第10話「クロノ・ハラオウン、海鳴の地で死すなの?」






 
「現地では、例の二者による戦闘が開始されている模様です」
「中心となっているロストロギアのクラスはA+。動作は不安定ですが無差別攻撃の特性を見せています」
「次元干渉型の禁忌物品、回収を急がないといけないわね……クロノ・ハラオウン執務官!! 出られる?」
「メイン座標の特定は出来ています。命令があれば、何時でも……」
「それじゃぁクロノ、これより現地での戦闘行動の停止とロストロギアの回収、両名からの事情聴取を」
「了解です艦長!!」
「気をつけてねぇ」
 リンディは白いハンカチを振って見送る。
「はいっ。いってきます」
 この直後、アースラクルーは衝撃的な事故の瞬間を見ることになる。



「ストップだ!!」
 突如現れたクロノの手がなのはとフェイトの杖を取りそこね、あろうことか二人の胸を鷲づかみにした。
「此処での戦闘行動は危険すぎる」
 突然現れたクロノに胸を鷲づかみにされたなのはとフェイトが固まる。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!! 詳しい事情を聞かせてもらおうか?」
 クロノはなのはとフェイトの胸を掴んだままだと言う事に気づいていない。
「あ、あの……」
「なんだ!?」
「何時まで触っている気ですか?」
 なのはがクロノに言う。
「え、触る?」
 そう言ってなのはとフェイトの胸を揉んで確かめる。
「わ、わざとじゃないんだ……」
 慌ててなのはとフェイトの胸から手を退ける。
「わざとじゃないんだ」
 なのはとフェイトは羞恥心で顔が真っ赤になる。
「信じてくれ!! わざとじゃ……」
 そう言って左手を後ろに振る。
 そして手に感じる柔らかい感触。
 その感触は、なのはとフェイトよりも大きく柔らかかった。
「ん? この柔らかい感触は……」
 柔らかい感触に振り返るクロノ。
 クロノの目に入ったのは、目の色を赤く変えたすずかだった。
 そしてクロノは、すずかの胸を触ったままだ。
「ご、ゴメン」
 すずかから発せられる殺気に別方向に後退するクロノ。
 その先には、さつきが居る。
 ドンッと何かにぶつかって恐る恐る振り返る。
 そこに騎士甲冑を纏ったさつきが居た。
「女の子の胸を触るだけ触って何か言うことがないの?」
 なのはたちに謝れというさつき。
「アレはわざとじゃ……」
「見苦しい。その命を持って償うがよい」
 クロノの態度にキレて王族モードに変わるさつき。
 ズン
 クロノの腹に突き入れられるさつきのパンチ。
 さつきのパンチはクロノの腹に激しくめり込み内臓を強制移動させる。
「うぶっ!!」
 さつきに腹を殴られたクロノが胃液を噴出す。
「うぅげぇぇぇっ」
 両手で腹を抱え苦しむ。
「なのはたちの心の傷はこんな物ではないぞ」
 空想具現化で出した鎖でクロノを拘束する。
「早く謝らねば、もっと強く殴るぞ」
 クロノは、口から胃液が垂れている。
「だ……だから、アレは事故だって……」
「見苦しい!!」
 再びさつきのパンチがクロノの腹に突き刺さる。
 そのパンチは先ほどの比じゃなかった。
 鳩尾に胃を突き上げるように叩き込まれていた。
「がはっ」
 胃液に赤い色が混じっている。
「ぐぅぇぇっ」 
 激しく嘔吐する。
「そなた等も恨みを晴らすがよい」
「……」
「如何した!?」
「……」
 なのはとフェイトは固まっている。
「見ず知らずの男にイキナリ胸を触られた恨みを晴らさぬのか?」
「なのはちゃんは、晴らさないの?」
 なのはに聞くすずか。
「れ、レイジングハート!!」
≪divine buster.≫
 なのはに答えるようにデバインバスターをクロノに撃つ出す。
 さつきに拘束されているクロノは、腹を殴られたダメージもありデバインバスターの直撃を食らった。
 防御魔法も使えず直撃を受け身体からは煙が燻る。
 それを皮切りにフェイト、アルフ、なのは、すずかがクロノに魔法をお見舞いする。
 もてる魔力の全てをつぎ込んでいる。
「ぐへっ!!」
 絶え間なく打ち込まれる魔法。
 クロノは、防御魔法が使えないまま凶悪な魔力を受け続けなければならない。
 凶悪な魔力を受け続けたクロノは、さつきに殴られた腹部のダメージと重なって気絶していた。
「もう、十分に恨みを晴らしたであろう?」
 なのはたちに問うさつき。
「乙女の心を傷つけた代償は、まだこんなものじゃ足りないよ」
「ならば、気が済むまで晴らすが良い」
 なのはとフェイトとすずかは、クロノに攻撃し続ける。
 凶悪な魔力をクロノは受け続ける。 
 暫く攻撃しつけて恨みが晴れたのかさわやかな顔になるなのは、フェイト、すずかの三人。
「恨みを晴らしたのであれば、その者を海に沈めるがいか?」
 クロノを海に沈めるというさつき。
 空想具現化で出した鎖を消すと同時にクロノの腹に全体重+真祖の力を上乗せしたアッパーパンチを打ち込んだ。
 強烈なアッパーを打ち込まれたクロノは目を大きく見開いて口から血を吐いた。
 すかさずクロノの背中を蹴って海に落とした。
 海中に墜落したクロノは海の底へ沈んでいく。
「この世から肉片も残さず消えるが良い!!」
 海中に没していくクロノにさつきは手をかざし掌から魔力の塊を放った。
 魔力の直撃を受けたクロノが海中で爆発し海底深くに沈んだ。



「あわわわわっ」
 慌てるエイミィ。
「クロノくん、海中に墜落!!」
「クロノの回収急いで!!」
 リンディが指示を出す。
「了解!! クロノ執務官を回収します」
 コンソールを操作してクロノを回収する。
「回収したクロノを直ぐに医務室に……」
 指示を出し終えたリンディが呟く。
「幾ら任務とは言え、出る場所がずれて女の子の胸を触っちゃったんだから自業自得ね」
「クロノくん、大丈夫なんですか? この人に思いっきり殴られていましたけど……」
 モニターにさつきが映し出される。
「それに、この紫の髪の子の目が赤く変わった時に異常な魔力値を計測したんです」
「異常な魔力値?」
「さっき戦闘していた子達より二周りぐらい大きかったんです。そしてこの女性は、紫の髪の子より更に巨大なんです」
「これだけの魔力を一度に喰らえばクロノでも撃墜されて当然かね」
「この人は、デバイスなしで何故、召喚魔法が使えるんでしょうね?」
「実際に会って話を聞いてみましょう」
 直接はなしを聞くというリンディ。


「すずか、ジュエルシードの封印をするがよい」
 ジュエルシードの封印をするようにすずかに言うさつき。
「教えたとおりにすれば出来る」
 ジュエルシードに杖を向けるすずか。
「ジュエルシード、シリアルZ封印!!」
 ジュエルシードがすずかのデバイスに吸い込まれる。
「ジュエルシードを渡してもらいます」
 すずかにジュエルシードを渡せと言うフェイト。
「今回は大人しく引き下がれ!!」
「ジュエルシードを渡してください」
 フェイトは引き下がらない。
「やむえぬ!! 暫く眠れ!!」
 フェイトの前に出るさつき。
 ドスッ!!
 さつきは、素早く、鋭く、強くフェイトの腹を殴った。
「うっ」 
 一瞬、大きく目をみひらく。
「ど、どうして……」
 無防備な腹を殴られたフェイトは意識を失ってさつきの腕の中に倒れこんだ。
 さつきは同性ってこともあったのか、クロノと違ってフェイトの内蔵を破裂させないように殴っていた。
 さつきが本気で殴っていたらフェイトの腹筋は紙切れのように突き破られて背中まで風穴が開ける事が出来る。
「今日のところは下がれ!!」
 意識を失わせたフェイトをアルフの背に乗せる。
「数時間は目を覚まさぬ。連れかって休むがよい」
「くっ!!」
 さつきを睨むとアルフはフェイトを背に乗せ去っていった。


「戦闘行動は停止!! 捜索者の一方は逃走」
「追跡は?」
「多重転移で逃走しています。追いきれませんね」
「……そう……」
 リンディは椅子に座る。
「クロノを袋叩きにしたあの子達から事情も聞かないとね」
 そう言って通信回路を開く。


『クロノを撃墜した貴女達に一寸聞きたいことがあるから来てくれる?』
 リンディがなのはたちに聞く。
『転送ポートを開くから、こっちに来たら案内の局員の後についてきて』
 そう言うと転送ポートが開く。


 なのはとユーノとさつきとすずかが転送ポートでアースラにやって来る。
「艦長が待っています。付いて来てください」
「(ユーノくん。ユーノくん、ここっていったい)」
「(時空管理局の次元航行船の中だね。えっと、簡単に言うと幾つもある次元世界を自由に移動する為の船)」
 念話で会話するユーノとなのは。

「何時までもその格好で居るのも窮屈でしょう……バリアジャケットとデバイスは解除しても構いません」
 局員がなのはたちに言う。
「あっ、そっかぁ。そうですね……それじゃあ」
 そう言ってバリアジャケットを解除するなのは。
「妾達も解除するぞ」
 さつきとすずかもバリアジャケットを解除する。
「フェレットのキミも元の姿に戻ったらどうですか?」
 ユーノにも言う局員。
「あぁっ、そう言えば、そうですね。ずっとこの姿で居たから忘れていました」
 そう言って元の姿に戻るユーノ。
 目が点になるなのは。
「はぁっ、なのはにこの姿を見せるの久しぶりになるのかな?」
「ははははははっ……ふぇ〜〜〜〜〜〜っ!!」
 愕きの声を上げるなのは。
「なのは?」
「ユーノくんって、ユーノくんって、あのっ、そのっ、なに!?」
 混乱しまくりのなのは。
「えっと、だって……うそっ、ふぇ〜〜〜〜っ!!」
「え〜と、な、なのは。僕たちが最初に出会ったときって、この姿じゃ……」
「違う違う! 最初からフェレットだったよぅ」
 指で頭をトントンするユーノ。  ユーノもユーノで混乱する。
「艦長が待っておられますので手身近に願います」
「すみません」
「では付いて来てください」

「艦長! お連れしました」
 その部屋にはなぜか盆栽が沢山あった。
「おつかれさま! どうぞどうぞ、ゆっくりして」
 ポカーンとする4人。
「どうぞ……」
 そう言って4人の前にお茶と羊羹が出される。

「なるほど……そうですか。あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのは、貴方だったのですね」
「それで僕が回収しようと……」
「立派だわ」
「立派でもありますが無謀でもありますね」
 クロノが治療中のため、アースラスタッフの一人が代わりにいる。
「あのぅ、ロストロギアってなんなんですか?」
「まぁ、遺失世界の遺産って言っても分からないわよね」
 ロストロギアについて説明を始めるリンディ。
「次元空間の中には幾つもの世界があるの。 それぞれに生まれて育っていく世界……その中に極稀に進化しすぎる世界があるの。技術や科学、進化しすぎるそれらは、自分たちの世界を滅ぼしてしまって、その後に取り残された失われた世界の危険な技術の遺産……」
「それらを総称してロストロギアと呼びます。使用方法は不明ですが使い方によっては世界どころか次元空間も滅ぼす力も持つことがある危険な技術です」
「然るべき手続きをもって、然るべき場所に保管され居なければいけない品物……貴女達が探しているジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体。幾つかあって特定の方法で起動させれば空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合、次元断層さえ巻き起こす危険物」
「貴女と黒衣の魔導師がぶつかった時に発生した振動と爆発。あれが次元震です」
 なのははフェイトとの激突を思い出す。
「たった一つのジュエルシードで全威力の何万分の一の発動でもアレだけの影響があるのです。複数個集めて動かしたときの影響は計り知れません」
「聞いたことあります。旧暦の462年、次元断層が起こった時のこと」
「あぁ、アレはひどいものだったそうですね」
「隣接する平行世界が幾つも崩壊した、歴史に残る悲劇……。繰り返しちゃいけないわ」
 リンディは緑茶に砂糖を入れる。
「之よりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」
「キミたちは、今回のことは忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」
「でも……そんな……」
「次元干渉に関わる事件です。民間人に介入してもらうレベルの話ではありません」
「でも……」
 反論するなのは。
「まぁ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜、一晩ゆっくり考えて、改めてお話しましょう」
「送っていきましょう。元の場所で宜しいですか?」


「とりあえず帰ろうか?」
「うん」
 さつきとすずかは、別れて帰っている。
「おない年ぐらい?」
「あっ……うん……多分……」
 ?な答え方をするユーノ。 
「若しかして怒ってたりする? そんなつもりじゃなかったんだけど、その……秘密にしてたみたいになっちゃって……」
「うぅ〜んうん。ビックリはしたけど、それだけだよ」
「そう……ごめん。ありがとう……」
 笑うなのは。 
「とりあえず……」
 フェレット姿に戻るユーノ。
 フェレットになってなのはの肩に乗る。
「普段は、こっちの姿の方が便利そうだから」
「うん。そうだね。晩御飯食べて、それからちゃんと考えよう」


 次回予告

 エイミィ「リンチにあったクロノ」

 ???「執務官の代役は私が立派に務めさせていただきます」

 クロノ「研修生のキミにませておけ……ぶはっ」

 エイミィ「ちょっとクロノくん予告で死なないでね」 

 さつき「殺されなかっただけ感謝しなさい」

 さつき「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第11話『それは大いなる危機なの?』」


クロノ、折角の登場なのに即座に退場とは。
美姫 「まあ、この面子に囲まれてぼこられたらね」
だな。今回、ようやく管理局が登場。
美姫 「この後は管理局に任せてしまえば楽ではあるけれどね」
どんな決断をするかな。
美姫 「それじゃあ、この辺で」



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