第51話「後継者決定!」






 
 12月31日 AM1:00
 ドイツ
「二人の比較資料は出そろった。意見のある者はおらんか!?」
 意見を求める議長。
「どっちを選ぶのは難しいな……」
「時間が無さすぎる」
「早く決めないとパーティの準備にも影響が出るぞ」
「うむ。新年のあいさつは重要な儀式でもあるからな」
 彼らには無駄話している時間はないのだ。
「実質残り15時間か……」
「その15時間で決めねばならんという事か」
「じゃが、安易な決定は出来ん」
 だが時間はない。
 どこか落としどころを探らなければならない。
 落としどころを見誤るわけにはいかないのである。
「どっちにしたものか……」
「片方は、家柄、財力は申し分なし。方や血統と支配者の資質を持っている……」
 両者を天秤に掛けるが今一歩、決定的なものが欠けている様だ。
「すずかくん、眠かったら休んでいいのだぞ」
「平気です。私、吸血鬼だから……」
「そうか……では続けるぞ」
 会議は続けられる。
「決め手が掛ける以上、何かで優劣を決めねばならんな! 何で決めようか……。案がある者は居らんか?」
「戦闘では、マルガレータが不利だろうし……」
「いや王たる者、力が無くては収められんぞ!!」
「戦闘で勝負したら、そっちの子、死んじゃうよ」
「それはどう言うことじゃ!?」
「真祖であるすずかと戦わせたら死ぬと言っただけだよ」
「どうじゃ!? 戦うか?」
「戦う!!」
「死んでも良いのか!?」
「死ぬとしたら、妾の命数がそこまでだったということじゃ」
 どうやら戦闘で雌雄を決めるようだ。
「諸君、地下闘技場へ移動してくれ」


 同日 AM9:30
 海鳴市
「今日で今年も最後だね」
「そうだね。なのは」
「フェイトちゃんたちは、もう大掃除した」
「うんん。まだだよ。なのはは?」
「私は、日ごろから綺麗にしているから」
 なのはは、日ごろから部屋を綺麗にしているようだ。
「フェイトさん、アリシアさん、掃除は終わった?」
 リンディがフェイトとアリシアに聞く。
「はい。もう終わります」
「そう。じゃあ、なのはさんと遊んでいらっしゃい」
「リンディさん! おせちはどうするのですか?」
「おせち? なのはさんの国でお正月に食べる料理でしょ!?」
「はい。リンディさんはどうするんですか?」
「そうね。今から作ろうかしら♪」



 同日 AM2:50
 ドイツ
「はぁはぁっ」
 肩で息をしているマルガレータ。
 そんなエリザベートの鳩尾を突き上げるようにすずかは殴った。
 エリザベートは大きく眼を見開いて胃液を吐いた。
 エリザベートは、両手で腹を抱えて膝を折り床で苦しむ。
「うぅぅぅっ」
 相当苦しいようだ。
 ドレスは、自らの胃液で汚れている。
「うっ。くっ……」
 すずかに殴られた腹部のダメージの為、膝が笑う。
 すずかは、完全に立ち上がるまで待たない。
 瞬時にマルガレータの懐に入り込み強烈な一撃を鳩尾に叩き込んだ。
「がはっ」
 すずかの一撃はマルガレータの腹に肘までめり込んでいた。
 その一撃によって大きな胸がより一層強調された。
 その胸に血を吐いて真っ赤に染める。
 すずかは、マルガレータの腹に腕までめり込ませた状態を維持する。
「うぇ」
 逆流してくる血を吐く。
「苦しい!? 今楽にしてあげるよ」
 そう言うとすずかは、腕を引き抜くや再びマルガレータの腹に突き入れた。
「う゛っ!!」
 さっきの数倍の力で殴ったため、ドレスが破れ大きな胸が露になった。
「うがぁ!!」
 盛大に血を吐く。
 すずかが腕を引き抜くと腹を抱えることも出来ずに血の海に沈んだ。
 体が痙攣を起こしているから死んでは居ないようだ。
 痙攣しながらも血を吐き続ける。
 勝負ありである。
「この勝負、月村すずかの勝ちじゃ」
 マルガレータの元に医療班が駆け寄る。
 すずかから受けたダメージの確認をするようだ。
「まずい! 胃が破裂している」
 仰向けに寝かされたマルガレータの腹部が断続的に脈打っている。
 内臓が痙攣を起こしている様だ。
 マルガレータの口からは血が吐き出される
 口周りは血で真っ赤だ。
「直ぐに手術をしますので、もう少し耐えてください」
「これでも……わたしには……吸血鬼の血が……少し流れていますわ」
 苦しそうに言う。
「しかし、急いで手術をしませんとお命が……」
「少しずつですが、グチャグチャになったお腹の中が治り始めています」
 吸血鬼の血によって少しずつ内蔵の修復が始まっているようだ。
「しかし……」
 マルガレータは、それを制して起き上がろうとする。
 だが、腹部に走る激痛に顔が歪む。
 起き上がるだけでも相当きついようである。
 両肩を借りて何とか立ち上がる。
 支えがないと直ぐに倒れてしまいそうだ。
「どうやら、私の負けのようですわね」
「お腹、大丈夫ですか? 強く殴っちゃったから」
「大丈夫とはいえませんわ。今も凄く痛くて苦しいですわ」
 普通の人間なら死んで居てもおかしくないほどのダメージをマルガレータは受けていた。
 今でも生きているのは薄いとはいえ体に流れている吸血鬼の血によるものが大きい。
「貴女こそ腕は大丈夫でして?」
「大丈夫だよ。もう、くっついたから……」
 すずかは、腕を斬りおとされていたようだ。
「まぁ」
 ため息をつくマルガレータ。
「吸血鬼の血の濃さが羨ましいですわ。私ももっと血が濃ければ、回復が早くなるのですが……」
 すずかの血を羨む。
「ごふっ」
 再び血を吐くマルガレータ。
 回復しているのか吐く血の量は少なくなっている。
 それでもまだ巨大なダメージが残っていることには違いない。
「マルガレータくん。会議には出れるかね?」
「少しきついですが出れますわ」
「では、諸君会議室に戻るぞ」



 同日 PM0:00
 海鳴市
「後半日か……」
 大晦日も残り半日だ。
「そうだね」
「何もすることが無いのって大儀! 戦闘やろうよ」
 時間をもてあますアリシア。
 なのはもフェイトも吸血鬼化している為、将来時間を持て余す事になるのだ。
「えっ!? 今から?」
「でも、デバイス無いよ」
「やるのは、魔法戦じゃなくて組み手……」
「組み手は一寸……」
 組み手は嫌というなのは。
「すずかちゃん程じゃないけど、アリシアちゃんにお腹を殴られても苦しいから」
「手加減するか」
「手加減って言われても……」
「苦しいことには変わらないよ」
「でも、お昼食べたばかりだよ」
 なのは達は、お昼を食べたばかりのようだ。
「吐いたら吐いたで良いじゃない」
「もう少し休んでからにしようよ」
「いや! 直ぐにやる」
 アリシアに連行されていくなのはとフェイト。



 同日 AM4:30
 ドイツ
「それでは、会議を再開する」
 会議が再開される。
「諸君、既に考えは決まったかな?」
 全員が頷く。
 考えは皆同じようである。
「では、投票してくれ」
 投票が始まる。
 邪魔が居ない為、順調に投票が続く。
 眠っていた子供達も起こして投票させる。
 起こされた子供達は、まだ眠いようだ。
「投票漏れはないか!? なかったら締め切るぞ」
 投票漏れを確認する。
「投票箱閉鎖!!」
 投票箱が閉鎖される。
「それでは、開票作業に入る。結果が判明するまで少し待ってくれ」
 ホームズ監視の下、開票作業が始まる。




 同日 AM5:30
「うむ」
 集計結果が出たようだ。
「では、投票結果を発表する。有効投票総数250」
 そろぞれの票数が発表される。
「マルガレータ、50票。月村すずか、200票! 由って次期女王は月村すずかに決定した」
 次期女王はすずかに決まった。
「すずか、おめでとう」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「陛下!」
 すずかに対する呼び方が変わる。
「今回の事件の首謀者の処理、如何いたしましょう?」
「二名は、私の知り合いを通じて異世界に追放するわ」
「異世界にでありますか?」
「うん。異世界!」
「安二郎と氷村の処分は異世界とか言うところに追放するとして、マルガレータ嬢の処分はどうなさるのですか?」
「とりあえず、事情を聞いてから決めるよ」
「そうですな。マルガレータ嬢、裏の事情も話してくれるかな?」
「……………………」
 少し間をおくマルガレータ。
「妾の家は、大貴族とは言え血が濃くない。じゃから、何が何でも女王になりたかった」
 事件を起こした経緯を語り始める。
「生まれた時から、女王になって濃い血を手に入れることを課せられたのじゃ。そして、今回の機会が巡ってきた」
「長達を殺す必要は無かったのではないかね?」
「その事は後悔しておる。あの二人に焚き付けられ軽挙をした」
「では、認めるんじゃな」
「認める。どんな処罰もあまんじて受ける」
 罪を認めるマルガレータ。
「じゃあ今すぐに処刑しようか」
 直ぐに処刑するというすずか。


「剣をお持ちいたしましょう」
「お願い」
「御意!」
 剣を用意するエルフリード。
 用意された剣を手に取るすずか。
「すずか?」
 忍の言葉を無視して剣を構える。
「すずか!? 本気なの?」
 すずかは、何も言わずに剣を上段に構える。
 首を斬り落とす様だ。
「考え直しなさい!! すずか」
「私の決定に口を挟まないで!! お姉ちゃん」
 すずかの考えは変わらないようだ。
「最後に言い残すことある?」
「さっさと妾の首を落とせ!!」
 早く処刑しろというマルガレータ。
「じゃあ、望みどおり処刑してあげる」
 一度、マルガレータの首に刃を当て再び構えなおす。
 そして一気に剣を振り下ろした。
 誰もがマルガレータの首が落ちたと思った。
 マルガレータは、何時までたっても来ない痛みに恐る恐る眼を開ける。
「何故じゃ! 何故、殺さなかった!?」
「貴女は、今一度死んだよ」
「妾の首は落ちておらんぞ!」
 すずかは、処刑に使った剣を見せる。
 剣は首の皮の表面で止まっていた。
 神業ともいえる寸止めだったのだ。
「貴女には、生きて殺した人たちの分、仕事をして償ってもらうよ」
「それで良いのか!?」
「貴女にはたくさん仕事をして貰うから」
 そう言って剣をエルフリードに渡す。
 すずかは、マルガレータを扱き使うようだ。
「にゃぁ〜っ」
 いつの間にか足元には猫たちがいた。
 どうやらコッチでも猫を吸血鬼化させていたらしい。
 ドイツで吸血鬼にした猫がすずかの足にスリスリする。
 すずかに甘えたいようだ。
「では、陛下! 陛下にはお疲れと思いますが色々やっていただくことが多くございます」
 すずかには休む時間すらない。
「直ぐに取り掛からないとならない仕事がございます。夕方までに終えていただかないと大変なことになります」
「今すぐ?」
「はい」
「食事をする時間は?」
「そんな時間はございません。兎に角、お仕事を……」
 仕事をするしかないすずか。



 同日 PM2:00
 海鳴市
「もう一戦! もう一戦しようよ」
「嫌だよ。アリシアちゃんがお腹を殴ったからお昼に食べた物、全部吐いちゃったじゃない。まだ、お腹痛いんだよ」
 お腹を押さえ、涙目のなのは。
 なのはは、アリシアにお腹を殴られてお昼に食べた物を全部吐いたようだ。
「なのはも吸血鬼なんだから少々殴っても平気でしょ!?」
「平気じゃないよ。アリシアちゃんと違って半吸血鬼なんだから」
「じゃあ、吸血鬼に成れば? それなら本気で殴り合っても死なないよ」
「本気で殴りあうのは、一寸……」
「決断は早くしたほうが良いよ」
「でも、すずかちゃんとさつきさん、今居ないし……」
「すずかが帰ってきたらなのはとフェイトもちゃんとした吸血鬼ね」
「じゃあ、アリサもだね」
 なのは、フェイト、アリサの吸血鬼化決定である。



 同日 AM8:00
 ドイツ
「陛下! 次はこちらの書類に判をお願いします」
 すずかは大量の書類の山と格闘していた。
「後どれくらいあるの?」
「後、6000枚ってところです」
「6000枚!?」
「はい。がんばって押して下さい」
 まだまだ、大量の書類の山がある。
 話ながらも判を押し続けるすずか。
「陛下!! 今夜と明日の式典についてですが……」
 その間にも次々仕事が来る。
 そして、式典の打ち合わせもである。
「陛下には、挨拶をしていただきます。式典までにお言葉をお考えになっていてください」
 すずかは、判を押して言葉を考えるという二つの作業を同時にすることになた。
 すずかは、魔導士の必須スキルの特訓になっている。
 すずかが押し終えた書類を別のところへ運ぶ人。
 これから押す書類を持ってくる人。
 部屋の中は、戦場状態だ。
 処理しても減る気配がない。
 溜まっていた量が半端ではなかった。
 前任者が溜め込んでいたようだ。
 処理せずに亡くなった為、すずかが其の処理をしなければならないのだ。
 すずかに休むことは許されない。
 一睡もせずに仕事をこなして行く。
 本当は休みたいがそうも行かない。
 一族の王になったからには、王の責務を果たさなければならないのだ。




 同日 PM4:30
 海鳴市
「なのは、大丈夫!?」
「まだお腹が痛いよフェイトちゃん」
「私もだよ、なのは」
「フェイトもなのはも柔らかすぎ! 手首までめり込むじゃない」
「少しは手加減してよお姉ちゃん」
「甘いよフェイト。今のうちに鍛えておかないと訓練校に入ったら時間取れないよ?」
「鍛えるって言っても……」
「訓練校に入ったら怪我人を出しちゃうかも」
 なのはの不安は現実のものになる。
 後世に語り継がれる訓練校における訓練生病院送り事件である。
「……っと言う訳で続きやろ!!」
 続きを促すアリシア。
「傷だらけでお正月を迎えるのは一寸……」
「私も……」
 傷だらけで正月を迎えるのは嫌なようだ。





 同日 AM9:00
 ドイツ
「すずかお嬢様、お茶をお持ちしました」
 ノエルがお茶を持ってきた。
「ありがとうノエル」
 ノエルが淹れたお茶を飲むすずか。
 すずかにはゆっくり味わう時間はない。
 一気に飲み干して判を押し続ける。
 だいぶ減っているが半分弱も残っているのだ。
「それにしてもすごい量ね。一体どれくらいあるの?」
「10000枚はあるかな? 猫の手も借りたいよ」
「にゃぁっ!!」
 部屋の中をウロウロしている猫がすずかの元にやってくる。
 手伝うと言っているようだ。
「皆は、遊んでいていいよ」
「なぁ〜っ」
「じゃあ、判を押すの手伝って」
「な゛ぁっ!!」
 すずかが判を押した紙を動かし新しい紙を置く。
「陛下!」
「にゃっ」
「にゃにゃっ!!」
 猫たちが手伝っている光景を目の当たりにした。
「陛下! これは?」
「見ての通りよ。猫達にも手伝ってもらっているの」
「陛下! 実は、身寄りの居ない一族の者が居まして……」
 身寄りの居ない者がいるようだ。
「身寄りが居ないって、誰?」
「はい。ローエングラム家のカーテローゼです。先日、屋敷が火災で焼失し両親も亡くなり天涯孤独になった子です」
「その子は?」
「陛下と同い年の子です」
「まさか、陛下の家で引き受けるのですか?」
「何か不満でもある!?」
「いえ。陛下がお決めになられたのなら文句はありません」
「じゃあ、私の家で預かるよ。いいでしょう、お姉ちゃん!?」
「すずかが決めたのならそうしなさい」
「うん」
「では、陛下にお預けいたします」
「用は、それだけ?」
「いいえ。昼からは陛下の即位式がございます。それまでには終えて置いてください。式典は1時からでございます」
 式典は1時からのようだ。
「急いで片付けないと……」
 すずかは、判を押す速度を速める。



 同日 PM7:00
 海鳴市
「今年もあとわずかかぁ」
 日本の一年が後5時間で終わる。
「今年は色々あったけど来年はドンナ年になるのかな?」
 なのはは、来年のことを胸に秘める。


 その頃、管理局組みは……。
「かんぱ〜い♪」
 リンディは、出来上がっていた。
「艦長、出来上がってますね」
「出来上がっているわよ♪」
 このまま飲み続けるのか?
 他のアースラクルーも出来上がっていた。


 次回予告

 エリザベート「迎える即位式の時」
 忍「即位式後のパーティ」
 さつき「続くお祭り騒ぎ」
 すずか「そして迎える新たな年」
 忍「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第52話『月村すずかばんざい!』」
 すずか「陛下としての新たな一歩がはじまる」


すずかが王になったか。
美姫 「にしても仕事の量が半端ないわね」
確かにな。まあ、それでもこなしていくしかない訳だが。
美姫 「新しい子を引き取ることにもなったけれど」
これからどうなっていくのか。
美姫 「それでは、今回はこの辺で」
ではでは。



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