「 武蔵野・・・、もうすぐかな? 」

中型オートバイクの運転をしている青年は道路脇にたつ標識を確認してそうつぶやいた。
バイクにはサイドカーがついてあり、そこには10歳前後の少女が大きさ不釣合いのヘルメットを被って、
収まっている。
苦しくはないだろうが、観た感じ重そうだ。

「 大丈夫? それ・・・ 」

青年はアクセルを握りながら少女の方を確認して言った。

「 大丈夫です。 それよりもちゃんと前を見て運転してください。『おにいちゃん』・・・ 」

青年はこれはいけないと、慌てて前を見る。

「 しかし、『おにいちゃん』か・・・。 あいつに知られたら、俺、半殺しにあうかも・・・ 」
「 え? 、『お兄ちゃん』はそんなことするんですか? 」
「 う〜ん、意外とシスコンはいってるからなぁ・・・あいつ 」

最後の言葉はバイクの音でかき消され、少女の耳には届いていない。
少女もこれといって気にはとめてないようだ。
時刻は正午1時間前というところ・・・
空気は冷たいが、日差しは暖かく少女に睡魔がおとずれる。

「 お姉ちゃん、元気かなぁ・・・ 」

それが眠りにつく少女の最後の言葉だった。








15 山百合式休日の過ごし方 〜登校〜



「 昨日の大雨が嘘のようね・・・ 」
「 眠い・・・ 」

私は祥子さんと共に小笠原の家の門をくぐった瞬間に大あくびした。
今日は日曜日ということもあって、夜遅くまで本を読んでいた。
で、朝になると学校に行くとのことを知らされた。
ようするに、予定の睡眠時間をとれなかったのである。

「  別に家で寝ていてもよかったのに・・・ 」

隣には少しあきれた様子の祥子さん。
はい、すいません。私の不注意でした。
手帳には確かに、日曜日に会議と書いてある。

「 いや、そういうわけには・・・。 私の仕事は祥子さんの護衛ですから 」

『そう・・・』と別に気にしたふうもなくその言葉を流す祥子さん。
どうも本気にされてないらしく、まだまだ信頼の醸成が出来ていないみたいだ。

バス停につくと、1分もしないうちにバスがやってきた。
日曜日ということで普段よりも乗客が少なく、席の疎らに空いている。
祥子さんは適当な席をみつけて、そこに腰かける。
普通なら私もその近くで座るものだが・・・

「 座らないの? 」
「 座ったら間違いなく眠りますんで・・・ 」

あぁ・・・情けない。
祥子さんは「そう・・・」とだけつぶやいて、いつもどおり文庫本を鞄から取り出し読書を始める。
私も鞄の中に文庫本が何冊か入っているけど、とても読める状況ではない。
しかたなく、つり革を手にとり外の景色を眺める。
あ〜まずい・・・
視点が定まらない。
目に入るものすべてが、ぼやけて入り混じっている。
頑張って目を開こうとしても抗いようもない、圧倒的な・・・
そう・・・これは、間違いなく・・・ねむりに・・・はいって・・・

「 おはよう! ご両人! 」

しまうところだったんだけど、その声に急に現実に引き戻された。
声の主のほうへ向くと、

「 ロサ・ギガンティア・・・ 」

そう言ったのは祥子さん。

「 『ごきげんよう』。 ロサ・ギガンティア・・・ 」
「 な〜に、祥子は固いなぁ。 別に学校の外でくらい『おはよう』でもいいじゃない 」
「 学校の外であろうと、制服に袖を通してあるならばリリアンの生徒としての自覚を持つべきです 」
「 うわ〜・・・、優等生・・・ 」

次期生徒会長の超絶優等生と、そうでない現生徒会長の凸凹会話・・・
私は正直、どちらが正しいとも判断がつかない。

「 まぁ、挨拶のことは、まだいいとして・・・ 」
「 ん? 」
「 さすがにソレはどうかと思いますけど・・・ 」

祥子さんの視線の先がソレなるものを示す。

「 あぁ〜これ・・・? ソコに忘れてあったからせっかくだし、もらった 」

ソレとはロサ・ギガンティアの手にある週間大衆情報誌だ。
たぶん、ちょっとエッチなやつだろう・・・
潔癖症の祥子さんからすれば、そんなものは『百害あって一利なし』的なものなのだろう。
かなり機嫌が悪いようだ。

「 美由希ちゃんはどう思う? 」
「 は? 」

急に話を振られて、間抜けな声を出してしまった。
たぶん、女子高生がそういうもの観ることについてだろう・・・
とりあえず、おそるおそる冷静に言葉を選ぶことに

「 通学中は止したほうが・・・ 」
「 通学中じゃなくてもいっしょです! 」

・・・すると祥子さんの逆鱗に触れてしまった。
ロサ・ギガンティアは『やれやれ・・・』といった感じで、雑誌を鞄にしまおうとする。
その時、私の目に雑誌の中の活字が妙に鮮明に映った。

『今週末までに関東暴力団系事務所九件襲撃!?』

という見出しだ。
ロサ・ギガンティアも私の視線に気づいたのか・・・
記事にコメントした。

「 あぁ・・・、ヤクザ屋さん同士の戦争でもするのかな? 」

そんな私たちの会話を無視して祥子さんは下車のボタンを押す・・・
バス内にはいつもよく聞く『次は〜、リリアン女学園前〜 』のアナウンスが流れていた。





16 山百合式休日の過ごし方 〜会議〜




「 だから〜、赤星勇吾は、格好がいいのよ・・・ 」
「 は〜ようするに由乃さんは赤星勇吾のファンなんでしょ? 」
「 いや、まったく・・・ 」
「 へ? 」
「 ファンなのは令ちゃんよ 」
「 はぁ? 」
「 私はあくまでも形容的に格好いいと言っただけで、そこに感情的なものはないわ 」
「 ・・・? 」
「 だって、考えてもみなさいよ。 ルックス抜群で文武両道・・・、特に悪い癖もなく、正確は善良・・・。
ここまでいくと、完璧超人ね。 おまけに日本の剣道界のスター・・・ 」

薔薇の館の玄関をくぐると、上の階から下級生の声が聴こえてくる。
何を話しているのかまでは聴き取れないが、祐巳ちゃんと由乃ちゃんがいるのだろう。
ちなみに、ロサ・ギガンティアは受験勉強のため図書館に・・・

階段を上りビスケット扉を開くと、案の定、二人が何か話している模様・・・

「 ごきげんよう 」
「 ご、ごきげんよう・・・ 」

未だにこの挨拶なれない・・・
部屋の中にいる二人もこちらに気づき挨拶を返す。
祐巳ちゃんは、姉にあたる祥子さんが来たのが見た目にわかるくらい嬉しい様子。
由乃ちゃんの姉の令さんは、志摩子さんと一緒に職員室に資料を受け取りに行っているらしい・・・

「 ずいぶん、楽しそうに話をしていたみたいだけど、何の話だったの? 」
「 あ、剣道の話です・・・ 」
「 剣道? 」

祥子さんの言葉に祐巳ちゃんが答える。
リリアンに来てから、やたら剣道と縁があるような・・・
すると由乃ちゃんが口を開いた

「 最初は剣道の話をしていたんですけど、だんだんとシフトして・・・・・・・・ん? 」

急に喋るのを止めて、考え込む由乃ちゃん・・・
なにか引っかかることがあるようだ。

「 美由希様は、確か海鳴出身って言ってましたよね・・・? 」
「 へ・・・? うん、まぁそうだけど・・・? 」

なぜにここで私の出身地に話がシフト?

「 以前の学校は? 」
「 風芽丘学園高等部・・・ 」
「 おぉ!! 」

私の答えに非常に満足らしく由乃ちゃんは声をあげた。
未だにまったく事情が飲み込めない。

「 美由希様の出身校が、どうしたの由乃さん? 」

どうやら私だけでなく祐巳ちゃんもらしい・・・

「 確か私の記憶によれば、美由希様の出身校である風芽丘学園高等部は、赤星勇吾の
出身校のはず・・・! 」

ん?

「 へぇ〜。 あ、でも赤星勇吾と美由希様では、三つ違いだから・・・ 」
「 あぁ〜そうだった・・・。 ちょうど会わないんだ・・・。 あ、けどなにか地元ならでは噂とか知ってるかも・・・ 」

二人の会話を聴いて、祥子さんが眼で『そうなの?』と、問い掛けてくる。
私としては、リリアンで勇吾さんの話がでていることに驚きなんだけど・・・

「 何を知りたいのかはわからないけど、たしかに赤星勇吾は風芽丘学園高等部の卒業生だよ。 
けど、勇吾さんってそんなに有名なんだ・・・ 」
「 『勇吾さん』って美由希様の御知り合いなんですか? 」
「 うん、まぁ・・・。 兄の友達だから・・・ 」
「 !!!!???? 」

私のその最後の言葉に、由乃ちゃんは驚愕を受けたらしく一歩後ずさる。
祐巳ちゃんは、私と由乃ちゃんの会話を不思議そうに見ている。
祥子さんは・・・、すでにどうでもよくなったのか、一人席につきお茶を飲んでいる。

「 ちょっと待ってください。 いま頭の中を整理してますから・・・ 」
「 うん・・・ 」
「 その美由希様に頼めば、サインとかって貰えるのでしょうか・・・? 」
「 サイン・・・? たぶん貰えるけど・・・、頼んでおけばいいの? 」
「 いいんですか!? 」
「 うん、じゃぁ頼んどくね・・・ 」

そういうと由乃ちゃんは私の手をガシッと握り上下にふる。

「 由乃さん・・・やっぱりファンなんじゃ・・・? 」
「 いや・・・なんか有名人のサインって憧れない? 」

祐巳ちゃんの言葉に、そう返す由乃ちゃん。
意外とミーハーらしい・・・
そうこうしている内に、令さんと志摩子さんも戻ってきて、
次期生徒会メンバが全員そろうことにより会議が始まった。




本日の議題は、来年度文化祭の予算案検討、その他・・・

リリアンの文化祭は非常に盛大らしく、その準備には半年前から入るらしい。
他にも、お隣の男子校との交流があるとかどうとか・・・
小学生から現在に至るまで図書委員しかやったことのない(しかもほとんど仕事はしてない)私にとっては、
会議の内容が左の耳から入り、右の耳へでていく・・・といった内容の話で、
ぶっちゃけた話、いても意味がなかったりする・・・。
そんなこんなで約2時間・・・

「 とりあえず、お昼にしますか・・・ 」
「 では、いったん休憩。 午後からは・・・そうね。一時半くらいからでいいかしら 」
と、令さんと祥子さん・・・

「 そうね・・・じゃぁ私たちは一旦、家に戻るわ 」
「 あぁ・・・いいですね。こういう時、家が近いのは・・・ 」
「 へへぇ・・・、祐巳さん達も来る? 」
「 う〜ん、お母さんにお弁当つくってもらったから遠慮しとく。 」
「 志摩子さんは? 」
「 私も、お弁当作ってきたので、遠慮しておくわね。 」
「 なぁんだ・・・残念 」
「 また次の機会にね・・・ 」

一年生三人仲がいいことである。
ちなみに私と祥子さんも、サンドイッチを昼食として持ってきている。
貴薔薇ファミリーの二人を見送ると残りのメンバは各々昼食をとりはじめる。
さて私もサンドイッチをつまもうかとその思った矢先・・・

「 美由希様、少しよろしいですか? 」
「 へ? 」



・・・



志摩子さんが私だけに話があるということで、それを聴いた祥子さんと祐巳ちゃんが、
「外しましょうか?」と言ってくれたが、それは悪い気がしたので私たちが部屋をでることにした。
で、薔薇の館一階の倉庫の前・・・

「 で? 話って? 」
「 兄上様のことなんですが・・・ 」
「 へー、兄上様って誰の? 」
「 美由希さんの・・・ 」

・・・ハッ?
まてまて、冷静に考えよう・・・
まず志摩子さんが口にしたワードのひとつが『美由希さん』。
そして一番のキーワードが『兄上様』。
問題はこの二つのワードを繋ぐ助詞だ。
『美由希さん』というワードの後に『の』が入っていたような気がする。
つまりこの時点で『兄上様』なる人物は、志摩子さんの兄上ではないことになり、
『兄上様』 = 『美由希さん』の『兄上』
に、なるはずだ。
で次の問題が『美由希さん』なる人なんだけど・・・
って、私じゃないか。
ではこの公式を元に上記式をもうすこし簡単に直してみよう。
『兄上様』 = 私の兄・・・
  = 恭ちゃん・・・

・・・

「 そういえば昔、そんな呼び方をしていたような気がする・・・ 」
「 ? 」
「 いや、そのね・・・『兄上様』っていう呼び方はもう、止した方がいいんじゃないかな・・・ 」
「 どうしてですか? 」

ま、眩しい・・・
眩しすぎるよ志摩子さん。

「 その・・・属性がね・・・ 」
「 は? 」
「 ま、まぁとにかくその呼び方はまずいんだって・・・。 呼ぶんなら『恭ちゃん』とか・・・、せめて『恭也さん』とか・・・ 」
「 はぁ・・・、よくわかりませんがわかりました・・・ 」
「 で、恭ちゃんがどうしたの? 」
「 はい、その恭也さんは今どちらに? 」

ん・・・?
その質問と共に、空気がかわる。
表情からも真面目な質問だということが窺い知れる。

「 恭ちゃんは、自宅にいるよ。 海鳴に・・・ 」
「 今は、その・・・、士郎さんの仕事をお継ぎになったんですか? 」
「 うんまぁ、そっちの仕事は私のほうもやってるし・・・。 あぁけど、専業ってわけじゃなくて恭ちゃんは今は大学生だよ 」

そう答えると、志摩子さんはホッと胸を撫で下ろし、緊張していた表情が和らいだ。

「 それを聴いて安心しました・・・。 恭也さんはちゃんと海鳴にいるんですね・・・ 」
「 恭ちゃんことで何かあったの? 」
「 いえ、私の思い違いだったので気にしないでください・・・ 」

そういって話を切り上げようとする志摩子さんに私は・・・・

「 フム・・・、じゃぁ今から電話してあげよう・・・ 」
「 ぇえ!? あのちょっと待ってください! 」

志摩子さんの静止に構わず、携帯電話のスイッチオン・・・
すかさず、登録している番号からショートカットダイヤル・・・
志摩子さんは、珍しく顔を赤くして取り乱している・・・

「 あの・・・まだ心の準備が・・・ 」
「 恭ちゃん相手にそんなのいらないって・・・。 ・・・ってアレ? 」
「 ? 」
「 つながらない・・・ 」

携帯電話からは、『現在おかけになった電話番号は・・・ 』
と、つながらないときの代理メッセージが流れている。

「 地下にでもいるのかな・・・。 残念・・・ 」

と、志摩子さんの方を観ると、気が抜けたのかしゃがみこんでいる。

「 大丈夫? 」
「 だ、大丈夫です・・・ 」




・・・




志摩子さんとの話が終わると、私たちは2階の部屋に戻り少し遅めの昼食をとる。
祥子さんも祐巳ちゃんも何の話をしていたのかは聴いてこなかった。
時刻は正午から30分を過ぎた頃だろうか・・・
学校に残った4人は各々で時間を過ごしている。
祥子さんは読みかけの文庫を読んでいる。
祐巳ちゃんと志摩子さんは、宿題があるのだろうか・・・?
二人でノートを広げている。
私はというと、軽い満腹感と、睡眠不足でかなり眠い。
会議の再開までは一時間ある。 もう、いっそのこと一時間寝てやろうかと思った・・・
思って、眼鏡をケースに仕舞い、机につっぷそうとした・・・
つっぷそうとしたのだが・・・

『 高等部二年 タカマチミユキさん。 お客様がお待ちです。 至急校門前まで・・・・ 』

と校内放送がなった・・・。

自然、私以外の三人が私を観る。
お客様・・・?
いまいち回転のよくない頭を無理やり起こし、眼鏡をかけなおす。

「 校門に誰かきてるの? 」

祥子さんがそういうと、祐巳ちゃんが窓から校門のほうを覗いた。
薔薇の館の二階の窓からは校門が確認できるのだ。

「 あの・・・、軽い人だかりが出来ています。 リリアンの生徒の・・・ 」

祐巳ちゃんの言葉に私も窓から確認する。

「 本当だ・・・ 」
「 『本当だ・・・』じゃなくて、早く行くべきなのでは? あちらは美由希様をお待ちになっているようですし・・・ 」
「 あぁ・・・そうだった 」

私は急いで薔薇の館をでた・・・





 
17 山百合式休日の過ごし方 〜レッドスター+魔法少女〜





「 なんか目立ってるなぁ・・・ 」
「 そうですねぇ・・・ 」
「 俺どこか変かな・・・? 」
「 いや、どこもおかしくないですよ。 それより私どこか変じゃないですか? 」
「 いや、どこもおかしくないよ 」


・・・


校門に近づいていくほど、すれ違う生徒の話が耳に入ってくる。

『 ねぇ・・・校門の方観ました? すごいハンサムな方とかわいらしい女の子・・・。
誰かのご兄弟の方かしら・・・? 』
『 俳優さんとか・・・、何かの撮影だよ・・・きっと・・・』

・・・誰?
私のお客様ということは、たぶん私の知っている人物なんだろうけど・・・
これだけでは連想できない・・・
とりあえず校門前についたはいいが、人ごみで中心が観えず。
しかたなく強引に入っていく。
「 すいませ〜ん、とおしてくださ〜い 」の言葉を繰り返すこと3回・・・
人ごみの中に出た・・・
で、ソコにいたのは・・・

「 あ、いたいた美由希ちゃんだ・・・ 」
「 お姉ちゃんだ〜 」
「 なのは!? それに勇吾さんも・・・ 」

道路脇に勇吾さんのサイドカー付のバイクが停めてある。
ここまでバイクできたのだろう。
全く意外な展開でかなり驚いてます私・・・

「 二人が、さっき放送で言ってたお客様・・・? 」
「 うん、そうだよ。 お姉ちゃん元気にしてましたか? 」
「 うん。元気だよ。なのはも元気そうでお姉ちゃんは安心した 」

久しぶりに観る妹は本当に可愛らしい・・・。
頭をなでてやると、なのはは、嬉しそうに笑った。
そんなやり取りをしていると、
いつのまにか、周りの人だかりはいつのまにか離散していっている。

「 やっぱ、お嬢様学校の女学園っていうぐらいだから俺のこと警戒して集まってたのかなぁ? 」
「 いや、それはないと思いますけど・・・。 それよりどうしたんですか? こんなところまで・・・ 」

その私の問いには、なのはが答えた。

「 お姉ちゃんがお母さんにメールして頼んだ荷物を持ってきたんです。 で、小笠原さんって家に行ったら
お姉ちゃん学校にいったって聴いて・・・ 」

すると勇吾さん・・・

「 いやぁ、驚いたよ。 お金持ちとは聴いてたけど、ものすごい家だった・・・。あぁ、荷物は全部あずけてあるから
家に戻ったら確認してね・・・ 」

勇吾さんお得意の必殺スマイル(本人は気づいていないが)・・・
恭ちゃんもこれくらい出来たらいいのに・・・
それはともかく・・・

「 じゃぁ勇吾さんがわざわざ付き添ってくれたんですか? ありがとうございます 」
「 いやなに・・・、今日は暇だったし・・・。 なのはちゃん一人で武蔵野までは心配だしね 」

たしかに・・・
海鳴から武蔵野に来るには電車だと東京経由で来なければならない。
東京駅をなのは一人というのはお母さんも気が気でないだろう・・・

「 いや、でも普通は実兄である恭ちゃんが付き添うべきでしょう・・・。 後で文句の一言でも言っておかないと・・・ 」
「 あぁ実はそのことなんだけどさぁ・・・ 」

と、その時・・・

「 あら・・・? なのはちゃん? 」
「 ・・・? 」

後方から声がした。 その声の主はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
なのは、声の主を確認してキョトンとしている。
志摩子さんだ・・・

「 覚えてないかな・・・? なのはちゃんが幼稚園の時くらいにあってるんだけど・・・ 」

するとなのはは、思い出したのか「あっ!」と声をあげた。

「 志摩子お姉ちゃんだ! 」
「 よかった。覚えててくれたのね・・・ 」

志摩子さんの後ろからさらに祥子さんと祐巳ちゃんがやってきている。
なかなか戻らないから様子を観にきたのだろうか・・・?
って・・・しまった。
二人のことをどう説明しよう・・・
祥子さんは今回の当事者だから無問題・・・
志摩子さんも事情を知っているから無問題・・・
問題は・・・

「 紹介してくださらない? 美由希さん・・・ 」

わー祥子さんのバカーー。゜(゚´Д`゚)゜。
と、心の中で泣き叫ぶが、祥子さんには届かず・・・
ここは表面上、ごく自然に対応することが求められてます。

「 えぇと、こちら赤星勇吾さん・・・私の兄の友人です 」
「 どうも・・・赤星です 」

ご丁寧にちゃんと頭を下げる勇吾さん。
とても見事な好青年っぷり。(天然だろうけど・・・)
するとやはり来た祐巳ちゃん・・・

「 あの赤星勇吾さんって、さっき言ってた剣道の・・・? 」
「 うん、そう剣道の赤星勇吾さん 」

それを聞いた勇吾さんはというと・・・

「 あ、嬉しいなぁ・・・。 地元意外で俺のこと知ってくれてる人がいるなんて 」
「 あ、友達がファンなんで・・・ 」
「 へぇ・・・、それでも嬉しいなぁ 」

少し緊張気味の祐巳ちゃん、
しかしそれにまったく気づいていない勇吾さん。
そんなことより現況の問題は・・・

「 で、こっちの子は・・・ 」

志摩子さんの隣にいる、なのはをどう紹介すべきか・・・
ここで、なのはを『私の妹』と紹介すると、私のでっち上げストーリが破綻することになる。
一番当り障りのない紹介の仕方は・・・

「 勇吾お兄ちゃんの妹の、なのはです 」
「 へ? 」

私が口を開く前に、なのはが自分から自己紹介をした。
しかも嘘の・・・

「 今日はドライブで武蔵野まで来たから、せっかくだし美由希ちゃんの顔を観にきたんだよな 」
「 うん 」
「 ・・・ 」

・・・どうやら私の立場をちゃんと考えていてくれたらしい。
その後も二人は、ここに来るまでに考えてきたのであろうでっちあげストーリで、
私をフォローしてくれた。

「 家が近いし、美由希ちゃんの兄貴とは腐れ縁でね・・・。 
  美由希ちゃんには、なのはの面倒をよくみてもらってたし・・・。
  そっちの彼女・・・、えっと、志摩子ちゃんとも面識がある 」

最後のは大嘘。
先ほどの志摩子さんとなのはのやり取りを観てのアドリブだろう。
志摩子さんも普通に「そうですね」なんて返してるし・・・
祥子さんは、このやりとりに何か感づいているかもしれないけど、
問題の祐巳ちゃんが信じきってるっぽいので・・・
とりあえずこの件はめでたしめでたし・・・


・・・


「 いや、高町の話があるんだってば・・・ 」
「 あ、そうでした・・・ 」

めでたしじゃありませんでした・・・
とりあえず、あまり道の往来でする話ではないということで、
祥子さんらには断わりをいれて、私以外の警護の人に連絡の後、すぐ近くの喫茶店に入った。
時刻はすでに一時半を周ろうとしているので、会議には間に合わない。
まぁ間に合ってもすることないけど・・・

「 ご注文は? 」
「 えっと、ホットのコーヒ二つと、オレンジジュース一つで・・・ 」

二人とも昼食はすでにとっていたらしく、
飲み物だけの注文。
昼のピーク時を過ぎたのか、店の中はけっこう空いている。

「 いやぁ・・・、もしもの時のために、なのはちゃんと考えてたんだけど、うまくいってよかったよ・・・ 」
「 私はだいぶ焦りましたよ・・・。 なにはともあれ、ありがとうございます 」
「 いや、お礼をいわれるようなことじゃないんだけどね・・・ 」

あ、そういえばそうかも・・・

「 しかし、リリアンかぁ・・・。 なんとなく気にはとめてたけど、こんなふうに訪れることになるとはね 」
「 え? 勇吾さんはリリアンと何か関係があるんですか? 」

質問したのは私ではなく、なのは・・・
まぁ、なのはが聞かなかったら私が聞いただろうけど・・・・

「 いや、そういうわけじゃないんだ。 単に高校の時の部活のインターハイで毎年みかけたからさ・・・ 」
「 剣道の全国大会? 」
「 そ。 で、『リリアン』て洋名だろ。 どうしても、周りの学校より印象強くなるよ・・・ 」
「 へぇ・・・ 」

なるほど、たしかに・・・
にしても、何か忘れているような気がする・・・
なんだったっけ?

「 ご注文の、ホットコーヒ二つと、オレンジジュースになります 」

すると、注文の品到着・・・。
とりあえず忘れていることは隅においといて、
そろそろ本題に入ることにする。
勇吾さんのほうを見ると、同じつもりだったようだ。

「 それで恭ちゃんがどうかしたんですか? 」

コーヒー片手に、私は話を切り出した。
すると勇吾さんは神妙な面持ちで、口を開いた

「 それがさ・・・、高町の奴、海鳴から消えたんだよ・・・ 」

・・・へ? どうなってんの?












・・・

時刻は午後10時を回った頃だろうか・・・
容子はコンビニで、夜食等を買った袋を手に、家路につこうとしていた。
ただ、家路といっても実家ではなく、受験勉強中に世話になっている祖母の家にだ。
容子は、実家の東京は勉強に集中するには息苦しいだろうという両親の勧めで、田舎の祖母の家に厄介になっている。
ここは空気が澄んでいて、都会のような騒音もない。
数十年前の姿が今も保管されている土地だった。

( にしても・・・、最寄のコンビニまで徒歩で往復50分っていうのは今時珍しいわよね・・・ )

『散歩するには最適だな』などとくだらない事考えながら、夜道を歩いていく。
外灯は、そう多くはないが、道は先のほうまで視認出来るので、夜道を迷うこともないだろう。
昼間の大雨のせいか、湿気が多く肌寒かったが、空を見上げると満天の星空が広がっているため、
気分は晴れ晴れする。

田園道を抜けると、河川にさしかかる橋につく。
河川が大きいため、橋のつくりも立派なもの。
長さにすると50メートルはあるだろう。
視界を遮るものはなにもなく・・・
この広大な空間にただ一人で歩く。
そうすると頭の中がクリアになっていくのが、自分でもわかる。
容子はこの瞬間が好きだった。

ただ今日はいつもとは少し違うことがある。
大雨のせいで川が増水し勢いよく流れているのだ。
いつもの穏やかな音なのだが、今日は荒々しい音が山間を響き渡っている。
しかしまぁ、これも一興などと考えていると、

『 !!!! 』

今度はあきらかに異質な音が耳に入った。
形容のしづらい、勢いよく水面から何かが飛び出した音だ。

( ・・・なに? )

気になって、橋の上から川辺の土手のほうを見た。
暗くてはっきりとはみえないのだが・・・

「 人・・・? 」

そう、あれは人だ。
シルエットしかわからないが、川から人があがってきた。
一瞬、容子の頭には何かの漁かとよぎったが、こんな増水したときにそんなことをするはずもない。
その人は、重い足取りで、土手を登っていき、河川道にたどり着き・・・
ドサっと力尽きたように倒れた。

「 えぇ!? 」

容子は驚いて、すぐに橋の上から引き返して、河川道まで走る。
走りながら携帯電話を取り出し、いそぎ119番。
非日常的なことが起こり、ひどく動揺していたが、なんとかうまく連絡ができた。
そして、倒れた人の元へ駆け寄る。

「 男性・・・ 」

遠くからではわからなかったが、男性だった。
年頃は容子より少し上にみえる、よって青年というのが適当だろう。
容子は青年の口元近くに手を当て、呼吸を確かめる。

「 呼吸OK・・・、外傷は見た感じはなし・・・ 」

容子は心の中で、
(冷静に・・・冷静に・・・)
と唱えながら、状況を把握していく。

「 倒れたのは体力がなくなったから・・・、いや体温か・・・ 」

現在の気温は氷点下にはいってなくとも、0度にちかいはずだ。
無論、水温も同じだろう。

「 なんとか暖をとらないと・・・ 」

救急車は10以内には駆けつけると言っていた。
せめてその間なんとか暖かくしなければならない・・・
青年を観るとずぶ濡れだ。
となると・・・

「 照れてる場合じゃない! 」

幸いにも、コンビニで、お線香ようのマッチを購入した。
火種はある。 問題は燃やすものだが・・・

「 枯れ木は大雨のせいでない。 無論草も同じよね・・・ 」

となるともう一つしかない。
容子は自分の着ていた、防寒用のコートとベストをその場で脱いで、
青年の前に置く。 

「 で・・・ 」

コンビニの袋から、マッチを取り出して、迷わずに点火した。
火はコートに移り、勢いよく燃え上がる。
素材までは覚えていなかったが、なんとかいけそうだ。
これならば5分くらいは持つだろう。

つづいて、青年の上着を脱がせる。
せめて、上半身の水分はふき取らないといけない。
しかし・・・

「 お、重い・・・ 」

これは水の重みだけではない。
なんとか上着を脱がせた。
ぐちゃぐちゃになっていてよくわからなかったが背広のようだ。
そして内側を見てみると・・・

「 針金・・・? じゃないわね。鉄線? それにこれは・・・ナイフ?」

なにやら危なそうなモノが収納されていた。
それに背広を脱がせた青年みてみると背中側腰あたりに日本刀の柄のようなモノもみえる・・・

「 この人・・・ 」

危ない人かも・・・などと頭によぎるが今は、それは頭の片隅にのけておいて、
暖を取ることに集中する。

とりあえず、カッターと、その下の謎の胴衣を解いて、燃やさずにおいておいた
マフラーで上半身の水分をふき取る。
外灯の光はそう多くは届かないが、火の光でチラチラと青年の素肌が目に入る。
衣類の上からは判らなかったが、かなり絞り込まれた筋肉をしている。
そして無数にあるなにか刃物のようなもので斬られたような古傷・・・
気にはなるが今は気にしまいと、水分をふき取ることに集中する。

「 とりあえずはこれで大丈夫よね・・・ 」

後は、火を絶やさないで救急車を待てばいい。
火のほうはまだ燃え尽きる様子もないので、大丈夫だろう。
問題はこの人物の素性だ・・・

( 手帳か何かあれば・・・ )

容子は、青年のきていた背広に手を伸ばした。
よく観ると、背広のところどころが破れている・・・
ポケットをさぐってみると案の定、手帳が入っていた。
あとは、ここに身分を証明するなにかが入っていればいい・・・

( あった・・・ )

身分証明によく使われる、免許証だ。
青年の顔写真が一致するので間違いないだろう。
火の光に手帳を照らし、氏名欄を確認する・・・



「 高町恭也・・・ 」



・・・





あとがき・・・

考えていた3〜4エピソードを無理やり圧縮。
そして、そのうちの修正を前提に投稿w
そうでもしないとたぶん終わらない。(;つД`)
で、やっと中盤に入れそうで一安心・・・
しかし、2005年内に終わるんだろうか・・・


05/03/21



恭也と蓉子の出会い。
美姫 「そして、なのはと赤星の登場〜」
次回がとても気になる〜。
美姫 「どうして、恭也は川の中から」
ああ〜、本当に気になる。
美姫 「次回を首を長くしてお待ちしてます」
って、それは俺の首! ひ、引っ張るな!
ぐげげっ! じ、次回を待ってます……。
美姫 「それでは〜」



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