初めは少しの幸せを願う気持ち

 

私は彼が作った(正しくは少し強引に作らせた)お弁当を食べる

 

お弁当を食べて、私は「美味しい」と言う

 

彼は照れながら、はにかむような笑顔で「ありがとう」と言う

 

そのやりとりで私は心が暖かくなる感じがする

 

少し幸せで

 

こんな時間がいつまでも続いたら良いと思った

 

同時にこのやりとりが出来る1週間が終わるのが少し寂しいな、と私は思った

 

でも、1週間経つはずだけど、まだ6日分のお弁当しか食べてこないことに気付いた

 

そうだ、間に日曜日が入ってたんだ

 

なら・・・・

 

 

 

 

 

 

 

新式日常 第7話「刻々変化」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月11日(土)

 

 

PM 12:50

 

 

桜花高校屋上

 

 

 

 

今日は土曜日だ

 

普通なら学校は半ドン、いつもなら部活に出ているところだが、今日から中間テスト1週間前なのでもう部活はない

 

よって、友達と街に繰り出すのに格好の日なのだが

 

「今日も美味し〜!」

 

なんで俺は鈴音の横に座って弁当食ってるんだろう・・・

 

ちなみに今のは弁当を食っている鈴音の雄叫びだ

 

事の始まりは昨日だった

 

突然家に鈴音から電話がかかってきて(おそらく連絡網で調べたのだろう)

 

「明日から勉強教えてあげるから、お弁当作ってきて」などとのたいまいやがった

 

俺が苦情を申し立てると

 

「約束では1週間お弁当を作ってもらうことになっているから、1日も無駄にしたくない」とのことだった

 

更に鈴音は追加で「正は約束を破るなんて男らしくないことしないよね?」とまで言いやがった

 

まぁ、そこまで言われたら乗らなきゃ男じゃないと啖呵を切ったんだが

 

男じゃないといわれても乗らなきゃよかったと今になって後悔

 

「さて、ご馳走様っと。んじゃ勉強初めようか、図書館に行こ」

 

「ああ・・・」

 

ここまできたらゴネても仕方がないので渋々ながら移動

 

 

 

 

 

新式日常 第7話「突然変異」

 

 

 

 

「で、正はどの科目が苦手なの?」

 

図書室の端の方に陣取って鈴音が尋ねる

 

ちなみに、今回は中間テストなので国語、数学、英語と三科目にまとめられている

 

「全部」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

うわ、すっげぇ呆れてる顔

 

「とりあえず順にやっていくとして、今日は国語を集中的にやろうか。どの変が苦手?」

 

「文章を読んで問に答えるのはまだ得意だけど、古典が苦手かな」

 

「ふむ、じゃあこの辺から、ポイントは・・・・」

 

鈴音が教科書にざっと赤ペンで記していく

 

「こんなもんかな」

 

「えぇ、こんなにあるのか」

 

「何言ってるんだか、これでも絞ってあるんだから少ない方よ」

 

「うぇーい・・・」

 

俺は奇妙な返事をしながら古典に挑みかかっていった

 

例年の通りに俺の勉強は難航した・・・なんてことはなかった

 

鈴音の教え方がかなり上手いのだ

 

自分でも覚えが良くないと思ってた俺でもすぐ覚えれるほどの教え方の上手さだった

 

「よし、じゃ今日はここまでにしよ。あんまり詰め込み過ぎても良くないし」

 

「何だ、もう終わりか。結構面白いと思ってたのに」

 

「窓の外見てみなよ、もう陽が暮れてきてるよ」

 

「・・・本当だ。全然気付かなかった」

 

俺がこんなに勉強に集中できるなんて、産まれて初めてかも

 

「さて、早くしないとすぐ暗くなるから帰ろ、もう門も閉まるかもしれないし」

 

「そうだな、帰るか」

 

俺と鈴音はさっさと荷物をまとめ、図書室を後にした

 

 

 

 

帰り道、俺は

 

「しかし鈴音、お前教えるの上手いなぁ・・・」

 

と鈴音を手放しで褒めちぎった

 

実際本当に上手かったし

 

それに対して鈴音は

 

「褒めても何もでないわよ」

 

と言いながらもどこか嬉しそうだった

 

 

 

 

 

 

 

9月17日(金)

 

 

PM 4:30

 

 

桜花高校 図書館

 

 

 

 

 

くそ、遅くなった・・・

 

中間テスト前日、俺は運悪く日直が回ってきて図書館に来るのが遅くなったのだ

 

そんな遅くならないだろうと思って鈴音には先に図書館に行ってもらったんだが

 

あの馬鹿担任め、普通黒板を塵1つない状況まで綺麗にさせたりしないだろう・・・

 

鈴音はどこだ・・・と、端の方に居た、あれだな

 

遠くから鈴音がうつむいてるように見えた

 

ありゃ寝てるな

 

「おい鈴音、起き・・・」

 

そう言いかけて息を飲んだ

 

気付いたのだ

 

窓から射しているオレンジ色の光がかかってる鈴音の

 

・・・恐ろしく綺麗な寝顔に

 

それが一枚の絵のように

 

触れてしまえば壊れてしまいそうな

 

そして、どうしようもなく綺麗で、美しく、有り得なかった

 

これを見てこいつに惚れない男はないと思えるぐらいに綺麗だった

 

何か音がうるさい

 

自分の心臓が破裂しそうな程、大きく早く振動していた

 

「う、うーん・・・」

 

突然の鈴音の呻きにハッと我に帰る

 

なんだ、今の緊張は・・・・

 

「・・・あ、正。お早う」

 

起きた鈴音はいつも通りだった

 

俺はその事実に少し安心する

 

「お早う、じゃないって・・・なんで寝てるんだよ」

 

大丈夫だ、俺はいつも通りに鈴音と話せる

 

「何でって・・正が遅いから、ちょっとだけーと思ってたら熟睡しちゃった」

 

「まったく・・・とりあえず、勉強教えてくれよ」

 

「はいはい、じゃ、今日はちょっと遅くなっちゃったから詰め込み気味で」

 

「げぇー、勘弁してくれよ」

 

「つべこべ言わないの、とっととやる」

 

「へーい」

 

気の抜けた返事で返す

 

それからはいつも通り普通に勉強を教えてもらった

 

だけど、時々途中で鈴音の顔を見てしまおうとドキッとすることがあった

 

何だろうか、この感情は

 

 

 

 

 

 

 

9月18日(土)

 

 

PM 12:00

 

 

桜花高校 1年A組教室

 

 

 

 

 

「よし・・・!」

 

テストも終わり、ホームルーム後、俺は心の中でガッツポーズをしていた

 

ちなみに中間テストは国語、数学、英語の3科目だけだから、昼までで終わることになっているのだ

 

今回のテストは一言で言うなら会心の出来だ

 

俺の人生で受けたテストで一番期待が持てそうだ

 

しかし、これも鈴音の

 

「正ー!」

 

おいでなすった

 

「テスト、どうだった?」

 

「ああ、お前のお陰で会心の出来だったよ」

 

「やったね!じゃ、明日お弁当よろしくね」

 

「・・・・え?」

 

「だから、お弁当」

 

アレ、ナンカハナシガトンデルヨウナ・・・・

 

「・・・なんでそうなる?交換条件の1週間は過ぎたはずだが・・・」

 

やっとのことでその質問を捻り出した

 

「だって、こっちの条件は「テストまでの1週間臨時教師」だけど、そっちの条件は「お弁当1週間」じゃない。私は間に日曜が入ってたからまだ1週間分のお弁当貰ってない」

 

まぁ、それは正しいけどさ

 

「しかし、明日は日曜だぞ?月曜ならともかくも、日曜に作っても・・・」

 

今日と明日は骨休みの意味も込めて部活もないけども

 

「2人で出かけてどこかで食べればいいじゃない」

 

・・・何をおっしゃいますか、この人は

 

それは世間一般の常識では「デート」というものに該当するのではないのか?

 

こいつは解ってて言ってるんだろうか

 

いや、絶対に解ってないな

 

確信を持って言える

 

しかし、気付いてないとはいえ、こいつと一緒に居られるのは嬉しい・・

 

ちょっと待て、なんだ今の「こいつと一緒に居られるのは嬉しい」って

 

・・・とりあえず、疑問は置いとくとして、こっちとしては依存はないから別に良いか

 

「解った、じゃあ明日作る。しかし、どこで食べるんだ?」

 

「いつもの分かれ道のとこで11時半に待ち合わせしよ、私良い所知ってるから」

 

「まぁ、鈴音のおかげでテストは良さそうだから特別に豪勢なのを作ってやろう」

 

「本当!?やったー!楽しみにしてるね!」

 

「ああ、任せとけ」

 

さて、これで明日が楽しみに・・・違う違う違う、約束だから作ってやるんだ

 

多分、そうだ

      

      


あとがき

 

新式日常 第7話をお読み頂き真にありがとうございます

 

しがない新米SS書きのきりしまでございます

 

今回はいかがでしたでしょうか?

 

引き続き楽しんでいただければ幸いです

 

尚、一応明記しますが、椿 鈴音(つばき すずね)は絶世の美女と呼んでも差し支えがないくらいの美人、という設定です

 

小田 正(おだ まさし)も例のK・T程ではありませんが、それに準ずるぐらい顔が整っています

 

もっとも正はかなりの堅物なので顔の良さがあまり認識されてない設定ですが

 

では、また次の話で

    

   


投稿ありがとうございます〜。
正が鈴音を気にするようになった今回。
美姫 「でも、それが何でかまだ分かっていないようね」
さて、一体いつ頃に気付くのか。
そして、その時どうなるのか。
美姫 「期待に胸を膨らませつつ、次回を待っています」
では!





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