ザシュ

 

槙原耕介の手によって、霊剣御架月が人の形をした“モノ”を切り裂く。そして、切り裂かれた“モノ”は灰へと変わっていく。

 

「これでもう20体か・・・・・。」

 

現在、海鳴市では今、“吸血鬼”による連続殺傷事件がおきていた。被害者が皆、血を吸われていて、世間的には変質者の仕業によるものと言われているこの事件は本物の吸血鬼の仕業であることを裏の世界にかかわる人間は知っている。夜の一族とはまた、異なる吸血鬼によって引き起こされているこの事件は“死徒”と呼ばれるものによるものだ。死徒とは“真祖”と呼ばれる自然界の代弁者、自然に対して害をなす人間等に対する抑止力として生み出された精霊に血を吸われる事によって吸血鬼化した人間である。そして、さきほど耕介が切り捨てたのは死徒に血を吸われ、吸血衝動によって動く死徒の使い魔とかした“死者”とよばれる存在であった。

 

「予想以上に多いな。このままだと被害者がどんどん・・・・・。」

 

耕介は2年前、死徒の中でも最上級の力を持つと言われる27祖と呼ばれる相手と戦ったことがある。その時は薫と葉弓と共に3人がかりで戦いかろうじて勝利をおさめたがぎりぎりの勝利だった。流石に27祖と遭遇することなどめったにないが、それに及ばずとも強い力を持った死徒は少なくない。だからこそ、半人前の那美は参加させず、耕介はひとりでどうにかするつもりだった。しかし、死徒は一向にみつからず、死者ばかりが増えていく。

 

「彼の力を借りるか・・・・・。」

 

薫や他の当代は今、別件で動けず、救援に呼べない。かといって、那美や久遠ではやはり不安がある。ならば、と思い。耕介は知り合いの信頼できる少年の力を借りる事にした。

 

 

 

 

 

 

「そういう訳で、君に力を貸してもらいたいんだ。」

 

決意した次の日、耕介は高町家を訪れ、今、街で起きている事件について事情を説明し、協力を要請した。

 

「本来なら君をこう言った件に巻き込むのは筋違いだと思う。だけど、他に頼れる相手もいないんだ。すまないが力を貸してくれないか?」

 

頭を下げて頼み込む耕介。そんな耕介の肩に手を置き答える恭也。

 

「・・頭をあげてください、耕介さん。さざなみ寮の皆さんにはお世話になっていますし、それにそんな奴らがこの街で好き勝手やっているなんて俺も放って置けませんしね。」

 

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。」

 

顔を上げて礼を言う耕介。それに対し、恭也は笑顔で答え、そして表情を引き締め、真剣な顔になる。

 

「それで、俺は一体どうすればいいんですか?」

 

「ああ、いくつか案はあるんだが・・・・・。」

 

恭也の問いに対して耕介は言いづらそうな顔をした。それを見て耕介が自分に頼みたいことは相当厄介な事なのだろうと恭也は予感した。だが、いまさらそれで怖気づいたりはしない。

 

「遠慮しないではなしてください。危険や困難は覚悟の上です。」

 

「・・・・・実は今回の件にはかなり奇妙、というか厄介な点があるんだ。」

 

「と、いうと?」

 

「ああ、ここ数日死者を狩り続けているのにも関らず、全く数が減っていない。これは直接死徒が動いて死者を増やし続けているという事だ。にも関らず一度も遭遇していない。実際、それらしけ気配までは感じたこともあるんだが、近づくと消えてしまう。どうも、この街にいる死徒は俺を避けているらしい。」

 

「それはつまり・・・その死徒は耕介さんを警戒しているという事ですか?」

 

恭也の言葉に耕介が頷く。

 

「多分そうだと思う。こうみえても俺の名前は裏のほうじゃそれなりに知られているし、俺の霊力はかなり強い方だから、多分そのどちらかを警戒しているんだと思う。このままではいつまでたっても奴を捕らえられない。だから君にはおとりを務めて欲しいんだ。」

 

「おとりですか・・・・。」

 

神妙な声で答える恭也。二人の間に瞬間、沈黙が落ちる。だが、耕介がすぐに口を開いた。

 

「ああ、無茶な事を言っているのはわかっている。だが、君ならば例え死徒が相手でもよほどの相手でない限り、十分渡り合えるし、霊力を持っていないから多分相手も油断して近づいてくる筈だ。なんとか頼まれてくれないか?」

 

「・・・・いくつか案があるといいましたね。他の案はどんな何ですか?」

 

恭也は少し考え込んだ後、そう答える。

 

「君に那美ちゃんや久遠と組んでもらって普通に見回りをしてもらうか。結界を使う方法がある。ただ、前者だと相手が警戒して今まで以上にでてこなくなるかもしれない。それだと、被害は減らせるけど、根本的な解決にはならない。後者だとどの結界を使うかにもよるけど、かなり時間がかかってしまう。」

 

「なら決まりですね。これ以上、被害を増やす訳にはいきませんし、俺がおとりを勤めます。」

 

他の案を聞いた後、恭也はきっぱりと答えた。その表情には確固たる決意が浮かんでいた。

 

「・・・・すまない、助かるよ。」

 

そう言って耕介はもう一度頭を下げる。その後、色々と打ち合わせをした後、夜に待た合流する約束をして、耕介はさざなみ寮へと戻っていった。

 

 

 

 

 

ピピピピピピ

 

「時間か・・・・。」

 

いつもどおり、神社の近くの林で訓練をしている時、時計のアラームがなる。時間を確認すると、8時45分。9時に神社で待ち合わせをして、それから見回りをする約束になっていたので、恭也は深夜の訓練を切り上げることにした。

 

「美由希、さっき話したとおり、俺はいまから耕介さんと見回りに向かう。そこらの変質者相手なら大丈夫だと思うが、例の吸血鬼はやばい相手らしい。くれぐれも注意するんだ。」

 

「うん、わかってる。」

 

美由希に警告を促し、恭也は待ち合わせの場所へと向かった。いつも訓練している林を抜け、神社にたどり着くと、そこには既に耕介が待っていた。

 

「どうも、遅れてすいません。」

 

「いや、時間通りだよ。」

 

挨拶をしながら近づく恭也。

 

「恭也くん、今日はよろしく頼む。」

 

「はい、こちらこそお願いします。」

 

二人は互いに挨拶を交わし、それから耕介は懐から2本の小太刀と鈴らしきものを取り出す。

 

「これは霊力を付与した小太刀だ。霊力の無い人間でも使えるようになっている。それからこの鈴は一定以上の霊力や魔力を持つものが近づくいた時、鳴るようになっている。俺と同調するように調整してあるからこれを持っていれば君の居場所は何処にいてもわかる。死徒とあった時は携帯を鳴らしてくれれば後はその鈴の位置を探ってすぐに駆けつけるから。昼に会った時も説明したけれど、夜の死徒は普通の武器では即時に殲滅しない限り、すぐに再生してしまい、年月を積んだ死徒の中には特に頭や心臓を潰されても死なないような奴までいる。この小太刀はそれなりに強い力をこめてあるけど、強力な死徒に致命傷を与えるのは難しい。相手を倒すのではなく時間を稼ぐ事を念頭においてくれ。」

 

「わかりました。」

 

そう言って恭也は小太刀と鈴を受け取る。そうして二人は別れ、見回りを開始した。

 

 

 

 

 

「この辺にはいないみたいだな。」

 

見回りを始めて1時間。鈴は鳴らないし、怪しい気配も特に感じられなかった。

 

「それにしても人通りがまるでないない。」

 

ぽつりと呟く。まだ、10時前にも関らず、人通りがあまりない。連日、通り魔的な事件がおきている為出歩くのを控えているのだろう。

 

「耕介さんの方はどうだろう・・・・」

 

呟こうとしたその時、鈴が鳴った。そして遅れて異様な気配を感じた。建物の物陰に“何か”がいるのがわかる。恭也は剣の塚を握り構えた。

 

カツン、カツン

 

靴音を立てながら3人の男が現われた。一見、極、普通の人間に見える。だが、彼らからは生気というものがまるで感じられなかった。

 

「これが、死者という奴か・・・。」

 

恭也の声が固くなる。生気の感じない異常さと見た目的には全く普通な存在。そのギャップが彼にはとてつもなく醜悪なものに感じる。まだまだ、実戦経験、本当の意味での殺しあいの経験が少ない恭也は人の形をしたものを殺す事に僅かな躊躇いを感じたが、すぐにそれを振り払う。耕介の話では“それ”は痛みも感じず、それゆえに普通の人間よりも強い力を使える化け物なのだ。僅かな隙が即致命傷につながりかねない。

 

「ウオオオオオ。」

 

死者の出す声帯の潰れたような声。それと同時に恭也は霊力の付与された小太刀を抜いて動いた。

 

 

 

―――――御神流・奥義乃六 薙旋―――――

 

 

 

恭也の剣が死人の一体を切り刻む。同時に久遠の電撃が一体を焼き尽くす。そこで残った、一体が恭也に向かって腕を振りかぶってくる。だが、その動きは恭也にしてみれば遅すぎた。それを回避し、次の一撃を繰り出す。

 

 

 

―――――貫―――――

 

 

 

御神流の基本技、“貫”で死人の頭を貫き、砕け散らせる。だが、その状態でも死人はとまらなかった。

 

(頭を破壊されても止まらないか。本当に化け物だな。)

 

思考しながら飛びひく恭也。さきほど切り刻んだ死人が灰になって消えていくのが見えた。

 

 

 

―――――御神流・奥義乃二 虎乱―――――

 

 

 

恭也の剣が最後の死人を細切れに切り刻み、それが灰となって散る。

 

「片付いたか?」

 

それを見て、両手に持った刀を下げる。その瞬間、鍛え上げた恭也の“感”が危機を伝えた。

 

「!!!」

 

先ほどの死人とは比べ物にならない圧倒的な気配。霊力のない恭也にもその存在がはっきりと感知できた。そして、闇の中から一人の男が現われる。見た目だけならさきほどの死者よりもまともな、スーツを着た20代前半ほどの男だ。だが、その存在が先ほどの死者などとは比べ物にならぬほどの化け物である事が恭也は直感としてわかった。その証拠にさっきから鈴がうるさいほどに鳴っていた。携帯の短縮番号を押し、すぐに耕介に連絡を入れる。

 

「なかなか、やりますね。人間にしては侮れないようで。」

 

男が余裕の笑みを浮かべながら語り始めた。恭也はそんな男を慎重に観察する。武器は見えないが、スーツの下に隠している可能性は高い。例え無手だったとしても、吸血鬼は魔術を使うものが多く、また、その肉体自身が強大な武器であることは聞いていたので油断は全く出来ない。

 

「貴方を死者にすれば強力な手駒となりそうだ。あの男や代行者に対する牽制ぐらいには使えるでしょう。」

 

そう言って“ふふふ”と笑う。こんな奴の手駒になるなど心底ごめんだと恭也は思い、小太刀を強く握りなおす。

 

「これは失礼。私、アルフレッド・クリシュトゥーダ。錬金術士です。どうぞ、お気軽にアルフと及びください。」

 

「お前たちの目的はなんだ。生きる為だけなら、これほど多くの人を殺したり血を吸ったりする必要はないのだろう?」

 

緊張を隠し、恭也が問う。それは時間を稼ぐ意味もある。自分ひとりでは勝ち目が薄い。目の前の相手に対して恭也の直感はそれをつげていた。そしてその問いをつきつけられたアルフレッドの方は、良くぞ聞いてくれたとばかりに、まるで自分のおもちゃをひけらかす子供のように自慢げに答え始めた。

 

「私の目的ですか。最終的には他の多くの魔術師、錬金術士と同じように真理にたどりつくことです。その為に欲するのは究極の力。この街にはそれがある。しかし、それを手に入れるにはそれなりの力が必要なのです。だから、今しているのはそれを手に入れる為の下準備です。」

 

「真理?」

 

しかし、恭也はその言葉の指すところが良くわからず、疑問を発する。それをみてアルフレッドはしかたないというような顔をして、まるで出来の悪い生徒にものを教えるような口調で話し始めた。

 

「真理とは、つまりは世の中における絶対の定義です。私をそれを見たい!そして手に入れたい!全てはその為の行動なのです。」

 

「そんな事で!!」

 

酔ったように語るアルフレッドの言葉を聞いて、恭也が怒りの声を発する。恭也にとって彼の目的は理解できるものではなく、その為に多くの人を殺す等とは許せるものではなかった。

 

「どうやら、理解してもらえないようで。まあ、いつの世も俗人に天才は理解できないものですからな。まあ、あなた達にはせいぜい私の目的の礎になっていただきましょう。」

 

やれやれといった感じで溜息をついたアルフレッドは恭也の方をみ、突然飛び出した。

 

(速い!?)

 

予想を遥かに超える速度で接近するアルフレッド。それに対し、恭也はとっさに神速を使い回避する。

 

「おや?今のをよけましたか。霊力も魔力も感じないのによくやりますね。」

 

意外だという顔をするアルフレッド。それに対し恭也は向き合い技を繰り出す。

 

 

 

―――――御神流・奥義乃一 虎切―――――

 

 

 

御神流の奥義。だが、アルフレッドはなんとその剣を素手で受け止めたのだ。

 

「な!!」

 

「おや、手が少し切れてしまいましたか。予想以上に鋭い剣なようで。」

 

流石に驚愕する恭也。それに対して、アルフレッドも意外という顔を返す。剣を受け止めた手のひらがきれていたのだ。だが、それも既に傷口がふさがってゆく。そして、剣を掴んだ手を恭也ごともちあげ、そのまま投げ飛ばした。

 

「ぐは!!」

 

地面に叩きつけられる恭也。だが、その痛みをこらえ即座に起き上がり構える。

 

「なかなか丈夫なようで。」

 

余裕の笑みを浮かべるアルフレッド。舐められてる、恭也はそれを強く感じた。しかし敵はその余裕を持つだけの強さがあるのも事実である。逃げるか、あるいは防御に専念して耕介を待つか思案する。だが、下手に後ろを見せれば却って危険になる。恭也ハそう判断した。

 

 

 

―――――御神流・奥義乃裏三・射抜―――――

 

 

 

神速をかけた状態での恭也の一撃、アルフレッドはそれを腕で防ごうとした。だが、その瞬間に恭也は神速を2段掛けにしてさらに加速した。タイミングをはずしたアルフレッドのガードをすり抜け、刀は心臓を貫いた。

 

「ぐふっ。き、貴様、よくも!!!!」

 

だが、アルフレッドは死ななかった。その余裕の笑みが怒りの表情へと変わり、胸に刺さった刀を掴み引き抜き、そのままその刀を掴んだまま恭也を突き飛ばす。

 

「ぐはっ!!」

 

壁に叩きつけられ血を吐く恭也。アルフレッドは刀を握りつぶしゆっくりと恭也に詰め寄る。

 

「死者にするのはやめだ。たっぷりと苦しませて殺してやる。」

 

醜悪な笑みを浮かべるアルフレッド。だが、その表情が突如、驚愕へと変わった。同時に恭也の持つ鈴がいままでより激しい音を鳴り響かせはじけ飛んだ。

 

「馬鹿な!?この気配は!!!」

 

鈴など無くてもわかる絶対的なプレッシャー。そして、一人の女性が現われた。金髪で紅い目。幻想的な美しさすら兼ね揃えたその女性が、恭也には死神のように見えた。

 

「アルフレッド、あなたを殺すわ。」

 

「馬鹿な!!真祖の姫君だと!?」

 

その女性の静かな声の前にアルフレッドの絶望的な悲鳴が響き渡った。

 

 


(後書き)

どーも、このサイトではお初にお目にかかります。柿の種といいます。このssは耕介・恭也のダブル主人公になります。
志貴もちゃんとでるのでもしかしたらトリプルになるかもしれませんが。できればこの先お付き合いお願いします。


投稿ありがとうございます。
美姫 「とらハ2、3と月姫のクロス」
最後に登場した真祖のお姫様。
美姫 「続きがとても気になります〜」
次回を楽しみにしつつ、今回はこの辺で。
美姫 「ではでは」





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