『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




12話 「A fire case―過去U―」










「恭也様、奥様を収容いたしました。あの氷についてですがスキャニングによる分析の結果、構成された物質は只の氷であるとの事

 でした。しかし、あらゆる方法を試しましたが溶けも、削れもしませんでした。ただ、庭の氷につきましては溶けておりましたの

 で別物と思われます」

「……忍は」

「生命反応は確認できました。しかし、反応は微弱です」

「そうか……エリザさん、忍を助ける方法をご存知ないでしょうか」

「残念だけど、正直無いわ。こんな事例、聞いた事も見た事も無い。さっきさくらに連絡したから数日でくるでしょうけど、恐らく

 綺堂の家でも知らないでしょう……私は一旦家へ帰るわ、文献や資料を洗ってみるから。ノエル、二人をよろしくね」

「はい、エリザ様」




あの後、エリザは動揺しながらもノエルや他のメイド達に指示を出していった。忍の氷柱は溶けなかった為、氷柱を中心に1m程、
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地面を掘り返し、土ごと収容した。ただ、熱は勿論のこと工業用のカッターも文字通り刃が立たなかった。

あの後、雫を捜索する為に人員は勿論のこと、街中の監視カメラ等に介入し探したが見つからなかった。

しかし、エリザに対し恭也は数日間、衝撃からか普段の彼からは見れないような落胆ぶりだった。特に何をする訳でもなく呆然と忍

の前に立ち、彼女を見続けていた。寝不足と空腹、疲労から倒れ、ノエルにベッドへ運び込まれるまで立ち続けていた。

目が覚めたその日、部屋に入ってきたのはノエルではなくエリザとさくらだった。

さくらは部屋に入るなり、起き上がったばかりの恭也の頬を平手打ちする。




「立ちなさい、何時まで呆けているの」

「さくらさん」

「貴方、忍との『誓い』忘れたの?」

「憶えて、います。『守る』と誓いました。でも……守れなかった」

「守れなかった訳じゃないわ、まだ守れるのよ……それに忍も『夜の一族』よ。中で生きているならその回復力に賭けてみましょう」




さくらの言葉に記憶が鮮やかに蘇える。

夜、満月であるその夜、忍の家で誓った時の事を――

「守ろう、月村を、この身とこの刀に誓い、命続く限り共に歩み、そばで月村を守ろう」

――その誓いの言葉が思い出される。

恭也は右手を握り締め、見つめたかと思うと自身の額めがけて叩き込む。

鈍い音が部屋に響き、さくら達は慌てるが恭也の目は以前のように、力強い生気が戻っているのを確認すると安堵する。




「っつ……そうだ、まだ忍は生きてるんだ。すみませんでした。さくらさん、エリザさん、手を貸していただけませんか、忍を……

 いえ、忍と雫を救う為に」

「ええ、もちろんよ」

「よかった、折角調べたのが無駄になる所だったわ」

「何か分かったんですか」

「可能性だけね……あの雫ちゃんが持っていた赤い宝石あったでしょ。あれは只の宝石じゃなくとても大きな力を内包している」

「そう、なんですか。俺にはよくわかりませんが」

「私達には『魔眼』っていうのが在るのは知っているでしょう。『魅了』『忘却』なんかもこの眼を使うんだけどそれ以外にも使い

 方があって『力場』というか『気脈』というか、ともかく力の流れが分かるのよ。それで、あの宝石なんだけど、あの中には『聖

 域』と呼ばれているような場所に匹敵……いえそれ以上の力を溜め込んでいたの。その力を解放させて忍に注ぎ込めば内部から忍

 自身が自力で、あるいは外部から私達が……その方法が考えられるわ」

「なら、今すぐにでも――」

「待ちなさい、気持ちは分かるけど準備が必要なの……5日、いえ今からなら3日だけ時間を頂戴それまでに準備するわ」

「……わかりました。それなら何か手伝える事はありませんか」

「無いわ、貴方は体力を元に戻しておきなさい」

「……はい」

「じゃぁ、3日後にここに来るわ……さくら、ノエルあとはヨロシク」

「ええ」

「畏まりました」



エリザが寝室から出て行くと、恭也は再び枕へと頭を沈め、天井を暫く見つめていたが再び意識を闇に沈める。










3日後、約束どおりエリザが月村邸へと再び来訪してきた。

恭也達はエリザの手荷物の少なさに驚いた。3日も準備をすると言っていたので大掛かりな道具や施設が必要なのかと思っていたか

らだった。中庭で黙々と準備を続けるエリザを3人は見つめていた。

さくらが何故3日後だったのか、と問うと満月だから、と単純な答えが返ってき、そういうものかと一同自らを納得させた。

エリザが終わり、と声を上げたときはすでに満月が頭上に差し掛かっていたときだった。

ノエルが用意した照明の他に篝火が4箇所に焚かれ、その中心に台座とその上に赤い宝石を置き、台座を中心にして紋様が描かれ、

文字らしきものが書かれていたが恭也達には読めなかった。




「よしっ、終わったわ……恭也、ノエル準備はいい?」

「はい」




二人はエリザの呼びかけに固い意志をもって応える。

結局、外部から救助する方法が取られる事となった。生体反応はあるが意識の有無が分からず、状況の分からないまま忍に正体不明

の力を使うよりは自分達が使おう、と言う事になった。













恭也が少し息をついた事で話に少し間が空いた。

はやて達隊長格、そして周りの職員達は恭也から語られた事に、皆言葉を失っていた。

その時、なのはから小さくあっ、と声が漏れる。普段ならば雑音と共にかき消されたであっただろうが、静まり返っていたこの場で

は皆の耳にしっかりと届いていた。




「どうしたん、なのはちゃん」

「あっ、えぇっと、ごめんなさい。話の途中でじゃましちゃって」

「かまわないが、どうした」

「あの、こんな事言うのもおかしいんだけど、笑わないでね……もしかしてその忍さんを助ける儀式の時って雫ちゃんに襲われなか

 った? それと、その時にノエルさんがその赤い宝石――レリックだよねそれ、それを触った瞬間に光に包まれなかった?」

「そうだ……あぁそうか、夢を見たんだったな」




六課の面々は、恭也の話に何度か出てきた『赤い宝石』の正体がレリックであろうと考えていた。

だが、なぜ高町教導官がその後に起こった事を知っていたのか、そして何故、恭也は夢と納得したのかが不思議だった。




「以前なのはが話していた夢の事?」

「せや、あの時は後日教会へ行った時にカリムへ……って、そうかカリムから恭也さんに話がいってたんやな」

「そんなにカリムさんを睨むなよ、俺やクロノが決めた事だ」

「ごめんなさい、はやて。それに、なのはさん……何故、なのはさんが夢で見たかは分かりませんが、恐らくなのはさんの魔力によ

 る一種の予知だと思うの。親類という事で恭也さんの波長を感じ取ったのかもしれないわ」

「……話を戻すぞ、なのはの言った通り儀式の最中に雫が現れ、雫がレリックを狙った為、ノエルに収容させようとしたんだがノエ

 ルがレリックに触れた瞬間光に包まれた……そして目を覚ました時には聖王教会の一室で寝かされていた」

「私が見つけた時は、ノエルさんは気を失っていましたし、恭也さんも目を覚ましたと思ったらすぐに気を失ってしまいましたので

 シャッハと一緒に運び入れました。その時は管理外世界から来訪したなんて夢にも思いませんでしたから、訳ありとは思っていま

 したけれど……」

「まだ、この時は雫もこちらの世界に来ているとは知らなかった……カリムさんが見つけた時は、俺とノエルの二人だけだったらし

 い。だから俺達は最初は地球に戻る事を考えていたが……まぁ、色々あってそのままズルズルと1年近くいたんだが……そんな中

 あの事件が起こった」

「事件?」

「そう、事件だ。4年前に起きたミッドチルダ北部にある空港火災の事だ」

「えっ」




スバルは聞き覚えのある、決して忘れる事の無い事故を思い出した。姉のギンガと共に巻き込まれた事件。

そして、なのはに出会い、助けられ将来の道を決めた。スバルにとっては人生の分岐点といっても過言ではなかった。

だがティアナはその言葉に不審を覚える、あの時の出来事は『事故』と記録されていた。

原因と思われるレリックの暴走による火災、それが管理局の公式な見解だったはずだ。それなのに恭也は『事件』と言った。

そして、当然の疑問にスバルの事情を知るティアナは問いかける。




「すみません。あの火災は『ロストロギアによる火災事故』のはず……確か記録上はそうだったと思いますが」

「確か、ランスター二等陸士だったか、君が言ったとおりあの火災の記録上はそうだ。しかし、あれは人為的なものによる事件だ。

 当時、俺とノエルはその場に居たんだがノエルがレリックの存在を察知した」

「察知……ですか」




フェイトの疑問は最もだった。むき出しのロストロギアはともかく、厳重に封印されているロストロギアの存在を察知できたなんて

信じられなかった。

それは、はやても同じだった。




「ノエルさん、どないなふうにして見つけたんですか」

「恭也様よろしいのですか」

「あぁ」

「はやて様、私の中にはレリックがあります。その影響か、レリックと同等の物は一定範囲内でしたら探査は可能です」

「えっ、レリックが、何で」

「こちらの世界に来たときにはすでに私の中にありました」

「地球で雫が持っていたレリックがあっただろう、あれの事だ…………ともかく、その当時はすでにレリックの存在は認識されてい

 たからな、カリムさんと連絡を取ると密輸の可能性があるとの事だったので回収に向かった。その場所に着いたときに居たんだ」

「誰が?」

「雫だ。雫もこちらの世界に来ていたんだ……そして、雫がレリックに触れた途端、暴走を開始した――」












火災があちらこちらで発生していた。すでに施設の6割以上まで火の手は回り、壁や天井が崩れ落ちた所も出始めていた。

レリックに内包されていた無尽蔵の魔力が拡散し、それが火元となった為、空港全域まで火が回ってしまった。

すでに、現地の救護隊や管理局付きの魔導師も事態の沈静化へと当たっていた。

その炎の海の中で3人の人影が佇んでいた。少女の向かい側に男性と女性が並んで立っていた。




「雫……聞こえているか、目を覚ませ! なんでこんな事をする」

「おやめください、雫お嬢様!」




二人の呼びかけに対し、雫は聞こえていないのか静かに佇んでいた。

その目は虚ろで、生気が感じられていなかった。

雫はゆっくりと貨物室から見つけたであろうレリックを掲げると、その瞬間レリックが強く光り、瞬いたかと思うと雫の持つ小太刀

の柄の部分へと吸い込まれていった。

恭也は吸い込まれた部分を見つめていると、柄に施されてある雪の結晶の中心が真ん中から割れ、そこから目玉が覗き、目が合う。

すると雫の目に生気が戻り焦点が合わさってい来る。驚いていると雫の口が静かに開きだす。




「これで少しは楽に動けるか……」

「し、ずく……何を、言って、いるんだ」




一年ぶりの雫の声だった。以前、CSSに在籍している美声の持ち主達と比べても遜色ない。その声は高く、とても澄んでおり小鳥

が囀っているようだと評し、美由希に親バカと呆れられた事があった。

確かに声は雫の声だった。しかし、口調は大仰で妙に時代かかっており、明らかに違っていた。

雫は自分の体の調子を確かめるように左手の拳を作ったり解いたりを3回ほど繰り返した。

確かめ終わったのか視線を恭也の方へと視線を向けた。




「ふむ、これの父親だったな。礼を言う、お前達の世界に飛ばされた時はどうなるかと思ったが、いい宿主に出会えた。技の知識が

 豊富だ。この娘はまだ体が追いついていけず再現できなかったみたいだが……我なら使える。それにこの体、かなり特殊な血が混

 ざっているな、この治癒能力がとても素晴らしい。もう一度言おう感謝するぞ、我の宿主に相応しい」

「貴方の本体はその目でしょう。排除させていただき、雫お嬢様を返して頂きます」




動揺した恭也と違いノエルが冷静に判断し、雫の持つ刀の柄を指差し宣言する。




「ふふ、怖いな。だが今はまだ付き合っておれん。次のレリックが手に入るまでしばし休もう。手に入ればさらに体と心が馴染むだ

 ろう……その時に相手をしてやる。それに、ここでは巻き込まれんからな引かせてもらう」




そう言うや否や柄の部分にあった眼が閉じられ、元の雪の結晶に戻る。

すると再び雫の目の焦点が合わなくなったかと思うと、生気が抜け虚ろになった。

恭也が再び口を開こうとした瞬間、雫は後方の崩れ落ちた壁穴から抜け出していった。




「待て!! 追うぞノエル」

「はい」




すぐさま二人は雫の消えた方へと追いかけていく。

恭也とノエルは雫を追いかけ、徐々に差を詰めていったが、広いホールのような場所へと踊りでた所で雫が丁度モニュメントの後ろ

を通り過ぎようとしたその時、今まで鞘に納まっていた刀をモニュメントへ向け抜刀する。

それはまさしく『虎乱』だった。恭也は雫に教えた事はあったがまだ出来た事は一度もなかった。

先ほどの言葉がよみがえる――この娘はまだ体が追いついていけず再現できなかったみたいだが……我なら使える――厄介な事だ、

そう恭也が思ったのも束の間、モニュメントがゆっくりと傾いていく。しかし、傾いた方向が恭也達とは逆の方向、モニュメントは

前へと傾いていった。恭也は失敗か、と一瞬思うが直ぐに自らの考えが間違いだと気づいた。

ホールの天井に届きそうな背の高いモニュメント、もしそれがそのまま倒れた場合、モニュメントの先にあたる部分に、逃げ遅れた

と思われる少女が居た。

再び前を、雫の方を見ると舌打ちし、少女へ向かってゆっくりと倒れるモニュメントへと向きを変えた。

いかに魔法が常識の世界だろうと、大地へと引かれる力は共通であり、当然の事ながらモニュメントも例外では無かった。導かれる

ようにモニュメントは少女の方へと倒れてゆく。

恭也は間に合わないと察し、八景を一度鞘へ納刀すると神速を発動させる。周りがモノクロの世界になり体に重圧が掛かる。

その重い体を、その重い空間を駆けていく。そして、目標に対し少し遠い間合いから一気に抜刀する。

『御神流 奥義 虎切』鉄鋼すらも切り裂くその技は一条の光の筋となりモニュメントの中程を走る。

その線にそって二つに分かれるモニュメント。その上部は虎切の勢いにのり重力に逆らい横へと少しだけ移動するとそのまま下へと

落ちていった。

少女が倒れているのに気づきノエルが先に駆け寄っているのを確認すると、恭也も納刀すると少女の下へと駆け寄る。




「無事か」

「はい、気を失っているだけです。名前は……スバル・ナカジマ……空港のデータを検索しましたが姉も一緒のようです。ですが、

 この状況ははぐれたようです」

「そうか、放置するわけにもいかん……ひとまず安全な所へ運び出すか」

「! 恭也様、なのは様がこちらへ向かってるようです。後42秒で到着いたします」

「なら、悪いがなのはに任せよう。俺よりは正式に救助された方がこの子のためだろう……行こう」

「はい」




恭也達がその場から立ち去った42秒後になのはが到着しスバルを救助していった。なお、はぐれたスバルの姉はスバルが助け出さ

れてから数分後にフェイトによって助け出される。その後、遅れていた救助隊も続々と到着し事態は沈静化へと向かっていった。

こうしてミッド史上類を見ない、未曾有の大火災は多数の負傷者を出しながらも死亡者は無し、という奇跡的な結果に終わった。












続く



色んなことが判明。
美姫 「驚きの事実も判明したしね」
いやー、本当に。
次回も楽しみだよ。
美姫 「次回もお待ちしてます」
待ってます。



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