魔法少女リリカルなのはA's――sideKYOUYA




第8話   『交錯』

 

 

 

 

「毎度毎度のことだが、少々面倒だな」

『しょうがないじゃないですか。直で転移したら管理局に一発でばれてしまうんですから』

 

高度は若干高めを維持しつつ、バリアジャケットを纏った恭也は空を泳いでいた。唯その空はよく見かけるような青い空ではなく濃い紫色をしている。

そして眼下に広がるのは大地ではなく高濃度の硫酸・・・・・つまるところ異世界だ。

恭也達は管理局の通常のデータベースでは調べられないものを調べるため<アクセスポイント>と白姫と黒姫が呼ぶ場所に向かっている。

管理局が調べられないものを調べられると聞くと一体どんな巨大データバンクだと思われるかもしれないがさにあらず。

ようは超高性能コンピューター――量子コンピューターやスパコンあたりを想像するといいかもしれない――によるハッキングだ。

管理局から直接やるほうが楽らしいのだがいくら協力者とて使わせてもらえなさそうなので結局いつもどおりやることにした。

それに管理局のファイヤーウォールも無能ではない・・・ということらしい。

実際に作業をするのは白姫と黒姫であって恭也はほとんど触らない・・・というか触れない。

相変わらず機械系といか電子系に弱い恭也である。

 

そのままどれぐらい飛行を続けただろうか。ようやく目的地にたどり着いた。とは言っても魔法で光学迷彩を施しているので目には見えないのだが。

そのまま止まると、両手を突き出し白姫と黒姫をかざす。指輪からそれぞれ白と黒の光を放ち魔方陣を描いていき――

『マスター!!』

『主!』

作業は降り注ぐ青の刃によって中断させられた。

 

すぐさま跳躍、飛翔。効果範囲から抜け出し、同時に白姫と黒姫を具現させる。光刃を形成し上空を見遣る。

「・・・・・・・・」

そこには青の魔方陣を足元に形成しながら恭也を見下ろす、あの時見た仮面の男がいた。

 

 

 

 

「(白姫、走査できるか?)」

(やってみます)

念話でやりとりをしつつ目は仮面の男にむけたままいる。そのまましばらく睨み合いが続き、仮面の男がゆっくりと口を開いた。

「時を待て・・・・・以前そういったはずだ。そしてそれが正しいとすぐにわかる、とも」

「・・・・・・・・」

対する恭也は無言。

頭の中でさまざまな情報を整理し結合し、未完成のパズルの最後のピースである白姫の走査の結果を待つ。

目の前の仮面の男は恭也達が頭の中でそんなことをやっているとは露も知らず恭也に同じ言葉を再三にわたって告げる。

だが恭也は応えない。そんな遣り取りにいらだってきているのだろう仮面の男の気配から苛立ちが色濃く混じり始めた。

そして最後通告のつもりで男は口を開き、同時に白姫から走査の結果が来た。

 

・・・・結果は予想できていたものの、できれば外れていてほしいと思っていた。

しかしそんなに優しくはできていないらしい。この世界は。

「・・・・・・これが最後だ。退け。そして時を待て。それが正しいとすぐにわかる」

恭也は目を伏せ、数瞬後。いつも以上に意思の光を宿した瞳を向ける。

「断わる」

そして一言の元に仮面の男の言葉の全てを叩き伏せた。

男から驚愕とそしてどこか失意と悲しみがごちゃ混ぜになった気配が伝わる。だがそれも一時。その感情の全ては覚悟というひとつに収束した。

そして片手を突き出し、そこにカード型のデバイスが出現する。

だがそれを見ても何故か恭也は構えない。いつの間にか光刃も消えている。

「・・・・なぜ、構えない」

デバイスを構えたまま仮面の男は恭也に問う。その気配から感じるのは明らかな困惑。

まっすぐに曇りのない黒い瞳は仮面の男を見ている。ゆっくりと恭也の口が開いていく。

そうして――恭也はこれよりそのペルソナを破壊する。

「俺に貴様――――――いや君と戦うつもりはないし理由もない」

「!!!!」

 

恭也の君、という言葉に過剰な反応を表した。同時に恭也の予想が真実だということが確定する。

仮面ごしでも男が驚愕しているのがはっきりとわかった。だが構わず恭也は続ける。

「そもそもここに来たのが間違いだ。ここ知っているのは俺以外では彼と彼女達だけだ」

「・・・・・・・」

「加えて俺を追跡しここを予測し先回りするのも不可能だ。妨害用の結界を常に展開しているし、かなり遠回りなルートを選んだ」

まるで糾弾するかのように恭也は次々に言葉を紡いでいく。

そうして今度口を閉ざしたのは仮面の男の方だった。恭也はただ男の言葉を待つ。

「・・・・かない・・・・・・・だ」

顔を伏せたままぼそりとつぶやいた。そして今度ははっきりとそれでいて覚悟を染み込ませた言葉を紡いだ。

「何としても、邪魔させるわけにはいかないのだ!!!!」

荒げた声を恭也に叩きつけきっと顔を上げ、カード型のデバイスを起動させる!

恭也は仮面の男になにか叫ぶが収束する魔力と風切り音でかき消される。デバイスを中心に魔力が収束し一条の光となって恭也に向けて放出された。

<Blaze Cannon>

デバイスが無機質な声を紡ぐ。恭也はしかし、なかば予想できていたかのように白姫を突き出し

絶対(イー)防御(ジス)

白の防御障壁を展開した。放たれた光条は障壁にいとも簡単に防がれ弾かれた魔力が粒子のように空中を漂う。

その向こう、いまだ輝くデバイスが恭也の目に飛び込んできた。しかしその意味を理解するより更に早く、計三つの輪還が恭也を拘束する。

「ぐっ!・・・・・・多重バインド!」

手足を塞ぐように絡めとられ恭也は眉を顰める。白姫と黒姫が即座にバインドを解呪しようと術式を走らせる。

「・・・・・すまない。しばらくおとなしくしていてくれ」

が、男がそう告げると同時に恭也に更に四つの輪還と囲うように透明な四角錐型の捕獲型バインドが展開された。

輪還状のバインドはともかくこのクリスタルケージとよばれるバインドは術式が複雑でかなりの時間がかかってしまう。

恭也が拘束されたのを確認するとそのまま足元に転送陣を展開する。それを見て恭也が何か叫ぶがその声はクリスタルケージの向こうには届かない。

叫びは届かぬままそして仮面の男は青い光に包まれ、消えた。

 

 

 

 

「くそっ!」

拘束から解き放たれると同時に毒づく。仮面の男がここで恭也を足止めしたということはつまりこれから何らかの行動を起こすということに他ならない。

そして男の目的が闇の書を完成させる事だというのは何となくわかる。・・・・・とはいえ何処に向かうのか、誰を狙うかなどわかるはずもない。

『主・・・・・とりあえず私達はできることをしましょう』

『そうですよ。何かあってもきっとあの娘達ならなんとかしてくれるはずです。きっと』

「・・・・・・・そうだな。とりあえず、俺達はできることをしよう」

息を一つゆっくりと吐き出し心を落ち着ける。白姫と黒姫を指輪形態に戻し、改めて目の前にかざす。

白と黒の魔法陣は絡み合うように展開し見たこともない魔法陣が描かれ、それに呼応するように眼の前の空間が震える。そして呼応した空間にも同形の魔法陣が現れ――――バキン、と空間が砕け散りその代わりに今まで隠されていた巨大な白亜の建造物が出現した。そして恭也の足元に自動的に転送魔法陣が展開され恭也はその建造物の中へと転移した。

・・・・・・・胸の内に、未だ消えぬ不吉な予感を抱えたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

interlude:なのは

 

 

第■■次元世界。地表付近は森で覆われているだけであとは地球のそれと大差はない。違いがあるとすれば

月の代わりにもっと大きな惑星のようなものが二つ、肉眼で目視できるということか。

その中で二人の魔導師が対峙する。片や雪の如き白、片や血の如き赤。

「ヴィータちゃん、やっぱりお話聞かせてもらえないかな?」

そう言って両手を広げる。前回の和平の使者なら槍は持たないというのを実践しているのだろう。その手には魔杖は握られていない。

「もしかしたら、だけど。何か協力できるかもしれないよ」

なのはは穏やかな笑みを浮かべて言う。だがまるで対を為すかのようにヴィータの表情は敵意剥き出しだ。

「うっせえ!管理局の言う事なんか信用できっか!」

「私、管理局の人じゃないよ。民間協力者」

ヴィータの辛言にもひるまずなのはの表情はただ穏やか。優しく、包み込むような雰囲気を纏っている。

そんななのはを見て、ヴィータの脳裏に彼女の姿がよぎる。

優しく包み込むような、母性と慈愛に満ちた、己の病の辛さなどおくびにも出さない彼女の主の姿が―――― 一瞬、目の前の白の魔導師に重なる。

「・・・・・・・・・ッ!」

ぶんぶんと頭を振ってその思考を掻き消す。今のはあってはならない思考だ。

落ち着けと自身に言い聞かせて現状の把握とこれからのとるべき行動を考える。

1、目の前の高町なんとかの言葉を信じて話してみる。

・・・絶対ありえない。却下。民間協力とは言っているがそれは一時的に管理局に属しているということだ。

また彼女に管理局と敵対しろといっても無理だろう。彼女を通じて主たるはやての情報が漏れるのは絶対に避けたいところだ。

2、戦闘する

・・・・・これも却下。闇の書で蒐集できるリンカーコアは一人につき一回。おまけに別の次元世界でシグナムとザフィーラが管理局と戦闘中。

無駄なカートリッジの使用は避けたい。

――――と、なれば。

 

「ヴィータちゃん・・・・?」

「ぶっ倒すのは――――また今度だっ!」

叫び足元に三角形を基とする魔法陣が出現し手のひらに赤い光球が浮かぶ。それを眼前に差出し

「吼えろ!グラーフアイゼンッ!!!

<Eisen geheim!>

ヴィータの意思を感じ取ったデバイスが起動プロセスを立ち上げ、魔法を実行する。

振りかぶったグラーフアイゼンをそのままヴィータの眼前に停滞している光球に向けて振り下ろす。光球とデバイスとが激突した

瞬間、凄まじい轟音と閃光が辺り一面を包み込んだ。

「あうっ」

咄嗟になのはは目を瞑り耳を塞ぐ。

――――炸裂(スタン)音響弾(グレネード)。先ほどヴィータの放った魔法は正にそれだ。

なのはが行動不能に陥っているのを確認するとそのままヴィータは最高速度でその場から離脱しアウトレンジまで距離をとる。

そしてそのまま次元転送の魔法を起動させた。

 

 

 

 

 

<master>

「うん」

閃光と轟音が止み、目を開くとヴィータは既にかなりの距離をとっていた。そのまま転移するのだろう、大きめの赤い魔法陣がヴィータの足元をてらしている。

事情を話してもらえなかったことが哀しい。もしかしたら手伝えることもあるかもしれないのに。

なのはは本心でそう思っていた。管理局だとか、そんな枠にはこだわらず助けられるのであれば助けたい。そんな愚かで醜悪でしかし何より真摯な偽善を。

レイジングハートを待機状態から起動。バスターモードに換装し、構える。

話すことをなのはは諦めない。なのはは敵であろうとも言葉でわかりあえるはずだと信じている。

でなければ、一体何の為の言葉だろうか。前回のPT事件でも話すことを諦めなかったからフェイトと友達になることができた。だから――――!

想いを弾丸に込め、レイジングハートを構え、照準を合わせ・・・・

『忘れるな。魔法も一歩間違えば人を殺しうる武器だということを』

脳裏に浮かんだ言葉に手が、緩んだ。

 

 

ある日の午後。道場でフェイトと恭也となのはが戦闘訓練をしていた。

フェイトは主に恭也との近接戦闘の訓練。なのはは近接を挑む相手と戦う際にいかに動くかの訓練。

それぞれのが一段落して汗を拭いながら休憩している時だった。

・・・ちなみに某馬鹿弟子は前夜の訓練の際に今日のことを話した恭也に「恭ちゃんがロ○コンになっちゃったーー」だの「やっぱり恭ちゃんてば精神病(ペドフィリア)だったんだね・・・」など散々言い散らした結果現在自室療養中である。

「なのは」

そう言いながらなにやら大きめの箱を恭也は持ってきてなのはの前に置く。

「?お兄ちゃん、これは」

「とりあえずあけてみろ」

そう言われ素直に箱のガムテープをベリベリと剥がし、中をあけた。隣に座っていたフェイトも興味津々といった感じでなのはの手元の

箱をじっとのぞいていた・・・・・のだが。

「お、お兄ちゃん!?こここここ、これって!」

「きょ、恭也さん!?」

箱の中身を見た瞬間、なのはとフェイトに衝撃がはしった。言いながら恭也を見て、再び箱の中身に目を向けた。

そこには一丁のライフル銃が入っていた。――――AK−47(カラシニコフ)をベースとしてつくられたロシア製狙撃銃(スナイパーライフル)Dragunov(ドラグノフ)』。

恭也は未だ硬直したままの二人をそのままにしてバラしていたパーツを組み上げマガジンに弾丸を装填し、本体にセットした。

「なのは、持ってみろ」

そして何の脈絡もなくなのはに手渡す。

なのはは必死に身振り(ボディ)手振り(ランゲージ)を混ぜながら「いいです、結構です!」といっているのだが取り合ってもらえず、結局持たされてしまった。

手に持つとズシリと重さを感じる。総重量4.3kg。まだ幼くしかも女の子のなのはが重いと感じるのは当然だった。

その様子をみて恭也は

「それが生命の重さだ、なのは」

そう一言だけいった。

 

そしてその一言でフェイトからもなのはからも今までの空気が消えた。

「その弾が頭に、心臓にあたれば確実に人は死ぬ。だからその銃の重さは生命の重さだ。わかるか?人の生命の重さはそれ(・・)だけ(・・)重く(・・)

また(・・)たった(・・・)それ(・・)だけ(・・)()重さ(・・)しか(・・)ない(・・)

目丸くして恭也を見るなのはに更に続ける。

「そしてその銃は魔法となんら変わらない。ただ魔法には殺傷、非殺傷設定という便利な機能がついているだけにすぎない」

一呼吸

「だからくれぐれも忘れるな。魔法もこの銃となんら変わらない、1歩間違えば容易く人の生命を奪えるということを」

そこまで言って、だけどこんどは微笑みながら

 

『大丈夫だ。なのはとフェイトならその力を正しく使えると、信じている』

 

 

 

 

腕に再び力が戻る。その間はほんの一瞬。

「レイジングハート!」

<All right>

光の三枚翼が輝きを増し照準を再び合わせる。

<load cartridge>

ガキガキン!と二発装填され薬莢が排出される。レイジングハートを覆うように複数の環状魔法陣が出現していく。

先端部分に魔力が収束していく。遥か先のヴィータが驚愕の表情を浮かべているのが仮想スコープごしにはっきりとわかった。

そして、魔力がここで臨界に達した。

<Divine buster EXTENSION>

デバイスが魔法の起動を確認。

「ディバイン――――――――バスターー!!!」

なのはの声が承認の合図となり膨れ上がった魔力が先端に展開された環状魔法陣によって指向性を持ち仮想スコープからの情報を精確に伝達し、ヴィータに向かって放たれた。

放たれた光はアウトレンジを一瞬で踏破し――――精確に、グラーフアイゼンを貫いた。

「なあっ!?」

その衝撃でグラーフアイゼンが半ばから折れ曲がりヴィータの手元から吹き飛ばされる。同時に維持していた次元転送用の魔法陣が

あとかたもなく消え去った。

「くっ」

痺れる手を押さえながらデバイスの元へと飛行する。次元転送は大魔法に分類される。そのためデバイスのバックアップ無しにはとてもではないが使えない。デバイス無しでも使える防御魔法や結界魔法とはわけが違うのだ。

デバイスとの距離を一瞬で詰め、安堵の息を零しながら手を伸ばし

 

 

「カートリッジロード!束縛(バインド)弾丸(ブレット)!」

 

 

聞こえるはずのない声が遥か遠くから聞こえ、同時。桃色の閃光が身体に絡みついていた。

 

 

 

 

「ふう。うまくいった、かな」

<Perfect>

なのはの呟きにレイジングハートが賞賛の声をあげた。それを聞いてえへへ、と照れ笑いを浮かべる。

――――束縛弾丸。通常圧縮魔力を込めるカートリッジに束縛魔法を圧縮して込める。通常の魔導師からみればやるのに

膨大な魔法理論を理解しなければならないし、カートリッジシステムを搭載したベルカ式デバイスでなければ意味がない。

なによりそんな無駄なことをするよりバインドを素直に覚えた方が遥かにいい。

しかしなのははカートリッジシステムを搭載したデバイスを駆使する砲撃魔導師である。砲撃魔法にバインドを付加しそれにより

高速長距離バインドを可能にした。魔法を理論ではなく感覚で組むなのはだから可能な魔法である。

軽く深呼吸してまだ拘束されているであろうヴィータのもとに飛行する。のんびりしていて解除されたのでは意味がない。

―――これでいいんだよね、お兄ちゃん。

兄の姿を思い浮かべながら飛び、やがてヴィータの元にたどりついた。未だ拘束されたままだったがなのはを見るとすぐに敵意を露にする。

どこか申し訳なさそうになのはが声をかけた。

「ヴィータち――――!?」

<Master!>

が、口から出た言葉が半ばで止まった。レイジングハートの警告音に反応しすぐさまその場から離脱しようとし・・・・・しかし魔法によって自身の身を奇しくも目の前のヴィータと同じように拘束される方が速かった。

締め付けてくる感覚に若干の息苦しさを感じながらこの魔法を放った魔導師を見据える。

「・・・・・行け。闇の書を完成させるんだ・・・・」

仮面の男はなのはを見たまま片手をヴィータに向ける。ヴィータを取り囲むように魔法陣が出現し、硝子が砕けるような音とともにバインドが解除された。

ヴィータはすぐにグラーフアイゼンを両手で構え一瞬で修復。つぎ、次元転送を開始する。

それを見てなのはも解除用の術式を走らせるが眼前の仮面の男はカードのようなものをどこからか取り出しバインドを重ねがけする。

新たにかけられたバインドの解除をしている間にヴィータは転送され仮面の男もどこかへと消えた。

バインドを解除した際の音が静けさを取り戻した空間にむなしく響く。

<Sorry.maser>

「ううん・・・・私の油断だよ・・・」

レイジングハートを抱きしめるように抱え、そのまま空をみあげる。そこにあるのは何事もなかったかのようにただ青い空だけだった。

 

                                                  ――――interlude OUT

 

 

 

 

 

interlude2:フェイト

 

第■■■次元世界。あたりは一面の砂漠。他には一切何もなく、あるとすれば巨大な蛇のような生き物の屍骸だけだ。

 

「はあっ」

「くっ」

けたたましく鳴り響く鋼の声。剣の騎士シグナムに対するは死神の鎌を振り回す魔風の魔導師フェイト・テスタロッサ。

上段から振り下ろされる一撃をフェイトはバルディッシュの先端で受け、流し、杖の中心を軸に一瞬で回転。柄でシグナムの鳩尾を抉る突きを放つ。それをシグナムは片手に持った鞘を滑り込ませ防ぐだけでなくそのまま力まかせになぎ払う。

フェイトの小柄な身体を空に打ち上げこちらも一瞬で予備動作を終了。炎を纏ったレヴァンティンはそのまま炎の魔槍と化しフェイトを焼滅させんと空を疾駆する。

だがフェイトも空中で反転。手のひらにプラズマランサーを形成、放つ。

放たれた雷槍は炎の槍に触れた瞬間霧散した。それで十全。フェイトの体制の入れ替えはすでに終了している。高速で迫る炎槍を見る。

・・・・・問題なし。彼の突きと比べればこれを捌くなど造作もない――――!

火の粉が頬に触れる瞬間、フェイトが死神の鎌が風を切った。鎌は精確に炎槍の先端を捉えそのまま旋回。遠心力を最大限利用し一瞬のうちにシグナムとすれ違い、そのまま背中に容赦なく鎌を放つ。

「ああああ!」

だがそれを甘んじて受けるシグナムではなかった。

突きの動作の途中だというのに強引身体を捻り、魔力を集中させた肘と膝で挟むように受け止めた。フェイトの目が見開かれる。

シグナムはそのまま逆脚で思いっきりフェイトの身体を蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされる瞬間、障壁をぎりぎりで展開しそのおかげでダメージ自体は大したことはないが衝撃までは相殺しきれず重力に引かれる

まま砂漠へと落下した。落下地点に衝撃で砂柱が立つ。その丁度対角線上にシグナムが舞い降りる。

そのまま砂柱が立った方を構えを解かずに見据えている。砂柱がなくなると同時にその場所にはフェイトがバルディッシュを構えたままたっていた。身体を回転させ砂を飛ばすと再びシグナムを対峙する。

<Haken form>

<Schlange form!>

両方のデバイスが声をあげる。それが合図となり共に動き出す。

シグナムのレヴァンティンの刀身が幾重にも分割されさながら刃のついた鞭のように撓る。同時にフェイトの脳裏に恭也の言葉が蘇る。

『いいか。基本的に剣戟は捌くなり避けるなりすれば問題ない。できれば捌いてカウンターを随時入れられるようになればいいが』

『だがシグナムと戦う際、あの鞭のような連刃剣は注意しろ。あれは捌くな。防ぐな。ひたすらかかわせ。下手に触れるとそのまま巻き取られ

て武器を封じられる可能性がある』

剣の鞭が唸りをあげながらフェイトに肉薄する。直線、曲線、上下左右のあらゆる方向からの空間攻撃。それをフェイトはかわし続ける。

まるでそれは何かのダンスを踊るかのよう。かわす最中、あらゆる場所に視線をはしらせ隙間をさがす。

「(あった!)」

しばらく避け続けた時だった。剣と剣の合間に極々薄い隙間が生じた。その隙間が閉じてしまわぬ前に

「ハーケンセイバー!」

鎌状の刃をそこ目掛けて射出した。

射出された刃はあっさりと隙間を通り抜けシグナムに向かって飛んでいく。それを見てシグナムは鞘を逆手にもって光刃を叩き落とそうとして

――――剣の蛇の結界がわずかにたわんだ。

「はあああ!」

<Blitz Rush>

その一瞬を逃さず剣の檻の一点をバルディッシュで強引に抉じ開けすぐさま短距離高速魔法を発動させシグナムの懐に飛び込もうとし

「ふっ!」

呼気を一気に吐き出しシグナムは自身に飛んできた光刃をフェイト目掛けて弾き返した。

「!!」

それは魔法が発動するまでの僅かなタイミラグの間に起こった。発動しかかった魔法はキャンセルできずハーケンセイバーをマトモに受けてしまう。なんとかバルディッシュの黒斧で受け止めたが今度は急加速→急停止の凶悪な慣性の力がフェイトの全身をうちのめした。

そのまま砂漠をすべるように吹き飛んでいく。苦痛に顔をゆがめるが突然はっ、としたように目を開き自分の眼前の空間にバルディッシュを振るう。

ガギン!という鋼の声がこだまする。弾かれた剣先が顔すれすれを通過し砂に突き刺さった。すぐさま転がり→跳ね起き→構える。

コッキング音とともに死神の鎌が現れそれを見たシグナムも剣と鞘を両手に構える。

一瞬の沈黙の後駆け出した。高速移動でシグナムの背後にまで一瞬で距離を詰め鎌を振る。シグナムの鞘が鎌を受け止め、剣が一直線に空を翔る。

片手を死神の鎌から離し障壁展開→顔の前に突き出す。手の甲の障壁がギシギシと音を立てながらかろうじて防ぎきった。

そしてそのまま――――跳躍。剣でとめられたバルディッシュとおなじくとめているシグナムの剣を支えにして高く高く跳ぶ。

「プラズマ――――」

もう一度デバイスにカートリッジ装填。フェイトの足元に雷の魔法陣が展開。幾重もの環状魔法陣が砲身を形成していく。

「飛竜――――」

シグナムの足元にも同様に三角形を基礎とした魔法陣が展開し鞘に剣を収めカートリッジ装填。膨大な魔力が足元から湧き上がる。

そして次の瞬間

「――――スマッシャー!!」

「―――― 一閃!

まったく同時にそれぞれの魔法が発動した。中間地点でお互いがぶつかり合い削り続け、相殺した。

だがそれよりも疾く、シグナムとフェイトは駆け出していた。カートリッジが装填され魔力が載せられた一撃をシグナムが繰り出す。

フェイトも空中から地面へと飛びながらカートリッジ装填。

「はああああああ!」

「あああああああ!」

お互いの一撃が物理的な衝撃波を伴って激突――――しなかった。

「なんだと!?」

声を上げたのはシグナムだった。フェイトは先ほどの渾身の一撃を捌き、流し、慣性を利用してバルディッシュを半回転。重力を乗せた突きをシグナムに向かった放った。

ここまでならいい。シグナムが声をあげたのはその柄部を見たからだ。

柄の部分に、魔力の球体が展開していた。それはさながら槍の石突のように。

位置の差だろうか。鞘による防御も障壁の展開も一瞬間に合わず突きをまともに受けたシグナムはそのまま砂の地表へと墜ちた。

 

 

 

 

・・・・・・一体何度目の激突音だろうか。

その反動を利用しフェイトとシグナムが大きく距離をとる。

「(疾いな。目で追えない攻撃がでてきた)」

肩で息をしながらちらりと忌々しげに太陽のような恒星をにらむ。暑さによる体力の消耗が激しい。

「(それにしても強いな・・・・・・彼の弟子というだけある)」

それは戦闘開始直前。シグナムがフェイトに恭也はいないのか、と聞いたときだった。

師匠(恭也さん)は来ません。――――私が、あなたを倒します』

最初は何を言っているのかと思ったが戦い始めてみればあれは本当だったのだなと思う。恭也のようなパワーはないがスピードは彼に迫るものがあった。

攻撃についても、以前戦闘したときよりは格段によくなっている。パワーが足りないなら手数で。

そんな理論が垣間見えた。

とはいえ、ここで負けるつもりもない。片腕の出血はあるがそこまではひどくない。だが体力の無駄な消耗になるのも確かだった。

一呼吸置くと剣と鞘を構えなおしフェイトを見据える。

 

 

 

「(やっぱり、強い。クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっぱなしだ)」

フェイトは肩で息をしながらしかしシグナムを見据える。片脚から出血してはいるがシグナムの傷からみれば大したことはない。

ただ幼いフェイトとシグナムとでは体力の容量が違う。たとえ小さな傷でもフェイトにとっては十分な足枷になる。しかも傷を受けたのは機動力の要たる脚だ。速度は少なからず落ちる。

「(今は速さでごまかしてるけど・・・・・・それがなくなったら一気に押しつぶされる)」

腕に力を込めてバルディッシュを構える。今までなんとかなったのは速さと恭也との訓練のおかげだった。

『いまから戦闘について色々教えてもあまり意味がない。だから俺がとりあえず教えるのは一つだけだ』

『俺の攻撃を全て、捌いて受け流せ。防御禁止』

・・・・・思い出したら背筋がゾクリとした。だが結果的にそれが役に立っていた。自分ではどうしようもない力の差は手数とカウンターでカバーできている。

しかしそれもどこまで持つか心もとない。暑さはシグナムだけでなくフェイトの体力も確実に奪っていた。

 

 

両者は再び武器を構え対峙する。

「(シュトゥルムファルケン・・・・・当てられるか)」

「(ソニックフォーム・・・・使うしかないかな)」

一瞬の沈黙。強すぎる陽光が二人を照らす。そしてそれぞれの思惑を胸に、いっきに駆け出した。

 

――――――――その、刹那。

 

「・・・・・・え」

「・・・・なに」

 

腕がフェイトの胸から生えていた。

フェイトの脳裏にあの時のなのはの様子が浮かび上がる。ノイズ混じりに浮かんでは消え行く、この事件の発端。

得体のしれない恐怖に身体が硬直する中で首だけをなんとか動かし、後ろを見る。そこにあるのは表情をうかがわせない冷たい仮面。

胸から生えた腕から魔力が発せられる。その衝撃が容赦なくフェイトをつらぬき

「ああああああ・・・・・・・ぁ」

一瞬で意識を狩り取った。ぐったりとうなだれるフェイトを見てシグナムが怒気を顕わに声を荒げようとして

「さあ・・・・・奪え・・・・」

仮面の男の手のひらにあるものをみて固まる。花が開くかのように開いたその中にあったのは紛れもなく

 

 

 

――――リンカーコア、だった。

 

 

 

                                               ――――interlude OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

明滅する様々な機器。寸分の隙間なく埋められている機械の中で、ただ一点が一際強く発光していた。

恭也が座っているそこには恭也を取り囲むように無数のウィンドウが開いていた。その画面の中ではすさまじいスピードでなにかが

打ち込まれては消えていくのを繰り返している。

しばらくたった頃だろうか。無数に展開されたウィンドウが一瞬にして消え、たった一つだけが残った。

Personal Date.....ok/protect off. pass■■■■■■......ok/date loding.................complete.

無機質な承認プロセスが終了し。いくつかのウィンドウが再び浮かび、その一つ一つに恭也が目を通していく。

「・・・・・・くそっ!」

全てのウィンドウに目を通し終わると握り締めた手を座っている椅子に向かって振り下ろした。ガツンという鋼の音が無音の部屋に

響く。

『マスター・・・・・』

『主・・・・・・』

白姫と黒姫が気遣うように声をかける。作業を終えた二つのデバイスは再び恭也の指へと嵌められている。

 

恭也の目を通したウィンドウには管理局のここ最近のロストロギア関連の事件の詳細などに加えてそれについての作戦要綱やデバイスの

開発記録にいたるまで、重要機密レベルの情報が羅列している。

「俺が止める・・・・・そんなこと、させてたまるか・・・・・!」

何かを思い出し、手をきつく握り締め、目の前に二つのウィンドウを呼び出す。

 

 

『捜索指定遺失物ロストロギア《闇の書》の永久凍結封印要綱』

『永久凍結封印用ストレージデバイス開発計画。Project《デュランダル》

 

そしてその二つの作戦および開発データの末尾にはどちらとも同じようにこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――総責任者:ギル・グレアム





仮面の男の正体へと辿り着いた恭也。
美姫 「でも、彼らを止めるまでには至らなかった」
さてさて、これからどう動く。
美姫 「そして、どうなるの!?」
いやいや、続きが待ち遠しいね〜。
美姫 「本当よね」
次回を待ってます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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