「遠坂を離せ!!」

 

俺達が駆けつけた時、遠坂は“蛆”によって拘束されていた。

 

「ふぉっふぉっふぉ、別にかまわんぞ。例えそうしてもこっちとしては何も困らんしのお。なんせ、この小娘の中には既に蟲を巣食わせておる。わしの命令ひとつでいつでも命を奪う事ができるぞ。桜と同じでのお。まあ、桜の方はお主等が何か小細工した所為でそうはいかなくなったようじゃが、流石に今からそんな事をする暇はあるまい?」

 

(桜と同じ!?こいつ、どこまで・・・・・・・・待てよ?桜と同じ!?)

 

その時、俺は”蛆“への怒りの中、ある事を思いつき、それを実行する。

 

「キングストーンフラッシュ!!」

 

キングストーンの力を解放する。キングストーンの力は魔力を打ち消したり、特定の対象のみを消滅させる事ができる。そして、それは俺の目論見どおり、遠坂の中の蟲を焼き尽くし、さらに“蛆”に大きな打撃を与えた。

 

「ぐ、ぬぐをおおおお、何じゃこれは!!?」

 

「全く都合のいい力だ。」

 

苦しむ“蛆”。そしてそれを見た瞬間、アーチャーの奴が双剣を構え、飛び出し“蛆”を切り裂いた。断末魔の悲鳴すらあげる暇なく絶命する“蛆”。

 

ズササササ

 

そして、切り裂かれた蛆は驚いた事に“灰”へと変わった。アーチャーはそれを冷めた目で見ている。

 

「死体すら残らないか。まるで、死徒だな。最もこの男はこんな存在になる以前、当の昔に身も心も人を捨てていたのだろうがな。」

 

そう呟き、そして、俺達は気を失った遠坂を連れて桜の所へ戻った。

 

 

 

 

 

「はあ、借り作っちゃったわね。」

 

しばらくして目を覚ました遠坂は俺とアーチャーから一通りの事情説明を受けたあと、不満気な、だが、どこかほっとしたような、それでいて微妙に落ち込んだような複雑な表情を浮かべて言った。

 

「別に俺は借りを作ったなんて思ってないぞ?遠坂を助けるなんて当然のことだし。」

 

そう本音を返したに対して、遠坂は複雑な表情を呆れたといった表情に変える。

 

「衛宮君、あなたってほんとに変な人ね。まあ、いいわ。それで、桜をどうするかだけど・・・。」

 

「本郷さんは消えちゃったからな・・・・・・・。」

 

桜の内に巣食った蟲を殺すだけなら士郎だけで十分にできる。だが、それを取り除いた時にできる“欠損部分”までは今の士郎ではどうしようもない。

 

「・・・・仕方ないわ。桜はこのまま眠らせておきましょう。」

 

「っ!!遠坂!?」

 

遠坂の予想外な言葉に俺は思わず大声をあげる。それに対し、遠坂は俺をなだめるように言った。

 

「言い方が悪かったわね。別に桜を見捨てるってわけじゃないわ。あのライダーのサーヴァントが言う事をそのまま信じるならこの状態のままでもしばらくは本当の死を迎えることは無い筈よ。その間に腕のいい人形師に、新しい身体を作ってもらうか、何か他の方法を用意するか、何か他の方策を用意するわ。それに、今の状態なら下手に目覚めさせない方が却って安全なのよ。」

 

「安全?どういうことだ。」

 

「さっき説明したでしょ、桜は聖杯の贋作なの。目覚めた状態なら聖杯戦争によって何らかの影響を受けてもおかしくない。これはあなたでもどうにかできるようなものじゃあないわ。だったら、まず、聖杯戦争を終わらせて、聖杯の意味を無くした後、他の方策を探す。現状で考えられる限りこれが一番いい方法ね。」

 

「なるほど。」

 

俺は遠坂の言葉に納得する。確かに彼女の話を聞いている限り、それが一番いい方法に思えてくる。だが、その時、アーチャーの奴が口を挟んできた。

 

「だが、それはそのライダーが信用できればの話だろう?他のマスターのサーヴァントなど信用できんな。」

 

「なっ!!あんた、本郷さんを疑うのか!!」

 

尊敬する本郷さんを侮辱されたと感じ、アーチャーに掴みかかろうとする俺。だが、遠坂に肩をつかまれ止められた。

 

「衛宮君、あなたはライダーと親しいのかもしれないけど、私達はライダーについては短い時間あっただけで、よく知らないわ。元々は敵である以上、信用しきれないのは当たり前じゃなくて?」

 

「ぐっ。」

 

言ってる事は正論なので反論できず、俺は押し黙る。そして、遠坂は今度はアーチャーの方を向いて言った。

 

「アーチャー、あなたもあまり無闇に喧嘩を売るような真似しないでちょうだい。まあ、それはそれとしてライダーの話だけど、確かに信用しきるには根拠が足りないわ。この桜を仮死状態にしてる技術だって、科学的な技術が使われすぎてて、完全に専門外だしね。けど、桜を殺すつもりならもっと簡単な方法がいくらでもあった筈よ。つまり彼に桜を死なせるつもりはなかった。彼そのものを信用する、しないは別として、“後、数日は大丈夫”という言葉はそれなりに信憑があると考えていいと思うわ。」

 

「ふむ、マスターがそういうのならその判断に従う事にしよう。」

 

遠坂の言葉に納得したのかどうか、頷くアーチャー。だが、そこで、遠坂の話が終わった訳ではなかった。今度は異なる方向からの口撃が発せられる。

 

「ところでアーチャー。あなた私の事をマスターだって言ってるけど、私を裏切って逃げ出した罪、私は許した訳じゃないのよ?」

 

「逃げ出した訳ではないが、確かに君を裏切ったのは事実だ。しかし、そこを曲げて何とか契約し直してくれないかね?」

 

そういえば、そうだったとでも言うように。たいして悪びれた様子も見せず答えるアーチャー。それにたいして遠坂を目を細めて言う。

 

「私は一度裏切った相手を簡単に信用する程お人よしじゃないわ。」

 

「確かにそうだな。最もな話だ。しかたない。私は自由行動のスキルがあるから後、しばらくは現界し続けていられるだろうから、消えるまでの間、君の事を影ながら、しかし常に見守り続けさせてもらおう。」

 

アーチャーを睨みつける遠坂。それに対してアーチャーは悪戯をするような口調で答えた。それを聞いて遠坂は嫌そうな顔になる。

 

「・・・・そんな、ストーカーみたいな真似やめて頂戴。はあ・・・・・。いいわ、そんな事されるぐらいだったら普通に側にいてもらった方がマシだからもう一度契約してあげるわよ。」

 

「それは、ありがたいな。この感謝の気持ちはこれからの働きで証明してみせよう。」

 

溜息をついて投げやりにする遠坂とニヤリとするアーチャー。そして、話が終わると遠坂は再び、俺の方に向き直った。

 

「それで、衛宮君はこれからどうする?」

 

「どうするって?」

 

遠坂の言葉の意味が理解できずに聞き返すと、遠坂は不機嫌そうな顔をする。

 

「まったく、それぐらい理解しなさいよ。いい?桜を救う、この点に関しては私とあなた、目的が合致してるわよね?」

 

「ああ。」

 

それはその通りなので俺は素直に頷く。それを見て彼女は話を続けた。

 

「そして、衛宮君の力と私の魔術師としての人脈と知識、これらのどちらが欠けても桜を救える可能性は格段に狭まってしまうわ。だから、お互い絶対に死なせる訳にはいかない。それを考えると敵対は愚策、このままバラバラに行動して、どちらかが死ぬのもアウト。」

 

「ああ、つまり、桜を助ける為にも手を組もうって事か?」

 

そこで遠坂の言わんとする事によくやく気付き、俺は口を挟む。遠坂はそれに対し満足そうに頷く。

 

「そういう事よ。で、どうする?受ける?」

 

問いかけに対し、俺はYESと答えそうになり、ふと気付いた。このまま、遠坂と

手を組む事は、キャスターやセイバーと敵対する事になるのだ。特にキャスターに対してはその誓いを裏切る事になる。しかし、早く聖杯戦争を終結させないと桜は救えない。俺は頭を悩ませ、考える。

 

「どうするの?受けるの?受けないの?」

 

遠坂が声を少し荒げ問い詰めてくる。そして、俺は考えて答えを決めた。

 

「・・・・・・組む。けど、条件がある。」

 

「条件ね・・・。何?」

 

厳しい視線で問い返す遠坂。俺は自分の考え、決意を話した。

 

「俺はキャスターとは戦わない約束をしている。だから、彼女は向こうから手を出してくるか、あるいは無関係な人達に危害を加えない限り最後まで戦う気はない。だから、遠坂も彼女と戦うのはできれば最後にして欲しい。そして、戦う時も俺はサーヴァント同士の戦いに関しては手出しはしない。勝手な条件だって事はわかってる。けど、それ以外に関しては全面的に協力する。だから、分かって欲しい。」

 

どっちつかずの中途半端な考えかもしれない。けど、それが桜を救おうとする、一方でどうしても譲れない俺の信念を貫いた答えだった。そして遠坂はしばし、考え込み、そして俺に問いかけてくる。

 

「あなた、キャスターが何をしたか知ってるの?その上で言ってる?」

 

「ああ。キャスターはもうあんな事はしない。」

 

キャスターが無関係な人の魂を少しずつとはいえ、吸っていたのは事実だ。だが、それでも、俺は彼女を信じたい。だから、俺は遠坂の目を真っ直ぐ見据えて答える。遠坂は呆れた表情し、溜息をつきながら、しかし、頷いてくれた。

 

「・・・・・・あなたってほんと、お人よしね。・・・いいわ、今回だけはあなたの見る目を信用して、その条件を飲んであげる。はあっ・・・、まったく心の贅肉ね。けど、もし、キャスターが今度あんな真似をしたら、その時は容赦しないわよ。」

 

「ああ。」

 

俺は遠坂のその言葉に彼女が改めていい奴なんだとわかって、笑顔を浮かべ頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえな、衛宮君、学校とかに連絡した?藤村先生とか騒いでるんじゃないの?」

 

「あっ・・・・・・・・・。」

 

その後、昨日家に帰らなかった事や今日学校へ行かなかった事や今日、学校へ行かなかった事や。しかも、今日家に帰らない事(桜を守る為に遠坂の家に泊まる)等を暴れる虎に話して聞かせる事に一苦労だった。

 

 

 


(後書き)

今回はピンチで終わって次であっさり逃れるという555形式でやってみたのですがどうだったでしょうか?そろそろ完結も近づいてきました(後、5話位?)ここまで読んでくださった方々、あと少しですので最後までお付き合いお願いします。

 




凛は何とか無事だったみたいだけど、桜を眠ったままの状態でおいておく事に。
美姫 「無事に目覚めさせる日が来るのか」
そして、他のサーヴァントたちはどう動くのか。
美姫 「次回も楽しみにしてます」
ではでは〜。



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