『ネギまちっく・ハート〜Love and War〜』






     第零帖『もうひとつのはじまり』



 彼とであったのは・・・・そう、記憶にない近い昔のこと。記憶にあるのは8歳のころの夏からだろう。

その年の夏も例年のように親戚の姫神家に来ていた。しかし、その年の姫神家は様子が違っていた。去年までの明るい家庭はそこにはなく、

陰鬱とした空気が支配しているのを子供ながらに感じていた。父と母は私を部屋に残したまま姫神のおじ様たちと別の部屋で話があると出て行ったきり戻ってくる様子はない。

私は姫神家の一人っ子の眞莉亜と遊んで暇な時間をつぶそうと館のなかを歩き回った。

しかし、どこにも眞莉亜がいない。私は普段行きなれない地下に脚を運んでみることにした。

眞莉亜はたまに地下にいることがあったからだ。しかし、地下にも姿が見当たらない。と、私の目に一つの部屋が目に留まった。

ドアが鎖で厳重に封をされている。そこだけあまりにも浮いていたため、私はなんとなく直感でこの先に眞莉亜がいるのではないかと思った。

私は妙な焦燥感に駆られその鎖を幼いながら全力で引っ張ったがまったくもって動くことはない。あきらめたくなかった。

何がそう思わせたのかはわからないが、私は力の限り引っ張った。今思えば恋心からくるものだったのかもしれない。どれだけひっぱったのかわからなかったが、

鎖を打ち付けていた釘がさびていたようで釘が先に折れた。私は急いで鎖を解くとドアを開けて中に入った。

廊下からの光が差し込んでいるにもかかわらず部屋の奥の様子がうかがい知れない。私は怖いと思うよりも先に眞莉亜が心配で部屋に駆け込んだ。

その先に、その部屋の隅に、眞莉亜はいた。すべてを拒むように膝を抱いて、頭を下げて、石のようにまったく動くことなく。私は彼のその姿に呆然と立ち尽くした。

目が暗闇にだんだん慣れてくるとその姿がはっきりと目に映ってくる。そして、私は見た。彼の頭から生える二本のガゼルのような長い角を。

私はそれを幼いからわかったのだろう、鬼のそれだと確信した。ここにいる眞莉亜は私の知らない眞莉亜だ。しかし、不思議と恐怖感はなかった。

私は眞莉亜ではない眞莉亜にそっと近づくと包み込むように抱きしめた。私の体温が奪われていくほど体が冷えていた。

しばらくして私は離れて眞莉亜ではない眞莉亜の肩に手を添えて呼びかける。が、眞莉亜ではない眞莉亜は反応しなかった。

しかし、私の幾度とない呼びかけに眞莉亜ではない眞莉亜は顔を上げ、私の名を呼ぶ。力のない口調に聞きなれない声音。やはり眞莉亜ではない。

しかし、ここで初めてこの存在に対して怖いという感情を抱いた。存在に対して恐怖を感じたのではない。

生気のない顔。そして、生きることをあきらめた、そんな風に見える光のない瞳。それが、怖かった。

私は何をしていいのかわからず、そのまま眞莉亜ではない眞莉亜の前で動けないでいた。

どれぐらい時間がたったのかわからないし、それ以前に、そこから先の記憶がはっきりとしない。



 それから記憶がよみがえるのは父と母から家で眞莉亜を引き取ると聞いたときだ。眞莉亜は多重人格だったことが去年発覚し、

それが原因で両親から虐待を受けていたという。その話を耳にした両親は親戚だということもあって引き取ることにしたらしい。

そのとき、多重人格とは何なのかよくわからなかったが、両親は私にもわかりやすいように説明してくれた。眞莉亜の中にいるほかの人格、眞莉紗と眞莉慧のことも。

今から考えると眞莉亜は多重人格ではなく、3人が1人になったといったほうが正確だと思う。それを聞かされた私は自ら眞莉亜の世話を志願した。

眞莉亜の、眞莉紗の、眞莉慧の心の傷を少しでも早く癒してあげたかったからだ。

今考えると本来なら専門医に任せるべきだったのだろうが、両親は私にそれを任せてくれた。それから私は学校のない時間を常に眞莉亜たちと共に過ごした。

眞莉亜たちは記憶を共有しているらしく、コミュニケーションに問題はなかったが、それぞれが負った心の傷は深く、まともに話せるようになるまでに実に半年もかかった。

それから半年はだんだんとゆっくりながらも私の知っている眞莉亜に戻っていき、そして眞莉紗、眞莉慧とも信頼関係を、いや、それ以上のものを築いていった。

眞莉亜が私の家に着てから1年がたつころには眞莉亜は本来の自分を取り戻していた。

そのころには私は眞莉亜が吸血鬼で、眞莉紗が鬼で、眞莉慧が幽霊であり、本の中でしか見ることのできない力を持っていることも知っていた。


 そしてそんなある日、母から弟ができるという話を聞いた。私はうれしかった。眞莉亜も、眞莉紗も、眞莉慧も、自分のことのように喜んでくれた。

でも、弟が生まれてくることはなかった。そのとき私は激しく落ち込んで、食事を取らない日が続いた。

そんな私をそばで支えてくれたのは眞莉亜、眞莉紗、眞莉慧と神楽坂明日菜だった。みんなのおかげで私は何とか立ち直ることができた。

そして、中学進学と共に、眞莉亜も中学校に進学した。小学校は行っていないものの、学力は十分にあったのでそのまま進学することになったのだ。

このころから、眞莉亜は自分の別の人格とも折り合いがついたのか、一日を3人で分担して過ごすようになった。

どうやら、3人の人格はそれぞれが記憶を共有しながらも独立しているために、入れ替わるごと眠り、目を覚ますような感じらしく、

そのため、眞莉亜たちは睡眠をとることがなかった。そして、中学二年のころ、私を再び悲劇が襲った。私の友達の一人、神楽坂明日菜が、亡くなった。

口に出したくはないが、彼女は眞莉亜たちを除いては私の一番の理解者だった。私は大切なものを失った喪失感に弟を失ったとき以上にふさぎこんだ。

眞莉亜はそんな私を見て何とか立ち直れるように世話をしてくれたが、私は立ち直ることができなかった。

そんな状態が一月ほど続いたある日、毎日私の部屋に来ていた眞莉亜がはたとこなくなった。私は心配になって眞莉亜の部屋に足を向けた。

しかし、眞莉亜の部屋に彼はいなかった。私は母に眞莉亜の居場所を聞いた。病院だった。体を壊して入院したという。

眞莉亜は明日菜さんをよみがえらせようと自分の力を酷使したことが原因で倒れたらしい。私のせいだ。私は走った。

長い間動いていなかった体がきしみ、ほとんど食べ物を口にしていなかったせいで意識がはっきりとしない。それでも私は眞莉亜のもとに走り、

病室に駆け込んだ。眞莉亜は眠っていた。話によると意識が戻っていないらしい。悔やんでも悔やみきれなかった。私を支えてくれた人がいなくなる。

何より、眞莉亜が、眞莉紗が、眞莉慧がいなくなる。私は何度も何度も眞莉亜を呼んだ。どれだけ呼んだかわからない。何時間呼んだかわからない。

病院が暗くなり、私の声が嗄れ果てたころ、眞莉亜が目を覚ました。そして入れ替わるように私が意識を失った。目を覚ましたのは意識を失って丸1日たってからだった。

目を開けた私の隣に居たのは眞莉亜たち。眞莉亜は、眞莉紗は、眞莉慧は、いつも私のそばに居てくれる。私にとって当たり前のことだったが、




               その当たり前のことがかけがえのないものだと、そのとき、気づいた。そして。




                     私は眞莉亜に、眞莉紗に、眞莉慧に、告白した。




 眞莉亜は、眞莉紗は、眞莉慧は、世話ばかりかけた私を受けいれてくれた。でも、そんな私にも不安があった。眞莉亜たちとの絆を失うこと。

大切な人を失うこと。大切な人と離れ離れになること。そう。眞莉亜は吸血鬼。限りなき命の持ち主。つまり、私は、彼らを残して老い、彼らを残して逝くことになる。

いやだった。単純に嫌だった。単純に怖かった。彼らの瞳の中から私がいなくなることが。私は決意を持って眞莉亜に噛まれた。大切だから。

この絆を永遠に失いたくないから。彼らの瞳にいつまでも私を映していたかったから。私は吸血鬼になった。とはいえ、力は何もない。

ただ、眞莉亜と、眞莉紗と、眞莉慧と、ずっと一緒に居たいから。そして、今日も、眞莉亜と、眞莉紗と、眞莉慧と、私は同じ空の下で手をつないで歩いている。









   あとがき



ということで今回は序章に当たる第零帖をお送りしました。

(フィーネ)ネギまちっく・ハートの続編になるのね。

そういうこと。

(フィーラ)でもなんであやかちゃんがヒロインなの?

それはだな。俺の中でコンクラーベが行われて、満場一致で次回ヒロインはあやかということになったんだ。

(フィーリア)でも、原作の設定捻じ曲げじゃん。

そんなの今に始まったことじゃないだろー♪

(フィーネ)そりゃそうだけどね。一番ひどい捻じ曲げじゃん。

うう・・・・言わないでくれ・・・・実際本気で悩んだんだよ・・・・。

(フィーラ)ヒロイン変えればよかったじゃない。

コンクラーベには逆らえん・・・・。

(フィーリア)だからこうやって零帖で改ざん部分を書いたんだね?

そういうことだ。どのあたりをいじったのかってとこを前もって。

(フィーネ)ホントに読み手を選ぶのしか書かないわねぇ・・・・。ところでなんで副題が〜Love and War〜なのよ?

気持ちは『恋と戦い』って訳してくれ。今回はかなりどぎつい戦闘シーンもあるから。

(フィーラ)前回とは違うわね。

まあね。今回は恭也も吸血鬼になったし、眞莉亜たちだって化物以外の何物でもないし。

当然、そういうものをよく思わない『機関』もあるわけだから、そういうとことぶつかることもあるさ。

だからこその『恋と戦い』なんだ。

(フィーリア)なるほどね。それじゃ、次回予告行ってみよー♪

(フィーネ)いつもの日常、いつもの朝。

(フィーラ)そこにいるのはいつもあの人。

(フィーリア)いつもの日常から始まるいつもの毎日。

(フィーネ&フィーラ&フィーリア)次回、ネギまちっく・ハート第一帖『不思議な恋人達』!!!乞うご期待♪♪♪



新章スタート!
美姫 「今回のヒロインはあやか」
果たして、どうんなお話しになるのか!?
美姫 「前回以上に戦闘になるらしいわよ」
まさに恋と戦い! いや、恋は戦い!
美姫 「戦闘シーンも楽しみながら、そっちの方面も楽しみね♪」
うんうん。早くも次回が待ち遠しいです!
美姫 「それじゃあ、次回を首を長くして待ってるわね」
って、それは俺の首!



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