第11話「それは大いなる危機なの?」






 
 モニターでデータチェックをするエイミィ。
「すごいやぁ!! どっちもAAAクラスの魔導師だよ」
 愕きの声を上げるエイミィ。
「魔力の平均値を見てもこの子で127万。黒い服の子で143万。最大発揮値は、その三倍以上」
 記録映像を元に分析を進める。
「魔力値ならクロノ執務官より上ですね」
 執務官研修生が言う。
 其処へリンディがやってきた。
「あぁ、二人のデータね」
 データを見るリンディ。
「確かにすごい子達ね」
「コレだけの魔力がロストロギア注ぎ込まれでば次元震が起きるのも頷けます」
「あの子達、なのはさんとユーノくんがジュエルシードを集めている理由は判ったけど……こっちの黒い服の子は何でなのかしらね?」
「クロノ執務官が治療中なので分かりませんね」
 クロノは、治療中のようだ。
「それで、クロノの容態は?」
「全身打撲で、特に腹部のダメージが大きいようです。当面前線で指揮をとるのは無理なのではないでしょうか?」
 分かっているクロノの様態を個人用端末に表示する。
 クロノが受けたダメージが事細かに記されている。
 逐一、情報が更新されていく。
 少しすると更新が止まって復帰までの日数が表示された。 
 既にクロノの治療は終わっている。
 情報の更新が遅れて表示され居るのだ。
 表示された日数は全治半年。日常生活に戻れるまで二ヶ月。今後1週間程度の絶対安静が必用と診断されていた。
「クロノは、当分前線で動けそうにないわね。ヒバリ・アナスタシア執務官研修生!!」
「はい!!」
「クロノに代わって事件の捜査指揮を執って貰います」
 其処へ、杖をついて身体を支えながらクロノがやってきた。
 クロノは全身包帯だらけだ。
「この事件をキミに任せるわけには……」
 腹部に走る激痛に顔を歪め倒れこむ。
「ク、クロノ……」
「クロノ執務官!! そんなボロボロの身体で現場に出るつもりなんですか?」
「この事件の指揮は僕が……」
「はいはいっ。クロノくんは、ベットで絶対安静……」
「その前に、あの現場で何があったか説明してくれ」
 説明を求めるクロノ。
「クロノくんは、白い服の子と黒い服の子の戦闘を止めようと出て行った……」
 順を追って説明するエイミィ。
「白い服の子と黒い服の子との戦闘を止める為、出て行って出るタイミングがズレたのか、クロノくん、白い服の子と黒い服の子の胸を鷲掴みにしちゃったの。二人の胸を鷲掴みにしちゃったクロノくんは、言い訳をしてまた触っちゃったのよ。紫色の髪の毛の子の胸を……」
 映像を再生してみせるエイミィ。
「そこでクロノくん、また言い訳をして怒らせちゃったのよ」
 そう言ってさつきをモニターに出す。
「怒った、この人にクロノくん……お腹を思いっきり殴られて、白い服の子と黒い服の子と紫の髪の子に集中砲火を受け、この人にまたお腹を殴られて血を吐いたんだよ」
「僕が血を?」
「その後、クロノくん、海に蹴り落とされて凶悪な魔力砲を喰らったんだよ」
 さつきの砲撃シーンを再生する。
「砲撃時の魔力値は推定で3億3000万以上」
「3億って……そんな凶悪な魔力を僕は受けたのか?」
「それ以前にクロノくん、内臓破裂が酷くてとても助からない状態だったんだよ」
「じゃあ、何で生きているんだ?」
「それは、艦長が彼女たちと約束したからだよ」
「約束って、いったい……?」
 その約束とは、クロノのポケットでお詫びの品を用意させると言うものだ。
「約束の為にはクロノくんを助けなくてはならなくって……リンディ艦長が頭を下げて、安全レベルまで治して貰ったんだよ」
「治して貰ったって、誰に?」
「クロノくんを一撃で戦闘不能にした……」
 言っていいか迷うエイミィ。
「艦長、言っても良いんでしょうか?」
「まぁいいでよう。事情を話せば彼女も許してくれるでしょう」
「普通の方の彼女なら許してくれるでしょうけど、もう一方の方は許してくれるかどうか……」
「その時は、この原因を作ったクロノにとって貰いましょう」 
「そうですね」
 勝手に話が纏まる。
「クロノくんを一撃で戦闘不能にし、死の寸前まで追い込んで命を救ってくれたのは異世界から来た真祖の吸血鬼なんだよ」
「真祖!? それに吸血鬼って……」
「元の世界では真祖の王族なんだって。なんでも『万華鏡』とか言う人にこっちの世界に飛ばされたんですって」
「どうりで言葉遣いが偉ぶっていたわけか」
「クロノくんは自室に帰って寝る。任務遂行不能ってことでシフトからも外されているんだから」
「その前に紫の髪の子のデータも見せてくれ」
「オッケー」
 すずかのデータを表示する。
「この子のデータ少ないけど、クロノくんがリンチにあっているところでいい?」
「いいけど、リンチってなんなんだ!?」
 クロノは記憶にないようだ。
「ようするにクロノくんは、この子達の胸を触って袋叩きにされたちゃったってこと」
「エイミィ、それよりもデータを……」
「はいはーい」
 そう言って、すずかのデータを表示する。
「なんでデータが二つあるんだ?」
「あぁ、それね。一つは普通のときのデータで、もう一つは……」
「もう一つは?」
「目が赤くなっていた時のデータ……」
「このデータ、異常じゃないか!! 目の色が変わる人間が居るわけ……」
「彼女は、吸血鬼なんだって」
「吸・血・鬼?」
「吸血鬼状態の時の魔力値は5000万を超えていたんだよ」
「その桁外れの魔力がロストロギアに注ぎ込まれていたらと思うと生きている気がしない」
「魔力量だけで言えば、紫の髪の子はSSクラス。そしてこの人はSSSクラス」
「SSクラスにSSSクラス……管理局全体でも数%しか居ない高ランク魔導師。管理局以外に何人居るかしらね」
「完全に化け物クラスじゃ……」
「クロノ!? 本人の前で言ったら今度は殺されるわよ」
「殺されるって……」
「此の人、アレが最大魔力値じゃないみたいなんだ」
「最大じゃないって……」
「推定だけど、最大値はあの何十倍かもしれないんだ」
 此処にいる誰もが知らない。
 さつきの最大魔力値が数百倍だという事を……。
 その魔力値を更に超える最凶の魔法使いが存在することも想像すらしていない。
 その魔法使いを怒らせたら、どうなるかも知らないのだ。
 その魔法使いが此の次元にやって来るのはもう少し先のことである。
「困ったわね。民間協力者として乗せておきたいけど……」
「もし局に入ったとしても所属とかはどうなるんでしょうかね?」
「あの魔力量です。必ず統計規模に引っかかりますよ」
「そうね。今まであんなに魔力を持った人は居なかったものね」
「艦長!! どうされるのですか? 既に強力を頼んだのでしょう」
「そうなのよね。あの巨大な魔力をジュエルシードに注ぎ込まれると次元震どころじゃすまないわね」
「仕方ありませんね。彼女にはアースラで待機してもらいましょう」
「それが懸命な判断かもしれないわね」
「もう一人はどうしますか? もう一人の子も下手をすれば次元震が起きますよ」
「次元震は絶対に避けないといけないわ」
「そうですね。其の娘も待機してもらうことにしましょう……」
 魔力値から危険と判断しアースラ待機にしようと判断するリンディとヒバリ執務官研修生。
「私としては、データを集めたいんですけど」 
 さつきとすずかのデータを集めたいと言うエイミィ。
「この紫の髪の子は、封印は出来るみたいですけど」
「封印は出来ても実戦経験が無いのでは、足手まといになるだけだ!!」
「じゃあ、一回出て貰いましょう。判断はその後で幾らでも出来るでしょ」
「しかし……」
「コレは、艦長命令です」
「分かりました」
 艦長命令と言われたら引き下がるしかない執務官研修生。


 アジトにしているマンションのソファーでフェイトは呻いていた。
 さつきに殴られた腹部が痛むようだ。
「だめだよ。時空管理局まで出てきたんじゃ、もうどうにもならないよ。逃げようよ、二人でどこかにさ」
 弱気のアルフ。
「それはダメだよ」
「だって!! 雑魚クラスなら兎も角、アイツ一流の魔導師だ!! フェイトの胸を鷲掴みにして揉んだアイツは袋叩きにして海に沈めたけど、本気で捜査されたらここも何時までバレずに居られるか……。あの鬼ババ……あんたのかあさんだって訳のわかんないことばかり言うし、フェイトに酷いことばかりするし……」
「母さんの事を悪く言わないで」
「言うよ!! だって、あたしフェイトのことが心配だ。フェイトが悲しんでいると、あたしの胸も千切れそうに痛いんだ。フェイトが泣いていると、あたしも目と鼻の奥がスーとして如何しようもなくなるんだ。フェイトが泣くのも悲しむのも、あたしイヤなんだよ」
「くっ……」
 起き上がろうとして腹部に激痛が走る。
「大丈夫? フェイト!」
「だ、大丈夫……」
「大丈夫じゃないじゃない」
「お腹が一寸痛いだけだよ」
「一寸何処ろじゃないんだろ? フェイトのお腹に、あの女のパンチが手首まで入っていたんだよ。なかなか意識が戻らないから心配で……」
「でも、もう平気だから……」
「今でもお腹が痛くて、すごく苦しいんだろ?」
「大丈夫だから……」
「『大丈夫だから』じゃないよ。脂汗が一杯出ているじゃないか」
 フェイトの顔色は悪く脂汗が出ている。
「アルフ、起きるの手伝って」
「フェイト、辛かったらそのままの体制で話して良いんだよ」
「ちゃんと起きて話すよ」
「辛かったら何時でも横になっていいんだよ」
「わかったから手を貸して」
 アルフの助けを借りてソファーに座るフェイト。




『だからボクもなのはもそちらに協力させていただきたいと……』
「強力ね……」
『ボクは兎も角、なのはの魔力はそちらにとっても有効な戦力だと思います。ジュエルシードの回収、あの子たちとの戦闘、どちらにしても、そちらとしては便利に使えると思います』
「う〜ん。なかなか考えていますね。それなら、まぁいいでしょう」
「かぁ、かあさ……か、艦長!!」
「クロノ、大声出して身体に障らない?」
「ぐっ……」
 腹を抱えてしゃがみ込むクロノ。
「手伝って貰いましょう。こちらとしても切り札は温存したいものね、クロノ執務官!?」
『は、はい』
「条件は二つよ。両名とも身柄を一時、時空管理局の預かりとすること。それから指示を必ず守ること。よくって?」
『少し質問いいですか?』
「なんでしょう」
『もう二人は何って言ってきたのですか?』
「もう二人?」
『はい』
「もう二人の方は戦力的にも、切り札のクロノが動けないから此方からお願いして手伝ってもらうことにしました」
『手伝ってもらうって……二人はロストロギアを封印出来るのですか?』
「紫の髪の子がジュエルシードを封印してたの気づいた?」
『いいえ』
「黒い服の子に奪われる前に封印してくれていたのよ」
『封印ですか? 何時したんですか?』
「貴方達がクロノを撃墜した魔法を見て固まっている間にね」
『じゃあ、奪われていないんですね』
「紫の髪の子が封印したジュエルシードは、此方で保管させてもらったわ」
『そうですか……じゃあ、奪われる心配はないのですね』


 なのはは、家事手伝いをしている。
『(なのは、決まったよ)』
「(うん。ありがとう、ユーノくん)」


 その後なのはは、母、桃子に事情を話した。
「ありがとう。お母さん」


 月村家でもさつきとすずかが事情を忍に話していた。
 話を聞いた忍はジュエルシードに興味を持ってしまったようだ。
 恐るべし月村家の血……。 
 

 なのはは、留守の間の荷物を用意している。
 小さなリュックに荷物を入れ背負った。
 レイジングハートを取ろうとすると手の中に勝手に納まった。
 なのはは、レイジングハートを首からかける。


 なのはは、夜の町を指定された場所へ走る。


 フェイトも、腹部に残るダメージを押してバリアジャケットを纏う。



 プレシアの前にはフェイトが集めたジュエルシードがある。
「はやく……はやくなさい、フェイト!」
 プレシアが呟く。
「約束の地が……アルハザードが待ってるのよ……私たちの……私たちの救いの地が……」


 次回予告

 なのは「時空管理局の艦船アースラにお世話になることになった、私とユーノくんとすずかちゃんとさつきさん……」

 ユーノ「嘗てない異常なジュエルシードの反応」

 ユーノ「そしてフェイトとの再開」

 なのは「フェイトのお母さんの願いとは?」

 さつき「あまり手間をかかせるでない」

 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第12話『決戦は海の上でなの』」


さつきが凄いのは分かっていたけれど、すずかも凄かったんだな。
美姫 「私としては、ジュエルシードに興味を持った忍がちょっと不安だけれどね」
……多分、大丈夫だよ。今回でなのはが管理局の手伝いをする事が決まったと。
美姫 「無事に回収できるかしらね」
それでは、この辺で。



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