「これはまた凄いな・・・・。」

 

屋敷を見上げて言う。忍の家を見た時も驚いたがはっきりいって目の前にあるそれは比ではない。豪邸というのにふさわしい巨大な邸宅。それが、夜の一族の党首の一人、エリザ・ローレンシュタインの屋敷だった。

 

「じゃ、はいろっか。」

 

いまだその屋敷に感嘆している恭也を尻目に忍がチャイムを押す。

 

カーン、カーン

 

ピンポーンというよくある音では無く、軽い音が鳴ってそして一人のメイド服を着た女性が出てきた。

 

「高町様と月村様ですね。エリザ様の秘書のクラリスと申します。」

 

その女性はあまり表情をださず、そう言って頭を下げた。その姿を見たとき、ノエルに似てる、と恭也は思った。特に顔が似ている訳ではないのだが、なんとなく感じる雰囲気が良く似ているのだ。そして、彼女に連れられて屋敷の中へと案内される。そして彼女はある部屋の前で立ち止まった。

 

「こちらでエリザ様がお待ちです。」

 

そう言って、その部屋のドアを開ける。恭也達3人は促されるように入った。そして、そこには紅い髪の非現実的なまでの美しさを持った一人の女性が座っていた。その姿を見た瞬間、恭也は動けなくなる。それは、多少劣るとはいえ、アルクェイドに初めて遭遇した時の感覚に似いていた。夜の一族の長の一人、その意味が実感として感じられる。

 

「はじめまして恭也君。あなたの事は、忍や耕介君から聞いてるわ。」

 

女性は静かに語る。それを聞いて恭也の硬直がとけた。あわてて返事をする。

 

「あ、はい、はじめまして、高町恭也です。」

 

動揺のあまり、彼にしては珍しく間抜けな返事になってしまう。それをみて、エリザが微かに笑う。

 

「久しぶりね、エリザ。」

 

「ええ、久しぶり。安二郎の件とかは大変だったみたいだけど、ノエルも直ったみたいだし、元気そうで安心したわ。こういう言い方も辺だけど、ノエルもご苦労様、忍をいつも助けてくれてありがとう。」

 

「お気遣いありがとうございます。それから、お礼を言われる事はありません。お嬢様を守るのは私の使命であり、そして意思ですから。」

 

忍達が親戚同士で語り合う。そして、再び恭也に向き合うと彼女は真剣な顔になっていった。

 

「さて、今日の用件だけど。」

 

「はい・・・。」

 

事情を説明しようとする恭也。だが、エリザはそれを制止した。

 

「事情はわかっているわ。あなたの頼みもね。結論から言うと協力するわ。耕介君を傷つけた相手をこのまま許して置く訳にはいかないし、夜の一族のまとめ役としても魔術師としても彼を放って置く訳にはいかないもの。」

 

「?それはどういうことですか。」

 

彼女の言葉の意味するところが良くわからなかった恭也が問う。それに対し、彼女は沈黙を返し、そしてその状態をしばらく続けた後、口を開いた。

 

「それを答えるには一つ確認しなければならない事があるわ。」

 

「確認ですか?」

 

恭也の問い返しにエリザは頷き、そして言った。

 

「私と戦いなさい。あなたの力を見せて欲しいの。その内容次第では悪いけどあなたにはこの件を降りてもらうわ。」

 

「いくらなんでもそれは無茶よ!!恭也だってエリザに勝てる訳ないじゃない!!」

 

その言葉に忍が叫ぶ。彼女も恭也の実力は知っている。だが、それでもエリザに勝てるとは到底思えなかった。

 

「勝てとはいわないわ。それなりの実力を見せてくれれば納得するわ。承知してもらえるわよね?」

 

忍に対して答えた後、再び恭也に向き合い語りかける。恭也は一瞬だけ押し黙った後、答えた。

 

「・・・俺はかまいませんが、何故、そんな事をする必要があるのですか?」

 

「理由は三つあるわ。まず、一つ目この事件には夜の一族の恥部といえる事象が関っているの。できればその事実を知るものは少ない方がいい。あなたが戦力として加わることによるメリットがあなたにそれを知られるデメリット以上なのかどうかを確認したい。それから二つ目。忍を悲しませたくないから。はっきり言ってこの先は生半可な実力ではついてこれないわ。そして、あなたが死ねば忍が悲しむ。それが2つ目の理由よ。そして3つ目は単純な好奇心、コピーとはいえ自動人形を破壊し、錬金術師としてそれなりに名の知れた死徒であるアルフレッドまでも倒し、あの耕介君が太鼓判をおすほどの人間である、あなたの力を見てみたいの。」

 

「・・・・・・わかりました。お受けします。」

 

そう言って恭也は小太刀を掴む。そして、4人は庭へと移動した。

 

 

 

 

 

「エリザ様、万が一の事があってはいけません。高町様の相手は私がします。」

 

庭に出た所でクラリスがそう申し出る。だが、エリザはそれを断った。

 

「大丈夫よ。私に万の一の事なんてある訳無いでしょう?」

 

そんな風に余裕でいうエリザ。だが、それに対し、クラリスは痛烈な突っ込みを入れた。

 

「半年程前もそんな事を言って一人で歩き回った挙句、死徒の姫に襲われ、死にかけましたね。」

 

「うっ、けど、そのおかげで耕介君と出会えたんだから、結果的には良かったでしょ?」

 

「確かに槙原様と縁が結べた事はエリザ様個人に関しても、我々にとっても有意義だったかもしれません。しかし、それは単なる結果論、偶然による幸運にすぎません。」

 

的確かつ痛烈な指摘にエリザが押し込められた後、キレタ。

 

「・・・・ああー!!!いいの!!私がやるったらやるの!!」

 

その姿に先ほどまでの威厳ある幻想的な姿とのギャップに恭也が目を丸くする。それに気付いたのかエリザが少し頬を赤くするとコホンと咳払いをして言った。

 

「それじゃあ、始めましょうか。」

 

言われ恭也は小太刀を両手に構える。それに対し、エリザは弧を描いた円月刀を構えた。それを見て恭也は興味を覚え、そして戦慄した。

 

「いつでもいいわよ。きなさい。」

 

エリザがそう言う。だが、恭也は動けないでいた。

 

(この人・・・・・強い!!)

 

構えに全く隙が無い。恭也は耕介から彼女が魔術師だと聞いていた。故に、魔術をあるいは、夜の一族として身体能力を使って戦うのであろうと思っていた。実際、それは間違っていない。だが、それらを抜きにしても彼女はその武術の腕前だけで達人級だった。

 

「こないならこっちからいくわよ。」

 

言うか早いか彼女は飛び出した。夜の一族の身体能力を駆使し、一瞬で間合いを詰める。そして、高速の斬撃を振るった。

 

キィィィィン

 

それをなんとか防ぐ恭也。エリザは刃を引くと、さらに連撃を仕掛けてくる。

 

キィン

 

キィン

 

キィン

 

3撃防いだ後、今までとは軌道が大きく違う一撃が迫る。

 

ザシュッ

 

その一撃が恭也の腹を浅く凪ぐ。だが、同時にその瞬間、エリザの方に僅かな隙ができた。

 

――――――――――――御神流・奥義の歩法・神速――――――――――――――――

 

―――――――――――――御神流・正統奥義・鳴神――――――――――――――――

 

奥義を放つ。だが、その瞬間、エリザのスピードがさらにあがり、その攻撃を回避した。

 

「まさか、これを使わせるとはね。人間相手にこれを使ったのは100年ぶりよ。」

 

エリザの切り札の一つ。彼女は身体能力を強化する魔術を常にかけていて、その意思一つで常に発動できるようになっている。もともと身体能力の高い夜の一族。それを使った時の彼女の速度は吸血衝動を解放していない状態でのアルクェイドに匹敵する。

 

「さあ、続けましょうか。」

 

呟くエリザ。戦いは更に激化する。

 

 


<後書き>

今回も後書き座談会はお休みです。(今回はネタがない(汗))




つ、強いなエリザ。
美姫 「伊達に強さの上位に位置してないわね」
果たして、恭也は彼女に実力を認めてもらえるのか?
美姫 「更に激化する戦いの行方は」
気になる、気になる次回を……。
美姫 「盗んだバイクで走り出すのは犯罪だから止めようね、と言いつつ待て!」
よく分からんな。



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