『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
13話 「Declaration of ……―恭也―」
空港火災以降、恭也達は雫と会うことは無かった。
空港火災から数日後、八神はやてから高町なのは、フェイト・T・ハラオウンの両名へ新部隊設立への協力要請が行われる。
この事件以降 『レリック事件』が何度か発生するも、管理局で確保できた数は少なく、殆ど盗まれた痕跡があった。
そして今年、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、カリム・グラシアらの後見人と伝説の三提督の助力を得て、『時空管理
局 遺失物管理部 対策部隊』通称『機動六課』の設立。
目的は『ロストロギア関連の事件の取り扱い』であるが本来の理由は別にある。
ここ数年のカリム・グラシアの『プロフェーティン・シュリフテン』による詩文の解析結果が全て『ロストロギアがきっかけに起こ
る事件によって、管理局地上本部の壊滅と管理局システムの崩壊』と出た事に端を発する。
この事に危機感を覚えたはやて達が、それを防ぐ為に設立したのが機動六課である。
その為クロノ、リンディ、カリムの三人が後見人として名を連ね、更には伝説の三提督も非公式ではあるが関わった。
しかし目的が目的な為に大々的に優秀な人材を集める訳にも行かず、招集された局員は能力や将来性に優れるものの、貸し出し扱い
の人員や実績の無い新人達であった。
その後、ミッドチルダへやってきた恭也の証言により、予言に詠まれたロストロギアがレリックでは無い、と一部の間で考えられる
ようになる。
空港火災以降、恭也達は雫と会うことは無かった。雫も表立って行動する事はなく、レリックの強奪事件に辛うじて存在を匂わすに
とどめていた。
「それで六課設立に至った訳だが……ここまでで何か質問はあるか」
「あのう、一つ良いですか」
「……何だ」
「あの時、空港で私を助けてくれたのって恭也さんだったんですか?」
「気にする必要は無い、俺は邪魔な物を切っただけだ。君を助けたのは愚妹だ。それに変わりは無い」
「なのはさん?」
「うん、私がスバルを見つけたときは一人で気を失って倒れていたよ。モニュメントはどうだったかな……あの状況だったから憶え
てないけど」
「だから君を助けたのは、なのはだ。それは変わり無い」
はあ、とスバルは頷きはしたものの、恭也のぶっきらぼうな物言いに納得はしていなかった。ただ、鉄面皮な恭也の横に居たなのは
が目配せで謝っていたのでしぶしぶながらも引き下がる。
スバルの質問が終わり、続いてフェイトが問いかける。
「何故、私たちに話してくれなかったんですか。言ってくれれば手伝いました」
「そうだよ」
「それについては僕が話そう」
「お義兄ちゃん?」
怖い、クロノは義妹の目が細められたのを確認すると、僅かに右頬が引きつったのを自覚する。
一方フェイトは何故、義兄が話すのか不思議に思いながらもクロノの言葉を待つ。
「恭也さん達も六課が設立するよりもっと以前に、事情を話して合流させようという話があったんだが、僕とアコース査察官とで当
時問題だった事件の為に『教会の保護対象者』という立場を貫き、アコース査察官や騎士カリムの手助けを行っていた」
「事件ってなんですか」
「漏洩だ……情報は勿論だがロストロギアの一部も記録が改竄され外に流れていた形跡が見つかった。情報はロストロギア関連を主
に漏洩されていた。そして、持ち出されたロストロギアのには『ジュエルシード』も含まれていた」
「えっ!」
驚くなのはとフェイトを確認すると、クロノは空中に映像を展開する。
そこには機械の部品がズームアップされて映し出されていた。その中に青い宝石――ジュエルシードとスカリエッティの文字がはっ
きりと彫られたプレートが見て取れる。
見たことのある映像にフェイトが口を開く。
「これってガジェットだよね……リニアレールの時の」
「半分正解だが半分は違う。これを見てくれ」
クロノはフェイトの言葉を否定すると映像をズームアウトさせる。
そこには白い葉巻型の胴体に、鋭い鎌のような刃物が手足の位置に存在する四足歩行のロボットの残骸が並べられていた。
その姿を見るとなのはとヴィータの目が見開く。
白い雪、白いバリアジャケットを赤く染めたなのはの姿が思い出される。
「あっ、あぁ……」
「な、んで……コイツがっ!」
なのはが狼狽すると恭也はなのはの頭に手をのせ優しく撫でる。
恭也のおかげでなのはの方は落ち着きを取り戻したがヴィータは別だった。突如激昂するヴィータにスバル達が驚く。
「あの事件の後、管理局が回収したからだ。ただし、何度も提供を要請していたが現物が廻されてきたのは六課設立より少し前の事
だ。そして、半分正解と言ったのはこの部分だ。最初、回ってきた時はこの部分は取り外されていた」
クロノはもう一度、ジュエルシードを含めた周辺の部分を拡大させる。
そしてジュエルシードと周辺の回路を指しながら説明を続ける。
「実はこの部分はフェイトがいった通りリニアレールの時に回収した物だ。ある程度加工はされているが、この部分を回収した奴に
取り付けると機能の一部、壊れていたためだが一部だけ動くのを確認した。そこで先ほど言った漏洩に繋がってくる。局内に内通
者が存在する為、それを探す役に恭也さんが買って出てくれた。恭也さんは高町教導官や八神部隊長とは違い正規のルートでこの
世界に来たわけではない。その為に恭也さんはこの世界に存在するわけが無い人物なんだ。管理局にいる、ロストロギアを持ち出
せるほどの権限を持った内通者にとっては『誰が何処にいるか』なんて情報は簡単に掴めるだろう。そこで裏をかきアコース査察
官の表だった監査を隠れ蓑にし、情報に、記録に一切痕跡が残らない恭也さんが内偵を続け、そしてついに内通者を確保した」
フェイトはクロノの説明に納得したが次は内通者のことが気になった。
誰ですか、という質問に恭也が答える。
「局内での名前は知らんが、見つけたときは一女性局員に化けていた」
「化けて?」
「あぁ、ナンバーズの一人だ……確かUの数字だった。固有スキルが変装なんだろう、一瞬で顔も声も体格も服装も全て別人に変わ
った。俺が追い詰めた時は忍のやつに化けた。恐らく……いや、よそう」
「? 忍さんにですか」
「恭也さん、よう忍さんに化けてた人を捕まえられたなぁ」
「すぐ気絶させた……本来なら死なない程度に叩き潰そうと思っていたが……鈍らせてしまった。まだまだ未熟だ」
「つぶっ!」
恭也の過激な発言にスバルが声を上げる。
納得できなかった。話が事実なら恭也さんは偽者だが自分の妻に手をあげた事になるし、殺す気もあったと言う。助け出す為に何年
も見知らぬ世界で過ごしてきたと言うのに、偽者とわかっていても愛する妻に対して簡単に手をあげらるだろうか。
問いかけるつもりだったがつい声に棘が含まれる。
「でもっ、でも、偽者と言っても声も顔も奥さんだったんでしょう、何で……」
「偽者と分かっていたからな……まぁ、声を聞いて不覚に、微塵でも忍と思ったことは失態だったな」
恭也は簡単に言ってのけたが、その問題は頭では理解できてもそれを行動に移せるかは別問題だ。
それは決して正解のない問いだった。
もし姉やなのはさんの偽者が出てきても攻撃できない、甘いと分かっていても自分にはできない。
スバルは恭也の心の強さ、非情さに背筋に嫌な汗が流れたのを感じた。
「他に無いのか……なんだシグナム」
「月村、先ほど聞きそびれたがその刀は何だ。地球で使っていた物と似ているが少し違うな。『八景』だったか、あれはどうした」
「あっ、本当だ。どうしたんですか恭也さん」
何度も剣を交えたシグナム、そして稽古をつけていたフェイトその二人は恭也の持つ今の小太刀が地球で持っていた『八景』と微妙
に異なっているのに気づいた。
「これは『八景』と同じものだ……しかし別ともいえる」
「?」
ティアナは段々と恭也の性格を理解しはじめる。先ほどから節々に意地悪なニュアンスが見え隠れしていた。
ふと後ろに控えているノエルを見ると軽く、本当に軽くため息をついたのを見逃さなかった。この人は主人の悪癖を知っているのだ
ろう、そう感想を浮かべると恭也の話に意識を戻すと少し話が進んでいるのに気づき慌てて耳を傾ける。
内容はこうだった。教会の倉庫に放置されていたブーストデバイスの一種であり、それを恭也の八景へと組み込んだそうだ。特徴は
元々付与されていた魔力のお陰で魔力の無い者にも使用が可能である事。そして、強化が主体で、組み込まれた刀だけではなく任意
に他の武器も強化でき、その威力はガジェットのAMFを貫くという。
ティアナは、そして周りの誰一人気づかなかった、教会にあったという興味深いデバイスの話に夢中になり、ノエルが再び短いため
息をついた事を。
「では、それは『八景』なのか」
「あぁ、教会で誰にも使われずに眠っていたデバイスを組み込んでもらった……射撃型だと性に合わんだろうがこれなら問題ない」
「へぇ、カリムんとこにそんなデバイスあったんやなぁ」
「それよりいいか、そろそろ話を続けるぞ」
恭也は話を続ける。
六課設立後、スカリエッティの居場所、管理局内の内通者、そして雫、その見つからない探し物をヴェロッサと共に探し続けた。
その後ナンバーズとの戦い、召喚術者の少女との出会い、そして雫との再会、この時に雫の状況を見て雫がレリックを幾つか手に入
れた事を、そして忍のタイムリミットの事。ついでにガジェットの掃討を始め、幾度か六課の手助けをした事も告げた。
その言葉にヴィータが口を挟む。
「恭也、もしかしてホテル・アグスタにも居なかったか」
「えっ」
ヴィータの言葉にティアナが反応する。
「あぁ、居たぞ。確か雫と再会したときだな」
「やっぱり、やっと納得いった」
「えっ、え? ヴィータ副隊長、どういう事ですか」
「ホテル・アグスタで、おめぇを襲おうとしていたガジェットを破壊したのはコイツだって事だよ」
ティアナはあまり思い出したくない過去だ。不注意からガジェットに襲われそうになった時、ナイフが飛んできてガジェットを破壊
し、事なき事を得た。
後日、レリックの回収時に現れたナンバーズの一人が同様の武器を使っていたため彼女が助けてくれたのか、と思い込んだ事も思い
だす。
「だから、あの時いったろ。アイツはおめぇを助けた奴じゃねぇ、って。恭也、あれ見せてやってくれ……なんっつたっけか、確か
『飛針』だったな」
恭也はこれか、と袖口から取り出す。
テーブルに置かれた飛針を見やりティアナが声をあげるよりも早くスバルが声をあげる。
「それっ、あの時の!」
「ヴィータ副隊長、気づいてたんですか」
「見たことあったしな、でも確信は無かったな。こっちの世界にいる筈が無いし、あの後腕切られたし、コイツの偽者が出てきて動
転してすっかり忘れてた…………今日の話を聞いて思い出した。やっぱり間違ってなかったな」
「あのっ! その、ありがとうございました」
「気にするな、それにあの後、お仕置きを受けたのだろう…………なのはから」
「ちょっ、お兄ちゃん!」
「あは、はははは……」
なのはが恭也の言葉に素早く反応するのに対し、ティアナは忘れられない出来事を思い出し乾いた笑いしか出てこなかった。
ノエルは本日何度目かのため息をつく。
「ところで、恭也さん。雫ちゃんに取り付いた物の正体ってわかってるん?」
「あぁ、それは無限書庫にその存在を示した資料が残っていた」
「無限書庫に? やっぱりあそこって何でもあるんやなぁ。……ん、もしかしてカリムがシャッハ使こうて調べてたのって……」
「ええ、そうよ」
「はやて、そうカリムさんを睨むな。無限書庫には一定以上の権限が無ければ利用できんのだろう、だから俺が頼んだんだ」
「せやかて……うぅ、わかった。それで続きは?」
「無限書庫から見つかった資料に記されていた情報から、本体は雫の持つ小太刀の柄にある雪の結晶の形をしている。あれが本体と
いうことだそうだ。雪の結晶ということもあり氷結系のデバイスなんだが……どこでどう狂ったか持ち主を乗っ取るようになった
らしい。その為に……いや、ともかく寄生型のデバイスだ」
恭也が言いよどんだ事になのは達がいぶかしんだ。
普段は歯切れのよい恭也が言葉を濁すのはとても珍しい事であったからだ。
その為、なのはがその事を聞こうと口を開こうとしたがクロノが先に恭也の言葉を引き継いだ。
「厄介な事にそのデバイスは『アルハザードの遺産』らしい。その為その能力は未知数だ」
「アルハザードの……」
誰かがそう呟くと周りもざわつく。
アルハザード、その存在の有無さえ問われた事があったその文明は死者を蘇らせる等、神の領域ともいえる技術を持ち合わせていた
と言う。その技術で作られたデバイス、その情報だけでかなり厄介な代物と伺わせた。
「それともう一つ分かった事だが―――」
恭也がクロノの言葉を引き継ぎ再び話しだした。その時はやての眼前にウィンドウが展開される。
そこには自身の補佐であるグリフィス・ロウランの姿があった。
普段冷静な彼からは想像できないほど鬼気迫る表情を浮かべていた。
「お話中申し訳ありません! 緊急事態です。ジェイル・スカリエッティが管理局に対し宣戦を布告いたしました!!」
「なんやてっ!!」
そして『無限の欲望』――ジェイル・スカリエッティが世界に牙を剥く
続く
色々と語られていく中、
美姫 「事態がついに動き出すのね」
いやー、一体どうなるんだろうか。
美姫 「宣戦布告とは、中々面白い状況になってるわね」
続きが気になる所。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。