第61話「タタリの終幕」






「悪魔でもいいよ」
 悪魔でも良いと言うなのは。
 顔は笑顔だが、内心は悪魔モードだ。
 そう、白い悪魔である。
「ぐふっ」
「まだ動けるんだ! しぶといね」
 ワラキアは踏みとどまっている。
 いや、何とか踏みとどまったと言った方がいいだろう。


 そして、クロノは……。
「こよみ、起きなさい!!」
 こよみは気絶したままだ。
「早く起きなさい! 起きないと獣に襲われましてよ」
 それは、こよみを覚醒させるには十分だった。
「きゃぁ」
「僕は、まだ何もしていないぞ!!」
「近寄らないで!!」
 こよみは叫ぶ。
 そして、ソレはクロノの頭上に現れた。
 それは、だんだんと速度を増しクロノの頭に直撃した。
「また……」
 目から涙を流すクロノ。
「どういう術式かは分からないけど召喚魔法だ……」
 サポート専門のユーノは一目で召喚魔法だと看破した。
「でも、これで君をしょっ引く証拠を得た」
 クロノの眼はすわっている。
「管理外世界での無許可での魔法使用及び公務執行妨害の現行犯で……」
 クロノは、最後まで言えなかった。
 何故なら、タライが次々クロノの頭を直撃したからだ。
「そこの貴方、その獣を縛っていてくださいまし」
 クロノを縛るようユーノに言う弓子。
 完全に獣扱いのクロノ。
 弓子も襲っていれば当然の処置である。
 言われたとおりユーノはクロノを縛る。
「(ユーノ、何で僕を縛る!?)」
「(だって、クロノと同類扱いされたくないから……)」
「(ユーノ!! 今度、覚えていろ)」
 ユーノにも恨みを抱くクロノ。
 この恨みは、後に無茶な資料請求の形で返されることになる。



 そして、プレシアは……。
 いつの間にかリンディ達とモニター越しに戦闘を見ていた。
「あの子、面白いわ」
 クロノがタライを喰らうたびに笑っているのである。
 見ている方は面白いだろうが、実際に喰らっているクロノは痛いのだ。
 ソレを何度も喰らっている方は堪ったものではない。

 クロノのダメージは戦闘ダメージとタライによるダメージはほとんど変わらないぐらいだ。
 むしろ精神的ダメージの方が多い。
「それにしてもクロノくん、タライに自分から当たらなくても……」
 いや、クロノにタライが吸い寄せられていると言った方がいいだろう。
 そして一際大きいタライがクロノに吸い寄せられ……。
 今までにない位の音がした。

 グォワァン!!

 画面に白目を剥いて気絶する様子が映し出される。
 それも縛られたまま……。
「クロノくん、寝ている場合じゃないのに……」
 寝ているようにとられるクロノ。
 クロノにとっての本当の地獄は事件終結後に待っている。



「直ちにこのつまらぬ劇を止めるがよい」
「わ、わたしの劇は、まだ終わらない……」
 まだ、劇を続けたいようだ。
「まだ、そんなこと言うんだ」
「さっきのお返しをしないと気が済まないわ!!」
「貴様も復活しただと!?」
「私だけじゃないわよ。フェイトとアリシアも復活したわ」
 アリサだけじゃなくフェイトとアリシアも復活した。
 之でワラキアの勝機は完全に消滅した。

 ガチャッ!!

 デバイスを構える。
 もはやワラキアに逃げ場はない。
「覚悟はいですか? ワラキアさん」
「何の覚悟かね?」
「死ぬ覚悟だよ」
「死ぬのは小娘たちの方だ」
「死ぬのはワラキア、その方だ!!」
「覚悟してください」
「覚悟しなさい!!」
「猫さん達」
 アリサが……。
 フェイトが……。
 アリシアが……。
 吸血猫軍団が……間合いを詰めてゆく。
「消し炭になれや」
 ケルヴェロスが炎を吐きかける。
 ケルヴェロスの炎をモロに喰らうワラキア。
 だが、丸焼きにはならなかった。
 既に肉体が存在しないからだ。
 今のワラキアは、タダの情報に過ぎない。
 どんなに攻撃しても死なないのである。
 攻撃する側は手加減なしの攻撃が出来る。
 攻撃を受ける側は、たまったものではない。
 そんな攻撃を受け続けるワラキア。
 ワラキアのダメージは、蓄積されてゆく。
 ワラキアのダメージは蓄積してゆく一方だ。
「寝ているが良い!!」
 ワラキアの体がさらに地面にめり込む。


「こよみ! 休憩は終わりでしてよ」
 休憩は終わりという弓子。
「ちょっと、弓子ちゃん!!」
「君達が出て行っても足手まといになるだけだ! それに、この結界内にいれば安全だ」
 結界から出ようとする弓子を止めるユーノ。
「この結界から出るのなら力ずくでもとめるまでだ」
 弓子の戦線再参戦を阻止しようとする。
 当然、阻止できはずもなく弓子は結界の外へ跳び出て行った。
 出て行っても攻撃する機会すらない。
 戦闘のスピードが速く狙いをつけられない。


「どうした!? ワラキア!」
 ワラキアの動きが鈍ってきている。
 当然といえば当然である。
 さつきとすずかの圧倒的なパワーによるダメージ、なのは、フェイト、アリシアによる魔力ダメージ。
 それらのダメージがワラキアの動きを鈍らせていった。
「私の劇が……」
 最早、ワラキアの演出どおりには進まない。
 既にさつきたちのシナリオに変わっていた。
 ワラキアにシナリオの変更をする力は残されていない。

「最早、戯れるのも飽きた。退場するが良い」
 戯れるのも飽きたようだ。
「私の劇はまだ終わらぬ……。何度でも再演する」
「「星の息吹よ……」」
 さつきとすずかが同時に言う。
 地面から鎖が現れワラキアを拘束する。
「スターライトォー」
「「プラズマ……」」
「ファイヤー」
 それぞれが必殺の魔法をセットする。
「ブレイカーァァァァッ!!」
「「ランサー!!」」
「バスター!!」
 なのは、アリシア、フェイト、アリサの魔法がワラキアに命中する。
 流石のワラキアも終わりだろう……。
「まだ終わらぬ……」
 ボロボロになりながらもまだ生きていた。
「「我が手、我が爪こそ星の息吹と知るがよい」」
 さつきとすずかの最凶の攻撃がワラキアを跡形もなく消し飛ばした。
 悪性情報のカスも残さずにだ。


「あらら、すごい娘たちね」
 戦力外だった美鎖が言う。
 そう。
 完全に戦力外だったのだ。


「現場の戦闘、終了した模様……」
 モニターしていたエイミィが報告する。
「そう……」
「クロノ君は、いいところなしでしたね」
 クロノは、今回もいいところなしだった。
「それじゃ、なのはちゃん達に問題の映像転送しちゃうよ」
 いよいよクロノのお仕置きタイムの始まりだ。


「あっ、エイミィさんからだ」
 送られてきた映像データを見る。
 映像データは、クロノが弓子の胸を揉んでいる場面だった。
 映像を見たなのは達は白い目でクロノに殺気を向ける。
 殺気を向けられるクロノは気絶したままだ。
「うぅ〜ん」
 その時、クロノが目を覚ました。
「どうしたんだ!? なのは、フェイト、アリシア、白い目で僕を見て……」
「クロノくん、この映像についてO・HA・NA・SH聞かせてくれるかな?」
 問題の映像をクロノに見せる。
「何なんだ!? その映像は……」
 犯人に思い当たる人物がいる。
「エイミィ!! この映像は何だ!?」
 だが、返事は返ってこない。
「クロノ、もう思い残すことはないよね」
「フェイトまで……」
「ちゃんとO・HA・NA・SHしてくれるよね」
 なのはたちは、る気満々だ。
「ちょっと待て!! アレは事故だって……」
「どう見ても楽しんでいるようにしか見えないよ」
 死神の微笑みで言うすずか。
「何度も言うがアレは事故……」
「その台詞は聞き飽きた!! 妾たちが戦っているに一人だけ戦わず楽しんでいた責任を取るがよい」
 それがお仕置き開始の合図だった。
「話せば分かる。話せば……」
 ドォォォン!!

 クロノになのはの魔法が命中する。
 それを合図にクロノへのお仕置きと証した制裁が始まる。


 クロノ制裁中!


 制裁が終わるとボロボロのクロノが横たわっていた。
 哀れクロノ・ハラオウン。
 正月早々の自業自得からの重症だ。
 恐るべし未来のエースたち。


「クロノくんも新年早々に不幸よね」
「誰のせいだ!!」
 クロノは、包帯がグルグル巻きのミイラだ。
「元はといえば……」
「大声出すと傷に響くよ」
「つぅ……」
「ほら、言わんこっちゃない」
 傷に響いたようだ。
「君達は、なんであの場所にいたんだ!?」
 ユーノが美鎖たちに聞く。
 美鎖たちも事情を説明する為にすずかたちが宿泊している旅館に来ていた。
 彼女達も同じ旅館に泊まっているから来たのだ。
「僕の話を聞け!!」
「そこの獣は無視して」
「無視するな!!」
 無視されるクロノ。
 クロノを無視して美鎖たちから事情を聴く。

「もう一度アレ見せてくれない?」
 こよみに頼むエイミィ。
「アレですか?」
「そう。アレ! クロノくん、お仕置きが足りないみたいだから……」
「おいっ!! アレって……」
 クロノは、動かない体を動かそうとする。
「で、でも……」
「こよみ! 遠慮なくやっちゃいなさい」
 少し悩むこよみ。
「一寸待て……」
 待てって言っても待ってくれるわけない。
「えぇぇいっ!!」
 こよみは、タライ召喚コードを使った。
 するとソレはクロノともう一人の不幸な青年の頭上に現れ見事に直撃した。
「また……」
 クロノは、目から星が飛び出して気絶した。
「やはり、どういう術式なのか分かりません」
 どうやってタライ召喚の術式は分からなかった。
「彼女、魔導師殺しになれちゃうのは確実みたいです」
「そう……」
 気絶したクロノを見ながら言う。
 そして、リンディの勧誘が始まる。
「貴女達、時空管理局で働かない?」
 ここでリンディの18番が発揮される。
 どうしても美鎖たちを勧誘したいようだ。
 プログラマーの美鎖。
 攻撃魔法の弓子。
 魔導師殺しのこよみ。
 リンディからしてみれば、新たな人材獲得のチャンスだ。
 この機会を逃すことは出来ないのだ。
「私としては、是非来てほしいのだけど……」
「わたし、戦闘力ないけど」
「貴女、姉原美鎖さんですよね」
「そうだけど、貴女は?」
「月村すずかです」
「月村って、あの月村!?」
「皇帝陛下に対して、その言葉遣いはなんだ?」
 カーテローゼが言う。
「貴女、日本には皇帝は居ませんでしてよ」
 日本には皇帝は居ない。
 表の世界にもだ。
 すずかは、裏の世界……夜の一族の皇帝なのだ。
「皇帝陛下の御前あるぞ頭が高い!! 控えい」
「跪かせなくてもいいよ」
「しかし、陛下」
 跪かせようとするカーテローゼ。
「カーテローゼ!?」
「陛下の御意のままに……」
 一族の長、皇帝であるすずかには逆らえない。
「すずかちゃんを怒らせないほうがいいみたいだね」
「「うん」」
「同意するわ」
 なのはたちは同意する。
 すずかを怒らせてはいけないと…。
「すずかちゃんの方はおいて置いて……」
 美沙たちの勧誘が再会される。
「私にそこで働けと仰いますの」
「別に局員になってと言っているわけじゃないから……。私としては民間協力者でもいいのだけど……」
 弓子とこよみを自分の手元に置いておきたいリンディ。
 本音丸出しである。
 なのは達の勧誘を成功させた手腕を発揮させたい。
 弓子たちを簡単に落とせると自身を持っている。
 だが、簡単に落とせるほど簡単な相手ではない。
「わたくし、得体の知れない人たちと関わりたくありませんわ」
 拒否する弓子。
 あんなこんなで、勧誘合戦が繰り広げられる。



「弓子ちゃんも一緒にいこうよ」
「弓子、こよみに言われても行かないの?」
「こよみがそこまで言うのでしたら……」
 弓子の説得に数時間を費やしていた。
 夜は完全に開け外は明るくなった。
「うしゃっ!!」
 何故かガッツポーズするエイミィ。
 
 ズズズズッ!

 リンディは、ニコヤカにお砂糖ミルク入り緑茶を飲んでいる。
 民間協力者にできた事が嬉しいようだ。
「さて、どこかの馬鹿は放っておいて朝ごはん食べに行くよ」
 全身包帯がグルグル巻きのクロノがただ一人取り残される。
「僕をおいて行くな!!」
「一緒に連れて行ってあげようよ」
「放っておいて宜しくてよ」
「はいはい。クロノくんは、少々食べなくても平気だから……」
 クロノを無視する一行。


 入局したら覚えていろよ……。


 クロノは、心の中で呟いた。
「入局したら如何するのか?」
「まさか、心の呟きが聞こえたのか?」
「聞こえていないとでも思ったか!?」
 クロノから血の気が引いていく。
「海鳴に帰ったら覚悟しておるがよい」
 その後、海鳴に帰ったクロノは宣言どおり更なる制裁を受けたのだった。
 過去の前科かからベットに縛り付けられたのだ。
 獣を自由にしてはならない。
 いつ襲うかわからないのだ。
 旅行でもいいことなし。
 戦闘でも良いとこなしと不遇伽羅と化しつつあるクロノ。
 通称エロノ……。
 その通り名が定着するのも時間の問題である。



「クロノ、大丈夫かな?」
「フェイト! 気にすることはないわ」
「でも……」
「乙女の裸をタダで何度も見せてやる必要はないじゃん」
 何度も裸を見られたアリサが言う。
「本当は、まだ痛めつけたりないんだから……」
 これ以上やれば死にかねないので痛めつけるのを止めたのだ。
「でも、旅行は楽しかったわね」
「うん」
 旅行は楽しめたようだ。
「私達は楽しめたけど、すずかはね……」
 すずかは、旅行中も忙しかったのだ。
 夜はワラキアとの戦闘もあったり、移動中は一族の仕事でほとんど休めなかったほどだ。
 すずかは、世界一忙しい小学生なのは確実だ。
 新学期が始まればその忙しさは更に増すことになる。
 学業、塾、局の訓練校、一族の仕事と多望になるのだ。
 新学期早々に行われるあるスポーツ大会を区切りになのは達は管理局の訓練校に入ることが決まっている。


 次回予告

 なのは「楽しかった冬休みも終わり始まる新学期」
 なのは「えぇぇぇぇっ!!」
 フェイト「ドッチボールのクラス代表に選ばれた私達」
 アリサ「私の炎の魔球で吹っ飛ばしてやるんだから」
 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第62話『熱戦!? ドッヂボール大会なの』」
 すずか「称えよ紅き月よ」



クロノのお仕置きがお約束みたいになりつつ。
美姫 「本人にとっては嫌なことでしょうけれどね」
まあ、自業自得な部分もあるかもな。
美姫 「散々な旅行になったわね」
だな。まあ、タタリは倒せたので良しとするか。
美姫 「そうね。それじゃあ、この辺で」
ではでは。



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