(泣)」

最後の台詞はやりすぎたか、と悔やむが時既に遅し。

フィリスの後ろに閻魔大王の姿を幻視した桜花は、なんとか静めようと愛想笑いを貼り付けながら声を掛けようとする・・・が欠片も効果はなく、

ミチッ

「いぎっ!?・・・あぐぁ・・・・・・」

「桜花さん・・・まだまだこれからですよ?」

ゴキィ

「いだだだだだだだだ!!!!」

「そんな嬉しそうな声を上げなくても♪」

バキバキ

「嬉しいなんて言ってません!この外見○学生!!」

「誰が○学生ですか!!」

メキャッ

「!!!!!!!!」

予想以上に強い痛みで声を出せなかったので、あんたに決まってるだろ!、と桜花は心の中で叫んだ。

 

 

 

「で、その様と」

「・・・・・・・・・」

病院から帰ってきた桜花は、満身創痍であった。

あの後も、暫くあの二人の壮絶なバトルは続いた。

フィリスが最早拷問といってもいいくらいの整体をかまし、最初はフィリスの雰囲気に圧されて口ごもった桜花も、整体中には一歩も引かずに軽口を叩く。

一進一退の攻防は、整体が終わるまで続き、フィリスの勝利で終わった。

そして終わった後には、なぜか二人の間には友情が芽生えていた。

帰る前にフィリスと軽く談笑した後、桜花は体を引きずるようにして神影家へと帰ってきたのだ。

「・・・まあ、自業自得ですね」

理由を聞いた瑛は辛辣に意見を述べて、それに忠告めいた意味も込めるが、

「うう・・・今度は整体終わってから、からかう」

桜花には欠片も届いてないし、そもそも桜花は懲りていなかった。

「懲りないですね」

「真面目な人ほど、からかうのは面白いからね」

なにはともあれ、桜花はフィリスと友誼を結んだようである。

 

 

 

 

 


あとがき

七彩です。

まず、桜花のオリジナル技『迅雷』について。

なんのことはありません、『雷徹』を連続で放っているだけです。

神咲一刀流でいう、追の太刀等と同じようなものと理解してください。 

特徴として『雷徹』と『雷徹』の間が恐ろしく短い、ということですかね。

知っていれば対処はしやすくなります。

あくまでもしやすくなるだけで、確実に防げるというわけではありませんが(当たり前か)。

桜花とフィリス・・・リスティとフィリスみたいな関係にするのが理想ですかね。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

では、次回で。




フィリスの整体に対し、あそこまで張り合うとは。
美姫 「うんうん。さすが桜花ちゃんよね」
あ、あははは〜。
美姫 「さて、次はどんなお話が待っているのかな〜」
次回も楽しみにしてますね。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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