『魔法少女リリカルなのはA's side『KYOUYA』』




         

     

第11話    『夜天の魔導書』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を焼くような閃光が収まった後。そこには戻ってきた親友の姿と二色の光が存在していた。

夜天の魔導書から切り離された防御プログラムは深い闇の色を湛えながらそこにあった。その前に夜の天の名にふさわしい光が小さくしかし強く耀いている。

その様子を幼き小さな魔導師の少女達―――高町なのは、フェイト・テスタロッサは見つめる。その傍には黒の剣士と赤の使い魔、緑の護り手の姿があった。

小さな光から四色の光が生み出された。四色の光は寄り添う様に、護るように母なる光の傍に。

四色が弾け、それは人の姿を取る。そうして、騎士甲冑を身に纏った4人の守護騎士が―――再び舞い降りた。

「ヴィータちゃん!?」

「シグナム!?」

烈火の将、剣の騎士シグナム。鉄槌の騎士ヴィータ。湖の騎士シャマル。盾の守護獣ザフィーラ。

闇の書、いや夜天の魔導書によって生み出されたベルカの騎士達。主を護るが彼らの存在意義にして存在証明。

――――――故に。そこに主がいるのなら、たとえ地の果てからだろうと駆けるけるのが当然にして責務。

母なる光が爆ぜた。今の言葉が意味するところを証明するかのように。

「夜天の光よ我が手に集え」

光から現れた人影は少女達がよく見知ったものだった。姿を見た瞬間、なのはとフェイトは嬉しさから彼女の名前を呼ぶ。

その言葉に少女は微笑み返し手に持つ剣十字のレリーフを象った杖を高々と掲げる。

「祝福の風リインフォース―――set up!」

詠うような声に導かれるように杖の先端から闇色の光とそれを打ち払う白色の光が溢れ、彼女を包み込む。

その光は彼女を護る甲冑となり、夜天の魔導書と完全な同調を果たした証に瞳の色と髪の色が変化する。

光が収まったそこに居るのは一人の少女ではなく魔導師にして騎士。

―――――夜天の王、八神はやて――――――

ここにきて、彼女は真なる覚醒をみせた。

 

 

 

 

 

 

 

「恭也さん」

「ん・・・・・クロノか」

目の前でははやてにヴィータが泣きながら抱きついている。残りの守護騎士達はそれを優しく見つめていた。駆け寄っていったなのはとフェイトも同様に。

そんな様子を恭也は少しはなれたところから見守っていた。自分がいけば確実に水をさしてしまうだろうし、それに防衛プログラムをどうするか考えなければならなかった。

自分の近くに寄ってきたクロノに目をやるとその片隅にクロノの手に見慣れないカード型デバイスがあるのに気付いた。

「デュランダルか」

「はい。グレアム提督に託されました。『どう使うのも君の自由だ』と」

クロノはそう言いながら、恭也はその言葉を聞いてどちらとも薄っすらと笑みを浮かべた。

そしてクロノは言いながら何かを思い出したのかバリアジャケットのポケットの中から一枚のカード状のデータディスクを取り出し恭也に渡した。

「これは?」

「さあ?僕には何も。ただ恭也さんに渡してくれと言われただけで」

そうか、とクロノに言うと恭也は渡されたカードの裏側を見てラベル欄になにか書いてあるのが目に止まった。

 

 

Snow White』

 

 

恭也は首を傾げていたが彼のデバイスたる白姫と黒姫にはわかったようで念話ごしに恭也に伝える。

『<Snow White>は<白雪姫>ですよマスター』

『主でも概要くらいはおわかりだと思います』

白雪姫。子供の頃におそらくは誰しもが読んだことがあるであろう童話。もっとも、恭也は幼少期は特殊だったため読んでいなかったがなのはが幼い頃読んでやった記憶があった。

昔の記憶を引っ張り出し、内容を思い出そうとして――――――このラベルに記された意味を理解した。

「なるほど・・・クロノ、わざわざ済まないな」

「いえ。それより時間があまりありません」

「そうだな。行くか」

そう言って頷くとクロノと恭也は少女達の元へと駆けていった。

 

 

 

「あと数分であの闇の書の防衛プログラムは暴走を開始する。僕らはあれを止めなければならない。現状では方法は二つ」

最初に「水を差して済まないが」と断りをいれてからクロノのはなのは達に説明を始めた。現状と、あれを止める方法について。

「一つは極めて強力な凍結魔法で停止させる」

彼の持つ凍結魔法特化型ストレージデバイス『デュランダル』は凍結属性をもたないものでもかなり高度な凍結系魔法を使えるという管理局の最新技術を導入したデバイスだ。

そもそも闇の書の永久凍結封印用に開発されたデバイスだけあってその威力は折り紙つきだ。

「もう一つは軌道上に待機させてあるアースラのアルカンシェルで蒸発させる」

管理局の大型艦に搭載されている魔導砲アルカンシェル。着弾後に空間歪曲と反応消滅を引き起こし対象を殲滅させる管理局屈指の兵器。

特定条件を満たしていない限りは使用の許可が下りないほどの威力を誇る。

「これ以外に何か手がないか。闇の書の主とその守護騎士の皆に聞きたい」

そう言ってクロノははやてとその守護騎士の面々を見る。

「えっと、最初のは多分難しいと思います」

どこかおっかなびっくりといった感じでシャマルが挙手しつつそう答えた。

「たとえ凍結させてもコアがある限り再生機能がとまらない」

シグナムがシャマルの後を継ぐように言う。

「あとアルカンシェルもぜっっったい駄目!!こんな所で撃ったらはやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!!!」

目の前で大きくぺけを作りながらヴィータが語気を高くして言った。

ヴィータの「はやての家までぶっ飛ぶ」という言葉になにやら並々ならぬものを感じてなのはが隣にいたユーノに説明を求め、答えを聞いて唖然とした。

「あの!私もそれ反対!」

「私も、絶対反対!」

アルカンシェルの威力の凄まじさを聞いたなのはとフェイトに必死に「反対!」と言われクロノは少し困った顔をしながら口を開こうとしたがそれより先にさっきまで傍観していた恭也が二人を諌めるように口を開いた。

「だが暴走が始まれば被害はアルカンシェルの比じゃない」

「ふたりとも、恭也さんの言うとおりだ。僕も母さんも撃ちたくはないがアルカンシェルでなければ止められないというならアルカンシェルを撃つしかない」

恭也とクロノの言葉にふたりは二の句を告げなくなってしまった。守護騎士達も実際に暴走の現場に立ち会うのは初めてらしくあまり案が思い浮かばないようだった。

「あーもー!鬱陶しいね!みんなでズバー!っとやっちまうわけにはいかないのかい!?」

「あ、アルフ・・・・」

「い、いや、事態はそんな単純なものじゃないんだ・・・・」

さっきから流れていた暗いというか悶々とした空気に耐え切れなくなったアルフが思わず言葉を漏らしてしまうがそれで解決できればこんな風に悩まないわけで。

クロノやユーノといった面々は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「ふむ・・・・」

しかし恭也はアルフの言葉に何か感じたのか手を口元に当てながら一瞬思考して

「いっそ、あれごと宇宙空間に放り投げてしまえばいいんじゃないか?」

と、こともなげにのたまった。

恭也の言葉に皆唖然とするしかなかったが、なのはとフェイトとはやてはその言葉に目をきゅぴーん!と漫画ばりに光らせて

「それだよ!」

「それです!」

「それや!」

どこぞの名探偵のように恭也をびしっと指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恭也さんからあんな発言が出るとは思いませんでしたよ・・・・」

暴走開始まであと2分だと、たった今エイミィから報告が来ていた。

恭也の隣でデュランダルを構えていたクロノがそう口を開いた。

結局恭也の案で行くことにあの後決定した。具体的には防衛プログラムの障壁を全て破壊し、なのは達の一斉砲撃でコアを露出。

露出したコアをユーノとアルフ、シャマルで軌道上まで長距離転送。あとはアースラのアルカンシェルで蒸発させるといった感じだ。

クロノ曰く、個々人の能力だよりの博打のような作戦。しかし現状でこれが最良であることも間違いではなかった。

「俺の家も消滅してしまうのも困るからな。宇宙なら誰にも迷惑がかからないだろうと思っただけだ」

恭也は恭也で、しれっとそんな事を言う。恭也の周りにはHGSやら夜の一族、退魔師、妖と言った特殊な人物や突飛な思考の持ち主が集まりがち(しかもほぼ女性)だからそれに感化されてしまったのかもしれない。

本人が聞いたらまず間違いなく顔を顰める事請け合いだ。無論、理性的な思考も持ち合わせているのは言うまでもない。

「恭也さーん」

暴走後の行動についてクロノと確認しあっているときだった。さっきまでなのは達の方にいたはやてがこちらに向かってきていた。

恭也が声のする方へと向き直ると、ちょうど同時にはやては肩ぐらいまでの金髪の女性と共に恭也の前で止まる。

「どうした?」

「んとな、恭也さんの傷の治療しよ思って。・・・・シャマル!」

「はい。クラールヴィント、お願い・・・」

はやてに付き添ってきていたシャマルが自身のデバイスの名を呼ぶと足元に緑色の魔法陣が浮かび上がり、その手に嵌められた指輪が耀く。

同時に恭也の身体を淡い緑色の光が包み込み損傷していたバリアジャケットや消耗した体力、魔力を癒しその結果恭也の状態は戦闘前のものと同じ状態だと言っても過言ではないものになっていた。

「これは・・・・有り難うございますシャマルさん。かなり楽になりました。それとはやても有り難う。助かる」

言いながらシャマルとはやてに微笑む恭也。

「へ!?あ、いいいいいいいいいえ!た、たいしたことじゃないですし私これぐらいしかできませんし!?」

「え、ええんよ!恭也さん!実際やってくれたんはシャマルやし!」

顔をこれでもかと言わんばかりに真っ赤にしながら両手を左右に振るシャマル。はやても以下同文。

何故シャマルとはやてがこんなに慌てているのか判らない恭也はいつものごとく首を傾げるばかりだったが。

『く・・・・!私だって、私だってえええええ!!!!』

『ちょ!?おちつきなさい白姫!』

そんな遣り取りがデバイス間であったとかなかったとか。

ちなみに余談ではあるが

「・・・・・はっ!な、なんで僕まで見惚れているんだ!!?ちちち違う!僕はノーマルだ!そうに決まってる!・・・・そうであってくれ!!」

なぜか恭也の微笑みに顔を赤くしていたクロノは必死に自分にそう言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざばぁああああん

 

 

魔導師と騎士達の足元から突如として海面を貫く音が耳を打った。

その音と共に闇色の球体の周りから同じ色をした柱が海面から次々に立ち上っていく。

「・・・始まる」

誰に言うでもなくクロノが一人呟く。

立ち上った柱は闇の球体を守護するように、その誕生を祝うかのようにそこに在った。

やがてその柱が一柱ずつ消えていき、平行して球体が少しずつ海面から浮上していった。いや浮上していくのではなく肥大していっているのだ。

「闇の書の・・・・・闇」

はやては片手に抱いた夜天の魔導書を抱きしめながらそう呟く。夜天の魔導書を闇の書と呼ばせた元凶。それが今、目の前で降臨しようとしている。

全ての柱が消え去り最初より遥かに大きく肥大した闇色の球体―――――卵だけが残り、その殻に少しずつ亀裂が入っていく。

びしり

亀裂が入っていく度に濃密な闇が外に少しずつ漏れだす。

びしり ばしっ

見る間にその亀裂は卵全体にまで及んだ。

ばしっ ぱきり

とうとうその欠片が剥がれ落ち、中に潜む異形が見え始めた。

ばき ばき ばき

異形の姿の全貌が見えようとしていた。中にいる異形は早く外に出たいのか我慢の限界に達したようにその身を震わせ

 

 

刃気ィ意異医鋳威ん

 

 

この世のモノとは思えない音を撒き散らしながら、闇の書の闇は世界に産まれ堕ちた。

 

 

 

だがその異音は同時に戦いの狼煙であり鐘でもあった。

 

 

 

「チェーンバインドッ!」

「ストラグルバインド!」

その異形に恐怖を感じないわけではない。その闇の深さに呑まれそうにならないわけではない。

ただ、それよりも遥かに強き意思があるだけの話。周りを見れば判る。戦場に立つ彼ら、彼女らの瞳に恐怖はない。あるのはただ鋼のよりなお強い意思――――

アルフとユーノの放ったバインドが異形の周囲から伸びている大小様々な触手に絡みつき引きちぎっていく。

「鋼の軛!」

それだけでは終らずザフィーラより放たれた鋼色の鞭が残存していた触手を悉く蹂躙していく。

触手もおそらくは異形の身体の一部なのだろう、異形の口からは悲鳴じみたものが聞こえていた。

しかし異形が攻撃を開始する間もなく更なる一手が放たれる。

「ちゃんと合わせろよ!高町なのは!」

上空で待機していたヴィータがなのはに合図する。なのははヴィータが自分の名前をちゃんと言ってくれたことに少しだけ驚き、それより多く嬉しく感じて

「ヴィータちゃんこそ!」

言いながら不敵に笑った。

その言葉と表情に一瞬ではあるがヴィータも同種の笑みを浮かべ、異形に向き直り今度は騎士然とした表情でデバイスを構える。

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!!」

<Gigant form!!>

ヴィータが名乗りを上げると共にグラーフアイゼンにカートリッジが装填される。溢れ出す魔力と己の主の言葉に応えるように鉄の伯爵もまたその身を最強のそれへと作り変えていく。

出来上がったのはヴィータの身より大きな戦槌だった。そしてそれだけでは終らない。

「轟!天!爆!砕!!」

ぐるりと戦槌を振り回すと大きさはもはやヴィータの数十倍はあろうかと言うぐらいにまで巨大化している。

ヴィータの身長では明らかに持てないであろうそれをしかし軽々と扱い、彼女の持ちうる最強の魔法を放つ。

「ギガントシュラーーークッ!!!」

放たれる戦槌はもはや城塞槌だった。古の戦より用いられてきた敵の城門や城塞を問答無用で破壊する暴力の塊。

その象徴に違わずグラーフアイゼンは異形を護る障壁の一枚をこともなげに粉砕した。

 

 

 

 

――――残り3枚

 

 

 

 

「高町なのはとレイジングハートエクセリオン、いきます!」

ヴィータに倣うように己の名と相棒の名を告げる。声に呼応し足元には桃色のミッド式の魔法陣が浮かび上がり己の魔杖を異形に向けて構える。

「エクセリオンバスター!」

Load Cartridge>

聞きなれたコッキング音が鳴り響き、弾丸から溢れる魔力を示すようにレイジングハートから光の翼が展開していく。

なのはに集まって行く魔力に危険を感じたのか異形から新たに生み出された触手がなのは目掛けて襲い掛かる。

Barrel Shot>

しかし襲い来る触手の全てはレイジングハートの声と共に放たれた不可視の弾丸によって行く手を遮られ、なおかつ空間に固定されてしまう。

そしてそうこうしている間にも本命の魔力のチャージは終了した。

仮想スコープ越しに狙いを定め、起動キーと共にその引き金を引いた。

「ブレイクシューーート!!!」

撃ちだされた四つの魔力砲撃。それらは拡散することなく一点に集中し『フォースバースト』の名に違うことなく着弾後に大きく膨れ上がり――――周辺の触手を巻き込みながら爆発し障壁を粉砕した。

 

 

 

 

 

――――残り2枚

 

 

 

 

「・・・・私の番だな」

その様子をなのは達から離れた上空で見守っていたシグナムはそう呟くと鞘に収めていた剣――レヴァンティンを引き抜く。

「剣の騎士シグナム。その魂、炎の魔剣レヴァンティン」

己が騎士名と共にデバイスの名を高々と告げる。

シグナムの身に纏う魔力は今までのそれとは比較にならない。彼女もまたヴィータ同様、己の持つ最強を放とうとしていた。

「刃と連結刃に続くもう一つの姿」

言いながら剣の柄に鞘を当てる。するとレヴァンティンにカートリッジが一発装填され剣と鞘が紫光の魔力に包まれ、新たな姿を現した。

Bogen form!>

それは弓だった。両端が剣のようではあるが弓。なれどそれは弓でありながら剣のような鋭い耀きを放っている。

さらにカートリッジが二発装填。シグナムが弦に手をやり少しずつ引いていくとつがえていない筈の矢が魔力で形成された。

実際には音はしないものの今にもギシギシという音が聞こえてきそうなくらい序々にしかし力強く弓を引き絞っていく。それに伴い矢に収束する魔力もまた凄まじい勢いで上昇していく。

それを証明するようにシグナムの足元の魔法陣からは先ほどから炎があがっていた。

「駆けよ!隼!!」

Stulm Falken!>

限界に達した魔力の矢はシグナムとレヴァンティンの声に反応し、放たれた。

だが飛んでいく矢はもはや矢とはいえなかった。威力で言うならばそれは矢というよりミサイルに近い。

<嵐の隼>の名を冠した矢は一瞬するかしないかの間に空気の層をぶち抜く音を撒き散らしながらたやすく音速を超越し――――着弾。

着弾した矢はミサイルのように爆発し爆音で周囲の空気を蹂躙していった。

当然の如く障壁は砕かれ、更にその奥の最後の障壁にもダメージを与えていた。

 

 

 

 

 

 

――――残り一枚

 

 

 

 

 

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュサンバー。・・・・行きます!」

シグナムの攻撃によって障壁が破砕されたのを確認するとフェイトもまた自身の名とデバイスの名を告げ、身の丈より長大な大剣を振るう。

バルディッシュにカートリッジが装填され、足元に黄色の魔法陣が展開されたのを確認すると両手で持った大剣を呼気とともに薙ぐ。

剣からは衝撃波のようなものが放たれ異形によって次々と作り出されている触手の一角を切り払い同時に射線上の異形の身を拘束した。

薙ぎ払った勢いのまま振り回し空に向かって高々と掲げる。すると剣の頂点に魔力で構成された雷が落ち、雷は剣に巻きつくように帯びていく。

「撃ち抜け!雷刃!!」

Jet Zamber>

大上段から振り下ろされる大剣はその過程で次第に伸長していき異形に到達する頃には長さ数10メートルの剣となっていた。

刃が異形を護る最後の障壁に咬みつき、ほんの少しの拮抗の後完全に破砕。障壁では勢いを殺しきれなかったのかそれとも魔法の性質なのか剣は止まることなく振り下ろされ異形の一部を完全に切断する。

 

 

 

 

 

これで4枚あった障壁は完全に破壊された。

異形は斬られた痛みと怒りからか今までには見たことのない触手のようなものを海面から発生させ、その触手の瞳のような部分に魔力が集結し、発射体勢に入っていた。

照準は先の大斬撃で僅かな隙を残したままのフェイト。

「させん!」

鋼鉄(アイア)(ンメ)処女(イデン)・斬刑>

だがそれを見逃す恭也ではない。両手の篭手がそれぞれの光を発し、先端から幾重もの銀光の糸が伸び魔力砲が撃たれるよりも速く絡みつき切断する。

再度両手を振るい、銀光の糸は海面に出ている全ての触手状のモノに絡みつくように広域展開され――――いっきに切断した。

「はやてちゃん!」

その様子を見ていたシャマルは遥か上空で待機していたはやてに声を飛ばす。はやても声を受けると頷き返し、夜天のページの一箇所を開く。

「彼方より来たれヤドリギの枝、銀月の槍と成りて撃ち貫け!!」

朗々とまるで詠うかのように言の葉を紡いでいく、そしていつしか言の葉は力を持ちその威をここに示す。

背中にある三対六枚の翼を震わせながらはやては手に持つ魔杖を振るい、三角形を基とした魔法陣を異形に向かって展開する。

魔法陣の先には七つの高密度の光の球が生み出され、主の言葉を今か今かと待っている。

「石化の槍、ミストルティン!!」

はやての言葉に剣十字を持つ魔杖が強い光を放ち、主の意を得た光の球は槍と化し標的にむかって殺到していく。

一本突き刺さる毎に異形は叫びをあげ、刺さった槍を基点としてその身は石化の呪いに蝕まれていき、数分とかからず全身が石化し脆くも崩れていった。

――――――――それでも異形は倒れない。不死の身の如く傷を受けるたびに再生を繰り返し身体を作り変えていっていた。

その事に気付いているエイミィから通信があったがクロノはダメージは通っている。プランの変更は無しだと言ってデュランダルを起動した。

「いくぞデュランダル」

Okey,Boss>

ストレージデバイスでも簡単な意思疎通能力はあるのかクロノの言葉にデュランダルが応える。そしてデュランダルに魔力を流しながら高位魔法に分類される魔法を放つためにクロノは詠唱を開始した。

「悠久なる凍土。凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ・・・・・」

クロノの描いた魔法陣から極小の魔力で編まれた雪が降り付け、雪に触れた海が、異形の身が、悉く凍結していく。

そして詠唱を終えるとありったけの魔力をデュランダルに注ぎ込み、叫んだ。

「凍てつけぇ!!!!」

Eternal Coffin>

デバイスのコアクリスタルが強く強く蒼色に耀き、その耀きに比例するように一瞬にして異形の身が凍りつき一部の弱い箇所は何もせぬまま砕け散った。

しかし未だ氷の棺に閉じ込められながらも異形はもがいている。戦闘前にシャマルとシグナムが言ったとおりコアが健在である限り闇の書の闇は止まらないのだろう。

されどそれは最初から判っていたこと。もとよりこの凍結魔法は異形の再生および成長を押さえ込むためのものだ。故にこちらには更なる一手が残されている。

「フェイトちゃん!はやてちゃん!」

「うん!」

「ん!」

なのはの構えていたレイジングハートに全てのカートリッジが叩き込まれ膨大な魔力が注ぎ込む。主の意を受けたデバイスは己が持つ最強を顕現させる。

STAR LIGHT BREAKER>

周囲に満ちているマナが魔力に変換され、流れ星のようにレイジングハートに降り注ぐ。

小さな星の欠片たちは身を寄せ合いやがて大きな星そのものに変化していく。その星は凶つを打ち払う聖なる光。

この夜に相応しい人々を遍く照らすスターライト。

「全力全開!スターライト―――――――」

フェイトの持つ大剣が装填され、開放されていく魔力に震える。巨大な魔法陣による儀式魔法により数多の落雷が大剣へと落ち、力を帯びていく。

古来より雷とは裁きの象徴だった。人が人に下す裁きではなく、天が人に下す神罰。現世において、再びその代行者が現れた。

数え切れないほど多くの人生と幸福を飲み込みそれだけでは飽き足らず己が身さえ飲み込みんだ罪を今ここで断罪する。

「雷光一閃!プラズマザンバー―――――――」

はやても魔杖を天に向け掲げる。集結する魔力は今までとは比べ物にならない。放たれる魔法は夜天の魔導書が保存する最強最大のそれだった。

一瞬、ほんの一瞬だが戦意を宿したはやての瞳が翳る。瞳に映っているのは眼下でいまだ必死にもがく闇の書の闇。

「・・・・ごめんな・・・・おやすみな・・・・!」

異形は夜天の魔導書を、リインフォースを、そして自分を脅かしていたというのにそれでも目の前の存在が消えてしまうことに悲しみを感じてしまっていた。

理由はおそらく無い。ただ一つの命が失われることに涙しているだけなのだ。その様は正に慈愛の聖母。

―――――――しかし母とて自分の子供が傷つけられれば怒りもし、剣も持とう。

顔をあげたはやての瞳にもう悲しみの色はなくあるのは戦意と決意。

「響け終焉の笛!ラグナロク!」

魔導書と魔杖にはやての魔力が走り、眼前におおきなベルカの魔法陣が現れ三つの頂点のそれぞれに滅びの極光がその存在を表した。

そして

 

 

 

 

「「「ブレイカーーー!!!」」」

 

 

 

三人の起動キーが声を合わせながら発せられた。

同時に発射される三方向からの魔力砲撃。規模で言えば大魔法を超越しているであろう威力が、異形の様子から見て取れた。

異形を拘束していた氷の棺は一瞬で破壊されその中にいた異形は再生速度を超えるダメージにより自分を構成した有機、無機を問わず片っ端から破壊され――――とうとうそのコアが露出した。

「捕まえた・・・・!」

その機会を逃さずシャマルが旅の鏡で拘束。

「長距離転送!」

「目標、軌道上!」

コアの上下にユーノとアルフの魔法陣が閉じ込めるように現出し

「「「転送!!」」」

三人が一斉に転送魔法を重ねがけし、その結果虹色に耀く巨大な環状魔法陣を形成。そのまま空間を歪曲させ一気にコアは軌道上へと飛ばされていく。

 

「コアの転送を確認。・・・・!転送されながら生体部品を再構築!すごい速さです!」

アースラのオペレーターの一人がモニターをみながら報告した。

コアは擬似歪曲空間を飛ばされながらその身を再生していた。すでに小さいながらもなのは達と戦っていた時の状態に戻ってきている。

「アルカンシェル、バレル展開!」

アースラの先端部を覆うように巨大な環状魔法陣がいくつも形成されていき一息で砲身をつくりあげていた。そして収束していく魔導兵器の名に相応しい膨大などという言葉では到底足りないほどの魔力。

「命中確認後、安全距離まで退避します。準備を!」

アルカンシェルのトリガーでもあるファイアリングロックシステムに鍵を差込みながらリンディは艦員達に告げる。

アルカンシェルは射程と効果範囲が一致しない。故に発射後退避しなければ艦も反応消滅と空間歪曲に巻き込まれることになる。

「!」

とうとう現れた闇の書の闇にクルーの一人が息を呑んだ。有機物と無機物を強引に融合させ、なおかつ未だ再生を続ける姿は醜悪の一言に尽きる。

だがこの場に現れた以上、モニターの前の命運はここで尽きる。

「アルカンシェル、発射!!」

鍵が回される。ガチリという音ともにアルカンシェルは発射された。

撃ちだされた閃光は寸分の狂いもなく異形を捉え空間に閉じ込め―――――――滅びが始まった。

閉じ込められた空間を中心に幾重にも何度も何度も空間が歪曲。歪曲に耐えられなくなり一度目の消滅。それに連鎖するように歪曲した数だけ消滅消滅消滅・・・!

最後に、美しい赫い閃光を放ちながら終焉の幕は閉じた。

「効果空間内の物体、完全消滅。再生反応ありません・・・!」

「うん。・・・・準警戒態勢を維持。しばらくは反応区域内の観測を続けます」

「了解・・・・・・!」

ふう、と息を吐きながらずるずると椅子にもたれかかる。艦長はああ言っていたがアルカンシェルの直撃を受けたのだからさすがにもう平気だろう。

とりあえず待機中の皆に報告しようとコンソールに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・奇しくもそれは艦内にアラートが鳴り響いたのと同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがきのようなもの

 

どうも初めましてor今晩和。自称SS投稿作家のクレです。

えーと、本来は一話で済む話のはずだったのがこのまま書き続けると30KB超えそうだったので二話にわけざるをえなくなりました(汗

白姫・黒姫「日々精進!」

・・・その通りです、はい。あと恭也の魔法の説明なんかをここでしたいと思います。

 

 

 

 

鋼鉄(アイア)(ンメ)処女(イデン)

恭也の普段使う鋼糸術の魔力版。9話では飛来するブラッディダガーを打ち落とすためになのはの周囲に張り巡らせ直撃を防いだ。

防御にも攻撃にも使えるがあくまで『糸』であることから強度はあまり高くない。それでも本物の鋼糸のように0番〜といった具合に恭也の方である程度操作できる。

 

『鋼鉄の処女・斬刑』

鋼鉄の処女のバリエーション。鋼糸でいうところの0番鋼糸。拘束よりも斬ることに重きを置いた中域攻撃魔法。

 

()()い尽くす(ガルズオル)()

第二制御状態での黒姫によるカートリッジ1発使用の斬撃魔法。障壁および結界の貫通能力を備えている。

第一制御状態の『障壁(シールド)貫通(スルー)』の強化型。

 

第二(セカ)制御(ンドリ)状態(ミット)

白姫と黒姫の新たな形態。術者と完全同調することで融合デバイスと同様の状態となる。

なお且つ白姫と黒姫には高度な自我と独立した演算機構が存在するため術者と融合することで「並列(デュアル)処理(システム)」が可能になり結果として恭也の魔法制御能力も飛躍的に上昇する。

 

局所()物理(イス)制御()

第二制御状態での白姫による移動魔法。第一制御状態の『加速(ヘイスト)』の強化型。

『加速』とは違いただ移動速度をあげるだけではなく恭也の周囲限定だがある程度の物理法則を制御できる。そのため攻撃被弾時などにも有用になり活用の幅が広がっている。

 

 

 

また新魔法が出ればその時にこういったものを載せていこうと思っています。

 

ということで残すところ予定ではあと2話です。最後まで見捨てずに(笑)読んでくだされば幸いです。

白姫・黒姫「まだまだ至らないところもあるので何かあれば遠慮なく言ってください。作者も勉強になると思います」

それではー

           

           

           

             




倒したかに見えた闇の書の闇。
美姫 「でも、鳴り響いたアラートの意味する所は!?」
非常にいいところで次回!
美姫 「次回が気になるわね」
ああ。次回も首を長くして待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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