『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




第7話  「予感」










なのは達が聖王教会へ訪れる少し前、その部屋にはクロノとカリムの他に二人の人影が在った。

黒いコートを着た男性とメイド服を着た女性――恭也とノエルがそこにいた。




「クロノもカリムさんもすまない、長い間道化を演じさせて――」

「いえ、私達にとっても恭也さん達の存在は切り札になりますので……お互い様です」

「ヴェロッサの調べでスカリエッティが局内の情報を得ていたのは確実……ただ、何処の誰が情報を流したまでは掴めていません」

「現在も管理局の情報を得ていると思っていいでしょう。そのために恭也さん達が、この世界に情報が無いお二人の協力が必要なん

 です」

「だが雫がスカリエッティと手を組んでしまった以上、俺とノエルの情報も漏れるだろう」

「ええ、確かに……でもそれは地球での情報。此方に来てからのお二人の情報は殆ど知られていないと考えています」

「その辺は裏方に徹した甲斐があったか……しかし、人形とはいえ自分と同じ姿をしている奴を見るのはいい気がしないな」

「ナンバーズの少女達と違って自我が無さそうなだけましとしましょう。あれで中身まで再現されていたらなのは達は戦えない」

「しかし、実際のところ襲撃された場合、ナンバーズやガジェットの事を考えると対応できるかどうか……」

「そうですね……シャッハの言うとおりですね。しかし、現状スカリエッティの居場所が分からない以上、後手に回るのは仕方あり

 ませんね」

「カリム様が仰られましたスカリエッティの居場所ですが、ヴェロッサ様との調査により幾つかに絞られました。しかし、いずれの

 候補も確定には至っておりません」

「そうですか……」

「だけど次に奴らが動いた時はその場所も特定出来る……ただ、次に動く時が何時になるか判らない」

「歯がゆいですね。何時来るかも判らない相手に手を拱いているだけだなんて」

「その件だが、ある程度目星がついている」

「本当ですか!?」

「何時ですか!?」




恭也はその言葉に思わず身を乗り出すクロノと目を見開いて驚いているカリムを見る。

その二人をイタズラが成功したかのように満足そうに笑みを浮かべ、その後ろに控えているノエルは目を閉じ佇んでいた。

クロノは、そういえばこの人は意地悪だったな、と思い出しながらも恭也の次の言葉を待った。




「今度開かれる『地上本部公開意見陳述会』各部署の高官や上位ランク者が集まり、更にデバイスの携帯に制限が掛かっている。

 近日中で襲撃に適した条件に合うのはその日だけだ」

「確かに……その会合には私もシャッハも出席する予定です」

「僕は次元航行隊での航行予定がある……確かなのはとはやても出席した筈だ。フェイトはヴォルケンリッターと新人達と共に会場

 の警護……確かにこれ以上の好条件は無い」

「情報は漏れているんだ……出席するメンバーも知られている、と考えるべきだろう。なら、この日しか考えられない」

「シャッハだけでも外で待機させましょうか?」

「いや、シャッハさんは格闘戦に秀でているから内部での不測の事態に備えてもらったほうがいい」

「しかし、それでは――」

「わかっている、だから俺とノエルも出る」

「よろしいのですか?」

「ええ、裏方に徹するのもそろそろ限界ですし、予言を実現させる訳には行かないでしょう。

 ……なのはには「なんで教えてくれなかったの」って怒られるでしょうけどね」




恭也は仕方が無い事だ、と苦笑いを浮かべた。

対照的にカリムは申し訳なさそうに軽く俯く。




「ありがとうございます……本来ならあなた方は部外者でしたのに巻き込んでしまって……」

「礼を言うのは此方もです。出会った時に介抱して貰った上、手助けをしてもらって……お互い様ですね」




そう言うと恭也はカリムに静かに微笑んだ。

カリムは少し気恥ずかしくなり頬が熱くなるのを感じ、声を少し上擦らせながら話題を変えた。




「そっ、それにしても恭也さん達と出会ってから随分と時間が経ちましたね……4〜5年でしたか?」

「ええ、確か5年――位でしたね」

「あの時は驚かされたよ、急に騎士カリムとヴェロッサから相談を持ちかけられて訪れたら地球に居るはずの恭也さん達が居ました

 からね」

「俺達はこっちの世界に来た時の怪我で療養中だったから、クロノに会うまでミッドチルダに来れたと確信は無かったな……

 出歩けなかったし、なのは達から話を聞いていたが実際に来てみると印象が違うからかなり不安だったぞ」

「何度も言いましたけど、僕かなのは達に連絡してくれたら正規の手続きでミッドに転送しましたのに……」

「あの時、原因を聞くまでは家族の問題だからな……親子喧嘩みたいなものだ」

「喧嘩って、そんな簡単に…………でも家庭の問題にしては大きくなりすぎましたからね」

「ええ、はやては予言に詠まれたロストロギアをレリックと思っていたみたいだけど……雫さんの持つ……いえ、雫さんに取り憑い

 たロストロギアが本命とも思われていますし」

「まぁ、予言の『古い結晶』のくだりについての解釈はレリックとも取れるし、実際上層部でもレリックと思っている人も何人もい

 ます」

「私も恭也さんから雫さんに取り憑いたロストロギアの形状を聞くまではレリックと思っていましたし」

「形状といっても今とは似ても似つかない形になっていたからな、あの時は……現れた時はまさに『雪の結晶』だったからな」

「予言が詠まれた時期と恭也さん達がこちらの世界に来られた時期がちょうど重なりますから、雫さんの方だと思っていますよ」

「そういえばそのロストロギアについての資料が見つかった、と以前聞いたが?」

「ええ、あの人が言っていた通り無限書庫から……今更ながらあの書庫には驚かされますよ。関連する文献が後から幾つかでてきま

 して……今は資料をまとめているから数日後には報告できるかと……それと、恭也さんが言ってた通り『宿主の記憶を読み取る』

 という特性を示す文献もあったようです」

「そうか……」

「恭也さん、大丈夫ですか?」




少し俯いた恭也にカリムが心配そうに声をかける。




「ありがとうございます。大丈夫ですよ…………ん? なのは達が着いたみたいだな、そろそろ行くか」

「え?」




恭也の言葉に信じられない、と驚きの表情を浮かべたクロノだったが、窓際まで近づくと義妹が持つ車が敷地内に入ったのが見えた。

クロノは振り向くと恭也はすでに立ち上がっており、ノエルからコートを受け取り袖を通していた所だった。




「それでは、二人とも失礼させてもらう」

「はい、恭也さんもお気をつけて」




では、と恭也とノエルは部屋を出るとなのは達が入ってきた正面入口とは逆の裏口へと向かうため歩き出した。




「ノエル……」




歩きながら呼びかけてきた恭也にノエルははい、と答え恭也の言葉をまった。




「……後少しだ……後少しで全て終わる。忍と雫を取り戻す為、後少し無理を言うが頼む」

「はい、お任せください」




恭也は扉を開けると眩い日差しに少し顔をしかめたが直ぐに歩き出した。










続く







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