『ネギまちっく・ハート〜Love and War〜』






     第六帖『絆』



「で、どこまで行くんだ?」

 屋上で超と聡美と合流し、4人はその脚で麻帆良森林公園に向かっていた。日は沈み始め、夜の帳も下りはじめている。

急いてはことを仕損じるというが、機を逃せばことすら起こすことができない。

眞莉亜の判断によって恭也の協力が決まったその日のうちにけりをつけようということになったのだ。

「この先にある廃教会ネ。準備はそこで既にできてるヨ。」

 超がそういって恭也の問いに答える。今恭也たちは麻帆良森林公園から既に外れて獣道といっていいような細い道を歩いている。

この先に廃教会があるとはとても信じられないが、しかし、獣道のようであっても、紛れもなくこれは道。ということはこの先に何かあることは間違いない。

「さて。それじゃ今のうちに手順の説明をしとくよ。聡美嬢。」

 先頭を歩く眞莉亜は聡美から書類を受けとるとそれを恭也に手渡した。恭也はそれに目を落とす。

「内容はそこに書いてある通り。恭也には魂が定着するまでの5時間きっかり、永夜封で明日菜嬢の魂を新しい体にとどめておいて。」

 眞莉亜は説明するより読んでくれたほうが速いから後は質問でもある?と恭也に聞く。

「なあ、眞莉亜。この・・・・、最悪の事態についてってなんだ?」

 手渡された書類に書かれているなるべく見たくない文字。しかし、それは確実にその書面の上にあった。最悪の事態と。

とはいえ、そうは書いているものの、その欄には詳しいことは何も書かれていない。

「本来なら最悪の事態ってくらいで考えてたんだけど、どうやらそうもいかないみたいだから、計画の一部として取り込もうと思ったんだ。」

 眞莉亜の言葉の意味がいまいちわからず、恭也は続きの説明を求める。眞莉亜はもちろんといって説明を始めた。

「明日菜嬢の魂をこっち側に引っ張ってくるのはさっきみたいに一時的なものじゃないからかなりの大掛かりなものになるんだよ。

相当の力を使って完全にこっちとあっちをつないで無理やり引っ張ってくるわけだから、

なんというか、簡単に言うと余計な連中までこっち側に現れちゃうんだな、これが。そうなると、最悪の事態っていうのが何かわかるでしょ?

そう。魔法先生たちの存在。さすがにこれに気付かない連中はいないだろうから、間違いなく余計な連中を倒し始めると思うし、

そうなると、ここだってばれかねない。超嬢と聡美嬢を信用してないわけじゃないけど、おそらくネギ先生あたりは気付いてもおかしくないと思うんだ。

だから、一戦交える覚悟でいて欲しい。とりあえず、眞莉紗が何とかしてくれると思うから、恭也には殿を勤めてもらうよ。」

 眞莉亜の説明に恭也はなるほどと納得したようだったが、しかし、なぜ自分が殿を務めなければならないのかがよくわからなかった。

眞莉紗の実力を知らないというのもあるが、たとえば眞莉紗の実力が恭也以上だった場合、殿を務めるのは眞莉紗のほうではないのだろうか。

「眞莉亜。俺のほうが先鋒で、おまえが殿をやったほうがいいんじゃないのか?」

 恭也の提案に、しかし眞莉亜は首を振った。

「さすがにそういうわけにも行かないさ。恭也が先鋒で出たら恭也に迷惑がかかる。さすがに恭也だってブラックリストにのりたくはないだろ?

俺の場合、正確には眞莉紗の場合だけど、ブラックリストに載ること自体たいしたことじゃないし、そもそも、今まで載っていないこと自体が疑問だよ。

なに、心配することはないって。恭也にまわすことなくきっちりと眞莉紗で食い止めるから。」

 恭也はわかった。だが、なるべくおまえもブラックリスト入りしないように振舞えよと釘を刺した。

しかし、眞莉紗について何も知らない恭也にとってそれは当然ながら無理な約束であることは知るよしもない。

「さて、つきましたよ。ここが今回の計画実行の場所。廃教会『ラグナロク』です。」

 話をしているうちにどうやら目的地についたようだ。廃教会というものの、そこまで朽ち果てている感はなく、補修工事を行えば十分に使えそうなものである。

「『ラグナロク』・・・・ね。『神々の黄昏』とは、なんとまぁ、おあつらえ向きな名前だこと。」

 眞莉亜はそういって教会の硬く閉ざされたドアを開ける。中は、しかし、廃教会とは思えないそれだった。中は機械の配線が張り巡らされ、

数多くの大型機械が鎮座していた。しかも、どれもこれもが見たこともないようなそれで、なんに使われるのかが全く持ってわからないものばかりだった。

そして、その中央に一つだけこの教会のものらしき祭壇が、そしてその上には、見たとない女性、つまり、明日菜の器になるべき体が横たわっていた。

「こ、ここまで大掛かりにする必要・・・・あるのか?」

 恭也は大掛かりすぎる設備にここまでする必要性がわからず、眞莉亜に尋ねた。

「まあ、念には念をいれよって言うし、最悪の事態が絶対に起きるとわかっていても、結界張ったりとか大変だから。」

 眞莉亜はそういうと体の支配権を眞莉慧に渡す。薄蒼い髪に黒い瞳。『白夜の霊姫』と呼ばれる彼女がその場に舞い降りた。

「ちょっとまて、眞莉・・・・姫神。結界といったが、誰が張るんだ?この面子じゃ誰も魔法なんかつかえないと思うんだが。」

 恭也の問に眞莉慧は大丈夫だよと軽く笑ってかえす。

「協力者は誰も恭也君たちだけじゃないって言ったでしょ?」

 眞莉慧のその言葉に応じるように奥から二人の女性が姿を現した。赤茶色の髪の女性と灰色がかった髪の女性。朝倉和美と相坂さよだった。

「今の所、森林公園全体の監視カメラに異常なし。ついで市街地も今のところはいつもどおり。ここまでで、ばれてることはなさそうだよ。」

 和美がそういってピースサインを作ってみせる。

「ありがと、和美ちゃん。そのまま監視を続けて、動きがあったら知らせてね。それじゃ、早速はじめようか。さよちゃん、結界おねがい。」

 眞莉慧の言葉を皮切りにさよが呪文の詠唱を始める。それを確認し、超と聡美がホストコンピュータの前に座り機械を始動させていく。

「術式開始による全システムの起動確認。ついで結界拡散システム起動。」

 聡美のシステム確認の声がイヤに静かな教会の中に響く。

「それじゃ、始めるよ、恭也くん。」

 眞莉慧はそういうと手を広げて目を閉じ、静かに集中し始める。

「『門(ゲート)』を確認したネ。明日菜サンの魂は・・・・まだ来てないアルよ。」

 眞莉紗はあせることなく、意識を集中させて明日菜の魂を探す。

「町で異変を確認。所々で余計な連中が姿を現したみたいだよ。」

 和美が町の変化を伝える。しかし、眞莉慧はあせる様子もない。ただひたすら目を閉じて意識を集中させ続けている。

恭也は自分には何もできないことを当初から悟り、あえて静観し続けていた。しかし、動きがある気配はまるでない。既に始まってから30分ほどたとうとしている。

「町で動きがあったみたいね。魔法先生達と、ネギ先生と宮崎、鼎と龍宮、桜咲を確認。」

 どうやら魔法先生たちが動き始めたようだ。それもそうである、当初はもっと早くに終わる予定だったにもかかわらず、既に予定時間を超過している。

「キタね。明日菜サンの魂ヨ。」

 超の言葉に眞莉慧は目を閉じたまま頷いてゆっくりと手を上げる。すると、その手に青白い光が教会の上からふわふわと降下して来た。

眞莉慧はその光を手のひらに載せて明日菜の器になる為の体の中にゆっくりと沈めていく。

「さて、恭也くん。おねがい。」

 眞莉慧の声が恭也にかかった。恭也はわかったと頷き明日菜のとなりに立ち、その手を額に乗せて意識を集中させる。恭也と明日菜の体が青白い光に包まれた。

相当な力が集まっていることを誰もが察知できるほど、その力は強い。

「ネギ先生、宮崎、龍宮、桜咲、鼎の5人が森林公園に接近中。どうやら、姫神君のいったとおりになりそうだね。」

 和美に言葉に反応して眞莉慧が和美のほうを向く。そして、それじゃあ、これから先は眞莉紗の領域だねと体の支配権を眞莉紗に引き渡した。

金色の髪に金色の瞳。そして鬼であることを決定付ける2本の角。『幻想の鬼姫』がそこに光臨した。

「姫神。成功だ。あとは5時間、時間を稼ぐ。それだけだ。」

 恭也はそういってアデアットと、エヴァとの契約(パクティオー)で手に入れたアーティファクトをその手に持った。

それを見た眞莉紗はなるほどねと納得したのか、頷いた。

「かずみん、ネギ先生たちはデートポイントに向かってる?」

 眞莉紗の問いに和美はもちろんと答える。

「さよっち、今の所、結界に欠損は?」

 眞莉紗の問いにさよは今張ってある結界に欠損があるか確認していく。

「今の所ないみたいです。2重結界ですから、半径3キロ以内にはお招きでない方々の姿もないですね。」

 さよは大丈夫ですよと眞莉紗に答えた。眞莉紗は魔法先生達もいるから気を抜かないでねといって恭也のほうを向く。

「さて、それじゃあ少しだけど遊びに行こっか。」

 眞莉紗は恭也の無言の主張をあっさりと受け入れて同行させることを許可した。つまりそれは自分の力を恭也の見せるということになる。

恭也はああと頷いて一歩先に教会を出ようとした。しかし、それが間違いだった。眞莉紗に背を向けたことが間違いだった。

「なーんてね。」

 恭也は眞莉紗のその声を聞くと同時に意識を失った。何をされたかもわからず、何が起きたのかすら理解する暇はなかった。

眞莉紗は崩れ落ちる恭也を受け止めて軽々と抱え上げると長椅子に横にさせる。

「連れて行きたいのは山々なんだけど、今はまだここで私の力を見せるわけにはいかないんだよね。

別に今か後かってだけだけど、こんな風にイベントの一環でというよりも、ちゃんとそれようにイベント作ったほうがいいだろうし。」

 眞莉紗はそういうと超に一枚のカードを手渡した。

「悪いけど、恭也くんが目を覚ましたらこれを渡してくれない?」

 超はわかったネと軽く了解してそのカードを受け取る。

「しかし、どれもこれもここまで言うとおりになると、さすがに私としても驚きネ。」

 超はカードを机の上におき、椅子にもたれかかって眞莉紗にそういった。

「確かに、ここまで来るともう『策士』って言うより『予言者』って言った方がいいかもね。」

 眞莉紗もそんな風に少し驚きを隠しきれない様子でしかし、軽い口調でそう答えた。

と、眞莉紗はどこから取り出したのか、白袖と緋袴に着替え始めた。どうやらこれが眞莉紗の戦装束のようだ。

「全く不可解です。人間の行動がここまではっきりと予測できるなんてありえません。そもそも行動というものは・・・・・。」

 聡美にとってここまで彼の言ったとおりになるというのは不可解極まりない上に、信じがたいそれである。

「ま、それくらいじゃないとたとえ眞莉亜とはいえ、かつてはその眞莉亜をも手玉に取った実績があるんだから。これくらいは当然じゃない?」

 眞莉紗は着替え終わると、そういって教会の扉を今一度開く。

「それじゃ、少し遊んでくるから。その間、ここをおねがいね。」

 眞莉紗の言葉にさよたちは任せてくださいと返事をする。眞莉紗はいってきまーすと本当に軽々しく教会を出て行った。





「でも、今回のこの事件、本当にエヴァンジェリンさんたちの仕業なんでしょうか?」

 森林公園をまっすぐ中央広場に向かいながらネギが前を行く真名と刹那、鼎に聞いた。

「確実・・・とはいえないが、召集に来なかったんだ。それに、こんなことができるのは相当な力の持ち主じゃなければできないだろう。」

 真名は可能性としてだがとネギに答えた。

「でも、だったら、一体何のためにこんなことをしたんですか?理由がまるでさっぱり・・・。」

 ネギのいうとおり、エヴァが犯人だとするならば、何のためにこんなことをしたのかがわからない。

そもそも、これほどまでに死霊がうようよするほどの事態になればすぐにばれることはわかりきっているはずである。

「降霊術かなんかで失敗したかなんかじゃないか?恭也だって来てないんだ。疑われても仕方ないだろ。」

 鼎もほぼ間違いないだろうとエヴァを犯人だとほぼ確信しているようだった。

「ですが、この状況をエヴァンジェリンさんほどの人が予測できなかったとは思えません。寧ろ、何らかの目的を持ってこの状況を覚悟の上でやったような気がします。

だとすれば、一体何の目的があったのでしょうか?」

 刹那はあたりを警戒しながら疑問を口にする。確かに、だとすればこの状況も合点がいく。何らかの目的の為のどうしようもない犠牲。

ならば、その目的は一体なんなのか。

「うそ・・・・。」

 そんな中、最後尾をついてきていたのどかがそんな声を上げた。その声に反応して4人が足を止める。

「います・・・・この先に・・・・。しかも・・・・・気がついています。私たちのことに・・・・。」

 のどかのその発言に一気にネギたちは臨戦体勢に入る。日も落ち、森林公園にある街灯だけが唯一の明かりになっている。

その暗闇の中、からん、からんと下駄の音が響く。ネギたちは緊張感を高めながらも、疑問を抱いた。何かが違うと。

「エヴァンジェリンさんじゃありません・・・・。」

 のどかが近づく人が誰なのか、その手に持った本、『全知全能の書(ブック・オブ・バベル)』で確認し、告げようとする。

「じゃんじゃじゃーん♪」

 街灯の元に姿を現したのは。そう。エヴァではなかった。現れたのは。当然。

「ま・・・・眞莉紗さん・・・・?」

 その意外な人物にネギを始め、誰もが驚いた。まさかここで眞莉紗が現れるとは誰も思っていなかったのだから。

「ここから先は残念ながら立ち入り禁止。悪いけど、ここでゲームセットだよ。」

 眞莉紗はそういって一歩ネギたちのほうに踏み出す。えもいわれぬプレッシャーがネギたちを襲った。

まるでこの世のものとは思えないそれは、正しく鬼特有の、いや、鬼だからなのだろう、それは鬼気といったほうがいい。

「一体何のつもりだ、姫神。何が目的でこんなことを?」

 真名が眞莉紗に問う。しかし、当然だが、眞莉紗に答える気は始めからない。それを、さあねぇと軽く返すことで伝えた。

「聞きたければ、知りたければ私を倒してから、この先に進んで自分の目で確かめればいいよ。」

 眞莉紗はそういってもう一歩踏み出す。しかし、そんなこと不可能である。

そもそも、眞莉紗に勝つこと自体が、もっといえば、戦うこと自体が馬鹿げている。

しかし、この時点で、眞莉紗の実力を知るものはいない。なぜなら、眞莉紗がこういった方面で力を使うのは何を隠そう、今回が初めてなのだから。

当然、ネギたちはその異様なプレッシャーに当惑しているものの、それがどれほどの実力かを知る由もない。

「わかりました。では、仕方ありません。力づくで通らせていただきます。」

 刹那がそういって夕凪を抜き放ち、構える。それを皮切りに鼎が鉈を、真名が銃を二挺構え、ネギも構えをとる。

「そうこなくっちゃ。」

 眞莉紗はそれに応じるように右手を上げて中指につけられた真紅の指輪に口付けた。

するとどうしたことか、そこから巨大な、正しく巨大な得物が現れた。現れたのは磯釣りに使うような釣竿となんらかわりない大きさの、

それも、大剣ではなく、双刃剣。70センチほどの柄の下にも同じ大きさの剣がついているのだ。刀身はルビーのように紅く透明で黒い装飾が見て取れる。

そして、水晶剣特有の打製石器のように打ち出した感のある刀身。剣幅も50センチ近い。振り回すことはおろか、持ち上げることすら常人には、

人間にはできそうにない、逆接、鬼であればそれが可能な、いわば鬼のための双刃剣。眞莉紗はそれを軽々と振り回し、ネギたちに突きつける。

長さ的に当然地面とぶつかるが、斬られた地面は血のように紅い裂け目ができていた。

「ああ、安心してくれていいよ。命奪うような馬鹿げたことする気なんかこれっぽっちもないから。」

 眞莉紗はそういうと防衛する立場にありながら先手を打ってネギたちに襲い掛かった。

「せつなさん、右からきます!!!」

 しかし、のどかがそれをすぐに読み取り刹那に伝える。刹那はすぐにそれに備えた。しかし、如何せん、速すぎた。

今まで体感した速さの限界は恭也の『瞬』である。しかし、眞莉紗のスピードは初速からそれをはるかに上回っていた。

一足飛びで体を捻りながら飛び掛ることで行動中の方向転換は効かないものの、これにより振り上げることなくその双刃剣で斬る事ができる。

刹那は間一髪、夕凪で受け止めるが眞莉紗の体躯からは想像もできない、まるでトラックでもぶつかったかのような衝撃に薙ぎ払われた。

刹那も烏族とのハーフで単純な力比べなら恭也にすら引けをとらない。そんな刹那を一薙ぎで弾き飛ばしたのだ。

その力たるや想像を絶する。しかし、これは眞莉紗と刹那の一騎打ちというわけではない。真名、鼎、そしてネギが攻め手として存在するのだ。

既に鼎は眞莉紗の背後を取り、鉈を今まさに振り下ろそうとしている。真名の銃から放たれた銃弾は間違いなく捉える速度で眞莉紗に向かう。

そして薙ぎ飛ばされた刹那の背後からネギが現れ、その拳で眞莉紗に向かう。このタイミング、絶妙。3人の同時攻撃は避けることは不可能。

受けることは不可能。決まったといっていい極死の状況。しかし、だがしかし。それが通じるようでは眞莉紗ではない。鬼ではない。『幻想の鬼姫』ではない。

「あまあま〜♪ほっぺ落ちちゃうぐらいに甘いよ〜♪」

 やはり鬼姫だった。刹那を薙ぎ払った勢いを殺すことなく反転し、鼎を薙ぐ。その速度たるや、やはり尋常ではない。

速度にかけては1、2を争う鼎が受けることが手一杯。当然、刹那と同じように薙ぎ払われる。ネギは、その隙を狙えるはずだった。

しかし、狙えなかった。そう。眞莉紗の武器は双刃剣。しかも、やはり絶妙。鼎を薙いだ反対側の刃はきちんとネギを捕らえていた。

当然避けられる速度ではない。ネギは手に魔力を集中させ、簡易の、とはいえ相当な強度の魔法障壁を一瞬にして形成する。

が、当然その力に押し負け薙ぎ払われた。ここまでは完全に眞莉紗の思い通りにいっているが、銃弾だけはどうにもならない。だが。

「大炎上〜♪♪♪」

 突然の火焔が眞莉紗を包み込む。その炎は一気に燃え上がり、銃弾そのものを消し炭に変えた。一瞬。正しく一瞬で、眞莉紗は4人を完全に手玉に取ったのだ。

眞莉紗はさて、次はどうするの?とネギたちのほうを向いて飄々といった。その表情からは余裕どころか、リラックスしきっていることがわかる。

と、眞莉紗が動いた。どうするのといった割に先に動いたのは眞莉紗だったのだ。

「ネギせんせー、上です!!」

 やはりのどかが眞莉紗の思念を読み、伝える。ネギは真正面から受けるのではなくまるで見当違いの方向に走った。

眞莉紗の剣が一瞬前までネギの居た場所をえぐる。背後からは得物の特性上近づけない。しかし、攻め手は4人いるのだ。

鼎が『瞬』で眞莉紗に向かった。眞莉紗はその速度にすら完全に反応し、向かい合いながらその双刃剣を横に薙ぐ。

しかし、それを受けたのは真名だった。鼎の背後に隠れ、この一瞬を待っていたのだ。刹那たち同様、力負けするが、それで十分だった。

その一瞬のラグで鼎は身をかがめて横薙ぎを避け、鉈を走らせる。しかし、眞莉紗は避ける気すら感じさせず、そのまま回転し、

もう一方の刃で薙ぐ。鼎はやはり受けざるをえず、もう一方の鉈で受ける。当然鼎も薙ぎ払われた。しかし、ここまではネギたちの思い通りにことが運んでいる。

しかし、それが読めない眞莉紗ではない。上空を見上げて刹那の姿を確認する。鼎と真名はおとり。単なる時間稼ぎに過ぎない。

眞莉紗の双刃剣はその大きさの関係で、薙ぐことはできても振り上げることができないと考えたのだ。とすれば、上空は完全に死角になる。

避けることは可能であっても、避けた場合、やはり武器の特性上刹那のほうが有利である。しかし、眞莉紗は笑ってその剣を振り上げた。

刀身が地に埋まり、どう考えても振りぬくことなどできない状況にあるにもかかわらず、その剣は刹那を襲った。

さすがにそれには予想外で振り上げた夕凪を無理やり防御に回して、一撃を受ける。刹那は空中ということもあって、その一撃に耐えることができず、

相当な距離を飛ばされ、受身もかなわず、地面に落下した。眞莉紗はそれを確認することもなく、ついでネギをその視界にとらえる。

「雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 眞莉紗がネギに目を向けたときは、完全に呪文詠唱が終わったそのときだった。ネギの手から膨大な魔力が解き放たれる。

このためだけの完全な罠だったのだ。ネギが単純に呪文を詠唱しても眞莉紗の動きからして間違いなく詠唱が終わる前に潰される。

そのため、鼎たちは潰されることを前提で眞莉紗に飛び掛ったのだ。かくして、ネギは呪文を最後まで詠唱することができた。

そして、今に至る。今からでは完全に避けることはかなわない。ネギの魔法が眞莉紗に直撃した。さすがに決まったと誰もが思った。

爆風で詳細は見えないが、間違いなくダウンしているはずである。

「あまあまだねぇ〜♪あまあまだよ〜♪」

 しかし、眞莉紗は無事だった。のどかの隣でまるで炸裂するのを一緒に見ていたかのように飄々とたっている。

絶対に回避できないほどのタイミングで放たれた魔法をあろうことか避けたのだ。眞莉紗の速さをしても雷の暴風を避けるのは不可能なタイミングで放たれたが、

それでも回避した。避けられるとすれば、避けることができるとすれば。それは『瞬間移動』でもしなければ無理だ。

「さてさて。力の差は歴然だけど、まだまだ行くよー♪」

 そういうと眞莉紗はのどかの肩を軽く叩いて次は鼎に向かって飛び掛る。完全に遊んでいる。誰もがそう確信できた。

しかし、ここで手をひくわけには行かないのもまた事実。ネギたちは圧倒的な相手の、『鬼』の遊びに付き合わされることとなった。





「う・・・・。」

 眞莉紗が教会を出て1時間、恭也が目を覚ました。既に一連の作業は終わったのか、和美を始め、そこにいた4人、

そして見知らぬ女性がテーブルを囲ってのんびりとお茶をすすっている。恭也はそれが明日菜であることに気付き、

椅子から立ち上がろうとするが、なぜか力が入らず椅子から落ちてしまった。その音に気付いた5人が椅子のほうにやってくる。

「だ、大丈夫、高町君・・・?」

 和美がそういって恭也を引っ張り起こす。恭也は体型もよく、和美一人では引っ張り起こせるはずもない。

しかし、和美は一人で恭也を引っ張り起こすと椅子に座りなおさせた。

「無理しないほうがいいですよ。眞莉紗さん、加減無しで力任せに小突いてましたから。」

 さよがそういってぬれタオルを恭也に手渡した。恭也はすまないといって何とかそれで汗をぬぐう。余りのことに動揺して一気に汗を書いたようだ。

「高町君、今回はその・・・・ありがとう。」

 そんななか、一人の女性が恭也の前に進み、頭を下げて恭也に御礼を口にした。蒼と翠の瞳。見間違うはずもない。神楽坂明日菜本人だ。

「成功したんだな。」

 恭也はほっとしたように明日菜を見上げて一つ息をついた。

「うん。いろいろと無理させてごめんね。」

 明日菜はそういってもう一度頭を下げた。恭也はそんなことはないと首を振る。

「友達だからな。当然だ。」

 恭也の言葉に瞳を潤ませ、明日菜はもう一度深くお辞儀をした。恭也は成功するとわかっていながらも、成功したことに心底ほっとした。

「高町クン、眞莉紗サンからネ。」

 和美とさよが明日菜とテーブルに戻ったことを確認し、超は眞莉紗に頼まれたカードを手渡す。恭也はそれを受け取ると封を切ってないように目を落とした。

内容は簡潔なもので、恭也との戦いの舞台はきちんと決めてあること、一ヵ月後、明日菜をみなの前に披露した後、世界樹の下で待つということ。

ただそれだけが簡潔に書かれていた。

「ありがとう。超。」

 恭也は超に御礼をしてそのカードをポケットの中に忍ばせた。超は気にすることないヨと手をひらつかせて、テーブルのほうに向かう。

恭也もだんだんと体の感覚が戻ってきたことを確認し立ち上がり、テーブルについて話に加わった。

「ところで、これから先、どうするんだ?」

 恭也はふと疑問に思ってそんなことを口にした。確かに成功し、こうやって明日菜は生き返ったわけだが、これからどうするかは聞かされてもいないし、

渡された書類にもかかれていない。

「とりあえず、一ヶ月は学校には行かないことにしています。神楽坂さんの知能は中学2年で止まっているので、それを一ヶ月で高校3年レベルまでもって行きます。

さすがに、今のままでは授業についていくことなんかできないでしょうし。」

 聡美は淡々とこれからのことを説明する。明日菜は聞かされていなかったのか、マジで?と驚いている。

「一ヶ月で4年以上のインターバルを埋めることなんてできるんですか?」

 さよはちょっと無理があるんじゃないですか?と聡美に聞く。しかし、聡美はそんなことありませんよと首を振って説明を始める。

「相坂さん、人間の脳をなめてもらっては困りますよ。そもそも人間の脳というものは・・・・。」

 聡美はそういって説明を続けるが専門知識のない恭也たちには何がなんだかさっぱりである。

しかし、要約すれば、人間やってやれないことはないということだった。つまり、これから一ヶ月間、明日菜は相当な無理をしないといけないということだ。

「ちょっと・・・それって・・・・。」

 明日菜もそれに気付いて段々と顔色が変わっていく。

「一日のスケジュールは既に決まっています。それにしたがって、神楽坂さんにはこれから一ヶ月生活してもらいます。既に一ヵ月後に編入する手続きは済んでいるので、

きっちりとこなしてもらいますよ。」

 聡美はにっこり笑ってとんでもないことをさらっといったが、つまり、一ヶ月で中学3年から高校2年の勉強をすべてしあげてもらい、

それでいてここ数年の時代の流れまで把握するということである。

「ま、まぁ・・・・そ、それくらいの覚悟はあるわよ・・・・。」

 明日菜は威勢を張ってそう答えるが、声に元気はない。当然といえば当然である。それから聡美はどこに住んでもらうとか、

体調管理についてとか、1日の運動量についてとかを事細かに説明を続けた。明日菜はそれを聞くたびにため息をつき、

しかし、せっかくこうやって生き返ったんだからと気合を入れてその過程を制覇することを口にしていた。

そんなこんなの話をしているうちにあっという間に5時間という時間が流れた。しかし、誰もそのことに気付いていない。

旧友との再会。積もる話もあるのだから。





「さて、5時間たったし、これで時間稼ぎも終了っと。」

 満身創痍のネギたちを前に息一つ切らせていない眞莉紗がそういった。ネギたちは何のことを言っているのかわからず、虚を突かれる。

しかし、これが眞莉紗にとっては時間稼ぎという名目の遊びの終了の合図。眞莉紗は突然、正しく何の前触れもなく、

事前動作もなく刹那の後ろに現れその延髄を軽く叩き、刹那を無力化した。真名も一瞬反応できなかったが、すぐに眞莉紗のほうを向く。

しかし、真名は眞莉紗を視認したまま気を失った。背後に立っていたのは何と鼎。そう、鼎に背後から一撃されたのだ。

ネギとのどかは鼎の突然の裏切りに驚き、完全に混乱しきった。その混乱で十分すぎる。ネギものどかも一瞬にして眞莉紗と鼎に気を失わされてしまった。

「さてと。後は記憶を消すだけだね。」

 眞莉紗はそういうと一人ひとりの頭を軽く振っていく。

「確かに古典的だけど、一番確実な方法だね。」

 鼎はそういって肩をすくめその様子を見ていた。眞莉紗は一通り終わると鼎にありがとねとお礼を言う。

「ユダ役の適任は俺しかいないわけだし、ま、適材適所ってやつだよ。」

 そう。鼎は眞莉紗たちのほうについていたのだ。つまり、ユダとして魔法先生たちのほうについていたということである。

「おかげさまで、ネギ先生たち以外の魔法先生は町に出払ってくれたし。さすがは『麻帆良の司馬懿』ね。」

 眞莉紗は鼎をそういってほめると、鼎は俺は頼まれたことをしただけだよと笑いながら返した。

「それじゃま、俺はネギ先生たちを部屋まで連れて行くから、そっちはそっちでがんばってくれや。」

 鼎はそういうと刹那と真名を肩に担ぎ、ネギとのどかを脇に抱えて背を向けて歩き始めた。

「んにゃ?一緒に来ない?放って置いても大丈夫でしょ?」

 眞莉紗はそれが意外だったのか、首をかしげて鼎にそう聞いた。

「俺の仕事はきっちり済ませたからね。仕事はやめても俺は一流。見ざる、言わざる、聞かざるは基本中の基本だから。」

 鼎はそういって一人夜の闇の中に消えていった。

「プロだねぇ。ま、それはそれとして、それじゃ、5時間たったし、そこそこ遊べたから教会に戻りましょうかね。」

 眞莉紗は伸びをしながら教会のほうに体を向ける。一仕事終えたにもかかわらず、まるで何もなかったかのような風体で。





「やっほー♪あーちゃん、元気にしてた〜♪」

 談笑に花を咲かせていた教会に突然眞莉紗の大きな声が響く。談笑していた5人は席を立つと眞莉亜の元に集まってきた。

「うん、これでもかってくらい元気よ。」

 明日菜はそういって眞莉紗の手をとって頭を下げる。

「今回は迷惑かけてごめん。本当にありがと。感謝してる。」

 明日菜のお礼に眞莉紗は気にしなくてもいいよと頭を上げさせて明日菜を抱きしめた。

明日菜は突然のことで気が動転し、何がなんだかわからない状況になっている。

「『友達』じゃん、私たち。『絆』があるんだから、これくらいなら、ううん、私ができることなら、眞莉慧ができることなら、

眞莉亜ができることならなんだってやるから。それが、『友達』でしょ?」

 眞莉紗はそういって背を二、三度叩き、明日菜からはなれた。

「ありがと、眞莉紗。」

 明日菜はもう一度眞莉紗にお礼を言って頭を下げた。眞莉紗はそれじゃ、夜も遅くなったからそろそろ帰ろうかと明日菜たちを引き連れて教会をでた。

「おい、この教会、このままにしていていいのか?」

 教会を外から眺めて恭也が眞莉紗にそういった。確かに、ここにあるのはモノがモノだ。このままここに残しておくのは危険だといっていい。

「さすがにそういうわけにはいかないでしょ。恭也くん、片っ端から燃やしていいよ。」

 そういうと眞莉紗は恭也にさくさくっとお願いねと肩をたたく。恭也は最後まで力を使わないんだなと眞莉紗に言った。

眞莉紗はそれじゃ今回同行させなかった意味ないじゃんと笑いながら答える。恭也は仕方ないなとアーティファクトを呼び、炎の小太刀を振り下ろした。

その炎はすぐに教会を包み込み、激しく延焼していく。

「さて、長居は無用。さっさと帰ろうか。」

 眞莉紗はそういうと恭也の肩をたたき、明日菜たちとともに教会を後にした。ラグナロクはその名のとおり、夜の闇を焦がしながらあっという間に焼け落ちた。

まるで、巨人族に敗れ去った古神達の最後のように。





 さて、それから明日菜は一種地獄の1ヶ月を送ることとなった。

一日12時間近い勉強に2時間の運動、8時間の睡眠、自由時間は2時間という徹底的に管理されたスケジュールを一ヶ月繰り返すことがいかにつらいことかわかるだろう。

当然だか、一日12時間も机に向かって勉強するのは尋常ではない。しかも、4年ほどでつける学力を一ヶ月でつけなければならないのだ。

はっきりいって無理だといっていいレベルの問題をこなすのだ。今までろくに勉強してこなかった明日菜にとっては、無理というレベルをはるかに凌いでいる。

しかし、明日菜はそれを耐えた。それを耐えて、やり遂げた。明日菜は見事一ヶ月で4年近くでつける学力を手にし、4年近い時代の流れを埋め、

4年前に一度死んだ人間だと誰も思わないような、完全なる、一度の途切れもない18年を生きた人間に戻ったのだ。生きたいと願った想い。

生きて、やりたいことを見つけたい、そしてやり遂げたいという強い願い。だからこそ、一ヶ月という短い期間でこんなハードスケジュールをこなし、

見事、人間に戻ることが、もう一度生きることができるようになったのだ。そして、一ヶ月がすぎ、転入を翌日に控えたその日がやってきた。





「あ、明日菜・・・・なん・・・?」

 みなの前にあらわれた神楽坂明日菜を名乗る見知らぬ女性。誰もがそれを疑い、同時に本人だと確信したが、約4年前に死んだという事実と、

今目の前に本人がいるという事実に少なからず混乱し、現実なのか、それとも幻なのか区別かつかないでいた。

そんな中、最初に口を開いたのは元ルームメイトにして親友の木乃香だった。信じられない。でも、信じたい。

目の前にいる女性が明日菜であることを。それを確かめたいというような口調で木乃香が口を開いた。

「うん・・・・そうだよ。久しぶり、木乃香・・・。」

 明日菜は涙をぬぐいながら木乃香の問いに答えた。木乃香はそれで確認した。認識した。確信した。明日菜だと。

木乃香は明日菜に駆け寄った。体が勝手に明日菜の元に走っていた。明日菜はそんな木乃香を抱きしめる。

何度もごめんねとつぶやきながら。そんな光景を見て、誰もが明日菜だと確信した。明日菜でなければ一体誰なのかというほどの確信だった。

皆が一気に明日菜に駆け寄る。そして、誰もがその再会に喚起した。涙するものもいた。

どうやって生き返ったのか、今までどうしていたのか、一体何があったのか野問いの嵐。しかし、一人だけその輪の中に入っていない。

だれでもない、あやかだ。うつむいたまま明日菜のほうに向かう気配もない。何かに怒っているような、そんな雰囲気すら感じられる。

「明日菜さん!」

 と、そんなあやかが声を上げた。かなりの声だ。騒いでいただれもが突然のことに驚いて、一気に静まり返り、あやかのほうに振り向いた。

明日菜もあやかに気がついてあやかのほうに目を向ける。あやかはやはりうつむいたまま体を震わせている。

一体どうしたのか、誰にもわからない。明日菜がそんなあやかに一歩近づいた。それを察してか、あやかが顔を上げる。

その表情に誰もが驚いた。険しい表情、どう見ても怒っている。そんなあやかは一歩ずつ近づく明日菜を迎え撃つように一歩ずつ近づいていく。

そして、互いの間合いに入ると始めから示し合わせていたかのように立ち止まった。

「いいんちょ・・・・私・・・・。」

 明日菜が何かを伝えようとした。しかし、あやかはそんな明日菜の頬を平手で張った。乾いた音が食堂に響く。

誰もが目を丸くし、その目を疑った。明日菜も何がおきたのかもわからなかった。しかし、あやかは、明日菜に抱きついた。

目に涙を浮かべて。そんなあやかを明日菜を力強く抱きしめる。

「なんで・・・・なんで何も言ってくれなかったんですの・・・・?」

 あやかは涙声で明日菜を責めた。明日菜はしかし、何も答えることができない。

「私たちは・・・・『友達』ですのよ・・・・。何かあったら・・・・いってくださいな・・・・。

力になれなくても・・・・相談くらいはのってあげられますわ・・・・!一緒に悩んであげられますわ・・・・!」

 あやかのその素直な言葉に、あやかのまっすぐな気持ちの言葉に、明日菜は気付かされた。その『絆』の強さに。

いがみ合うことも多かった。喧嘩することも多かった。





でも。




だから。




あやかは誰よりも明日菜の『友達』であったのだ。誰よりも明日菜の『親友』だったのだ。




「ごめん・・・・ごめんね、いいんちょ・・・・。」

 明日菜はあやかを抱きしめ、涙して謝った。相談できなかったこと、あやかとの『絆』がそれほどまでに強かったことに気付けなかったこと、上げればキリがないくらい多くのことに謝った。そして、同時に感謝した。

こんな風に自分のことを思ってくれているあやかに。そして、生き返ったことをよろこんでくれた、友達に。確かに『絆』は存在した。

一度別れたくらいではきれることのない、強い『絆』が。生き返ってよかった。明日菜は心からそう想った。

そして、その心に、尽きることない感謝の気持ちを抱き、今からを全身全霊で生きていこう、力の限り生きていこうと心に誓ったのだった。

そんな二人を見て、その場に居合わせた皆が涙した。明日菜と、あやかと、いや、ここにいるみんなと出会えてよかったと誰もが思った。

誰もが感謝した。この、クラスになれたこと、みんなと『友達』になれたことに。







「さて、今頃はみんな再会の宴を開いてるとこかな?」

 静かな、そして暗闇の世界樹の下に白袖、緋袴の戦闘装束の眞莉紗の声が響く。眞莉紗は明日菜をみんなの前に送り届けてすぐ、世界樹に向かったのだ。

そう、一ヶ月前の恭也との約束を果たす為に。

「よかったのか?」

 そんな眞莉紗に恭也が多くの意味をこめて尋ねる。

「よかったんじゃない?みんなあーちゃんを受け入れてくれるし、どうやって生き返らせたかを言うなんて野暮じゃない。

それに、私たちはあくまで裏方。表に出るようなもんじゃないでしょ?」

 眞莉紗はそういって体をほぐし始める。

「そうだな。俺たちはあくまで裏で動く、裏方。表立つようなものじゃないか。能力的にも、種族的にも。」

 恭也もそういって納得したように体をほぐし始める。

「まったく・・・・。おい、姫神。おまえの力を見たことないから先に言っておくが、もしおまえの力がそうであるなら、加減しろよ。」

 やる気まんまんの二人を見てエヴァはため息をつき眞莉紗に前もって釘を刺した。エヴァも眞莉紗の力をしらない。

しかし、その気配からして、尋常な強さではないとわかるのだ。

「わかってるって。さすがに本気でいったら恭也くんどころか、この辺一体どうなるかわかんないし。

いやいや、エヴァたんにしてみれば、『恭也』くんが心配なだけだよね。大丈夫、やさしくするから。」

 眞莉紗は笑いながらエヴァに伝える。エヴァはだからその『たん』付けはやめろとあきれたように答える。

「気をつけてください、恭也。眞莉紗さんの力、どう見ても桁違いです。無理だけはなさらないでください。」

 茶々丸がそういって心配そうに恭也の上着を受け取る。

「わかっている。多分、嘘偽りなく姫神は地上最強なんだろう。始めから勝てるとも思ってない。だが、だからといって手を抜くつもりはない。」

 恭也はそういってアーティファクトを手に取り、眞莉紗の前に立つ。

「今回、焔剣レーヴァティンは双刃剣でつかわせてもらうね。両手剣だと相当手抜かないといけないから、恭也くんのためになんないし。」

 眞莉紗はそういって構えることもなく大きく一呼吸してその手に巨大な双刃剣を持ち、恭也のほうを余裕すら感じさせる表情で見る。

「今回は『最強』を知る為の戦いだ。俺が今どうであって、これからどうあるべきなのか、姫神に教えてもらう。」

 恭也はそういって2振りの小太刀、『飛鳥火(あすか)』と『氷飛燕(ひえん)』を構える。最強を知る為の戦い。

今まさに世界樹の元でその火蓋が切って落とされようとしていた。








あとがき

はい。ということで長くなってしまいましたが第六帖でした。今回は実家の友人宅からお届けいたします。

もっと早くするつもりだったんですがMH2にはまっていまして・・・・。さて、またあの三姉妹が浩さんのところにいってしまって一人でお送りします。

明日菜が生き返ったことで再確認することになった元2−Aの面々。これから先も仲のいいままでいて欲しいものです。え?要らぬ心配?

そうでしょうね。さて、次回は眞莉紗と恭也、遂に合間見える、そしてやっと自分自身の書きたかったバトルです。眞莉紗の実力はいかなるものか?

恭也は眞莉紗と戦い、何を得ることができるのか。強さを問われる第七帖『最強(ちから)を知る為に』。それでは、第七帖でお会いしましょう。

ではでは。



…………。
……って、初っ端から、何で気を失わなけりゃあ、ならんのだ!
美姫 「って、うわ、はやっ」
フィーネ 「うーん、相変わらずですね」
いや、そういうお前らもな。
フィーリア 「そんなに褒めないでくださいよ〜」
いや、褒めてない、褒めてない。
フィーラ 「何よ。ちょっと玄関を空けた瞬間に殴りかかったぐらいで」
いやいやいや。それ、絶対に間違っているから!
って言うか、味方によっては強盗だぞ。
フィーネ 「何も取ってないよ?」
いや、そういう意味じゃなくて。
美姫 「というよりも、避けれなかったアンタが悪いんじゃ?」
いや、そこに行くのか?
そもそも、普通に訪ねて来いよ!
フィーラ 「それだと、面白くないし」
フィーリア 「多少の捻りは必要よね」
いや、単に訪問に捻りも面白い、面白くないもないから。
フィーネ 「あ、ケーキみっけ〜」
って、それはあんたらがお土産に持ってきたもんでしょうが!
美姫 「良いわね〜。それじゃあ、お茶にしましょう」
いや、何事もなかったように進めないでお願いだから(涙)
フィーネ 「それじゃあ、お土産だから先に選んでください」
美姫 「そう? じゃあ、これにしよう♪」
フィーラ 「じゃあ、これ取った♪」
フィーネ 「私はこれ〜」
フィーリア 「では、これを……」
えっと、俺は?
美姫 「残りで充分でしょう」
いや、まあ、別にいいけれどさ……。
……って、あの〜。
美姫 「どうしたのよ?」
俺の分は?
美姫 「勿論、私のお腹の中」
って、いつの間に!?
というか、さも当然って顔で何を言ってるんだ!
美姫 「ほら、そこに銀紙を残してあげたでしょう」
シクシク…。酷いよ〜。
美姫 「い、いや、さ、さすがに冗談よ。ほら」
フィーネ 「ああ、何てお優しい」
美姫 「ふふ〜ん」
いや、優しいなら初めからするなよ。
美姫 「あ〜ん!?」
いえ、なんにも…。
そ、それより! 次回はどうなるのかな!
今回ので、眞莉紗がかなり強いって分かったし。
美姫 「確かにね。一体、どんな戦いが繰り広げられるのかしらね」
いやー、次回が楽しみだな〜。
美姫 「本当よね。次回も楽しみにしてますね〜」
それ……ぶげろっ!
美姫&フィーネ&フィーラ&フィーリア 「それじゃ〜ね〜」
……ひ、ひどい(泣)



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