第67話「それぞれの休日」






 最終戦争と化した模擬戦から数週間後……。
 結局、さつきとすずかの戦いは決着が付かず日没引き分けに終わったのだ。
 当然演習場の被害は想像を絶する物だった。
 1日、2日で復旧できるような物ではなかった。
 演習場の規模から数週間は要する物だった。
 整備員は、何時終わるか分からない整備をすることになった。
 そして、なのは達は……。
 訓練校に入って最初の休日を迎えていた。


「すずかは、どうするの?」
「私は、しないといけない仕事があるから……」
 すずかには仕事があるようだ。
「そうか、一族の仕事だっけ?」
「うん」
「がんばってね。あたしはなのは達とミッドを散策してくるから……」
 アリサは、なのは達とミッドチルダの町に繰り出していった。
 当然、地理に不慣れな為、案内人が必要だった。
 その役目は、フェイトとアリシアが買って出た。
 なのは達がフェイトとアリシアの案内でミッド観光に出たころ……。
 すずかは自室で書類の山と戦っていた。
 訓練校の生活が忙しく書類を処理する時間が取れなかったのだ。
 時間を取れずとも少しずつ処理はしていた。
 処理する量よりも送られてくる量のほうが多い。
 山の書類に目を通し、判を押し、サインをする。
 その書類は、予算の申請やら多岐に渡る。
 




 別世界では……。
「教授!! スカリエッティーって人から部品が届きましたよ」
 モリアーティ一味は、メカを作っていた。
 復習をすべく、可能な技術をかき集めて……。
 その為の資金集めも続ける。
 AMF発生のメカで銀行を襲っては資金を集め、また研究所を襲って研究資料を強奪した。
 当然、駆けつけてきた管理局員を悉く殺していた。
 次元世界に飛ばされて一月あまりで次元犯罪者になっていた。
 今はまだ広域手配でないが、広域手配になるのも時間の問題だ。
「来たか!!」
 包みを奪い取って荷を確認する。
「これだ!! これで私の目かは更なる発展を遂げる」
 モリアーティは、子分に作業を命じる。



「なのは、ミッドはどう!?」
「どうって言われても」
 高度に発展した文明に驚くなのは。
 その景観は海鳴と似ていた。
「なんか、海鳴と似ているね」
「そう言われれば似ているわね」
 アリサも似ていると言う。
 初めてなのに安心感を感じる。



 その頃、一般の訓練生たちは……。
「なんで、あいつ等は自由行動で俺達が訓練場の整備をしないといけないんだ!!」
 最終戦争で荒れた訓練場の整理をさせられていた。
「文句言う暇があったら手を動かせ!!」
「俺達ばかり毎日毎日、放課後に作業をしているんだぞ」
 さつき達を妬む。
 ビッテンハルト、ミュッケンシュヴァイクらは演習場の後始末をしている。
 連日作業をしているが終わる気配がない。
 それほどまで、さつき達の最終戦争は凄まじかったのだ。
 深さ100メートルもあるクレーターが数個ある。
 穴を塞ぐのに想像を絶する量の土砂が必要だ。
 簡単に大量の土砂を用意できるはずもない。
「こんな重労働する為に訓練校に入ったんじゃないんだぞ」
「サボると教官の雷が落ちるぞ」
 訓練生達に休みはない。
 既に早朝から2時間作業を続けていた。



 すずかは……。
 まだ、書類と戦っていた。
 当然、守護騎士を呼んで手伝わせていた。
 何故かアンゼロットだけは椅子に座ってお茶を飲んでいた。
 雑用をシェーンコップ達に押し付けて……。
 書類に目を通し判を押しサインをする。
 それをローゼンリッターが整理する。
 送り返す書類とこれから目を通す書類と……。
 部屋には所狭しと書類の山がある。
 この部屋は、すずかが特別に借りている部屋だ。
 入校時に事情を説明して借りていたのだ。
 本来なら借りることは当然出来ない。
 一族の長ということも影響したのだろう。
 そんな理由があってこの部屋を借りることが出来たのだ。
 送り返す書類を箱に詰め転送する為に運び出していく。
 その一方で新たに運び込まれてくる。



 訓練生は、頻繁に出入りする運送業者の車を眼にしていた。
「今日は、やけに業者の車が出入りしていないか?」
「確かに多いな」
「それにしても、何を運んでいるのか?」
 その荷が大量の書類とは思っても居ない訓練生達。
 当然、すずかが特別に部屋を借りているのも知らないのである。
 人目を避けるために作業をさせられているとは思っても居ないのだ。
 その中には、訓練校の取引業者も混ざっている。




 なのは達は、フェイトとアリシアの案内でミッドを散策していた。
 当然、さつき、なのは、アリサはミッドの通貨を持っていない。
 通貨の両替をしないといけないのだ。
 フェイトとアリシアも持ち合わせが多くあるわけではない。
 アリサは、お金持ちだが多くを持ち込んでは居ない。
 残るは、さつきと言うことになる。
 さつきは、億単位の資金を口座に持っている。
 こっちの通貨単位が分からない為、さつきも多くを持ってきていない。
 その為、一千万しか持ってきていなかった。
 ジュエルシード事件、『闇の書』事件が相次いだ第97管理外世界の通貨レートが上がっているとも知らない。
 事件が相次いだことで現地の通貨が必要となっているのだ。
 活動する為の各世界の通貨が不足すれば拠点を構えることも出来ないのである。
 その為、手持ちの資金が大化けするとは想像していない。


「ここが両替所だよ」
 フェイトが両替所に案内する。
 フェイトもここで第97管理外世界の通貨に両替していた。
「いらっしゃいませ」
「両替をお願いします」
 フェイトが両替を頼む。
「どの通貨とどの通貨を両替されますか?」
「第97管理外世界の通貨からこっちの通貨にお願いします」
「さつきさん」
 フェイトに言われカウンターに一千万を置く。
「此方の通貨をミッドチルダの通貨に両替ですね」
「お願いします」
「当方も第97管理外世界の通貨が底をついて困っていたところでした」
 どうやら、第97管理外世界の通貨がほしかったようだ。
 大きな事件が立て続けに起これば必要となるのは当然だ。
 現在も必要なのに無い状態が続いていたのだ。
「現在のレートはこのとおりです」
「えぇっと……」
 レートを見るフェイトとアリシア。
 レートを見て驚く。
 その額は驚くべきものだった。
 ミッドの高級住宅を買っても多くのお釣りが帰ってくるものだった。
 一千万が10億ミッドに化けたのだ。
 これで、ミッドでも大金持ちになってしまった。
 大金を持ち歩くわけにもいかないので口座を作らないといけない。
 その後、大急ぎで口座を作り振り込んでもらった。
 その口座から少額だけ引き出しショッピングを楽しんだ。




 なのは達がショッピングを楽しんでいる一方で訓練生たちは……。
「筋肉痛が……」
 筋肉痛と戦いながら重労働をしていた。
 そして何故か救助隊が訓練と称した作業をしていた。
 この事態は救助隊にとっても都合が良かったようだ。
 実戦形式での訓練が出来るからだ。
 救助隊だけあって力仕事もお手の物だ。
 訓練生たちよりも効率よく土砂を穴に入れていく。
「俺たちも、あんなに動けるようになりたいよな」
「あぁ」
 救助隊の作業は、彼らの刺激になったようだ。
 あの最終戦争と化した模擬戦で自信をなくしていたのだ。
 圧倒的な力の差を見せつけられた上に死にかけたら当然だ。
 訓練校を辞めずに残っているのが不思議なくらいである。


 校長室では、校長と部隊長が話をしていた。
「ご協力ありがとうございます」
「いえいえ。こちらも実戦形式の訓練が出来て助かります」
「訓練生たちが自信をなくしていたところでした」
「あの最終戦争ですか……」
「えぇ」
 この二人も最終戦争のことをしっていた。
 この二人も観戦していたのである。
 ある映像を再生する。
 空間モニターに映像が映される。
「之、非殺傷設定なんでしょ?」
 すずかが撃っていた魔法を見る。
「其のはずなんですが……」
「彼女のランクは何なんです?」
「えぇっと……」
 新し空間モニターが開いて情報を表示する。
 本来ランクが表示される場所には暫定SSSEXと表示されていた。
 現在、最高ランクはSSSなのだ。
「最高魔力値は……」
 そこには数値は無かった。
 その代わり計測不能と記されていた。
「計測不能!? 計測不能って……あぁ。そういうことですか」
 救助隊の部隊長は気づいた。
 余りにも魔力が大きすぎて計測できないのだと……。
「この2人、リミッターはどうなるんですか? 部隊ごとに保有できる統計規模……アレに引っかかりますよ」
「この二人、行き先は既に決まっています」
「どこです?」
「三提督預り……」
「あの三提督ですか?」
「この娘の固有戦力も一緒に……」
 創世の書の守護騎士とすずかカードの守護者もだ。
「幾らなんでも戦力が多すぎませんか? 魔力量があるにしても」
「そう言うのなら、『闇の書』事件のあの子は、どうなるの!?」
「あの容疑者ですか?」
「確かに容疑者かもしれないけど、彼女も管理局員になるのよ」
 はやての管理局入も決まっている。
 唯、足が不自由なためとデバイスが無いので訓練校には入らないようだ。
 はやてのデバイスは、忍が制作中である。
 その制作は苦労している。
 はやての魔力が巨大だからだ。
 はやての魔力に耐えられるだけの強度を持たせなければならない。
 その為、サナダやプレシアが大魔力に耐えられる部品の開発を続けている。
 すずかの美姫ブリュンヒルトも逐次新型の部品に交換している。
 特にすずかは、トランジッションブレイカーの全弾発射で大破させたことがあった。
 美姫ブリュンヒルトも、すずかの大魔力とカートリッジ6発同時使用には耐えられなかった。
「完全に統計規模に引っかかりますよ。これでは……」
 全員がSSSクラスと言うだけで引っかかるのだ。
 之では醜い争奪戦は避けられない。
 避けられないなら、纏めて管理してしまえと結論に達するのは当然な流れである。
 伝説の三提督に意見を言うことのできる者は居ない。




 そして、すずかは……。
「そっちの書類の発送手続きをして!!」
 すずかは、ローゼンリッターに指示を出す。
「そこの書類を持ってきて」
 まだ、大量の書類と格闘していた。
 休む暇もない。
「トランジッションブレイカーの改良もしないと」
 マルチタスクをフル動員して魔法の改良もする。
 判を押し、サインをし、作業指示を出し、魔法の改良と四つの作業を同時にしている。
 戦闘魔導師に必須のスキルだ。
 同時に施行できる数が多ければ多いほど良いとされている。
 マルチタスクが使えないと魔導師としてやっていくことは出来ない。
 すずかは、マルチタスクが使える。
 当然、なのは達も使える。
 使えないとおかしいのだ。
 この段階で、すずかは数千枚の書類を処理していた。
 午前中だけで1万枚近くを処理しないといけない。
 処理しないと残りの仕事が滞ってしまう。






 なのは達は、ミッドでも高級なレストランで昼食を食べていた。
「結構、高級なお店だね」
「うん」
 ミッド料理を堪能している。
「すずかちゃんも来れればよかったね」
「しょうがないじゃない!! すずかには仕事があるんだから……」
「すずかも大変なんだね」
「じゃあ、お土産を持って帰ろうよ」
 すずかへのお土産話で盛り上がる。
「なにが、いいかな?」
「食べ物にする?」
 食べている最中に食べ物をお土産にしようという。
 昼食を終えたなのは達は、ミッドの散策を続ける。
 帰遼時間までまだある。
 ミッド首都クラナガンを一日で回るのは不可能だ。
 見る所が多いのだ。
 何度かに分けないととても見れない。
 訓練生の身で何度も見に行く機会がある訳がない。
 訓練校を出れば、アースラへの仮配属は決まっている。
 仮配属期間が過ぎれば、バラバラの部署に配属される。
 なのはは、武装隊……。
 フェイトとアリシアは、執務官になる為の勉強として艦船アースラへ……。
 さつきとすずか、その固有戦力は伝説の三提督の管理下に……。
 アリサは……。
 アリサも武装隊に配属されるだろう……。
 アリサは、ヴィータを気に入っていたりする。
 性格が似ているためだろう……。
 後になのは、ヴィータと組まされることになる。
 戦闘狂……この言葉ほど似合うものはない。
 戦闘狂……この言葉ほど彼女たちに似合う言葉はない。
 それに加え、彼女達を集団で呼ぶ時は、『65年マフィア』である。
 65年とは 管理世界の暦である。
 新暦65年度卒業だから『65年マフィア』だ。
 別名、花の65年組みである。


 楽しい時間を過ごしたなのは達……。
 日が傾き帰寮の時間を迎える。
「今日は、楽しかったね」
「うん。フェイトちゃん」
「すずかへのお土産、寮内は持ち込めないの忘れた!?」
「あっ」
 寮内には、訓練とは関係ない物は持ち込めないのだ。
 もし見つかれば、没収の上、罰が待っている。
「すずかには悪いけど食べちゃう?」
 だが、すずかは大量の書類の持込を許可されている。
 そのおこぼれに預かろうという魂胆だ。


 そして、すずかは……。
「その書類を急いで発送して!!」
 まだ、大量の書類と格闘していた。
 食べる時間もないのか、テーブルの上にはほとんど手付かずの昼食があった。
 処理を終えて発送しても次々、箱が来るのだ。
 手を止めれば、それだけ書類が溜まってしまう。
 大量の書類を裁く為、訓練が終わった後も夜遅くまで書類を処理する日が続いている。
 訓練校に入ってからもまともな休みを取っていない。
 普通の人間なら過労で倒れていてもおかしくない。
 すずかは、吸血鬼……しかも真祖だ!!
 多少の無茶は、カバーできる。
 王族の庭園ロイヤルガーデンの設定を弄って休みを取っているのが現状だ。
 1分を6時間と言う風に睡眠時間を得ている。
 知らない人が見れば徹夜したとしか見えない。
 実際に徹夜したのは1日、2日ではない。
 連日徹夜している。
 夜間訓練がある日は、次の日に伸ばしていた。
 唯、次の日は作業量が倍になる。
 その時は、王族の庭園ロイヤルガーデンに持ち込んで時間を延ばして作業をした。





 そして、訓練生達は……。
「よぉっし! 本日の作業は終了だ!!」
 日没まで重労働をしていた。
 それでも、巨大なクレーターは埋まっていない。
 其れほどまで、最終戦争が凄かったことを物語っている。
「明日も作業と言いたいが他校の施設を借りて演習を再開する」
 翌日からは、重機が入って穴を埋めることになっている。
 流石に大穴を完全に埋めることはせず、数メートルぐらいの深さで埋めるのをやめる事になった。
 この穴を演習に使おうって事だ。




 それぞれの休日は、終わりを告げた。
 翌日からまた、厳しい訓練が待っている。
 なのは達は、吸血鬼だから厳しいとは感じていない。
 体力、魔力が有り余っているからだ。
 訓練校生活も後、2ヶ月残っている。
 この先何が待ち構えているのだろうか?


 次回予告

 なのは「長いようで短かった訓練校生活」
 フェイト「訓練校で行われる最後の模擬戦……」
 アリサ「今度は落とされないからね」
 なのは「やっぱり全力全壊だよ」
 アリシア「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』」
 さつき「第68話『最終戦争再び』」
 シェーンコップ「オレも混ぜるがよい」
 すずか「称えよ、紅き月よ」


休日を満喫したなのはたちって所か。
美姫 「すずかだけは書類に追われていたけれどね」
他の訓練生たちはずっと修復作業だしな。
美姫 「まあ、流石にここは何事もなく済んだみたいで良かったじゃない」
だな。それでは、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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