……なぜこんな事になったのか。

思わずそう考えずにはいられなかった。
現在、自分の置かれている状況を義之は冷静に分析する。

リングに佇む、どこか納得がいかない表情の義之。
前方―リング中央付近にはなぜか三人の男子生徒。
しかもその顔にははっきりと敵意が見て取れる。
後方―リング場外には渉、雪月花、その他大勢の野次馬。

なぜ自分がこんな見世物紛いの状況になっているのか。
義之は未だに納得できなかった。
事の発端は渉や雪月花の試合が終わった直後まで遡る…。





     ●





――……十数分前

未だ試合の順番が回ってこない義之は、先程試合を終えて暇であろう渉や雪月花を探していた。
常日頃から何かと目立つ面々である。
大した手間もなく雪月花三人娘の後姿を見つけることができた。
しかし、その後姿にいつもの明るい雰囲気はなく、どこか苛立ちが漂っていた。
彼女たちの前方には三人の人影が見え、何やら言い争っているようだった。
良く見てみると義之の記憶が確かなら、言い争っている相手は先程の雪月花の試合相手の三人の男子生徒らしい。
いや、言い争いというよりも三人の男子が一方的に何か怒鳴りつけているように見える。


 「なんつー、分かり易い図だよ……」


義之は近づき、なるべく自然に声を掛ける。


 「どうした?三人とも」


その声に反応してその場にいた全員の視線が義之に集中する。
その反応は三者三様だった。


 「あ、義之ぃ」

 「義之」

 「義之くん」


小恋はどこか安心したように。
杏はいつもながらの無表情で、それでもどこか苛立つ様に。
茜に関しては苛立ちをまったく隠していなかった。
  

 「それが……」

 「……言い掛りをつけられているの」

 「そうそう!」

 「……言い掛り?」


話によると…、
女である雪月花に負けたことがよほど悔しかったのか三人の男子生徒は、試合終了後、集まって談笑していた彼女たちに言い訳がましい 負け惜しみを言いに来たらしい。
最初は軽く聞き流していた雪月花だったが、徐々に話の内容が負け惜しみから彼女たちの身体的特徴へ の侮蔑へと変わると、さすがに我慢の限界と、杏と茜の反論を皮切りに先程の状況へと発展した。
……との事だった。
何とも情けない話だと思いながら、義之は前方の男子生徒を見据える。
すると、突然現れた義之が気に食わないのか、三人の男子生徒は声を荒らげる。


 「んだよ、テメーは」

 「邪魔してんじゃねーよ」

 「関係ねー野郎はひっこんでろ」


何ともセオリーどおりの頭の悪そうな台詞だった。
その台詞に少しムッとする。


 「そうは言ってもな、仲間が根も葉もない言い掛りをつけられてるんだ。無関係じゃないだろ」


事を荒らげない様にと、なるべく冷静に返答する。
しかし、その冷静さが気に食わなかったのか。
三人は矛先を雪月花から義之へと移す。


 「んだとぉ!?」

 「っえらそーに!!」

 「やんのかコラァ!!」


これまたセオリーどおりの反応だった。
なにが「やるのか」なのか。なおも三人を諭そうと義之が口を開きかけたその瞬間…


 「うむ。ではそうするとしよう」


……杉並(ばか)の声が響き渡った。










◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
                       
第4話 一対三の戦い

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……と、言う訳で。

臨時教官代理の杉並の発言により、義之VS三人組という、一対三の戦いが決定された。
しかも、どこから話を聞きつけたのか、リングの周りは渉や大勢の野次馬で埋め尽くされていた。
ここは見世物小屋かと義之は今日何度目かの溜息を吐き、この状況を造り出した張本人を問い詰める。


 「……おい、杉並」

 「なんだ。桜内よ」

 「『なんだ』じゃねーだろ!どーすんだよ!この状況」

 「見ての通りだ。戦えばよかろう」

 「なんで俺が戦うんだよ」

 「いつの時代も女を守るのは男と決まっているだろう」

 「俺は平和的に話し合いで解決しようとだな…」

 「桜内よ……それで本当にあの愚か者どもが引き下がると思うのか?あのまま続けていても全く話にならなかった筈だ」

 「それは……」


おそらく杉並の言うとおりだろう。
あの手の人種は何を言われようとも引き下がらないだろう。
むしろ相手が理屈を持ち出せばそれに喰い付きさらに事態を悪化させる。


 「それにあのまま続けば奴らは彼女たちに更なる暴言を吐いたかも知れんぞ?」

 「むっ……」

 「少々強引だが身の程というものを直接身体に叩き込んでやるのが最良の手段だとは思わんか?」

 「……」


杉並の言葉も一理あった。
義之は肩越しに視線を後方へと移す。
そこには義之に声援を送る渉や雪月花の姿があった。


 「やっちまえー!義之ぃー!!」

 「よ、よしゆき。が、がんばって」

 「……義之…身の程を教えてあげなさい」

 「義之くん、やっちゃえぇ!」


確かにあれ以上三人を侮辱されるのは義之としても避けたかった。
あのまま口論を続けても結局同じような結果になっただろう。
ならばその過程で彼女たちへの侮辱行為を減らすことが出来るなら、自分が貧乏籤を引かされるぐらいは構わないか。
そんな義之の心中を察したのか、杉並は僅かに口の端を吊り上げる。


 「それにあの程度の相手、何人いようがお前ならば問題なかろう」

 「………」


そういった問題に関係なく「こいつ、自分が楽しみたいだけなんじゃ」という考えが頭をよぎる。
やはり杉並に教官代理などさせるもんじゃないな。そう思われずにいられなかった。

そんな義之の心境とは裏腹に、相手である三人の男子生徒は一対三という数的有利な状況下で負けるとは思ってないのか、余裕の表情で開始の合図を待っていた。


 「おい、やんねーのかよ!」

 「別にやめても良いんだぜぇ」

 「謝れば許してやるからよぉ」

 『はははははははっ!!』


三人は声を合わせて笑いあう。
何がそんなに可笑しいのか。その様子に義之は怒りを通り越して呆れてしまう。
そんな義之の様子にはまったく気付かず、三人はさらに調子に乗る。


 「つーかコイツあれだろ、桜内義之だろ」

 「桜内ってあれか、あの朝倉姉妹と同棲してるっていう」

 「マジかよ!羨ましいねぇ」


三人は下卑た笑いを浮かべる。
正確には同棲ではないのだが、問題はそこではなかった。
義之と音姫・由夢の朝倉姉妹が昨年まで同じ家に住んでいたのは学園では割と知れた話である。
それは義之が隣の芳乃家に移ってからも同様で、未だに義之たちが同じ家に住んでいると思い込んでいる者たちも少なくなかった。
そしてそれを羨む者たちも。おそらくこの三人もそういった連中の仲間なのだろう。

その様子を見て、


 「うわっ、バカ!」

 「はわわわわ」

 「……馬鹿ね」

 「私知らないよぉ〜」


何故か焦りだす渉と雪月花。
その視線の先には…

ガァン!!


剣をリングに突き刺した義之の姿があった。
その後ろ姿からは僅かな殺気のようなものが感じられた。
それを感じた周囲の人間は息を飲み、思わず押し黙る。
しかし、自分たちが有利な状況だと疑わない三人組だけはそれに気付かずにいた。


 「なんだぁ?」

 「脅しのつもりか?それ」

 「へっ、そんなんで俺らが引き下がってやるとでも思ったのかよ?」


剣をリングに突き刺した事実にだけ気付き、偉そうな態度で見当違いな事を言う。
だが、最早義之にそんな言葉は聞えていない。


 「杉並」

 「うむ」

 「始めろ」

 「承知した」


義之に開始を促され、杉並はリング中央へと向かう。
周囲に緊張感が走る。
三人の男子生徒は早くもそれぞれに斧を持ち、弓を抱え、詠唱準備に入っていた。
対する義之は剣をリングに突き刺したまま動かなかった。

杉並は中央に辿り着くと左右に視線を配らせ、右手を挙げ…


 「それでは……」

 『………』

 「………」

 「はじめ!!」


勢い良く振り下ろした。





瞬間。
風が巻き起こったかと思うと弓使いの身体が中に浮いているのが分かった。
弓使いは空中で半回転するとそのままリングの端まで吹き飛ぶ。
そしてつい先程まで弓使いがいた場所に剣も持たずに義之が立っていた。


 「……へ?」

 「なっ……はっ……えっ?」


何が起こったのか理解できなかった。
なぜ仲間である弓使いが吹き飛んだのか。
なぜ先程まで反対側にいた義之がそこにいるのか。
現に義之が立っていた場所には剣が突き刺さったままだった。

頭が現実についてこれない。
そんな斧使いに義之は静かに視線を向ける。
その視線に恐れを感じたのか。斧使いは頭で考える前に体が反応し、右手の斧を振り下ろす。
元々重量のある斧に振り下ろしの重力が合わさった一撃…の筈だった。
が、斧は完全に振り下ろされることなく右手首を捕まれ空中でその動きを停止する。
自らの渾身の一振りを軽々と止められ斧使いの思考が一瞬停止する。が、それも長くは続かない。
手を頭上で掴まれることでガラ空きになった腹部へ義之の素手が打ち込まれる。
それと同時に斧使いの腹部に衝撃が走る。


 「ごぶはぁ!?」


その衝撃に耐え切ず、斧を手放し、よろめきながら数歩下がり、嘔吐しながらその場に倒れる。

ドスンッ

支えを失った斧はそのままリングに突き刺さる。


 「け、剣も使わずに……!?」


残った魔法使いが思わず声にする。
そんな魔法使いに義之の鋭い視線が向けられる。
その視線に魔法使いは狼狽する。


 「わ、悪かった! 謝る! すみませんでした!」

 「…………」

 「だ、だから許してくれ! 頼むこのとおり!」


魔法使いはその場に土下座する。
先程までの虚勢はどこへ行ったのか。
あまりに見事で惨めなその光景をみては義之の溜飲も下がる。


 「二度と仲間や家族を侮辱するようなマネはするな。もし同じようなことをしたその時には…」

 「はい!もうしません!言いません!」


即答だった。
あまり信用できない言葉だったが、これ以上は弱い者イジメになるかと義之はその場を後にし、剣を取りにリング中央に向かう。
義之が剣を握ったその時、背後に高まる魔力を感じた。


 「後ろ!!」


それに気付いた誰かが声があげる。
振り返ると、魔法使いが呪文を詠唱しているところだった。


 「バカがぁ!! っんな約束守るかよ!!」


救いようがなかった。
義之にとってこの程度の距離、詠唱し終わる前に詰め寄ることなど造作ない。
だが、義之はそうはしなかった。
まるで相手が詠唱し終わるのを待つかのように、義之は動かず、その場で剣を握り締めていた。
その間に詠唱し終えた魔法使いは勝利を確信して魔法を放つ。


 「これでも……くらえやぁ!!」


炎の塊が義之に向かって放たれる。
大きさだけなら義之を呑み込む程であった。
近づくほどに加速し、速度を増す炎の塊。
その距離が零となり、義之を呑み込むかと思われたその時…!

ズバァァァン!!!!


炎の塊は義之の剣により真っ二つに割れる。

ドゴォォォ!!


二つになった炎は義之の後方で爆発し炎上する。
義之は全くの無傷だった。


 「あ、あああ……!?」


信じられない現実に魔法使いはその場で腰を抜かす。
そんな相手に義之はゆっくりと歩きながら近づいていく。


 「お前の魔法はスカスカだ。大きさばかりで中身がないんだよ」

 「だから簡単に切られる」


義之はさも当然のように言う。
しかし実際には魔力の塊を叩き切るなど並みの人間にできる芸当ではなかった。
それが解っているからこそ、魔法使いは驚愕しているのだから。


 「……忠告したよな…今度同じ様な事をしたらどうなるか…」


義之は剣を大きく振りかぶり、
魔法使いを見据え、


 「ひぃぃ!?」


おもいきり振り下ろし…


 「ひぃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ピタッ!!

止めた。
もう数センチで魔法使いの顔に触れるかというほどの寸止めだった。
見れば魔法使いは白目で、口からは泡を吹き、気絶していた。


 「これに懲りたら今度からは言動に気を付けるんだな」


聞こえていないと分かりながらも一応忠告し、今度こそその場を去って行った。





     ●





 「やったな義之!」

 「おつかれさま」

 「いい気味ね……」

 「うんうん、胸がすーっとしたよ〜」


その場を離れ、渉たちの下へと向かうと皆は義之を温かく迎える。絶賛だった。


 「少しやり過ぎたか?」


苦笑する義之に皆は「自業自得」と言い切る。
しかし仮にも授業中に負傷者を出すとは、手加減したとはいえ我ながら無茶をしたものだ。と義之は思う。
理由はともかく、これが音姫や由夢の耳に入れば間違いなく小言が待っているだろう。
朝に続いてまたかと正直うんざりする。
しかし、過ぎた事を後悔しても仕方がないかと諦める。


 (音姉や由夢を侮辱されるのは許せないしな……)


大切な“家族”を侮辱されるのだけは許せなかった。
たとえ血が繋がっていなくとも。
いや、血が繋がっていないからこそ……。



――――――こうして長い模擬戦の授業はようやく終了するのだった。
 
























あとがき。

やっとやっと主人公大活躍の第4話!
皆さん長らくお待たせしました。桜内義之、大活躍の巻でっす!
いやーやっと義之のバトルを書くことができました。
どうでしたでしょうか?一応仲間の中では一番強いという設定です。主人公ですしね。ちょっとカッコいい?
義之の使っている剣ですが、ゲームなんかでも良くある大剣をイメージしています。
ただし大剣といっても馬鹿デカイわけではなく、刃の部分が普通の剣より広い程度とお考え下さい。
とにかくやっと主人公のバトルを書くことができ、ほっと一安心の火輪であります。
この後数話は新キャラ紹介などになるかな?一応オリジナルキャラも登場予定です。
で、その後はいよい会が開幕!の予定です。できれば楽しみにして頂ければ、と思います。

ではでは、また次回のあとがきで。



ようやく義之の出番が!
美姫 「しかも、大活躍ね」
だな。所で、本来義之とやるはずだった生徒はどうなったんだろう。
美姫 「そんな細かい事を…」
いや、何となく気になっただけだから。あははは。
美姫 「まだ出てきていないキャラもいるし、どうなるのかしらね」
次回も待ってます。



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