第56話「旅行も全力全開!」






 
 月村家一行は、ドイツでの予定をすべて終えプライベートジェットで帰国の途についていた。
 月村家で引き取ることになった子と共に……。
 そして、地獄のような仕事をこなしたすずかは……。
 疲れ果てて熟睡していた。
 幼い体で連続徹夜の上、戦闘に膨大な仕事をこなせば当然である。
 戦闘後も新年の挨拶や災害復旧指揮を休みなくこなしたのだ。
「すずかちゃん、よく寝ているわね」
「3日連続で徹夜したからね。フェイアッセ、何か飲む!?」
「じゃあ、紅茶を……喫茶翠屋の」
「急だったから翠屋の茶葉は飛行機に積んでないの」
 飛行機には翠屋の紅茶が積まれていない。
「積まれていないんじゃしょうがいわね。アルコールでいいわ」
 仕方なくワインを飲むことにする。


 そして異世界への追放が決まっている月村安二郎と氷村遊は……。
 座席に縛られて座らされていた。
 当然縛られているので身動きが出来ない。


 1月3日 PM10:00
 海鳴市
「すずか、明日の朝には帰ってくるって」
「なのはたちとの旅行には間に合いそうだね」
 明日の午後からは旅行に行く予定があるのだ。



 その頃、ダンタリオンは本局の牢獄に入れられていた。
 当然、治療はされていた。
 ダンタリオンとドミノは、包帯グルグル巻きのミイラだ。
 ダンタリオンは、治療過程で全身粉砕骨折、内臓破裂の診断を受けている。
 無論手術もして牢獄に入れられている。
 そして、体にはいろんな管やケーブルが繋がれている。



 月村家プライベートジェットは日本に向け順調に飛行を続けている。
 そして、すずかは……。
 熟睡している。
 守護騎士達も割り振られた座席で休んでいた。
 特にすずかは、体力、魔力と全て消耗している。
「休めるときに休んでおくがよい」
 そう言ってすずかに毛布を掛けた。


「さつきさんも飲む!?」
「ボトルごと頂こう」
 ボトルごと飲むというさつき。
 新しいボトルを持ってくるノエル。
「白と赤、どちらを……」
 ノエルが持ってきた二本のボトルを奪い取ると線を開けるとグビグビ飲みはじめた。


 *アルコールを一気飲みすると命にかかわるので絶対にしないでね。


 さつきは、よく冷えたワインをボトルごとグビグビ飲む。
 吸血鬼だから出来る芸当である。
 口の端からワインがたれている。
 まるで血が垂れているようだ。
 さつきは、気にせずにワインを飲む。
 あっという間に一本開けてしまった。
 さつきは、飲める方らしい。
「もう、一本飲んでしまわれたのですか?」
 ノエルが聞く。
「はい。美味しいので……」
「急いで飲まれなくても、まだまだ沢山ありますし、日本まで時間があります」
「じゃあ、グラスと氷をお願い」
「畏まりました」
 グラスと氷を取りに行くノエル。


 何故か10体ものイレインも乗っている。
 すずかが割り振って月村家が管理することになった機体だ。
 日本に帰れば、最凶警備システムとリンクさせる改造が待っている。
 更に魔法も使えるようにすることが決まっている。
 月村家警備システムが新たな自動人形の増備でより一層凶化される。
 その最初の犠牲者は……。



「はぁっくしょん!!」
 盛大なクシャミをする少年……。
 凶化型最凶警備システムの最初の餌食になるクロノだ。



 月村家プライベートジェットは、順調に飛行を続け間もなく着陸する。
 既に日本の領空を飛行していた。
 そして、すずかは……。
「むにゃむにゃ♪」
 相変わらず熟睡していた。
「すずか!? そろそろ起きなさい!! もう直ぐ着陸するわよ」
 飛行機は、着陸態勢に入っているのだ。
「う〜ん……」
 眠い目を擦って起きるすずか。
「おはよう、お姉ちゃん」
「後30分で着くわよ」
「うん」
 起きて着替えるすずか。
 着替え終わると座席に座った。
『間もなく当機は着陸します。座席に座りシートベルトをお締めください』
 飛行機は、もうすぐ着陸するようだ。
 この時間に着陸すかと言うと航空ダイヤに余裕のある時間を選んだからである。
 家に帰れば、すずかには仕事が待ち構えている。
 日本に残って居る一族が挨拶に来るのだ。


 そして空港では……。
 黒いスーツを着たイレイン達が飛行機の到着を待っていた。
 だが、黒ずくめイレイン以外人は居ない。
 そう……。
 ここは月村が所有している私設空港なのである。
 だから人が居なくても不思議ではない。
 それにプライベートジェットの母港でもある。
 普段は、研修庫の中で羽を休めているのだ。
 今回のように遠出の場合、羽ばたくのだ。
 月村家は、計3機を所有している。
 一機は予備機で、もう一機は仕事で世界中を飛び回る両親が使っている。


「まもなく陛下が到着される。総員は位置につけ!!」
 司令機が配下の子機に指示を出す。
 飛行機が止まる位置にタラップとレッドカーペットを用意する。
 そして、近くにリムジンが待機している。
 護衛の黒塗りの車が数台確認できる。
 更に大型バスも3台待機している。
 すずか達が到着しだい車列を組んで月村本邸に向かうのだ。
 数分後、遠くから飛行機のライトが見えてきた。
 飛行機は、着地と同時にタイヤスモークが上がる。
 フラップを全開にし減速し止まる。
 一旦とまるとエンジンを少し回転を上げ滑走路をタラップの方へ移動する。
 タラップのところまで移動すると停止させ、エンジンを止めた。
 飛行機が停止するとタラップが乗降口の所へ着けられる。
 安全が確認されると飛行機のハッチが開けられた。
 飛行機の中から夜の一族の女帝になったすずかが現れると、全員が最敬礼で出迎えた。
 すずかの後に忍、さつき、フィアッセ、ローゼンリッターと続いた。
 すずか達はレッドカーペットが敷かれたタラップを降り用意された車に乗り込んだ。
 貨物室の荷物は後で届けられることになっている為、車列は直ぐに出発した。
 フィアッセの入国審査は月村家が手回ししているので不法入国にはならないのだ。


 海鳴市を走行する黒塗りの車列は、高級住宅街に入った。
 そして、すずかたちの車は月村邸の門を潜った。
 約1週間ぶりの我が家に帰ってきた。
 でも、直ぐに旅行に行く計画があるのだ。
 高町家、月村家、バニングス家、ハラオウン家合同の2泊旅行が……。
 それにフィアッセも加わるから大所帯である。
 大人数のため、とても全員乗り切れない。
 そこで、この車を使うことになる。

 ノエルとファリンはいち早く車から降り屋敷の鍵を開け室内の暖房などを立ち上げる。
「今日から此処が貴女が暮らす家よ」
「……」
「どうしたの!?」
「此処が、陛下のお住まい……」
「遠慮せずに上がって!」
 カーテローゼは、遠慮しているようだ。
「陛下と同じ屋根の下で暮らすことは出来ません」
「貴女も月村家の一員なのよ。遠慮することは何もないよ」
「で、では……ただいま」
 ぎこちなく言う。
「はい。よく出来ました♪」
 すずかは、カーテローゼを招き入れた。
「すずか! あのナマモノは如何した?」
「今からエイミィさんに聞いて追放するよ」
 之から追放に適した世界を聞くつもりのようだ。
「今すぐお部屋をご用意しますのでもう少しお待ちください」
 カーテローゼの部屋を用意するノエル。
「お部屋は、すずかお嬢様の隣で宜しいでしょうか?」
「陛下の隣の部屋……」
 何故か赤くなり頭から湯気が出る。
「顔が赤いけど、熱でもあるの?」
 すずかがカーテローゼの額を触れる。
「熱は無いみたいだけど」
 熱は無いようだ。
「今日の夜から旅行だから気をつけてね」
「旅行?」
「前から決まっていた予定なの。なのはちゃん達に紹介してあげるね」
 旅行のことを話す。
「時差ボケは大丈夫!?」
「たぶん大丈夫です」
「辛かったら自分の部屋で休んでね」
「うん」
 用意された部屋で休むことにするカーテローゼ。



 1月4日 AM9:25
 高町家
 なのはとフェイトとアリシアは、炬燵でだれていた。
「今日も静かだねぇ」
「お正月だからねぇ」
 白い悪魔の形はない。
「こーゆーお休みもたまにはいいねー」
「うん」
 フェイトが剥いた蜜柑を食べる。
「すずかちゃん、今朝帰ってきたんだって」
「すずか!?」
 すずかと言う言葉に反応するアリシア。
「すずか、旅行に行けるの?」
「多分いくと思うよ。でも、人数が多いって」
「すすかの守護騎士も居るしね」
「!?」
 その時、なのは、アリシア、フェイトの携帯が鳴る。
「すずかちゃんからのメールだ」
 すずかからのメールだったようだ。
「今日の旅行で紹介したい新しい家族が居るって」
「新しい家族って誰だろう!?」
 その新しい家族が新学期からのクラスメイトになるとは、まだ知らない。
 其の娘が貴族だということも……。
 其の娘の発言が騒動を巻き起こすとも……。
「フェイトちゃん、アリシアちゃん、今夜の準備はもう万全?」
「みんな合同の2泊旅行だよね。エイミィとアルフとリニスは、そのためのお買い物に行ってるよ」
 旅行の買出しに行っているようだ。
「アリサとすずかは大丈夫かな」
「大丈夫だと思うよー」
 大丈夫なようだ。
「おとーさんたちは今頃みんなで打ち合わせしてる最中だろうし」
 月村家メイド長ノエルは鉄人である。
 今朝帰ってきたばかりなのである。
 4家族合同で旅行っていうのはなんかすごいね
「きっと楽しいよ」
「うん楽しみ」
「アースラスタッフも休暇中だ、本当に平和だね」
「うん」
「クロノ以外はね」
 クロノ以外は、平和だった。
「はやてとかシグナムたちは、まだまだ忙しいのかなぁ」
「うん。年末は本局で検査とか面接とか忙しかったし、忙しいのまだ続いているだよね。元気だといいけど」
 その時、電話がなる。
「はい、もしもし」
『もしもし? はやてですー』


 時空管理局本局
『はやてちゃん? あれ? どこから?』
「いま本局! 携帯通じるようにしてもらったんよ」
 はやては、携帯が使えるようにしてもらったらしい。
「ほんでなーうちの子たちは、もー少しかかるんやけど私は今日そっちに帰れるから、なのはちゃんたちよかったらお昼とか一緒にどーかなーと思って」
『あ、ほんと?』


 高町家
『フェイトちゃんとアリシアちゃんも一緒?』
「うん、一緒」


 時空管理局本局
「ほんなら、1時間後くらいにわたしんちでどーやろ?」
 時間を確認するはやて。
「うん。あははーあんまり気ぃつかわんでなー」
 気をつかないように言うはやて。
「おし。今日は、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃんも一緒やでー」
「はい」
「みんなはこれから個人面接と第二次試験やね」
「ですね」
「ついててあげられたらえーねんやけど、マスターは近くにいたらあかんそーやからちょう心配や。みんなひとりでだいじょーぶかー?」
「へ−きだよ。ちゃんと真面目にやるからさ」
「改めてゆーとくけどな、みんながしたこと罪は罪や。わたしも含めてみんなで背負って時間を掛けて償ってかなあかんことや。そやけど自分を責めすぎてもあかん。迷惑かけた皆さんには背筋のばしてまっすぐ謝ろ」
「はい」
「あとはお仕事一生懸命や。みんなで一緒にいられるようにがんばろ」

「それではまた後ほど」
「お昼には帰るからねー」

「がんばってなー」
 復活したリィンフォースも面接と試験があるようだ。


 同日
 八神家
「こんにちはー」
「お邪魔しまーすっ」
「お邪魔しまーす」
 なのは達は、買い物をしてきたようだ。
「あーなのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃんいらっしゃーい」
「材料、少しだけど買ってきたよ。よかったら使ってね」
「ほんまかー? おーきになー」
 礼を言うはやて。
「おーし、ほんなら腕を振るおかー」
 袖をまくるはやて。
 やる気まんまんのようだ。
「お手伝いするよ!」
「わたしも」
「わたしも」
「お、うれしいなー。ほんなら3人のお手並み拝見といこーかな」
「♪」
「♪」
「……♪」
 鼻歌まじりに料理をする。
「おお。なかなかやるなー」
「「ほんと?」」
「あんまり慣れてないんだけど」
「基本的なこところはリニスに教わったんだ。材料切るのと火を使うのは少し得意かな」
「わたしは一応喫茶店の娘だから、味付けとか盛りつけは練習してたかも」
「アリシアちゃんは?」
「わたしは、去年の春に生き返ったばかりだから……」
 アリシアの料理の腕はフェイトに劣っている。
「うーん。そんなところまでコンビの相性発揮せんでもー」
「あ」
「あははー」
 料理にまでコンビを発揮する。
「それはオーブンに?」
「そうやでー」
「おなべは、これでいいのかな?」
「おーし、準備完了や」
「わー」

「ほんならごめんな。うちの子たちも正午過ぎには戻るはずやから」
「うん」
「お茶いれるからゆくりしててなー」
「「「いただきまーすっ」」」

「なのはちゃんたちは今夜から旅行やったね。もー準備できてる?」
「うん」
「はやてやシグナムたちも一緒に行けたらよかったんだけど」
「まー 行動拘束はそんなにないけどいちおう自粛やね。真面目に罪を償ってかんとあかんし」
 はやては、旅行には行かないようだ。
「重いケガした人がおらんかったのは不幸中の幸いやどな。シグナムやヴィータは強いからね」
「手加減も上手くやったんでしょう」
「そやね。ホンマに優しい子たちやから。蒐集のコトとか早く気づいてあげられたらよかったし、私はもー少ししっかりしてたらよかった」
 はやての話を聞くなのは、フェイト、アリシア。
「過ぎたこと後悔してもしゃーないけど、せめてちゃんと罪を償って、あの子たちのこれからを幸せな毎日にしたげなあかん」
 静かに話を聞いている3人。
「と……あれれ。ごめんな、勝手にしゃべりすぎたか?」
「あ、ううん!」
「はやてちゃん、なんだかすごく大人っぽくみえたから」
「うん。ちょっと意外で」
「意外……」
「あー。そーやろか。あの子の、リインフォースの影響かもしれへんなー」
「そっか、そうかもね。助かったリインフォースさん、はやてちゃんと繋がっているんだもんね」
 なのはの一言がいけなかったようだ。
「あ、はやて……?」
「はやてちゃん!?」
「や。ごめん……なんでもない。なんでもないよ……あの子が助かって嬉しくって……」



 同日午後
「それにしてもすごい人数だね」
「うん。それに知らない人もいる」
「なのはちゃん、お久しぶり」
「フィアッセさん!? 如何して日本に?」
「コンサートをする為よ。知らない!?」
「知りません」
 なのはは知らない。
 闇の書事件でコンサートがあること自体知らなかったのだ。
「コンサートは何時あるんです?」
「7日に海鳴でよ」
「でも、チケット持ってません」
「心配しなくても私、招待客用に余分に持っているから……」
「わぁっ♪」
 コンサートに行けるのが嬉しいようだ。
「でも、その前に旅行を全力全壊で楽しまなくっちゃ!」
「そうだね。全力全壊で楽しもうね」
 何故か全力全壊で楽しむという。
 一体旅行で何をしようと言うのだ。
「でも、車に全員乗れるかな?」
「大丈夫だと思うよ。すずかちゃんちが大きい車出すって言ってたから」
「すずかの家もすごい車、持ってたんだね」
「そのおかげで大人数で行けるんだけど」
「わたしは、すずかの所の車に乗る!」
 ここでもすずかLOVEのアリシアである。
 それは、なのはとフェイトにも言えることである。
「今夜は洗いっこしよ」
「あんた達、ベタベタしすぎ!! 其の娘が固まっているじゃない!!」
 カーテロゼは、固まっていた。
「すずか、紹介しなさいよ! 其の娘……」
「皆、紹介するね。うちで面倒を見ることになったカーテローゼ・フォン・ローエングラムちゃん。新学期から一緒の学校に通うことになるから……」
「フォンがつく所から見るとドイツ系の貴族ね」
「へ、陛下からご紹介がありましたカーテローゼ・フォン・ローエングラムです」
「私、高町なのは! よろしくねカーテローゼちゃん」
「フェイト・テスタロッサ。フェイトでいいよ」
「アリシア・テスタロッサ。アリシアって呼んで」
「アリサ・バニングス。アリサでいいわよ」
 ふとアリサがあるセリフに食い付く。
「あんた、今すずかに陛下って言わなかった!?」
「あんた達こそ陛下のなに!?」
「そんなことも分からないの? 友達よ、友達……」
「ともだち!?」
「わかったら、すずかのことを陛下って呼ばない!!」
 この先、なにが待ち構えているのだろうか?
 旅行先でも嵐の予感が漂っていた。


 次回予告

 カーテローゼ「陛下のお友達と行く旅行……」
 アリサ「旅行先で巻き起こすトラブル」
 すずか「旅行先まで挨拶に押しかけてくる人たち」
 アリシア「休む時間を削られるすずか」
 アリサ「場所も関係ないしに伏礼する人たち」
 フェイト「困り果ててしまうすずか」
 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第57話『旅行はトラブルの連続なの』」
 すずか「少しはゆっくり休ませて」



日本へと帰国。
美姫 「新しい友達との顔見せも済んだみたいね」
他には特に問題もなさそうだな。
美姫 「まあ、ドイツでは問題だらけだったからね」
さてさて、これからどうなるのやら。それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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