『ネギまちっく・ハート〜season of lovers〜』







          第十五符『準々決勝』



 PRIDE〜麻帆良祭り〜の序盤もそろそろ終わり。現在リングでは真名と大林裕美が戦っている。

とはいえ、真名が一方的な試合展開をしているといったほうがいい。恭也は控え室の一室でエヴァに治療をされながらそれを見ていた。

「すまない・・・。エヴァ。」

 恭也は包帯を巻いてくれているエヴァを見下ろしてそういった。勝てたという点ではエヴァのいったとおりにはならなかったものの、

それでも恭也は動くこともままならないほどのダメージを受けていた。

「すまないですむか。桜咲も開放状態じゃなかったからよかったものの、龍宮や鳳ではこの程度ではすまなかったぞ。」

 エヴァは包帯を巻きながら恭也に言った。恭也はどんな顔をすればいいかわからずただモニターを見つめていた。

「どうせお前のことだ。これ以上言っても棄権する気などないだろう。あまり得意ではないが回復魔法で多少の傷は癒しておいてやる。」

 エヴァは包帯を巻き終えると包帯の上から回復呪文を唱え始めた。恭也はそこまでしなくてもいいといったが、エヴァは無表情のまま、

刹那の逆胴をくらったところを触れた。胴というよりも肋骨の辺りだ。恭也はあまりの激痛に顔をしかめてうめき声を上げる。

「2、3本折れているようだな。だから言っただろう。桜咲たちにとって見ればたとえ骨折しないと銘打っていても気休めにもならんと。

こんなでは戦うこともままなるまい。黙って私に任せておけ。」

 エヴァの言うとおりだった。恭也が完全に直撃を受けたのは逆胴の一発だけ。しかし、その一撃で恭也の左肋骨は完全に折れていた。

肺に刺さっていれば確実に死んでいただろう。そんな状態で恭也は戦っていたのだ。

「で?答えはでたのか?いや、出ていればこんな傷を負っているはずがないか。」

 エヴァは回復魔法をかけ終わり、恭也を見上げていった。エヴァの言うとおり、恭也は答えを見つけることができていない。

「さっきも言ったが、棄権しろといっても聞くまい。だが、ひとつだけ約束しろ。頼むから心配させないでくれ。

準々決勝に残ったやつらにとって、この武器、本物となんら変わりはない。お前が強くなるのは私としても嬉しいことだ。

しかし、それもお前が死んでしまえば本末転倒どころじゃない。お前を失ったら、私は何のために生きていけばいいんだ?

だから、約束してくれ。これ以上危険な試合はしないでくれ。私が耐えられない・・・。」

 エヴァは今まで恭也にみせたことのない心配そうな顔で続けた。恭也はすまないと謝ることしかできない。約束したい。

心配はもうかけないと。しかし、準々決勝はこのまま行けば真名だ。しかも真名は、恭也に全力で叩き潰すとまで言っている。

今ここで心配するなといっても、その約束を守れるとは到底思えない。

「最善を尽くす。だが、絶対の約束はできない。」

 今の恭也にはそういうのが精一杯だった。エヴァはだろうなと、とりわけ怒るでもなく言う。

「せかす気はないが、早く答えを見つけてくれ。何より、おまえ自身のために。」

 エヴァはそういうと立ち上がって控え室を後にした。一人残された恭也は再びモニターのほうに目を向ける。

すでに真名の試合は終わって楓の試合が始まっている。しかし、見ずとも結果は目に見えている。恭也は目を瞑って再び考える。

自分が刹那に苦戦した理由を。刹那をあそこまで動かした想いが何なのかを。





「第一回戦も終わり、遂に準々決勝!!!選ばれた八人が遂に激突します!!!」

 第一回戦の最終試合のネギの戦いもネギの圧勝に終わり、遂にベスト8が顔をそろえた。準々決勝で、鼎は古菲と、恭也は真名とあたるはずだった。しかし。

「さて、本来なら勝ち上がったもの同士が戦うのが必定というものでしょうが、すでに自分の対戦相手の対策を考えている選手もいるでしょう!!!

しかし、本当の戦いでは相手に対して対策を立てるということは不可能!!!ここで再び対戦カードをシャッフルさせていただきます!!!」

 司会の言葉に観客が大歓声を上げる。余興といえばそれまでなのだが、事実、本当の戦いでは相手に対して対策を練るようなことはできない。

ある意味、本格的といえば本格的だ。電光掲示板上から消えていた選手の名前が再び映る。恭也はネギと、鼎は古菲と、美由希は楓と、真名は白鳥健一郎と。

準々決勝の対戦カードが決まった。鼎の対戦相手が変わっていない。シャッフルしているはずなのにこんなことが起きるのは珍しいが、

一番低い確率は一番初めに起きるのが世の必定。なんら不思議なことはない。

「このように成りました!!!では、早速第一試合を始めましょう!!!準々決勝、第一試合!!!鳳鼎VS古菲!!!」

 司会のコールがあって少しして古菲がリングに向かって歩を進めだした。いきなり言われたので準備ができていなかったのだろう。

しかし、本当の戦いで準備ができていることなど皆無。どこまでも本当の戦いに近い大会である。

古菲がリングに上がってから一分ほどが経っただろうか。ついに鼎がリングに通じる花道に姿を現した。

小太郎との試合のときとは違い、マントもフードもつけていない。真っ赤な、血のごとく赤い上下に身を包んでいた。両手に鉈を持って。





 VIP席。そこは観客席からひとつ突き出たところにあり、選手たちの目線で戦いを見ることのできる席である。

しかし、そこにいるのはエヴァと茶々丸とさよと和美だけ。それをみてみるとこの席はまるで彼女たちのためだけに用意された席であるような感じを受ける。

「鼎、がんばって・・・・。」

 届くはずのない和美の言葉。

「負けないでください、鼎・・・・。」

 届くはずのないさよの言葉。

(鼎が全力で、自分でも嫌っていた力を尽くしてまで戦えるのはこの二人のおかげなんだろうな。)

 エヴァは和美とさよを一瞥してリングの鼎に目を向けた。自分たちとは違う鼎とさよと和美の関係。さよと和美が側にいるという安心感。

だから鼎は鼎なのだ。鼎のことだ。おそらく始めから二人は受け入れてくれるとわかっていただろう。とするならば、この大会は通過儀礼のようなものだ。

だからこそ全力を尽くせるのだろう。だからこそ限界を超えた力を出せるのだろう。

(私と茶々丸と恭也の関係はどうなんだろうな・・・・。)

 自分たちの関係は自分たちにはよくわからない。それは誰しもそうだろう。それが当たり前なのだから。

エヴァと茶々丸と恭也の関係は周りから見てどんななのだろうか。考えてもわからないが、それは絶対に鼎とさよと和美のものとは違うはずだ。

「鼎・・・・。」

 さよは心配そうにつぶやく。鼎に対して怖いという感情を抱いたのはこれが初めてだった。人を人とも思っていいかのような戦い方。

人をつぶすことを目的としてその手段を楽しむ、目的と手段の同一化。まるで同一人物とは思えない鼎の姿に恐怖を覚えた。

でも、それも紛れもない鼎の姿。背負っている十字架はさよが思っているものよりも遙に大きく、重いものだろう。しかし、だからこそ怖いだ。

鼎が、自分たちのところに戻ってきてくれないのではないかと。この大会で改めて自分の背負っているものに気づき、

さよが、和美が受け入れたとしても、鼎がそれを拒否するのではないかと。リング上の鼎は古菲とは会話も交わさず、

互いに出方を伺っている。と、鼎がさよのほうを、和美のほうを見た。笑顔で。さよと和美がいつも見ているその笑顔で。

「鼎・・・・。」

 和美もさよと同じことを考えていたのだろうか、ほっとした安堵の表情を浮かべた。しかし、笑顔を向けたのは一刹那。

それを逃す古菲でもなく、それが会戦の合図だった。次の瞬間、鼎の顔には嗤顔が浮かんでいた。

 二人の距離は一瞬にしてゼロになった。鼎は『閃』ではなく『神速』で。古菲はただ速く、しかし、『神速』に追いつく速さで。

ゼロ距離になってしまえばこちらのものと古菲の拳が鼎に迫る。八極拳と八卦掌をベースにした拳術。その真価は中、近距離で発揮される。

しかし、中距離は鉈を持つ鼎がやはり圧倒的有利。が、翻って近距離は古菲が有利。小太刀サイズの鉈とはいえ、

寸掌や肘打がメインの八極拳に比べれば分が悪いのは否めない。古菲はまさしくその領域だけで戦い続ける。

鼎が引こうとすればまるで始めからわかっていたかのように間合いをつめる。回り込もうとすればすぐに反応して互いに向き合う。

戦い方が非常にうまいのだ。さしもの鼎も自らのペースに持っていけない。しかし、鼎にダメージがあるかといえば否だ。

古菲の打撃が遅いというわけではない。寧ろ、目視もできないレベルだ。が、鼎はまるで蝿を払うかのように鉈を持ったままの手の甲で払っている。

しかし、攻めに転じることができない。攻めるにも近すぎて鉈を使えないのだ。

「へぇ。彼女できるね。」

 そんな戦いを控え室で見ていた御鐘が感心して口笛を吹いた。鼎と五分に渡り合っているように見えるのだ。当然だろう。

「そうだね。『神速』も『閃』も使わせていないし、何より自分の距離で戦っている。」

 美沙斗も二人の戦いを見てそうもらした。

「でも、何で『神速』・・・・寧ろ、『閃』が?」

 美由希の疑問は当然だ。あの速さに棲むものとして、あれが破られる、否、発動させなくするすべを知らないのだから。

「『神速』も『閃』も速く動くって言うところは共通してるよね。じゃあ、基本に立ち戻ってみよう。速く動ける利点って何?

それは『距離』が離れていても不意打てるってことじゃない。つまるところ、『神速』にせよ、『閃』にせよ、

その力を最大限に引き出せるのは実は遠距離。そして、近距離は真逆、その力のほとんどを発揮できない。なぜか。簡単なことだよ。

『神速』然り、『閃』然り、発動した瞬間は無防備になる。しかも、初速から桁違いの速さなんだから、あんまり相手との距離が近いと、

方向転換する前に相手にぶつかっちゃうし。当然、相手だって動いてる、しかも、彼女のような速さを持てば、

『神速』なんてただ速いって程度。ある一線を越えた戦いだと、ゼロ距離じゃあ、『神速』、『閃』は使えないってこと。」

 御鐘の説明に美由希は聞き入った。やはりハイエンド級の使い手になると技の一長一短もすべて把握しているということに驚いているのだ。

 一方、リングでは鬩ぎあいという膠着状態が続いていた。古菲が攻めの手を休めることをしないし、鼎もそのすべてを捌ききっている。

と、先に動いたのは古菲だった。この状況、古菲にとってもいいとは言い切れない。このまま続けていても自分の体力がどんどん減っていくだけだから。

見切りをつけた古菲の動きは早かった。まるで、『神速』でも、『閃』でも発動したかのように。一瞬という言葉もにつかわないその刹那、

古菲の双掌が鼎の胸部を捉えた。八極拳の白虎双掌打。双掌打で相手を弾き飛ばす技だが、寸掌と古菲の発気も相成って、その威力は桁違い。

中国拳法といえば伝家の宝刀の『気』。その威力は古菲の体格でも巨石を砕くことも可能だ。その直撃を食らった鼎は当然のように吹っ飛ぶ。

実況も決まったかと声を上げた。しかし。だがしかし。鼎は空中で舞っているにもかかわらず、体勢を立て直して、

まるで軽い跳躍の後のようにリングに舞い降りた。観客も、実況も、古菲も一瞬の沈黙。あそこまで激しく飛ばされたのだ。決まってもおかしくない。

が、まるで何もなかったかのように鼎は飄々と立っているのだ。しかし、古菲の動揺は一瞬。まるで瞬間移動したかのような速さで再び鼎との間合いをつめる。

それはまるで『閃』のごとく。

「い・・・いまの・・・。」

 モニターの前の美由希は驚いた。古菲の今の動き、まさしく『神速』。まさしく『閃』だったからだ。

「そんなに驚くことないよ〜。別に『神速』は御神特有のものってわけじゃないし。」

 御鐘は美由希にやはり説明口調で語る。

「極論、『神速』にしても『閃』にしても速く動くっていうことの究極の形なんだから。そして、『神速』然り、『閃』然り、必要なのは集中力。

当然、ある程度の筋力はいるんだけど、彼女ぐらいでも十分にできるし。言葉は違えど『神速』、『閃』と同じ技は世界の格闘技に点在してる。

ここで結論。『神速』、『閃』は『技』じゃなくて『業』。つまり、戦闘者における『速さ』の究極の形。ま、そういう風に結論付けられるわけ。」

 御鐘の言は得てして的を射ている。『神速』、『閃』の両方とも、究極は早く動くことの至上の形。ならば御神の剣士の奥義というよりも、

突き詰めれば戦闘者の奥義といえる。そして、御鐘はリング上の鼎を見て一言。

「ま、鼎はその程度の速さじゃ倒せないけどね。」

 突然。突然だった。今まで目の前にいたはずの鼎がまさしく瞬間移動といっていい、ゼロ距離から古菲の後ろに立っていた。

ゼロ距離では『神速』も『閃』も使えない。いや、『神速』でも、『閃』でもない。この速度は。

「認識を改めるよ。その前にまず謝ろう。」

 鼎は古菲に振り向くことなく続ける。古菲はここぞとばかりに攻めようとするが、まるで足が鉛になったかのように動かない。

「君をさっきの彼の『続き』として考えていた。しかし、どうしてなかなかできる。否、君は強い。今まで加減をしていた。

失礼だったと思うよ。すまなかった。」

 鼎はそこまで言うと古菲のほうを向く。楽しそうに、愉しそうに、悦しそうな嗤顔を浮かべて。

「仕切りなおしといこう。では、殺りあおうか。」

 鼎が走る。しかし、その速さは『神速』でも、『閃』でもない。ただの走りだ。古菲も疾る。『閃』の速度で。一瞬で互いの距離がゼロになる。

『神速』も、『閃』も使えない距離に成る。しかし、決定的に違ったのは、間合いがゼロに成り、二度ほど古菲が拳を放った先に鼎はいなかった。

鼎は古菲の背後にいた。『神速』を使うまでもなく、『閃』を使うまでもなく。

「『閃』を越える速さの『至り』。鼎はそれを『瞬』と呼んでる。」

 御鐘の言葉。美由希も、美沙斗も唖然とただ唖然と鼎を見ることしかできない。

「まあ、真名ちゃんはこれが使えないと恭也君も勝てないよ。」

 それは速度というよりも魔術。魔術というよりもイリュージョン。目視することも気配を追うこともできない。

 古菲は振り向いたがやはりその先に鼎はいない。しかし、古菲の体は空高く、電柱よりも高く、虚空に放り出された。

「小太刀二刀御神我流奥義、戦場吊(せんばづる)。」

 鼎の声がどこからかする。しかし、鼎の姿はない。古菲は宙に浮いていた。それ以上、上昇することもなく、かといって落下することもなく、

宙に浮いていた。何が起きているのか誰にもわからない。わかるのは古菲と鼎のみ。ただ、何かが起きているのは誰の目にも明白。

なぜならば、リング上の四方に立てられているおおきな石柱がすさまじい音を立てている。と、古菲の姿が中から消えた。

同時に、リングが揺れた。そこには古菲が気を失って倒れていた。そして、その傍らに鼎が空を見上げて立っている。

「君は強かった。でも、俺の目的を果たすには、その程度の強さじゃ役不足だった。ただ、それだけだよ。」

 鼎の勝利宣言。同時に起こる割れんばかりの歓声。鼎は小太郎との試合では小太郎をリングに残したまま後にしたが、

古菲はリングに残したままにせず、抱えてリングを後にした。それは鼎なりの礼儀。強いものと認めたからこそ、最後まで礼を尽くすその姿勢。

それが『蓬莱人形』。リングから戻る途中、鼎は思い出したかのように控え室のほうを見る。恭也と目が合った。鼎は何も語らない。

ただ、目がそれを語っていた。決勝で会おうと。俺の目的を果たすために、決勝まで勝ち進んで来いと。俺のステージに上れと。

恭也は鼎の立つステージに上ることができるのだろうか。恭也は、鼎を超えられるのだろうか。

否、ネギに勝ち、真名に勝ち、決勝に進むことができるのだろうか。恭也の準々決勝が、答えを見つけるための戦いが、始まる。







あとがき


と、言うことで第十五符です。速いもんですねー。

(フィーネ)どこがよ。トリックスターばっかしてて、ぜんぜん書いてないじゃない。

そういうなよ。最近だんだんと飽きというか、ま、そんな感じになってきたから。

(フィーラ)とはいえ、まだまだ執筆速度落ちたままだけどね。

リアルに忙しいんだよ。いや、マジで。

(フィーリア)見たいね。でも、最低でも週一ペースは崩さないこと。

おう。了解。ところで、アニメ版ネギまなんだが。

(フィーネ)ああ、なんか、噂になってるね。明日菜死亡説でしょ?

うん。さすがに事実だとしゃれになんない。

(フィーラ)なんで?

明日菜をメインヒロインにしたSSがかけない。

(フィーリア)それなら漫画版に依拠すればいいじゃない。

いや、漫画は完結してないし。完結したほうの設定で書くつもりだったんだ。

(フィーネ)っていうか、明日菜をメインヒロインにする気なんてはじめっからないじゃない。

まあ、そういわれてしまえばそれで終わりなんだがな。ただ、おかげで・・・。

(フィーラ)ストップ。それ以上言ったら面白くないでしょ?まだまだ公表は控えなきゃ。

だな。

(フィーリア)じゃあ、次回予告ね。

おう。次回、ネギまちっく・ハート第十六符『想いのベクトル』!!!

(フィーネ)次回は恭也とネギが衝突!!

(フィーラ)恭也は答えを見つけることができるのか!!

(フィーリア)そして、鼎を超える力を手にできるのか!!

(フィーネ&フィーラ&フィーリア)乞うご期待♪♪♪♪♪♪



いよいよ、恭也の戦いが始まる〜。
美姫 「果たして、恭也は答えを見つけられるのか」
それとも…。
美姫 「次回は益々、目が離せないわね」
うんうん。
美姫 「次回が待ち遠しいわ」
ああ〜、早く次回が読みたい。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます〜。



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