「たまには高いワインでも飲んでみようかな。」

 

そう考えた時、寮の電話が鳴り響いた。急いで電話を取りに走り、受話器をとる。

 

「はい、さざなみ女子寮です。」

 

「あ、耕介さんですか?国見です。」

 

電話の相手は真雪の友人でバーのマスターである国見だった。

 

「あ、国見さんですか。どうかしました?今は、真雪さんはいないんですけど。」

 

「あ、そうなんですか。それじゃあ、耕介さんでも・・・・いや、やっぱ耕介さんじゃ無理かなあ。」

 

「なんです、一体?俺に出来る事なら出来る限り力になりますけど。」

 

国見の言い憎そうな様子に、耕介がそう言うと国見が口を開いた。

 

「耕介さん、ロマネ・コンティって買いません?」

 

「ロ、ロマネ・コンティー!?」

 

それは一本、100万、年代によってはそれ以上もする最高級のワインである。

 

「実は、友人が勤めてるワインメーカーが潰れて内で在庫を引き取ってもらえないかって話になったんですけど、うちじゃあ、そんな高いワインは出せないですし。それで、真雪さんならどうかなって思ったんですけど、一本45万、半値以下でいいって言ってるんでけど。」

 

「45万か・・・・。」

 

ジャンルにこだわらない酒飲みの一人として、ロマネ・コンティは一度飲んで見たいと思っていた酒である。そして、その値段で飲めるチャンスなどそうそうない。そして、手元には100万の当たりくじ。

 

「わかりました!!俺が買います。」

 

「えっ、いいんですか!?」

 

耕介は決心した。その答えに国見が電話口で驚く。

 

「ええ、実は宝くじで100万当たったんですよ。」

 

そう答えると、国見は驚いた声をする。

 

「へー、そうだったんですか。それはついてますね。わかりました。それじゃあ、3日後に・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

そうして、宝くじを換金し、ロマネ・コンティを買い取った耕介。早く飲みたくてウキウキしている。真雪や愛にもご馳走する約束はしているが、その前に少しだけ、味見してしまおうかそう考えた時だった。

 

ピンポーン

 

寮のチャイムが鳴った。玄関にでると、そこにいたのは予想外な人物、さくらだった。

 

「あれ、さくらちゃん?」

 

「あ、槙原さん、こんにちは。」

 

さくらが頭を下げる。何でもさくらは薫に用事が会ったらしい。ちょっと込み入った話であったので、学校ではなく、寮で話そうと思い、ここまで訪ねてきたのだったが、薫はまだ、部活で帰宅していなかった。うかつにもさくらはその事を失念していたようである。

 

「はは、さくらちゃん、案外ドジなんだね。」

 

「い、言わないでください。」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがるさくら。とりあえず、と居間にあがらせ、そこで彼女の目があるものに釘付けになった。

 

「こ、これは・・・・。」

 

「あ、そういえば、さくらちゃんはワインが好きだったね。」

 

さくらはワイン好きで目が無い。そして、いくらさくらの家が金持ちであるからといって、ロマネ・コンティはそうそう飲める酒ではない。過去に一度だけ、ほんの少しだけ飲んだ事があったが、そのときの芳醇な香りと味は忘れられなかった。

 

「よかったら、少しだけ飲む?」

 

ゆえに耕介の提案にさくらは面白い位、動揺を示した。

 

「え!?いいんですか!?で、でも・・・・。」

 

「良いって、さくらちゃんには何度かご馳走になってるし、そのお礼って事で。」

 

「そ、それじゃあ。」

 

躊躇いがちに、しかし、その誘惑に抗いきれず、さくらは申し出を受けた。

 

 

 

 

 

コルクを抜き、ワインをグラスに注ぐ。そして、それを二人して香りを楽しみ、ゆっくりと飲んだ。

 

「・・おいしい・・・・。」

 

頬を僅かに赤く染め、うっとりとした表情をするさくら。その姿に耕介はワインの味に感嘆しながら、ドキリとしてしまう。

 

「よ、よかったら、もう少しだけ飲むかい。」

 

「え、で、でも・・・・・お、お願いします。」

 

それをごまかすようにおかわりをすすめる耕介にさくらは誘惑に勝てず、ついついそれをうけてしまう。再び両者のグラスにワインが注がれ口をつける。そして、それを飲むさくら。耕介はそれをついつい注視してしまう。

 

「・・・・・・あの、どうかしました?」

 

その視線に気付き尋ねるさくら。耕介は何でも無いと言うと言って慌てて目をそらし、ごまかそうとして表情を引き締めてワインを飲んだ。すると、今度はその姿にさくらがどきりとする。

 

(槙原さんって結構かっこいいかも・・・・。)

 

耕介は少し垂れ目だが、顔の造形事態は悪くない。その為、表情を引き締めた状態では、なかなかの2枚目なのだ。もともと、人間的に好感を持っていたさくらはその初めて見る表情に少しばかりドキッとしてしまったという訳である。

 

「あ、グラス、空いてるよ。もう少し、飲む。」

 

「あ、は、はい。」

 

そんな訳で二人はお互いとワインの両方に酔い、気がつけばボトルをすっかり空けてしまったのだった。

 

 

 

 

 

「耕介―!!!!!!てめえええええ!!!!!」

 

「許してくださーい!!!!!!」

 

その夜、ロマネ・コンティを飲むことを楽しみにし、約束もとりつけていたにも関らず、その酒を全て飲み干された真雪が大ギレし、耕介は彼女にぼこぼこにされてしまった。結局もう一本買うことで許してもらったが、おかげで宝くじの当選金はほとんどなくなってしまったらしい。

 

                                  END




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