『ネギまちっく・ハート〜season of lovers〜』







          第十七符『準決勝』



 大会の舞台も遂に準決勝。月は既に天高く映っているが、観客のボルテージは上がったまま。そんな中、準決勝が遂に始まろうとしている。

第一試合は鼎VS美由希。準決勝まで圧倒的な強さで勝ち進んできた鼎。一方の美由希は一回戦こそ圧勝したものの、二回戦の楓との戦いで、

体力的にかなり消耗していた。楓は甲賀中忍という、かなりの使い手。その戦闘能力は美由希よりも実質的には上だった。

何せ、『神速』ですらほとんど捉えられなかったのだ。勝てたのは偶然か、はたまた必然か、一度だけ、奇跡的に『閃』を発動させることができたからである。

しかし、その代償は大きく、美由希の下半身、特に膝下に多大な消耗をもたらした。そのため、今現状、立って歩くのが精一杯といったところだ。

しかし、それでも、美由希はリングに向かって歩いていった。まだやれる、まだ戦える。次の相手は鼎。自分よりも圧倒的に強い、現状では恭也、

はたまた美沙斗よりも強いかもしれない。そんな人と戦える機会はめったにない。だから、こんな状態であっても戦いたい。

その想いが美由希をリング上に押し上げたのだ。

「まだ戦う気なの?」

 先にリングに上がっていた鼎がゆっくりとリングに上がった美由希に声をかけた。

美由希の消耗は準々決勝を見ていれば大会に出ているものならば誰にでもわかるものだろう。

「はい。鳳先輩のような人とはめったに戦えません。だから、たとえ相手にならなかったとしても、戦います。」

 美由希がゆっくりと小太刀を抜いて構える。動きはゆっくりだが、そこからは消耗を感じさせない覇気が漂っている。やはり御神の剣士。只者ではない。

「いい心意気だ。将来、立派な剣士になるよ。君は。」

 鼎もそれを感じて、二振りの鉈を構える。そして、前触れもなく、しかし、『神速』、『閃』、『瞬』、を使うでもなく、

ただ、美由希にあわせるかのような速度で疾走った。美由希も迎え撃たず、自ら進んで鼎に向かって疾走る。そして、リングの中央で二人の武器が重なった。

しかし、鼎は鍔ぜり合いをすることなく、自ら鉈を引いてもう一つの鉈で美由希の首を狙う。しかし、美由希もそれをしゃがんでかわし、鼎のわき腹を狙う。

が、鼎はかわされた鉈をそのまま振り下ろしてわき腹への小太刀を力任せに叩き落した。と、次の瞬間、鼎の体が後ろに傾いた。

美由希は小太刀を打ち落とされたものの、しゃがんだままの回し蹴りで鼎の踵を刈ったのだ。鼎は不意を打たれたのか、そのまま倒れこむ。

美由希は振りぬいた足を軸足一本で立ち上がり、そのまま腹を狙って振り下ろした。まるで下半身の消耗を感じさせない動きだ。

しかし、鼎は自分の膝を顔まで引きつけて跳ね上がるようにして美由希の横腹を蹴り飛ばし、そしてそのまま立ち上がった。首跳起きといえばそれに近いといえるが、

同じ要領で人を蹴っても到底立ち上がれないだろう。しかし、鼎は立ち上がった。当然、蹴り飛ばした美由希を追う鼎。と、その眼前に何かが迫った。

飛針だ。美由希は牽制のために放ったのだろうが、鼎はそれを首を捻るだけで無効にし、鉈を大きく振り上げて美由希に飛び掛る。

美由希はリングを転がって振り下ろされた鉈を避けた。そして美由希はすぐに立ち上がり、鼎に飛び掛る。鼎は振り下ろした鉈で迎え撃とうとしたが、

鉈がリングに刺さって抜けない。すると鼎はすぐさま鉈から手を離して美由希の腕を取って小手投げで投げ飛ばす。美由希は突然のことに反応しきれず、

受身を取り損ねた。しかし、美由希はまだまだとすぐに立ち上がって鼎と向き合う。鼎はふむと頷き、リングに刺さった鉈を力任せに抜いて美由希と向かい合う。

そんな鼎に美由希が飛び掛る。自分に残された戦える時間がないことを知っているからこそ、相手を休ませるわけには、間合いをあけて時間をかけるわけにはいかないのだ。

鼎は薄笑みを浮かべて、勢いよく飛び掛ってきた美由希と対峙する。美由希の小太刀が眼前に迫る。しかし、鼎は動じることなく、スウェーでそれを軽く避ける。

突きも体を半身にするだけで避ける。袈裟斬りも逆袈裟斬りも少し後退するだけで避ける。鼎は鉈を使わず、徹底的に避けた。避けて、避けて、避け続けた。

当の美由希はだんだんとあせり始める。動ける時間はもうほとんどないのに、まるで弄ばれているかのように避けられ続けているのだから。

だんだんと攻撃が大振りになっていく。鼎は始めからそれを狙っていた。美由希が戦える時間は決して長くない。

ならば、防御するよりも、回避したほうが、心情的には焦る。そうすれば攻撃に力が入って本人の知らないうちに大振りな攻撃になってしまう。

案の定、美由希の攻撃は本人の知らないうちに大振りになっていた。そして、美由希が胴蹴りを放った瞬間、鼎は始めからそれを狙っていたかのように、

鉈を手から離して美由希の足をとった。そして、そのまま思い切り引っ張る。美由希は完全にバランスを崩して、そのまま引っ張られる形になってしまった。

鼎は美由希の足を持ったままジャイアントスイングのように回転しながら振り回す。美由希にとってすれば、完全にどうしようもない状況である。

そして、そのままリング外に投げ飛ばした。美由希は抵抗することもできず、水の中に落下した。しかし、鼎の力もすさまじい。

普通、いくらジャイアントスイングとはいえ、ほぼリング中央から、リング外にまで投げ飛ばすのは並みの力では不可能だ。

それでも、鼎は美由希をリングの外に投げ飛ばした。

「俺にはまだ決勝が残ってるからね。全力出せないのはわかってくれよ。」

 決勝を見越しての戦い。美由希は鼎と全力で戦いたかった。しかし、鼎は決勝で恭也と戦い、自分の目的を果たすことが第一。

両者の思惑は既に食い違っていたのだ。鼎にとって準決勝は通過点であって終着駅ではない。美由希にとってもそうなのだろうが、決勝の相手は恭也か真名。

否、鼎は恭也が勝ち進んでいくだろうと既に予知している。そうすれば、現状の美由希にとって戦える相手ではない。

美由希の体は楓との戦いの時点で限界だったのだ。鼎は美由希に手を貸してリング上に引き上げると、大歓声の中、リングを後にした。

(強いとか、弱いとか言う話じゃない・・・・。レベルが・・・・違ったんだ・・・・。)

 そんな鼎の後姿をみて、美由希は思った。自分は自分が思っているほど強くないことに。

そして、兄であり、師匠である恭也や、母美沙斗を超える使い手が存在することを痛感した。

美由希は鼎の後姿に一礼してリングを後にする。いつか、自分もあの領域に達することを心に刻んで。





「さて、次は恭也くんだね。相手は真名ちゃん、多分、現状の力関係じゃ、一番鼎に近い存在じゃないかな。ま、死なない程度にがんばってね。」

 鼎と美由希の試合が終わって、選手控え室にいた御鐘が恭也に言った。恭也はただ、うなづく。

「恭也、もし、お前が危なくなったら、私はどんな手を使ってでも試合をとめるからな。」

 エヴァも恭也に釘を刺す。

「恭也の体は既に恭也だけのものではありません。私たちの体が私たちだけのものではないのと同じように。」

 茶々丸も恭也に言う。既に恭也、エヴァ、茶々丸は3人で1人。誰かが欠けても1人になり得ない。そのことを、恭也に諭す。

「わかった。行ってくる。」

 恭也はその言葉の意味を噛み締めるように暫く目を瞑ってうつむき、そして顔を上げてエヴァと茶々丸にそういって控え室を後にする。

その後姿からはここまでの二戦とは違う何かを感じることができた。

「・・・・・鳳御鐘といったな。」

 恭也が部屋を出て、エヴァが突然御鐘を呼んだ。御鐘はそうだよと笑顔で答える。

「・・・・・恭也が無事に帰ってくる可能性はどれぐらいだと思う?」

 エヴァは御鐘のほうを向くことなく、淡々と御鐘に尋ねる。

「今のままだと確実に再起不能になると思うよ。無事に帰ってくる可能性は0%だね。」

 御鐘は一切躊躇することもなくエヴァにそう告げた。

「真名ちゃん、鼎のこと恨んでるだろうからねー。なにせ、自分のパートナーを鼎に殺されちゃってるんだから。

ま、そのほかにも、恨むようなこと鼎にされてるし。」

 御鐘はのほほんとまるで人事のように続ける。そのことに驚いたのはさよと和美だった。

「どういう・・・ことですか・・・?」

 和美が声を震わせて御鐘に聞く。御鐘のいったことの詳細が知りたい。でも、知りたくないという気持ちが、伝わってくるような口調で。

「あー・・・鼎から聞いてなかったんだ。そういうことなら説明しようかな。

真名ちゃんはもともと魔法使いの従者(ミニステル・マギ)だったんだけど、パートナーを鼎に殺されてるの。

ま、そのほかについては何かとは言わないけどね。ま、状況から言えば、鼎が真名ちゃんとそのパートナーを襲ったのは夜。

んで、二人一緒にいるとき。そして殺されたのはパートナー一人。

じゃあ、残された真名ちゃんは?ここまで言えば想像はできるんじゃないかな。」

 御鐘は自分の息子のことだというのに、本当に人事のように軽い口調で衝撃の事実を口にする。

「この大会じゃあ、仮に鼎を殺しても殺人罪にはなんないしね。ボクシングとかでもあるじゃん。

相手をKOしたらそのまま死んじゃいましたーってやつ。真名ちゃんにとってこの大会はパートナーの仇討ちにはもってこいの舞台ってこと。」

 御鐘はいつもの調子で続けた。口調は軽いが、言っていることはかなり過激で衝撃的なことだ。

「まぁ、鼎のことだからすべてこの後どうなるかもわかってるんだろうけど。」

 御鐘は最後にそう絞めて口を閉じた。

「どういうことだ?」

 エヴァが御鐘に聞き返したが、御鐘はどういうこともそのまんまの意味だよとしか答えなかった。

さよと和美はさっきから誰もいないリングの上をじっと見つめている。次々と明かされる鼎の過去。

二人はそれを受け入れようと、しかし、あまりにも重過ぎる、大きすぎる鼎の背負う十字架に当惑しているようだった。





「答えは見つからなかったようだな、高町。」

 第二試合のコールがかかり、向かい合った恭也と真名。すぐに構えた恭也に対して、真名は構える気配を見せない。

それは余裕の表れだろうか、それとも構える必要がないのだろうか、それは真名だけが知ることである。

そして、真名はそのまま恭也に話しかけた。

「まだ見つかっていない。だが、答えを見つけるための式はできている。あとは、答えを出すだけだ。」

 恭也はまっすぐと真名を見る。

「そうか、だが、私だって負けるわけにはいかない。」

 真名のその言葉が開戦の合図だった。恭也は一気に『神速』で間合いをつめる。しかし、真名は動じることなく、また一歩も動くことなく恭也の接近を許した。

見たところ真名は武器を持っていない。徒手空拳なら接近させるほうが確かに得策だ。しかし、恭也は『神速』で迫っているのだ。

下手すれば一撃でやられかねない。恭也の小太刀が真名に迫る。直撃すれば確実に終わる一撃だった。しかし、その小太刀が真名を捉えることはなかった。

真名は微動だにしていない。しかし、恭也の小太刀は何かにはじかれた。一瞬のことで恭也も何があったのか理解できない。

と、恭也に一瞬の隙ができたその刹那、恭也の体が豪快に吹き飛ばされた。恭也自身、一体何が起きたのかがわからない。

だが、地面に倒れたとき、関節に激しい痛みを感じた。本当に何が起きたのかわからない。一体なんで自分がここまで弾き飛ばされたのかが。

しかし、いつまでも倒れたままでいるわけにはいかない。恭也はすぐに立ち上がろうとしたが、立ち上がった瞬間、足に力が入らずに、膝をついてしまった。

確かに、関節に痛みはあるが、立てないというほどのものではない。にもかかわらず、うまく立てないのだ。恭也は何とか足に力をいれて立ち上がり、

真名と向かい合う。と同時に、何が自分を弾き飛ばしたのかがはっきりとわかった。リングの上に散らばる500円玉。

恭也にダメージを与えたのは間違いなくこれだ。

(羅漢銭・・・・。ここまでの使い手が身近にいたとはな・・・・。)

 真名の武器は銃に限らない。基本的に飛び道具をよく使うが、特に真名の羅漢銭は暗器としても十分な殺傷力を持つ。

恭也はならばはなれるのは危険と、再び真名に、今度は『閃』で接近する。この一撃で決めてしまおうという思惑だ。

しかし、やはり真名は動かない。真名の目にはどう映っているのかはわからないが、一瞬にして視覚から消えて動揺すらしないのは一体なぜなのだろうか。

恭也が『閃』で真名に迫る。この間、0.1秒もかかっていない。恭也の小太刀が真名に迫る。奥義『薙旋』。くらえば確実に試合終了。

しかし、それでもしかし、真名を捉えることはできなかった。真名に小太刀があたることはない。恭也はまさしくさっきと同じように同じ場所に弾き飛ばされた。

今回は『神速』ではなく、『閃』だった。それでも真名の羅漢銭は恭也を捉えた。今度ばかりは恭也もやすやすとは立ち上がれない。

しかし、小太刀を杖に、何とか立ち上がる。

「『神速』だろうが『閃』だろうが、所詮は早く動くだけ。いくら体捌きが早かろうと、いくら攻撃速度が速かろうと、インパクトのとき、動きは止まる。

それにその程度の速度、私にとってはボーリングの玉となんら変わりはない。」

 真名はそういうとはじめて動いた。一歩ずつ、恭也に向かって。恭也は一呼吸おいて立ち上がり、再び真名に向かって疾走る。

しかし、やはり真名にその小太刀が届くことなく羅漢銭の餌食になってしまった。

「羅漢銭が遠距離武器だと思ったら大間違いだ。高町が接近すればするほど射程は短くなって命中率も威力も上がる。」

 真名はそういいながら一歩、また一歩と恭也に近づく。息を一切乱した様子もなく、恭也を完全なまでに子ども扱いしているのだ。

繰り返すが、恭也が決して弱いというわけではない。今の恭也の剣士としての力は美沙斗にも引けを取らない。否、『閃』を使いこなせるようになった以上、

残された御神の剣士では最強かもしれない。そんな恭也を子ども扱いする真名が強すぎるのだ。恭也は再び立ち上がる。そして疾走ろうとしたそのとき、

恭也の足元に何かがはぜた。500円玉だ。恭也にはその軌跡は、いつ放ったのかさえもわからなかった。

「諦めろ高町。今のお前では鼎はおろか私にも勝てない。私ならいつでも相手になってやる。今回は引け。

お前ほどの使い手ならこれ以上やっても私に勝てないことぐらいわかるだろう。」

 圧倒的な力を見せ付けた真名は足を止めて恭也に降参するように要求した。しかし、恭也にそれは意味を成さない。

恭也は首を振ると小太刀を手に立ち上がる。

「まだ答えを見つけてない。まだ、終わるわけにはいかない。」

 真名をまっすぐに見て恭也が言った。真名はそうかと少し残念そうに嘆息して再び恭也を見る。否、睨みつける。

「お前が引くようなやつではないのは予想どおりだが、そこまで言うなら仕方がない。私は決勝で鼎を倒さなければならない。

高町、たとえ死んだとしても、恨むなよ。」

 真名はその言葉で完全に戦闘モードに切り替わった。真名は一瞬で間合いをつめると恭也の鳩尾に左肘を叩き込む。恭也は全く反応できなかった。

真名から目をそらしたわけでもないし、油断していたわけでもない。気がついたときには既に真名の肘が恭也を捉えていたのだ。

真名は体を密着させたまま右掌底で恭也の顎を打ち上げ、すぐさま左正拳を胸板に叩き込む。まるで車にでも引かれたかのように恭也はリング端まで吹き飛ばされた。

そんな恭也を真名は休む間のなく追う。恭也はすぐに立ち上がって迎え撃とうとするが、体がまともに動かない。恭也が体を起こしたそのとき、

真名の右足が恭也を蹴り上げた。普通なら意識が飛んでもおかしくない一撃だが、恭也はその一撃に耐え、立ち上がって小太刀を走らせた。

しかし、その小太刀は何かにはじかれ、手からこぼれ落ちた。羅漢銭だ。忘れていたというわけではないが、そこまで思考できるほど、恭也には余裕がなかった。

真名を捉えきる前に小太刀が落とされたため、一瞬だが、確実に恭也に隙ができた。それを逃す真名ではない。寧ろ、それを狙っていたのだから逃すはずがない。

真名の左掌底が恭也の右わき腹を撃つ。そして体を捻って右正拳で左わき腹を。体を回転させ、右ひじで恭也の側頭部を。右蹴りが腹にめり込む。

最後に、くの字折れた体を左肘で叩き落した。

「終わりだ。」

 真名のその言葉通り、これだけの攻撃をくらって無事なわけがない。一発でももらえば即KO級の一撃をこれほど立て続けに受けたのだ。

立ち上がれるはずがない。しかし、恭也はそれですら沈まなかった。起き上がる。小太刀を杖にして起き上がる。満身創痍で起き上がった。

負けられない。ただ、それだけの想いで立ち上がった。

「まだ・・・・終われない・・・・。」

 恭也は立つのもやっとという状況にありながらも真名に向かって疾走った。『神速』も『閃』も使える体力など残っていない。しかし、恭也は疾走った。

(限界を超えつつあるな・・・・。これ以上時間をかけるとこっちが危険になるか・・・。)

 真名は恭也を見てそう思うと決着をつけるべく恭也と向かいあった。恭也が攻める。体が動かないような攻撃を受けながらも、恭也は攻める。

その攻撃はしかし、今までの恭也の攻撃とはまるで違った。速度、威力とも落ちているはずなのに、真名を捉え始めたのだ。

この攻防で初めて真名が押され始めた。しかし、真名はとりたてあわてることもなく冷静に対処していく。と、恭也の動きが止まった。

恭也の放った胴蹴りを真名が受け止めたのだ。真名はそのまま受け止めた足を自分のほうに引っ張って恭也の体制を崩させると

そのままジャイアントスイングのように振り回すと足を持ったまま恭也を振り上げた。遠心力で力が外向きにかかっていたため、

恭也は簡単に振り上げられる。と、真名はそのまま腕を振り落とした。手を離していないため、恭也は当然、そのままリングに叩きつけられた。

受身を取ることもかなわず地面に這いつくばるような形で叩きつけられた。その一撃は十分に人を殺せるものだったが、真名はそれだけでは終わらず、

跳んだ。しかも、ただ跳んだというものではない。軽く電柱を超える高さまで舞い上がった。そのまま足を振り上げる。フットスタンプだ。

この高さから落下して、しかもフットスタンプをくらうとなれば、気絶どころか確実といっていいほど、十分なほどに、死ぬ。

真名が殺しても恨むなといったとおり、殺すためだけの一撃だ。一方の恭也は何とか顔を上げたものの、起き上がることができない。

(終わる・・・のか・・・・?答えを見つけられないまま・・・・終わるのか・・・・?)

 動きたい。でも、動けない。戦いたい。でも、理由がわからない。誰かを守るために戦うという想いは戦いの中で意味を持たないのか。

だが、恭也はネギとの戦いの時点でわかっていた。自分がエヴァを守るために戦っているのではないということに。では何のため?

恭也が見つけることができていないのはそれだった。恭也の父、士郎はどうだったのだろうか。恭也と同じ問いにぶつかり、

答えを見つけることができたのだろうか。しかし、それは詮のないことだ。大事なのは、今、この状況をどうにかしないといけないということだけ。

恭也も気配で真名が降ってきていることに気づいている。間違いなく、死ぬ。避けなければ、十分に、死ぬ。

(まだ、死ねない・・・・。こんなとこで、死ねない。エヴァがいるから・・・・。エヴァと、一緒にいたいから・・・・・。)

 しかし、想いとは裏腹に体は動かない。まるで、自分のものではないかのように動かない。歓声が響いているのだろうが、

既に聞こえない。だんだんと視界もぼやけていく。

「・・・・・也!!!・・・・う也!!!!・・・・・・恭也!!!!」

 声が聞こえる。聞きなれた声。大切な人の声。守りたい人の声。側にいたい人の声。エヴァの声。

「恭也!!!!」

 そして、エヴァと同じ存在。茶々丸の声。声の元を探る。体が動かない。しかし、いた。目の前に。二人は目に涙を浮かべていた。

恭也の姿に耐え切れなくなったのだろう。

(エヴァ・・・・茶々丸・・・・・。)

 二人は泣いている。二人を泣かせるためにこの大会に出たわけではない。二人を泣かせるために戦っているのではない。

二人が笑っていられるために戦って、剣を磨いているのだ。二人の、笑顔が、なにより、見たいから。見ていたいから。だから。だから。

(だから。二人の笑顔を見たいから、俺は、戦う!!俺は、負けたくない!!!俺は、負けられない!!!!)

 無情にも、真名の足は恭也に振り下ろされた。すさまじい轟音。間違いなく、死んだ。誰もがそう思った。

美由希も、美沙斗も、御鐘も、会場の誰もが。エヴァと、茶々丸は目を背けた。見ていられなかったのだ。しかし、だがしかし。




―――、真名の足の下に、恭也の姿はなかった。




「さて、俺も決勝の準備をするかね。思ったよりも強くなりすぎたみたいだし。」

 控え室でその様子を鼎はそういい残すと控え室を後にした。まるで、この後どうなるかを知り尽くしているかのように。



 恭也は立っていた。真名の打撃によるダメージは立つことを許さないほどであったにもかかわらず。息を一切乱した様子もなく、

まるで今までの激戦の痕を残してすらなく、正しく、試合開始直後のように真名のリングの中央に立っていた。

「俺は負けられない。エヴァの、茶々丸の笑顔が見たいから。だから、負けられない。」

 振り返って恭也のほうを見た真名に、恭也はまっすぐに小太刀を向けた。今までとはまるで違うその雰囲気。それは殺気というものではない。

闘気と呼ばれるものだ。真名はそうかとつぶやくと疾走った。恭也も疾走る。恭也の小太刀が真名に向かう。しかし、その剣閃は今までのものとは全く異質だった。

答えを見つけることができたというだけで、ここまで変わるものなのかというほどの変貌ぶり。それは恭也の小太刀を避けきれていないことではっきりとわかる。

真名も至近距離から羅漢銭を放つが、すべて小太刀で叩き落されている。完全に形勢逆転。さっきとはまるで逆に恭也が真名を完全に、正しく完全に圧倒していた。

真名の拳は蹴りはいなされ、かわされ、恭也の小太刀は確実に真名を捉えている。真名は分が悪いと蹴りで牽制して羅漢銭の連打で距離を開けた。

(全く、化け物か?限界を超えたとはいえ、ここまで変わるとは・・・・。いや、あのエヴァンジェリンと絡繰の彼氏だ。ここまでできても不思議ではないな。)

 真名が構える。いままで構えていなかったのに、ここになって始めて構えた。恭也も真名にあわせるように構える。真名が疾走った。

その速度は桁違いで、それこそ『閃』にも迫るほどの速さで。恭也も疾走る。真名にはその動きが見えるはずだった。

恭也の『神速』、『閃』は既に見切っているはずだった。しかし、恭也のその姿が真名の双眸に映ることはなかった。

掠めることすらなかった。真名が疾走ったその次の瞬間、真名の視界が反転した。自分が弾き飛ばされたことに気がついたのはそれから一間隔おいてからだった。

(『瞬』・・・・か・・・・。ここまで一方的にやられるとは、私もまだまだ・・・・だな・・・・。)

 真名がそう思うのと、リング外に落ちるのはほぼ同時だった。会場が静まり返る。前半、真名に一方的に押されながらも、

翻って後半は真名に何もさせないままに勝利を収めた恭也。後半の実力差は誰の目にも明らかだった。歓声が響き渡る。

しかし、恭也にはそれすらもどうでもよかった。自らが戦う理由が、自らが剣を磨く理由がはっきりとわかったのだから。

御神の剣士は確実に、そして、急速に、進化した。誰の目にもわかるほどに。勝者、高町恭也。

進化を遂げた最強の剣士が遂に鼎の待つその舞台に足を踏み入れた。同時に、鼎の棲む領域に、足を踏み入れた。






 PRIDE〜麻帆良祭り〜優勝決定戦、高町恭也VS鳳鼎。最強を決める最高のカードがここに実現した。








あとがき


すいません。更新まで二週間もかかりました。

(フィーネ)謝ってすむ問題じゃないでしょ?

そうなんだが、事実、書く暇がないほどに忙しかった。つーか、レポートの字数が多すぎなんだよ。最低8000字ってなにさ。

(フィーラ)一年のころに比べれば多いわね。

しかも二週間で4本だぞ。最近はレポートしかやってないし。遊ぶ暇すらありゃしない。

(フィーリア)ま、こうして更新できたんだからよしとしましょうよ。

そういってくれるとありがたいな。

(フィーネ)でも、まだレポート残ってるんでしょ?

ああ・・・・。七月中、下手したら小説かけないかも知れん。

(フィーラ)レポートの多い講義ばっかりとるから。

激しく後悔してるよ。ま、それでも仕方ない。留年したくないし。

(フィーリア)まあ、学生なんだから勉強しないと。

そうだな。でも、夏の間までにこの話も完結させるぞ。

(フィーネ)HOLY CRUSADERSも書かないといけないし。

いや、別の書くかも。

(フィーラ)はぁ・・・。まあ、いいんだけどね。じゃ、次回予告しなさい。

おう。次回ネギまちっく・ハート第十八符『死闘の果てに』!!!

(フィーリア)遂にPRIDE〜麻帆良祭り〜も完結ね。

おう。一万字超える危険性もあるが、一本に収めるつもりだからがんばんないと。

(フィーネ&フィーラ&フィーリア)まったねぇ〜♪♪♪♪♪♪♪♪♪


遂に戦う理由を手に入れた恭也。
美姫 「更なる高みへと登りつめた恭也とそこで待っていた鼎」
果たして、どんな死闘が繰り広げられる事になるのか…。
美姫 「次回は遂に決勝!」
いやが上にも盛り上がる〜。
美姫 「次回も楽しみにしてます」
ではでは。



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