WithYouの設定は、正樹は菜織と付き合っています。
乃絵美は拓哉に振られています。

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とらいあんぐるハート3×With You(伊藤 乃絵美)

ずっと二人で・・・

序章 伊藤 乃絵美編 傷ついた心
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「お前はこれ以上、俺に近づくな」

言い残した相手のほうをじっと見ていた。
ただただ見ていた。何が起こっているのか、わからなかった。

「俺は鳴瀬さんが好きになった。だから、邪魔なんだよ。おまえは」

薄々、気がついてはいた。
あの人の心の中に私がいないこと。

「拓也さん」

乃絵美は去っていく拓也の名前を涙を流しながら、呼び続けた。

拓也が完全に去った後、乃絵美はその場に崩れるように倒れた。


そして、2ヶ月が過ぎた。

お兄ちゃんと菜織ちゃんが付き合い始めたと知った。
心が悲鳴を上げて、私はまた倒れてしまった。

お兄ちゃんが菜織ちゃんを選んだのだから、素直に「おめでとう」と言えば良かった。
でも、私の心がそれを拒否した。
心の傷が重なり、心の中で「私はいらない。私なんていらない」と叫んでいた。
叫ぶたびに傷ついた心に響くように衝撃が走っていた。
次の瞬間、私の体は地面についていた。

『乃絵美!!!!』

お兄ちゃんと菜織ちゃんが呼んでいる。

(お兄ちゃん。私の事なんか気にしてちゃあ駄目だよ。菜織ちゃんのことを気にしなきゃ・・・)
(菜織ちゃん。お兄ちゃんのことをよろしく・・・ね・・・・)

そこで、私の意識は途切れてしまう。


倒れた乃絵美は昔を夢に見ていた。

「ねぇ、かあさん。どうしてあの子はねているの?」

「あの子じゃないわよ。恭也。乃絵美ちゃんって言うのよ」

「かあさん。どうしてのえみちゃんはねているの?」

「それはね、体が弱いからなのよ」

「からだがよわい?」

「ええ。そうよ。だから、恭也が元気付けてあげればいいのよ」

「うん。わかった」

「はじめまして。高町恭也です」

「たかまちきょうや?」

「ぼくの名前。恭也ってよんでね」

「きょうやくん。はじめまして。いとうのえみです。のえみってよんでね」

「のえみ・・・・ちゃん?」

「はい。きょうやくん、なに?」

「おそとにでられないの?」

「うん」

「じゃあ、ぼくがおそとのお話してあげる」

少し離れたところから、桃子と貴美恵がほほえましく見ていた。

「あはははははははは」

「ようやくわらったね。のえみちゃん」

「うん。きょうやくんのおかげかな」

「恭也くん。すこしいいかな?」

「はい」

「のえみちゃん。ちょっとよばれたから、いくね」

「うん。きょうやくん」

この時、乃絵美は齢3歳か4歳にして恭也に淡い恋心を抱いていた。


「・・・・・・・・・ん」

「乃絵美。良かった。目を覚ましたのね」

貴美恵は目に涙を溜めていた。

「おかあさん・・・・。私、また、倒れちゃったの・・・」

「そうよ。ごめんね。私がしっかりしていないから」

「おかあさん。そんなこと、言わないで。私が悪いのだから」

「乃絵美。あなたは何も悪くないのよ」

「ちがうよ。私がちゃんと、心の整理をしていないからなの」

「乃絵美・・・・」

「すこし疲れたから、寝るね。おかあさん」

「ええ。おやすみ。乃絵美」

「おやすみなさい。おかあさん」

眠った乃絵美を見て、貴美恵は心の中で『もう、これ以上は乃絵美の心が耐えらないようになってきている』と
思った。
娘の乃絵美が心をこんなに痛めているのに私は何をしているのだろうと自己嫌悪してしまう。
だが、貴美恵は知っていた。心を救うのは並大抵のことでは無理であることを。

寝ている乃絵美がある名前を呼んでいるのに気づいた。

「・・・・・・ょ・・くん。きょうやくん」

貴美恵は誰のことだろうと首をかしげた。
首をかしげながら、周りを見回しているとある物が目に入った。
乃絵美の部屋にはそぐわない古ぼけた黒いリボンだった。

貴美恵はそのリボンを手に取ってみる。
乃絵美がこんなに大事にして飾っているリボン。
そのリボンには見覚えがあった。

乃絵美自身、黒いリボンをつけているところは数えるほどしかなかった。
普段は白いリボンだったが、学年最後の終業式や卒業式の時には必ずと言っていいほど、
黒いリボンを着けていたのだ。

乃絵美が中学校を卒業する時に、正樹が聞いたことを貴美恵は思い出した。

「乃絵美。ひとつ、聞いてもいいか?」

「何かな?お兄ちゃん」

「いつもは黄色のリボンか白いリボンなのに、今日に限ってどうして黒いリボンなんだ?」

「私が黒いリボンを着けること、それは一つのけじめだから」

「けじめ?」

「うん。今年も元気に乗り超えられた印と、このリボンをくれた人への感謝かな」

「そのリボンをくれた人?父さんや母さんじゃないよな?」

「うん。違うよ」

「俺じゃないし、菜織でもないし、真奈美ちゃんでもない」

「わからないかな。過去に一度、会ってるだけだし」

「過去に一度・・・・・」

「高町恭也くんだよ。覚えていないと思うけど」

「高町・・・・・恭也?」

「確か、お兄ちゃんより一つ上なはずだよ」

「その人がくれたのか。けど、よりによって、黒いリボンって」

「恭也くんは黒が好きなんだって。黒って言うと、闇とかって思いがちだけど、黒があるから、他の色が生きて来るんだよって
教えてもらったの。恭也くんは、自分を色に例えるなら、黒だろうと言っていた。みんなを輝かせる黒になりたいって」

恭也のことを話す乃絵美は生き生きしていた。


そのことを思い出した貴美恵は、高町恭也くんを呼べば、乃絵美は乃絵美の心は元に戻るだろうと思ったのである。


その日の夜、正樹と忠志と貴美恵は乃絵美のことを話し合っていた。

「二人とも、すこしいいかしら?」

「なんだ?貴美恵」

「何?」

「乃絵美のことで少し、話さないといけないことがあるのよ」

「ああ」

「乃絵美が倒れたのは知っているわね?」

「ああ」

「俺の目の前で倒れたのに知らないはずがないよ」

「原因はともかくとして、あまり、芳しくないのよ」

「・・・・・」

「そんなに悪いのか?」

「身体は弱っているけど、大丈夫よ。でも、心のほうが限界なのよ」

「心か。難しいなぁ。乃絵美は誰にでも心を開くわけではないから・・・・」

「心・・・・・・・」

正樹は、原因のうちの一つは自分にあると思った。それが表情に出る。

「正樹。もしかして、原因は自分にもあると思っているのだろう?」

「ああ。そうだよ。悪いか。親父」

「確かに、正樹・・・、正確には、正樹たちかな」

「・・・・・・俺達?」

「その辺はいいわ。今は、どうやって乃絵美の心を元に戻せるかでしょ?」

「そうだ。そっちのほうが大事だ。正樹と菜織ちゃんのことは本人達に任せておけばいい」

「お、親父。知ってたのか?」

「ああ。知っている」

「貴美恵はどうやって元に戻すつもりだ?」

「あなた。高町桃子さんを覚えている?」

「高町・・・・桃子・・・・さん?」

「もぅ。あなた・・・・」

貴美恵は忠志の方を見てあきれた。

「高町士郎さんは?」

「ああ。パティシエの高町さんか。思い出した」

「高町さんのところの息子さんになら、元に戻せるかもしれないわ」

「恭也くんか。恭也くんなら大丈夫だろう。しかし、貴美恵、どうやってこっちに連れて来る気だ」

「どうしようかしらね?」

「親父達、ちょっと待って。恭也って誰だ?」

「おいおい。正樹。おまえ、忘れたのか?あんなにいっしょに遊んでたじゃないか?」

「記憶にはあるが、顔が思い出せない」

「正樹のことだ。会えば、思い出すか。例えば、こういうのはどうだ?」

忠志はある案を出した。

「いいかも」

貴美恵は賛成する。

「親父。すこし、強引じゃないか?」

正樹は疑問をぶつける。
が、返答はない。

「じゃあ、私は、手配するわね」

「ああ。頼む」

こうして、忠志の案により、少々、強引ではあるが、恭也のロムレットのバイトの話が決まったのである。

そして、時は過ぎ、8月30日の夕方になるのである。


序章「再会、そして、乃絵美へ・・・」に続きます。



あとがき

ザシュッ

いきなり、切りつけてくるな。小鈴
小鈴「チッ。避けたか」
小鈴様、私の気のせいでしょうか。性格がわ・・・・

プスッ
パタッ

小鈴「京梧。あんた、今度言ったら、滅却するよ」
小鈴「今回のお話は暗く重たいですね。京梧のせいで。京梧はどうもシリアスなお話を書くのが苦手でして」
小鈴「下手くそなりにがんばっているので、許してやってください」
小鈴「って、何で、私があんたのフォローをしなくちゃ駄目なの」
小鈴「あれ。京梧がいない・・・・。逃走したか」
小鈴「作者が逃走した模様です。捕まえに行くか」
小鈴「でわでわ。皆様、感想は掲示板のほうによろしくね」



乃絵美編の始まり。
美姫 「こうして、高町家にあの手紙が届くと」
全ての始まりは、ここから。
美姫 「次回が既に気になるんだけど」
首を長くして待ちなさい。って、先に言っておくが、俺の首を伸ばすなよ!
美姫 「ちっ」
……やっぱり、やるつもりだったか。
美姫 「それじゃあ、次回を待ってますね〜」
ではでは。



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