ギュオオオオオオオンン

 

リィゾが魔剣ニアダークを振った瞬間、生まれた闇がその直線上にあった全てのものを飲み込む。リィゾもその場にいた他の全てのものもそれで耕介が死んだと思った。

 

ザシュ

 

だが、耕介は生きていた。そして、リィゾがそれに気付いた瞬間には彼の左腕を切り落としていた。

 

「くっ。」

 

耕介が次の一撃を振るうより早くリィゾが再び闇を生む。それを回避し、距離を置く耕介。

 

(とりあえず、奇襲は成功。これで、俺の方が少し有利になったか?いや、油断は禁物だな。)

 

耕介がとりあえず、ほっとする。実の所、耕介とリィゾ本来の能力とを平等に比較した場合、リィゾの方にかなり分はあった。しかし、リィゾにはたかが人間と耕介を侮る気持ちがあり、耕介はそこをついたのである。また、今日が新月であり、夜の中では最も吸血種の力が落ちる日であった事も耕介にはかなり有利に働いた。

 

「腕が再生しない・・・。それほどまでに強力な概念武装だというのか?」

 

リィゾに驚きが見える。不死である彼を犯せる概念武装などほとんど存在しない。故に彼は御架月を神剣クラスの概念武装だと思った。だが、それは根本からして間違いだった。確かに霊剣であり、また古刀である御架月は概念武装と同様の効果を持っている、だが御架月のみの力では彼を犯せるほどの力は無い。それは為したのは“技”、神を殺した無尽流奥義・鬼滅刃。

 

「神気発祥・神咲無尽流、真威・蓮華」

 

無数の霊撃が放たれる。それらのいくつかは魔剣ニアダークによって打ち消されるが流石に全ては裁ききれず何発かはリィゾに直撃する。だが、もともと分散された攻撃大したダメージは与えられない。

 

「追の太刀、撃!!」

 

だが、それは耕介にとっても承知の事。接近し追撃を放つ。それにリィゾが反応し魔剣ニアダークで闇を生み出し、それを受け止める。

 

バシュッ

 

両者の力が相殺される。そして、その次の動作はリィゾの方が速かった。ニアダークを振るう。それに対し、後ろ斜めに飛び下がって回避行動を取る耕介。

 

ズシュ

 

回避しきれなかったニアダークが耕介の脇腹を抉る。痛みをこらえ、その傷を癒しながら、耕介は前に踏み込みつつ刃を振るう。ニ刃、三刃、互いの刃が打ち合う。

 

――――――――――――――神咲無尽流・奥義・螺旋―――――――――――――――

 

そこで、耕介を螺旋を発動させる。その技の為に“癒し”を一時中断し、御架月との同調を引き上げる。脇腹から噴出す血。そして、リィゾは耕介の異なる時間での動きについていけなくなる。その時間軸の中で、耕介は技を編み上げる。先ほどは祝詞を省略した不完全な発動。それに対し、今度は完全なる発動。

 

「神気発祥・神咲無尽流、滅神・・・・・・。」

 

リィゾがニアダークを振るう。耕介はそれをかわし、踏み込むと同時に編み上げた技を発動させた。

 

鬼滅刃

 

そして、その刃はリィゾの喉元に突きつけられた。

 

 

 

 

耕介は螺旋を解除し、傷の治療を再開する。出血量は酷く消耗は激しい。魔の者にとって、約束とは契約に等しく、それ自体が魔的な力を持つ。とはいえ、あの程度の口約束では絶対的な契約にはならず、もし、これで、アルトージュが約束を守らねば耕介は確実に死ぬだろう。

 

「・・・・・仕方ない。引くわよ。」

 

「しかし、アルトージュ様!!」

 

だが、耕介の不安に対し、アルトージュはあっさりとひくことを決めた。それに対し、リィゾが抗議の声を上げる。そんな彼を彼女は睨みつけた。

 

「黙りなさい。貴方が敗れたからこのようになったのよ。」

 

「も、申し訳ありません。」

 

謝罪するリィゾ。アルトルージュのその眼は直接射抜かれた訳でもないのに耕介までも背筋が寒くなる。そして、鬼滅刃を解除して御架月をひいた。

 

「貴方の名前聞かせてもらえるかしら?」

 

アルトルージュは今度は耕介の方に視線を向けるとそう尋ねて来る。

 

「・・・・・報復は俺だけにしてくれるってのならね。」

 

「別に報復するつもりはないわ。でも、まあ、約束してあげる。この件で貴方の周囲の者に報復するような真似はしないとね。」

 

「なら、いうよ。俺の名前は槙原耕介。」

 

「槙原・・・・耕介ね。覚えておくわ。」

 

そう言うと、アルトルージュは二人の騎士とプライミッツ・マーダーを引き連れ、立ち去って行った。

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

アルトルージュが去った後、耕介はエリザに手を差し出した。

 

「あなた馬鹿じゃないの?」

 

それに対し、エリザの邂逅一番の声がそれだった。流石に予想外だったので、耕介はえっと、間抜けな顔をしてしまう。

 

「あなたの強さは見せてもらったわ。それでも、あの4人を相手に勝つことなんてできはしない。もし、アルトルージュが貴方の提案を呑まなければ、あるいは彼女自身か、プライミッツ・マーダーを相手に選んでいれば貴方は今頃あなたは死んでるわ。ここの管理者だかなんだか知らないけど、所詮“魔”のもの同士の争い。人間に迷惑かけてる訳でもなし、放っておけばいいでしょう。」

 

「うっ、きっついですねえ。けど、見たからには放って置けないですし、あなたが夜の一族だってきこえましたからね、あなたを見捨てたらもしかしたらさくらちゃんと忍ちゃんに恨まれるかもしれない。」

 

「あら、その二人の知り合いなの?」

 

「ええ、まあ、ちょっとした。」

 

実際には忍はともかく、さくらとは肉体関係もある深い仲であるのだが、何せ8股かけてる身である。それを初対面の相手に言うのは流石にためらわれ適当にぼかしておく。

 

「ふーん、けど、それがわかったって訳でもないでしょ?同じ夜の一族って言っても仲の悪いのも全く縁の無いのもたくさんいるわよ。そんな不確定なものの為にあなたは命をかけた訳?」

 

「え、いや、そのー、何となくあなたは悪い人には見えませんでしたし。」

 

エリザの問いかけにぼそぼそと答える耕介。実際の話、飛び出した事に特に明確な理由があった訳ではない。さくらや忍の事もあるが、何となく黙ってみてられなかったというのが一番の理由なのだ。そして、その答えを聞いて、エリザはポカーンとした顔をした後、大笑いする。

 

「あははははははは。何それ?あなたって面白い人ね。確か槙原耕介だっけ?あなたに興味が湧いたわ。また、会いましょ。それからお礼も言っておくわね、ありがと。さくらたちによろしくね。」

 

そう言ってエリザは立ち去っていった。その後に耕介は彼女の名前も聞いていなかった事をおもいだす。そしてその後、さくらを通して、何度か交流を持った後、たまたま時期のずれた発情期の時期にあってしまい、そのまま耕介は押し倒されてしまい、彼女は耕介と関係のある9人目の女性になったのだった。

 

 

 

おまけ

その事で耕介はさくら、他7名に滅殺されたらしい。

 

 

 

 


(後書き)

祝詞ってのはこの場合“神気発祥〜”とかのあれです。基本的に省略してもできますが、省略すると威力と霊力収束の錬度が落ち、さらに使用難度が上がる事にしてます。あ、それからニアダークの設定はオリジナルです。それから、螺旋や身体能力強化は祝詞を必要としません。後、タイトルの割りにエリザがでてこなったのが反省ですねえ。




いやー、耕介とエリザの間にこんな話があったとは。
美姫 「奥が深いわね〜」
こうした事情も分かり、本編も益々楽しみに。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
うとうと昼寝をしていて、気が付いたら夜になっていた事に驚きつつ、本編を待て!



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