読んでくれている皆さん、ありがとうございます。
この「Quadrille(カドリール)」ですが、「An unexpected excuse 〜夜明け前より瑠璃色な フィーナ編〜」の
続編として読んでいただけるとうれしいです。

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Quadrille(カドリール)

後編 四人のカドリール
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月連絡船を降りた恭也たちは月の中央連絡港をしばらく歩いていた。

連絡港を歩いているとなつかしい気配を感じ、立ち止まり、顔を上げてそちらを見る。
そこには地球を見つめている一人の女性が居た。
その容姿は、まぎれもなく、フィーナのものだった。
地球に居たころよりも凛々しくなっていた。

そして、フィーナもこちらに気づいたみたいだ。

「恭也。達哉。来てくれたのね。ありがとう。そしてみなさんもスフィア王国にようこそ」

「フィーナ。久しぶりだな」

「恭也。ええ。二ヶ月ぶりかしらね。あれから、そんなに時間が経っていないのに、もう何年も会っていない気がするわ」

「ああ。そうだな」

「フィーナ。お久しぶりだね」

「達哉。そうね。元気だったかしら?」

「俺たちは元気だよ」

『フィーナさん、お招きいただいてありがとうございます』

「それじゃ、みなさん、私についてきてください」

歩くこと10分、案内されたのはスフィア王国のお城だった。
その間、恭也は一番後ろからみんなの様子を見ながら、一人、黙々と考え事をしていた。
その様子にフィーナは気づいていた。

「赤星さん。少し、いいかしら?」

恭也の親友である赤星を呼ぶ。

「はい。何ですか?フィーナさん」

「恭也のことですが、何か、いつもと雰囲気が違いますがどうかしたのでしょうか?」

「高町は、ここ一週間ほど、ずっとあの調子ですよ。なぁ、藤代」

「フィーナさん、そうなんですよ。いつもは授業中寝てばかりなのに、ずっと起きているし、外ばかり見てるし」

「それに月に来る船の中で地球を飛び立つ際、ずっと外の風景を見ていたし。どこか、切なげに」

さすがは、赤星。そこまで見抜いているとは、恭也の親友は伊達じゃなかった。

「へぇ〜。そうなんだ。高町君がそんな表情をしていたの」

「恭也はどうしてしまったのかしらね?本当に」

「俺、ちょっと気になって、桃子さんに聞いたけど、わからないって言ってた」

「桃子さんですら、わからないんじゃ、高町君本人に聞くしかないよね」

「そうだね。そのあたりは俺たちより、フィーナさんに任せたほうがいいな」

「わかったわ」

「ええ。よろしく頼みます。俺たち二人も心配で。高町がこのまま、消えてしまうのではないかと・・・」

「それよりも、忍さんたちは知っているのかしら?恭也の変化について」

「いや、知らないですよ。高町はうまく誤魔化しているみたいですけど、俺たちには通用しないらしい」

「そうだね。高町君の変化って、よく観察しないと見えないし」

「わかりました。ありがとう。教えてくれて」

「高町のこと、お願いします。フィーナさん」

赤星がそういうとフィーナはにっこりと微笑んだ。

フィーナから部屋割りを聞き、その通りに移動する。
夕食が終わり、慣れない宇宙空間だったために疲れたのか、フィーナ、恭也、さやか以外は自分たちの部屋で休んでいる。

さやかとフィーナが話している中、やはり、恭也は一人、地球を眺めていた。

「フィーナ様、どうかなされたのですか?浮かない表情でしたよ」

「さやか。あなた、今の恭也を見てどう思う?」

「うーーん。いつもの彼じゃないですね。何か、悩んでいるように見えますね」

「ええ。そうね。一応、彼の一番の親友である赤星さんに話を聞いてみたの」

「赤星さん?」

「そういえば、さやかは知らなかったわね。赤星勇吾さんと言って、彼は日本の高校剣道界ナンバーワンなのよ」

「日本の高校剣道界ナンバーワン・・・!?達哉くんと一緒の年で・・・」

「そして、さわやかな笑顔が魅力的で、彼らの高校では恭也と二分する人気者よ」

「恭也くんの周りって本当に信じられないような人たちがいるわね」

さやか達は知らなかった。
そして、恭也もさやか達に言っていないことがあった。

それは、恭也が普通の高校生ではないということ。
古流の剣術使いであり、流派は音に聞こえし最強の御神流だということ。


フィーナは恭也に出会ったときのことを思い出していました。


私が恭也に初めて会ったのは、カテリナ学院に留学するために地球に来たときであった。
カレンと恭也が中央連絡港で待っていた。

カレンから恭也に護衛の任についてもらうと聞いたときに何かの間違いではないかと聞きなおした。
私の目には、恭也は優男としか映らなかった。
カレンはそんな私の様子を見かねて、恭也に試合を望んだ。
カレンからしてみれば、私の疑いを無くすためには恭也の実力を見せるのが一番だと踏んだ。

「恭也さん、フィーナ様があなたの実力を知りたそうなので、戦ってもらえないでしょうか?」

「・・・・・・・。疑われているのはわかっているつもりです。それが一番いいでしょう」

私はカレンの実力を知っていたので、恭也が負けると思っていた。

「恭也さん、本気でお願いします」

「本当にいいんですか?」

「そうしないとフィーナ様が認めないです」

「わかりました」

そして、私の開始の合図で始まる。

(彼のスタイルは、二刀流。あれはナイフより長く刀より短いもの、小太刀だったかしら)

恭也は先手必勝とばかりに奥義を放つ。

「御神流 奥義の参 射抜」

二刀の木刀から放たれる鋭くすばやい突きに私は驚いた。
そして、気が付けば、カレンの首に小太刀が一本突きつけられていた。

「なっ」

勝負は一瞬でついた。

「フィーナ様。これでも、まだ、彼を疑われるのですか?」

「恭也さんでしたよね?疑ってすみませんでした」

「いえ。別に気にしていませんよ。よく疑われるので」

と言い、にっこりと不器用なりに微笑んだ。
私はその不器用な微笑みを浮かべた恭也に興味を持った。

これが恭也との出会いであった。
恭也が古流の剣術使いであることや流派について知ったのはこの出会いから一週間後である。


「フィーナ様?」

「・・・・・。さやか。何かしら?」

「いえ。声を掛けても返事がなかったので」

「ごめんなさいね。恭也と出会ったときのことを思い出していました」

「その話を私も聞きたいです。フィーナ様」

「次の機会に話すわ」

「フィーナ様、期待していますよ」

「ええ。わかったわ」


そして、時間が過ぎ、29日になるか、ならないかの時間に一人の青年がフィーナの部屋の扉をノックした。

コンコン

「誰かしら?夜中に」

「フィーナ。俺だけど、起きているなら、開けてくれ」

「恭也。どうしたの?」

「こんな時間にすまない。もう、寝るのか?」

「寝ようと思っていたわ。でも、それ以上に恭也と話がしたかったの。さぁ、部屋の中に入って」

「すまない」

「恭也。何か、話したいことでもあるのかしら?」

「ああ。それよりも、大人数で騒がしかっただろ?」

「大人数なのは認めるけど、月じゃあ、そんなに騒がないから。地球にいたころに戻ったみたいで嬉しかったわ」

「そうか。フィーナ。俺に何か、聞きたい事があるんじゃないか?」

「ええ。聞きたいことも話したいこともあるわ」

「俺もあるよ」

「恭也。あなた、最近、何か悩んでいるようね?」

「・・・・・・」

「恭也。他の人は騙せても、私には通用しないわ」

「・・・・・・」

「それに、赤星さんと藤代さんから、言われたのよ。よろしく頼むって」

「あいつら・・・・」

「それで、恭也は何に悩んでいたの?」

「む・・・・・」

ふと、恭也が時計を見る。29日になっていた。

「フィーナ」

「何?恭也」

「18回目の誕生日、おめでとう」

「ありがとう」

そして、恭也はちいさな小箱を取り出し、中身を取り出し、フィーナの手を取る。

「何?恭也」

「ふむ、フィーナ。すこし、目を閉じていてくれないか」

「ええ。わかったわ」

フィーナは恭也に言われたとおり、そっと目を閉じる。
恭也は、フィーナの左手の薬指にブルーサファイアの指輪をはめた。

「フィーナ。もういいよ。目を開けても」

フィーナが目を開ける。そして、左手の薬指を見る。
フィーナの目には、涙が溜まっていた。

「む・・・・・。フィーナ、俺がなにか、ひどいことでもしたか?」

「き・・・きょうやぁぁぁぁ。ち・・・ちがうのよ。この涙は嬉し涙なのよ」

フィーナは涙を流しながらに語る。
恭也はフィーナを抱きしめる。

「恭也。これまでで、一番嬉しい誕生日プレゼントだわ。ありがとう」

「フィーナ。今すぐじゃないけど、結婚しよう」

「私は、恭也以外とするつもりはないわ」

「ありがとう。フィーナ」

「ありがとう。恭也。幸せにしてね」

「わかった。絶対に幸せにする」

「さっきの質問に答えていないなぁ。何に悩んでいたか」

「私はわかったから、いいよ」

「む・・・・・・・・」

「あははははははは。よかったわ。恭也に別れを言われてしまうのではないかしらと不安になっていたの」

「フィーナこそ、俺のことを嫌いになっているのではと不安になっていたんだ」

「お互い様だね」

「そろそろ、部屋に帰るから。おやすみ。フィーナ」

「おやすみ。恭也」


そして、パーティ当日の朝になる。

高町家の住民はいつも通りに起きていた。

恭也はというと、いつもどおり、美由希と朝の鍛錬。
桃子は、部屋でフィアッセと話している。
晶とレンは恭也たちの練習に混じっている。
末っ子のなのはは、桃子の膝で寝息を立てている。

赤星と藤代さんも恭也たちの朝の鍛錬に混ざっていた。

耕介や那美も朝の鍛錬に参加していた。

さざなみ寮の人たちやCSSの人たちはいつもどおりの朝を迎えていた。

フィーナやミアは恭也たちの鍛錬の見学をしていた。
カレンさんにいたっては、恭也に勝負を挑んでいた。

達哉たちはさやかさんと佐門さん以外は少し遅い朝を迎えていた。


朝食を取り、各自、パーティ衣装へと着替える。

基本的に男性はタキシード。女性はドレス。

恭也はいつもどおりの黒系のシャツとタキシード。
赤星と耕介さんは白系のシャツに紺のタキシード。
達哉や陣さんは赤星や耕介さん同様の白系のシャツに紺のタキシード。
佐門さんだけは恭也と同じような黒系のシャツとタキシード。

美由希は恭也佐門同様、黒系のドレスと黒系の上着。
美由希以外の女性陣は白のドレス。各自、思い思いの柄をまとっていた。

フィーナは白のドレスに左手の薬指にはブルーサファイアの指輪。



フィーナ・ファム・アーシュライト18回目の誕生パーティが始まった。

人々は優雅に笑いさざめき、テーブルにはありとあらゆる種類のご馳走がぎっしりと並べられ、
オーケストラが軽やかな音楽をあくまでも控えめに、しかし一糸乱れず演奏している。

ワルツが始まった。

全員が白いドレスとモーニングに身をつつみ、パートナーと礼をかわす。男たちはひざまずき、女の手をとる。
それが合図となり、典雅なメロディをバイオリンが奏ではじめた。

金と青のレリーフで統一されたロココ調の円天井から吊り下げられたまぶしく輝くシャンデリアの下、
百人近い子女たちが、緊張に頬を上気させながらゆったりとワルツのステップを刻む。
趣向を凝らして結いあげられた髪が同じ方向に揺れては回る。
そして一連のステップを踏むと、新しいパートナーが待っている。

大広間のそこここにはめこまれた、複雑な縁取りの鏡が、さまざまな角度からその様子を映しだす。
複雑に組み立てられたシャンデリアのクリスタルがつむぎだす虹色のプリズムが、踊る人たちの白く柔らかな絹の生地に反射し、
磨きこまれた大理石のモザイクの床に、何重もの影を落として光る。

そのようすを微笑ましく眺めながら談笑する者たちにも、そのプリズムは等しくきらめきを落としていた。

ワルツの音楽がやむとともに、踊っていたものたちは流れるような礼をし、周囲からは拍手が起こった。


恭也とフィーナ。赤星と藤代さん。
四人がテラスで話している。

「フィーナさん。左手の薬指にはめているブルーサファイアの指輪は?」

藤代さんが聞いている。

「これは、恭也からの誕生日プレゼントなの」

「・・・・・・・。えっ!?高町くんから?」

「む・・・・・・・。俺が指輪を送ったら、駄目なのか?」

「だって、あの高町くんだよ?どう見ても、似合わない。しかも、誕生石だし」

「何気に失礼だな。おい、赤星。そこでほおけていないで、なんとか言ってくれ」

「俺は藤代の意見に賛同する。高町が一週間悩んでいたのはこれなのか?」

「む・・・・・。赤星も失礼なやつだな。一週間じゃない。パーティの招待状を見てからだ」

「いっ、一ヶ月前からじゃないか。それは、いくらなんでも悩みすぎだ」

藤代さんが聞いてくる。

「フィーナさん。指輪を左手の薬指しているということは・・・・・婚約かな?」

「ええ。そうよ」

「む・・・・・・・」

「高町。どうした?」

「いや。別に何もない」

「おめでとう。フィーナさん。お相手は・・・・」

藤代さんはこちらを見て、ニヤニヤしている。
その笑みは忍やリスティさんが恭也に対していたずらをしようとしているときのものだった。

「赤星。藤代さんの教育ぐらいしておいてくれ」

「高町くん。それはどういう意味?」

「高町。俺には無理だ」

「勇吾。お仕置き決定」

「ふ、藤代。それだけは勘弁してくれ」

「まぁ、いいわ。フィーナさん、相手は誰なのかな?」

と言いながら、恭也を見る。

「それはもちろん・・・・・」

フィーナも恭也を見る。

「む・・・・・?二人して、なぜ、俺を見る」

「高町。おまえ、本当に鈍いなぁ」

「赤星。お仕置き決定」

ピーポイントの殺気を赤星にぶつける。
途端に、赤星は震えだした。

「た、た、高町。か、か、勘弁してくれ」

赤星はそのまま、放置して二人のほうを向く。

「ブルーサファイアの指輪を送ったのは俺だ」

「やっぱりね」

「ええ。そうよ」

などと、話しているうちに曲は軽快な六拍子に変わっていた。

「カドリールだわ」

フィーナが両手をぱん、と打ち鳴らす。

「恭也、赤星さん、藤代さん、四人で踊りましょう」

「ああ。俺は踊れるけど、赤星と藤代さんは大丈夫なのか?」

「俺も大丈夫だよ」

「私は不安はあるけど、一応、踊れるよ」

恭也とフィーナ。赤星と藤代。
若く美しい四人が方形をなして軽やかにステップを踏み、揺れ、回る。

明るく軽快な曲の調べに乗って互いに近づき、離れてはまたよりそうその姿が宮殿の大広間を
いっそう輝かしいものに見せる。

互いに見つめあい、微笑む彼らに賛嘆のまなざしを送る人々。


終わり



あとがき

ばしっげしっばしっげしっばしっげしっ

痛いじゃないか
小鈴「また、お馬鹿な文書を書いて・・・。」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
小鈴「言い訳を聞くわ」
言い訳って・・・・。
小鈴「早く言いなさい。刺すわよ」
刺すって犯罪じゃないかな。
小鈴「うるさいよ」

プスッ
バタッ

小鈴「やかましい作者は黙ったし。本当にごめんなさいね」
小鈴「作者に代わって謝ります」
小鈴「感想は掲示板によろしくね」
小鈴「次回作品は、予定通りのものを書かせますので。じゃあ、またね」



これにて無事に完結〜。
美姫 「うんうん。最後はハッピーじゃないとね、やっぱり」
この後、この事がばれたら…。
美姫 「その場には桃子に真雪、リスティがいるからね〜。一体、どうなるかしら」
そんな想像をしつつ、投稿ありがとうございました〜。
美姫 「ありがとうね〜」



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