第52話「月村すずかばんざい!」






 
 12月31日 AM11:00
 ドイツ
「終わった」
 書類の処理が終わったようだ。
「お疲れすずか」
 労を労う忍。
「陛下、湯浴みの容易が整っております」
 タイミングを見計らったように侍女が入ってきた。
 すずかのお世話をするようだ。
「式典まで、あまり時間がありませんお早めにお願いします」
「うん」
 侍女に伴われて湯浴みに行くすずか。
 既に扱いは特別である。




 同じ頃……。
「頼むから、トイレにいかせてぇ」
「ダメです」
「我慢をしてください」
「これ以上、我慢したら漏れてまう」
 本当に限界のようだ。
「陛下の許しなく行かせる事は出来ません」
「頼むトイレに行かせてぇ!!」
「お諦めください」
 イレインにダメだしをくらう安二郎。
「臭うからパーティ会場で漏らさんでくれよ」
 安二郎を見下して言う男。
「頼む!! もう、漏れるぅ!!」
「ダメです」
「ほんま漏れてまう」
「トイレに連れて行ってあげなさい」
「しかし陛下の命令がなければ……」
「私の命令でも!?」
「了解しました。忍様!」
 忍の命令に従うイレイン。
「さっさと歩け!!」
「トイレに連れて行ってやる」
 イレインに連行されトイレに行く安二郎。





 大浴場では、専属侍女がすずかに付き体を清めていた。
 即位式に望む王の汚れを丁寧に洗い流す。
 湯船にはハーブなどの薬草が浮けべられている。
 侍女は、黙々とすずかの玉体を綺麗にする。
 一人は懐中時計を持っている。
 彼女が時間管理をしているようだ。
「陛下、そろそろお召し物を着る時間です」
「うん……」
 湯部舟から上がるすずか。
 別の侍女が直ぐにバスタオルをかける。
 すずかは、湯殿の隣にある部屋に入る。
 其処には、式典で着るドレスが用意されていた。
「陛下! お体をお拭きします」
 部屋には暖房が焚かれているが真冬の為、体が冷えてしまう。
 素早くすずかの体を拭き下着を着せていく。
 そして手早く黒に金の刺繍が入ったドレスをすずかに着せる。
 ドレスの次は、装飾品で着飾っていく。
 それも高価な宝石などである。
 ドレスを着せられたすずかは椅子に座り手を綺麗にしてもらう。
 手には白い手袋を……。
 首には金銀宝石が散りばめられたネックレス。
 一人は、すずかの髪に櫛を入れる。
 身支度だけで1時間以上時間を掛けている。
「陛下! 間もなく即位式のお時間です」
「うん」
 いよいよすずかが即位する時がきた。


 PM1:00
「夜の一族、次期指導者の即位式を之より執り行う」
 儀従近侍が声を上げる。
「月村すずか殿、御入来!!」
 大扉が開けられ、すずかが入ってくる。
 一族の者達は盛大に着飾っている。
 このときの為に用意した衣装である。
 すずかは、赤絨毯の上をゆっくり玉座へ向かって歩く。
 一同はある瞬間を待つ。
 壇上の玉座には冠が置かれている。
 之から行われるの戴冠の儀のようだ。
 玉座の前まで歩むすずか。
 玉座に置かれている冠を手に取って頭の上に乗せる。
 すずかが冠を頭に乗せ正面を向く。
「「「「「ジークカイザースズカ!!」」」」」
「「「「「ジークカイザースズカ!!」」」」」
「「「「「ジークカイザースズカ!!」」」」」
「「「「「ジークカイザースズカ!!」」」」」
 口々にすずかを称える言葉を連呼する。
 この瞬間、すずかは一族の全てを背負った。
 すずかの体は、すずかだけの体ではなくなったのである。
「陛下! この場で、過日の処分を言い渡しますか?」
「うん」
 ここで処分を言い渡すようだ。
「先ず、過日の処分を言い渡す。月村安二郎、氷村遊!」
 安二郎と氷村が連行されてくる。
「そなたらを異世界へ永久追放する」
 安二郎と氷村に処分が言い渡される。
「そなたらの罪は、あまりにも大きい。本来は公開処刑しても良いのだぞ」
「公開処刑だけは堪忍して!」
「その方らの罪は万死どころか億死でも償えるものではない」
 二人の罪は万死では済まない位、重罪のようだ。
「流刑の実施は、妾の知り合いを通じて行う。それまで監禁する。連れて行け!!」
 再び連れてかれる安二郎と氷村。
「では、続いて各人事を発表する」
 新しい体制の人事を読み上げていくすずか。
 旧来の体制より大幅に弱年齢化している。
 10代後半から20代と若返りが目立つ人事だ。
 当のすずかは、9歳である。
 その為、サポートも万全である。
 更に言うとすずかは、現役の小学生だ。
「……以上のようにする」
 戴冠と即位式は、何事もなく終わった。
 この次は即位記念パーティから年越しパーティ、新年を祝うパーティが三つも続くのである。
 之から忙しいのは、パーティの料理を作るシェフたちだ。



 同日 PM10:30
 海鳴市
「エイミィ! フェイトさんとアリシアさんは?」
「もう寝ちゃったみたいです」
「そう。じゃあ私達は飲みましょう」
「いいですねぇ」
「どんどん持ってきて!」
「じゃんじゃん持ってきます」
「クロノもどんどん飲みなさい!」
 クロノにも無理矢理飲ませるリンディ。
「クロノ、飲んで飲んで!!」
「艦長!! 追加お持ちしました」
「エイミィも飲んで」
「はい。いただきます」
 エイミィは、煽るように飲む。
「ぷはっ! もう一杯!!」
 良い飲みっぷりのエイミィ。
 その横でクロノは潰れていた。
「クロノ、もう潰れたの?」
「艦長もどうぞどうぞ」
 リンディのコップに注ぐエイミィ。
「エイミィも……」
「クロノくん。もっと飲め!」
 エイミィは、潰れているクロノの口に一升瓶を突っ込んだ。
 突っ込まれたクロノは、飲む以外に逃げ道はなかった。
 一升瓶を口にくわえ目を回して大の字に倒れるクロノ。



 同日 PM3:00
 ドイツ
「只今より陛下の即位記念パーティを開始する」
「皆の者、グラスを手に持て」
 全員が手にグラスを持つ。
「陛下の即位を祝してプロージット!!」
「「「「「「「「「「プロージット!!」」」」」」」」」」
 乾杯を合図に各テーブルに料理が運ばれてくる。
 メインテーブルにはすずか、その関係者と新しい指導部が座っている。
 無論その中にさつきや守護騎士たちの姿もあった。
「陛下! 先ずは即位おめでとうございます」
「陛下!」
「皆には、色々働いてもらうことになるから……」
「と、おっしゃられますと!?」
「わたし、時空管理局へ入ろうと思っているの」
「『時空管理局』?」
「まさか陛下! 我々を見捨てるのですか?」
「見捨てはしないよ。どっちの仕事もちゃんとやるから……」
 すずかの言葉を聞いて安心する新指導部。
「当分はないと思うけど、将来はこっちを留守にすることがあると思うよ」
「でも、陛下は学業もおありでしょう」
「うん」
「簡単なものでしたら我々がお引き受けいたします」
「いいよ。私がしないといけない仕事だから」
「すずか、塾もあるのにどうするの?」
「勿論塾にもちゃんと行くから」
 すずかは、何足も草鞋を履くようだ。
 幼い体で本当に持つのか?
「陛下、もう丸一日お休みになられていないのでしょう!?」
「書類仕事が沢山あったから」
「尚更お休みになられて下さい」
「それは出来ないよ」
「何故です!? それでは陛下のお体が……」
「私、真祖の吸血鬼だよ!? 少しぐらい休まなくても平気だから」
 すずかは数日は寝なくても平気らしい。
「財務尚書、このパーティの費用はどれくらい!?」
「はい。陛下の即位記念パーティが3000万、年越しパーティが5000万、そして新年を祝うパーティが1億2000万です」
 パーティに可也の額をつぎ込んでいるようだ。
「予算をかけすぎていない?」
「はい。前任者が組んでいた物なのでどうしようもできません。それに食材が無駄になってしまいます」
「食材を無駄には出来ないよね」
「如何なさいますか?」
「今日だけは特別だから……」
「次回からは、簡素化してね」
「はい陛下!」
 盛大なのは今回だけのようだ。
「ささ、陛下!!」
 すずかのグラスに液体を注ぐ。
「あっ! 陛下には血の方が良かったですか?」
「いや。いいよデスラー」
 そう言ってグラスの飲み物を飲む。
「良い飲みっぷりですね陛下!! そちらの陛下も……」
 さつきにも勧めるデスラー。
「頂こう」
 さつきのグラスにワインを注ぐ。
「そなたも飲むが良い」
「はい。ありがたく頂戴します」
 デスラーのグラスにワインを注ぐ。
「皆も遠慮せずに飲むがよい!」
「「「「「はっ!!!!!」」」」」
「「「「「プロージット!!」」」」」
 再び乾杯をする。

 他のテーブルも大いに盛り上がっている。
 飲めや食えやの大騒ぎだ。
「今から酔っぱらって、これからが本番だと言うのに……」
 既に酔いつぶれる者がいるようだ。
 パーティは、まだ半分も済んでいないのである。
 酔い潰れた席もあれば元気いっぱいの席もある。



 同日 PM11:50
 海鳴市
『今年も残すところ後10分となりました』
 テレビでは年越し番組をやっていた。
「エイミィは、まだ大丈夫?」
「はい」
「クロノは?」
「もう、ぐっすり……」
「何かやったわね」
「分かります?」
 エイミィが何をしたのかは、明日の朝明らかなになる。
「リニス眠れないの?」
「はい」
「じゃあ、リニスも飲む?」
「はい」
「じゃあ、こっちに座って!」
 コタツに招く。
「リニスも飲んで!」
 そう言ってリニスにグラスを渡す。
「……!?」
 目をパチクリさせるリニス。
「若しかしてお酒、ダメ!?」
「いえ。平気です」
「じゃんじゃん飲んで」
 リニスが飲んだ端から新しい酒を注ぐ。
 飲んでいるうちに0時を指そうとしていた。
『さあ後1分で新年です』
 除夜の鐘が鳴る。
 そして、時計の針が0時を差す。
『新年、あけましておめでとうございます』
 年が明けた。
「艦長! あけましておめでとうございます」
「おめでとう。エイミィ、リニス」
「そう言う訳で艦長!」
「「「かんぱぁ〜いっ!!」」」
 年が明けて最初の乾杯をした。





 同日 PM5:00
 ドイツ
 すずがの即位記念パーティが終わって次のパーティ……年越しパーティが始まろうとしていた。
 即位記念パーティで出来上がっている者もいる。
 そして、すずかは控室で休んでいた。
 いや、休む時間すらなかった。
 新たに舞い込んだ仕事の処理をしていた。
 また数千枚の書類と格闘することになった。
「陛下、来年の予算案です」
 来年の予算案が出される。
 各部族、各家への分配金、殺害された遺族への弔慰金が盛り込まれている。
 書類に目を通すすずか。
「この二人には、配らなくてもいいよね」
 月村安二郎と氷村遊には分配しないと決めた。
 すずかは、年越しパーティまでに今の書類を片づける。
 予算処理以外にも沢山仕事がある。
 まさに仕事漬けだ。
 これまでに一人で処理しきれない量を裁いてきたすずか。
「王よ、休んだらどうだ!?」
「それは、出来ないよ」
「そんな物、雑種に任せておけばよいだろう!?」
「他人に任せるようなことはしないよ」
 次のパーティまでの僅かな時間で処理せねばばらない。
 すずかの予定は、帰国日までビッシリ詰まっているのだ。
 休む時間などほとんどない。
「アンゼロット、お茶をお願い」
 管制人格であるアンゼロットに頼む。
「直ぐにご用意しますわ」
 すずかにお茶の用意をするアンゼロット。
 自分の分も用意する。
「シェーンコップ! お茶を淹れなさい!!」
「頼まれたのは、お前だろう!? お前がヤレ!!」
「貴方は、騎士であると同時に執事でもあるのですよ? マイスターに仕える私の指示にも従ってください♪」
「おいっ!! お前も仕える身だろうが……!!」
「あら? そんなこと言っていいのですか!?」
 アンゼロットが弱みを突く。
「ぐっ」
「では、直ぐにお茶を淹れてきてください」
「はいはいっ、淹れてきます」
「『はい』は、一度!!」
 アンゼロットにダメだしを喰らうシェーンコップ。
 渋々お茶を淹れに行くシェーンコップ。


「おいっ!! 淹れてきたぞ」
「遅いですわ! いったい何時まで待たせれば良いのですか?」
「それが淹れて来たオレに対する言葉か!?」
「戦闘以外でマイスターの役に立たない貴方がですか?」
 戦闘以外役に立たないと言われたシェーンコップ。
「言われてしまいましたね将」
「リンッか」
「我が主は?」
「今も忙しく働いておられますわ。どこかの暇人と違って」



 同日 PM7:00
「えぇ。それでは、年越しパーティを開始する」
「月村すずか陛下のごにゅ〜ら〜い!!」
 守護騎士と使い魔を伴ってすずかが入ってくる。
 先ほどと同じドレスを着て……。




 1月1日 AM3:00
 時空管理局本局
 管理局に休みはない。
 毎日、どこかで事件が起きている。
 本局とて例外ではない。
 それでも一部の局員……この場合はアースラクルーである。
 アースラクルーは『闇の書』事件で延期になっていた休暇を満喫していた。
 そんな本局で白衣を着た男が作業をしていた。
 技術部最高責任者、サナダである。
 休む間も惜しんで『美姫ブリュンヒルト』の修理と改造をしていた。
「強度を大幅に上げるような鉱物はないかな?」
 強度を上げる鉱物が必要なようだ。
「次元航行部隊に問い合わしてみるか」
 次元航行部隊に問い合わそうと考えるサナダ。
 その次元航行部隊からの返事が返ってくるのに数週間要する等思っても居ないサナダである。
 すずかの訓練校入校までに間に合わない計算だ。
「謎の多いデバイスだからな……」
 サナダでも全容が掴めていない。
 未知の超結晶!
 ロストロギア級の代物だ。
 ロストロギア指定されていないのが不思議である。

 そして技術部に所属する別の男がいた。
「自動人形『イレイン』ですか……コレは何が何でもじぃつぶつを手に入れてじいっけんをしなくては……」
「教授、本当にやるんですか?」
「なぁ〜にをしているのですか!? 早く準備をしぃなさい!!」
 管理局技術部の問題児が暗躍を始めた瞬間だった。
 後日語り継がれることになる1日で解決される『ダンタリオン事件』の幕開けである。


 次回予告

 すずか「ドイツで迎えるお正月」
 さつき「陛下としての仕事をするすずか」
 すずか「お正月を台無しにする出来事が……」
 すずか「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第53話『ダンタリオン襲来なの』」
 すずか「パーティを台無しにした報い、受けるが良い」


すずかが管理局入りを決意か。
美姫 「本当に大丈夫なのかしらね」
どうなるやら。で、不穏な動きもあったりと。
美姫 「でも、こっちはあっさり片付くみたいだけれどね」
だな。それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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