はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第13章 「それぞれの休日(午後)」


 

 

 

 

 

「赤星先輩に藤代先輩?」

「あれ、瑛ちゃん」

「・・・ああ、桜花さんの妹さん」

昼食後、商店街の刀剣専門店『井関』へ向かっていた瑛は、その途中で知った顔を見つけた。

赤星勇吾と藤代奈津美である。

両者とも姉のクラスメイトで剣道部のエースと瑛は記憶していた。

勇吾はもとより奈津美も瑛のことを覚えていた。

度々自分の教室にやってくるし、何よりあの神影桜花の妹である。

多分、3年G組の生徒全員が・・・いや、全校生徒が瑛のことを知っているだろう。

そのくらいトラブルメーカーの桜花と、その妹でストッパーの瑛は有名である。

「・・・・・・部活ですか?」

二人とも竹刀袋を持っていたので、瑛は半ば確かめるように訊ねる。

「ああ、だけど顧問の先生の都合で半日になってね。今は帰りだよ」

「うちも。他の皆は喜んでいたけど、ね」

「瑛ちゃんは?」

「・・・・・・・・・」

生来の生真面目さ故か、嘘をつくのが嫌いなため言葉に詰まる瑛。

勇吾はまだしも、この場には奈津美もいる。

素直に「刀剣専門店『井関』に行くところでした」といっても奈津美に怪しまれるだろう、絶対。

そうなれば自分が剣をやっていることがばれてしまうし、ばれてしまったら、ある意味地獄の鬼よりも恐ろしい姉に何をされるか分かったものではない。

こういうことに関しての罰に一切の容赦がないのはその身をもって知っている瑛である。

「そうですね、散歩といったところでしょうか」

なので当たり障りのない無難な返答をする。

だが、その在り来たりな答えを出すまでに間があったので、奈津美は首を傾げる。

「・・・答えるまでに間があったようだけど?」

「改めて問われたので、なんて答えるか少し考えてしまっただけです」

不思議そうに聞いてくる奈津美に、欠片も表情を崩さず何時もの無表情で答える瑛。

これが美由希や那美なら動揺しまくることは間違いない。

「う〜ん、言われてみると確かにそうかも。とりあえず私はそろそろ帰ることにする。じゃあね、赤星くんに瑛ちゃん」

瑛の言葉に納得したのか、奈津美は勇吾と瑛に軽く手を振ると自分の家のあるほうへ歩いていった。

「・・・・・・さて、赤星先輩、行きましょうか」

「え?」

奈津美が見えなくなると、瑛は勇吾の腕を引っ張って連れて行こうとする。

「どこに行くの?」

「『井関』に木刀を補充しに行くんです」

それで言葉に詰まったのか、と納得した勇吾だが、なぜ自分も行かなくてはいけないのだろうか。

「いいところで荷物持ちをゲットできました」

そんな勇吾の疑問に気付いた瑛が歩みを止めると、どこかで見たような笑みを浮かべてそう言い、歩みを再開する。

(・・・流石、桜花さんの妹だ)

力では自分が勝っているはずなのにも関わらず、抵抗してもびくともしないことにため息をつきながら、妙に納得してしまう勇吾だった。

 

 

 

「・・・はぁ・・・はぁ、つ、ついた―」

「お疲れ様、なのは」

なのはは久遠に会うために八束神社を訪れていた。

勿論、なのはを一人で向かわせるわけには行かないので、美由希が付き添いとして同行している。

「こんにちわ、那美さん」

「・・・こ、こんにちわ〜」

「あ、なのはちゃんに美由希さん。こんにちわ」

箒で境内を掃いていた那美が二人の声に振り返って、挨拶を返す。

「く―ちゃん、いますか?」

「久遠?ちょっと待ってね。久遠!」

那美が少し大きな声で呼びかけるとがさがさ、という音と共に草陰から久遠が飛び出してくる。

「く―ちゃん、あそぼ」

「くぅん♪」

なのはが駆け出すと、その後を追う久遠。

傍から見ていても、それはとても微笑ましい光景であり、美由希と那美は暖かい気持ちになりながら一人と一匹を見ていた。

「いい天気ですね」

「そうですね」

那美は箒を掃く手を止めて、空を見上げる。

空には雲一つなく、風も頬を撫でる程度しか吹いていない。

まだ4月なので気温もそれほど高くないし、かといって肌寒いわけでもない。

「・・・・・・そういえば」

「・・・?」

那美が何かを思い出すような顔をした後、

「恭也さんと美由希さんは剣をやっているんですよね?」

こう訊ねてきた。

「・・・ええ、まあ」

表面上では何とか平静を装えたものの、内心で美由希の心拍数はどんどん上昇していく。

下手なことを言えば、待っているのは桜花による制裁である。

余談だが、丁度同じ時間に奈津美から質問を受けていた瑛も桜花の制裁のことを考えていたとか。

「でも草間一刀流は小太刀サイズの刀は使わないと思ったんですけど・・・・・・」

「いっ!?」

少し核心に近づかれて、美由希は焦りのあまりそんな声を出してしまう。

那美としては初めて『おまじない』をした際に、恭也が池に投げ捨てた『八景』が小太刀だったことを思い出し、花見の時以来ずっと心の中に燻っていた疑問だった。

その恭也と那美の出会いの話を知らない美由希は、那美の前で剣の鍛錬を見せたことがないのに、どうして小太刀に辿り着いたのか分からない。

「・・・・・・・・・」

美由希は悩む。

この前のマッサージの時の比ではないくらいに悩む!

「・・・? 美由希さん?」

「えっ!? あ、そ、その・・・・・・ごめんなさい」

悩んでいる途中に声を掛けられて動揺した美由希は、謝ることに行き着く。

それは即ち、話せないこと―――もしくは話したくないという意思表示であり、那美も隠していることがあるのでそれ以上追求はできない。

少し気まずい空気が二人の間を流れる。

「あ、でも・・・今はまだ話せませんけど、話していいって言われたら話せますから」

その空気を打破しようとわたわたと手を振りながら美由希が慌てて言葉を繋ぐ。

それが少しおかしくて、那美はくすっと笑うと

「じゃあその時には、私の秘密も話しちゃいますね」

おどけるようにそう返す。

それを聞いて美由希の狼狽も収まり、那美に笑みを返す。

また少し、二人は仲良くなったようだ。

 

 

 

「いらっしゃいませ〜♪」

海鳴商店街喫茶店『翠屋』。

お昼を過ぎても客足が途絶えることはなく、逆に少しずつ増え始めている。

「何名様ですか?」

「店長、そろそろお持ち帰りのシュ―クリ―ムが・・・」

「フィアッセさん、ミルクティー二つ、お願いします」

「YES!」

・・・・・・戦場だ。

そこらの某一皿百円の回転寿司の夕食時に匹敵するような忙しさである。

「・・・・・・うわ・・・混んでるなぁ」

そんな状態の翠屋にやってきたのは、桜花と組んだら何でもできそうなほど機械関係に詳しい月村忍嬢と

「・・・最低でも30分待ちは確実です」

客の人数と回転率からそう判断した月村家のメイド兼護衛のノエル・K・エーアリヒカイトである。

「あれ? 忍さんにノエルさん。いらっしゃいませ♪」

二人を出迎えたのは妙に動きがぎこちなく感じられる桜花だった。

翠屋のエプロンを身につけ、手には銀のトレイを持っている。

「桜花さん・・・バイト?」

「いえ、お手伝いです」

お昼ごはんを翠屋でとった桜花は、暫く珈琲一杯で粘ろうと思っていたのだが、忙しくなってきた店内を見て手伝いを申し出たのだ。

ただ皮肉にも、見てくれは超一級品の桜花が手伝い始めたことでお客(男)の数が増し、余計に忙しくなっていたりするのだが。

「・・・桜花様、お体の具合が良くないのでは?」

「そうだね・・・なんか動きがぎこちないように見えるんだけど」

「・・・え〜と、大丈夫ですよ?」

動きがぎこちないのは言わずもがな。

まだフィリスの整体―――別名『地獄への片道切符』―――の後遺症が残っているのだ。

通常の整体では受けるときのこそダメージを負うものの後には引かない。

しかし桜花が受けたのは、フィリスが自分の姉の制裁用に開発を進めていたものである。

体にかなりの痛みを与えつつも、悪影響どころか体の歪み等を矯正できる矛盾したような整体のやり方だ。

これもひとえに自分の姉にもう少し自重してほしいという願いが一割、残りの九割はその姉によって与えられるストレスの発散である。

ただ、記念すべき第一号に姉を選べなかったのがフィリスにとっては少し残念であったのだが・・・・・・

まあ、桜花もあれだけ煽っていたのだから自業自得である。

「それよりも、お持ち帰りですか? それとも食べていきます?」

「・・・う〜ん・・・・・・どうしよっか、ノエル」

「忍お嬢様のお好きなままに」

ちらっとお持ち帰りのコーナーに目をやる忍。

そこにはかなりの行列ができており、店内で食べても持ち帰りでも大して差はないように見える。

「待つことにするよ」

「かしこまりました。では、少々お待ちください」

そう言って桜花は厨房の方へ向かっていった。

 

「お待たせしました〜、ごゆっくりどうぞ?」

(・・・何故に疑問系?)

約47分後、漸く空いたテーブルに忍たちが座って注文をし、それを持ってきた桜花は、理解不能な疑問を残して席を離れていく。

翠屋でトップの腕を誇るフィアッセの紅茶を飲みながら、忍は翠屋特製シュークリームを食べつつ桜花の姿を追う。

「珈琲とアップルパイ、お待たせしました♪」

にこにこと太陽のような笑顔で愛想を振りまきながら、注文を聞き間違えることなく、テキパキと働いている。

途中声を掛けてくる不埒な輩を笑顔のままで威圧し、少し動きにぎこちなさが残っているが立ち居振る舞いもほぼ完璧である。

店内の男女を問わず、お客の視線を独り占めしているといっても過言ではない。

通常ならフィアッセと半分半分といったところだろうが、フィアッセは今、厨房の中で桃子の手伝いをしているのでフロアは、桜花とバイトの店員にまかせっきりである。

この桜花の姿を見て、普段の彼女の姿を想像できる者はおらず、彼女の知人にしてみれば「詐欺だ!」と誰もが叫ぶだろう・・・心の中で。

「・・・でも・・・・・・楽しそう」

そう・・・にこにこと笑っている桜花だが、その笑顔は営業用に無理して作ったのものではなく、自然そのままの笑顔である。

それが男女を問わず視線を集めている要因である。

「・・・・・・今度のことが終わりましたら、お嬢様もやってみては如何ですか?」

忍の視線に羨望が混ざっていることに気付いたノエルは、自分の主にそう提案する。

「・・・・・・・・・」

ノエルの思わぬ提案に驚き、ノエルを見る忍。

「賛成〜♪」

「えっ!?」

「!? 桜花様・・・」

少し視線を外しただけなのに、結構離れた場所にいた桜花がいつの間にか忍たちのテーブルの前に立っていた。

(この方は・・・やはり何かを)

忍は桜花の雰囲気に圧されて疑問に思っていないようだが、ノエルは今日の桜花が持つ雰囲気と仕草に違和感を感じ始めた。

ぎこちない動きが演技でないことは明らかなのに、何かが引っかかる。

そう、例えるのなら―――電車の女性専用の車両にいる相川真一郎とか・・・・・・・・・って違和感ねえよっ!?

・・・失礼、ではもう一度。

そう、例えるのなら―――仕込み杖だ。

普通の杖と並べられても違和感がないが、中には鋭い刃を隠し持っている。

桜花との親交が少ないノエルが、そこまで具体的に察したわけではないが、それでも桜花に対して漠然としたものを抱くことになった。

いや、逆に桜花との親交が少ないからこそ、そしてノエル自身の乏しい感情が、桜花に対する違和感を感じさせたのだろう。

人並みに感情が表せるのなら、ノエルとて桜花の雰囲気に飲まれることは間違いない。

そしてノエルが感じたものは正解に近い。

本調子でなく、ぎこちなさの残る今の桜花を恭也たちが見れば、例えに出した仕込杖を連想するだろう。

日常を自然に振舞うという『鞘』から、戦闘時の雰囲気という『刃』がほんの僅かに滲み出ている。

その『刃』と『鞘』との差異で、微妙な違和感を周りに感じさせているのだ。

現にノエルだけではなく、今日の桜花に会ったフィアッセや桃子もその違和感を感じているし、高町家の住人も感じることが出来るだろう。

もっとも普段の桜花は、刀を抜く、納めるの動作のように、雰囲気を切り替えているだけで抑えているとはまた違うので、今の桜花の姿に仮面のような取り繕ったものを感じることはできないが。

 

閑話休題

 

「―――と、いうわけなんですが・・・どうですかね、フィアッセさん」

「いいね、それ♪」

「・・・あの、今すぐってわけじゃないんですが」

ノエルの考えをよそに、忍をそっちのけで話を進める桜花とフィアッセ。

困ったような声を出す忍だが、表情は明るく、楽しそうだ。

(・・・いえ、例えそうだとしても、私の役割は変わりません)

その様子を見たノエルは、先ほどの疑念を頭の中から追い出す。

例え、桜花が何かをやっていても自分の役目は忍を護る事。

それに何故だかノエルには、桜花が敵に回るようなことはないという確信があった。

少ない親交ながらも人となりを観察した結果か、はたまた彼女に何かを感じたのか・・・・・・それはノエル自身にも分からなかった。

ちなみにフィアッセが忍のことを桃子に話すと、某雪国の主婦並の速さでその案は可決されていた。

 

 

 

「はい、これで最後ですね」

「すまんな、アリサ。助かった」

アリサが手伝ったおかげで恭也の課題は、一人でやるよりも早く終わった。

といっても最速でやったわけではなく、アリサが恭也との時間を堪能するためにさりげなくペースを落としてはいたが。

「・・・はぁ。もう少し勉強に意識を向けましょう。桜花さんに付け入る隙を与えるだけですよ?」

付け入る隙とは桜花に遊ばれるネタを提供する、という意味である。

今回の場合、桜花の理想の展開は・・・恭也、課題の存在を忘れている→夜の鍛錬で桜花に指摘されて気付く→桜花の協力の下で遊ばれつつ課題をこなす→睡眠時間を削ったので昼間の授業で寝る→そこを桜花が待ってましたと何らかの方法で起こす→結果、恭也→鬱、桜花→満足、となる。

一応忠告めいたことは言うが、内心ではそれは聞かなくてもいいと思っているアリサだった。

「む・・・」

私としては恭也兄さんといられる時間が増えるから、別に良いんですけどね

自分に実害がない上に、恭也といる時間が増えるのでアリサとしては反対する理由もなく、むしろやれ!といった感じであるが、勿論口には出さない。

「? 何か言ったか?」

「いえ、何も」

アリサの考えなど頭の隅にも浮かばない恭也は、首を傾げるだけだった。

 

 

 

夜になり、仕事も終わったフィリスはココアを飲んで一息つく。

「Hi♪フィリス」

「リスティ?」

そろそろ帰ろうかと準備をしようとしたところで、彼女のストレスの元である姉のリスティが病室に姿を現した。

「・・・またお金?」

「・・・・・・フィリス、ボクをなんだと思ってるんだい?」

またなの?と呆れたように言ってくる妹に少し憮然とした表情を浮かべる姉。

間違ってもいないので、余計にそういった表情になってしまう。

「・・・・・・・・・今日はいくら?」

重い重いため息と共に、先を促すフィリス。

この程度でいって聞くなら自分は苦労しないのだ。

「樋口を貰えれば十分だよ」

憂鬱な気分のままフィリスは自分の財布から樋口一葉を取り出す。

「ちゃんと返してよね」

「分かってるって」

ウィンクと共にリスティは病室を後にする。

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜」

姉の相変わらずな様子に、重い重い重いため息を吐きながら、ふと昼間来た患者を思い出す。

こちらが気にしていることを遠慮もせずにズバズバといってからかってきた恭也と同じ年頃の女性。

「あの人に妹がいるとしたら・・・・・・同じような苦労をしてるんでしょうね」

仲良くなれそうだ、と思いながらフィリスは、ココアを飲み干すと帰る準備を始めたのだった。

 

 

 

「・・・うぅ、まだ痛い・・・・・・」

「・・・・・・自業自得ですね・・・っくしゅん」

「・・・? 風邪でも轢いた?」

「字が違います。きっと誰かが噂でもしているんでしょう」

姉上が有名なおかげで、と口には出さないが一言付け足すのを忘れない瑛だった。

 

 

 

 

 


あとがき

七彩です。

午前、午後と分けてみましたがあまり意味はなかったような気がします。

執筆スピードが上がりません。

卒研も基本情報もあって書く暇が少ないです。

とか言いつつROをやっている私はなんなんでしょうね(遠い目をしながら)・・・・・・

ここまで読んでくださりありがとうございます。

では。




とある休日の午後〜。
美姫 「いつの世も妹は苦労するのね」
いや、そうとも限らんから、それは。
美姫 「そう?」
当たり前だ。
美姫 「さて、今回は休日の様子だったけれど、次回からは」
一体、どんなお話になるのかな〜。
美姫 「次回も目が離せないわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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