第42話「クリスマス・イブ」






 
 私は、ずっとひとりぼっちやったから、病気で死んでしまうこと自体は、そんなに怖くないと思ってた。
 そやけど今は違う。
 守りたい日々があって、大切に……幸せにしてあげないけん子らがおる。
 皆の為に私は生きていよう。
 笑顔で居よう。
 強く居よう。
 そう思った。
 私は、皆のマスターやから……。


 12月22日 PM4:45
 海鳴大学病院

 はやては、病院のベッドで横たわっている。


「えぇ。ここまでは上手くいっているわ」


「あぁ。そっちに戻らないと言ったな。管理局もこちらを追いきれてない。主はやては、寂しがっては居ないか?」


「私には、一言も……。でも、お友達はよく来てくれてきているみたいなの……すずかちゃんたち」


「そうか……だが、心配させてはいけない。数日中に一度戻る」


「うん。気をつけて」


「あぁ」

 シグナムは、『闇の書』の頁をめくる。
「残り、後60頁……」


 12月23日 PM7:12
 海鳴市藤見町 高町家
「はい。どおぞ」
「おぉ、美味そうだな」

「「「「いただきまぁす」」」」
「フェイトちゃんとアリシアちゃんもいっぱい食べてね」
 フェイトとアリシアは高町家の夕食にお呼ばれしているようだ。
「「ありがとうございます」」
「はい、なのは」
 なのはに皿を渡す恭也。

 テーブルの下を見る美由紀。
 するとアルフが骨付き肉をほお張っていた。
「フェイトちゃんとアリシアちゃんは、今年のクリスマス・イブはやぱりご家族と一緒なのかい?」
「はい。えっと……一応は」
「そう……」
「うちは今年もイブは地獄の忙しさだな」
「私、今夜の内に値札とポップ造っておくから」
「お願いね。私たちは、今夜しっかり寝ておかないと」


「……………………」
「翠屋の人気商品だから、イブの日、お客さん一杯なの」
「それにね、イブを過ごす恋人同士とか、友達同士の為に深夜まで営業しているんだよ」
「そうなんですか」
「恭ちゃんはいいよね。店の中で忍さんとず〜っと一緒だし……その後、忍さんと夜のお楽しみをするんでしょ?」
「それは、別に関係ないだろう?」
「アリサちゃん家とすずかちゃん家の予約分はちゃんとキープしておくからね」
「うん!」
「リンディさんからも予約を頂いているからなぁ。お楽しみ」
「「はい」」
「ありがとうございます」


 すずかはメールを打っている。
 ベットには、吸血猫たちがいる。


 明日の……終業式の帰りの件。
 皆、大丈夫ですか?


 フェイトとアリシアは、マンションに送ってもらっている。


 はやてにプレゼントを渡しにいくんだよね。


 フェイトとアリシアはメールを見ながら歩く。




 でも、内緒で言って大丈夫かな?

 なのはもメールを見る。



 まぁ都合が悪ければ石田先生に渡してもらえばいいし……。

 アリサもメールを見る。


 じゃあ、そう言うことでまた明日ね♪
 おやすみ……!

「送信っと……」


 軌道上にアースラ……。


 クロノは、何かを見ている。
「あれ? どうしたの、クロノくん」
「う、うん。一寸調べ物を……」
 クロノは調べ物をしていた。
「なんだぁ。言ってくれれば私とヒバリくんでやるのに」
「いや、いいんだ! 個人的なことだから……」
 個人的な調べ物だったようだ。
「あぁ、『闇の書』についてのユーノのレポート……なのは達にも送っておいてくれたか?」
「なのはちゃん達も『闇に書』の過去については複雑みたい」
「……そうか……」
 クロノは、間を置いて言う。
「ヒバリ! 僕のせいで執務官の研修期間が延びてすまない」
「クロノ執務官がアレをやってくれたおかげでこっちは色々と模擬戦で経験を積めて良かったですが……」
「キミは、僕の心の傷を……」
 クロノは心の傷を突かれたようだ。


 同日
 王族の庭城ロイヤルガーデン
「駄目だわ。これじゃ失敗する」
 プレシアは何かを研究している。
「プレシアさん、『闇の書』を無害化する方法は見つかりましたか?」
「私の持っている知識を持ってしても無害化する事は出来ないわ」
 さつきは、プレシアに『闇の書』を無害化する研究をさせているようだ。
 それと平行して死者蘇生の研究も……。
 自分が如何して生き返ったのかを……。

 『闇の書』のデータを見つめるプレシア。
「最早、本来の姿は何処にもないと見たほうがいいわね」
「なんとかする方法は?」
「一つだけあるわ」
「その方法は?」
「せめて同系の魔導書があれば……探し出すには時間がない」
「同系の魔導書があればいいの?」
「えぇ。同系の魔導書があれば、何とかできるかもしれない」
「同系か分からないけど魔導書ならありますよ」
「今すぐ見せて!」
「いいですけど……」
「早く!!」
 急かすプレシア。
 自室から、魔導書を取って来るさつき。
「これです」
 魔導書をプレシアに渡す。
「これは、『創世の書』……『闇の書』の同系……」
「それで何とかなりますか?」
「これがあれば、壊れた『闇の書』を治すことが出来るわ。貴女がこれのマスター?」
「いいえ。すずかちゃんです」
「すずか? 其の娘は、何処に?」
「ここには居ないよ」
「なら、変わりに起動させて!」
 変わりに起動するようさつきに言うプレシア。
「月村すずかの代理として命じる。目覚めよ、『創世の書』!」
 さつきが命じる。
≪Anfang.≫







 12月24日 PM4:25
 海鳴大学病院
「はやて、ゴメンね。あまり会いに来れなくて」
「うぅ〜ん。元気やったか?」
「めちゃめちゃ元気!」

 部屋がノックされる。
「!?」

「こんにちは」
「あれ? すずかちゃんや! はぁい、どうぞ〜」
「「「「「こんにちは」」」」」
「……!!」
 不意を疲れるヴォルケンリッター。
「今日は皆さん、お揃いですか?」
「こんにちは、はじめまして」

「……あっ」
「「はっ」」
 なのは、フェイト、アリシアは病室でシグナムたちと会った。
 はやてが双方を見る。
「お邪魔でした?」
 アリサが聞く。
「あっ、いえ」
「いらっしゃい」
「「「……………………」」」
「なんだ、よかったぁ。ところで、今日は皆どないしたん?」
 はやてが聞く。
「「「「「うふふふふっ」」」」」
「「せぇのっ!!」」
 すずかとアリサが包みを開く。
「「サプライズ、プレゼント!!」」
「わはははっ」
 喜ぶはやて。
「今日はイブだから、はやてちゃんへのクリスマスプレゼント」
「わはぁ。ほんまかぁ?」
 はやてにプレゼントを渡すすずかとアリサ。
「ありがとうな」
「皆で選んできたんだよ」
「後で開けてみてね」
「うん」
 ヴィータは、睨んでいる。
「……………………」
「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん! どないしたん!?」
「うぅ〜んうん。なんでも……」
「ちょっとご挨拶を……」
「あははははっ」
「はい」
「あぁっ、皆。コート預かるね」
「「「「「はぁい♪」」」」」
 シャマルがハンガーにコートをかける。
「念話が使えない……通信妨害を」
「シャマルは、バックアップのエキスパートだ! この程度、造作もない」
 ヴィータは睨んだままいる。
「えっと……あのっ……そんなに睨まないで」
「睨んでねぇです。こう言う目つきなんです」
「ヴィータ!! 嘘はあかん」
 ヴィータの鼻を摘むはやて。
「悪い子は、こうやで?」
「お見舞いしてもいいですか?」
「あぁ」


「「さようなら」」
 なのはたちが病院から帰る。


「どないした? ヴィータ」
「なんでも……ないよ」
 はやての胸に顔を埋めるヴィータ。
「そうか?」
 ヴィータの頭を撫でるはやて。
 窓の外を見るはやて。
「今夜は、雪になるかな?」


 あるビルの屋上で、シグナムとシャマルがなのはたちに話している。
「はやてちゃんが『闇の書』の主……」
「悲願は、後僅かで叶う」
「邪魔をするなら、はやてちゃんのお友達でも……」
「待って! 一寸待って、話を聞いてください!! 駄目なんです! 『闇の書』が完成したら、はやてちゃんは……」

「はぁっ」
 ヴィータが現れなのはに殴りかかる。
 なのはは、プロテクションで防ぐ。
 が、防ぎきれずに吹き飛ばされフェンスに叩きつけられる。
「なのは!?」
 シグナムが次の瞬間、レヴァンティンを抜刀する。
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
 フェイトとアリシアは、かわす。
 フェイトとアリシアは、デバイスを起動させる。
「管理局に我らの主のことを伝えられては困るんだ!」
「私の通信防御範囲から出すわけには……いかない!!」

「ヴィータちゃん!?」
 ヴィータは、騎士甲冑を纏う。
「邪魔をすんなよ!! もう、後一寸で助けられるんだ。吸血鬼に成ったけど、はやてが元気になって私達の所に帰ってくるんだ!」
 なのはは、はやてが吸血鬼に成ったことを初めて知る。
「必死にがんばってきたんだ! もう、後一寸なんだから……邪魔すんなぁぁぁっ!!」
 なのは目掛けグラーフアイゼンを振り下ろす。
 ビルの屋上が燃える。
 燃える炎の中からバリアジャケットを纏ったなのはがでて来る。
「悪魔め」
 毒づくヴィータ。
「悪魔でいいよ」
 これが後世に語り継がれる高町なのはの『白い悪魔』伝説の始まりである。


 なのはは、デバイスを起動させる。
≪Accel mode. Drive ignition.≫
 なのはは、レイジングハートを構える。
「悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから……」


「シャマル! お前は離れていて通信妨害に集中しろ!!」
「うん」
 距離をとるシャマル。

「『闇の書』は、悪意ある改変を受け壊れてしまっている。今の状態で完成させてしまったら、はやては……」
 フェイトとアリシアにレヴァンティンを向けるシグナム。
「我々はある意味で『闇の書』の一部だ!」

 上空では、なのはとヴィータが戦闘を始めている。
「だから、当たり前だぁ! 私達が一番『闇の書』の事を知っているんだぁ」
「じゃぁ、如何して……!」
≪Accel shooter.≫
 なのはの足元に魔方陣が現れる。
 それを見て間合いを取るヴィータ。
「如何して『闇の書』なんて呼ぶの?」
「え?」
「なんで本当の名前で呼ばないの?」
「本当の……名前?」


≪Barrier jacket. Sonic form.≫
≪Barrier jacket. Sonic form.≫
 フェイトとアリシアがバリアジャケットを纏う。
≪Haken.≫
≪Haken.≫
 バルディッシュとヴァルディッシュのシリンダーが回転する。
 シグナムに向けデバイスを構えるフェイトとアリシア。
「薄い装甲をさらに薄くしたか!」
「その分、早く動けます」
「ゆるい攻撃でも当たれば死ぬぞ! 正気か? テスタロッサ姉妹」
「貴女に勝つためです。強い貴女に立ち向かうためには、これしかないと思ったから……」
「それに私達は、さつきさんとすずかの血を受けていますから」
 自分達が吸血鬼化していると告げるフェイトとアリシア。
 シグナムは、テスタロッサ姉妹の意を汲んで騎士甲冑を纏う。
「こんな出会いをしていなければ、私とお前達とはどれだけの友になれたのだろうか」
「まだ間に合います」
「止まれん!!」
 涙を流しながら言うシグナム。
「我ら守護騎士……主の笑顔のためなら、騎士の誇りさえ捨てると決めた。もう、止まれんのだ!!」
「「止めます。私とバ(ヴァ)ルディッシュが……」」
≪≪Yes, sir.≫≫
 フェイトとアリシアは、魔方陣を展開する。


 ザフィーラが空を駆けている。

 誰にも通信が通らん……。
 いったいなにがあった!?


「本当の名前があったでしょう?」
 なのはがヴィータに語りかける。
 スフィアを何時でも撃てる状態で……。
「『闇の書』の本当の名前……」
 ヴィータは、考え込む。
 その時、なのはにバインドが掛けられるのに気づく。
「……!」
 なのはもバインドに気づく。
「うっ!!」
 が、バインドに囚われてしまった。
「バ、バインドッ!! またっ……!!」
「……………………」

「「なのは!?」」
 シグナムと距離をとるフェイトとアリシア。。
≪Plasma lancer.≫
≪Plasma lancer.≫
 フォトンランサーを出すフェイトとアリシア。
「はっ! そこっ」
 気配を感じたところに放つ。
 命中し空間が歪む。
 歪んだ箇所を斬る。
 すると仮面の男が現れた。

「こないだみたいには行かない!」
 カートリッジをロードする。
 もう一人の仮面の男が現れフェイトの横腹を蹴る。
「ぐわぁぁっ!!」
 屋上へ一直線のフェイト。
「フェイト!」
 フェイト救援に向かうアリシア。
 フェイトとアリシアにバインドをかける仮面の男。
 あっという間にバインドに囚われるフェイトとアリシア。

「二人!?」

 仮面の男の一人が複数のカードを出す。
「えっ?」
 シャマルが……シグナムが……ヴィータがバインドに捕らわる。
 カード型バインドだったようだ。

「これって、いったい……」

「この人数だ、バインドも通信防御もあまりもたん。早く頼むぞ」
「あぁ」
 手ぶらの仮面の男の手に『闇の書』が現れる。


「あっ! いつの間に!?」

 仮面の男は、守護騎士たちのリンカーコアを奪うようだ。
「最後の頁は、不要となった守護者が差し出す。これまで幾たびか、そうだった筈だ」
≪Sammlung.≫
 シャマルのリンカーコアが蒐集され身体が消えていく。
 次いでシグナムが……。
「シャマルぅ! シグナムッ!! なんなんだ? なんなんだ、てめぇーら!!」
 ヴィータも蒐集される。

「でやぁぁっ!」
 駆けつけて来たザフィーラ。
 ザフィーラの攻撃は、仮面の男のシールドによって防がれる。
「そうか、もう一匹居たな……」
「ぐあぁぁぁっ」
 ザフィーラからもリンカーコアが出て来る。
「奪え!」
 狂気に満ちた声で命じる。
≪Sammlung.≫


「はっ」
 病室のはやては、何かを感じる。


「あの三人は……なのはとフェイトとアリシアは?」
「4重のバインドにクリスタルケージだ! 抜け出すまで数分かかる……十分だ!」

「『闇の書』の主の目覚めの時だ」
 なのはに変身する仮面の男。
「因縁の終焉のときだ!」
 もう一方はフェイトに変身する。
 屋上にはやてを呼び出す。
「なのはちゃん? フェイトちゃん? 何だ? なんだよ、これ」
「キミは病気なんだよ、『闇の書』の呪いって病気」
「もう、直らないんだ」
「えっ」
「『闇の書』が完成しても助からない……」
「キミは救われることが……無いんだ」
 なのはとフェイトの目つきは悪い。
 まさしく悪人面だ。


「ヴィータを放して、ザフィーラに何をした?」
「この子達ね、もう壊れちゃっているの……私達がこうする前から」
「とっくの昔に壊された『闇の書』の機能をまだ使えると思い込んで無駄な努力を続けてたの」
「無駄ってなんや? シグナムは……シャマルは……」
 シグナムとシャマルの服を見てはやての心が壊れ始める。
「壊れた機械は、役に立たないよね」
「だから、壊しちゃおう」
「ちょ、ちょっとやめてぇ」
 はやてが泣き叫ぶ。
「止めて欲しかったら……」
「力づくで……どうぞ」
「なんで!? なんでやねん! なんでそんな……」
「はやてちゃん……」
「運命って、残酷なんだね」
「ダメッ!! やめてぇ、やめてぇっ!!」
 はやての心が壊れる。
 はやての前に『闇の書』が現れる。
≪Guten Morgen, Meister.≫

 4重バインドとクリスタルゲージを破るなのは、フェイト、アリシア。
「はやてちゃん!」
「「はやて!!」」

「うっ……………………うわぁぁぁっ!!」


 はやてが壊れるのを見て変身を解く仮面の男達。

「我は、『闇の書』の主……この手に力を……」
 心が壊れたはやての手に『闇の書』……。
「封印開放……」
≪Freilassung.≫
 封印が開放される。
 はやての胸が大きく膨れる。
 髪が銀色に変わり長く伸びる。

「また、全てが終わってしまった……いったい幾たび、この悲しみを繰り返せば……」

「はやてちゃん!」
「……はやて……」


「我は、『闇の書』……我が力の全てを……」
≪Diabolic emission.≫
 『闇の書』が光る。
 銀髪の女の手のひらに黒い光の塊が発生する。
 光の塊は、あっという間に巨大になる。

「「「……………………」」」

「主の願いの、そのままに……」



 同時刻
 王族の庭城ロイヤルガーデン
「これなら、修復できるわ」
 『闇の書』を修復する手立てが見つかったようだ。
「間に合うか分からないけど急ぎましょう」
「えぇ」
「着いて参れ、守護騎士!」
「我が主の代理の仰せのままに……我ら『ローゼンリッター』は主と共に……」

 王族の庭城ロイヤルガーデンを出て決戦場へと急ぐさつきとプレシア。
 そして、『創世の書』の守護騎士を引き連れて……。


 次回予告

 なのは「悲しみのままに力を振るう『闇の書』」
 なのは「その想いは重い鎖に囚われている」
 フェイト「いくつもの過去……いくつもの因果……」
 フェイト「絡み合った螺旋が悲しみの旋律を奏でていく」
 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第43話『運命』」

 フェイト「ドライブ・イグニッション!」


闇の書が覚醒する所はほぼ原作通りだな。
美姫 「さつきたちが間に合うかと思ったけれど、少し遅かったみたいね」
だな。しかし、新たな騎士も出てきたようだな。
美姫 「どんな結末になるのかしらね」
それではこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る