『魔法少女リリカルなのはA's―――side『KYOUYA』』





第6話     『乱入者』




















向かい合うなのは、フェイトとヴィータ、ザフィーラ。なのはとフェイトは必死に話合いを求めているが
ヴィータ達は聞く気はないらしい。

「成る程。和平の使者なら槍は持たない、か……一理あるな」
なのははそれに対していきなり攻撃してきた人の言うことではないと言うが、そもそも戦闘に善悪はない。どちらが
先に手を出したかなど理由にはならないし、それを理由に攻撃していいわけもない。故に武器を持って和平、と言う
ならばそれは和平と言うより従属を求める脅迫だろう。従わねばこちらも攻撃することになるが仕方がない、提案を
蹴ったのはそちらなのだから。そう言外に言っているのとかわらないのだ。
まだまだ若いな、と恭也は心の中で苦笑する。




だがそんな時間もすぐさま終わりを告げる。




次の瞬間、恭也の頭上から何かが砕ける音がした。
反射的に地を蹴り、距離を取る。その時恭也の目に映ったのは落ちてくる一閃の紫の雷だった。それは先程まで
恭也の居た場所を正確に射抜き、わずかに地面を削いでいる。

「不意打ちとはな。騎士の名が泣くぞ………シグナム」
落下地点を見ながら恭也が人に話しかけるように声を発する。
「この程度、貴様には不意打ちにもならんのだろう………恭也」
ヒュンと言う風切り音とともに煙が霧散する。
其処には長い髪を夜風になびかせながら、剣の騎士シグナムが悠然と立っていた。
向かい合う二人。………やがてどちらともなく動き始める。
「………念のため聞いておくが」
恭也の持つ左右のデバイスが輝き、光刃が形成される。
「話し合いの席に着くつもりはあるか」
切っ先をシグナムに向け、恭也は構え直した。
「………言わずともわかるだろう」
シグナムも構え直し、レヴァンティンが咆哮する。




共に目を閉じ、殺気が鎌首をもたげはじめ―――





――爆発すると同時に目は見開かれ、ズダン!と言う地面を抉るような音とともに両者は激突した。








シグナムの剣が唸りをあげながら恭也に迫る。対する恭也は一方でそれを巧みに受け流し、もう一方で斬り付ける。
しかしシグナムもそれを身体を捻ることで躱し、更にその際の遠心力を乗せた強烈な一撃をもってたたみかける。

『加速《ヘイスト》』

白のデバイスが告げると同時に恭也の身体がブレた。恭也が一時離脱すると判断したシグナムは威力を損なわない
軌道を瞬時に叩き出し、追撃のため更に踏み込もうとする。

しかし

「はああぁああ!」

逆に、恭也は踏み込んでいた。

「なっ!?」
読み違えに気付いたが後ろに跳躍していては間に合わない。思考してる間にも恭也の光刃は迫っている。
そして遂に恭也の刃がシグナムに肉薄する・・・・が

「鞘!?」

――ガキッ!と言う音と共に光刃が止められた。

恭也の剣の軌道上に、いつのまにか鞘が出現していた。
シグナムはその鞘を蹴りつけ恭也を吹き飛ばすと同時に後方に跳躍する。
恭也は吹き飛ばされるもすぐに体勢を立て直し、緩やかに着地しする。
二人は剣を構えたまま再び睨み合い、瞬き程の間の後、再び戦闘を開始した。










その光景に誰もが声を出せずにいた。以前その場にいたフェイト達ですら固まっている。
レベルが違う、とフェイトは感じた。あれが、あれこそが本物の近接戦闘。それに比べて自分の戦闘のなんと幼稚なことか。
戦術の組み立て、読み合いの深さ。その全てが自分を遥かに凌駕していた。
だがそれに劣等感や嫉妬はまったくと言って良いほど感じなかった。あるのは“あんな風になりたい”という憧憬の念だけ。

フェイトの瞳は一心に恭也を追っていた。










ありえねぇ、とヴィータは心中でもらした。シグナムは技量では間違いなくヴォルケンリッターの中で一番だと断言できる。
それ故に将と皆が認めていた。だがどうだ、シグナムと撃ち合っている青年は。シグナムと互角に戦っているではないか。
本気かどうかは長年の付き合いでよく知っている。だからこそわかってしまう―――あれは間違いなく本気だ。
そしてまた、わかりたくない事実もわかってしまう。
ヴィータは人知れず歯噛みした。









「(互角じゃねぇ………………シグナムの方が、悪い)」










いったい何合撃ちあったのか。剣戟音が一度すさまじい音を響かせると同時にどちらともなく大きく距離をとった。
二人とも呼吸が乱れている。そして身体には無数の切り傷が存在していた。特にシグナムの左足の傷が深く
まだ出血がつづいている。

「二刀とは、なかなかに、遣りずらいな………」
呼吸を整えながら、しかし構えはそのままにシグナムが言の葉をもらす。
「………そちらのレヴァンティンも、十分すぎるくらい遣りずらい」
恭也もまた息を整えながら返した。レヴァンティンの変形能力に恭也は苦戦していた。剣がいきなり鞭状に変化する
ため射程が伸びたり剣で防ごうとすると絡め取られたりするのだ。何回かやられる内に対処法はいくつか編み出したが
それでも厄介なことにはかわりない。
それを聞いてどちらともが不敵に笑う。好敵手の出現を喜ぶかのように。
「このまま闘っていたいが、私には果たすべき使命があるからな。―――この辺りで幕引きといこう」
言いながらシグナムが手を前方へ掲げるとそこに鞘が出現した。それを取るとレヴァンティンを納め、抜刀術のような
構えをとる。
「俺も妹やその友人達が心配だからな。―――しばらく眠っていてもらおうか」
恭也はそれを見るなり両手をおろした。一見、無防備なそれはあらゆる場合に対応できる剣術の型の一つだ。
その事は当然シグナムにもわかるのだろう、シグナムは更に殺気を研ぎ澄ます。恭也もまた。
睨み合いは続く。
片や静、片や動。相剋する二つは次第に反発を強めていき、殺気が限界まで研ぎ澄まされ






―――お前は要らぬと互いに牙を剥いた。








「飛龍、一閃!!」
ガオン!と言う音とともにカートリッジが装填される。抜刀術の構えから鞘走りの音を響かせながら
――炎を纏った鞭剣が勢い良く射出された。

炎の龍と化したそれは自身の存在を誇示するように炎を撒き散らしながら恭也を食らわんと迫る。
龍の軌跡を残すように夜空に一筋の炎の道が出来上がった。
しかし恭也は動かない。
猛スピードで迫る炎の龍を冷静に見据える。同時に極限まで心を研ぎ澄ます。
刻一刻と迫る龍を殺せる唯一の機会を―――決して見逃さぬように。
やがて肌で熱を感じるまで龍が接近する。そして飛び散る火の粉ひとつが恭也に触れたその瞬間―――




カッ!と目を見開くと、恭也は神速状態に移行した。




全てがモノクロに支配される。
その中を移動できるのはその世界の住民のみ。世界から弾かれた炎龍はその身をまるで鎖で縛られたかのように動きが制限され
さっきまでの速度はない。
世界に捉えられた炎龍に向かって恭也は飛ぶ。落下地点には燃え盛る火の海、落ちれば直ぐに灰燼にされるだろう。
しかし恭也はためらいなく足を突っ込み―――あろうことか“走り”だした。


炎とは言え所詮は魔力でつくられたに過ぎない。故に魔力をぶつければ当然反発される。なら、その反発を利用すれば
炎の海を走り抜けることなど造作もない。――このモノクロの世界の中ならば!

炎の海をを走りながらシグナムに近づきながら突きの構えをとる。そしてあと一歩と言うところで、神速を終了させた。
まるで瞬間移動したようにあらわれた恭也に驚愕し、シグナムはすぐさま防御のために剣を引き戻そうとするが恭也が
その上にいるし、何よりまだ技の途中だった。完全に伸びきるまでは引き戻せない。
そこまで読みきっていたかのように恭也は神速の世界の中でに既に弓のように引き絞れていた剣を、撃ち出すように解放した。


御神流 裏・奥義之参 射抜


放たれる超高速の突きがシグナムに迫る。
普通ばなら絶対に避けられないそれを―――しかし、シグナムは鞘で受けとめた。




















強い衝撃が走るとともに鞘に罅がはいったが私はなんとか受けとめられたことに安堵した。
突きの一撃は確かに強力だが性質上一撃だけになる。派生技も当然あるがそれは点ではなく線の攻撃にしか派生しない。
二刀使いならば逆の剣でも突きを放てるかもしれないがそのタイムラグのうちに鞭剣は十分に引き戻せる。
一秒にも満たない間に戦術を組み上げ、相手の次の動作を逃さぬよう眼前に居るであろう敵を捉えようとして
―――見失った。
「………え」
思わず間の抜けた口から洩れた。
確かに鋭いあの突き鞘で受けとめた。そしてそれは同時にアンカーの役目もしていた。
わざと深く食い込ませることで片方の剣を封じる。例え封じられなくとも剣を鞘から抜く動作を強制するためかなりの
反撃するまでの十分な時間が稼げる、はず、だった。
しかし動かされる気配も感触もしなかった。なのに鞘の向こうには誰もいない。
あるのは鞘に突き刺さったままの“白い剣”……。



不意に、真下から猛烈な殺気が吹き出した。



皮肉にもそれで、私は、理解して、しまった。
最初の一撃、あれは突きではなく文字どおり剣を弓のように撃ち出したものだったのだろう。私が鞘で防御する
ことを読んで。そして結果的に今この瞬間、私の両手は塞がっていた。



















結論を導き出すと同時に正真証明の突きが私の腹部を突き刺し、身体ごと吹き飛ばされた。
それは奇しくも、この前の戦闘の結末と同じように。


















恭也は荒い息を整えながら落ちた白姫を拾い上げた。


御神流 奥義 射抜・追


使うのは初めてだったがなんとかできた事に安堵すると同時に美沙斗さんに感謝した。
以前、香港にいったときに教わっていてよかった。

『投げるなんてヒドイです、マスター……』
白姫から恨めしそうな声が聞こえ、それを苦笑しながら宥める。
『白姫そのくらいにしなさい。……主、闇の書の気配をつかみました』
その内容に恭也は顔をしかめる。再び緊張感が高まった。

「……場所は」
『結界の外です。……執務官が一番近いところにいるようです』
言われて、恭也は眼下を見下ろす。そこでは様々な色の閃光があちこちで激突していた。
………とりあえず全員無事のようだ。
赤い光が何度かこちらに向かおうとしていたが黄色と桃色の光にその度に阻まれていた。
心中でなのはとフェイトに感謝する。

(クロノ執務官、そこの近くから闇の書の気配を感じます)
(!……ってそんなに離れてるのにわかるんですか?)
(一度感じた気配は忘れないので。これから私もそちらに向かいます)
(わかりました……あ、あと、その、敬語はやめてもらえますか?なんというか、恭也さんに言われると変な感じで)
念話の向こうでクロノが苦笑するような気配がした。恭也としては上司に敬語を使うのは当然と考えているだけなのだが。
とりあえず了解の意を伝えると踵を返し、恭也も結界の外へ向かった。







(状況はよくないな………ヴィータもあの魔導士二人相手では辛そうだ。……シグナムは倒されてしまったしな。
ここは引くべきだ。シャマルなんとかできるか)

シャマルはザフィーラのその言葉に改めて驚愕を覚えた。以前、話には聞いたが今だにあのシグナムが負けるとは信じられない
のだ。だがザフィーラが嘘を吐く理由もない。困惑する感情を理性で抑えつけ、改めて眼前に展開される結界を見た。

(なんとかしたいけど、局員が結界維持してるの。……私の魔力じゃ破れない……。シグナムのファルケンかヴィータの
ギガント級の魔力を出せなきゃ)

そう言いながら唇を噛む。シャマルはあくまでサポート要員でありそのため魔力量も放出量も高くない。適材適所。
それがここにきて裏目に出ていた。

(だめだ……こちらは手が放せん。………仕方ない、あれを使うしか)
(わかってる!……でも、あれは………)
方法なら確かにあった。だがそれを使うのにシャマルは躊躇いがあった。……いや、おそらくは自分の仲間達なら誰であれ
躊躇うだろう。

なおもザフィーラに他の手はないかとシャマルが言おうとした時だった。


「捜索指定ロストロギアの不法所持で貴女を逮捕します」


後ろからS2Uがシャマルの首元に突き付けられ、クロノの年に見合わぬどこか威厳に満ちた声がそう告げた。















恭也は飛行しながらクロノが先に到着し、闇の書を持っていた者ををとりあえず確保したのを確認した。
「よし………」
『でもいいんですか?管理局に渡ると処置も情報の引き出しも難しくなりますよ』
「誰が持っているかわからないよりマシだろう。それにグレアムさんが協力してくれればなんとかなるだろうしな」

別に恭也は楽観的にみてこう言っているわけではない。グレアムが個人的に闇の書に思い入れがある気がしているからだ。
よくは知らないし聞いてもいないがおそらく闇の書でなにかあったのだろう。以前、民間協力者として参加したいと頼む時
に闇の書の名を聞いた時の顔や雰囲気が、自分が御神家を襲った事件を思い出したりした時と同じような雰囲気を瞳から感じた。

少しの間、思考に没頭していたが――黒姫の声ですぐさま現実に引き戻される。


『主!』
目を向けると、クロノがいつのまにかフェンスに叩きつけられていた。それで気を失ったのかそのままずるずると身体
が沈んでいた。そして、さっきまでクロノがいた場所には仮面をつけた長身の男が立っている。




「……馬鹿な!」
それを見て思わず声が出てしまった。
クロノが気絶していることというよりもその男の気配を実際に視認するまでまったくわからなかったことに対して。
いくら思考に没頭していたとて気配が増えたり近づけば普通ならば恭也は気付く。だというのに今回はまったくその気配
を感じなかったのだ。
恭也は軽く舌打ちするとともに加速した。射程距離に入ると同時に仮面の男の頭上に魔方陣を出現させ、問答無用で光刃を
射出する。
周囲に掃射音が響く。その間も恭也は高速移動を止めず接近し、剣雨の効果範囲から離脱した男に向かって二刀を交差する
ように斬り付けた。

「ちぃッ!」
舌打ちする声が聞こえ、回し蹴りで恭也の斬撃が受けとめられ同時に恭也の身体を弾き飛
ばされた。恭也は空中で身体を回転させることで衝撃を緩和する。
停止すると再び仮面の男を睨み付けた。男は僅かだがよく見るとさっき恭也を蹴り飛ばした足を庇っている。
当然だろう、さっきの恭也の斬撃は“御神流奥義之四
雷徹”だ。雷徹は御神の技の中で一、二を争う攻撃力を誇る。
いくら魔力で保護しても骨に罅くらいは軽く入る技だ。

だが、しかし恭也に気配を察知させないほどに気配を消せる相手だ。いくら脚にダメージを与え機動力を削いだとて
奇襲には注意しなければならない。
どう動くかと恭也が思案していた時だった。大気を女性特有の高く綺麗な声が震わせた。


「撃って………破壊の雷!」


シャマルのその声に反応するように闇の書が機能の一部を起動した。
「しまった………!」
その際恭也が一瞬視線を逸らす。その隙を逃さず、仮面の男が動いた。
今度は気配を感じることができ、恭也は反射的に振り返るが既に遅く、傷つけた逆側の足が鳩尾に深くめり込んでいた。
「がッ!」
一瞬呼吸が止まりくぐもった吐息とも声ともつかぬものが口から出る。そして、そのままビルの屋上へと叩きつけられた。
衝撃が頭まで突き抜ける。しかし、恭也はふらつく頭を押さえながら頭上を睨み付けた。睨みつけるだけで終わったのは
シャマルがもう転移準備に入っていていまからではおさえられないということと、さっきの脳への衝撃が予想外にひどかった
ためだ。

「時を待て。……それが正しいといずれ気付く」

仮面の男は恭也の射るような視線を受けてなお何の感情の揺らぎも見せずただそれだけ告げるとそのまま転移した。

次の瞬間には轟音が大気を震わせ凄まじい閃光が夜を照らす。
恭也は痛む身体を起こしながら結界の方を見やる。内部にいたなのは達は緑とオレンジの魔方陣に守られてどうやら無事のようだった。
結界は先の魔力爆撃で完全に破壊され騎士達も引き上げたらしく、四色の光が流星のごとくここから飛び立った。

「………………」
だが今の恭也が気にしているのは騎士達の目的や闇の書のことでもなくさっきの仮面の男のことだった。
頭の片隅で何かが引っ掛かっている。それが何なのかは分からないが脳内の記録か何かが“思い出せ”と叫んでいた。

「(あの動き……どこかで……)」

夜の風が頬を撫でる。恭也の黒とも茶色ともつかぬ髪が風の吹くままにゆれていた。




























「本格的に………調べる必要がありそうだな」






恭也とシグナムの二度目の戦いは、恭也に軍配が。
美姫 「仮面の男の登場で、彼女たちを取り逃がしてしまった恭也たち」
果たして、どうなる?
美姫 「恭也は頭に引っ掛かっている事を思い出せるのかしら」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃあ、また次回で」
ではでは。



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