『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




17話 「last battle―最終章V―」










恭也達がスカリエッティのアジトから脱出する少し前、ゆりかごの内部では戦いが繰り広げられていた。

その一つであるゆりかご内の最深部に位置するこの場所に、ノエルがクアットロと対峙していた。




「貴方ぁ、本当はあのお嬢さんが戻ってきて欲しくないんじゃないかしら」

「何を仰っているのですか」

「だってそうでしょう? あの子が戻れば、あの人の奥さんの封印も解けて、じきに戻ってくるんですものぉ」

「それは私の望みです」

「ふふふっ、本当ぉ? あの子から聞きましたけど。貴方、あの人の事好きなんでしょう? この5年間独り占めしてきたんでしょ

 う? 私は知っていますの、貴方、この5年間に何度もあの人に抱かれた事を…………そうそう、ここに乗り込む前も抱かれたみ

 たいね」

「…………」

「ふふふふっ」




クアットロは少し俯いたノエルを見ると満足そうに笑みをこぼした。

尊敬するドゥーエが捕まり確実な情報は入ってこなくなったが、管理局内部を探る方法は幾つでもある。

ここに乗り込む前に抱かれてた事は、重要度の低い情報の中に紛れていた事から、容易に何度も抱かれていたのは想像できた。

こんな所で、こんなイレギュラー達にドクターの夢を壊させる訳にはいかない。

他の姉妹が動けない以上、なんとか心理戦で時間を稼ぎ、雫に出張ってもらう。あまり協力的では無いがこの状況ならばその心配は

無いだろう。それまでは、なんとかこのガジェットらと間を持たせなければ。

ここさえ乗り切れば自分達の勝利が決まる。後数時間だけだ。

そう自分に言い聞かせ、笑みを浮かべた表情とは裏腹に内心は焦っていた。




「あら、黙りこくってどうしたのかしら」

「…………」




しまった。挑発しすぎたか、俯いたままのノエルにやりすぎたか、と内心焦る。

冷静さを欠いて貰うのは好都合だが、怒りに身を任せられたら元も子も無い。

戦闘に縺れ込むと勝てる要素が無いからだ。

だが、クアットロは拍子抜けする。

ノエルが顔を上げた時、笑みをを浮かべていたからだった。

奇しくもクアットロはトーレと同じ感想を浮かべる。なんて穏やかな笑顔なんだろう、と。




「この5年間、苦しみと悲しみがありましたが、確かに恭也様と二人で楽しかったと言われれば否定はしません」

「なら――」

「しかし、名残惜しい気もしますが、それ以上に恭也様と奥様、雫お嬢様に仕えて過ごしてきたあの家の方が、何倍も暖かく楽しく

 感じております。奥様と雫お嬢様が御揃いになりませんと意味がありません。それに恭也様を愛慕している事を奥様……忍様もご

 承知しております…………話をそらされましたね。大方、時間稼ぎと言った所でしょうか。貴方を倒して雫お嬢様の所へ行かして

 頂きます」




ノエルの言葉に逆に動揺するクアットロは、声を上擦らせながらコンソールを操作する。

ノエルは空間に変化を感じ取る。すると自身のブレードに帯びていた魔力光が消え去る。




「なっ、ならこれでどうです。ふっふふ、この部屋のAMFを強化しました。これで貴方のレリックは使えず、これだけのガジェッ

 ト達を相手に――」

「この期に及んで今更こんな物を……」

「な、に強がりを――」

「以前、貴方方の仲間のVを冠する方が私について語られておりました。そこから貴方方に私の情報があると推察されます。そして

 私はその時『知っている』と答えました。その時やっと貴方方が私を求めていた理由に気づきました…………もしかして聞いてお

 られなかったのですか?」




クアットロの目が見開かれる。

雫からの情報でノエルは造られた記憶、根源に関する記録が見れない事を聞いていた為、ずっとあの事は知らないと思っていた。

しかし、トーレがノエル達と接触したその日、トーレはアジトへ帰ってこなかった。

そして、ドゥーエやクアットロ自身が管理局の情報を探った時も、その事は一言も語られたという記録はなかった。




「そして、私を求めていたのなら私の能力をご存知のはずです」

「っ!?」




ノエルがゆっくりとしゃがみ込み右の手のひらを床へとつける。

クアットロが、はっとノエルが何をしようとしているのか気付くがノエルの方が早かった。




「Zugang」




その静かで小さな声が呟かれると、床についた手を中心に光が床を伝って走る。

光が走ったかと思うと先ほどまで、厳密にはゆりかご内に突入した時から感じていた重い雰囲気がふっと、消え去る。

それと同時にノエルの足元が爆発する。

ノエルはクアットロに向かって高速で突っ込む。周りにいたガジェットを無視し、進路上のガジェットのみブレードで破壊する。

そして動けずに立ち尽くしているクアットロの懐へ飛び込むと、左手首が爆発する。

手首に仕込まれた5連装の炸薬が一斉に爆発し、手首を飛ばす。至近距離によるロケットパンチ、更にレリックによる魔力を付与さ

せての破壊力は絶大で、クアットロの内部に衝撃が震動し内部のフレームを破壊する。

左手は改良により、至近距離の発射にも耐えられるようになっていた。その腕で動けなくなったクアットロを拘束すると部屋のコン

ソールを操作する。

ゆりかごを制御するためだ。

まるで知っているかのように迷う事なく手が、指が動いていく。















「せっかく限定解除して貰ったのに……あまり役に立ってないみたいね。それが限界ならがっかりよ。もしまだ力が残っているのな

 ら全力できなさい……そうじゃないと、死ぬよ。でも、もっと絶望して欲しいな。ふふふっ」




雫の視線の先には破壊された壁と、その瓦礫に埋もれているなのはだった。

数秒間動かなかったが、指さきが動くと、体をゆっくりと起こし瓦礫を落とす。

満足そうにしている雫を確認すると、レイジングハートを杖代わりに立ち上がり、それを構える。




「そうそう、まだまだ頑張ってね……まだまだ使ってみたい技があるんだから。あぁ、ちなみにさっきのは『薙旋』って言う技で、

 お父さんの得意な技の一つよ」

「はぁ、はぁ、はぁ……くっ、雫、ちゃん」




なのはの表情は以前、苦渋に満ちていた。

まさか、このタイミングで間接的とはいえ、自分が兄の家族を壊した事を知る事とは。

振り払おうとしてもその事実が頭をよぎり、どうしても動きが鈍る。

しかも、自分の姪だ。攻撃も鈍る。

防御も高く、ディバインシューターやアクセルシューター等の生半可な魔法は、雫の足元から生えた氷の壁が阻んでしまう。

さらには兄や姉が得意とする技を放ってくる。今まで確りと見せて貰った事は無かったが、フェイトやシグナムを相手に渡り合える

腕と、その腕から放たれる技、それは速く、そして強かった。何度も致命傷になりかけたが、雫は急所をはずしてきた。

なのは自身の魔力による防御力、バリアジャケットのお陰もあるだろうが、明らかに遊ばれていた。

だが次の瞬間なのはは驚く、急に体の負担が軽くなったからだ。

ゆりかご内部に突入してから今まで、重しを付けていたような感覚だったが、それが急に無くなった。

それはゆりかご内部全域に張られていたAMFが消えた瞬間だった。

これには雫も意外だったらしく辺りを軽く見回していた。

同様に驚いているなのはの横に画面が展開される。そこにはノエルが映っていた。

その後ろには先ほどのナンバーズの一人が拘束されていたが、意識はまだあるようだった。




「なのは様、調べました所こちらでは根幹的な機能は制御できないようになっておりました。やはり、そちらに居ります聖王の少女

 を優先に認識されています。その少女を解放しなければこの船はその機能を維持し続けます」

「ノエルさん……」

「あら、ノエル。クアットロを捕まえたのね…………あれだけ大口を叩いていたのにノエルを止められないなんて、結局貴方も知識

 だけで知恵は少ないみたいね」

「っ!」




ノエルに話しかけていた雫は後方のクアットロへと話しかける。

そのセリフに雫を睨みつけるが損傷とノエルの拘束により、体はピクリとも動かなかった。

クアットロの憎しみを込めた視線を感じながら雫は続ける。




「今の貴方は絶望しているみたいだけど、やっぱりガラクタより生身の人間の方が良質ね…………お前といい他のガラクタといい、

 普通なら追い込まれれば絶望、悲しみ、苦しみ、怒り、そんな感情に飲み込まれると言うのに折角追い込んでも質の悪い物ばかり

 だったな……この調子だとスカリエッティも期待できんな」




柄の目が開かれ、口調が変わる。

なのはとノエルははっ、とするが、クアットロは事態についていけなかった。

変わった雫の口調、そして先ほどの会話の内容。

唯一動く、姉妹の中で一番の頭脳を使い考える。

そして一つの結論にたどり着いた。

小さく震える唇を押さえながら雫に問う。




「貴方がトーレ姉様を……いえ、トーレ姉様だけでなくオットーやセインも貴方が……」

「あぁ、そうだ。今も市街地にあるビルの中で氷の彫像となっている」

「私、達は同盟関係、では無かったの……」

「まさか、色々と利用させて貰っただけだ。その分協力したであろう。最も、最後はお前らにも絶望してもらう予定だったが……

 ここまで粗悪だとは思わなかったがな……その部分だけは思い違いをしていたな。それに引き換え……高町 なのは、そなたはと

 ても上質な絶望と悲しみを生み出してくれる。今までの記憶で一番だよ。あの時、K14――あぁ、そなたの兄の姿をしたおもち

 ゃの事だが、あれを見せたときも良かったが今もとてもいい。そなたのおかげでこの体に巡り会え、そして、その事を知り、更に

 絶望している」

「っ!」

「くっくっくくあああはっはっはっはっはっは!!」




雫は目を見開き驚くクアットロを尻目に、なのはへと語りかける。

その言葉に、びくりとなのはは体を震わせる。

その様を見、再び嬉しそうに雫は口から笑みをこぼすが、やがて我慢できなかったのか部屋中に笑い声が響き渡る。

その時、黙っていたノエルが静かに口を開く。




「なのは様、貴方は恭也様になんと仰られたのかお忘れになられたのですか」

「お兄、ちゃんに…………」




思い出す。

この作戦の前に、兄が過去を語った後に話をした事を……












周囲では最後と思われる作戦に備え、局員達は忙しそうに走り回っている。

その為、恭也達3人は外へ出て話す事にした。

なのはは、海から吹く潮風を浴び、乱れる髪を押さえながら恭也の言葉を待つ。




「なのは、俺はフェイト達と共にスカリエッティのアジトへと行く。忍を助けるために。アジトの方に居ればいいんだが、もしも、

 ゆりかごに雫がいたら気にしなくていい。雫はノエルに任せて、お前は自分の役目を果たせ、いいな」

「それは、勿論だけど。任せてって雫ちゃんをどうやって助けるの?」

「それはノエルに任せてある」

「でも……なら、お兄ちゃんの方に居たらどうするの?」

「こちらに居たら俺がするだけだ」




兄の表情に見覚えがあった。

恐らく本人も気付いていないのだろう、昔から言いにくい事があるとはっきりと喋らなくなった事があったが、今もその癖は残って

いるみたいだった。

妙な予感を感じ、詰問するように恭也へ問う。




「どう言う事? 何考えてるの!?」

「………………最悪な場合、あのデバイスを破壊が困難な状況に陥った時、雫を始末する」

「始末って……何で!?」

「幼いといえ、あれでも御神の剣士だ……弟子の不始末を師が始末する。それは雫に御神を教え――」

「違うよ! 何で!? どうして始末するのが前提なの? どうして最後まで諦めないの?」

「なのは……」

「私はお姉ちゃんと違って剣を習ってないし、師弟の関係とか知らないけど……けどっ! お兄ちゃんと雫ちゃんは師弟である前に

 親子なんだよ! 師匠である前に親として最後まで諦めちゃダメじゃない。私は助ける。雫ちゃんを……だから、お兄ちゃんも諦

 めないで!私の知っている。私の…………私の好きなお兄ちゃんは最後まで諦めなかったじゃない!」




自然となのはの目から涙が流れた。

その涙は弱音を吐く恭也の姿を見たからなのか、恭也に対して隠し続けていた想いを曝け出したことなのか……




「…………そう、だな。なのはの言うとおりだな……そうだった、護るために戦う事を忘れていたみたいだ」

「お兄ちゃん」

「ありがとう、なのは…………という事だノエル。先ほどの命令は取り消す。全力をもって雫を助け出す」

「はい、恭也様。その方が恭也様らしいかと」




恭也の言葉にノエルは満足そうに頷いた。












『ブラスターU』なのははその言葉を紡ぐと共に、なのはから魔力の溢れ出し、その奔流が周りにある残骸を吹き飛ばす。

そうだ、兄と約束したんだ。

『ブラスタービット起動』なのはの周りに1つ2つと、レイジングハートの先端に似たビットが出現する。

諦めないんだって。

各ビットが雫を襲う。雫はようやくなのはの状況に気付き笑いを止めたが、それは既に遅すぎた。

取り戻すんだって。

ビットの尾から精製されたバインドによって雫を拘束し、さらにビットの先端から作られた三角錐の檻へと閉じ込める。




「雫ちゃんを…………助け出すんだって!」




なのはが構えたレイジングハートの先端に異常なほどの魔力が集束する。

未だに集束する魔力に雫が、いやその手にあるデバイスが焦りだす。

計算が違う。まさかこの少女に身内を殺す覚悟があったのか、あの非情な男なら可能性があったから、あの男が来ないゆりかごへと

来たのに。この少女諸共、我を破壊すると言うのか。

だがそんな思いとは裏腹に、なのはとレイジングハートは更に魔力を上げる。




「ブラスタァーーVィ!」

「なっ!」




ブラスターモードの限界である3段階目へと続けざまに昇華される。それは1や2と比べ物にならない程の攻撃力を有するが、代わ

りに、術者への過大な負担を強いる事となる。

だが、なのははそのモードを躊躇うことなく使用するとブラスタービットが更に3つ4つと増える。

その全ての先端にも魔力が集束していく。

それは以前、撃とうとして止めたディバインバスターの魔力の比では無かった。

まさか本当に撃つというのか、なのはの目に先ほどとは別人のような強い意志を感じ取る。




「まっ、待て! そっ、そのまま撃てばこの娘の命が――」

「貴方の! 貴方の力は凄いと思う。でも、貴方の居た時代は知らないけど、技術は進歩しているの……」

「な、にを言って――」

「管理局も法の裁きを受けさすために、犯罪者を倒すだけじゃなくて確保できるようにデバイスも、魔法も進歩したの」

「だっ、だから何を――」

「ねぇ…………『非殺傷設定』と『対象指定設定』って貴方の時代にあった?」




その言葉を聞いた瞬間、顔が恐怖に引きつる。

なんだその設定は、そんな物ある筈がない。

そんな非合理的な物、武器につける理由がない。

倒してこそ、破壊してこその武器だ。

雫は抜け出そうともがくが、なのはの意思が乗り移ったがごとく、固く解ける気配は無かった。




「っ!? くっそおおぉぉぉぉぉっ!!」

「スターライト! ブレイカーー!!」




拘束されたまま、雫は今まで何度もなのはの攻撃を阻んだ氷の壁を幾重に張る。

しかし、その表情は安心することなくわななき、その体はバインドから抜け出そうともがき続けた。

その事を構うことなく、なのはは最強にして、最大魔力の、そして極大な集束砲を放つ。

更に続いてレイジングハートのそれと比べれば細いが、ビットからも巨大な集束砲が放たれる。

全身全霊を込めて放ったそれは部屋を埋め尽くさんばかりの光で溢れた。

その絶大な破壊力を持つ集束砲の反動で、なのはの表情が歪みレイジングハートの一部にもヒビが走る。




「うぅおおおおおぉぉぉ!!」

「ブレイク……シューート!!」




氷の壁が光の前に簡単に砕け散る。

その光の波に包まれながら思い出す。

あれは何時のことだったか。

光の奔流に飲み込まれる。雫の手から力が抜け、小太刀が離れその柄の意匠である、本体である目玉にヒビが走る。

あぁ、そうだ我を創造した者が――

その瞬間、雪の結晶が割れ、粉々に飛び散り、それはまるでダイヤモンドダストのようにキラキラと舞う。

光が収まりキラキラ舞うその部屋の中心、その場に倒れていた雫が目に入る。

なのはは思うように動かない体にムチを打って近寄り、雫の安否を確認すると気を失っているだけと、安堵のため息を漏らす。




「お見事でした。なのは様」




その言葉になのはは肩を上下に息をしながらようやく笑みをこぼした。







その後、ゆりかごへ突入したはやてが、傷つきながらも駆動炉を破壊したヴィータを保護し退避させると、途中で合流したノエルと

ノエルに担がれたクアットロと共に、なのはのいる玉座の間へと集結した。

彼女達が聖王の遺伝子を持つ少女を玉座から開放すると同時に、ゆりかごが聖王がロストしたと認識すると、システムがダウンし内

部の全ての魔力リンクが遮断された。その事によりなのはは勿論の事、はやてのリィンとの融合も強制的に解除される。そしてノエ

ルに内包していたレリックもその体から浮き出すと粉々に砕け散り、霧散する。

それを見たなのはが声を上げる




「! それが無いと忍さんが……」

「あぁ、大丈夫ですよ。奥様を助け出す手段に目処が立ちましたから」

「えっ? そうなん? 何時頃わかったん?」

「管理局が襲撃される少し前です……それよりも今は……」

「せやね、今は脱出を考えな」




はやて達の心配は杞憂に終わることとなる。

そのすぐ後にスバルとティアナが突入し、なのは達を助けたからだ。

そしてそのまま外部で待機していたヘリへと誘導され助けだされた。

なのははスバルに背負われながら、あの時と逆になったね、と嬉しそうに語りかけ、スバルも笑顔で返した。

そして、聖王という乗り手を失ったゆりかごは制御を失い、ゆっくりと成層圏へと昇って行くことになったが、クロノ率いる艦隊の

一斉放射により跡形もなく破壊される事となった。

こうして後に『ジェイル・スカリエッティ』又は『J・S』事件と呼ばれる事になる事件は、聖王のゆりかごの破壊と、スカリエッ

ティ、ナンバーズ12名全員の逮捕の確認がされ、終わりを告げることとなる。















続く



ようやく、本当にようやく決着したのかな。
美姫 「恭也にとって長い戦いだったでしょうね」
次回は忍を助け出す事になるのかな。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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